ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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『ワルプルギスの夜』

『ワルプルギスの夜』

劇団Q+

萬劇場(東京都)

2022/09/29 (木) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

チームB

「ワルプルギスの夜」もしくは「ヴァルプルギスの夜」とは、死者と生者の境目が弱くなる特別な夜。魔女達がブロッケン山でお祭り騒ぎをすると云う。
80年代の小劇場にタイムスリップしたかのような舞台。世界観はレトロSF風味で、『フラッシュ・ゴードン』やらあの辺の安っぽい未来世界が心地好く、観てると段々時空概念が狂ってくる。選曲のセンスも良い。凄くちゃっちいヴィジュアルが一周回って魅力的。

地球が核戦争で滅んで千年後、一部の人類は月と金星と火星に逃れて生き延びていた。地球の陸地は水没し、人の住めない真っ青な惑星。舞台は地球の観測をずっと続けてきた月のコロニー。ミュータントのような奇形な道化達がかつての地球の昔話を伝えて走り回って遊ぶ。はるさん演じる「兎頭」と呼ばれる道化がキーパーソン。双子のレーナ(小泉愛美香さん)とミーア(藤咲優希さん)が奇抜なファッションとメイクで踊りまくり、松田桜さん演じるバレリーナは皆の間を縫って舞う。月人類の口調が何故か花魁詞(おいらんことば)で『ありんす』調。お洒落なPUNKSファッションの観測員達。
そんな中、火星から探査船に乗って数百年振りに3人の火星人類がやって来る。

柳本璃音さん演じる見習い観測員リエットが魅力的。若い頃のマリアンみたいにキラキラしていた。
火星からやって来た考古学者ルベリオ役は佳乃香澄さん、上品。
同じくサンダー役は和泉涼太氏。演技も演出もキャラも“THE 80年代”といった暑苦しさ。
月の女王ユリウス役の神野(じんの)美奈実さんは声色を使い分けてムードを高める。

デヴィッド・ボウイの名曲が高らかに鳴り響き、真っ当、誠実でスタンダードなSFが語られる。レイ・ブラッドベリ風味のラストも美しい。凄く好きな感じの脚本。

ネタバレBOX

『スターマン』
「空ではスターマンが待っていて
 彼は“それを無駄にしてしまうな”と言っている
 その全てに価値があることを彼は知っているのさ」

デヴィッド・ボウイが亡くなった頃に日本公開されたマット・デイモン主演の『オデッセイ』。見せ場でこの曲が一曲丸々大音量で流され、観客は皆涙ぐんだもの。ボウイの息子のダンカン・ジョーンズが撮った『月に囚われた男』なんて映画もあった。

金星は滅び、火星と月の見通しも暗い。地球の再生を願い、探査船で調査に降り立ったルベリオとリエット。しかし地球はすでに完全に滅び、死の星と化していた。絶望的な現実を前に、女王ユリウスは地球に遺してきた全ての魂に懺悔して息絶える。そこに解読された金星人類からの最後の通信が読み上げられる。それは聖書の一節のような讃美歌のような荘厳な詩。『希望は自身の胸の中にこそある。暗闇を自らの希望の炎で照らし出せ』。

「兎頭」の死など雑な展開もあるが、デヴィッド・ボウイの歌で掻き消された。
あゆみ

あゆみ

果報プロデュース

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/09/28 (水) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これは観ておいた方がいい。名前だけは知っていたのだが、成程よく出来た戯曲。柴幸男(ゆきお)本人の演出。他の様々なバージョンも観たくなる。客席二面に挟まれた素舞台、非常に観易い。

登山の格好の前田綾さんの周りに7人の女性(石森美咲さん、稲田ひかるさん、井上みなみさん、小口ふみかさん、田久保柚香さん、橘花梨さん、山本沙羅さん〈プロデューサーも兼ねている〉)。
「初めのいーっぽ!」
主人公の半生の記憶をありとあらゆるやり方を使って7人が演じ続ける。それを椅子に腰掛けて静かに見つめる前田綾さん。胸が痛む描写の数々。母親とはぐれて迷子になって不安で不安で泣き出しそうで、やっと見つけた母親の姿。
BJCの『車泥棒』のような気持ち。
「楽しい遊園地の中で迷子になった小さな子供がお母さん  を探す気持ちは真実。
 多分宇宙の形はその母親が子供を抱き締めた時に湧いてくる気持ちに似ているんだろう。」

顔と名前が一致したのが橘花梨さんだけ。小口ふみかさんは何となくそうじゃないかと思っていた。他の方はかなり見覚えがあるのに名前が出て来ない。人の名前を覚えるのは大変だ。

非常に演劇的でありつつ、物語は映画向き。細切れのエピソードが粉雪のように降り積もる。記憶の雪で辺り一面が真っ白。雪塗れの前田綾さんと観客は自分の映画を観ている。

ネタバレBOX

幼馴染の梅原、仔犬のコロ、尾崎さんをハブったトラウマ、田辺先輩への初恋、母親との上京、会社の後輩・前田との飲み会、結婚式の練習、あゆみを出産、母の死、独り登山。

主人公、中野あみっていうのか!?
中野亜美さんはアンダースタディ(もしもの代役)として物販に立っている。

ラストはあゆみの唐揚げで終わった方が綺麗。そこからのエピローグが余り好きじゃない。

何故だか松任谷由実の『Hello, my friend』が脳裏に流れていた。
世界が朝を知ろうとも

世界が朝を知ろうとも

劇団papercraft

すみだパークギャラリーささや(東京都)

2022/09/28 (水) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

Aチーム

存在意義を喪失すると、その人は“虫”になってしまう世界。カフカの『変身』なんかを連想し、頭の中にはスターリンの『虫』なんかが流れてくる。
「虫になったらよろしく」

A 葛堂(かどう)里奈さんの独り芝居。小4の時、保健室で先生が気付くと虫(コオロギ)になっていた。パニックで踏み潰してしまったトラウマ。「虫になんかなってたまるか」と生きてきたつもりだったが・・・。篠原涼子に小雪を混ぜて不幸にした感じの雰囲気、熟練した技術。彼女はラブホに向かっている。

