実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/04/26 (火) 16:00
中編劇2つの組み合わせのうち、一つは刈馬カオス作「異邦人の庭」という作品で、秋の拘置所に、男が1人やってくる。ここに収容されている死刑囚の女と面会するためだ。女は、男の真の目的が、自身の戯曲を書くための取材だと見破る。食い下がる男に、取材を許可する条件として突きつけたのは、自分と結婚することだった。
死刑制度が変わった近未来の日本を舞台に描く、獄中結婚と死ぬ権利の物語。という内容の衝撃的で、更には、その女が犯行時の記憶がほとんどないこと、ほとんど記憶がないにも関わらず、その女自身は死刑を望んでいること、それでいて焦りや不安、死への恐怖もあったりと、話をしていくうちに本音や女自身の弱い部分、人間性が淡々と劇作家の男に話をする節々に滲み出たり、自分がしたことは人殺しなのだろうか、それとも、自殺願望を持ってその女のところを訪ねた女性たちに対して行ったことは、その人たちを自由にさせる安楽的な意味での死なのだろうか、というような問い、最終的に離婚届を選ぶも、死刑を選ぶのも、あなた自身で決めることだと言って、選択を迫る劇作家の男などの展開を観て、常深くに考えさせられ、謎めいてそれでいて突如感情的になる女役の俳優と、その女と駆け引きをしながら時に振り回され、冷静でいられなくなったり、自分をなんとか自制したりする男を演じる俳優とのシリアスで緊迫したやり取りに、釘付けになり、いつしか舞台に魅入っていた。
二つ目の劇、山田裕幸作「3sheep」という作品では、ある地方都市の私立高校。年度末、3人の教師たちが3人の生徒の進級会議をしている。石井宏くんは学年の成績で、数学Ⅱ、世界史、英語ライティング、家庭科、現代文の5つの単位を落とした。読書家の木崎翔太くんは、遠足の後から不登校となり、出席日数が足りてない。そして吉田健吾くんは・・・悩めるのは生徒なのかそれとも教師か。という内容である。最初のうち無関心で、保守的で、適当で、やる気のなさそうなな男性ベテラン国語教師は、読書家の木崎の話になると、尋常では無くかばい、何とかできないものかと急に熱く弁舌を奮ったりする役をかなり体当たりな演技をして、ベテランな雰囲気の俳優が目立っていた。そして、英語の女性教師を演じる俳優は、最初のうち平穏な雰囲気から始まり、吉田君との過去の関係性から、途中で狂気な雰囲気に言葉や身振りや手振り、顔の表情が段々こわばって、眼がすわってくる常軌を逸した雰囲気に変わっていくまでの変わり方が見事で、客席の方に迫ってくる、緊迫した迫力を感じた。3人目の体育教師を演じた俳優は、事なかれ主義で、最後までそれを徹底させ、飄々とした雰囲気を出して、独特な味わいが滲み出ていて良かった。
お互いの会話が噛み合わないところや、微妙な空気が流れたり、勘違いなどによるシュールであったり、不条理であったりする笑いが劇中に散りばめられ、教師たちが劇が終盤になるにつれて、お互いの本性をむき出しにしたりといった急展開も含めて、観ていて面白く、飽きさせなかった。
2つの中編劇とも、初顔合わせで、ぎこちなく、小道具や舞台セットの机をどう使うかといったところから始まり、劇中も台本を常に持って役者が演じていて、本当の舞台稽古初日を垣間見せられているような雰囲気に、稽古初日の役者さんたちってこんな感じなのかなぁと良い意味で、妄想を膨らまさせられた。
しかし、稽古初日で、ここまで、段取りも含めてすんなりいくものなのかなぁと内心疑問に思い、2つ目の劇を演じている最中など、ページをめくるとき以外、ほとんど台本を見ずに演じているのを見て、さすがプロの役者、幾ら舞台稽古初日を再現する企画といえど、観客が観ている前で、生き恥を晒したくはないのだろうなと感じ、そのプロ精神に感心してしまった。