ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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MISHIMA2020

MISHIMA2020

梅田芸術劇場

日生劇場(東京都)

2020/09/21 (月) ~ 2020/09/27 (日)公演終了

満足度★★★★

三島由紀夫の作品を若い演出家がアレンジして再構築する企画。各一時間に満たない程の中篇で、休憩が二十分入る。NHKのカメラが入っていた。

①『真夏の死』(『summer remind 』)/作・演出:加藤拓也。
中村ゆりさんと平原テツ氏の二人芝居。他に医者の声が入る。椅子に腰掛けた二人でスタート。中村ゆりさんが観客に向け自分の身に起こった出来事を語り始める。夏に家族で海に行くが、一人旅館で昼寝をしている間、子供が二人水死してしまう。子供達の死に対する罪悪感を背負い続けて生きていこうとする話。椅子が高くせり上がってライヴ会場になったり、出産シーンは桃(?)の形に膨らむ巨大なゴム風船だったり工夫が効いている。赤ん坊は巨大なへその緒で表現。中村ゆりさんがひたすら美しかった。

②『班女』近代能楽集より/演出:熊林弘高。
乱歩の世界を美内すずえが漫画化したような話。背後のスクリーンに映像が同時進行で投影されたりする。

ネタバレBOX

加藤氏の魅力はその語り口にある。気の知れた友人に話すような口調で始まり、何となく物語に惹きつけられていく。子供を失った母親の贖罪意識がラスト、同じ場所で新たに授かった赤子を投げ棄てるという行為に終着。波を表現するのは無数の大きな水色のゴムボール、あちらこちらに跳ね続けている。妻の行動を知っていたかのように旅館の窓から夫はただ黙って見つめていた。

大変申し訳ないが、『班女』は衝撃を覚える程つまらなかった。
キャッツ【7月22日~7月30日、12月8日、2月24日昼公演中止】

キャッツ【7月22日~7月30日、12月8日、2月24日昼公演中止】

劇団四季

キャッツ・シアター大井町(東京都)

2018/08/11 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

満足度★★★★

二回目の観劇。タントミール役の間辺朋美さんがやたらと目を惹いた。凄い身体能力。
話はあってないようなもの、予備知識として映画版『キャッツ』を観てからの方が楽しめると思う。(メチャクチャ酷評されているが自分は好き)。フランチェスカ・ヘイワード演ずるヴィクトリア(舞台では産まれたばかりの赤ん坊猫シラバブ的な存在)がガイドラインとして判り易く世界観を伝えてくれる。
物語を語る作品ではないので、簡単なキャラ設定を知っていた方がいい。何度も何度も観た方が楽しめる作りにされている。実際、初回より俄然面白かった。
隣の小学校低学年の女の子が、ラストの『猫に対する礼儀の講義』で号泣していた。これぞ正しいミュージカル体験。
絶え間なき躍動感の強烈なる放射が、眩い圧倒的な光の照射となって胸に突き刺さる。

ネタバレBOX

『メモリー』がなければ成立しない舞台。それだけこの曲は凄い。
『昔、自分は本当に幸せだったんだと気付き、心から悔いることができたならば、もう一度生まれ変わってやり直すことができる』がテーマ。
ホテルニューパンプシャー206

ホテルニューパンプシャー206

UDA☆MAP

キーノートシアター(東京都)

2020/08/12 (水) ~ 2020/08/17 (月)公演終了

満足度★★★

舞台と客席を大きなアクリルパネルで遮り、客席は一席ずつ両側共に仕切り、演者は全員口元をフェイスシールドで覆い・・・。ここまでするかのコロナ対策。何年か後には笑い話になっていて欲しいもの。
安いラブホテルの一室、訳有りの掃除婦と帰らない女性客、間違ってやって来たホテトル嬢、隣の部屋からは銃声が。90分程のハイスピード・コメディ。ワン・シチュエーションでここまで疾走感があるのは見事、面白い。
小林亜実さんは声が独特で台詞がはっきりと聞き取れる。観る度に生き生きとしていて、演技という水の中を自由に跳ね回る魚のよう。
一番驚いたのは高宗歩未さんの怪演。狂ったように顔芸を競い合う。この人のノーマルな状態の想像がつかない。
ベッドの上をごろんごろん転がり捲る役者陣。汗だくだくで熱量が凄かった。

ネタバレBOX

男性陣のキャラが弱かったかな。
無畏

無畏

劇団チョコレートケーキ

駅前劇場(東京都)

