ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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超ではない能力

超ではない能力

24/7lavo

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2021/05/13 (木) ~ 2021/05/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

まあ超能力っぽいものを持っている人達が集まるOFF会。まあそれなりにそれなりなのだが、発起人の男には世界に打って出る野望があった。

ステージを囲んで三方向で二列。一列目はフェイスシールド必須。
開幕からかなり面白い。センスのあるシナリオで話にぐぐっと惹き込まれてゆく。ネタ自体は結構あるモノなので、これをどう落とし込むかに興味がいく。
超能力(?)の発現を補佐する黒子がまたいい味を出す。
ニートと恋愛無縁が一つのステータスを象徴するかのようで興味深い。
地底アイドル役の環幸乃(たまきゆきの)さんが余りに本物だったので、そういう方面の人だと勝手に思い込んで観ていた。彼女の役回りはかなり重要でここを温くすると一気にぐだぐだになってしまう。作者の提示する世界観を観客が共有出来るかどうかの分水嶺。
コミュ障役の安藤悠馬氏も実に魅力的だった。

ネタバレBOX

youtubeでメンバーを人気者にしようとする発起人。けれども上手くいかず空中分解の憂き目。
クライマックスは飛び降り自殺を試みる女子高生を止めようとするメンバー達。勿論それぞれの超能力は全く何の役にも立ちはしない。「何の役にも立たないことにも何某かの意味がある!」との暴論が勇ましい。いつの時代も意味や価値は行動の後の報酬でしかない。それ自体に意味や価値の無いものを情熱で無理矢理中身をパンパンに膨らませてこそが宗教や革命の源泉であったのだ。

『七瀬ふたたび』のように超能力者狩りの秘密結社に追われても面白かった。
「母 MATKA」【5/17公演中止】

「母 MATKA」【5/17公演中止】

オフィスコットーネ

吉祥寺シアター(東京都)

2021/05/13 (木) ~ 2021/05/20 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

“ロボット”の言葉の産みの親であり、手塚治虫に多大な影響を与えたチェコのSF作家の遺作とされる戯曲。ナチス批判を繰り返し、命を狙われ続けていた。
夫と長男を失うも、女手一つで息子四人を育て上げている母親が主人公。夫が戦死したことから戦争と関わることのないよう息子達を教育した筈が、内戦と他国の侵略の危機の中、子供達は自ら戦場に志願していく。
母役の増子倭文江(ますこしずえ)さん始め役者陣の品の高さとぷんぷんする色気が舞台を充満。亡き夫役の大谷亮介氏が三船敏郎っぽくダンディーで格好良い。キーマンでもある末っ子役の田中亨氏がジャニーズ系の美少年。
シリアスな固い話と身構えさせて、実は良質な喜劇でもある。悲劇と喜劇のギリギリの立ち位置で行われる家族対話が痛快。
クライマックスの母と末っ子の遣り取りは『身毒丸』や『毛皮のマリー』を想起させる寺山修司調に。かなりの作家達に影響を与えたであろう古典だ。
非常に味わい深く面白いのでお勧め。

ネタバレBOX

死者と生者が共存する世界観。母親の下に死んだ夫や長男が普通にやって来る。今しがた死んだばかりの次男も、死の報告に訪れる。最終的に末っ子以外みんな死んでしまうのだが、父親含め六人の死者が末っ子の出征を認めるよう説得しに来る。ブラック・ユーモアたっぷりの死者と生者の討論が秀逸。ただその展開がかなり長過ぎてだれてしまいもするが。

前作の戯曲『白い病』では徹底した戦争反対を訴える主人公が群衆に私刑されて無惨に殺されるラスト。今作では小学校への爆撃で沢山の子供が殺されたニュースがラジオから流れ、それを黙って聴いていた母親が末っ子に銃を渡し戦場へと促すラスト。作家の心境の変化なのか、他に何か秘められた意図があるのか?
ボイルド・シュリンプ&クラブ

ボイルド・シュリンプ&クラブ

劇団6番シード

シアターKASSAI(東京都)

2021/04/29 (木) ~ 2021/05/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

椎名亜音さんはひたすら元気。開幕からカーテンコールまで凄まじいエネルギーを発散しまくっていた。③での宇田川美樹さんの悪徳刑事はハマり役。今月閉館の決まったアップリンク渋谷で去年『ディープロジック』を観たことを思い出す。映画でも女ジョーカーのようなヴィランをふてぶてしく演じていた。こういう役が好きなんだろうなあ。
花奈澪さんはまさに峰不二子。
高宗歩未さんはどんな役でも様になるので、制作側としては最高の素材であろう。
④の土屋兼久氏の佇まいが最強の敵の雰囲気で盛り上がる。
①②③と観て来た積み上げもあり、④がかなり面白い。勿論全部観た方が良い。

