マーキュリー・ファー Mercury Fur
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/01/28 (金) ~ 2022/02/16 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
暴力と絶望とクスリが蔓延する近未来?のロンドンのサバイバーたちの物語。それぞれが妹、母を目の前で殺され、子供を殺され、自分だけが生き延びた負い目を負っている。シェークスピアよろしく、悲惨な過去を再現する語りの力が圧巻だった。
吉沢亮の出ずっぱりの苛立ちとテンションの持続、この世ならぬ半狂乱を演じる大空ゆうひ、ゲームを仕切る加治将樹の迫力、俳優たちの熱演がすごい。しかもかなり精神的にきつい物語。映画ならわかるが、舞台でこれを毎日(時に1日二回)繰り返すとは。俳優の仕事の厳しさを考えさせられた。
作者はイラク戦争に参戦した母国イギリスへの批判として、イギリスが理不尽な戦争の戦場になった情景を描いたという。
理想の夫
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2022/02/01 (火) ~ 2022/02/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
この修了公演は毎年、期待してみており、今回も期待通りの充実した舞台だった。オスカー・ワイルドというと、耽美的頽廃的作家というイメージなのに、本作は出世と愛と友情を素直にたたえるウエルメイドな舞台。皮肉な視線の影もなく、素直に人間の弱さと野心を肯定する。反社会的なワイルドは、後世が勝手に作ったイメージなのだろうか。まあ、不正や過ちを認めないピューリタン的厳格主義に対する批判は受け取れるけれど。
最初30分の社交界のパーティーの談笑が長くて退屈に感じる。もっとも、これこそ上流社会に対するワイルドの皮肉なのだろう。小悪魔のチェヴリー夫人(末永佳央理、好演)が、主人公のロバート卿(須藤瑞己)を、過去の角栄張りの錬金術で脅し始めてからは、二転、三転、全く退屈しなかった。
休憩後の2幕目(3場)のゴーリング子爵(神野幹暁、出演者の中で好感度は随一)の部屋のシーンは、コメディーの手法が次々繰り出されて、笑えた。次々やってくる招かれざる客、二重三重の勘違い、すれ違い、立ち聞き、と。大変面白かった。
厨川圭子の訳は50年ぐらい前のものだろうか。「宅の主人が」「ワタクシが」「……でございますわ」「…していらっしゃいましたもの」という大仰な表現は、いくら19世紀末のロンドン社交界でも古すぎないか。20分休憩含む3時間15分だった。
天日坊【2月25日-26日公演中止】
松竹/Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/02/01 (火) ~ 2022/02/26 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
荒唐無稽で理屈一切なし。奇想天外なストーリー、殺し、盗み、欲望、絶対絶命と危機一髪、大悪党と小悪党、笑いにコントに、伝統の拍子木の音に、ジャズとロックの音楽をまぶして、豪華で多彩な衣装に、最後は大立ち回りと主人公たちの死にざまで盛り上げる。見世物歌舞伎の真骨頂であった。
天涯孤独の貧乏な男・法策が、頼朝のご落胤になりすまろうとしたが、実は自分自身、木曽義仲の忘れ形見だった!!と、意外な(ご都合主義全開の)展開で次々喜ばせる。河竹黙阿弥の奇抜な物語の骨格を、宮藤官九郎が現代人好みの台本にし、串田和美のけれんみたっぷりの舞台づくりに、当代随一の人気歌舞伎役者が格好良く決める。これぞ「芝居見物」というべき見事な舞台であった。勘九郎は体はやわらかくて、体操選手のような動きから、超スピーディーな殺陣さばきまで、セリフも聞かせるし、見栄も見せる。最初のさえない田舎坊主から、最後の悲劇の若武者まで、平然と人を殺す残虐さから、嘘を通しきれない苦衷まで、見事なふり幅の演技だった。
