左手と右手 公演情報 小松台東「左手と右手」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    タイトルから楳図かずおの『神の左手悪魔の右手』を連想するが全く関係ない。
    何でだが分からないが中国映画の『ただいま』を想起。何か中国とか韓国とかの80〜90年代の暗い映画はこんな雰囲気だった。日本だと自主映画にこんなテイストが多かったような。
    濡れ場のない日活ロマンポルノ、古いAVのドラマ、ピンク四天王のような空気感。嫌な事件が起こる前触れの息遣い。

    宮崎県の田舎町、十代から付き合ったり別れたりを繰り返して来たアラフォーの男女(松本哲也氏と吉田久美さん)。今は男の自宅の古い一軒家で同棲している。そこに訪れる来客との会話の中からゆらゆら浮かび上がる二人の実存、たなびく白煙。矢鱈飲み物と食べ物が出てくる。

    吉田久美さんは綺麗で絵になる。冷蔵庫から麦茶を注ぐ。
    松本哲也氏の諦観とスーパーの駐車場で買ってきたたこ焼き。
    嫌な社長役の佐藤達(とおる)氏も強烈。やり過ぎ位の下卑た目線。視線で女を撫で回す。

    冒頭から終演まで目に映る光景は変わらないが、二人の姿は驚く程違って見える。醸成した空気に演出をつけているような作品。卓越した舞台美術。

    ネタバレBOX

    土着系ドメスティックな日本映画は大嫌いな為、前半は辟易した。だが三組目の来客、東京時代のバイト仲間のカップルの登場から爆発的に面白くなる。全ての眠っていた仕掛けが音を立てて回り始め、舞台がうねり出す。
    MVPは元ノベライズ作家役の桜まゆみさん。凄すぎるキャラ設定。何て台詞だ。こういうずれた自意識の女をこの空間に放り込む恐ろしさ。一気に客席の空気が変わり、どっと笑い声が上がり始める。かなり難解に込み入った喜劇だ。居酒屋のマスター役の今村裕次郎氏の合いの手のような台詞も絶妙。「ここの住所を教えて下さい!」

    プロローグとエピローグ、新興宗教の勧誘に来る妹役・小園茉奈(おぞのまな)さんのエピソードも巧い。ポカリスエットを矢鱈飲み干す。
    冒頭では駄目な男に引っ掛かってそこから抜け出せない姉に見える吉田久美さん。早く本当にいるべきところに行けと。だがエピローグでは何一つ変わっていないにも関わらず、こここそが思い描いていた“ここではない何処か”のようにすら感じる。見事な作劇。

    Shoot BoxingのTシャツ。

    0

    2022/11/01 09:58

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大