B 女子大生2人がラブホで秘密の作業。お互い四年で進路もちらつく。井上向日葵さんと清田みくりさん。

C 久々に訪れたラブホで深刻な痴話喧嘩。前田悠雅さんと緒形りょう氏。前田悠雅さんはハーフっぽい。木の実ナナの若い頃を感じさせる。

ギターをぶら下げて突然登場する紫野さんがカッコイイ。これならもうずっと部屋の片隅でギターを弄っていた方が良い。

ちなみに『前田悠雅バースデーイベント2022』会場・渋谷DESEO mini 2022/10/23(日)のチケットは絶賛発売中。

ネタバレBOX

人間が虫化する為、全ての虫の採集や売買は禁じられている世界。この設定が判り辛い。特殊な虫として別種にすべき。そうした方が“人間虫”が商品になる、非合法な基盤が出来る。どれだけ罪が重いのかもよく解らないので女子大生の口論にも深刻さがない。警察ではなく、被害者の家族に報復されるべき。

葛堂里奈さんのイカれた旦那は登場させた方がいい。
逆に前田悠雅さんのネタは独り芝居の方が合うのでは。
三つのエピソードが交差しないのであればラブホ縛りの意味もない。

演出を別の人に託した方が良い。笑いのセンスがなさすぎて、地獄のような会場。ネタ自体は馬鹿馬鹿しくて結構笑いをまぶしているのに、お通夜のような重苦しい雰囲気が延々続く。テンポよくリズミカルに演ればこんなに長くはならないホン。前田悠雅さんと緒形りょう氏の痴話喧嘩も早回しで充分。女子大生二人のエピソードは本筋に絡めるべき、これじゃ只の引き延ばし。散々笑わせておきながら、ふっと憂鬱で残酷な世界と向き合わせゾッとさせるべき題材。ワークショップじゃないんだから、役者のナルシシズムなんか誰も興味ない。

実は狂った女の妄想だった的な匂わせもあるが、それも要らない。
ドードーが落下する

ドードーが落下する

劇団た組

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2022/09/21 (水) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

令和版『男女7人夏物語』、コミカライズなら根本敬御大に、主題歌はBJCの『ディズニーランドへ』。
ラストが痛快。タランティーノ製作総指揮のオムニバス映画『フォー・ルームス』風味。ブライアン・デ・パルマの『ファム・ファタール』を観た後の昂揚に近い。こりゃ酷い、最高だ!

売れない漫才コンビの片割れ、夏目(平原テツ氏)はファンの子と結婚しその実家に居候、ビストロでバイトの38歳。イベンターの信也(藤原季節氏)や他のお笑い芸人、ちょっと売れているアイドルなんかとワイワイ集まるのが憂さ晴らし。「いつか世間に見つかってやる」を合言葉に日々をやり過ごしている。そんな彼が突然失踪した3年前からの話。

夏目役が平原テツ氏だと判らずに、浜野謙太?と思って観ていた。知ってびっくり。この役を演るのはキツイ。凄い俳優。今作が代表作になるのでは。
安川まりさんが松岡茉優っぽくて可愛かった。
秋乃ゆにさんのキャラもリアル。

『ルージュの伝言』のカラオケシーンが美しい。松任谷由実の明るく躍動的なリズムとメロディーで賑やかにノリまくる面々、それとは裏腹のメランコリックな歌詞が遠く懐かしき記憶を刺激し鈍い痛みが走る。

言葉一つ足りない位で全部壊れてしまうような
か弱い絆ばかりじゃないだろう
B'z 『HOME』

友情なんて言葉では括れない、信也と夏目のギリギリの関係。「お前は俺の人生の登場人物であり、俺はお前の人生の登場人物なんだ。そう簡単にこの話を終わらせてなるものか!」涙ぐむ藤原季節氏、言語化出来ないエモーション。観ている誰もが今までに喪失した人間関係を想い起こしヒリヒリする。

唇噛み締めて自分の無力さになす術もなく泣いた悔しさ
身体半分持ってかれるような別れの痛みとその寂しさ
amazarashi『奇跡』

タイトルのドードーとは、モーリシャス島に生息していた鳥。天敵のいない楽園のような孤島で繁殖していた為、空も飛べず警戒心もない。人間の上陸によって乱獲され、83年で絶滅した。
絶滅すべき種の前で為す術もなく、それでも必死に無意味に足掻く。

間に合うかも知れない 駄目かも知れない
約束した訳じゃない 会えないかも知れない
橘いずみ『まにあうかもしれない』

ネタバレBOX

中学の頃から統合失調症を薬で抑えてきた夏目。薬を飲まなくなって幻聴が聴こえ出す。奇行を重ね、警察に捕まり強制入院。コンビも解散し、奥さんとも離婚。売れない病気持ちの芸人を相手にする人の方が珍しい。

『アル中地獄(クライシス)』という実録本の中に、著者(邦山照彦氏)が精神病院に入院している時のエピソードがある。脳味噌が吹っ飛ぶ幻覚に襲われた著者、必死に床に這いつくばり泣きながら破片を拾い集める。他の二十数名もの患者が三時間近くそれに協力してくれる。他人の幻覚に親身になって付き合ってやる優しさ。

「ちゃんとやらなきゃ、でしょ。」
クライマックス、夏目と信也のお馴染み不毛な敬語の口論が開幕。普通なら途中でタメ口に変わり感情をぶつけ合う汚い言葉の怒鳴り合い、その展開をスレスレで回避。こういうセンスがずば抜けている。

最後まで藤原季節氏が善人だったのでホッとした。久方振りに彼の役に好感を持てた。
縁を切る側だったり切られる側だったり、必ず誰もの胸が痛み出す。

欲を言えばキャスティングをオールスターで固めて欲しかった。演劇ファンが唸る豪華配役でこそこれをやるべき。キャスティングから作品だと言わんばかりに野田秀樹系の上客を集めに集めてやるべきネタ。広瀬すずとか無駄に使ってこれをやる狂気。