③デリヘル店のサンドイッチマンが口論中の揉み合いで店長を殺害してしまう。恋人のデリヘル嬢と当てのない逃避行へ。下の階に事務所を構える探偵二人がその様子を不審に思い尾行を開始。店の利権に絡んでいた悪徳刑事も執拗に追跡。
④妻からの依頼で潔癖症のエリート警視の浮気調査を。振り込み詐欺グループとの奇妙な癒着関係に勘付く探偵。

ネタバレBOX

③がもう『シティーハンター』調のアニメ的展開でどうも話に乗れなかった。デリヘル店の店長が従業員の親を脅して二千万円恐喝とかリアリティーがまるでない。
④がきっちりした話で秀逸な出来。多面的に話が語られていく構成が成功。
ただ土屋兼久氏が高校時代の暴行事件から潔癖症になった設定がイマイチ。もっと彼のキャラクターを掘り下げれば凄い物語になった気がする。高宗歩未さんが卒業アルバムから証拠を突き付けるのも切れ味が悪い。ラストの変化球を予告して投げ、バットを持つ探偵が迎え撃つ絵は素晴らしかった。
ボイルド・シュリンプ&クラブ

ボイルド・シュリンプ&クラブ

劇団6番シード

シアターKASSAI(東京都)

2021/04/29 (木) ~ 2021/05/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

演るも地獄、やめるも地獄。外は酷い雨。この状況で初日を迎え満員の観客が馳せ参じた。
漫画調のノリと展開は好き嫌いが分かれるであろうこの劇団。弘兼憲史の『ハロー張りネズミ』を思わせる人情系探偵劇。秀逸なのは『ルパン三世』大野雄二調のカッコいいブリッジでスタイリッシュな場面転換があっという間に行われる。役者総出で見事なる動線を描きセットや小道具が忽ち出現、相当練習したのだろうなと感心する。とにかくスタイリッシュに拘った演出。
久し振りに舞川みやこさん(コスプレ三昧)を観たが更に美しさを増していた。
①地下鉄水天宮前駅で半蔵門線をジャックするとの脅迫電話。痴漢冤罪事件を追っていた探偵二人が巻き込まれ、その裏に隠された意図を暴く。
②高級イタリア料理店のワインセラー内で店のスポンサーの男が死体となって発見される。怪しいオーナーには完璧なアリバイがあった。

ネタバレBOX

①製薬会社の薬害事件で濡れ衣を着せられた男が三年前水天宮前駅で失踪。恋人の行方を探し続ける女がメッセージとして地下鉄ジャックを企てた。
②店のオーナーである料理長が味覚障害になったが本人は気付かず、店の売上は落ちていく。それを見兼ね、彼を敬愛する副料理長が味の手直しを隠れて行っていた。スポンサーが副料理長をメインに店の建て直しを提言するも怒った料理長に殺される。隣のビルの改築の足場を利用すれば移動時間が短縮されアリバイも崩れる。

料理長の味に惚れた福嶋仁美さんが毎日のように通い詰めるも彼女も味覚障害であったと云うオチがあるのだが、どうして副料理長は味の手直しをしなかったのかが一番の謎である。
痴漢を訴えた女子高生役の花実優さんが②で中国人ホステス、風風(ファンファン)を怪演、素晴らしい。
カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】

カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】

KERA CROSS

シアタークリエ(東京都)

2021/04/14 (水) ~ 2021/04/26 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

緊急事態宣言直前に何とか観れて嬉しい。これからまた中止ラッシュが始まるのだろうか。
生駒里奈さんが何時の間にかこんな女優になっていたことに驚き、ファーストサマーウイカさん(元BiS)のベテラン然とした演技にも同様に驚いた。役者の才能と云うのは本人にも誰にも本当に判らないもので、だからこそ面白いところなのであろう。
KERA版『MONSTER』的な感じで、古き欧州ホラー映画を思わせる美学。
松下洸平氏を初めて観たが異常に人気がある訳が分かった。演技の運動神経とスタイルが抜群。
岡本健一氏はすでに喜劇の名バイプレイヤーで、森田剛氏もいつかこうなりそう。
自分的にMVPはシルビア・グラブさん。歌わない彼女を初めて観た。
嘘つきの姉が失踪して八年、山奥の屋敷で姉そっくりの使用人と暮らす弟。そこに訪ねて来る姉の旦那にはある企みがあって・・・。
宮藤官九郎を筆頭にこれぞ今一番客が入る演劇のスタイル。観客が求めているものはこれと云う感じがした。

