鯉之滝登の観てきた!クチコミ一覧

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寝盗られ宗介

寝盗られ宗介

★☆北区AKT STAGE

北とぴあ つつじホール(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/07/07 (木) 19:00

 つかこうへい作の劇、『寝盗られ宗介』を観てきました。

 普段は素直になれず、本当の思いを伝えることができず、空回りし、合うたびにいがみ合うことも多い宗介とレイ子が劇中劇の中では真っ直ぐに思いを打ち明け心を通じさせ、さらに、最後のほうの場面で、レイ子が再び男と手を取り合って宗介のもとを飛び出し、それを見た宗介は、今度は帰ってこないんじゃないかと一抹の不安がよぎり、心配するが、次の公演場所でレイ子と結婚式を挙げようと準備を進め、その当日、何度も宗介の隣にスポットを当てるが、当のレイ子はなかなかやって来ず、しかし宗介が諦めきり、絶望した頃にある奇跡が起きるという予想外の展開に、ハラハラドキドキ興奮が覚めやらず、驚き呆れ、感動し、心から良かったと思えた。
 劇自体は、全体を通して、個性豊かでアクの強い登場人物が多く登場し、歌あり、ダンスあり、更に全体を通して、終始笑いが止まらなかった。

 主役や主役級も含めた、それぞれの登場人物を演じる役者が、つかこうへい特有の長台詞を速射砲のように捲し立てなければいけない場面が数多くあったが、それを見事にこなし、しかもほとんど噛まずに台詞を感情や強弱を付けて喋れていて、正直、プロではなくセミプロ劇団なだけにそんなに期待していなかっただけに、こちらが思っていた以上にやり切って、更に捲し立て、相手の台詞に畳み掛けていく、つか流のスピーディーで尋常じゃなく早口なやり取りを習得し、自分のものとし、全身も使って熱演していて、やり切っているように感じ、感動した。

正義の人びと

正義の人びと

オフィス再生

六本木ストライプスペース(東京都)

2022/07/02 (土) ~ 2022/07/05 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/07/02 (土) 19:00

 1905年にロシア第一革命が各地で労働者による暴動が勃発したことにより起きた。同年2月17日に馬車で外出中の大公を爆弾で殺害したエスエルのテロリストで、詩人でもあったイヴァン·カリャーエフに焦点を当てた、アルベール·カミュの言葉を巧みに取り入れた戯曲『正義の人びと』を観ました。

 詩人で理想主義者で、甘言が上手いカリャーエフを中心に、おそらくテロ兼社会主義革命を目論む組織のリーダーアネンコフ、カリャーエフと激しく対立する現実主義者で抑圧された人々を自由にする為なら手段を選ばない冷酷感であり、正義感が人一倍強すぎるステパン、必要以上に喋らず、あまり感情を見せない爆弾作りのエキスパートドーラ、カリャーエフと同じく爆弾を実際に投げる役目と同時に、情報収集をする、極度に臆病で神経質だが、追い詰められると何をやらかすか分からない、非常に情緒が不安定で危なっかしく、危険なヴォワノフら個性豊かで、ひと癖もふた癖もありそうな面々による主にアジトの中でドラマが進行し、カリャーエフの自問自答やカミュとの対話場面、緻密で極度に緊迫したカリャーエフとステパンがそれぞれの正義感の違いによる激論を戦わす場面、信念が揺らぎ、不安に怯え苛まれ苦悩するヴォワノフとアネンコフとの対話などを通して、それぞれの正義感の違いや感覚のズレを通して、何を持って正義と言えるのか、そもそもこの世に明確な正義と言い切れる理由が浮かぶ正義など存在しうるのか、明確に何を根拠に間違っていると言い切れるのか、不正をして人々を抑圧している側の人間はテロ行為という手段を使って殺したら、それは正義の名のもとのことであるから許されるのかなど、人それぞれ、千差万別に、それぞれに正義と言う感覚があって、それにはハッキリとした答えはすぐには出せないということも分かってきたが、正義と言う問題について深く考えれば考えるほど謎が深まり、奥が深く非常に重たく、それでいて最近のウクライナ問題や香港問題、ミャンマー問題を考える上でも、切っても切り離せない重大問題だと感じた。
 劇中、最後の方で、ドーラがカリャーエフが首吊り刑になる詳細をしつこく狂ったようになって、ステパンやヴォワノフに聞き、今度は自分が爆弾投げをやるんだと言うようなことを言い始めるくだりを観て、何処か他人事でなく、身体が凍りつき、すーと寒くなった。

カミュ役の俳優以外、男役も含めて全員女性だったが緊迫し、戦慄し、激しく罵り合い、激論を飛ばしか一抹の不安などの表現も含めて、自然に見え、声質も含め、宝塚の男役なんかではなく、役に入り込んでからしばらくすると普通に男に見えてきて、非常に素晴らしかった。

もんくちゃん世界を救う

もんくちゃん世界を救う

U-33project

王子小劇場(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/06/25 (土) 18:00

 今回私が見た作品は、流れてきた大きな桃を巡ったトラブルから、それまで仲の良かったおじいさんとおばあさんに決定的な溝ができ、口も聞かなくなったが、また元のようになろうとおじいさんが話しかけようとしても、相手を見るたび、悪口が思い浮かんできて、それを言ってよりお互い険悪になってしまうので、おじいさんは文句の研究をすることにして、街中の牛丼屋に通うようになり、そこで人の心を読める極度に引っ込み思案で挙動不審な女の子に、もんくちゃんと勝手に呼び、文句を言いたくて堪らないが我慢して、極度なストレスが溜まっている人たちに手を差し伸べ、鬼を退治しに行くという、さらに劇中、童謡の『桃太郎』が流れたりして、完全に桃太郎のパロディだと感じた。
 なぜかというと、もんくちゃんに自称博士のおじいさんがまずピンクのチョッキ的なものを着せ、頭に日の丸が描かれ鉢巻を巻き、手にはきびだんごを持っているからだ。
 次に、犬、猿、雉は、それぞれ、パワハラを受ける気が極度に弱い会社員男性、同級生にイジメられ、パシリにされる女子高生、友達ゼロで、負のオーラ全開で、自殺寸前の女性と、現代の社会問題を全面的に盛り込みつつ、個性的な登場人物たちで、その魅力に引き込まれた。
 ストーリーテラー役の中村透子さんという役者も独特の味を出していて、前にも何度か違う劇で観たことはあったが、存在感があった。
 小泉愛美香さん演じる、キクちゃんも、天真爛漫で、ハイテンションで、のべつ幕なしに喋り続ける役でもあるので大変だとは思ったが、見事に役になりきっていて、とても良かった。この役者も前にも何度か違う劇で観たことがあったが、新しい役にも対応できていて、素晴らしかった。
 途中笑える場面も多かったが、現代人の社会問題や病的なものをつぶさに炙り出していて、深く考えさせられた。

ただし、舞台と客席がだいぶ離れているのは、コロナ禍から、緊急事態も開けてだいぶたっているのに、その感覚には、とても気になった。

ゴンドラ

ゴンドラ

マチルダアパルトマン

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/06/19 (日) 14:00

 登場人物は、東京のIT系の会社を辞めて地元に親の介護のため、戻ってきた男と、訪問介護のヘルパーさん、離れて暮らす妹のたったの3人で繰り広げられる小規模だが、濃厚で、時に笑いあり、その小さな世界に人のドラマが垣間見える劇だった。

 男と訪問介護のヘルパーさん、途中から出てくる男の妹の会話を軸として物語が展開されていくが、言葉のズレや勘違い、話が一向に噛み合わないのに会話が進んでいったりするなかでの笑い、ヘルパーさんの天然すぎる性格やアクの強すぎる上に、それっぽい屁理屈を正当化する男、人の話に一向に耳を貸さない男の妹の存在感を誇張することによる笑い、シュールで、時に皮肉や哲学的要素まで絡む笑い、男とその妹による口論によるどちらの意見が正しいのかだんだん分からなくなり、延々と続き終わりが見えない会話による不条理な笑いなど、徹底的に笑える作品だったが、最後の中途半端な終わらせ方がリアルに感じた。

