インディヴィジュアル・ライセンス 公演情報 24/7lavo「インディヴィジュアル・ライセンス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    最高の役者陣、大人の演劇、村上春樹にも通ずる文学性。後々今作を観たことが誇れるようになるだろう。

    『individual license』とは『個人免許』の意味。いつもちょっと取っつきにくいタイトルが損をしている。
    「インディヴィジュアル」と聞いてTHE MAD CAPSULE MARKET'Sの『HI-SIDE (HIGH-INDIVIDUAL-SIDE)』を想起した人も多いのでは。
    作品の完成度は高く、脚本のお手本のような出来。これはフェミニズムも含め時代に合致、映画に向いている。本当ケチのつけようがない。敢えて言うならば教官と元夫の漫画家エピソードが安っぽい位。脚本の米内山(よないやま)陽子さんにリスペクト。こんな真剣な作品を真剣に観たかった。

    家族旅行、旦那(有馬自由氏)が運転する車で高速を走行中、海老名でふと垣間見えた富士山の美しさ。妻である主人公(新井友香さん)はこの美しさに天啓にも似た何かを感じる。ブラック企業のIT土方で身も心も追い詰められている息子(平井泰成氏)。専門学校生のコンビニバイト、推しに愛を捧げることだけが生き甲斐の娘(環幸乃さん)。旦那は定年退職し、嘱託として気ままに過ごしている。ふと免許を取ろうと思い立つ主人公。

    新井友香さんは凄い。梨を剥く演出は何万言の台詞よりも物を言う。
    有馬自由氏は奥田瑛二スタイル。巧いねえ。
    平井泰成氏はふてくされた今現在の若者の依り代。ネガティヴのカリスマ。山本圭が学生運動家崩れのこじらせ左翼を象徴したように時代を象徴する存在になって欲しい。
    環幸乃さんはほぼ素なのでは。童顔に過剰な憎まれ口、キャラ的にゆたぼんを想起。
    金田一央紀(きんだいちおうき)氏はパブリック・イメージ通りのクズっぷりを炸裂。見事。
    森谷(もりや)ふみさんも凄い。この人物造形はリアル。彼女が本物だから嘘臭いファンタジーにはならない。現実に労働して生活している痛みの中から零れ落ちる煌めき。

    凄く人間の核心的な部分に手を伸ばしている作品。餃子のエピソードが秀逸。必見。

    ネタバレBOX

    環幸乃さんの推しの結婚ネタはタイムリーで櫻井孝宏を連想。
    二役やる人は過剰に別人であることをアピールするのだが、平井泰成氏だけはそのまんま。
    熟女の同性愛を『枯れ百合』と称することを初めて知った。

    『推し』と接している時だけが生きている実感を得られる。これはかなり深い話で、キリストや仏陀、日蓮や天皇も『推し』の一つとして認識するならば普遍的な人間の思考パターン。人間はそうやって生きてきたのだ。
    「ママ、推せる!」は名台詞。

    途中、家族再生の話ではなく、『テルマ&ルイーズ』のように全て放り出して二人で逃避行に走って欲しいと願った。ラスト、北海道の「天に続く道」での昂揚は思い描いた通り、文句無し。
    年齢も性別も肉体関係も超越したラブストーリー。好きになれる人間と今お互い出会えた幸せ。世界は新しい扉を開く。何て素晴らしいのだろう。

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    2022/10/30 21:11

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