ネタバレBOX

『我が家』の坪倉由幸氏は勿論好演したのだが、この微妙な空気感の中に本物のお笑い芸人が入ると、いきなりコント化してしまう。配役の難しさ。岡本健一氏の役を芸人が演っても違うだろう。
ビルマの竪琴

ビルマの竪琴

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2021/04/15 (木) ~ 2021/04/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ミャンマーで軍事政権による虐殺がリアルタイムで行われており、その背後には中国の影が見え隠れする今現在。
『ビルマの竪琴』は市川崑の新旧映画ニ本しか知らず、今回改めて舞台版を観ると良く出来た仏教説話のよう。戦場を体験していない著者(竹山道雄)が書いた児童文学なのだが、それ故に童話のような美しさがある。
原作は水島が人食い土人に捕らえられたりもっと荒唐無稽な様子で、文化座版は隊員達の合唱による“歌”の連なりをメインに据えている。
吃りの優しい男、音痴の軍曹、頑なに合唱を拒否するがいざ歌ったら素晴らしいバリトンボイスを響かせる隊員など一人ひとりのキャラが立っている。
歌による人間性の確保、軍隊と僧侶の文化の対峙、自力と他力の哲学、英国人の讃美歌に対し顔を背け目を逸らす日本人の宗教観の脆弱さ。
このネタを岡本喜八が調理すると『血と砂』になるのだろう。
この作品をずっと後世に残す為ならば、もっと構成に手を加えても良かったのではとも思う。

ネタバレBOX

当時の日本人であっても、内地では情報統制により戦場の現実を知ることはなかった。終戦ニ年後に連載開始のこの作品にしても凡そ想像で書いたと云う。多分著者がインパール作戦に参加していたならこんな物語にはならなかったであろう。日本軍の死者の殆どが餓死とも言われている地獄の戦場だ。

食料補給の交渉に現地の村に出向いた水島が帰って来ない。あと一時間待っても連絡がなかったら、村に侵攻すると隊長が決断。敵兵ではない村民を虐殺することにも成りかねない緊迫した事態。無言の重圧の中、暗闇で一人の隊員が歌い出す。「やめろ」と止める隊長。だが他の隊員も続々と加わり歌い出し、いつしか合唱に。後に一人の隊員が述懐する。「あの時、みんな歌うことで人間性を保とうとしていたのでしょう」
名曲『埴生の宿』を合唱していると、周囲を英国兵に囲まれていることに気付く小隊。「最早これまで」と玉砕覚悟で歌いながら戦闘準備。すると英国兵も『埴生の宿』の原曲を英語で合唱し始める。それに竪琴で伴奏を合わせる水島。英国兵がやって来て、すでに終戦したことを告げる。
放浪する水島、白骨街道や山や川に溢れた日本兵の無惨な死体の山から目を背けて逃げてくる。辿り着いた英国軍の病院から聴こえる看護婦達の美しい讃美歌。敵兵であった日本兵の遺体を弔っている。神に祈りを捧げる英国人に衝撃を受ける水島。日本人である自分は何故何もしてやれないのか?
“歌”による名シーンが美しい。
帰国する小隊に水島の連れていたインコが届けられ、『ああ、やっぱり自分は帰る訳にはいかない』と伝えるエピソードはカットされていた。
軍隊に入って力を得、自ら世界を変えていく方法論と仏門に入って自分の無力さを受け入れあるがままの世界を受け止めていく方法論。自力と他力の哲学の物語でもある。
ドップラー

ドップラー

KOKOO

シアター風姿花伝(東京都)

2021/04/20 (火) ~ 2021/04/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ドラム式洗濯機が舞台に一台、いつしか月着陸船にも見えてくる。ドップラー効果とは、動く音源が近付くにつれ音の高低が変わっていくこと。今回はタイムラグ的な意味に使っているのかも知れない。80年代を熱狂させた小劇場ブームの方法論を敢えて今演る感じなのか?とにかく懐かしい感じと既視感。昔、知り合いに頼まれて付き合いで観た学生演劇は大体こんなだったような。連想ゲームのように思いつきだけを武器に想像力の限界まで跳び跳ねようとする衝動。
脚の速い太郎といつも周回遅れの亀田の出遭い、宇宙飛行士になって月面着陸を目指す二人の話がクロスオーヴァー。
キャストが皆絶妙に良かった。汗だくで極真の選手みたいなガタイの國松卓氏。表情が飛び抜けて素晴らしい吉井翔子さんが矢鱈印象に残った。役者一人一人に興味が湧く舞台。