 ただし、俳優の演技力も絶妙だったが、作品全体としてあまりに小品な感じがしたので、せめて、ラストシーンぐらいは予想外でインパクトのある場面に、強引にでも持っていったほうが、より磨きがかかってよかったと思う。

化粧二幕

化粧二幕

劇団ドラマ館

多摩市立関戸公民館ヴィータホール(東京都)

2022/06/18 (土) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/06/18 (土) 18:00

 劇の冒頭で、大衆劇団「五月座」の女座長五月洋子が主人公で、もう壊されてその跡地にマンションを建てることが決まっている劇場で最後の公演を打とうとしている、その公演日当日の本番が始まる前の寂しい楽屋が舞台となって話が進んでいくことが分かってきて、劇の最初のほうで主人公がさり気なく、今どういう状況なのかということや、劇の中で起こっていることを丁寧に説明するあたり、一人芝居ならではの醍醐味だと感じた。
 劇の途中から、五月洋子が赤子のうちに捨てた息子が有名タレントとなって帰ってきて、親子の溝も溶けたかに思えた瞬間、実はそのタレントの実の親でも何でもないことがわかり、それでも公演を続け、劇中で演る劇の内容とシンクロしていってハラハラドキドキさせ、感動の展開かと思ったら、どんでん返しが待っているという、話が二転三転していく先が読めない展開に見事なドラマだと感じ入った。
 最後の場面で、取り壊し工事の音がうるさく響き渡るなか、五月洋子が何かに取り憑かれたかのようになって、大衆演劇で演じる渡世人の台詞と洋子自身の経験を語る台詞が交錯し、五月洋子が芝居狂か、はたまたかつて大衆演劇を演っていた寂れて、今まさに壊されている渦中の芝居小屋の魂が具現化して、亡霊として彷徨い続けているかのような、気迫のある、それでいてどこか諦めや醒めた感じも含む終わり方に、どこかリアルなところがある気がして、なんとも言えない苦く、侘しく、重苦しい風に感じた。
 
 役者であるあべ敬子さん演じる五月洋子が、これは一人芝居ならではの限界である出ずっぱりなのを逆手に取った自虐ネタや、少ないが個性的な舞台には実際には登場しない役者に稽古を付ける際のボケ、ツッコミの巧みさ、スタッフとの噛み合わないやり取りによる笑いなど、劇全体を通して飽きず、軽快なノリに思わず笑みが溢れた。
 役者あべ敬子さん演じる五月洋子が舞台上でいきなり化粧を始めて、それも鏡を見ずにやっているものだから、ところどころおぼつかないところがあって、急にお客さんに化粧のデキを聞いたりしているところが、コミカルでもあり、それでいて、妙な生々しさがあった。
 そして、化粧前とは打って変わって、化粧後は大衆演劇でいかにもよくいそうな男前な顔になっており、唖然とした。

 私は今まで、いろんな芝居を見てきたが、一人芝居というのは初めてだったので、どんなものだろうと期待と不安でいっぱいだったが、予定調和的過ぎる笑いの場面もあったが、そういう部分を除くと、思ったよりも大変面白かった。ただし、芝居は一人より10~20人ぐらい、最低5人ぐらいは役者がいないと、やはり寂しく感じるところもあった。

GK最強リーグ戦2022

GK最強リーグ戦2022

演劇制作体V-NET

TACCS1179(東京都)

2022/05/25 (水) ~ 2022/05/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/05/27 (金) 14:00

 そもそもこのGK最強リーグ戦2022なるものは、演目を始める前にジャンケンをして、勝ったほうが先方、後方、どちらかを決めることができるシステムが導入されていたり、まるでスポーツ大会のように演劇祭に参加している劇団同士が張り合ったりと、通常の演劇祭とは一線を画しており、極めて個性的で、特色のある演劇祭だった。
 私は、2019年に観て以来、久しぶりの2回目だったが、相変わらず、会場の雰囲気自体が面白かった。

 猿組「猿組式 白雪姫 〜女王と7人の妖精〜」という劇を先に観たが、タイトルにある通り、本来悪役のはずの女王の側に焦点を当てて話が進んでいき、女王の人間臭さやあからさまな白雪姫への嫉妬と、白雪姫を愛する心、しかし素直になれない女王の複雑な心情などが丁寧に描かれ、女王を必ずしも極悪非道な人物とはどうしても思えなくなった。
 さらに、両親を第一次世界大戦で亡くし、戦火の中、幼くして孤児となった女王は親戚のところをたらい回しにされ、酷い虐待や無視を受け、どんどん心が蝕まれ、ひねくれて、嫉妬深く、自尊心が強く、見栄っ張りな女王になるまでの経緯が劇中導入され、個性豊かでアクの強い7人の小人と白雪姫とのやり取りや小人と女王とのやり取り、女王と真実の鏡との噛み合わないやり取り、アドリブや曝露ネタなどによって、徹底的に笑えて、全編を通して面白かったが、それと同時に戦争による傷の問題や虐待、ネグレクトの問題が作品に練り込まれており、深く考えさせられた。

 女王を演じた役者橋本晏奈さんが、魔女な雰囲気の怖くて得体のしれない雰囲気と同時に、人間臭さや複雑な心情、コミカルな雰囲気をしっかりと、それでいてさり気なく使い分けて演じ切っていて、見事だった。
 真実の鏡役の役者西川智宏さんは、小気味よく絶妙なトーク力と笑いのセンス、登場しただけで眼に焼き付けることができるほどのアクの強さといい、違和感と存在感を放ち、人を一瞬で笑わせる才能を感じた。
 7人の妖精役の人たちは全体的に癖が強かったが、その中でも、居眠り役の井手知美さんは、ただ寝て、時々寝言を言ったり、伸びをしたり、アクビをしたりといった役どころにも関わらず、出てきただけで存在感を放ち、その身体の動作や少しの台詞を言っただけで、相当印象に残った。


 猿組の後、休憩を挟んで、大和企画の「家族会議」を観た。一曲もふた癖もある家族たちが、話し合う中で浮かび上がってくる祖父清作に隠し子がいたこと、長男清一が厳しく、威圧的で保守的になってしまった経緯が語られ、売れない小説家の次男清次郎が、実は大きな借金をしていることなどが次々に明るみに出て、家族が赤裸々にトークするのを観ていて、そのシュールさや、しつこいネタ、コミカルな場面が展開されていて、大いに笑い、非常に面白かったが、家族会議という当人たちにとっては重要なものであっても、それを劇化してみて、それを客観的に観てみると、いかにくだらなく、バカバカしくつまらない事にこだわって、会議が先に進まないことが、滑稽に思えて、可笑しかった。それと同時に、家族会議で暴露されていく問題が、全て他人事とも思えず、現代社会に潜む問題をも浮彫にしている気がして、背筋が凍り付いた。

GIRLS TALK TO THE END-vol.3-

GIRLS TALK TO THE END-vol.3-

藤原たまえプロデュース

シアター711(東京都)

2022/06/01 (水) ~ 2022/06/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/06/03 (金) 19:00