2020/07/31 (金) ~ 2020/08/10 (月)公演終了

満足度★★★★

非常に衝撃的な作品。ドラマとして観れば平坦な作りだが、自分は論戦として受け止めた。
東京裁判にて死刑となる、南京大虐殺の最高責任者、当時の陸軍大将松井石根(林竜三氏熱演)と弁護士との対話。
このネタは時代が時代なら大揉めで酷い難癖をつけられていたことであろう。NNNドキュメント『南京事件』のような良作も糞味噌に言われる世の中なのだから。
初フェイスシールドは思ったより悪くはなかった。ここまでして、舞台を演り、舞台を観る、というのが人間の面白い所。コロナを逆手に取った新しい観劇スタイルなんかが生まれてくるんだろうなあ。
南京事件を扱った作品は巨匠チャン・イーモウ監督の『ザ・フラワーズ・オブ・ウォー』ですら黙殺される日本。(主演クリスチャン・ベール。韓国版Blu-rayにて日本語字幕有り。)
「何故、自称愛国者達はこれらの事(従軍慰安婦問題など)を禁忌としたのか?」「これらが事実であると何がまずいのか?」そここそが日本人論の焦点。
クライマックスの弁護士の詰問はド迫力。作者が時空を越えて松井石根を恫喝しているようにすら見えた。ここまでするか・・・。流石である。

ネタバレBOX

クライマックスからのエピローグが饒舌で冗長。各フォローのように見えて斬れ味が雑に。
『私は知らない事であるが、全ての責任は立場上私が取る』という日本人的美学を作者は糾弾する。そんな悲劇の善人が断罪された物語では何も解決しない。それでは何も後世に教訓が生きない。その美学を剥ぎ取り、自らの無力さをさらけ出してこそ、何故こんなことになってしまったのかを考え始める礎となる。永遠のテーマであり、また必ず同じことが繰り返されるであろうから。
大東亜共栄圏、もしくは大東亜協同体論などの理想を掲げて起きた出来事は「"大義‘’の過程において犠牲はやむを得ない。全ては輝かしき未来の為の瑣末事でしかない。」という詭弁にも感ずる。
作家宮崎学氏が連合赤軍植垣康博氏の著書に寄せた一文、『目的は正しかったが、手段を間違えた』という言い分は誤りで、『間違った手段を選ばせるような目的はそもそもが間違っていたのではないか?』との考察を思い起こす。
中国映画『南京!南京!』があの場の肌触りや空気感を巧く再現。自分がそこにいたら何を見てどんな気持ちになっていたのか?Amazonプライムなどの配信では日本語字幕付きで観れるのでこれもお薦め。
バロック

バロック

鵺的(ぬえてき)

ザ・スズナリ(東京都)

2020/03/07 (土) ~ 2020/03/15 (日)公演終了

満足度★★★★

超観たかったので、観れて嬉しい。ワン・シチュエーション・ホラーものなのにスズナリの舞台が無限の空間に思えた。照明の技術が凄すぎて、まずそこを褒め称えたい。暗転の瞬間に人が消えたり現れたり。光と陰の効果にかなり知恵を絞っている。『霊は光には映らない』という鶴田法男監督の言葉を想起。照明の阿部康子さんにRESPECT。ホラー・エンターテインメントの中心は映画館から小劇場へと移ったか。
古典的な呪われた洋館に閉じ込められた一族と悪霊の対決みたいな感じだが、古臭さがなくセンスが良い。二役の福永マリカさんが強烈だった。声の変わりっぷりに慄く。春名風花さんは巧く、野花紅葉さんはエロく、笹野鈴々音さんは実に映画的。死んだ伯母を愛して気が狂う祁答院雄貴(けどういんゆうき)氏のキャラも良い。近親相姦に取り憑かれた一族なんて、上手い設定。生と死、善と悪とが二元論からアウフヘーベンされるような世界観。佐藤誓氏演ずる旦那は普通なら簡単に殺されそうなキャラの処、作者の人生観を象徴するような飄々とした重要な存在に描かれる。狂った浮浪者役、吉村公佑氏も欠かせない。死に様が美しい。

ネタバレBOX

後半からホラーADVゲームのように展開し、矢張『スウィートホーム』になっていく。エピローグはリメイク版の『サスペリア』っぽい。ここら辺が好みの別れるところ。兄妹間のラブロマンスを主軸に据えた方が良い。いっそ、一族の強みは性交を各々に課してきた濃い血の掟にあるぐらいにしても良かった。
きらめく星座【公演中止3月5日(木)~8日(日)】