ネタバレBOX

休憩なしでもっと凝縮して観たかった。二幕の太郎の不在とそれをどうしても思い出せない亀田の懊悩。一幕目にもう少し伏線を張った方が盛り上がった。
パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

エイベックス・エンタテインメント

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/04/07 (水) ~ 2021/04/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。終わってみれば「風間俊介万歳!」な気分にみんながなるようなハッピーな舞台。
細かい演出や台詞が良く出来ている。流石、プロの仕事と云う感じ。
相談スクラムや『あるよね』ネタなど、小さな仕掛けが伏線となってじわじわ効いてくる。

ネタバレBOX

『めだかの兄妹』を大ヒットさせた、懐かしのグループ『わらべ』。その三人から名前を取ったノゾミ・カナエ・タマエにヨウを合流させて、“望み給え、叶えよう!”と準える。
ゲイではないことをカミングアウトし、男一人女三人の共同生活にも暗雲が立ち込める中、ヨウの必死のお願いがクライマックス。「俺は君達を幸せに出来ると思う。どうか一緒にいて下さい!」「そのプロポーズお受け致します」との三人の返しの妙。矢張り「風間俊介万歳!」な気分が客席に立ち込めるのであった。
パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

エイベックス・エンタテインメント

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/04/07 (水) ~ 2021/04/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

チケットを持っていたのに去年公演自体がギリギリで中止となった倉科カナ主演『お勢、断行』。こうなると俄然観たくなるのが人の性。今回は30代のお洒落な4人が織り成すトーク・コメディ、三茶の雰囲気にピッタリ。
話自体は大したネタではないのだが、ジャニーズの若手俳優風間俊介氏(もう37歳!?)の怪演に圧倒される。『オードリー』の若林氏を彷彿とさせるコミュ障を拗らせた引き篭もりニート役。ぬるいアイドル演劇の空気感を力ずくで捻じ伏せてみせる。
もう漫画のキャラのような倉科カナさんの非現実的なルックスのオーラと風間氏の役者バカのエネルギーが舞台中に充満していて面白い。1時間45分と気楽に観れるのでお勧め。
東京で夢破れ、田舎の島に帰郷する負け組幼馴染の女三人。最後の夜に新宿御苑を見下ろせる高層マンションの屋上へと侵入するも、そこは訳有り男性の住居であった。

ネタバレBOX

かなり無理矢理な出会いと突然の破綻しか描かれないのが残念。4人が幸せである日々を風間氏の絵の変化で表現すべき。前田亜季さんのインテリアへのこだわりも視覚的に必要。何か核となるエピソードが足りない印象。
倉科カナさんはアイドル顔過ぎて、役が限定されるのかも。
「蜜蜂と遠雷」 ~ ひかりを聴け~

「蜜蜂と遠雷」 ~ ひかりを聴け~

シンフォニー音楽劇「蜜蜂と遠雷」製作実行委員会

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2021/03/27 (土) ~ 2021/04/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

リーディング+オーケストラ・コンサートと映画は観た。今回はシンフォニー音楽劇とのこと。クラシックのコンサートには腰が引ける人達にも気楽に観れる試みとして秀逸なコンテンツ。バルトークやプロコフィエフには興味が湧かなくても音楽の天才達が織り成すバトルものとしては充分堪能出来る。それらを実際に弾くのが天才ピアニスト川田健太郎氏。『海の上のピアニスト』の“1900”を彷彿とさせるクールな演奏請負人。指揮者役で千住明氏が本当にオーケストラを指揮、かなりお得なステージ。
元NYCの中山優馬氏がピアノを弾き、踊り歌う。シンガーソングライター、ヒグチアイさんの歌も印象的。美少年、ジャニーズJr.の大東立樹(おおひがしりつき)君はスター性抜群。“奇跡の歌声”木村雄一氏はもとよりパーマ大佐の歌う『幸福な王子』が秀逸。
3年に1度のピアノ・コンクール。音楽に魂を捧げた天才達が集う宴。音楽とは果たして何か?との問い掛けもある。