現代化した歌舞伎セリフだが、わかりやすさと、俳優たちのいい滑舌とめりはりある抑揚と相まって、耳に心地よい。歌舞伎の「歌」は別に、音楽でなくても、このセリフの音の心地よさも歌舞伎なのだなあと納得。
ある王妃の死
劇団青年座
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2022/01/21 (金) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
閔妃殺害の事件をどう料理するかと思っていたが、いたって正攻法の歴史劇だった。事件の首謀者である公使三浦梧楼(綱島郷太郎)を中心にした日本人たちの謀議がだんだん形をなしていく。それと並行して、日本を牽制する閔妃(万善香織)たち王族。景福宮で謁見する三浦(元軍人)と杉村(山賀教弘)に、王妃が「軍人が武器を捨てられるのですか」など、手厳しいことを言って詰問するのは、少々現実離れして見える。日本公使館職員の女性・大山(森脇美幸)が、「あなたたちのしていることは本当に大義があるんですか」と食って掛かるのも、演劇ならではのフィクションである。
当時の日韓関係、ロシアと清もからむ朝鮮半島情勢、それぞれの人物の経歴・背景等、かなり説明しなければならないことが多く、その分、舞台が硬くなったのは否めない。そうしたなかで、日本に祭り上げられて利用される高宗の父・大院君(津嘉山正種)に、一番存在感が感じられた。屈折した役の葛藤と、俳優の力量が重なって、見ごたえあった。「おぬし、はめたな!」と言いつつ、流れに逆らえない悲痛な叫びが耳に残る。
王宮警護の朝鮮人下士官で、閔妃殺害に協力するボンちゃんことウ・ボムソン(山崎秀樹)も印象が強い。生活苦の不安と両班へのルサンチマンをかかえた人物像が、痛々しく感じられた。
このように、日本に協力し、利用された朝鮮人たちが最も大きな存在として浮かび上がった舞台だった。
リトルプリンス
東宝
シアタークリエ(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/31 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
様々な思索に誘う、象徴に満ちた物語と、音楽、ダンス、宙吊りもある大胆でビジュアルな舞台づくり。また見たいと思わせられる至福のひとときでした。冒頭は、霧の中、任務に飛び立つ飛行士(井上芳雄)。砂漠に墜落する経過をコンパクトに見せて、気絶していると王子(加藤梨里香)が「ひつじを描いて」とせがんでくる。異世界に自然に誘う出だしでした。その後は、バオバブの木に星が覆い尽くされるシーンをダンスと映像で見せたり、わがままな花(バラ=花總まり)との悩みの日々、6っつの星々でであった人など、原作でおなじみの話を店舗よく見せてくれる。あっという間の第一幕でした。
花とのシーンは、王子に変わって飛行士が、花と対話することで、作者サンテグジュペリと妻の関係を示唆する。ときおり聞こえる「お兄ちゃん!」の声に、弟フランソワの死が暗示される。物語外の作者の人生を、決して説明はしないが、分かる人には分かる形でほのめかすのも、いやみにならず、巧みである。
第二幕は王子が地球に来てから。冒頭の蛇(大野幸人)の登場から「死」というテーマが暗示される。蛇は、第一幕も少し出たが、官能と不気味さをみせる、不定形的なダンス、身のこなしは素晴らしかった。
そして、狐(井上芳雄=二役)との場面。井上の愛嬌とはにかみのある演技が良かった。舞台の上下の端っこ同士からだんだん距離を詰める下りなど、「飼いならす(この言葉が適当かは、翻訳の問題がある)=友だちになる」、特別の存在に互いがなる過程はわかりやすかった。そして王子が星へ帰っていく日。「星が美しいのは、花を隠しているからだよ」「これで君は星を見るたびに僕の笑い声が聞こえるよ」という名台詞が、生の舞台で体感できるのはミュージカルならではだった」