きらめく星座【公演中止3月5日(木)~8日(日)】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/03/05 (木) ~ 2020/03/15 (日)公演終了

満足度★★★★

正しい音楽劇の傑作。レコード店主人の後妻役松岡依都美(いずみ)さんが凄かった。松竹少女歌劇部出身の設定を生かし、コミカルに踊る踊る。躁状態でイッちゃったサザエさんのようなキャラクター。観てるだけで楽しくなってくる。生演奏で次々に歌われる戦中流行歌が名曲揃い。灰田勝彦『燦めく星座』、市川春代『青空』、霧島昇とミス・コロムビア『一杯のコーヒーから』、中野忠晴『チャイナ・タンゴ』等々。明るく生き生きとした日本。
日中戦争中の昭和16年、レコード店オデオン(音楽堂の意味)堂一家の物語。翌昭和17年12月太平洋戦争開戦前夜の閉店までを二幕で送る。
店主の娘役の瀬戸さおりさんがやたら綺麗。その旦那となる義手の元軍曹、粟野史浩氏がド迫力。第一幕のクライマックスとなるシーンは素晴らしかった。本来憎まれるべきキャラクターである木村靖司氏演ずる憲兵が、物語の進行と共に愛すべき人間味を醸し出す井上ひさし節。

ネタバレBOX

この当時の背景を知りたいなら、『日本鬼子(リーベン・クイズ)日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』がお薦め。
強い兵隊に憧れた店主の息子、砲兵隊に入隊するも耳が良すぎる為、砲撃の音に耐えかねて脱走。日中間を往き来する船に潜り込むが日本人の中国人への差別的対応に幻滅。日本人でいることに嫌気が差して自首しようと戻ってくる。戦場で右手を失った軍曹、店主の娘と結婚するも、電車内での軍上層部の人間達の会話に失望し日本の戦争の大義への不信感が爆発する。第二幕のクライマックスともいえるそのシーンが何か取って付けたようで違和感が。その遣り取りを耳にし、身籠った赤ん坊を自ら大きな石を腹に叩き付けて堕胎しようとする娘も唐突過ぎ。それを諫める広告文案家の『この宇宙の奇跡とは生きている人間一人一人の存在そのものなのだ』という折角の台詞も空回りに感じた。
無理に修羅場を作らず第一幕の感じでフェード・アウトするように物語を閉じていき、ラストのガスマスクの方が不穏な後味だったと思う。
第二幕開幕の、夫婦で『青空』を聴くシーンや宮沢賢治の『星めぐりの歌』を楽譜から松岡さんが歌うシーンが胸に焼き付く。
共骨

共骨

オフィス上の空

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)

2020/03/07 (土) ~ 2020/03/15 (日)公演終了

満足度★★★

8歳の時、母を癌で失った少女。思わず遺骨を食べてしまう。父との慣れない二人暮らしが始まる中、母の亡霊が現れ助けてくれるように。母が現れる時、決まって骨が痛み出す。
主演の新垣里沙さんがまた凄い。虚無演劇界のファム・ファタールのようだ。彼女の独り芝居でも良かったんじゃないかと思う程に圧倒的。アンナ・カリーナのように存在そのもので作品を成立させる。
『家族』という宗教、『愛』という宗教、『自分』という宗教に囚われて苦しんでいる人に、「そんなに大したものでもないよ」と少し気を楽にさせてくれるお芝居。自分が何に支配されているのかを色々と考える切っ掛けにも。是非観て貰いたい。

ネタバレBOX

中学を卒業後、父の頭がおかしくなり、亡き母と混同された娘は犯されかかる。家を出て振り込め詐欺グループと共同生活をするも、警察に摘発。母の弟にあたる叔父を頼って生活していく。母の亡霊が自分の妄想ではないかと葛藤。父を殺して自由になろうと決める。
中学の時の元彼が寄りを戻そうと口説くシーンが良かった。彼女の存在自体が自分を補完する“妄想”のパーツであるかのように求める。それこそがこの舞台のキーであり、求めているものは自分自身の欠けている“何か”なのだ。
Pickaroon!<再演>

Pickaroon!<再演>

壱劇屋

DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)