ネタバレBOX

前半のテンポが悪く、構成も演出もホンも噛み合っていない。凄くつまらない話をだらだら聞かされている感じ。一幕目後半、中山氏が踊り始めてからステージにパッと華が咲く。その流れに乗って第二幕は集中して楽しめた。曲は素晴らしいのだから、あとは聴かせ方。ほんの一工夫で無限の可能性が見えるのに。
聖なる日

聖なる日

劇団俳小

d-倉庫(東京都)

2021/03/19 (金) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

二回目。台詞や演出を変えているのか、自分の記憶違いなのか、色々と変わって見えた。
いろんな登場人物が顔に唐突に塗りたくられる白のペイントが効果的。『地獄の黙示録』を彷彿とさせる、『覚悟』の演出。しかも、その『覚悟』は結局何にもなりはしないのだ。
映画化するならガウンドリーはホアキン・フェニックス、コーネリアスはティモシー・シャラメかな。

ネタバレBOX

ラスト・シーン、ノーラが自身の髪留めを外しオビーディエンスに結わえてやる。血塗れのオビーディエンスが灯の点らないランプを下げて終幕。
今回一番考えさせられたのがキリスト教について。宗教を馬鹿げた迷信だと気にも留めない人であればどうでもいいことであろう。ただ宇宙空間や戦場など、生死の極限の環境において人間は『神』を欲し感ずるのも事実。狂ったイカれた人間程、座標軸としての『神』を必要とする。キリスト教の下らなさを登場人物が罵れば罵る程、その実異常に欲している心理を感じさせる。
荒井晃恵さん演じる宣教師の貞淑な妻、エリザベス。彼女の行動がこの物語そのもの。自分の赤ん坊を殺し、建設途中の教会に火を点け、原住民に見棄てられた無力なる宣教師の夫に銃を渡し自殺を促す。それでいて『神』への信仰は微塵も揺るがない。
自害した原住民リンダの死骸に『神』への祈りを捧げる。それを欺瞞だと拒絶するオビーディエンス。「これはやらなくてはならないのよ!」と叫ぶ名シーンが凄く深く、未だ咀嚼出来ていない。
知性で造り上げてきた立派な『神』の物語が、自然からは何も関心を持たれず無視される屈辱。
『神』がいるとして、『神』に向けて書かれた作品なのかも知れない。
聖なる日

聖なる日

劇団俳小

d-倉庫(東京都)

2021/03/19 (金) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

前知識として。元々オーストラリアはイギリスの流刑植民地であった。囚人達が次々と送り込まれてくる流刑地。原住民であるアボリジニは類人猿と見做されていて、1967年まで人権は与えられなかった。
休憩10分含む二幕2時間40分。舞台美術、小道具、衣装、メイクと全て本気度を感じさせる。不穏なBGMも良かった。蝋人形のように袖で突っ立っている役者が出番と共に動き出す張り詰めた緊張感。
19世紀、オーストラリアの荒野にぽつんと佇む安宿。その地では開拓民と原住民アボリジニとの間に頻繁に事件が多発。そこに流れ着く三人の訳有な放浪者。安宿には女主人とアボリジニの義理の娘とが暮らしている。
何かセルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を観ているような感覚になった。マカロニ・ウエスタンのあの肌触り。この空気感だけでずっと観ていられる。
勝手な偏見だが、女主人ノーラ役月船さららさんはこれが一番本人に近い役なのではと思ってしまった。悪魔みたいに美しい。
余りにも邪悪な男、いわいのふ健氏扮するガウンドリーのその果てしのない醜悪さが不快感を超越して、文学の域にまで達している。そこには直視するべき人間がいる。いわいのふ健氏の狂気の当たり役、必見。
アボリジニと白人の混血の少女、オビーディエンス役の小池のぞみさんも秀逸。メイクなしの別の役柄も観てみたい。
西本さおりさん演じるリンダの獣のような咆哮のインパクトが耳奥に木霊する。
出演する全ての役者が素晴らしい。
名台詞が多く、決まりに決まる。
「涙を見せない女は危険だよ!それは私だからさ!」
「ランプを点けとくれ、夜が近寄らないように。世界にあたし等がここにいるってことを伝えなければ。世界の方は誰も見てやしないけれども。」
エンニオ・モリコーネに曲を書いて貰いたかった。
まさにこれぞ観たかった作品。

