実演鑑賞
満足度★★★★★
知られざる戦争中の日系人の苦悩を、多彩な音楽で彩られた、ヒューマンな家族ドラマで描いた優れた芝居。戦争中、アメリカへの態度を巡って喧嘩別れになった父と子、姉と弟の、死を超えた最後の和解はやはり感動的である。日系俳優のジョージ・タケイ(TVシリーズ「宇宙大作戦」のカトウ役、1937年生まれ)の子供の頃の収容所体験を伝えたいという企画でスタートし、ブロードウエイでの初の日系人収容所を描いたミュージカルになった。
砂漠の中のハードマウンテン収容所が舞台。ここは、10箇所あった全米の収容所の中で、唯一、徴兵拒否運動が起きたところだそうで、芝居の中ではその話も出てくる。
現在、老人になったサミー(上條恒彦、戦争中の祖父カイトと二役)のもとに。長く会っていない姉の訃報が届き、戦争前を回想する。
冒頭の開戦前の盆踊り、いただきがハート型?という禿山を望む壁とオリでできた収容所、カイトが志願した戦場など、大舞台いっぱいに迫力ある場面がいくつもある。日系人部隊編成の事情も、知らなかったが、よくわかる。忠誠を試すとして、危険な任務をいつも割り当てられ、多くの負傷者を出して「パープルハート部隊」とよばれ、アメリカ史上、最も奥の勲章を受けたとは。wikiによると、日系二世33000人が参加し、9486人がパープルハート章(名誉戦死傷章)をうけた。
戦場場面は、敵の弾幕の中に突っ込んでいき、次々兵士が倒れる。壮絶であった。
一方、原爆投下シーンもある。ここでは静かで悲しげな「凍てついた」を歌う中、ステージ中央奥上の強力ライトが、客席を眩しく照らす。抽象的な演出だが、ブロードウエイでも同じようにこの場面あったのか? あったなら、それだけでも勇気あることだ。原爆投下、核兵器への批判はないにしても。あるいは、これくらいは米国でも普通なのか?
ワシントンDCで、ロビー活動をしたマイク・マサオカ(今井朋彦)のことも知らなかった。忠誠心情緒を作り、日系人舞台を作た。戦後、「私のしたことはこれで良かったのか」と迷う言葉がある。日系社会の中では多分、彼への批判もあっての悩みだろう。でも「私のしたことは日系人のためだったと歴史が判断するだろう」と、弱々しげだが最後、結論する。実際の本人も多分そう信じていただろう。自分のおかげで多くの戦死者を出したとしても。実際、マイク・正岡は日系人社会で大変有名だったようだ
「ガマン」という曲(原題も)が鍵になっていて、ガマンの言葉が耳に刻まれる。日系人が収容所でじっと耐えたときの励みになった言葉だが、今あまり流行らない言葉だ。ちょっと複雑な気持ちがする。ガマンはいいことか、悪いことか。