実演鑑賞
満足度★★★★
唐十郎の中でも第一級のワケわかな戯曲である。それを演出の金守珍が音楽、照明、音響、背景の映像(諫早湾の牧歌的風景から、嵐の海、流れ星、被爆後の浦上天主堂等々)を駆使して、あえて通俗的スペクタクルで見せた。魚と人の境界の存在のヒロインやすみ(宮沢りえ)の、憑依的演技は素晴らしい。とくに後半(第二幕)の、自らの出自と、鍵のゆくえをめぐるクライマックス。彼女の存在で輝いた舞台だった。
ストーリーはつかみにくい。舞台であるブリキ店が、諫早でなく東京あたりにあるということも、(聞き逃したせいかもしれないが)「ここに上京して」という後半のセリフでやっと分かる。赤いスーツに厚底超ハイヒールのタカビー女の月影小夜子(愛希れいか)が、諫早湾干拓工事をしきるボスを象徴していると、観劇後気づいた。すると、小夜子配下の、六平直政はじめのやくざたちが干拓工事一味であり、それに苦しめられるやすみと蛍一(磯村勇斗)との対立が基本軸とわかる。六平直政一味がブリキ店に並べるブリキ板は、潮受け堤防のギロチンの象徴である(ヘイホーの歌で、面白い場面にした)。小夜子が「三秒以上誰も見てくれない。はぶられてきた」というのは、諫早湾干拓にたいする住民、国民の反対世論ともとれる。
脈絡の繋がらないところは多いが、一つ一つのセリフの詩的でロマンチックなイメージと、歌舞伎のように場面場面のかっこよさと見得を楽しむのが唐十郎芝居の特徴。冒頭とラストの諫早湾の干潟風景にながれる「耳に残るは君の歌声」(ビゼー「真珠採り」から)の音楽が、この舞台のロマンと郷愁を凝縮していた。
とはいえ、このわかりにくい芝居が満席であることに驚いたのも事実である。