無論、自分のような客層に受けても未来はない。次作は生真面目な女性客と真摯に向き合って欲しい。
コマギレ

コマギレ

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2022/09/22 (木) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開場前から長い行列が出来、皆(?)スマホで将棋を指しているような凄い絵面。
藤井聡太監修の伊右衛門ペットボトルを観客全員にプレゼントの太っ腹。

将棋のプロ棋士(六段)・熊谷学、演ずるは井保三兎氏。両親のいない貧しい家庭で育ち、何とかプロ(四段)になるも今は負け続き。史上最弱のプロとしてネットで妙な人気を得ている。
その弟子、女性で初めてプロ棋士となった天野桂子(岡本美歌さん)。彼女の凛とした美しさと関西弁が女流棋士っぽく魅力に溢れる見事な配役。(現実世界では里見香奈女流五冠が棋士編入試験を今まさに行なっているところ、未だ達成されていない)。

熊谷一門の道場は毎日弟子が遊びに来て、豚肉のカレーライスとコーヒーでおもてなし。出世頭の郷田竜王(渡辺あつし氏)、マスコミ大注目のスター、天野桂子・香子(鈴木彩愛さん)姉妹。そんなある日、桂子が脳梗塞で倒れてしまう。退院後、復帰をするもどうも後遺症が残ってしまい・・・。

流石によく出来ている。後半からの盛り上がりが凄い。熊谷の幼少時代のエピソードをシルエットで再現するセンス。天野役の鈴木康平氏と友人役の門地ジル子さんが実に巧い。『無法松の一生』の回想シーンを思い出した。ぐっと感情移入させておいて山田洋次流の落としで笑わせるテクニック。いつのまにかに劇場は熊谷師匠の心の風景の中に、観客はその安らぎに身を委ねてしまっていた。
昔、Kioskで毎週『週刊将棋』を買っていた頃の気持ちを思い出した。

江崎香澄さんと鈴木彩愛(あやめ)さんはスピンオフで観たい程キャラが立っていた。

ネタバレBOX

「○○? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。だけど・・・、オイラ(俺は)負けないよ。」
「えー、こまたっ、駒達が躍動するオイラ(俺)の将棋を、皆さんに見せたいね。」
佐藤紳哉棋士の名台詞を橋本崇載棋士がパロり、『ハチワンダイバー』にも載った定番ネタ。
将棋連盟会長役の野崎保氏が見事に決めてみせた。

中盤まではよくある話であんまり嵌まれず。熊谷の幼少時代、天野と仲良くなるエピソードあたりからぐっと来た。貧乏で勉強も運動も駄目な気弱な子供、唯一の武器が祖父から習った将棋だった。ガキ大将の天野に認められ、片道二時間以上列車に揺られ神戸の将棋大会へ。中学生達を相手に優勝してしまう。天野の家でお母さんに振る舞われた豚肉の入ったカレーライス。初めて食べたカレーライスが美味しすぎて涙を零す。ずっと自分を応援し続けてくれた天野は早逝し、忘れ形見の娘二人を我が子のように可愛がることに。

意識が途中で途切れてしまう、棋士としては致命的な桂子の後遺症。手番が分からなくなり、二手指しを繰り返して敗れ続ける。タイトルは「駒切れ」かと思わせて、意識の「細切れ」とは成程。
クライマックス、師匠から弟子に思い入れのある大事な扇子を譲ったように見せ、いざ対局中にそれを広げてみると『キフよめ』。慌てて記録係から棋譜を見せて貰い確認する桂子。自身の引退を賭けて対局に臨んでいる女流名人(山本綾さん)が桂子の二手指しを自ら制する名シーンと合わさって今作の肝、胸に焼き付く。
エピローグ、漫画家(野田あゆみさん)が完成した雑誌を皆の前でお披露目、巻頭カラーの美しい見開きに熊谷・桂子の師弟対決。狙い通りの畳み掛けがズバリ決まって大喝采。
深刻な後遺症すら呑気に受け流す熊谷師匠の楽天的な人生観、アイディアの大勝利。
君と約束した桜色の中で

君と約束した桜色の中で

劇団えのぐ

萬劇場(東京都)

2022/09/21 (水) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

劇団えのぐは4年前の『紅姫物語』以来。何となく好印象。少女漫画なのだが、門戸が広い感じ。
昔々人間と鬼とが共存している領地の話。鬼をインディアン(ネイティヴ・アメリカン)や黒人のように視覚的にハッキリと区別が出来る別人種と捉えると理解し易い。
そこでは人間と鬼との種族を超えた信頼関係や恋愛がある。けれど他の領地の人民からは理解されず異質な連中ということで偏見の目を向けられている。穀物の不作で領地に飢饉が迫っていく。

鬼はバッファローマンのような角と、頬にそれぞれの幾何学模様のペイントがクール。
驚くのは殺陣が本格的で、ツイ・ハークばり。富野由悠季風味のチャンバラしながらの理論闘争なんかも欲しかった。男の子役の環幸乃さんがまさに適役。純真無垢な役は嵌まる。

絶望的な現実を前にし、恋人達はせめて来世での約束を交わすだろう。そんな約束がいつか果たされる日が訪れるのだろうか?

ネタバレBOX

勿体無いのは構成。実録ドキュメント風味で語るべき作品。全員登場人物が良い奴なのも欠点。もっと残酷で醜いからこそ、恋人達の約束が尊く浮かび上がる。鬼をファンタジーではなく、比喩として描いた方がよかった。(分かる人には分かるように)。
天の敵

天の敵

イキウメ

本多劇場(東京都)

2022/09/16 (金) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

兎に角、話が目茶苦茶面白い。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』をマーティン・スコセッシが自身の開拓したドキュメンタリー手法を用いて映画化したような作品。こりゃ面白い、誰が観ても納得の作品。観客は2時間強、酔い痴れた。

澤田育子さんがベッキーや土屋アンナみたいで凄かった。多才な人だ。
豊田エリーさんはこういう世界を描くときに絶対必要不可欠な存在なんだろうな。
冒頭、舞台に食材を配膳する牧凌平氏と高橋佳子さんの佇まいが素晴らしい。観る側も緊張を強いられ、襟を正す。