2020/02/25 (火) ~ 2020/03/01 (日)公演終了

満足度★★★★

『少年ジャンプ』っぽい世界観。よく知らないけど、『ワンピース』とかの感じでは。凄く大衆に受け入れられる裾野の広さ。古代中国をイメージしたような架空世界、“ピカルーン”(盗賊の意味)と呼ばれる七人の盗賊が盗んだ宝箱の中には一人の赤ん坊が。七人は共同でその女の子を育てることにする。
女の子、『御姫』役の柿澤ゆりあさんが超美少女。アイドルかと思ったら「東宝シンデレラ」オーディション審査員特別賞の16歳。個性溢れる“ピカルーン”達もそれぞれが魅力的なキャラ設定。高安智美さん演じる陸上飛(おがうえとび)はフラフープのような武器を使う。漫画のキャラのような表情と動作に目を奪われる。西分綾香さん演じる紙研(しげん)は番傘を差し、無数の紙を宙に舞わせる。複数のアンサンブルが真っ白な紙を一枚ずつ両手に掲げ、アクションに合わせバサバサとはためかせる素晴らしい視覚効果。武俠映画のようでカッコイイ。日置翼氏演じる伊武は百面相の男。次々にありとあらゆる姿へキャラ・チェンジ。ゲーム画面を観ているような華やかさ。集団舞踏的に全員の動きで場を作り上げていてテンポが良い。主題歌もキャッチー。
カーテンコール後、舞台上で作演出&男虎(おのとら)役の竹村晋太郎氏が「世界にはたった一人でも何処かに自分を助けてくれる人がいると信じています。そういう気持ちをこの話に込めました」的な挨拶を。希望に未来がパンパンに膨れ上がった劇団だ。早目に観ておいた方が良い。

ネタバレBOX

個人的にはもっと暗い話の方が好み。死んだ奴が生きていたり、悪党は判りやすく悪だったりがあんまり好きじゃない。男虎(おのとら)の「裏切り、御免!」が最大の興奮どころなのに、すんなり済ませたのが残念。
誰にも知られず死ぬ朝

誰にも知られず死ぬ朝

劇団た組

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)

2020/02/22 (土) ~ 2020/03/01 (日)公演終了

満足度★★★

不老不死の主人公を取り巻くある家族の年代記。『亜人』や『無限の住人』的に死んでも死んでも再生してしまう村川絵梨さん演じる美しい女。人を好きにならないように何百年(?)も生きてきたのだが、平原テツ氏演じる男を愛し結婚してしまう。男の兄の一家とのエピソードと二人の出逢いから愛し合うまでをコラージュする前半。
半円系のコロッセオはかなり観易い。イメージと異なり、凄く静かな芝居。登場人物が『○○歳くらいです』と自分達の設定を各々説明してくれる。開幕の安達祐実さんが13歳設定なのだが、本当にそう見えるのが怖い。彼女こそが不老不死なのでは。

ネタバレBOX

①安達祐実さん13歳
②安達祐実さん23歳?
③安達祐実さん41歳?
『タイトル』

中嶋朋子さんが眼鏡などを変え、年代に応じて演じ分けているのが伝わった。『止められるか、俺たちを』で荒井晴彦を怪演した藤原季節氏は『た組』がよく似合う。ゴム風船を吹いて割り、中に仕込まれていた紙吹雪の散乱で反吐を表現。『あしたのジョー2』的なアイディアもの。
広い舞台、演者の位置によって台詞が聴き取れなくなるなど、静かな展開に客席の居眠り率はかなり高かった。
旦那の平原テツ氏が亡くなり、村川絵梨さんは後を追おうと包丁で自らの腹部を切り裂き、大量の腸(赤い紐で表現)を引き摺り出す。だが死ねない。そこに安達祐実さんが託されていた遺書を渡しに来る。それを読む村川絵梨さんと無免許で車を走らせていた(ラジコンで表現)藤原季節氏の事故がクロスフェードして幕。死ねない女と不意に死を受ける男の対比。
設定が雑でリアリティーがなく、ファンタジーとしてもバランスが悪い。安達祐実さん視点で村川絵梨さんの人生を語った方が良かった。
『ぼくのエリ 200歳の少女』なんかを思い出した。
少女仮面

少女仮面

metro

テアトルBONBON(東京都)