加藤梨里香が愛らしく明るく、彼女の歌、とくに高音の伸びが素晴らしい。白い壁にたくさんの丸い黒い穴が空いた美術は、何かと思ったが、穴は星をイメージしているのだと、2幕に来てわかった。
THE PRICE
劇壇ガルバ
吉祥寺シアター(東京都)
2022/01/16 (日) ~ 2022/01/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ロシア生まれのユダヤ人という古物商ソロモン(89歳!)を演じた山崎一の飄々とした演技が最高だった。去年の「23階の笑い」とも重なる設定で、言葉のなまりと空気を読まない身勝手ぶりが面白い。仲違いした兄弟を演じた堀文明と大石継太の迫力もすごかった。特に、自分の考えていた父親像を崩され、あるいは目をつぶっていた真の姿を突きつけられて、混乱をきたし目を白黒させる堀は本当に可哀想だった。
2時間半(休憩15ふんこみ)
hana-1970、コザが燃えた日-【1月21日~1月23日、2月10日~11日公演中止】
ホリプロ
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2022/01/09 (日) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
素晴らしかった。戦争と米軍基地のもと沖縄の歪んだ現実を、人間ドラマの中に凝縮してみせた傑作である。特に幼いナナコ(上原千果)の愛くるしさを思い出すハルオ(松山ケンイチ)の語りには、思わず涙腺が熱くなった。米兵相手のバーのママ(余貴美子)の家族の、一夜の物語。本土復帰を2年後に控えるが、米兵の轢き逃げが無罪になるなど、米軍の横暴にウチナンチュの不満は溜まっている。
そんな状況を背景に持ちながら、バーはなにやら怪しげな雰囲気。イエローナンバー(米軍の盗難車)を乗り回すヤクザのハルオに続いて、脱走兵や、本土のルポライターも現れる。ごく普通の夜だったのに、次第に家族の予想もしなかった過去や、登場人物それぞれのトラウマ、心の内底の思いがさらけ出されていく。外はどんどん騒がしくなり、ついにコザ騒動に。
沖縄戦の凄惨、米軍基地の成り立ち、ベトナム戦争の兵士のトラウマや、Aサインバーの実情、脱走兵支援運動、復帰運動や米兵の犯罪がなにも罰されない治外法権等々、見事に芝居に溶かし込んで現実を突きつける。悲劇を語る後ろで不気味な音が微かに唸り続ける音響、登場人物のドラマを際立たせる照明も素晴らしかった
カミノヒダリテ
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
タイロンが悪魔のように喋り出すところから、どんどん芝居に引き込まれ、ジェイソンとタイロンの対決にはまさに固唾を飲んだ。大変な迫力と、人間の振幅の大きさに揺さぶられる舞台だった。母が不品行な行いに突然のめり込んだり、ジェイソンの父を母は見殺しにしたのか、など理由がはっきりしないところもあるが、そこを役者の迫力と力わざでねじふせた。
ジェイソンとタイロンを見事な声色で演じ分けた森山智寛の熱演は圧巻の一言だった。
背景に古い宗教の教えにしがみつくアメリカ南部の風土があるが、そんな理屈抜きに、舞台の事件に心底ゾクゾクさせられた。
だからビリーは東京で
モダンスイマーズ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
平凡な青年と売れない役者たちのなんてことない話なのに、笑いが絶えず、人生の難しさと面白みを考えさせる。いい芝居だった。ある素人劇団の、2017年からコロナ禍までの3年余りを描く。
2017年11月、石田凛太朗(名村辰)の入団面接から始まる。勘違いで俳優になろうと思い立ち、勘違いで売れない劇団応募した。でだしから、ゆる〜い感じと、上出来のコントのような笑いが気持ち良い。
幼馴染のマミ(伊東沙保)とノリ(成田亜佑美)の二人の女優の、互いに相手を嫌ったり軽蔑したりしつつ、表面は仲良くしている様子が、芝居ならではの形で示される。二人は互いの関係を全く異なるものに解釈しているのが面白い。
