実演鑑賞
満足度★★★★
思わぬ傑作。原作も読みたいと思った。
小津安二郎『父ありき』や成瀬巳喜男の『晩菊』を想起。驚く程に人の心の深奥部まで到達している。
浦沢直樹の大傑作『プルートゥ PLUTO』をベルギー人のシディ・ラルビ・シェルカウイが演出したものを昔観たが、作品の魅力をこそぎ落としたような舞台化。アートがやりたいのなら、オリジナルでやってくれ。原作の魅力はこんな安っぽいもんじゃない。日本漫画の外人アート化への危惧。今作もそんな偏見で凝り固まった嫌な目線で臨んだ。
床に広げた巨大な白いシーツが人力で吊り上げられていく冒頭。時間の表現をそのシーツの揺蕩いで顕在化。上手にはギターやコントラバスや笛などの楽器、代わる代わる役者によって生演奏。車椅子を手に持った輪っか一つで表現したり、コロスのように一つの役を大人数で表したり、練りに練った工夫が随所に散りばめられている。
主人公役の近童弐吉氏は学生服を着込み、そのまんまで中学生を演じてみせる。ニカッと溢れる笑みが痛快。
主人公の妹と体育教師役の吉越千帆さんが可愛くて目立った。
主人公の悪友役の松崎将司氏も大柄で魅力的。
主人公の父親役、猪俣三四郎氏のミシンをかける佇まい。
学校のマドンナ役の藤井千咲子さんは村上龍の『69』を思い出した。
1998年4月9日、48歳の主人公(近童弐吉氏)は酒に酔って意識を失う。気付くと時は1963年4月7日、自分は14歳の姿に。訳も解らぬまま中学二年の生活を送る羽目に。人生二周目チートで無双、異世界転生モノ乗りの学校生活。そこで大切なことを思い出す。この年の夏休みの終わり、8月31日に父親が謎の失踪を遂げることを。何故、優しかった父は家族全員を捨てて去ったのか?果たしてその過去を変えることは出来るのか?