2020/02/19 (水) ~ 2020/02/24 (月)公演終了

満足度★★★★

超怖い。例えるならば抗争中のヤクザの事務所で、喧々囂々のクンロクの入れ合いをじっと黙って無表情で見守っている堅気の心境。役者ってのは行き着くと本当に恐ろしい。主任役若松力氏は全てがヤバい。関わってはいけない人だ。緑丘貝役の熊坂理恵子さんも黒木華的に何にでもなれる水のような女優でずっと観ていられる。老婆役の村中玲子さんの唯一無二の存在感。metroは配役が見事、映画的。皆歌が巧く、聴き惚れる。音楽センスは抜群。月船さららさんの全てをひん剝いてもひん剝いても、そこには果てしのない空虚が何処までも広がっている、そんなゾッとする舞台。
『物語を楽しむ』とかそんなジャンルではなく、舞台に呪われた亡霊となって尚彷徨う、永遠の乞食としての役者を指の隙間から恐る恐る覗き見てしまったような。

ネタバレBOX

演出家によってこんなに違う話になるとは面白い。水飲み男が月船さららさんのシャツを掴み胸が肌蹴露わになる。そこからのシーンが凄い。さららさんの歌に涙が出た。まさに唯一無二。同じ人間とは思えない程、瞬間瞬間くるくる変わる表情。
前半麦と老婆の視点から始まるも、後半麦が傍観者になってしまう。原作のそこが余り好きじゃない。
天保十二年のシェイクスピア【東京公演中止2月28日(金)~29日(土)/大阪公演中止3/5(木)~3/10(火)】

天保十二年のシェイクスピア【東京公演中止2月28日(金)~29日(土)/大阪公演中止3/5(木)~3/10(火)】

東宝

日生劇場(東京都)

2020/02/08 (土) ~ 2020/02/29 (土)公演終了

満足度★★★★

二幕、3時間35分(休憩20分込み)、豪華な舞台であった。役者バカ系がごっそり揃っており、主演の高橋一生氏(白土三平調)にはニヤニヤした。シェイクスピアのエッセンスを煮込みに煮込むと、人間の業の深さに気が滅入るジェノサイド演劇に。余りに陰鬱なストーリーなのだが、終わってみるとやたら爽快な気分なのが不思議。井上ひさし流の『それも含めて人間って面白いな』という達観した人間観なのか。
歌の歌詞など、左右に字幕が映し出されるので有難い。ヒロインの唯月ふうかさんを事故以来久し振りに観たが、凄まじく巨大なオーラを放つ女優になっていた。これからどうなることか益々目が離せない存在。オフィーリアの熊谷彩春(いろは)さんも可愛かったし、浦井健治氏のハムレットも流石にカッコイイ。一度観た方が良い。

ネタバレBOX

シェイクスピア全作品を無理矢理当て込む縛りがなかった方が良い作品になったのだろうなとも思った。『1917』のワンカット風縛りが作品を苦しめているのと同様に。ただ、この縛りがなければ独特な面白さも半減したのかも。創作の不思議。
野兎たち【英国公演中止】

野兎たち【英国公演中止】

(公財)可児市文化芸術振興財団

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2020/02/08 (土) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★★

脚本が秀逸で映画向きの題材。英国にて暮らす女主人公が結婚する予定の英国人とその母を伴い四年ぶりに故郷、日本に降り立つ。なかなか一筋縄ではいかない実家に待つのは・・・。主人公の母親役、七瀬なつみさんが美しく巧く惹き付けられる。この空間にずっしりと君臨する薫りのような存在感。父親役の小田豊氏も抜群のキャラクターで場を盛り上げる。リアリティーに拘り抜いた演出。英語の台詞には可動式の柱のような数本のヴィジョンに同時進行で字幕が映し出される。夢のような舞台装置だ。これさえあればありとあらゆる国の最新の舞台を十分楽しむことが出来る。音楽も素晴らしいセンス。一瞬も飽きさせないよう工夫を凝らした濃密な空間。日本人論としても面白い。役者のレベルが高い。薔薇のプレゼントもあり。

ネタバレBOX

主人公の兄が三週間前から失踪して行方不明に。世間体を考えて公にしようとしない父母。主人公は子供の頃、庭で兄と野兎ごっこをして遊んだことを思い出す。とことんのめり込んでいた兄も、母の食事の呼び掛けにすぐに我に返っていた。
第二幕からが個人的にはかなりがっかり。あの濃密な空間がスカスカに。主人公と兄の別居中の妻との会話がさっきとはまるで違う舞台を観ているような薄いものに。不在の兄への興味が全く湧かないのだ。『パラサイト』が韓国人固有の感覚を伝えているように、日本人特有の感覚の表現が面白かったのだが。二幕から主人公を変えて別視点で語った方が良かったかも。
KAIRO -カイロ-

