マスターピース~傑作を君に~
TEAM NACS
EX THEATER ROPPONGI(東京都)
2021/05/12 (水) ~ 2021/05/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ご存知チームNACSの五人が、映画のシナリオライターグループと、彼らが缶詰になった熱海の旅館の仲居グループと、男女それぞれの一人二役で笑わせてくれた。とくに安田顕の仲居が、本当に声色が女性みたいで、男の女装とは思えない。近眼の友人は、安だとはわからなかったと言っていた。大泉洋のシナリオ作家との恋が盛り上がる、その結末がサイコー。枕投げのドタバタシーンも笑えた。笑いの渦まく舞台だった。
同じ旅館に、あの黒澤明のチームも止まっていると知って、やる気のない彼らが、突如奮い立つところも面白い。
自り伝5・再び京都編
平石耕一事務所
シアターX(東京都)
2021/05/13 (木) ~ 2021/05/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
安藤昌益の諸国行脚を描くシリーズ。今回は、京都で発生した感染症のまんえん防止の陣頭指揮に立つ。数学の得意な娘が、実は琉球のお受けの娘で、幕府が命じた薩摩藩の木曽川普請の測量、施工管理をやっていたという裏がみどころ。幕府の暦が不正確で、日食を予言することで、その権威を失墜させて、敵を取るとか、権力が仕組んだヒニン部落への民衆の襲撃を、機転を利かせて空振りにさせるなど結構な展開を詰め込んでいる。かなり説明的になってしまうが、意外な治験が次々現れて、勉強になる。琉球に対する薩摩藩の人頭税の苦しみまでふれていた。途中休憩あり、2時間半くらいだったと思う。
フェイクスピア
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2021/05/24 (月) ~ 2021/07/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
「無限+36年」、三日坊主の「8月12日」、その他とヒントはちりばめられていたのに、「その時」が来るまで、全然わからなかった。戦争とかかわる作品がつづいたのに、今回はちがったのも意外性を高めた。白石加代子、高橋一生、橋爪功、現代日本の名優たちと、井上ひさし亡き後、現代日本の最大の劇作家野田秀樹が組んだ舞台。期待に違わぬものだった。客席では多くのすすり泣きが漏れていた。舞台終盤のモブシーンは、手に汗握らされた。脱帽。
JACROW#30『鋼の糸』
JACROW
駅前劇場(東京都)
2021/05/26 (水) ~ 2021/06/01 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
体育会系営業部の千葉鉄と、自由闊達(という名のぬるま湯)のFSS営業部が、鉄鋼再編で合併し、それぞれの社員が、昇進と左遷、天国と地獄、をみていく。社内の派閥の絆=しがらみや、出世競争、腹のさぐりあいと意地の張り合いは、誰もがどこかで見に覚えのあることなので、身近に感じられる。だからあまり説明がいらない。そこで2つの営業部の社風の違い、ミナト自動車の仏資本参加入りとコストカッター社長の赴任、2つの鉄鋼会社の業績の逆転から、対等という名の吸収合併など、どんどん話が進んでも十分ついていける。上司と部下の浪花節的絆と切り捨て、その逆転と、波乱万丈の会社員人生の悲喜こもごもを楽しく見られた。
結果を出すために頑張るのか、働き方改革で無理はしないのかの対立も、結果がすべての男社会で、当然残業覚悟でやると思ったら、あに図らんやワークライフバランスの主張が優勢。私は寂しい気がした。古いわけではない、やっぱり成果を出すために脇目もふらず突っ走ることに生きがいを感じると思うのだ。
一緒にみた女性は(結構キャリアウーマンなのだが)「完全に男社会の話でへどがでそうだった」と。それだけ芝居がリアルだったということで、これは褒め言葉です。ひさびさの男のロマン全開の浪花節的ビジネスドラマ。2時間、満喫しました。
舞台の奥に、素通しで見られる廊下を作って、部屋を出ていくときに底を歩きながらの姿が見えるのは、非常に効果的だった。部屋の外での素顔や、焦り、諸々の感情を付け加えて、まさに舞台に奥行きを与えた。
メリリー・ウィー・ロール・アロング
ホリプロ
新国立劇場 中劇場(東京都)
2021/05/17 (月) ~ 2021/05/31 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