 突然いなくなった高校のダンス部の男性顧問について、高校からその顧問がいなくなって数日の部室で、ダンス部の女の子たちが話をしている場面があって、その後、いきなり高校のダンス部にかつて所属していた女子高生たちが30代になって、みんなで同窓会をするということで部室に集まって、現在の仕事の話や昔話に花を咲かせるが、そのうちかつてのダンス部の顧問の話になり、顧問がいなくなった理由や、ダンス部が取り止めになった理由、ダンス部部員のうち、ほとんどの部員がダンス部顧問の男を好きだったという衝撃的な事実、ダンス部を崩壊させてでも自分に振り向いてほしかった部員、その顧問に子供を産まされた挙げ句に、逃げられた元部員など、同窓会の和やかな雰囲気が、一気に修羅場と化していき、さらに現在は出版社で働く女性が実は心臓病でもう長くはないことも分かり、怒りや悲しみ、人間不信に、衝撃的な事実などが連続して展開する、舞台に不在の元ダンス部男性顧問を巡って、卑劣な戦いが次々に暴かれていく手に汗握り、先が読めないサスペンスに舞台に眼が釘付けになり、思わず息を殺して、五感全てを全集中して観ていた。
 それでいて、時々笑える場面もあって、適度に息を抜くことができて良かった。
 ただ、最後に、かつてダンス部の部員たちの心に亀裂を生じさせ、現在元ダンス部顧問と恋人同士という真犯人が意外な人物が、携帯で電話しているところを見つかるという終わり方が、衝撃的過ぎて、背筋が凍りつき、人間不信になるかもと本気で感じた。

 個性的な元ダンス部部員を演じた6人の役者が、それぞれの個性や持ち味を良い感じに出していて印象に残った。
 また、アイ役の藤原珠恵さんの、普段はしっかりしていて、みんなのまとめ役な雰囲気だが、いきなり感情が爆発してブチ切れる場面や、ストーカー行為な異常行動を無自覚にやっているという役どころを、肉体全体を使って、体当たりで演じられているのを観て、観ている私の側に迫真に迫ってくる感じが素晴らしかった。

雨と夢のあとに

雨と夢のあとに

Yプロジェクト

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2022/05/25 (水) ~ 2022/05/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/05/28 (土) 18:00

 物語は幼い頃に母を亡くし、父·朝晴と雨の二人で暮らしていたが、ある日、朝晴は幻の蝶を捕まえるため、娘を一人残して台湾へと旅立つが、数日後に雨のもとに幽霊の体となって現れるという不思議で、舞台の後半になると、父·朝晴が娘を愛するあまり、傷付けたくない一心で、隠し通して嘘を付いていたことが、実は朝晴が実の父親ではなかったり、母親が実は生きていたりといったことが次々に露見していき、雨が住む家の近くに引っ越してきたという妖しくもミステリアスなイラストレーターの女性が実は○○だったり、謎が謎を呼び、それでいて、雨の真実を受け入れることへの葛藤であったり、雨がまだ物心がついたというには微妙な14歳にして、自立し、ショックやトラウマをも受け入れ、乗り越え、大人にならなければいけない、過酷だけれども避けては通れないことへの苦悩や喜び、幽霊の朝晴の苦悩や葛藤、自分の父親との溝、かつての恋人野中マリアとの複雑な関係、野中マリアが有名ではあるが、本当はかつての恋人や雨との関係に悩み、その思いがどこか空振りする葛藤、叔父さんの朝晴への並々ならぬ愛と人情など、ドラマとしてもしっかり押さえながら、勘違い笑いやドタバタな笑い、ズレた会話による笑いなど笑える場面も盛り沢山で、それでいて病室に怨霊が出てくる場面を入れたりと、恐怖シーンもしっかり盛り込んでいて、舞台全体として、笑いも節々でしっかり取りながら、感動ポイントや恐怖シーンもしっかり押さえていて、非常に良くできていると感じたし、最後のほうで雨が幽霊朝晴と別れる場面にすごく胸が熱くなり、眼から涙が出た。

 桜井雨役の市瀬瑠夏さんが普段は明るく元気でしっかりしているようでいて、親思いだったり、父が実の親じゃなかったり、朝晴がもうすぐ消えなければいけないことをなかなか認めたくない、不安や迷い、焦りや怒りなどを声の出し方も含めて意識してしっかりと、感情に強弱を付けたり、表情に変化を付けたり、身振り手振り加えたりしていて、その演じているさまに可能性を感じ、魅入った。
 幽霊朝晴役の粕谷桂五さんは、娘思いだがちょっと鈍くてダメで、素直になれないが、憎めない役どころを見事に演じ切り、幽霊だけれども不気味さや怖さというよりも、親しみやすいけど、でも幽霊だと言う感じの表現の仕方が絶妙で、とてもうまかった。ただ、滑舌がところどころ悪いのは難点だった。

 野中マリアのマネージャー早川霧子役の倉田瑠夏さんのスターほど華やかさはあまりないけれど、きめ細かくて、しっかりしているが、野中さんの良き理解者であると同時に、雨のことも良く知って、理解しようと努力し、本気で雨と野中マリア、朝晴とを和解出来るように奔走する役どころを元「アイドリング!!!」というアイドル出身にしては、かなり演技がさり気なく、型破りに演じきっていて、見事だった。

稽古初日vol.2

稽古初日vol.2

O企画

イズモギャラリー(東京都)

2022/04/26 (火) ~ 2022/04/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/04/26 (火) 16:00

 中編劇2つの組み合わせのうち、一つは刈馬カオス作「異邦人の庭」という作品で、秋の拘置所に、男が1人やってくる。ここに収容されている死刑囚の女と面会するためだ。女は、男の真の目的が、自身の戯曲を書くための取材だと見破る。食い下がる男に、取材を許可する条件として突きつけたのは、自分と結婚することだった。
死刑制度が変わった近未来の日本を舞台に描く、獄中結婚と死ぬ権利の物語。という内容の衝撃的で、更には、その女が犯行時の記憶がほとんどないこと、ほとんど記憶がないにも関わらず、その女自身は死刑を望んでいること、それでいて焦りや不安、死への恐怖もあったりと、話をしていくうちに本音や女自身の弱い部分、人間性が淡々と劇作家の男に話をする節々に滲み出たり、自分がしたことは人殺しなのだろうか、それとも、自殺願望を持ってその女のところを訪ねた女性たちに対して行ったことは、その人たちを自由にさせる安楽的な意味での死なのだろうか、というような問い、最終的に離婚届を選ぶも、死刑を選ぶのも、あなた自身で決めることだと言って、選択を迫る劇作家の男などの展開を観て、常深くに考えさせられ、謎めいてそれでいて突如感情的になる女役の俳優と、その女と駆け引きをしながら時に振り回され、冷静でいられなくなったり、自分をなんとか自制したりする男を演じる俳優とのシリアスで緊迫したやり取りに、釘付けになり、いつしか舞台に魅入っていた。
 
 二つ目の劇、山田裕幸作「3sheep」という作品では、ある地方都市の私立高校。年度末、3人の教師たちが3人の生徒の進級会議をしている。石井宏くんは学年の成績で、数学Ⅱ、世界史、英語ライティング、家庭科、現代文の5つの単位を落とした。読書家の木崎翔太くんは、遠足の後から不登校となり、出席日数が足りてない。そして吉田健吾くんは・・・悩めるのは生徒なのかそれとも教師か。という内容である。最初のうち無関心で、保守的で、適当で、やる気のなさそうなな男性ベテラン国語教師は、読書家の木崎の話になると、尋常では無くかばい、何とかできないものかと急に熱く弁舌を奮ったりする役をかなり体当たりな演技をして、ベテランな雰囲気の俳優が目立っていた。そして、英語の女性教師を演じる俳優は、最初のうち平穏な雰囲気から始まり、吉田君との過去の関係性から、途中で狂気な雰囲気に言葉や身振りや手振り、顔の表情が段々こわばって、眼がすわってくる常軌を逸した雰囲気に変わっていくまでの変わり方が見事で、客席の方に迫ってくる、緊迫した迫力を感じた。3人目の体育教師を演じた俳優は、事なかれ主義で、最後までそれを徹底させ、飄々とした雰囲気を出して、独特な味わいが滲み出ていて良かった。
 お互いの会話が噛み合わないところや、微妙な空気が流れたり、勘違いなどによるシュールであったり、不条理であったりする笑いが劇中に散りばめられ、教師たちが劇が終盤になるにつれて、お互いの本性をむき出しにしたりといった急展開も含めて、観ていて面白く、飽きさせなかった。