KAIRO -カイロ-

UDA☆MAP

萬劇場(東京都)

2020/02/05 (水) ~ 2020/02/12 (水)公演終了

満足度★★★★

温いアイドル2.5次元ファンタジーではなく、押井守の『イノセンス』や伊藤計劃の『ハーモニー』を彷彿とさせるサイバーパンク。脚本の細川博司氏の熱意を感じた。綺麗どころの女優も満載で華がある。『ブレードランナー2049』の雰囲気が好きな人には堪らない。
W主演の栞菜さんと小林亜実さんが実に良い。こういうハードSFのシリアスな役回りの方が似合っている。衣装もクール。もう一人の主人公、那海さんも見せ場がたっぷり。「成る程こう来たか」と演技プランと演出に感心した。兵藤祐香さんの反体制ゲリラも格好良く、腰抜け保安官役の八坂沙織さんは女優として賢い。こういう役回りこそが役者の醍醐味。
最終戦争後、荒廃した近未来。徹底的に管理された砂漠都市で謎の死が多発。キリスト教系の教会と神道系(?)の寺院から一人ずつ調査員が派遣されてくるのだが。
面白いのでお薦め。

おんにょろ盛衰記

おんにょろ盛衰記

糸あやつり人形「一糸座」

座・高円寺1(東京都)

2020/02/05 (水) ~ 2020/02/09 (日)公演終了

満足度★★★

化け物のような怪力の暴れ者、おんにょろ(仁王)と異名をとった熊太郎が主人公。久し振りに帰った故郷で村人を脅して好き放題にやっていたが、首を吊ろうとしている老婆と出くわす。老婆は旦那をうわばみに殺され、孫息子を虎狼に喰われたと言う。この二つの怪物を熊太郎が退治にいくのだが。
三味線に女義太夫、アクション・シーンは京劇と、アイディア満載。熊太郎役の丸山厚人氏がえらくカッコイイ。老婆の人形を操る結城一糸氏は流石の名演。ラストの熊太郎の痛切極まる咆哮が印象的。

ネタバレBOX

村人達は悪巧みで、熊太郎と虎狼とうわばみを戦わせ、共倒れを狙う。最後に残った村の敵が自分自身だと知った熊太郎は自らの喉笛を握り潰そうとするも果たせず、「また戻る」と言い残し何処へともなく去ってしまう。かなり秀逸なラスト。
ちょっと長い。村人八人のシーンはテンポが悪くて退屈に感じた。華やかな祭りとフィードバックさせてラストをもう少し盛り上げてくれたなら。熊太郎に感謝し続ける老婆が心に残る。
エドワード・ゴーリーのにんぎょうげき「うろんな客」&「むしのほん」」

エドワード・ゴーリーのにんぎょうげき「うろんな客」&「むしのほん」」

人形劇団ひとみ座

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2020/01/17 (金) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

満足度★★★

何の前知識もなく、ひとみ座への興味から足を運んでみた。下から針金で人形を操作するスタイル。美しい舞台美術は絵本の世界そのまま。ナレーションのみで台詞もなく、音楽も少ない。『静かな演劇』と言ったところか。エドワード・ゴーリー氏の『むしのほん』と『うろんな客』が互い違いに各三幕ずつに分けられて語られる。
コミカルな虫の動きに小学生の男の子がケラケラ声を上げて笑う客席がのどか。居眠りをしている男性の寝息も響いた。通好みの渋い人形劇。話というより、雰囲気を楽しむ世界。

ネタバレBOX

『むしのほん』は赤青黄、三種頼の虫が仲良く暮らしている山。そこに巨大なクワガタのような黒い虫が現れて皆の住居を奪ってしまう。虫達は相談して大きな岩を山頂まで運ぶ。それを突き落とすと黒い虫は下敷きになってぺっちゃんこ。虫達は楽しげに踊っておしまい。
『うろんな客』は黒い獏のような二足歩行の謎の生物がある一家の屋敷に訪れる。そこで気に入ったものを手当たり次第に池に投げ込み、本も絵も破り捨てる。父、母、子、女中二人は必死に止めようとするもどうにもならない。結局十七年後もまだその家に居座ったままでおしまい。
面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らない。しかし、何か妙な余韻が残る。『うろんな客』は子供のメタファーらしいとか。
私たちは何も知らない

私たちは何も知らない

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2019/11/29 (金) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★