倫太郎が年に一回、田舎の父のところに行く。父はアルコールを絶って居酒屋を経営する。父と息子の関係が、凛太郎の「ビリー・エリオット」にめちゃくちゃ感動したことと繋がる展開は、見事な伏線回収に感動した。
ミネオラ・ツインズ【1月25日~28日公演中止】
シス・カンパニー
スパイラルホール(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/31 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
敬虔で保守的なマーラと奔放で進歩的なマイラ。外見はそっくりだが、中身は真逆の双子の姉妹の、戦後40年近くの仲違いの歴史と、深奥の絆を描く。保守と進歩、マッチョと寛容、ストレートとLGBT等々のアメリカの分裂を二人に寓意した芝居である。
大原櫻子の下着姿も晒した一人二役を体当たり演技で頑張っていた。小泉今日子はマーラの若い恋人のジムと、中年のマイラのパートナー・サラを演じていたが、キョンキョンらしくもうすこしはじけたいところ。八嶋智人は、二人の子供役で14歳を演じる。いずれも実年齢とは関係ないのだが、八嶋智人はさすがに、マリファナに飛びつく場面とか、笑いをよんでいた。
ガラスの動物園
東宝
シアタークリエ(東京都)
2021/12/12 (日) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2年前文学座で見たときよりも発見が多かった。「追憶の劇」という冒頭の宣言のとおり、数年後のトムの回想であること、ローラがビジネス学校に通うふりを半年も続けていたこと、開戦で異国の冒険が(映画俳優だけでなく)自分たちもできるというトムのセリフ。遠くに憧れて家族を捨てて「異国へ行った」父の存在が意外に大きいこと。等々。
ローラと踊ったジムが、誤って ガラスのユニコーンの角を折って壊してしまう。ローラはあまり気にせず、というか清々したかのように「これでこの子も普通の馬になれて、良かったのよ」という。ローラ自身が、普通の幸せを手にできたかのように。その直後、ローラの夢は崩れ去る。天国から地獄へのこの落差は、やはりすごい芝居である。
一幕目は、これが名作戯曲なのだろうかと、不遜にも疑ったが、終幕すると、名作だと確信した。さらに今回は、麻実れいのデフォルメしたワガママで自分勝手で世間知らずの母親ぶりが、自然主義的リアリズムの退屈さを救った。倉科カナの美しさ、愛らしさは、目立たない人物というローラの役柄とは相反したように一幕では思った。しかし二幕の極端な引っ込み思案ぶりから恋の喜びへ、輝く幸せからどん底への、短時間でのジェットコースターなみの落差は見事だった。
泥人魚
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2021/12/06 (月) ~ 2021/12/29 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
唐十郎の中でも第一級のワケわかな戯曲である。それを演出の金守珍が音楽、照明、音響、背景の映像(諫早湾の牧歌的風景から、嵐の海、流れ星、被爆後の浦上天主堂等々)を駆使して、あえて通俗的スペクタクルで見せた。魚と人の境界の存在のヒロインやすみ(宮沢りえ)の、憑依的演技は素晴らしい。とくに後半(第二幕)の、自らの出自と、鍵のゆくえをめぐるクライマックス。彼女の存在で輝いた舞台だった。
ストーリーはつかみにくい。舞台であるブリキ店が、諫早でなく東京あたりにあるということも、(聞き逃したせいかもしれないが)「ここに上京して」という後半のセリフでやっと分かる。赤いスーツに厚底超ハイヒールのタカビー女の月影小夜子(愛希れいか)が、諫早湾干拓工事をしきるボスを象徴していると、観劇後気づいた。すると、小夜子配下の、六平直政はじめのやくざたちが干拓工事一味であり、それに苦しめられるやすみと蛍一(磯村勇斗)との対立が基本軸とわかる。六平直政一味がブリキ店に並べるブリキ板は、潮受け堤防のギロチンの象徴である(ヘイホーの歌で、面白い場面にした)。小夜子が「三秒以上誰も見てくれない。はぶられてきた」というのは、諫早湾干拓にたいする住民、国民の反対世論ともとれる。