 2つの中編劇とも、初顔合わせで、ぎこちなく、小道具や舞台セットの机をどう使うかといったところから始まり、劇中も台本を常に持って役者が演じていて、本当の舞台稽古初日を垣間見せられているような雰囲気に、稽古初日の役者さんたちってこんな感じなのかなぁと良い意味で、妄想を膨らまさせられた。
 しかし、稽古初日で、ここまで、段取りも含めてすんなりいくものなのかなぁと内心疑問に思い、2つ目の劇を演じている最中など、ページをめくるとき以外、ほとんど台本を見ずに演じているのを見て、さすがプロの役者、幾ら舞台稽古初日を再現する企画といえど、観客が観ている前で、生き恥を晒したくはないのだろうなと感じ、そのプロ精神に感心してしまった。

板の上の二人と三人そして一人

板の上の二人と三人そして一人

映像劇団テンアンツ

小劇場B1(東京都)

2022/04/22 (金) ~ 2022/05/05 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/04/22 (金) 18:00

 かつての人気漫才コンビ「ナマセン・ヤキセン」は相方の悪口を公の場で言った芸人に暴行を加えたことから、そのトラブルから解散。「ナマセン」こと矢澤洸介は家賃滞納・求職中と落ちぶれ,一方の「ヤキセン」こと野島友作はTVで人気爆発……住む世界が対照的に違ってしまった。そんな或る日,友作は洸介の元を訪ね“コンビ復活”の話を持ちかける。
 人気女性漫才コンビ「ナインティワン」のメグミとミカは,かつての“もう一人のメンバー”チーコが交通事故で瀕死の重症である知らせを受ける。
 コンビ別れした、かつての人気漫才師、トリオからコンビになった女性漫才師、ワケありの2組の元に、何故か天使が舞い降りてという、全然性別も含めて違う2組の芸人に焦点を当て、それを主軸に物語が同時進行で進んでいく。かつての相方の野島友作は実は、心臓病を患っており、医師からは、無理をしてはいけないと言われ、そういった事情を知らなかった矢澤洸介は野島を突き放し、やさぐれきった自分を自嘲し、素直になれなかったが、そういった事情を奥さんから知り、野島の最後の晴れ舞台のために人肌脱ぐことを決意するといった劇の展開に涙し、その後野島が心臓病で亡くなり、しかし野島の亡くなる間際に幽体となって矢澤に約束させたことを矢澤は守り、50年間野島が近くにいるつもりで、ピン芸人を続けてきて、50年ライブを演る際に野島が上級天使となって、天から舞い降り、ボケ、ツッコミを演るシーンで終わっていく、その終わり方に感動した。

 劇団主宰者兼演出家、劇作家であり、前説も担当する主役の上西雄大さんの、的確なツッコミ芸や、自虐ネタ、ボヤキ笑い、顔芸、執拗で鋭い客席イジリと、止めども無く終始大笑いさせ、シリアスな場面や、感動場面もありつつ、そういう渦中にさえ、笑える場面が展開したりして、観ていて飽きるどころか、大笑いし、時に感動し、いつの間にか劇世界に没入し、観客の心を鷲掴みにするのが上手いと感じ、これぞプロの俳優だと感じた。

 チャップリンをパロったスベりネタや、加藤茶の笑いを演るスベりネタ、大家さんのお母さんによる、トンチンカンな勘違いネタ、フレディ·マーキュリーをパロったネタや、山口百恵ネタに、仮面ライダーV3ネタなどの特撮ネタ、体型や容姿いじり、しつこいドタバタギャグなど、コアなものから分かりやすいネタまで、俳優たちが役になりきり、それでいて、主役や主役級さえ喰いかねないほど、存在感を発揮していて、常に笑わせられ、さらに3時間弱の長い芝居なのに、役者個人個人が息切れしたり、声が枯れたりすることなく、台詞を喋り、時にまくし立てたり、強弱をつけたりして、落ち込んだり、葛藤する場面さえ見事に演じきり、こちらの心を引きつけ、舞台のそれぞれの役者に釘付けにさせられ、脇役含め、役者一人ひとりに舞台俳優としての才能を感じた。

 
 ドSな女性の上級天使を演じた役者の古川藍さんは、スリッパで、かなり本気で相手の顔や腹を思いっきり引っ叩いたり、そんなに手加減しているようには見えない平手打ちをしたり、強気な関西弁で口汚く相手をボロクソに罵ったり、タンカを切ったりと、肉体全身を使ったアクロバティックで過激な体当たりな熱演に、他の俳優も男女を問わず、かなり演技が上手く、存在感を放っていたが、その中でも古川藍さんは尋常じゃない存在感を放ち、主役をもある意味凌駕した存在感を出していて、演技の極め方が徹底していて、これぞ、俳優の鏡、何千年、いや何万年に一度かも知れない、俳優の中でも優れた逸材だと感じ、自然に備わった古川藍さん自身の天賦の才を感じた。

七慟伽藍 其の二十八

七慟伽藍 其の二十八

THE REDFACE

横浜関内ホール(神奈川県)

2022/04/20 (水) ~ 2022/04/21 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/04/21 (木) 18:30

 戦国の世から早四百年の歳月が過ぎ去った現代。名だたる七名の戦国武将(織田信長・武田信玄・明智光秀・朝倉義景・浅井長政・豊臣秀吉・徳川家康)らの魂は、天界へは行けず未だ冥界を彷徨っていたが、この夜、八百比丘尼の導きにより運命の再会を果たす。武将らが口々に語りだす、死の間際の心情とその後悔はやがて怒りの炎となって、『本能寺』へと繋がって行く。織田信長が消えた『本能寺の変』。その『本能寺の変』に至るまでの浅井長政の裏切り、そして『本能寺の変』当日に起こったこと、その裏で狡賢く画策し、他を蹴落とし、狡猾で卑劣、非道で、でもどこか憎めない豊臣秀吉、その豊臣秀吉に唆され、信長を討つ話に乗ったように見せて、実は…な明智光秀、と話が進むにつれ、『本能寺の変』の真実、武将たちのお互いの真相心理が暴き出され、曝け出されていく怒涛で、息もつかせぬ展開、そして大音量の雰囲気のある音楽、照明の変え具合が相まって、いつしか時を忘れ、活読劇の舞台に眼が釘付けになり、没入していた。

 俳優たちの、眼を見開き、口角泡飛ばし、速射砲のように長台詞をまくしたて、怒鳴り、叫び、この世を呪い、激しい怨念と憎悪に蝕まれた武将たちの魂が乗り移ってでもいるかのように、激しく動き、舞台上を踏み鳴らす、肉体全身を使った熱演ぶりに思わず、眼を見張り、俳優のその熱演ぶりに、良い意味で、劇場を俳優が支配していると感じ、よく通る声によって音響さえも凌ぐ迫力と、この世のものとは思えない禍々しさを出していて、そのこちらに差し迫ってくる演技に圧倒された。

 俳優たちの中で、ただ一人の女性役者も、男優たちに負けずに、声を張り上げ、豊臣秀吉を追い詰め、壮絶な最後を遂げる千利休を、千利休が自身に乗り移ったかのごとくな鬼気迫る演技に感服させられた。また、八百比丘尼の妖しく、掴みどころがなく、それでいてこの世のものとは思えない役どころを、見事に演じきり、艷やかで一筋縄ではいかない雰囲気を出し切っていて見事だった。足利義昭を演じる際の公家っぽい頼りなく、狡猾な雰囲気、しかし、それでいて、室町時代最後の将軍たる面影も漂わせる、難しい役どころも、器用に細かく演じきっていて、すごかった。