ラップ調の『元始、女性は実に太陽であった。』から開幕。主演・平塚らいてう役の朝倉あきさんが美しすぎる(髪型は蒼井優調)。いざ目の当たりにすると、驚く程の美人。『青い山脈』の原節子を思わせる気品。らいてうのイメージが魔性のファム・ファタールのようにも見えてくる。伊藤野枝役の藤野涼子さんは何となく松岡茉優調。『ソロモンの偽証』の中学生がもう伊藤野枝になるとは。伊藤野枝は虐殺事件の被害者のイメージが強いが、奇妙な愛嬌がある人だったのだろう。何を為しても悪者には見えない。
初心者に優しい作りであり、何も前知識がなくても楽しめる。明治から大正にかけての日本ウーマンリブの先駆者達の苦悩。作・演出の永井愛さんによる女性目線で描かれている為、清々しい。男性作家目線だと、もっと陰鬱で残酷な内ゲバ話になったのかも知れない。登場人物全員が良い人で、宮崎駿の『風立ちぬ』っぽい。
第一幕は夏子さん演ずる尾竹紅吉のキャラの面白さで引っ張っていってくれる。かなりエキセントリックで魅力的。保持研役の富山えり子さんがまた巧くバランスを取る。第二幕は伊藤野枝による文芸誌『青鞜』の乗っ取りがメイン。山田わか役の枝元萌さんが重要な存在感。入門編としてよく出来ている。男優は一人だけの、女優が咲き乱れる舞台。

ネタバレBOX

尾竹紅吉のいなくなる第二幕がちょっと停滞気味。もう少しアレンジしても良かったかも。
ラスト、らいてうの見る夢と云う形でその後のそれぞれの人生が語られる。後に戦争協力的な行動をすることになるらいてう。「私がそんなことをする訳がない!」と否定する若きらいてうの姿で幕。
風の谷のナウシカ

風の谷のナウシカ

松竹

新橋演舞場(東京都)

2019/12/06 (金) ~ 2019/12/25 (水)公演終了

満足度★★★★

この原作を忠実に(誠実に)舞台化しようと思った心意気に感服。映画しか観ていない層には『ナウシカ』裏面の物語が展開される。要所要所で歌舞伎の御約束みたいなシーンを嵌め込む遊び心。午後の部では『指輪物語』か、『ベルセルク』か?という展開になっていく。等身大巨神兵は最高。宮崎駿論としても興味深く、氏の歪な世界観も味わえる。

上演時間

昼の部
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 序幕
11:00-12:20
幕間 35分
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 二幕目
12:55-13:40
幕間 20分
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 三幕目
14:00-14:35

夜の部
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 四幕目
16:30-17:40
幕間 35分
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 五幕目
18:15-18:35
幕間 20分
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 六幕目
18:55-19:20
幕間 10分
新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 大詰
19:30-20:30

12月8日の三幕目でナウシカ役尾上菊之助氏が左肘の一部を亀裂骨折。その後の舞台ではメーヴェの宙乗りやトリウマに乗っての立ち回り、クライマックスの所作事は残念ながら全カット。

ネタバレBOX

余りナウシカに魅力を感じられないのが残念。クシャナ(中村七之助氏)が主人公のよう。弱い少女が精一杯虚勢を張って、正義を為す感じが出なかった為か。選ばれし者、聖母マリアのようになってしまっている。純粋さだけを武器に生きていく少女が最後に為す選択が原作の醍醐味なのだが。
オーマが墓所を焼き尽くすシーンは連獅子の舞いで表現。前衛的である。
『命は闇の中の瞬く光だ!』渾身の名台詞が炸裂する。机上の空論のような理想主義、超人思想に否を唱える。個人的にはカンボジアのクメール・ルージュ政権(ポル・ポト)時代の人間改造政策を連想して当時読んでいた。正しい教育を受けた子供達が育てば、正しい社会、国になると。現実は全くの逆で共産主義的教育は大量虐殺しか生まなかった。歪な選民思想と差別。ナウシカが断罪するのは人の生命に貴賤なく、穢れこそが生き物の本質だということ。
獣唄

獣唄

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2019/12/03 (火) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

これは観なければならない。
昭和13年、福岡の山村を舞台に希少な蘭を摘むハナト(=花採?)の男と三人の娘、それぞれの絶望の果ての物語。想像を絶する舞台装置のクライマックスは生涯胸に刻まれるであろう。客席は風が吹きすさび、相当寒いので防寒対策万全に。
劇団のそこまでしなくてもいいのにと思う程丁寧な接客、チケット代が安すぎるのではと感じる程の舞台美術。村井國夫氏から立ち上る魂の揺らめきが確かに見えた。古き良き時代のモノクロ映画の趣も。
万難を排してでも必ず観るべき。

