実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/04/08 (金) 14:00
タイトルとあらすじ、そしてCoRichに載っていた画像を見た限りでは、落ち目の現代のレンタルビデオ屋を舞台として、そこに行き来する店員と個性的なお客さんたちが織り成す、バカバカしくも儚いシチュエーションコメディなのかと予想して、実際に観に行ってみたら私の予想を良い意味で裏切ってくれて、予想外の展開にただ、ただ、目を見張り、いつの間にか魅入っていた。
主人公たちは、レンタルビデオ店に並べられている借り手が現れるのを今かいまかと心待ちにして、ただそれだけが生き甲斐の擬人化されたレンタルDVDの作品たちという、同じ擬人化でも、かなりコアなところに目を向けて、そこに着眼点をおいて、そこを主体に話が始まっていく展開に、脚本家の眼の付け所が良いと思った。
擬人化されたレンタルDVDの作品たちに、それぞれに猛烈な個性や見せ場を持たせ、更に、レンタルDVDの作品たちのなかの一部のものがこのままここに居ても、お客さんも少ないし、ほとんど借りられないぐらいだったら、外の世界に飛び出そうと言って、飛び出していくもの、また一部のレンタルDVDの作品たちは他のDVDを殺していけば必然的に自分たちが選ばれるだろうという危険思想のもと、次々に狂気の行動に駆り立てられて、取り返しのつかない自体になっていくものたちなど、物語は一筋縄ではいかない、スリルとサスペンス、不安と恐怖、そしてかなりの笑える要素、シリアスなシーンであっても、急に笑いに持っていったりする強引さなども含め、劇の世界に圧倒され、時に緊張し、引き込まれた。
レンタルビデオ屋がサブスクなどに人気を奪われて、閉店に追い込まれていく現状、漫画や雑誌に、本などが矢継ぎ早に電子化されていくことを手をこまねいて見ているしかない現状、世の中は進化していくからそれも仕方のないことかもしれない。だが、そうやって人間が自分たちでせっかく創り出し、売って、買っていくモノをそう簡単に、無造作に手放したり、捨てたりすることが出来てしまう。これはあまりに俺たちモノを創り出し、市場に出回らせた人として、無責任なことじゃない。俺たちをどうするかをちゃんと考えてから、判断しろよというような、劇の最後のほうの場面で、レンタルDVD作品たちのうちのスパイ映画の主人公の吐く台詞には身をつまされる思いがして、思わず感涙してしまった。
レンタルDVDを借りに来るカップルの恋人役を演じる役者が、平常のキャラから急にドSになるあまりのキャラ変の変わりぶりように驚き、それをさり気なくやりきった俳優が見事だと感じた。また、レンタルDVDの作品たちのうちの頭脳明晰な探偵キャラを演じる役者が、豹変して狂気な殺人鬼に成り代わるまでのあまりの変化に、すごい意外性を感じ、良い意味で言葉を失い、我を忘れ、ただ、演技に魅入った。