よかった。若い日の夢とは違った形になった(単純に潰えたとは言えない)現在から、一つ一つ、夢の輝きを辿り直し、始まりの光源にたどり着く。怖いもの知らずのロマンは、人生のにがさを知ったペーソスによって、一層輝く。また逆も言える。原点のロマンがあったからこそ、現在は一層苦い。私はこういう話に弱い。ミュージカル「ローマの休日」もこういう側面から心動かされた。
夢とは違った現在といっても、成功した演劇・映画プロデューサーなのだから、サクセスストーリーのはず。表面的経済的成功の裏の、初心と友情の喪失というのは、言ってみればよくある話ではある(「Facebook」もたしかそうだった)。いわば、貧しい者ほど救われるという弱者のルサンチマンが、こうした芝居の共感の裏にはある。
カネより夢を追うチャーリーのウエンツ瑛士と、不倫相手の朝夏まなと、大物プロデューサーから落ちぶれる今井清隆が存在感あった。2時間45分(休憩15分含む)
アルビオン
劇団青年座
俳優座劇場(東京都)
2021/05/21 (金) ~ 2021/05/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
古き良き英国の姿を、イングリッシュガーデンに仮託している。庭に執着する女主人のオードリーが人物としてはいまの英国を象徴する存在でした。LGBTや紛争地で死んだ息子の死を理解せず、ビジネスにも行き詰まって、失われつつある伝統の幻想にしがみつく。一方、彼女の言うことにも一理あり、デジタルや開発ばかりで、自分の過去と出自を忘れていく英国への批判は、そのまま日本にも当てはまる。でも結局、周囲(EU)から孤立し、自分の世界に閉じこもる。決して、他人事とは思えず、見ながら、「イギリスよ、お前もか」と。
語り始めれば、どんなに語っても語りきれない、素晴らしい舞台でした。取り上げる主題は多く、(狭い庭だけの場所なのに)描かれる世界は広い。問題の根は深く、人物の感情は熱く。大きく振幅する。言葉もない…。休憩15分挟んで2時間50分の、けして短くない芝居ですが、全く長さを感じなかった。久びさに劇場の奇跡を堪能しました。濃密で緻密な戯曲、すばらしい俳優たち、美術、演出にも拍手。那須凛の美しさには、キャサリンやゲイブリエルでなくても、惹きつけられてしまいます。
うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた
劇団チャリT企画
座・高円寺1(東京都)
2021/05/16 (日) ~ 2021/05/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
祖母が「アクセルとブレーキを踏み間違えた」とツイートしたのが元で、何の根拠もなく、保育園児を轢き殺した、助手席に若い男が乗っていたと、ニセ情報がどんどん大きくなって、家族も、関係ない人も巻き込んで、ネットの悪意が暴走していく。無責任な情報捏造のネット民や、匿名のツイートを人格化して見せていたので、馬鹿馬鹿しさがよくわかります。90分
今に最新の社会問題を舞台化した機敏さと感度が良かった。多少のご都合主義や無理筋は目をつぶって、大たんさと新鮮さに拍手したい。
つぶやき五郎(実は中学教師)の哲、孫娘の溝端藍、翔のママの山崎未来、ゴスロリファッションの大里結衣が良かった。
「母 MATKA」【5/17公演中止】
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2021/05/13 (木) ~ 2021/05/20 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
祖国のため、名誉のため、信念のため、自由と平等のため、科学の進歩のためと、「何かのため」に死んでいくのを良しとする男たちと、自分が産み育てた息子の命と小さな幸せを大事にする母の対立を描。熱量のある分厚い議論と、観念的で体裁にこだわるな男たちに対し母親の地に足のついた心からの言葉が素晴らしい。
歴史が個人に犠牲を求めるとき、どうするかという問題はフランスレジスタンスでサルトルも考えた問題。サルトルは「投企=あんがーじゅまん」するしかないと、個人個人の選択の問題としたが、チャペックこの作品では…。戯曲自体は当時の時代の中で、意外な結論を出すが、その答えは一例に過ぎない。大事なのはこの問題を掘り下げる議論の厚み、葛藤の深さなのである。その点で見事な舞台だった。