ネタバレBOX

飲血によって不老不死の肉体を手に入れた主人公(浜田信也氏)。1895年に生まれ、今現在(2017年)も名前を変えてTVで活躍する健康料理研究家。ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っているジャーナリスト(安井順平氏)の取材を快く引き受ける。ジャーナリストは戦後まもなく現れすぐに消息を絶った伝説の健康食研究家との関係性を訊く。「彼の孫ではないのか?」と。主人公は「その男は自分自身だ」と答える。年齢が合わない為、何かの比喩だと捉えるジャーナリスト。主人公は最初から話を語り出す。第一次世界大戦時、シベリアに出征、山で遭難し飢餓で死を目前とする。そこに現れた謎の日本人、時貞(森下創氏)。完全食となる食材を見付け、日本の飢餓問題を永久に解決せんと理想に燃えている。帰国し医師となった主人公のもとを度々訪れる時貞。何度も死線を彷徨いながら自らの肉体を実験材料として完全食を探し求めていた。戦後、最愛の妻が癌に倒れ、主人公はある思い付きを試してみる。時貞が試さなかった唯一の食材、“血液”。

この時貞の存在が魅力的で、荒唐無稽な物語に一抹のリアリティーを齎す。

天の造りし“食物連鎖”の摂理。その生態系から逸脱した“天の敵“。罰として太陽の下を歩けないようにされるも、菜食主義者の血液だけを飲むことによってその戒めも突破。(物凄いアイディアだと思う)。

『フォレスト・ガンプ』のように、日本現代史を綴っても面白かった。

ちなみに『ヴァンパイア・クロニクルズ』(『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のシリーズ)では、ヴァンパイア・レスタトはカリスマ・ロック・スターになっている。
音楽劇「組曲虐殺」

音楽劇「組曲虐殺」

劇団しゃれこうべ

シアター風姿花伝(東京都)

2022/09/16 (金) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

小林多喜二の拷問死。指も前歯も折られ睾丸も陰茎も三倍以上に腫れ上がり、焼け火箸や錐で刺された穴が身体中に無数。太腿は鬱血で暗紫色に変色。こめかみ、手首、背中、脛に打撲傷や縄の跡。内臓が破れ内出血。その死顔を油絵で描いたのが盟友・岡本唐貴(白土三平の父)。

貧富の差を失くし、人間が平等な社会を実現する為に小説を書いた。上げる声を持たない弱者達の胸の痛みを代弁して。演出も兼ねる劇団代表の木田博喜氏が丁寧に演じた小林多喜二。
支援する姉役の小倉啓子さんは彼の出身である劇団神戸の代表、ずば抜けて巧い。
多喜二の恋人役は和泉美春さん。実際の田口タキに面影が似ている。
特高刑事役、酒井耕一朗氏はスリムクラブの真栄田賢に似た声。
同じく高野圭祐氏は愛嬌がある。
凄く気になったのが多喜二の妻役の原島千佳さん。表情がものまねタレントのホリに似ていて千変万化。いろんな役を演れそう。

観応えある井上ひさし、戯曲を読み込んだ演出、是非観て頂きたい。レベルが高い。

ネタバレBOX

歌の力が弱い。生伴奏のピアノなんか居たら最高。実はこの話の主人公は小林多喜二を付け回す2人の特高刑事。彼等が多喜二と触れ合うことで内面が変わっていく様。ラストのおしくらまんじゅうの流れが弱い。小林多喜二が「また胸の映写機にかけがえのないシーンが写された」と呟くだけの絵が欲しい。チャップリン的動きを所々見せていた方がラストに繋がる。
俺は、君のためにこそ死ににいく2022

俺は、君のためにこそ死ににいく2022

劇団夜想会

俳優座劇場(東京都)

2022/09/13 (火) ~ 2022/09/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕90分休憩15分第二幕45分。
〈月組〉
2007年当時、現役都知事である石原慎太郎が製作総指揮と脚本を兼ねて話題となった映画の舞台化。映画の内容はイマイチだった記憶。
“特攻の母”と呼ばれる鳥濱トメさんを題材にした作品は多い。『帰って来た蛍』シリーズ、『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』、高倉健主演映画の『ホタル』。
宮川三郎少尉「俺、心残りなんて何にもないけれど、死んだらまたおばちゃんのところに戻って来たい。そうだ、蛍になって帰って来るからね。」
光山文博少尉(卓庚鉉〈タク・キョンヒョン〉)「おばちゃんのような良い人は見たことがない。自分にも分け隔てなく接してくれた。ここにいると朝鮮人であることを忘れてしまう。長い間、親身に世話をしてくれて本当に有難う。実の親も及ばない程だった。」
勝又勝雄少尉「おばちゃん、人生50年と言うけれど俺の余した30年分の寿命はおばちゃんにあげる。おばちゃんは人より30年余計に生きてくれよ、きっとだよ。」

冒頭、“特攻の生みの親”大西瀧治郎海軍中将(名高達男氏)の司令部での決断が描かれる。「一刻も早く講和を結んで戦争を終わらせないといけない。少しでも良い条件で講和を結ぶ為には、一度でも敵に勝利し追い落とす必要があるのだ。最早、手段は選べない。」(一撃講和論)。
こうして始まった「神風(しんぷう)特別攻撃隊」、250キロ爆弾を搭載した戦闘機で連合国の艦船に体当りする自爆攻撃、十死零生。
しかし戦局は一向に好転せず、時間稼ぎの捨て石としてのみ特攻は続いた。死者数約4000名。
「コンコルドの誤謬」と云う言葉がある。それまでに費やした資金や労力が勿体無いと無益なシステムにしがみつき、かえって損失が拡大していくこと。「一億総特攻の魁となって頂きたい」との言葉で出撃させられた戦艦大和の水上特攻などその最たるもの。沖縄に出発した翌日に撃沈され、乗組員3332人の内、生還したのは276人のみ。