ネタバレBOX

アボリジニ(原住民)のことを黒人と訳しているのが気になった。差別的な表現だが、土人の方が良かったのでは。アボリジニ以外に奴隷として連れて行かれた黒人が別にいるのか混同してしまう。
繰り返される台詞、「貸しと借り」、「どれだけの地獄を見て来たか」、心の傷を癒やす為に他の誰かを滅茶苦茶に傷付けなくてはいけない人間の性。梶原一騎の名言、「人間の性、その実悪なり!」みたいな気分。
「あいつは俺の毛布だ。俺にはあいつがいなくちゃ。」舌を切り落とされ顔を潰され両親を殺した男に尚性的玩具として帯同させられる少年。
『ラストムービー』のように酩酊し、『地獄の黙示録』のように混沌とする寓話。
残虐な昔の事件のあらましではなく、オーストラリアと云う国の成り立ちをその末裔として語っている作品である。邪悪な心を病んだ父親と歪んだ愛に飢えた母親との間に、血の繋がらない舌を切られた子供達がいるラストの構図が神話的。
BJCの『悪いひとたち』が流れてくるようだ。『悪いひとたちがやって来てみんなを殺した 理由なんか簡単さ そこに弱いひとたちがいたから』。
「シャケと軍手」〜秋田児童連続殺害事件〜

「シャケと軍手」〜秋田児童連続殺害事件〜

椿組

ザ・スズナリ(東京都)

2021/03/17 (水) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

余りこの事件に文学性は感じなかったのだが、山崎哲がどう解釈したのか気になって観劇。やはり、何かパーツが足りない印象。加害者も被害者も実名で登場。当の畠山鈴香がハルシオンの常用で日常的に酩酊しているので語り手として物足りず。殺された彩花ちゃんの視点が一番詩情豊か。鈴香の弟との絵本のエピソードが作品の軸に。
鈴香の父親役の木下藤次郎氏が中風で凄いインパクト。
謎の男、佐久間淳也氏のエピソードもこの地の業を背負った様子で素晴らしかった。
作品の良心的存在、鈴香の弟役の趙徳安氏の視点から語っても良かったのでは。
田渕正博氏演ずる鈴香の恋人的な存在、トンボ。ダンボールに囲まれたような暮らしの中、仄かに肩を寄せ合う。もしかして、どこからかそこを抜け出す方法はあったのではないかと錯覚させるひととき。

ネタバレBOX

これは架空の絵本なのか判らないが、フナになった少女の話を鈴香の弟から読み聞かされる彩花。その話に夢中になって自分も魚になりたいと願う。弟は彩花の死に、魚になる為に自ら川に飛び込んだのではと思う。大蛇になった八郎太郎伝説も絡めて秋田のその風土を読み込んでいく。
帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】

帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/02/19 (金) ~ 2021/02/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

凄え舞台。「兎にも角にも絶対観ておいた方が良い」としか言いようがない。よくもこんな脚本が書けたものだ。
日米開戦前、総力戦研究所に集められた民・官・軍の若手のエリート達。シミュレーションを試行するも結論は日本必敗。しかし日本は戦争に突入し、シミュレーション通りに敗けた。
戦後、同僚の三回忌に奥さんの居酒屋に集まる面々。そこで即興劇宜しく日本がどうやって間違えていったのかを再現してみせる。
役者陣は実際に飲み食いし、とことんリアルを追求。黒澤明の『どん底』を思わせる演技合戦。
もうこれは映画ではないか。カメラを回せば、大島渚の『日本の夜と霧』のような作品が撮り上がる完成度。岡本喜八の『日本のいちばん長い日』や庵野秀明の『シン・ゴジラ』調のポリティカル・エンターテインメント。(ゴジラは日米開戦。)
黒澤明(原作山本周五郎)調の人間の熱い血がどくどくと脈打って流れている。演出の狙いは『生きる』の後半っぽくもある。
独りアウトレイジの粟野史浩氏はいつもながら最高。
この題材をエンターテインメントにする作家の力量に敬服。

ネタバレBOX

南部仏印進駐をPOINT OF NO RETURN(帰還不能点)として日本史を俯瞰。
ニコニコと皆の即興劇を見守る未亡人黒沢あすかさんが一つの軸。クライマックスの旦那との出逢いのシーンは美しすぎて涙が出た。自殺を図る女を必死で止める男。敗けると判っていた戦争を止められなかった事への自責の念により、自己犠牲と他者奉仕による贖罪の日々。「私一人を救ったところで他のみんなは救えないじゃないか?」「みんなを救えないことが一人を救わない理由にはならない!」・・・参りました。
絶対に敗ける日米開戦を本当に止めることは出来なかったのか?ラストは時空を越え、何とかしようと止める方法を模索するメンバーの激論で終わる。この題材で感傷ではなく、この終焉に感服。これはもうある種の現代日本史運動なのでは。
『白い星』~シロイヒカリ~

『白い星』~シロイヒカリ~

100点un・チョイス!

