夏至の侍 公演情報 劇団桟敷童子「夏至の侍」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「金魚金魚、鬼祓えや厄祓え、全てを流せや永久に
     金魚金魚、生まれ変われや人となれ、命を繋げや永久に」
    この印象的な劇中歌、作曲はもりちえさん!

    昭和49年7月、記録的な台風が大分県に上陸。舞台はここから開幕する。由緒ある老舗の金魚問屋、その跡取り息子が新婚3ヶ月の妻を遺して水死。残された一家は、女主人(音無美紀子さん)、長男の嫁(板垣桃子さん)、女子高生の長女(長嶺安奈さん)、次女(大手忍さん)。その後二人の娘は自由と夢を求め家を捨てて出て行くことに。
    昭和60年夏至が近付いたある日、それぞれ現実に敗れ果てた二人の娘、あてどなく足は実家へと向かう。

    ステージ上部から降り続ける雨。裏返り、奥へと可動するセット、舞台美術は流石の出来栄え真骨頂。皆が差す何本もの黒い傘が印象的な場面転換を生む。

    「夏至の侍」とは、夏至の水門開きの時、何処からか生まれ育った溜池に帰って来る金魚のこと。身体中傷だらけになりながらも生命力に満ち溢れた縁起のいい存在とされる。水車は台風で壊れたまま何年も放置され、水は腐り淀んだ死に池にもう金魚なんか育ちはしない。しかし閉業目前の金魚問屋の溜池で水面を跳ねる赤い金魚を見た者が現れる。

    鈴木めぐみさん演ずる本家の女主人の優しさに救われる。
    この劇団の顔といえば、客入れのもりちえさん。誰もが間違いなくファンになる。

    ネタバレBOX

    それぞれ物語を抱えているのだが、各支流が本流に合流し奔流が激流へと川の大氾濫を起こすまでには至らない。板垣桃子さんの秘めたる恋のエピソードの描き方が物足りず勿体無い。(イチジクの花言葉は「実りある恋」)。ヤンキー長女の子宮癌、多額の借金を返せずに逃げ出した次女、親友との約束の為に無償で水車を修繕する大工(稲葉能敬〈よしたか〉氏)。
    どうも話と話が上手く噛み合わず転がっていかないもどかしさ。主人公の視点を置かず群像劇にしたせいなのか。音無美紀子さんの自分に言い聞かせるような「負けんぞ、負けんぞ。」の呟きだけが作品のリズムとなる。

    今作に足りないのは、登場しない冒頭で水死した跡取り息子。彼の幻影を「夏至の侍」とだぶらせて語るべき。息子であったり、夫であったり、兄であったり、親友であったりする。登場しない彼の存在を観客もリアルに手触りで感じられた時、ラストの奇跡を音無美紀子さんと共に体感出来るのであろう。

    0

    2022/06/08 15:16

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大