歴史学者の有馬学氏の文章を引用させて頂く。『・・・特攻はもはや戦術ではなく、崇高な行為を続ける儀礼的なものへと変わっていった。犠牲的な行為が日本人の精神性の高さを示すという考え方が支配的になり・・・』。
まさに宗教儀式のように若者達を機械的に殺していくシステム。
上原良司大尉「自由は人間性なるが故に、自由主義国家群の勝利は明白である。日本は思想的に既に敗れているのだ。何で勝つを得んや。」
「権力主義、全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも、必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。」

鳥濱トメ役の石村とも子さんが好演。歩き辛い大きな下駄を履いて舞台を駆ける。
その娘、鳥濱礼子役の山木コハルさんが綺麗だった。

自分は光山少尉のエピソードに思い入れがあり、毎回考えさせられる。

ネタバレBOX

のりピーはチョイ役だった。まだ若き特攻隊員の妻を演じられる可愛らしさ。
名高達男氏もまさに特別出演といった感じで、冒頭とラストだけ。

国の為に家族の為に愛する人の為に、自分の命を犠牲にしてもいいと陶酔するヒロイズム。人間は常に何かに酔っ払っていたい生き物。戦争、宗教、政治運動、恋愛、自己実現、芸術etc...。「死んでもいい」とまで思い詰めることのできる陶酔に本能的な憧れをもつ。そこまで純粋にのめり込めたら清々しいだろうな、と。逆にその酔いから醒めると、余りに非論理的で幼稚なシステムに洗脳され支配されていた自己に恥ずかしさと怒りを覚える。
特攻隊への畏敬の念と同時に、愚かな軍部の狂気に玩具にされた彼等を英雄視してはいけないとも思う。そんな複雑な相反する感情を併せ持っている日本人。『七人の侍』でさえ公開当時、旧日米安全保障条約の締結の最中、非難を浴びに浴びた。(侍=米軍)。二度と戦争を起こさない国にする為に一体何をするべきか?家父長制を否定し国家を敬愛することを否定、否定に否定を重ね合わせた挙げ句、反動として反日教組の風潮が出来上がっていく。結局人心のコントロールなど出来ないのだ。
「死ぬことが運命ならば、生き残ることも運命ではなかろうか?」
Letter2022

Letter2022

FREE(S)

ザ・ポケット(東京都)

2022/09/13 (火) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『カセットテープ・ダイアリーズ』という映画がある。1987年、イギリスで暮らすパキスタン移民一家の青年が主人公。差別にがんじがらめにされ、抑圧と偏見に踏み躙られる日々。ある時知人が貸してくれたブルース・スプリングスティーンのカセットテープ。夜、部屋で何となく聴いた瞬間、人生に電撃が走る。目が醒めるような衝撃。居ても立っても居られなくなり、世界が一変していく興奮。人気ジャーナリストの自伝の映画化。ロックの魅力が詰まっていた。

今作にもそんなシーンがある。現在から戦時中にタイムスリップしたバンド青年。「どんな歌を歌っていたのか?」とせがまれて、渋々ミスチルの『終わりなき旅』を歌ってやる。その歌に衝撃を受けた若き兵隊が“生きる為”に脱走を決意する。ロックには力があり、人の生き方を変えられる。目を醒ましてくれるのかも知れない。洗脳を解く鍵になる。

主演の松田将希氏がフルポンの村上みたいなふざけたチャラ男で戦時中の緊迫した空間を掻き回す。ヒロインの市瀬瑠夏(いちせるな)さんはなかなかいない不思議なキャラ。オープニングの大久保銀河氏のブレイクダンスは恐れ入る程凄まじい。特攻隊員の予備要員(?)の華本みなみさんが何故かやたら目立った。

ロシア・ウクライナ戦争の勃発で、戦時中の話がかなり現実的に感じられる昨今。時代は変わろうとも人間の本質は変わることはない。

ネタバレBOX

粗をつつけば切りがないが、そういう作品でもない。オープニングの『千本桜』が良かったので、二つの時代を同時進行に描く手もあった。(『永遠の0』とかそうだった)。ラストを8月15日にはしないで、特攻せざるを得ない物語を組み立てるべき。観客に「これは自分でも行く」と思わせたら、現代のエピローグに繋がる。
プラズマ再臨

プラズマ再臨

無名劇団

萬劇場(東京都)

2022/09/14 (水) ~ 2022/09/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

高校野球地区予選決勝、ピッチャーのいずな(尾形大吾氏)は監督の指示通り、敵の四番にデッドボールを喰らわせた。顔面骨折の大惨事に怒号が飛び交う中、甲子園出場を決める。その後精神が崩壊したいずなは家に籠もり、野球部の練習にも出なくなる。家は両親が出払い、ずっとニートの兄との二人暮らし。チームメイトや恋人のほむら(中山さつきさん)が訪ねて来ても門前払い。そんないずなの前に不思議な少女が出現。かづち(島原夏海さん)と名乗るその娘は、夜の闇を炎で照らし出す遊びを教えてくれる。夜な夜な遊びに耽るいずな。そしてその町で起こる陰惨な連続殺人事件。

「何か関西の劇団ってこういうのが好きなんだな」と共通点を多数感じた。

ネタバレBOX

話が物足りないのは描くべき部分が違っているから。いずなは犯罪に憧れつつも、結局何も出来ない方が良い。別に存在している犯人に理想の自分を重ね合わせた方が厚みが出る。結局何一つ出来ずじまいで無力さに打ちのめされて欲しい。突然の兄弟愛で纏める話じゃない。不在の両親こそ、この物語に必要不可欠な存在。かづちの正体なんて実はどうでもいいことで、日々のなんてことはない野球部の日常こそが描き込むべき部分。警察の存在も全く必要がない。
青ひげ公の城

青ひげ公の城

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2022/09/08 (木) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演の第七の妻、今川宇宙さんが可愛かった!流石に西郷輝彦の娘、清涼感溢れる美人。若い頃の藤圭子っぽくもある。

魑魅魍魎跋扈する虚構の世界に単身乗り込んだヒロイン、失踪した照明係の兄を捜して。芝居なのか現実なのかそのグレーゾーンを彷徨い歩く。舞台裏は魔窟で心の臓も凍る。最後までその感覚は拭えず、高田馬場のアパートに帰っても誰かを演じ続けているまま。この世は全てが芝居で、自分は客であり演者でもある。そこで何を為すべきか?答えなき問い掛けは虚しく、何の意味も持たない日々に押し潰されていくだけ。自分だけの言葉が見付からない!