 最後の場面で、八百比丘尼が天界の門を開いてハッピーエンドにいっきに持っていくかに見せかけて、織田信長の怨念や執念は他の武将の誰よりも強すぎ、そのあまりに肥大化しすぎた負の感情のため、八百比丘尼含め、他の武将たちも、いっきに冥界へ引きずり込まれる衝撃的な場面で終わり、そのあまりの急展開に、しばらく愕然としていた。

 ただ一つ、二つもったいないのは、一人の老齢でベテランの俳優が熱演のあまりの何を言っているのかよくわからない場面があったことや、俳優たちが一斉に大声張り上げて喋って、台詞が被って聞き取れなかった場面、あまりの熱演に、声が裏返ったり、しわがれ声になったりする場面があったことが、強いて言えば、残念だった。

#15『朱の人』

#15『朱の人』

キ上の空論

本多劇場(東京都)

2022/04/13 (水) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/04/15 (金) 19:00

 CoRich舞台芸術に載っていた宣伝のあらすじからは、はっきり言って、何が言いたいのか全然ちんぷんかんぷんでよく分からなかったが、実際に本多劇場で観てみたら、全然期待していなかった割には、かなり面白かった。

 主人公の兄テツキが思い立ったらすぐ実行しないと気がすまない性格で、中学生の頃は、セックスがどんなものか体験してみたいだけで、好きでもない女の子としたり、そのうち、複数人と同時多発的に付き合っていたりと、せわしなく、かなり変わっていて軽率で女の敵的に描かれていて、それを逐一客席に向かってこと細かく説明する弟の性格の違いとの対比は結構笑わせてくれはしたが、その場面に、劇の冒頭から中盤にかけて、時間を取りすぎていて、肝心の劇のメインの内容にすぐ入れなかったことはまずいと思い、尺を取り過ぎだと感じた。

 途中から高校生の時の場面になり、兄テツキが初めて、本気で好きになった女の子が所属しているという演劇部に、その女の子と仲を深めたいがため、入った演劇部で演劇の世界に魅了され、とある劇作家に憧れをいだき、高校2年で学校を飛び出し、東京で、劇作家兼演出家として、自分の劇団を起ち上げる。それを機会に兄テツキが性格が大きく変わっていく。そして、それからの兄テツキが劇作家として劇団員に対して、パワハラスレスレな指導にあたったり、劇団員もだんだん年を食ってきて、これから先の展望がないということだったり、食うのに困り、さすがに手段を選ばざるえなくなった兄テツキが、現実主義者で損得勘定や、確実な集客性などの合理化を執拗に厳しく求めてくる女性プロデューサーに仕方なく身を委ねなければいけなくなり、当然のことながら、自分が書きたいものが書けなくなっていき、様々な制約が覆いかぶさる上に、長年やってきた元メンバーが次々に辞めていき、劇団員の電話でのある話がきっかけとなって、兄テツキが躁鬱になるなど、一人の主人公を通して、演劇業界の問題や演劇人にとってはより、他人事ではない事柄を笑いも稀に交えながら進行していて、演劇人の現状や震災などが起こるとエンタメ業界は身も蓋もないことなど、しっかりと描ききっていて、素晴らしいと感じたが、それと同時に重苦しい気持ちになった。

 途中度中出てきて、兄テツキの心情や周りの状況や環境を説明したり、代弁したりと、前半から中盤、後半にかけて、コミカルな狂言回し役であり、長台詞も多い弟亜月を見事に演じきっている久下恭平という俳優に凄いと感じた。また、後半から終盤にかけての久下恭平演じる弟亜月が、実は幽霊であるということがわかり、兄に付き纏い悪魔の囁きをするに至り、豹変してからの弟亜月の闇のある底しれない怖さを肉体全体から醸し出しております、衝撃を受け、思わず、食い入るように魅入ってしまった。

 最後のほうの場面で、幽霊亜月の悪魔の囁きに一度は動かされそうになったが、最後は、劇団も恋人も何もかも失うが、一からででも、再び演劇の脚本を書き始めるところで終わり、兄テツキは一回駄目になったけれども、しかし、それでも、演劇で生きていくことにした、その最終的な判断に感動し、この劇に多少の救いがあるのではないかと感じた。

 劇に出てくるギャル役の役者がどハマリで
、ギャル語を繰り出したり、匂わせポーズをしたり、声が異常に大きく、うるさかったりと、強烈な個性を放っていて、今どきの黒ギャルのしぐさなども取り入れていて、面白く、大いに笑えたが、それと同時に今どきのギャルをしっかりと観察して捉えて、演じていると感じ、感心してしまった。

 男女問わず、出演者には、声優、俳優、モデルにダンサーと、普段いろんな分野で活躍される人たちが舞台で喋り、動き、演じていたが、その中で、東京パフォーマンスドールのメンバーとして活動されていた劇団員のユズ役の櫻井紗季さんは、元アイドルにも関わらず、なかなか演技が上達せず、すぐ謝ってしまう、気が小さく、自信がないが、演劇に対する情熱は強い劇団員のユズを見事に演じきっていて脱帽し、才能を感じた。その他にも主人公役、劇団員ユズ役含め、総勢6人の役者には、可能性を感じた。

 しかし、まずもって、20人の出演者は絶対に必要無かったと感じる。この劇は、6人、最大に見積もっても、10人いれば足りたと感じた。両親役の俳優は、演技に幅がない上、段々歳を重ねるはずなのに、そういう違いを皆無なまでに出せていなかったことに不満を強く感じた。兄の友達役の役者も演技がどっちつかずで話にならないし、演劇部の部員役の俳優たちがどの役の役者もほとんど似てみえて、もっと違いや個性を押し出すべきだと感じ、役者の力不足だと思った。
 主人公の兄テツキの学生時代を演じた俳優がパンフレットに、稽古場が柔らかい空気感。稽古が始まるとヒリヒリするくらい集中。スイッチのはっきりした稽古場でした。と言うようなことを書いていたが、まぁ、元々才能のある役者や、実力がある役者は、休み時間にワチャワチャしても、100歩譲って良いとしても、あんまり演技ができない役者は少なくとも、同じように休憩時間に、雑談したりしている暇があったら、その休みの時を有効に使って、自主練習にでも使ったほうが絶対に有効だと感じたし、そもそも、人にもよるかもしれないが、それぐらい自分を追い込まないと、できない役者はいつになっても演技が棒のままだし、それだと演劇をやっている意味が無いと、個人的には思った。皆、仲良しこよしだったら、サークルで良いわけで、プロの劇団員になりたいのならば、遊び感覚でやっている限り、絶対に演技なんて身につかない。もし、そういう軽いつもりで演劇やっている人がいるなら、その人は辞めたほうが良いと思う。

 劇の内容的に本多劇場のような中劇場で演る劇では絶対に無いと感じた。第一、劇作家になり、いろいろ困難を乗り越えたり、苦労したり、メンタルが蝕まれたりといった内容から言っても、あんな大きな舞台を所狭しと駆け回る内容でもないし、客席との妙な距離感から観客を白けさせ、何というか完全に世界観に入れず、半分以上現実に引き戻されるところからも、限界が見えた。もっと小さな、内容から言っても、100席以下の劇場で、自由席にすることで、更に、前の方の席を桟敷席にすれば、役者と、観客、そして劇の世界との一体感が生まれ、自然と観客が劇に没入することができたのではないかと感じる。

 舞台上のセットも所狭しと置かれている割に、全く活用しきれておらず、手に余っているかんじがこちらに伝わってきたので、意味が無いと感じた。それに劇の内容から言って、もっとコストを抑えた小道具、大道具に出来たと感じた。もっと有り合わせのもので工夫することもできただろうにと考えると残念だ。