脈絡の繋がらないところは多いが、一つ一つのセリフの詩的でロマンチックなイメージと、歌舞伎のように場面場面のかっこよさと見得を楽しむのが唐十郎芝居の特徴。冒頭とラストの諫早湾の干潟風景にながれる「耳に残るは君の歌声」(ビゼー「真珠採り」から)の音楽が、この舞台のロマンと郷愁を凝縮していた。
とはいえ、このわかりにくい芝居が満席であることに驚いたのも事実である。
疚しい理由2021
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/22 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
最初はもたもたして見えるが、新婚妻である後輩が、夫を亡くした先輩女性と、同伴の保険営業マンに「一億円の生命保険にはいります。キリがいいから」というところから、俄然面白くなる。この、予想外の落差。続いてさらに大きな落差がある。責める者と守る者の攻守が逆転しての心理的駆け引きが面白い。
ワンアイディアをうまく転がした短編。50分なのだが、思った以上に時間を早く感じた。巧みな脚本(ブラジリー・アン山田)、シンプルな演出。最初可愛くみえて(「子供扱いしないで下さい」のセリフもある)、後半、怖くなる後輩(小野里茉莉)の、キャラがクルッと変わる小悪魔ぶりに翻弄された。先輩(星澤美緒)の否定したり開き直ったり、怒ったり愚痴ったり落ち込んだりの感情のグラデーションもなかなかだった。
本サイトの口コミが結構評価高いので見に行ったが、行った甲斐があった。
群盗
CEDAR
赤坂RED/THEATER(東京都)
2021/12/18 (土) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
森の中の貴族の屋敷の東屋風のセット。開幕前、ヨーロッパのアンティーク調の椅子がひとつおいてあって、貴族風だなと思っていると、名家の父と、互いに反目する兄弟の話が始まる。弟フランツ(桧山征爾)は、醜い容貌で父や女の愛も得られなかった妬みから、権力欲に取り憑かれ、兄を讒言し、父を騙す。シェークスピアのリチャード三世やイアーゴーのような悪役である。騙された兄カール(フクシノブキ)は、盗賊団の首領となり、正義と復讐のために多くの人々の血を流す。シェークスピアの人物では思い浮かばず、巌窟王のエドモン・ダンテスか、義賊ロビン・フッドのようだ。私生児で下僕となっている三男がいるのは、カラマーゾフのよう。
老人のカネを若者が奪うのは、無駄カネの有効活用だといい、修道院も平気で襲って女たちを犯すシュピーゲルベルクはニヒリストである。ラスコーリニコフか「悪霊」のスタヴローギンのよう。
兄カールへの愛を貫く聖女のようなアマーリア(高崎かなみ)は、ソーニャかオフィーリアだ。
このように、ヨーロッパの名作の見どころを多数取り込んで一つにまとめたような舞台である。(ドストエフスキーはシラーのあとだから、シラーが影響受けたわけではないけれど)シラー19歳のときの処女作で、「ドイツにシェークスピアに匹敵できるのは彼しかいない」と言われたそうだ。なるほど、さもありなんと思う。終盤のフランツが、自分の悪事が露見して、罪の意識に苛まれて錯乱するのはマクベスのようだ。シラーがシェークスピアから受けた影響は強いのではないだろうか。
三文オペラ JAPON1947
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
翻案ものだが、ブレヒトの原作の筋をほぼ踏襲している。19世紀のロンドンの話よりも戦後の東京のほうが身近で、この設定は成功した。天皇の行幸が重要な話の要素になっている。これは創作かと思ったら、原作も女王の戴冠式のパレードがあるという話だった。絶妙な符合で、びっくりである。一番の違いは進行係(磯貝誠)をつけたところ。各章の内容をはじめに掲げる代わりに、進行係がうまく話を繋げていく。進行係が開けしめするカーテンのようなブレヒト幕も、スピーディーな場面転換でよかった。