ネタバレBOX

板垣桃子さんの物語のように見せつつ、後半一転して残された村井國夫氏の視点に切り替わる。ラストの『獣唄』は今村昌平の『楢山節考』の降雪シーンを思い出した。無限に降り注ぐ青い紙吹雪で視界が完全に塞がれる。激しい風。その隙間から時折見える神話のような光景。『生きろ!生きろ!生きるのだ!』。『カムイ伝』の山丈の雄叫びのように。理由も理屈も全てが吹っ飛びただただ畏敬の念に打ち震える。舞台は最早上下左右に激しくうねる大海原だ。
敢えて付け加えるとしたら、音楽がちょっと違う気がした。
廃優

廃優

牡丹茶房

王子小劇場(東京都)

2019/11/28 (木) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★

メンヘラ女が織り成すスナッフ・ホラー。脇に至るまで見事に良い役者を揃えている。
冒頭のメンヘラ妹役の赤猫座ちこさんは強烈。誰もが思い当たる、自我に押し潰されていく人間を凝縮して具現化。ずっと記憶に残るシーンに。アーティストに憧れてアーティストにはなれなかった、全ての無名の表現者の鬼火のような作品。
主演の川峰はる香さんの漂う虚ろな視線が怖い。
このレベルの作品を上演し続けるのはかなり凄い。劇団にリスペクト。
会場は観易くスタッフは非常に有能。お薦め。

ネタバレBOX

スナッフ映画(実際の殺人を娯楽として撮影したもの)の撮影チームが鄙びた温泉宿のピンク・コンパニオンを拐っていく。その中の一人が殺人の才能を見出だされ、俳優としてメンバーに加わる。
2時間20分はちょっと長い。コメディとホラーの境目を綱渡りして、奇妙な味わいに。中期黒沢清の『復讐』シリーズや『蛇の道』『蜘蛛の瞳』に似た余韻。
意識の高いスナッフ映画の撮影隊というアイディアが秀逸。監督や役者に成り損ねた者達が今ではAVを通り越しスナッフ映画作り。それぞれの美意識と表現者の誇りを胸に芸術という概念と取っ組み合う。
キャラ作りが巧みで妙なリアリティーがある。一番近いのは児童ポルノ系裏AVの制作チームなのか。職人肌の埋葬虫〈シデムシ〉(藤口圭佑氏)、驢馬(相川佑輝氏)のあの感じは凄く良く判る。
ただ、クライマックスの撮影にどうしても撮りたい作品、撮らなければならない作品の感じが出なかったのが残念。その作品こそが『ドグラ・マグラ』の『九相図』のような物語の根幹に関わっていた方が盛り上がった。
凄くリアリティーのある人物造形と杜撰な計画等の落差が激しい。『これ、本当にあるんじゃないか?』とゾッとさせて欲しかったが。
久保瑠衣香さん演じる記者の設定が良い人過ぎでは。友情が唐突で感情移入出来ず。及川空美さん(仕事意識の高いピンク・コンパニオン)、大田彩寧さん(死に際に名シーン有り)もかなり良かった。
ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

吉本興業

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/10/31 (木) ~ 2019/11/14 (木)公演終了

満足度★★★

どんなジャンルにせよ、天才の創作現場は興奮するもの。TVアニメの制作現場にて一人の若き監督の我儘放題が『ハート・オブ・ダークネス』のような事態を引き起こす。洒落たセットに実力派の役者揃い、アニメのファンでなくても充分楽しめる渋い脚本。安い2.5次元アイドルものではない。主演の大場美奈さんも普通に良い。原画アニメーター役の山内圭哉(たかや)氏が会場の笑いをかっさらっていた。影の主人公、スタジオプロデューサー役の町田マリーさんが出ずっぱりで大活躍。

ネタバレBOX

導入がつまらないが、前半は凄く面白い。作品の制作過程で起きる主義主張ビジネスのあれやこれや。中盤の監督失踪からが何も起こらず停滞。ベストセラー作家を登場させるなり、もう一波乱欲しいところ。劇中アニメ、『運命戦線リデルライト』の内容を同時進行でリンクさせて欲しかった。何かのパーツが欠けている印象。

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