熱海殺人事件〜売春捜査官 公演情報 9PROJECT「熱海殺人事件〜売春捜査官」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    自然豊かな故郷への郷愁、在日の女衒の孤独、女の孤独とプライド、ホモと処女の競い合い等々、いろんなテーマが生身の俳優をとおして直に伝わってくるような、熱量の高い舞台だった。小柄で細身な高野愛の、体格では背負いきれない思い役を健闘していた。途中でサングラス姿で(犯人のくせに)さっそうと登場する新澤明日がよかった。

    扇田昭彦さんは、つか芝居は、初期のひたむきさと、後期のエンタメ性で変わったと書いていた。最近、味方良介などの主演でやる「熱海殺人事件」は怒涛のマシンガンセリフで圧倒する、スタイリッシュな舞台。エンタメ性が強い。私は今回の舞台を、初期のひたむきさを体現したように受け取った。また、浪花節や歌謡曲、義理と人情など大衆芸能の要素を積極的に取り入れていることも印象的だった。しかし、「売春捜査官」は96年初演の立派な後期作品。大分の素人ばかりの新劇団の立上げのために書いたという事情が、初期の熱を再来させたのか、僕の勘違いか。それはわかりません。

    ネタバレBOX

    家にある戯曲を読み比べると、「熱海殺人事件」と「売春捜査官」は、同じセリフは全くないと行っていいほど、別の作品だった。後者は前者の派生作品なのに、これほど違うとは驚き。だいたい、「熱海」の犯人と被害者カップルは田舎の出身だが、特定の土地の名前はなく(あるいは九州あたり)、長崎の五島という、「売春捜査官」の鍵となる土地はない。都会で夢破れた若者が故郷(特にその自然)を恋うという「売春」のテーマは、「熱海」には無縁。60年代はまだ故郷を恋うより、都会で夢をおう前のめりの時代だったと気づく。故郷を振り返るのは、90年代の心情なのだ。
    「熱海」の軸だった大山金太郎を立派な犯人にプロデュースする要素は「売春」では非常に希薄。「売春」では故郷の純朴を女が忘れたことが殺人の直接の動機だったが、「熱海」では、女に職工であることをバカにされて振られたから。いわば単純な痴情のもつれ。「熱海」は前のめりで、とにかく若い。「売春」はかなり知的で反省的。

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    2021/04/22 22:56

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