MVPは文句なくマジシャンの渋谷駿氏。ネタ割れしている古典的なマジックなのだが、それでも圧倒される。彼は超能力者だと思わされる程。いや、そうであって欲しい。彼が青ひげ公であるべきで、そのぐらい作品を浸食している。
舞台美術が素晴らしく、これぞ『青ひげ公の城』。発泡スチロールでここまでやられたらひれ伏すのみ。
第一の妻、日下由美さんはヌーブラが悩ましい。
第二の妻、のぐち和美さんはそのまんま。
第三の妻、浜田えり子さんは死者。
第四の妻、若林美保さんはサーカス団並みの宙吊りの踊り子。物凄いインパクト、暴力的な表現。
第五の妻、水嶋カンナさんはそのまんま。
第六の妻、河西茉祐(まゆ)さんは人形。
第八の妻、浅井香穂さんもマジック・アシスタントも兼ねて素晴らしかった。

黒色すみれはアコーディオンとヴァイオリンで歌い踊り酔わす。BUCK-TICKのLIVEで観た以来。B−Tなら『キラメキの中で…』を聴きたい気分。

次回公演のチラシのイラストを今川宇宙さんが描いていて、凄く魅力的。

ネタバレBOX

作品は何か寺山修司感が足りなかった。戯曲の面白さを読み間違えているようなテキレジ。これじゃ物足りない。これを観て深みに嵌まる奴はいないだろう。ぬるい。
舞台「学徒隊」

舞台「学徒隊」

NPO法人文化活動支援会まつり

南大塚ホール(東京都)

2022/09/09 (金) ~ 2022/09/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

観て損はない。
商業演劇よりNPO法人系の方が腹が据わっている気もする昨今。沖縄戦に強制的に徴兵された学徒隊(14~19歳)を真正面から描いてみせる。アマチュア(?)の弱みと強みが交差するが、これを観劇したことは自分にとって正しかった。描こうとする気持ちが本物。本物の気持ちならどう紆余曲折しても絶対に伝わる。
プラスチック若しくはポリエチレン粉末を爆撃の表現として効果的に使用。爆音と共に撒き散らされる硬めの粉末がかなりの視覚効果を上げている。後ろからスタッフが粉末を投げ上げていく。役者陣の早着替えとメイク直しも凄い。アイディアとDIY精神によって組み上げられた無骨な足場がアマチュアの強みに溢れている。トラブルも多発、だがそれも良い。役者陣の気持ちが焔(ほむら)となってゆらゆら揺らめく。

第一幕は1944年10月10日沖縄大空襲まで。
第二幕は学徒隊(鉄血勤皇隊)として沖縄戦を戦う面々。

主演の若菜さんが柴咲コウ系の抜群のルックスで目立つ。
W主演の加藤郁海(いくみ)氏も一本筋の通ったキャラクターを表現。
石川鈴菜(りんな)さんも何かたかみなっぽくて良い。
口が大きいことを弄られていた、渡辺菜々子さんも印象的。
小沼雪乃さんをどうしても出したかった訳も伝わる。
図体のデカいヒール役の男も見事。
手に障害のある女優のシーンも記憶に残る。

ネタバレBOX

沢山の登場人物が恋と喧嘩の学校生活を送る日々。種々雑多なエピソードは空襲によって強制的に終わらされる。男は銃を持ち、女は看護助手に。泥沼の地上戦の中、殺し合い気が狂い暴力に塗れていく。主演の二人はメモ帳に日々の日記を綴り、いつか再会した時に交換しようと約束している。それを書いている時だけが正気に返る時間、人間性をどうにかとどめようと。

ラスト、再会した二人は何処かに隠すつもりだったメモ帳二冊を小さな女の子に託そうとする。自分達の生きていた痕跡をこの世に残す為。しかしそれは叶わず、銃殺される。
その海岸にひ孫を連れて今日も手を合わせているお婆さん(小沼雪乃さん) 。ひ孫は「何故いつもここで南無南無するの?」と尋ねる。「昔、あなた位の歳の時にここで殺される兵隊さんを見たんだよ。何処の誰だったかも判らない。でも私がその兵隊さんのことを忘れてしまったら、その人は何処にもいなくなってしまうだろ。一体どうしたらいいのかねえ。」
夜鳴く鳥は朝に泣く

夜鳴く鳥は朝に泣く

吉祥寺GORILLA

インディペンデントシアターOji(東京都)

2022/09/07 (水) ~ 2022/09/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

山崎丸光氏は北岡悟のような体格で秋山成勲っぽい面構え、柔術家顔。
平井泰成氏の耳が潰れていて、柔道経験者か?
デリヘルがリアルじゃない。若い女のスタッフなんて雇わないだろう。
もっと同性愛をハッキリと打ち出した方が良かった。
この作家の武器はこういうドラマではなく、もっと違うところにあるリアリティー。彼にしか奏でられない唯一の楽器がある筈。
クライマックスで流れるエモい曲が良かった。

ネタバレBOX

売れないお笑い芸人(木村聡太氏)の彼女(山下真帆さん)は金の為にデリヘル嬢に。彼女に恋するスーパーの店員(山崎丸光氏)はストーカーと化し、客として接近する。デリヘル嬢の大学時代の親友(鳥居志歩さん)は同性愛者(?)で、同じくずっと彼女を見守っていた。
駅のホームで線路に転落する事故があり、芸人と店員は轢死。それをすぐ側で見ていたのは親友だった。彼の事故死を知ったデリヘル嬢は悲観し、同日踏切に飛び込んで自殺。彼女は妊娠していた。
記者になり、死んだ店員が芸人を突き落としたストーリーを頭の中で作り上げた親友。精神病院に収容中の店員に何度も話を聴きに行くが、実際は自分自身が収容されていた。
芸人の兄(平井泰成氏)は警官で、弟を殺した真犯人はその精神病院内の女だと妄想。一年後も個人的に関係者から話を聴き続ける。警官の後輩(杏奈さん)は病んでしまった彼のことが好きで、その様子を心配している。
空蝉