「流れる」と「光環(コロナ)」

「流れる」と「光環(コロナ)」

劇団あはひ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/04/09 (土) 19:00

 チラシを前にもらったときに、そして今回の観劇の手引きを見た時からより確信したが、能の所作や形式に乗っ取りつつ、西洋史の系譜や哲学者、エドガー·アラン·ポーの短編小説「盗まれた手紙」、村上春樹の「ある晴れた日曜日の朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という短編小説、能の世阿弥の言葉などを作品の下敷にしたり、劇中に散りばめたりしながら、主人公の女の子役の俳優が殆ど棒読み、無表情で稀にコミカルに演技したりしているのと、他の俳優が演じる、急に声が甲高くなったり、低くなったりする、人の言葉を話す鴉、初老なのに奇妙奇天烈で相当に目立つファッションに身を包み、いつまでも中学生の甘酸っぱい青春のなかにいるかのような変わった夫婦、どうやら危機的状況の未来を予測できる予知能力を持っているらしい男などの個性溢れ、それでいて存在感のかなり薄い登場人物たちとのどこかズレた対話が続き、それに電子音楽も加わり、舞台中央に水が設えられ、それを劇中では海になったり、日食になったりするが、それらがシンクロしていき、この作品は、哲学的な要素や詩的要素、俳優の身体の所作、不条理劇の要素がクロスするとき、これは劇というよりも、良い意味で、現代アートのパフォーマンスを観て、聴いて、5感、そして全身を使って体感しているような感じがした。

 劇を通して、女の子と出会う風変わりな人や鴉との対話は、どこか「不思議の国のアリス」のやり取りを思い起こさせ、お互いがどこかズレているが構わず会話が進んでいく感じは不条理劇を思い起こさせ、そういう細かい部分への気配りや作·演出の大塚健太郎氏の知識量の多さには感服させられた。

 橋がかりを使って出たり、入ったり、音を全く立てずに摺り足で終始動いていたり、足袋を履いて演じたり、観客に緊張感を強い続けることと、完全に能にリスペクトをしながら、現代風な表現も巧みに取り入れて、美しさや儚さ、無常観なども含め、これはまさに本当の意味で、現代能だと感じ、作·演出の大塚健太郎氏の手腕に恐れ入った。

 ただ、劇が終わったあとのアフタートークでの、種明かしばなしの際、作·演出の当人がどう思っているかはわからないが、平たく言ってとても驕り高ぶっているように思えて、鼻持ちならなかった。理由は、前回2021年に『Letters』という作品をKAAT(神奈川芸術劇場)で演った際、アンケートで作品内容がよく分からなかったという大多数の意見に触れ、僕は、作品の内容や意味をちゃんと理解して、納得して帰っていただけるとありがたいです。今回の劇は能の様式に則りつつ、レトリックを作中に入れ込んだことで、分かりづらくはしたが、能に詳しく、推理小説のトリックを分かりきった人たちなら、これぐらいどうということもないんじゃないですかねぇ。というような、知識豊富な人たちに分かれば良いとも取れかねる発言に、疑問を抱き、それはどうかなと感じた。

いかけしごむ

いかけしごむ

劇団俳優難民組合

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/04/08 (金) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/04/08 (金) 19:00

 CoRichに載っているチラシからして、不気味で異様な雰囲気を漂わせていたので、楽しみに観に行ってみると、期待していた以上に良かったです。前にこの劇は、違う劇団で観たことがあったので、内容は頭に入っていたのですが、前に観た際は、別役実作品の日常の延長線上であるようで、気味が悪く、不気味で、奇しい世界観の要素よりも、笑いに主を置いている感じだったので、それはそれで良かったのですが、今回のほうが、男役の役者の平凡でなんの変哲もないようでいて、眼の色や行動に不審な点がところどころ見え隠れし、何か隠している雰囲気、そして女役の役者によってどんどん追い詰められ、窮地に追い込まれていくまでの流れを、また、2人の会話のやり取りが少しずつ、エスカレートし、ズレていくのを緊迫し、時に心の機微や焦り、疑いまで、身体所作や微妙な表情でこちらに迫り、伝わってきて、見事だと感じた。ある意味、会場の舞台セットも含め、グロテスクで、不気味で、奇しい、別役実の世界を体現していると感じ、感心してしまった。

LAST RENTAL VIDEO

LAST RENTAL VIDEO

!ll nut up fam

萬劇場(東京都)

2022/04/06 (水) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/04/08 (金) 14:00

 タイトルとあらすじ、そしてCoRichに載っていた画像を見た限りでは、落ち目の現代のレンタルビデオ屋を舞台として、そこに行き来する店員と個性的なお客さんたちが織り成す、バカバカしくも儚いシチュエーションコメディなのかと予想して、実際に観に行ってみたら私の予想を良い意味で裏切ってくれて、予想外の展開にただ、ただ、目を見張り、いつの間にか魅入っていた。

 主人公たちは、レンタルビデオ店に並べられている借り手が現れるのを今かいまかと心待ちにして、ただそれだけが生き甲斐の擬人化されたレンタルDVDの作品たちという、同じ擬人化でも、かなりコアなところに目を向けて、そこに着眼点をおいて、そこを主体に話が始まっていく展開に、脚本家の眼の付け所が良いと思った。

 擬人化されたレンタルDVDの作品たちに、それぞれに猛烈な個性や見せ場を持たせ、更に、レンタルDVDの作品たちのなかの一部のものがこのままここに居ても、お客さんも少ないし、ほとんど借りられないぐらいだったら、外の世界に飛び出そうと言って、飛び出していくもの、また一部のレンタルDVDの作品たちは他のDVDを殺していけば必然的に自分たちが選ばれるだろうという危険思想のもと、次々に狂気の行動に駆り立てられて、取り返しのつかない自体になっていくものたちなど、物語は一筋縄ではいかない、スリルとサスペンス、不安と恐怖、そしてかなりの笑える要素、シリアスなシーンであっても、急に笑いに持っていったりする強引さなども含め、劇の世界に圧倒され、時に緊張し、引き込まれた。

 レンタルビデオ屋がサブスクなどに人気を奪われて、閉店に追い込まれていく現状、漫画や雑誌に、本などが矢継ぎ早に電子化されていくことを手をこまねいて見ているしかない現状、世の中は進化していくからそれも仕方のないことかもしれない。だが、そうやって人間が自分たちでせっかく創り出し、売って、買っていくモノをそう簡単に、無造作に手放したり、捨てたりすることが出来てしまう。これはあまりに俺たちモノを創り出し、市場に出回らせた人として、無責任なことじゃない。俺たちをどうするかをちゃんと考えてから、判断しろよというような、劇の最後のほうの場面で、レンタルDVD作品たちのうちのスパイ映画の主人公の吐く台詞には身をつまされる思いがして、思わず感涙してしまった。

 レンタルDVDを借りに来るカップルの恋人役を演じる役者が、平常のキャラから急にドSになるあまりのキャラ変の変わりぶりように驚き、それをさり気なくやりきった俳優が見事だと感じた。また、レンタルDVDの作品たちのうちの頭脳明晰な探偵キャラを演じる役者が、豹変して狂気な殺人鬼に成り代わるまでのあまりの変化に、すごい意外性を感じ、良い意味で言葉を失い、我を忘れ、ただ、演技に魅入った。

第73回「a・la・ALA・Live」

第73回「a・la・ALA・Live」

a・la・ALA・Live

座・高円寺2(東京都)

2022/04/07 (木) ~ 2022/04/07 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/04/07 (木) 19:00

 4月7日(木)19:00開演のa·la ♪ALA ♪ Live あ·ら ♪ あら ♪ らいぶ  第七十三回 2022年という、言うなれば、現代版の寄席を座·高円寺2というところで観てきました。

 ボヤき芸に、どう見ても若くはないのにキャピっとした感じを全面に押し出したイタさ全開の笑い、ネガティブで生真面目だが、どこかズレている女性と、ポジティブでハイテンションな女性という、全く性格が違う人物を一人で演じ分け、二人のキャラのあまりの違いを誇張しての笑いなど、休む間もなく笑えて、お腹がよじれるぐらい笑えて、日々のストレスも吹っ飛ぶぐらい面白く、飽きなかった。また、二人の全然性格の違うキャラクターを見事に演じ分けていて、感心してしまった。

