猫、獅子になる 公演情報 劇団俳優座「猫、獅子になる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    清水直子さん見たさに足を運んだ。宮沢賢治の『猫の事務所』がテーマ。
    猫の第六事務所は猫の世界の歴史と地理を調べる役場(モデルは郡役所?)。そこの四番書記の窯猫〈かまねこ〉は、夜かまどの中で眠る性質がある為、煤で真っ黒に汚れている。その為他の三人の書記から嫌われ虐められていた。事務長だけは仕事の出来る窯猫を評価。そんなある日、風邪を引いて一日休む窯猫。三人は有る事無い事を事務長に吹き込む。言いくるめられた事務長もぐるになり、翌日窯猫の仕事を取り上げ無視を決め込む。悲しくて悔しくてぼろぼろと泣き続ける窯猫。それを見ていた獅子(モデルは蔵相?)が事務所の閉鎖を命ずる。

    1984年、中学校の演劇部で『猫の事務所』の初期形を自ら戯曲化し上演しようとする部長の美夜子(清水直子さん)。当事者を劇に参加させることによって校内での虐めを告発しようと思っていた。

    2019年、ずっと自室に引きこもり続け五十歳になった美夜子。劇団員をやっている姪の梓(滝佑里〈ゆうり〉さん)が『猫の事務所』の舞台を小学校で上演する話に興味を示す。

    宮沢賢治が発表する前に書いた初期形(草稿)のラスト、登場する誰も彼もが可哀想な存在であることを作者は述べる。この幸福を奪い合い不幸を押し付け合う、不毛な因果律が組み込まれた壊れた世界。優越感と劣等感の果てしないシーソーゲーム。どうにか脱け出す方法はないものか、と。

    ネタバレBOX

    この脚本は好きじゃない。何かつぎはぎだらけ。いろいろ詰め込みすぎたのか、考えすぎたのか。こんな問題に正解がある訳ではない。死のうと思っている人間を説得して、社会と共存して生きる妥協点を見つけるような途方もなさ。人生に正解はないが、明らかな誤答はあるということか。
    務所帰りの知り合いが言ってた話がリアルで、出所まではあれこれと外界に出たらああしようこうしようと何年も思い描くもの。出たら二三日でそんなこと全部吹っ飛んでしまう。現実に出来る事が限られ過ぎていて選択肢などハナからない、と。結局人間は殆ど何も選べない。

    ただ、自分に関係のないものや理屈のないふっとした気分で見える世界は変わる。TVのチャンネルを変えるような気楽で適当なふざけた切っ掛けで別の生き方が始まる。大事なのは頭で考えないこと。自分と同様に周りの人間も大した考えで生きている訳ではない。
    「絶望という名の地下鉄に乗り込んで、鼻唄まじりで行くぜ、この世界を」

    最後まで宮沢賢治に逃避し続けて顔すら出さない座長がいい味。
    窯猫だった志村史人(ふみと)氏がラスト、獅子となって吼える。『ぼくは半分獅子に同感です。』とは、凄い文章。

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    2022/11/05 07:48

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