舞台は亡き夫の書斎。机やテーブルの上にはチェスや旧式ラジオ、アフリカのお面(足元に蓄音機もあると、後で分かる)。三方にフェンシングや、本屋、ライフル・猟銃が吊り下げられている。下手に夫の肖像画があるが、大谷亮介本人が額縁の中でポーズを撮っており、妻(役名はない。普遍性を示す)だけになると、額から出てきて、思い出を語り始める。
次の場では、かつて伝染病研究で死んだ長男、いま飛行機が墜落したばかりの次男も現れて、生者の母と対話する。この死者たちとの議論のばが、皆死者が現実から開放されて楽しげで、面白い。大谷氏の憎めないエエカッコぶりを始め、長男オンドラの米村亮太朗の情けない長男ぶり、次男イジーの富岡晃一郎の陽気な茶目っ気ぶりがいい。
そして戦争が始まり、母はひとり生き残った末っ子のトニを義勇軍に必死に行かせまいとする。死んだ男たちも、祖国のために戦うのが男だ、トニのためだ、隣近所に何を言われるか、と母を説得する。母は「そんなことしかいえないの!」「大きなことばかり言って、私は些細なことでしか家族の役に立たないの」と反論し、「一人ぼっちにしないで」と哀願する。高く低く、叫んだりつぶやいたり、緩急自在に心情を表す母の増子倭文江がすばらしい。
最後、もっと前に死んだ父親もあらわれて、議論に加わる。「私の時代は戦争などほんの中にしかなかった。おとぎ話じゃ」と語りだしたときは、今の日本と同じだとハッとした。1938年、ナチスの鬼気迫る中のチェコの作品だが、視野の届く射程は非常に広い。ただ、父は「しかし、戦争で死ぬのが名誉じゃと教わった」と続けるので、そこは現代日本の特殊性を考えさせる点でもある。
熱海殺人事件〜売春捜査官
9PROJECT
d-倉庫(東京都)
2021/04/14 (水) ~ 2021/04/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
自然豊かな故郷への郷愁、在日の女衒の孤独、女の孤独とプライド、ホモと処女の競い合い等々、いろんなテーマが生身の俳優をとおして直に伝わってくるような、熱量の高い舞台だった。小柄で細身な高野愛の、体格では背負いきれない思い役を健闘していた。途中でサングラス姿で(犯人のくせに)さっそうと登場する新澤明日がよかった。
扇田昭彦さんは、つか芝居は、初期のひたむきさと、後期のエンタメ性で変わったと書いていた。最近、味方良介などの主演でやる「熱海殺人事件」は怒涛のマシンガンセリフで圧倒する、スタイリッシュな舞台。エンタメ性が強い。私は今回の舞台を、初期のひたむきさを体現したように受け取った。また、浪花節や歌謡曲、義理と人情など大衆芸能の要素を積極的に取り入れていることも印象的だった。しかし、「売春捜査官」は96年初演の立派な後期作品。大分の素人ばかりの新劇団の立上げのために書いたという事情が、初期の熱を再来させたのか、僕の勘違いか。それはわかりません。
My friend Jekyll(マイ フレンド ジキル)2021【5月22日(土)~23日(日) 公演延期】
アミューズ / S KAKERU
シアタートラム(東京都)
2021/04/21 (水) ~ 2021/04/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
通常とは違い、読み手の言葉と、踊りての身体表現でみせるジキルとハイドの物語。傑作。見るべし。二人の演者は、ステージにより読み手と踊り手を交代するそうだが、私は持田将史の読みて、小栗基博の踊りての初日を見た。主に三人の人物を読み分ける持田も見事だったし、小栗の葛藤、恐怖、苦悩等々を言葉でなく示す表現も素晴らしかった。静かな立ち姿での演技では、かつてのサンダーバードの隊員のようだった(これは褒め言葉です)
1時間半。このグループの人気を示して、客席はほぼ満席、週末のチケットはすでに売り切れとのことだった
パンドラの鐘【4月25日~5月4日の東京公演中止】
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2021/04/14 (水) ~ 2021/05/04 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
22年ぶりの本格的上演。初演のときの衝撃が大きかったので大変期待してでかけた。現代(といっても、二・二六事件がおきて、1936年頃とあとでわかる)の長崎の考古学発掘現場と、古代の女王の王国の双方の物語がかわるがわるあらわれる。もとは別々の俳優で演じていた現代と古代を一人二役で処理したが、進行は自然で違和感なかった。初演もそうだったと思ったほど。(ただパンフで違うと知って、初演の野田演出では、片方の時代の話が進行中、もう一つの時代の人物は凍りついていたと思い出した)。観客が混乱しないよう、古代では音響(マイク使用)と照明(舞台上の人間の背丈ほどの縦長のライトバーで照らす)で違いを示そうとしていたが、ボーッと見ているとあまり切り替えの意味がわからなかった。