空蝉

あやめ十八番

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/09/01 (木) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕75分休憩10分第二幕75分。
落語を知っていれば尚楽しいのだろう。
『死神』、『地獄巡り』なんかが出てくる。
タイトルの『空蝉(うつせみ)』は『源氏物語』ではなく、蝉の生き死にの判断基準を死神が教えるエピソードからだろう。脚が開いている内は死んでいない。本当に死んでいたら全ての両脚を内側に交差して閉じてしまう。現世に生きて在る人間達、本当に生きているのか最早自身にも判断が付かない虚無の中。

第一幕は台詞が聴き取り辛かった。沢山の登場人物のそれぞれの設定と細かな関係性がよく分からぬまま、ぼんやり観る感じ。これだけ生バンドで陽気なドタバタなのに、自分の見える範囲だけで5~6人熟睡していた。何かや誰かに感情移入する切っ掛けがあればもっと話に入り込めた筈。登場人物全員を詳しく描き込んでいる為、本筋が見えにくい。
地獄のチェックインカウンターのグランドスタッフ役・中野亜美さんが最高。長身に喪服姿。彼女が出る度、パッと明るくなる。いや今作も最高だった。早く主演で観てみたい。そう思っている人はかなりいるのでは。
庄司ゆらのさんのラップも凄かった。
MVPは死神お玉役の金子侑加さん。人差し指を立てて四方を指差すドリフっぽいダンスの振り付けが可愛い。最早バーチャルアイドル。彼女と緒方卵白の物語を中心にした方がまとまる。

ネタバレBOX

第二幕は開幕からぐっと中に入れた。盗っ人が死神に惚れられ、緒方卵白と名乗る町医者になるまで。卵白役の丸川敬之氏はイケメンの小島よしおみたい。死神お玉が凄く良くてまるで高橋留美子の描くキャラ。二人のおままごとのような夫婦生活が美しい。金子侑加さんは今回出ていないのかと思っていた。終演後彼女だったと気付く。マジかよ!やられた!
第二幕は客席の熱度も上がり、物凄い良い雰囲気で舞台に集中。

江戸一番の薮医者・緒方卵白の練った頓服が地獄に9時間だけ行ける不思議な薬、反魂丹(はんごんたん)となってしまう。最愛の女房・お梶(大森茉利子さん)を亡くし、失意のどん底に沈む魚屋・新八(林明寛氏)は地獄で再会することができた。これが噂を呼び、反魂丹を使っての『地獄ツアー』が大流行。そんな中、噺家の名跡を巡って大酩亭一門は謀略を巡らしていた。

閻魔大王の右腕役の島田大翼(だいすけ)氏がオリラジのあっちゃんに似ていた。

ドリフ・リスペクトの痛快ドタバタ。多分もう一回観た方がずっと面白く感じる筈。千秋楽だった・・・。
加担者

加担者

オフィスコットーネ

駅前劇場(東京都)

2022/08/26 (金) ~ 2022/09/05 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。凄く短く感じた。6場位の話なのだが、本当に2時間15分あったのか?そう考えるとよく出来ている。外山誠二氏も山本亨氏もノリノリで舞台を破壊。クズ野郎の伊藤公一氏と内田健介氏の会話から、それぞれに立派な息子や娘がいることが判るのもまた巧い。

ネタバレBOX

愛した女も息子もみんな殺されて、しかも正当な報酬である金も毟られる、散々なラスト。ボロボロの身体をゆっくりと動かして死体処理の仕事に戻るドク。ラストは『悪魔を憐れむ歌』の方が良かった。

ライダーマンのカセットアーム(アタッチメント・ロープアーム)を思わせる山本亨氏の義手がカッコイイ。
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『ガマ』
2回目。先入観を一切捨てて観た。ガマの暗闇の中の六人。ずば抜けているのは照明。天井に組み込まれた数十のライトをオーケストラの如く操る松本大介氏の繊細な舞台調光。照明を照明と感じさせないテクニック、唸る。
早坂文雄を思わせる劇伴。出過ぎず、鳴らす節度。

初見に感じた台詞の違和感は余り感じなかった。
醜く生きることより美しき死を求める日本人の話。全ての不条理不合理を「死によって無に帰する」ことを皆が望む。
醜き“生”の肯定を説得する老人。美しき“死”などなく、醜い“死”と醜い“生”しかないのだ。

ネタバレBOX

岡本篤氏の台詞回しが誰かに似ているとずっと思っていたのだが、豊川悦司だった。
清水緑さんと淡い照明のコラボレーションが夢現。彼女が実際は存在せず、皆の共同幻想だったとしたら凄く納得出来る。自分の生きる理由の為に作り上げた幻想。

命を自分のものだと思うから人は勘違いする。命はそもそも自分のものではないのだ。だから勝手に殺してはいけない。
確か、そんな考え方もあった。
青春の会 父と暮せば 【東京公演】

青春の会 父と暮せば 【東京公演】

ゴツプロ!