ギャングのボスのメッキースこと牧村(大宜味輝彦)が、はじめは存在感が薄いが、牢屋に入れられ、脱獄し、また捕まって絞首台…という展開で、だんだん主役らしくなる。ブレヒトは彼を、ブルジョア=市民階級も一枚かわめくれば、強盗と変わらないというつもりで書いたらしい。ただ、原作もそれほどブルジョアっぽくは見えないし、今回も、そういう「異化」効果は希薄だった。ただ、あまり露骨にやると、説教臭くなる。分かる人にはわかる、というほのめかし程度だから、初演当時大ヒットし、今でも演じ続けられているのかもしれない。
主役以上に、何より良かったのは女たち。乞食の元締めの娘ポリーこと美智子の須藤沙耶はピチピチと輝いていた。いつもの雰囲気よりもスマートで、意志的で情熱的。母親のいまむら小穂も、憎めないしたたかさがあった。情婦のジェニーこと明美のみとべ千希己は、男っぽくさえも見えるほどの図太さで、牧村を裏切るしたたかさを演じていた。歌もうまい。
テーマ曲ともいえる「マック・ザ・ナイフ」のメロディーが何度も繰り返され、耳に心地よかった。
休憩10分含む2時間半。
雪やこんこん
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2021/12/17 (金) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
小難しいことを考えず、舞台上の苦労、悲しみ、かけひき、喜びを素直に味わえる作品である。初の女座長役の熊谷真実に明るい華と芯の強さがあって、適役だった。前半の、自分の別れた子の話をする「北極と南極をつないだような長ーい話」は、客席の目と耳を釘付けだった。
女将の真飛聖は、初めて見たが、後半のストリップを押し付けるくだりの愛嬌ある迫力は見事だった。新派くずれの二枚目・藤井隆と、元国鉄労働者の女形・小椋毅の悪口合戦、なじりあいも、役柄ぴったりの演技と息のあった掛け合いで、大いに笑えた。
作者自らが「昭和庶民伝三部作」としているが、戦争をテーマにしたほかの二作とこれは明らかに異質である。ぼくは、無理に三部作にしなくていいのではないかと前から思っている。2時間35分
Hello ~ハロルド・ピンター作品6選~
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2021/12/03 (金) ~ 2021/12/15 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ピンターが、「景気づけに一杯」のような、政治的な芝居を書いていたとは知らなかった。看守役の石橋徹郎の陰湿な陽気さにすごみがあって、怖い芝居だった。タクシーの本社の指令(上川路啓志)と運転手(藤川三郎)の頓珍漢なやり取りの「ヴィクトリア駅」は、ディスコミュニケーションの滑稽という典型的な不条理劇だった。二人の演技も緩急と余白があって、大いに笑えるピンターだった。
これが、一層大規模に話が食い違いすれ違う「家族の声」「灰から灰へ」になると、寝てしまった。
晩年になって戯曲がはっきりと政治化するのは井上ひさしとも似ている。
GREY
conSept
俳優座劇場(東京都)
2021/12/16 (木) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
SNSによる言葉の暴力が、若い歌手志望の女性を自殺に追い込む。本作では、攻撃される方だけでなく、攻撃する人の抱えたトラウマ、葛藤も描かれる。被害者、「加害」者が、自分の抱えた魔物と向き合うことで、許しと再生がもたらされる。楽曲も静かなバラードに、いい曲があった。
デビューを目指す若い女性歌手shiro(佐藤彩香)の歌唱場面(ビデオチェックの設定)、そのときに彼女の自殺、救急搬送の知らせが来るところから始まる。なぜ自殺に至ったのかが紐解かれていく。