 第1部途中や、2部の最初や途中にところどころ出てくる《オペラ座の道化師》みまなる人物による、しつこい笑いや自虐ネタなどによる笑いで、徹底的に笑わせられつつ、いざオペラを歌い始めると、それが格段に上手過ぎて、心底聞き入ってしまい、その音階の使い方などの超絶技巧に感心してしまった。

 第1部のトリを飾ったパントマイムと朗読を組み合わせたバーバラ村田と、それに音楽で協力する出演者3人とが見事に息があっていて、そのジャンルの違う人たちが共演すること、パントマイムと朗読、そしてダンスに音楽という組み合わせが次第にシンクロしていくことで、舞台上に現代アートパフォーマンスと言って良いものが出現し、思わず目を見張り、ただ、ただ、感嘆した。また、朗読しつつ、踊るバーバラ村田が、その踊りもさることながら、太宰治作『女生徒』の少女の悩みや葛藤、大胆な部分や儚さ、太宰作品特有の自分探し的なところや淡々とした独白、耽美な雰囲気などを声質に強弱をつけたり、表情や手足や肉体全体をダイナミックに動かしたりして、太宰独特な世界観を醸し出していて、思わず、魅入ってしまった。

 第2部最初の講談も、女性の講談師だったが、マクラで、現代の仮想現実の話を導入したりしながら、明るく、面白く、話をしていて、講談を普段ほとんど観に行かない私でも講談の世界に入って行きやすく、親しみやすかった。本題の講談も、赤穂浪士のうちの一人に焦点を当てており、一見堅苦しい話になるかと思いきや、舟渡したちが女形の歌舞伎役者と勘違いして本物の赤穂浪士の侍にいちゃもん付けて、詫び証文まで書かせるという、肩の力を抜いて楽しめ、更に廻船問屋親方の娘で、荒くれな船頭衆を取りまとめるお市といい、腕っぷしも強く、歯に衣着せぬ物言いという女性がキャラが立っているうえ、格好良く、女性講談師のこ気味の良い江戸弁も癖になり、物語に自然と引き込まれた。

ちろうに検診

ちろうに検診

Peachboys

サンモールスタジオ(東京都)

2022/03/30 (水) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/04/01 (金) 19:00

 タイトルからして大人気を博し、映画も大ヒットを飛ばした漫画『るろうに剣心』からあからさまにパロっていて、且つ、シモネタ臭がプンプンする雰囲気に興味をそそられ、何とも胡散臭く、怪しく、しかしそれでいてしょうもない雰囲気のチラシに思わず魅入り、興味本位でいつの間にか劇場に足を運んでいた。

 前説で出てきた際の第一印象は、生真面目そうに見えた役者が、前説を話だしとたんにぼやき節で、のらりくらりと脈絡なく話しながら、さり気なく客いじりを徹底的にしつつ、急に自分たちの劇団を卑下したり、態度がデカくなったり、図々しくなったりと目まぐるしい変化に飛んでいて、そのギャップに脱帽し、気付いたら私自身も大笑いしていた。この俳優、絶対に人を笑わせる際に長けていると直感した。

 本編が始まっても、いきなり過激な下ネタ笑いが連続して起きたり、実在人物の尾身茂がただの変態スケベオヤジに描かれ、内閣府コロナウィルス対策課を略すとチンコロになるだとか、菅義偉前首相のいかにもやる気のなさそうな、それでいて人を苛立たせる特徴的な棒読み音声を途中で流して、すぐにもう良いと言ってドアを閉める動作を役者がしたり、石破茂が権力と金を傘に来て、女を侍らすセクハラ野郎として描かれたり、ひろゆきがフォロワー数で稼ぐことを極端に誇張してやゆり倒す笑いなど、政治ネタや社会問題、芸能人の不倫ネタなどを徹底的にイジり倒し、皮肉り、乾いたブラックな笑い、おミクロン株をも笑いのネタにし、余りにくだらなく、しょうもなく、意味もない笑い、下世話で品のない笑い、佐藤健主演のドラマや藤原竜也主演の映画『24時間』などのドラマや映画のパロディ、アニメ『ワンピース』、『ドラゴンボール』、ゲーム『マリオ』などのタイミングのズレた笑いや下世話な展開含めた笑い、自分の劇団をこき下ろす過剰な自虐笑い、まじめで感動的なふうに見える場面や緊迫したアクション場面で、急に下ネタや現実の劇団の苦境、上演時間を持ち出したりでの赤裸々で現実問題を突きつけるハードでシビアな自虐笑い、可愛らしい女の子が急に豹変しキャラが変わることによるギャップ笑い、さらに2部のレビューも含めて、昔から今のなにわ男子やMATURI NAINなどのアイドル、山下達郎などのアーティストの曲さえも下卑て、くだらないノリになっていて、笑いが連鎖し、飽きることなく抱腹絶倒、お腹がよじれ、胸が張り裂け、眼玉が飛び出、顎が外れ、耳が聴こえなくなるんじゃないかというぐらい大笑いし、笑い転げ、全篇笑いっぱなしで、日々のストレスやもやもやしたものも吹き飛んでスッキリした。笑うことは健康に良いというが、こんなにも楽しく気持ちの良いことなのか改めて実感した。それにしても、コメディと銘打った劇とはいってもここまで観客をさり気なく巻き込み、全篇に渡って笑わせてくれる劇なんて未だかつて、あんまり出会ったことがなかったので、貴重な体験ができ、役者と観客との距離感が完全に取っ払われていて安心し、これぞ演劇だと感じた。

 木村拓哉や佐藤健、ミュージシャンの布袋寅泰に似た役者が主役や主演級で出ていたが、徹底的に見た目の第一印象と実際とにかなりの落差を出し、下世話な笑いやくだらない笑い、ドタバタギャグと立て続けにギャグを連発して、キャラを完全に崩壊させていて、人を笑わせるセンスを感じ、女優の人たちもそれに引けを取らず、下ネタを、男性の役者に負けず落とらずで、1ミリの恥じらいも見せず、やりきる辺り、プロの役者だと感じ、更にアドリブをいきなりぶっこんでも、男女問わずの役者ともブレずに、コミカルな掛け合いをしたり、歌のシーンでも上手い役者が結構いたりというのを観て、瞠目し、感心してしまった。



ながいながいアマビエのはなし

ながいながいアマビエのはなし

劇団 枕返し

小劇場メルシアーク神楽坂(東京都)

2022/03/31 (木) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2022/03/31 (木) 18:00

 タイトルは謎めいた雰囲気で、
イラストも劇の展開が読めない感じに惹かれて、多少期待して観に行った。
 しかし実際には、非常に残念なことに、劇の内容も展開も、あらすじとほとんど変わらず、単調で、捻りがなく、それぞれのキャラクターが一部を除いて、それを演じる役者も含めて際立たず、私の予想を良い意味で裏切ることをせず、想定内どころか、想定内以下過ぎて、がっかりだった。

 また、役者の演技も、2、3、4人の役者を除いて、演技が上手だとか、下手だとかいう以前のレベルで、学生演劇以下に見え、失望した。
 ただ、2、3、4人の役者に関しては、役によって、しっかりと演じ分け、時に豹変した演技に魅入ってしまうぐらい、申し分なく、素晴らしく、これからも期待できる逸材に思えた。

 演出の都合だか、それともコロナの自粛期間のあたりがメインテーマになっているからか知らないが、劇全篇のほとんどを、途中の一瞬の例外を除き、演者がマスクを付けたまま演技をしているのは、いかがなものかと思った。周りの状況がどうとか、そういうことではなく、演劇というのは観客に虚構を観せせるものであるので、それに役者は身体の動きとともに表情の変化も大事なので、マスクをするぶん表情が読み取りづらく、笑える場面でも、付けずに演じるときほど素直に笑いづらいし、観客側が反応しづらくなるので、絶対にマスクはなしで演じたほうが良いともう。それに行政も演劇を行うことにおいて、絶対にマスクを付けて公演してくださいと入ってないはず。演劇を演る人間が世の中の流れに過剰反応するのはどうかと感じた。