ただ、肝心の原爆と天皇というテーマが、初演時の迫力に比べて弱かった。「鐘」が現物としては出てこなかったせいも大きいと思う。小劇場の上演条件のせいもあるかと思うが。かわりに印象に残ったのは、古代の気のの狂った兄王をおしこめて、妹が王位を簒奪したという権力闘争の要素。兄王が書類を丸めて遠眼鏡にする演技には大正天皇が明らかに重ねられたいて、「パンドラの鐘」にこんな要素もあったかと再認識した。「蝶々夫人」のピンカートンの孫、ひ孫の母娘が出てくるのも忘れていた。
初演のときは笑いで劇場が湧くことも度々で、そのはての原爆と天皇というシリアスなテーマのショックだった。今回は真面目すぎたのか、ほとんど笑いが起きない。教授と狂王の松尾諭ががんばったが、沈んだムードを変えられなかった。残念ながらかつての野田演出。蜷川演出の迫力、エネルギーに遠く及ばなかった。戦後50年の余韻が残り、21世紀を前にひとつの歴史に区切りをつけようという意気込みに溢れた、当時と今の時代の雰囲気の違いも大きいだろう。
カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】
KERA CROSS
シアタークリエ(東京都)
2021/04/14 (水) ~ 2021/04/26 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ケラが「黒い三谷幸喜」と言われる理由が、初めてよくわかった。このケラクロスのシリーズでも、殺人が平然とこんなにたくさん起きる芝居はない。「グッドバイ」は元プレイボーイと女たちが和解するハッピーエンドだし、「フローズン・ビーチ」だって、昔の恨みで人を窓から突き落としたりしても、実際には死なないでまたでてくる。今回は、そこに行くと、乾いた悪意、ドライな犯行が後半、次々起きて、驚いた。亡霊が部屋の明かりや家具を動かすオカルト・シーンも楽しかった。
それぞれの登場人物の関係の謎や、いくつも作った伏線を最後はきちんと回収しているのはさすがである。
俳優たちがよくて、見ていて飽きない。黄色い声でオーバーに語る野口かおる(シャンプー)は犬山イヌコみたいにコミカルだし、芝居上手の渋い岡本健一(弁護士のナイフ)はもちろん、その愛人(?)のファーストサマーウイカ(ガラ)は、村岡希美のようおかしみがあった。姉とエレンデイラ役の生駒里奈は可憐で緒川たまきのよう。ケラのナイロンの役者にあて書きした雰囲気で演じているのかと思ったら、全く違った。この戯曲はそもそも外部向けに書かれたもので、17年前の初演メンバーも犬山がガラをやった(らしい)だけで、ほかは全然別の役者。失礼しました。
斬られの仙太【4月25日公演中止】
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2021/04/06 (火) ~ 2021/04/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
戦前の左翼運動を幕末維新の水戸・天狗党に仮託して描いた作品である。農民(大衆)と武士(知識人)の関係をニヒルなまでに冷徹に捉えている。尊皇攘夷の大義のために天狗党と行動を共にした農民の仙太(伊達暁)が、藩の内部抗争にあけくれる運動の実態に嫌気をさして一度は田舎に引っ込む。それでも、天狗党の加多(小泉将臣)に説得され、再び運動に身を投じたのに、最後は切り捨てられる。
加多はかつて仙太の疑問には理があると感じるような広い視野をもつ男である。それでも、最後は泣いて武士の側に立つ。維新後の自由党も、結局、天狗党と変わらないというニヒルな見方もされている。「農民のことを本当に考えているかどうかを見極めなきゃダメだ」というせりふがあるが、そういう革命党なら信頼できるとも取れるし、そうでないから革命党は信頼できないともとれる。左翼演劇の当事者だった三好十郎の転向表明とも、運動批判とも、信条告白とも取れる。前向きに取るなら、農民大衆の側にたったカッコとした運動を作ろうという呼び掛けでもあろうか。
大きな維新の動きを狭い筑波山近辺の出来事で描くので、「オフェーリアの死」の知らせのような、伝聞情報が多い。と思っていたら、ここぞというところでは真剣で斬り合う剣劇シーンが見られて、盛り上がる。女性の少ない芝居だが、芸者役の陽月華に切ない花があった。まじめに働き続ける段六役の樋口寛之も、みんな頭に血が上っている人々の中で、ホッと落ち着ける存在感があった。