ザ・ポケット(東京都)

2021/02/10 (水) ~ 2021/02/14 (日)公演終了

満足度★★★

『僕だけがいない街』系のリピート物語。10年前、恋人が刺殺された未解決事件を今も引き摺る主人公。ふと気付くと事件当日にタイムスリップしていた。何とか恋人の命を守り、犯人の正体を突き止めようとするも・・・。
花奈澪さんを久し振りに観た。(冒頭でいきなり刺殺。)2019年11月の『魔術士オーフェン はぐれ旅-牙の塔編-』以来か。この御時世、無理してでも観ておかないと本当に後悔する羽目になる。青木素姫(そおひ)さんが雛形あきこ似で印象に残った。三村貴恵さんは見覚えがあるのにそれが何だったのか思い出せなかった。
凄く好感度の高い運営スタッフで気持ちが良かった。

ネタバレBOX

やたら説明調の幼い台詞が気になる。話にのめり込む為には主人公である修斗の情念に感情移入させないと駄目だ。執念が力ずくで時空間をねじ曲げたようなエネルギーが。この設定で押し切るにはパーツが足りないような。ホームレスのエピソードももうひと工夫。
何度もやり直せたら人生は正解に辿り着けるのだろうか?
フェイスシールドの透明シールを付けたまま観ようとしていて、気付いた隣の方が親切に剥がしてくれた。どうも有難うございました。
シンデレラ

シンデレラ

NBAバレエ団

東京文化会館 大ホール(東京都)

2021/02/06 (土) ~ 2021/02/07 (日)公演終了

満足度★★★

バレリーナを夢見る少女。教室では雑用係としてレッスンさせて貰えない。夜中、無人の教室に貼られたポスターから三人の精霊が現れ、少女にレッスンを付ける。これはまさしく、ジャッキー・チェンの傑作『拳精』。古き良き功夫映画の精神が現代版『シンデレラ』にも流れている。ジョン・ウィリアムズ調の生オーケストラも素晴らしい。第二幕は宮廷の舞踏会。道化役の新井悠汰氏の身体能力に驚く。ヴィラン姉妹の喜劇パートがやたら長い。単調に所謂『シンデレラ』がなぞられて違和感さえ覚える。しかし、これには仕掛けがあって・・・。幻のフランチェスカ・ヘイワードversionもいつか観たい。

ネタバレBOX

王子様との恋が実ってハッピーエンド風味の真っ只中、12時を指した巨大な時計が降りてきて夢の終わりを告げる。全てが引っぺがされ、教室に独り取り残された少女。まさかのBAD ENDを思わせるも、ヴァイオリニストが教室に入ってくる。少女が落としたシューズを拾い上げる彼の服からは道化の衣装がはみ出している。
現実の中に夢の欠片が幾つも転がっていると云うラストに成程。
ただ第二幕がイマイチかなあ。
絶対、押すなよ!

絶対、押すなよ!

東京AZARASHI団

サンモールスタジオ(東京都)

2020/12/22 (火) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

2020年のラストに観劇出来て良かった。不条理デス・ゲーム系の話なのだが、集められたのが若き少年少女ではなく、随分とくたびれたおっさん四人というところが見事。ほぼどうでもいい与太話の応酬が延々と続く。癖の強い四人のおっさんがひたすら与太り合っている中、紅一点の美女(神崎菜緒さん初舞台!)がぐっと笑いを堪らえてクールに澄まし顔。その何とも言えない空気感が最高。客席は皆マスク姿ながら爆笑が鳴り止まない、揺れる聖地サンモールスタジオ。これぞ東京AZARASHI団。
渡辺シヴヲ氏の役者としての深みを堪能。
四十年振りの小学校の同級生との再会が、自己存在を震わすエネルギーと化す。
90分、怒涛の笑いのジェットコースター。

ネタバレBOX

個人的にも今年一年は地獄巡りのようであったが、何とかかんとか生き延びようとそんな気持ちになったラスト。「どうにもならない事なんてどうにでもなっていい事」、ブルーハーツの『少年の詩』のような気分。
オペラ座の怪人

オペラ座の怪人

劇団四季

JR東日本四季劇場[秋](東京都)