 演出も全然なっていないし、一部を除いて、役者も見込みゼロだと感じたが、そもそも、脚本が一人一人の役者の個性と向き合ってあて書きすることをしていないと感じ、脚本内容と脚本家が一番言いたいことがあまりにもあけすけに出過ぎていて白けてしまい、かなり落胆した。

 アマビエ役の人たちの格好が奇抜で、特に劇中でお兄ちゃんと言われたほうのアマビエ役の俳優は濃く、見た目はかなり不気味で怖さを感じさせるメイクをしていて、人目を引くが、実際に話をしだしてからとの演じているキャラクターのギャップに意外性を感じ、驚いた。

石を投げる女がいて

石を投げる女がいて

ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/03/25 (金) 19:00

 タイトルからしても、チラシのイラストからしても、謎が多く、相当興味を惹かれましたが、実際観に行ってみると、こちらが期待していた以上に、想定外で、意外な展開の連続に、そしてその終わり方に良い意味で期待を超えていき、衝撃を受けた。
 
 ストーンハウスという名のアクセサリー工房を舞台に、個性的な創立メンバーのやり取りがくだらないが面白く、飽きさせず、笑えた。その後、DVの問題が絡んできたり、途中から、ストーンハウスを軌道に乗せるためビアンカの姉のヴァレンティナが協力するが、この姉妹が実はとんでもない小悪党で、次第に野心がむき出しになっていき、創立メンバーが矢継ぎ早に辞退していったりと、スピーディで、ハラハラドキドキする展開が続くが、ストーンハウスに第1次加入組の1人である生真面目で愛想がないが職人気質の美月が正義感を発揮したことで、ヴァレンティナグループの乗っ取りは失敗に終わったりと、ドラマは二転三転し、先が見えない展開の仕方に振り回され、先が気になり、緊迫しながら、舞台を思わず食い入るように魅入っていた。

 石を投げたのが実は、生真面目で愛想がないが、職人気質の女性だったというのはかなり以外で、意表を突かれた展開に驚愕した。しかも、石を投げたのがきっかけで、地元の村人たちと対立し、その内、噂話などが肥大化し、ストーンハウスのメンバーを追い出しにかかろうとする村特有の閉鎖性、猜疑心の問題、ストーンハウスのメンバーの一部が新興宗教的に全体をしていく両方における怖さを克明に描ききっていて、そう現代において、完全な虚構話とも言えないと感じ、一つの小さなトラブルをきっかけにして、ここ迄事柄が肥大化し、収拾のつかない事態にまで発展していくのを観て、ゾッとした。

「震災演劇短編集」宮城・東京ツアー

「震災演劇短編集」宮城・東京ツアー

Whiteプロジェクト

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/03/18 (金) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/03/18 (金) 19:05

 『被災地の想いを演劇で世界へ/Whiteプロジェクト SHINSAI 10th 震災演劇短編集 宮城·東京ツアー』といういくつかの小編の劇を連続して、東京のこまばアゴラ劇場で観て来ました。
 
 私は、4つの小編、中編の劇を観ましたが、そのどれもが、劇的な展開はないものの、地味だけれども、こじんまりとして、多少笑いもありつつ、飽きさせず、東日本大震災という重い題材を扱いつつ、観客に極度な緊張を強いさせず、知らず知らずの内に津波や未だ遺骨が見つからない問題などについて想いを馳せ、深く考えさせられていて、劇の作りが非常に上手くできていると感じた。

 「イーハトーブの雪」という作品では、震災直後の遺体安置所で番号を付けられ床にモノのように置かれたご遺体に、妹の遺体を探しに来たおじさんが、赤の他人の遺体に親しげに話しかけるところから物語は始まるが、最初はちょっと風変わりなおじさんなのかなと思ったが、劇が進行していくうちに、妹の生前の思い出話を語ったりして、遺体に対して、コーヒーを生きている人に渡すかのように渡してみたりするところから、遺体が途中から起き上がって喋り始めるという幻想的で妖しい展開になるのかとも思ったが、終始遺体は動かない上に、最後の方で主人公の東北弁で喋るおじさんが、震災が起こったために、避難して妹と別れることになった話をして、後悔や自責の念から、感情が昂ぶり、声を荒げてしまう辺りから、幻想の要素はあんまりないと思いつつ、今まで静かに、親しげに遺体に対して話していたおじさんの東日本大震災で失くした妹に対する葛藤や整理しきれずにいる現実、大災害が不意に襲ってきた時に、科学技術がいくら進化しても対処しきれず、慌てふためく、人間の無力さなどが生々しく伝わってきて、東日本大震災が起こったことによって大事な人を失ったり、眼の前で津波に呑まれるのを目撃した傷はそう簡単には癒えることはないし、その衝撃は消えることはないだろうと実感し、終わったことと捉えるのではなく、東日本大震災の記憶を頭に焼き付け、私達は日々考えていくことが大事だと感じた。
「第二章」という作品では、震災後、新しくできたバス停で夫を迎えに行くためにバスを待つ地味だが、よく見ると貴婦人風な気品のある老女が主人公だが、回想する台詞の中で、夫が津波に呑み込まれ2度と帰らぬ人となっている現実は認めつつも、せめて魂だけでも帰ってきてくれるのではないだろうかとか、夫は津波に呑まれたが、今は南の島に流れ着いて幸せに楽しくやっているんだとか、考えれば考えるほど虚しくなるはずなのに、それでも微かな希望を、自分の心を支えていくために、自分を励まし、奮い立たせ、明日も生きていくために、そのような想像をするというところに深く考えさせられ、思わずグッときてしまった。
 「Prelude -天使が生まれた日-」 という震災とは直接関係のない作品では、病院の分娩室隣のロビーでもうすぐ父親になる男がビデオメッセージを録画しているところから始まる。ビデオメッセージの録画を慣れていないのか、何度も撮り直したり、動きが挙動不審であったりと、ドタバタして笑える場面も結構あるが、期日前診断で、これから産まれてくる赤ちゃんが男の子でダウン症の可能性が高いことを知らされ、中絶するか、産むかの判断をなるべく早くしてくれと言われたこと、正直迷ったことなど、不安や恐怖、焦りや喜び、迷いなどが入り混じり、まとまりがない形でビデオメッセージを録画しているのが、人間らしさや悩みが垣間見える共感できた。しかし最後は、赤ちゃんの泣き声を聞いて喜び勇んで、いても立ってもいられなくてすっ飛んでいく、もうすぐ父親になる男を見て、無性に感動してしまい、涙が出た。人間とは、赤ちゃんが産まれると、今までの悩みや怖れ、不安などはすべて吹っ飛ぶものなのだなぁと感心した。
「桜ひとひら」という作品では、震災で家族を失った人々のために依り代として仏像を彫り続けている住職が主役だが、依り代としての仏像を頼んだ小さなこどもを震災で失くした女性の依頼人の女性とのやり取りにおける、住職の良い意味でちょっとずれた思考や糖質を控えていると言いながら、饅頭を女性に勧められると、一つだけならと言って食べるあたりの図々しいが憎めない感じなど、住職の人間臭い感じなどに共感し、大いに笑えた。しかし、依頼人の女性がハキハキと押しが強い感じで話しているが小さなこどもを失くしたことを未だに気にしていて、傷が癒えてはいないが、最後のほうで完成した木彫りの地蔵を住職から渡されて、まるで震災で失くした我が子を抱くように、優しく抱き、慈しむ様子に、複雑な気持ちになり、感慨深くなった。

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