シアター711(東京都)

2022/08/31 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「助けて!」と泣き叫ぶ姉を残して逃げたことを苦にして、50年間誰にも被爆体験を語らなかった故・高倉光男さん。「原爆だけがいけないんじゃないと思います。原爆がいかんで大砲がいいなんてそんなアホなことありますかいな。戦争はいかん。」
現実にこういう思いを抱えた人達がうんといたのだろう。

当日パンフには美津江役・中薗菜々子さんの中学校の卒業文集『わたしの平和宣言』が載っている。彼女は広島出身。今作にとって重要な方言も本物。
竹造役・佐藤正和氏は今作の発起人でもある。二人芝居を自ら主演で背負うこと、思うだにゾッとする。
けれどこの二人の役者は実に魅力的だった。他の役も観たくなる。
館内は啜り泣きと漏れる嗚咽、井上ひさしの最高傑作、是非体感して欲しい。何度観ても新しい発見がある。

ネタバレBOX

「わしの分まで生きてちょんだいよォー」
「おとったんありがとありました。」

竹造は能天気で無神経、但し原爆の話になると人が変わったように憎悪に殺気立つ。
美津江は素直で嘘をつけないお人好し。観客もすぐそれに気付いて好感を持っていく。木下のことが好きで好きで堪らない、でもそんなハッピーな自分自身を許せない。あの地獄を一人だけ生き延びた卑怯な自分が、その上幸せになることは不公平だと思う。

普通に考えれば幽霊の竹造は存在していない。美津江の心の擬人化。どんどん恋が成就していく自身の無意識と理性の葛藤。

演出に多少違和感。リズムが違うのか、ハッピーな展開とそれを阻むトラウマの葛藤が上手く転がっていっていないような。木下正の存在が目に見えて来ない。
美津江は焼け焦げた地蔵の顔を見て、あの日の竹造を思い出す。そして一番の自分の心の重しは、誰よりも竹造の死であることを到頭語り出す。ここの部分が父娘の絶対的な絆を示し、どうしても口に出せなかったトラウマの吐露に繋がる。そこに至るまでの美津江の隠し続けた思いがこの作品の核、そこの部分が足りないような。
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ガマ』
米軍戦史に「ありったけの地獄を一箇所にまとめた戦争」と記された沖縄戦。住民の4人に一人が死亡、おおよそ3ヶ月で県民12万人以上が亡くなった。
岡本喜八の名作『激動の昭和史 沖縄決戦』は映画館だけでも10回近く観ている。新藤兼人の脚本が淡々と事実を積み重ね地獄絵図を記す。しかもこの映画が公開された1971年、沖縄戦を体験した住民が岡本喜八に食って掛かったそうだ。「あの地獄をこんな生ぬるい映画にしやがって!」
余談だがスピルバーグは岡本喜八の大ファンで『シンドラーのリスト』にはこの映画のオマージュがある。(『プライベート・ライアン』にも『血と砂』のシーンがあったような気がするがもう忘れてしまった)。スピルバーグは来日する度に岡本家を訪ねて来たそうだ。昔、奥さんから直接聞いた。「皆、黒澤明監督の事しか記事にしないけど本当よ。」

今作はその黒澤明調に始まる。ガマ(防空壕として使われていた自然洞窟)に入ってくる3人。ひめゆり学徒隊の看護要員(清水緑さん)、鉄血勤皇隊の引率教師(西尾友樹氏)が担ぐのは崖から落ちて意識を失っている負傷した兵士(岡本篤氏)。ランプを灯すとうっすらと中の様子が見えてくる。この照明が絶品で、綿密に繊細に計算尽くされた技術。照明・松本大介氏の見事な手腕。『羅生門』のようなおどろおどろしさから物語は始まる。

この劇団は役者一人ひとりの厚みが売り。黒澤組や喜八組を観ているような感覚で、今回は誰が何の役なのか、登場すると三船敏郎や仲代達矢ばりにゾクゾクする。
この面子を前に堂々と主演を張った清水緑さんは末恐ろしい。

ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(三上智恵、大矢英代共同監督)も是非観て頂きたい。護郷隊も出てくる。

ネタバレBOX

黒澤明の『白痴』みたいに寓話的にやるのかと思っていたが段々と岡本喜八調に。
岡本喜八映画なら誰を配役するか、妄想して観ていた。

清水緑さん(丘ゆり子若しくは大谷直子)
西尾友樹氏(伊藤雄之助若しくは加山雄三)
岡本篤氏(中谷一郎)
青木柳葉魚〈ししゃも〉氏(佐藤允)
浅井伸治氏(寺田農若しくは砂塚秀夫)
大和田獏氏(常田富士男)

期待しすぎてしまったのか、個人的には不完全燃焼。後半になるにしたがってイマイチ腑に落ちない。
会話に使用する言葉の選び方に違和感。話す内容も今現在の日本人目線で話しているような遣り取りに感じられ、リアリティーがない。わざと意図的にやっているのかと穿って観てしまった。先に結論ありきで作ってしまったような妙な感触。自分の観方が悪いのかも知れない。
それでもこういう作品は絶対に作っていかなければならないし、自分も観ていかないといけない。
加担者

加担者

オフィスコットーネ

駅前劇場(東京都)

2022/08/26 (金) ~ 2022/09/05 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

天才生物学者のドク(小須田康人氏)は失職し妻子に逃げられ、今ではしがないタクシー・ドライバー。たまたま乗せた裏社会のボス(外山誠二氏)にある提案をすることで人生が変わる。

タランティーノっぽいパルプ・フィクション(安っぽい犯罪小説)で始まり、ちょっと想像がつかない展開に。一体これは何の話なのか全体像が掴めない。

月船さららさんの出番は少ないのだがエロ要素満点、話法にかなりの工夫を見る。何か『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』みたいな叙情性も流れる。

中盤、停滞してかなりテンションが落ちるが、クライマックスで見事に引っ繰り返してみせる。テリー・ギリアムの感覚、『未来世紀ブラジル』みたいな。

そのクライマックス、ボス役外山(とやま)誠二氏とコップ役山本亨(あきら)氏、それぞれの独壇場たる独演は空気を一気に変えてみせる。狂気と正気がくんずほぐれつ攻守がぐるぐる入れ替わる内に、自分が正気だったのか相手(世界)が正義だったのか最早訳が解らなくなる高揚。ハラハラ見守るだけのドクも観客も言い知れぬカタルシスに呑まれてゆく。
この力ずくのシーンが強烈で観客大拍手。

ネタバレBOX

今作(1973年)はフリードリヒ・デュレンマットの失敗作として叩かれ、最後の戯曲となったそうだ。

アナーキストの青年の演説あたりから、「これは不味いな」と思い始める。50年前の戯曲だからか、『ファイト・クラブ』みたいなアナーキズムが安っぽい。

山本亨氏は東野英心やアンバランスの山本英治を思わせる押しの強さ。

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