2020/10/25 (日) ~ 2022/01/10 (月)公演終了

満足度★★★★

開幕からお馴染みのテーマ曲。これを上手くアレンジしたのがBOØWYの『LIAR GIRL』で、いつも連想してしまう。四季劇場[秋]は13列目から段差が始まるので、後ろでも充分観やすい。今回センター席は6列目からの使用、横は一席おき。
クリスティーヌ役の山本紗衣さんの歌声の凄まじさ。これを毎日やるのか!?
全員の歌唱力のレベルが自分の観劇史上最高峰。それだけで金が取れる。
映画を先に観たせいで、よくここまで舞台美術を再現できるなと感心。ファントムに拐われたクリスティーヌが長い階段を降り、地下湖をボートで渡っていく幻想的なシーンが美しい。床から無数の蝋燭が生え、天井からは鉄格子、左右から燭台やら彫刻やら。ティム・バートンの『バットマン・リターンズ』だ。
32年前、チケットがあったのに観れなかった、個人的に幻だったミュージカルを到頭観ることができた。

ネタバレBOX

物語は永遠のテーマである、『醜男の叶わぬ恋』。
ラストシーンがよく出来ている。ファントムはクリスティーヌと恋人を逃がし、自らは死を選ぼうとする。そこに一人戻って来るクリスティーヌ。はっとするファントム。だが、クリスティーヌはファントムに貰った指輪を返しに来ただけだったのだ。チャップリンの『街の灯』を思わせる演出。素晴らしい。
痴人の愛 ~IDIOTS~

痴人の愛 ~IDIOTS~

metro

ザ・スズナリ(東京都)

2020/10/22 (木) ~ 2020/10/27 (火)公演終了

満足度★★★★

〈片岡版〉
地獄のような物語。自分を裏切り傷付け苦しめた少女に対し、未だに欲情を覚え渇望し崇拝する年老いた男。
とても男と女のある愛の一形態なんて優雅な代物じゃあない。地獄の果てしなさのような。ナオミが覚醒剤だとしたら腑に落ちる。
舞台美術がお見事。オープニングの譲二の登場シーンから最高。
黒子(?)の影山翔一氏がこなす無造作な舞台転換も痛快。
『テネット』方式の逆行モノでもある。

ネタバレBOX

ラストはスズナリに雨が降る。
雨の中、ずぶ濡れになって野花を摘み、小さな花束を譲二に手渡すナオミ。
その抒情性で終わる。

この原作に何故か乗れない訳は、ナオミに惹かれないことと譲二に感情移入出来ないこと。語られるのは性的なフェティシズムばかり。ナオミは人間ではなく、人を盲目にし狂わせ中毒にさせるものの象徴としよう。するとこれはもう一人の自分自身との取っ組み合いとも解釈できる。自分を崇拝したり蔑んだり愛して憎んでのくんずほぐれつ。黒澤明の『白痴』みたいだ。
私はだれでしょう

私はだれでしょう

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/10/09 (金) ~ 2020/10/22 (木)公演終了

満足度★★★★

平埜生成(ひらのきなり)氏がとにかく凄い。
この役を完全に自分のものにしている。 他の人には再現の出来ない産物。顔芸、ダンス、タップと平埜氏の大暴れを熟練の超一流役者陣がガッチリ脇を固め、受け止め切っての後押し。ピアノの朴勝哲氏との息もピッタリ。初演の川平慈英氏バージョンも観てみたかった。(当て書きらしい)。
朝海ひかるさんが長身で吉田栄作氏との並びが綺麗。吉田氏はかつての井上順氏や布施明氏を彷彿とさせる味のある良い役者になっていた。シリアスな役柄の朝海さんが愉快に陽気に踊り出すと場の空気が一転してパッと明るく。
朝海・平埜コンビの『日野浦姫物語』をまた観たくなった。

戦後まもなくNHKラジオで尋ね人の放送を開始。そこに記憶喪失のサイパンからの帰還兵が訪れる。「私はだれでしょう」。

ネタバレBOX

話はいつもの通りの纏まりがない感じ。いろんな要素を無理矢理こじつけているような。けれどそれが退屈でも不快でもないのが素晴らしい。ジブリ的に登場人物に嫌な奴が一人もいない為、微笑ましく観ていられるからか。GHQとの戦いや平埜氏の正体などには余り興味が湧かない。ラスト近くの台詞、『私は誰であるべきなんでしょう?』が胸に来る。
敗戦直後、不幸の共有者としての連帯感。八幡みゆきさん演じる女性分室員が象徴する純粋なる善意が、其処ら此処等に満ち溢れている。どうしようもない不条理に立ち向かう弱者の最後の武器は、無心の善意だけなのか。

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