shiroの大学の先輩で、小説家を目指す矢田(西田藍生)が、構成作家を務めるテレビのリアリティーショー。矢田は自信ありげに振る舞うが、自分の才能に疑いを持ち、書きたい小説もなかなか進まない。軽薄だが出世街道にいるディレクター久世=クゼ(遠山裕介)から矢田は「天然で明るいshiroの人気が、メインの女優(スポンサーが付いて、デビューが内定している)を食っているから、shiroの人気を落とさせろ」と指示を受ける。ところが、なかなかうまく行かず、逆にshiroを局もスポンサーも応援して、デビューが決まる。が…。
西田が目指す物語を語る「素晴らしい物語」と、佐藤が死を考える「もしも私が神様だったら」がこのミュージカルの白眉。両人の歌もうまい。とくに西田は、ここまで聞かせる歌がないので、初めて内面を語る歌には目を見張った。
脇筋の曲だが、リアリティーショーの影の仕掛け人である広告代理店の大物プロデューサー黒岩(羽場裕一郎)が歌う「死ぬのは怖くない」がよかた。私自身、詞に素直に共感できた。「意外と楽しい人生だった。仕事も遊びも満足できた(やりたいことはそれなりにやった=私の解釈)」。そう思えるのだから、「ワーニャ伯父さん」のように思っていたこの人生も、意外と悪くないのだろう。
飛ぶ太陽
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2021/11/26 (金) ~ 2021/12/08 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
敗戦直後の大事故で147人も死んだのに、占領軍案件なので、新聞はどこも沈黙し、被害者住民の訴えに、弁護士たちはこぞって背を向けた。福岡の二又トンネル爆発事故。この事故を、2週間前に復員して火薬処理作業に参加した朴訥な青年与一(古田知生) と、老いた小柄な母トワ(鈴木めぐみ)を中心に描く。戦争末期に陸軍が秘密裏に運び込んだ大量の火薬、担当した占領軍中尉の無造作な焼却処理、興味本位で見物していた住民を襲った突然の悲劇、肉片が飛び散り、呻き声が溢れる地獄絵。医師(斉藤とも子)と元従軍看護婦(もりちえ)の熱く冷静な現場の采配が見事だった。巡査部長の原口健太郎も好演。
さらに、行商仲間の姉典子(板垣桃子)と、国民学校教諭の妹文子(宮地真緒)の姉妹の話がもう一つの柱になる。どんぐり拾いに行った29人のこどもが巻き込まれて死んだ。文子は自分の病気が良くなるようにとどんぐりを拾いに行った子供らの死に、精神を破壊される。典子はその介護に疲れ切り、妹が死んで涙も流さなかった。そんな自分こそ「破壊されてしまった」という典子。しかも典子はトワと、何も知らずに火薬運びを手伝った負い目もある。両腕を失ったトワと、典子に見られる、傷つき生き残ったもののその後の生活をいろいろ考えさせられた。
長期にわたり、説明するだけでも一苦労の話を、母子と姉妹の悲劇を中心に、心揺さぶるドラマに仕上げた。背景から現場の混乱、事故後の補償裁判闘争、現在の駅舎状況までを、ぐいぐい引き込んで見せた。コロス的住民たちの言葉が、ナレーションでもあり、叫びと訴えでもあって、効果的だった。冒頭12分で崩れ落ちる橋と紅葉🍁のセットも見事。1時間55分
彼女を笑う人がいても
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2021/12/04 (土) ~ 2021/12/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
及ばずもその志やよし。60年安保の学生運動と、福島の原発事故による避難者を重ねている。それぞれを取材する新聞記者(祖父と孫、瀬戸康史が二役)を中心に、権力の監視・告発の役を投げ捨てた大手メディアを批判する。
メディア批判というテーマは鮮明だが、それが具体的な人間ドラマして描ききれなかった。60年安保の学生の暴力批判の「7社宣言」をめぐる、記者吾郎と主筆(大鷹明良)の対決が、この劇の要になっている。ここは両者の熱演も相まって、迫力ある、考えさせる場面だった。
1時間45分