ゴンドラ 公演情報 マチルダアパルトマン「ゴンドラ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    『黄色いゴンドラ』

    凄い才能。ウォン・カーウァイの登場時みたいな。触れるもの皆黄金に変わり、未だ誰も観たことがない作品世界の扉が開かれる。
    よくある設定の三人芝居なのだが、辿り着く到達点に驚く。一体ここは何処なんだ?数十分の観劇(しかも初日2000円!)で相当参った。これは是非観に行った方がいい。コメディとしても秀逸。

    山本直樹のエロ漫画みたいな開幕で、東京から田舎の実家に帰ってきた無職引き籠もり駄目男(坂本七秋〈ちあき〉氏)が寝たきりの父親の訪問介護のヘルパー(小久音〈さくね〉さん)に恋をする。その女性は天然?というかかなり頭が悪く、会話もなかなか成立しない。これシナリオなの?と驚く程、自然に間の抜けた噛み合わない会話のラリー。駄目男の叶わぬ恋模様かと思いきや、全くそんな話ではない。宇宙論だ。

    ネタバレBOX

    小久音さんは若い頃の宮崎美子を薄幸そうにしたような美人。会話のセンスが抜群で、これを書いた作家は天才だ。「ん?」の使い方。
    坂本七秋氏は典型的な駄目っぷり。「ああ、これは駄目だな・・・」と誰もが哀しげに溜息をつく。その駄目さ加減が段々と笑えなくなり、みんな己の分身のように愛おしく感じていく。
    ズレた二人の間に理性として突っ込みを入れるファミレス勤務の妹(富山華佳〈はるか〉さん)。飼い犬はダークネス号(ダーク)、カワウソはウソツキ(ウソちゃん)。地に足の着いた現実に生きている者の声を聞かせてくれる。

    多分キーになる話が母親に関する“何か”なのだろう。「妹と並んで乗った観覧車、向かいの席の母親の顔が逆光で思い出せない」と主人公は語る。「貴女に母に似たものを感じた。だから一緒に観覧車に乗ってくれませんか」と。
    妹も「母の死の時、兄が私を守ってくれた・・・」と涙ながらに“何か”に触れる。それはマクガフィンで存在しないものなのだろうが、この物語の底流に流れ続けている。

    『ブロック宇宙論』とはそもそも時間など存在しないと云う理論で、「過去・現在・未来が今全て同時に存在している」と云う考え方。この考え方だと仏教で云う因果律が成立し得ない。主人公は自分を駄目にした“因果律”にがんじがらめになっていたが、ふとそこから自由になる。ほんの少しだけ。

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    2022/06/20 23:27

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