セイレーンの痕 公演情報 たすいち「セイレーンの痕」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    いきなり開幕からピーズの『しげき的な日々』が轟く。
    「バカはたばになって がなっているだけ
     バカはちぢこまって だまっているだけ
     きどってねーで スリルだぜ
     しげき的な日々」
    作品世界とは全く関係なく、15周年を迎えた劇団の雄叫び。人生やったもん勝ち、吉祥寺シアターが沸く。

    幻想的な舞台美術は海上にぼんやりと浮かぶ光る金属の環。ギリシア神話の海の怪物セイレーン、美しい歌声で人々を惹き寄せ惑わせたまま喰い殺す。

    物語はカリスマ的人気を博す女性シンガーの歌声に導かれた人々の群像劇。岸口萌香役の北川理恵さんがメチャクチャ説得力のある歌声、楽曲の完成度も高い。(本物の歌手だった)。『Polaris(ポラリス)』は頭上に輝く北極星、闇夜を彷徨う旅人達の唯一の目印。それを遠く見上げる者達一人ひとりに「大丈夫」と優しく告げてくれる。ライブシーンが盛り上がるので、もっと観たかった。
    信者のように熱狂し取り憑かれていくファン達。そこに疑念を感じた者達がライブハウスに潜入する。

    同時に描かれるのは、とある女子高の合唱コンクール前の様子。やる気をなくした教師(中田暁良〈あきら〉氏)や何かに悩み続けている生徒(永田紗茅さん)、それを心配する友人(中野亜美さん)。

    小柄なチカナガチサトさんと身長182cm!の杉田のぞみさんの対峙するシーンが絵になる。
    印象に残るのは信望厚い学級委員長の中野亜美さん。彼女はどんな役を演らせても何か気になる存在感。
    ファンの一人、小野里茉莉(おのざとまり)さんが可愛かった。

    ネタバレBOX

    北川理恵さんに自分の力を預け一緒に歌う幽霊は巨乳が目立つ永渕沙弥さん。(今作を最後に無期限休養とのこと)。聴く者の潜在意識に働きかけるサブリミナル効果で次々に聴衆を魅了していく。ただ自分の想いを誰かに聴いて貰いたいと思うだけの孤独で純粋な女性。普通はこの手の悪霊キャラには邪悪な野望があるものだが面白い設定。
    北川理恵さんを信奉し路上ライブからずっと追い掛けている最古参ファンは山咲和也氏。彼女を「キチキチ」と呼ぶのが気になる。
    ライバルだった筈がどんどんファンを取られて激しく人気の差を付けられていく落ち目のシンガー、大森さつきさん。金髪ロングはやたら似合っていて美しい。ウィッグだと思っていたが、地毛か?
    独りアクション俳優のような青木清四郎氏。舞台上を上下左右奥手前、走り廻り踊り廻る。気ままな風来坊の亡霊。
    古参ファンの細田こはるさんは『嫉妬深子』の印象が強い。
    北川理恵さんの「助けて」と云う心の声が聴こえて会場に訪れた宇佐見輝(あきら)氏。彼の存在を上手く使いこなせていないのが残念。

    複雑な物語の語り口には作家のオリジナリティが溢れる。ばら撒かれたエピソードが多彩で話の構造がなかなか読み取れない。二つの話が実は5年間の隔たりがあったことが最後に分かる仕掛け。

    生徒に掛かりっ切りになり過ぎて、家庭が崩壊し妻に去られた教師。仕事への意欲を無くし次に何かあればもう辞めようと思っている。
    両親の離婚問題で自分が何かを選択することに恐怖している少女。
    友達の為に何かをしてあげたいのに何もしてやれない無力さに涙する少女。
    もう誰が歌ったものかさえ分からない『Polaris』、それを編曲し合唱する生徒達の歌声が流れる。
    「何もしてやれないかも知れないけれど僕はずっとここにいるよ。ずっと君の傍にいるよ。僕は君の味方でいるよ。」
    北極星が闇の中で煌めく様が確かに見えた。

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    2022/06/24 14:33

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