嵐になるまで待って 公演情報 CfY「嵐になるまで待って」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    原作は1991年に発表された小説で1993年に舞台初演。韓国映画『超能力者』に感じが似ているなと思ったが、こちらは2010年の作品。
    『ナルニア国ものがたり』がアニメ化、急遽声優のオーディションを受ける中舘早紀さん。その独特な声が評価され見事合格。ベテランの中3声優・環幸乃さん、主演の人気俳優・土屋兼久氏と顔合わせ。そこにアニメの音楽を担当する作曲家・三浦剛(たけし)氏とろう者(聴覚障害者)である姉の椎名亜音さんがニューヨークから挨拶に訪れる。実は土屋氏と三浦氏には友人ギタリストに関わる因縁がありその場で口論、喧嘩となるが・・・。

    狂言回しでもある精神医学教授役、近江谷太朗(おうみや・たろう)氏が印象的。カエルのぬいぐるみとやるユーモラスな腹話術。声が出なくなった中舘さんが何とか身振り手振りで伝えんとする必死のジェスチャーを、悉く外してみせるアドリブ満載の遣り取りに場内爆笑。声が出せない中舘さんが必死に笑いを堪える程の好き放題。観客の心を巧みに掴み掌に乗せて操ってみせるサイコロジーは流石のベテラン技。手話の腕前も凄い。

    「劇団6番シード」から椎名亜音さんと土屋兼久氏が参加。
    ろう者の雪絵が物語のキーパーソンになる為、流麗な手話が飛び交う。椎名亜音さんをこの役に選んだセンスの勝利。いつも早口で捲し立てる彼女が一言も喋らない役で見事な存在感、全く凄え女優だ。奥さんがろう(聴覚障害)の女優、忍足(おしたり)亜希子さんである三浦剛氏も本物の手話を披露。(ちなみに二人の出会いは今作の2002年の再々演公演での共演)。
    手話が理解出来たならばもっと楽しめる作品だろう。

    テーマは『聴こえない声と言葉にできない想い』。障害で声を出せない人もいれば、声は出せても本当の気持ちが伝えられない人も沢山いる。この世に満ち溢れた“聴こえない声”が人々を苦しめ、無意識を支配している現実。言語化すると途端に嘘になってしまう淡い複雑な想い。人に何かを伝えようとすることの難しさ、同じく他人の気持ちを正しく受け止めることの難しさ。人と人とが意思を疎通する唯一の手段、コミュニケーションの苦しみ。

    ネタバレBOX

    椎名亜音さんが演じるのは天真爛漫な善人、ろう者の雪絵。
    彼女の弟・波多野役の三浦剛氏が人の心を読み、相手の無意識に暗示を掛けて意のままに操る超能力者を怪演。佐村河内守や高野拳磁を思わせる妖気、怪僧ラスプーチンすら連想させる。少年時代から、ろう者の姉に危害を加える者達を幾人も始末してきた血塗られた過去。
    ユーリ(中舘早紀さん)は波多野と偶然同じ声質を持ち、同じく特殊能力を持っている可能性がある。胸に秘めた片想いと自身の声がコンプレックスであることを波多野に読まれ、暗示を掛けられてしまう。
    チカコ(環幸乃さん)も実はテレパスで、相手の心を読み、相手に暗示を掛け操って生きてきた。(流石にこの設定はやり過ぎだろう)。

    クライマックス、暴風雨の高層ホテル、波多野の催眠暗示から逃れる為、幸吉(野口オリジナル氏)とユーリは部屋の灯りを消し窓を叩き割り、嵐の夜に身を委ねる。

    無垢なる雪絵の無意識が波多野に命じた殺人だったのか。全ての汚泥を背負って波多野は消えていく。
    自らの意志で声を取り戻したユーリはチカコと『ナルニア国ものがたり』の読み合わせ。「君が本当にそう信じてくれたのならばその時それは本当になるんだ」。

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    2022/06/17 21:55

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