もと戯曲は7時間あるのを4時間20分(20分の休憩2度含む)にカットしたというが、話に無理はないし、ほとんど長さも感じなかった。見終わって、清々しさが残った。スピーディーでメリハリのついた見事な演出だった。舞台は、奥がかなり高い傾斜舞台で、セットはほとんどない。そこにふすまを置いたり、木戸を置いたりして、場所の違いを示す程度。目で見るというより、語って聞かせる濃密なセリフ劇である。ただ衣装や刀は幕末の農民、武士をしっかり示していた。
ミュージカル『スリル・ミー』【4月25日(日)~5月2日(日)公演中止、大阪公演中止】
ホリプロ
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2021/04/01 (木) ~ 2021/05/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
最初、長身のニーチェの超人思想にはまった主犯(山崎大輝)が「私」かと勘違いした。実は、彼のいうことを聞かされていた、背の低い大人しい男(松岡広大)が「私」。ピアノ一台の伴奏が効果的で、次第に犯罪にのめりこみ、発覚の恐怖、そして裁きと、一連の緊張がずっと持続する。歌は山崎に「かれ」の方がうまかったが、松岡の歌の必死の想いも味があった。二重唱になると迫力がある。
白昼夢
森崎事務所M&Oplays
本多劇場(東京都)
2021/03/20 (土) ~ 2021/04/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
赤堀雅秋の芝居の登場人物はみんなどこか病んでいる。40代ひきこもりの次男の荒川良々が「もう面白いことないから死にたい。隣の小学校の子供を殺して、死刑になる」「昨日思いついた」と大真面目に言い出したり、父親の風間杜夫が若い吉岡里帆に「胸を見せて。さびしいんだよ」と頼み込んだり。「えっ」と思う場面が多い。それで話がどうなるかというと、場面転換後は、そんなことなかったかのように普通に次の話になってる。ここらへんの割り切りもシュールである。
テーマ、メッセージよりも、その場面の意外性と人物の存在感が秀逸であった。
支援者の二人が来ず、親子3人だけになることが一度だけある。互いに「誰もいないのか」とかいうだけで、何も話すことがない。男3人ならありそうなシーンで少し怖かった。女3人ならこうは絶対にならない。
ミュージカル「アリージャンス~忠誠~」
ホリプロ
東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2021/03/12 (金) ~ 2021/03/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
知られざる戦争中の日系人の苦悩を、多彩な音楽で彩られた、ヒューマンな家族ドラマで描いた優れた芝居。戦争中、アメリカへの態度を巡って喧嘩別れになった父と子、姉と弟の、死を超えた最後の和解はやはり感動的である。日系俳優のジョージ・タケイ(TVシリーズ「宇宙大作戦」のカトウ役、1937年生まれ)の子供の頃の収容所体験を伝えたいという企画でスタートし、ブロードウエイでの初の日系人収容所を描いたミュージカルになった。
砂漠の中のハードマウンテン収容所が舞台。ここは、10箇所あった全米の収容所の中で、唯一、徴兵拒否運動が起きたところだそうで、芝居の中ではその話も出てくる。
現在、老人になったサミー(上條恒彦、戦争中の祖父カイトと二役)のもとに。長く会っていない姉の訃報が届き、戦争前を回想する。
冒頭の開戦前の盆踊り、いただきがハート型?という禿山を望む壁とオリでできた収容所、カイトが志願した戦場など、大舞台いっぱいに迫力ある場面がいくつもある。日系人部隊編成の事情も、知らなかったが、よくわかる。忠誠を試すとして、危険な任務をいつも割り当てられ、多くの負傷者を出して「パープルハート部隊」とよばれ、アメリカ史上、最も奥の勲章を受けたとは。wikiによると、日系二世33000人が参加し、9486人がパープルハート章(名誉戦死傷章)をうけた。
戦場場面は、敵の弾幕の中に突っ込んでいき、次々兵士が倒れる。壮絶であった。
一方、原爆投下シーンもある。ここでは静かで悲しげな「凍てついた」を歌う中、ステージ中央奥上の強力ライトが、客席を眩しく照らす。抽象的な演出だが、ブロードウエイでも同じようにこの場面あったのか? あったなら、それだけでも勇気あることだ。原爆投下、核兵器への批判はないにしても。あるいは、これくらいは米国でも普通なのか?
ワシントンDCで、ロビー活動をしたマイク・マサオカ(今井朋彦)のことも知らなかった。忠誠心情緒を作り、日系人舞台を作た。戦後、「私のしたことはこれで良かったのか」と迷う言葉がある。日系社会の中では多分、彼への批判もあっての悩みだろう。でも「私のしたことは日系人のためだったと歴史が判断するだろう」と、弱々しげだが最後、結論する。実際の本人も多分そう信じていただろう。自分のおかげで多くの戦死者を出したとしても。実際、マイク・正岡は日系人社会で大変有名だったようだ
「ガマン」という曲(原題も)が鍵になっていて、ガマンの言葉が耳に刻まれる。日系人が収容所でじっと耐えたときの励みになった言葉だが、今あまり流行らない言葉だ。ちょっと複雑な気持ちがする。ガマンはいいことか、悪いことか。
モダンボーイズ【大阪公演中止】
パルコ・プロデュース
新国立劇場 中劇場(東京都)
2021/04/03 (土) ~ 2021/04/16 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
戦前左翼崩れの浅草レビュー作家の話ということで、太宰治と井上ひさしを合わせたようと思ったら、モデルの作家は実在した。菊谷栄。舞台では、何度も上演した代表作「伝令兵」の、恋人の戦地での無事を祈るセリフが、日中戦争近づき削られる。時期はさておき、実際にあったことではないか。
加藤シゲアキ演じる左翼学生矢萩奏(かなで)が、菊谷のおかげで音楽、演技の才能を開花させ、人気俳優になる。最初に歌うMy Blue Heaven は鳥肌ものであった。でもこれは左翼でなくても、例えば詐欺や押し売りからの転身でも成り立つ、と思っていたら、そういう展開も出てきて驚いた。
新人女優が先輩のいじめと、認められての仲間入りというイニシエーションを受けるのも、軽い洒落た演技でよかった。
前半80分、後半90分、
休憩20分込み3時間10分だが長さを感じなかった
雪の中の三人
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2021/03/16 (火) ~ 2021/03/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
貧乏人の格好をした億万長者が、高級ホテルで見事冷遇され、最後は追い出される。でもほかでは得られない「友達ができた」。友達は、億万長者と勘違いされた貧乏な青年。青年の恋愛の行方まで絡んで、出来過ぎなくらい出来過ぎのハッピーエンド。ケストナーってこんなに甘い作風だったかな?と思ったけれど、厳しいナチス政権下だからこそ、明るい芝居を作ったのかもしれない。
ヒルデ役の佐藤礼菜の可憐さ、上流夫人役の瑞木和加子、安藤みどりの弾けたコミカルな演技がよかった。召使役の加藤頼も、板につかない富豪役から、召使に「仮装」するとイキイキするあたり、見事だった。
Don’t say you can’t
一般社団法人グランツ
駅前劇場(東京都)
2021/03/24 (水) ~ 2021/03/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
知的障害者施設を舞台に、他人の支えなしに生きられないことは「罪」なのかとじんわり語りかけてくる。1964東京五輪・パラリンピックの立役者・中村裕医師の史実もストレートに織り込んでいた。障害者が社会復帰の自信を持つために、医療よりもスポーツが力になると、障害者スポーツを広めていった人。道を切り開いた当時の選手のドラマも劇中劇で演じて、素直に感動した。
障害者の娘に「厳しくしてください」と執拗に施設に求める母親。その心中は「この子は自分で自分を守らないといけないから」という親の思いも切実に分かる。施設で働き始めるシングルマザーと、事故で車椅子生活になった元彼氏の再会のストーリーが、この芝居をいわゆる「障害者もの」に終わらせていない。ぐんと幅広い作品にしている。ふたりはかつて演劇仲間で、この再会が新たな演劇への情熱をうみ、障害者たちによる芝居作りへとつながっていく。演劇愛がこめられた展開だ。そこに娘の出生の秘密、シングルマザーとして生きていく決意を後押ししてくれた曽祖父のこと、など心に訴える場面も絡んで、本当によくできた舞台だった。
2020東京五輪・パラリンピックは開催できるかどうか不透明だが、たとえ今回できなくても、パラリンピックの意義は変わらない。
チムドンドン~夜の学校のはなし~
劇団銅鑼
銅鑼アトリエ(東京都)
2021/03/18 (木) ~ 2021/03/29 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
笑いあり、涙あり、踊りあり、劇中劇あり、ついでに理科のお勉強とラジオ体操も、というなかなか豊かで活気ある舞台だった。沖縄の夜間中学に通うおじい・おばあと、本土から来たエリート教師、元優等生の少女をからめて、教育問題を考えさせる。そこからすすんで、卒業式に生徒(子供と老人)たちが演じる「新・桃太郎」で、お説教でなくポップにわかりやすく沖縄戦と基地問題まで描く。
卒業式の最後の場面は、客席ですすり泣きがもれた。おじいおばあたちの俳優がそれぞれに個性的で楽しそうで良かった。2時間35分(休憩10分含む)