ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】
シス・カンパニー
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/07/07 (木) ~ 2022/07/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕65分休憩15分第二幕70分。
ザ・ウェルキンとは英語の古語で“天空”の意味。日本だと“天つ空”みたいな感じか。1759年、ハレー彗星の到来に湧き立つ英国の片田舎。裕福な屋敷の少女が無惨なバラバラ死体で発見される。犯人として男女2名が逮捕され、裁判の後、男はすぐに公開縛首。屋敷の使用人であった共犯の女(大原櫻子さん)は事件のあらましについては黙秘したが自身の妊娠を主張。当時の死刑制度では妊婦は死刑を免れることが出来た。その真偽の判定の為、集められた陪審員は12名の妊娠経験のある女性。ベテラン助産婦・吉田羊さんはかつて自身が初めて取り上げた赤ん坊である彼女の命を何とか救おうとする。
客層は大原櫻子さんのファンが多いのだろう。11000円の高額チケットながら、きっちり入っていた。恐るべし大原櫻子!初めて観たが魅力的な女優。(LIVEはフェスで観たことがあるがピンと来ず)。序盤の鬼気迫った存在感に呑まれた。
吉田羊さんは手堅い。観客のガイドラインとしての役割を粛々とこなす。
那須佐代子さん、凛さんの親子初共演にも興奮。(観ていて初めて知って驚いた)。佐代子さんのメタ台詞、「自分のお腹を痛めて産んだ子ですもの。可愛くない筈がない。」に反応する観客もちらほら。
真夏の夜の夢
東京シティ・バレエ団
日生劇場(東京都)
2022/07/16 (土) ~ 2022/07/18 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕65分休憩20分第二幕40分。
非常にバレエ向きの題材。
やっとこの話の主人公がヘレナ(大内麻莉さん)であることに気が付いた。元彼のディミトリウス(西澤一透〈かずと〉氏)もライサンダー(濱本泰然氏)もハーミア(石井日奈子さん)に夢中。誰にも相手にされないヘレナ。見るに見かねた妖精王オーベロン(吉留諒氏)は惚れ薬を使って男達をヘレナに夢中にさせる。薬の魔法は解かれるが、最後はディミトリウスと結婚に至る。
メンデルスゾーンの『結婚行進曲』は今作の為に書かれたものだった!
妖精パック(渡部一人〈かずひと〉氏)の運動能力と肉体美に目を瞠る。
開演前と幕間に会田夏代さんの見事な解説が入り、大変解り易い。
きゃんと、すたんどみー、なう。
やしゃご
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/07/07 (木) ~ 2022/07/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
驚く程面白い傑作。非常にブラックな笑いをまぶしていて、イメージと全然違った。笑いと真剣に向き合う姿勢にリスペクト。何か適当な安い人情噺に逃げていない。障害者を扱えば「24時間テレビ」のようにお決まりの文言が繰り返されるしかない世の中。そこをガッチリ笑いに徹してみせた。
事前の告知が下手なのか、糞詰まらない道徳話だと思っていた人々は損をした。喜劇としての完成度の高さ。引越し業者の受難の視点からこの歪な家を語らせるテクニック。
タイトルはリバティーンズの『Can't Stand Me Now』(君は私にもう我慢できない)から来ているのだろう。
知的障害者の長女(豊田可奈子さん)を持つ高木家。両親はとうに亡くなり、世話をする次女(とみやまあゆみさん)は結婚し家を出ることに。残されるのは三女(緑川史絵さん)だけ。長女雪乃は「自分も施設の友達のマサシ君と結婚する」と暴れ出す。てんやわんやの家で一向に進まない引っ越し。途方に暮れる業者の二人(海老根理〈おさむ〉氏と清水緑さん)。部屋中にばら撒かれるハッピーターン。
岡野康弘氏にやられた。『花柄八景』の落語家師匠から、今回はガチ知的障害者マサシ君。昔よくバスで見かけた『仮面ライダー』の名前をずっと羅列し続ける男にソックリ。このリアルさ、言葉に対する反応と返し、本物だ。凄い役者がいるものだ。デ・ニーロ・アプローチ。
清水緑さんの使い勝手のよさ、連発される「すみませ〜ん」。こういう娘、一人置くだけで場の空気が持ち、話は成立する。
清水緑さんの舞台にハズレはない。『ガマ』が楽しみ。
『おわり』『はじまり』
大駱駝艦
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/07/14 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『おわり』
素晴らしいPUNK ROCK、ナゴム系。
下手に銀色の消防車のゴムホースのようなものが丸まった物体、上手に侘び寂びを感じる曲がり萎びた老木、奥に巨大なシーソー。
御歳79の麿赤児氏の今作における宣言からスタート。これは彼なりに到達した宇宙観、暗黒舞踏でこの世界の成り立ちを解き明かしてみせる。
麿赤兒氏は自身の死を見据えている。今、こんな作品をリアルタイムで体験できる者は運が良い。
観客全員に配られる五十周年記念パンフレットがオールカラーの凄い出来。
NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-
『NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-』製作委員会
シアターGロッソ(東京都)
2022/07/01 (金) ~ 2022/07/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
TEAM BLACK
1992年、フジの深夜でやっていた『NIGHT HEAD』。豊原悦司と武田真治の超能力を持つ兄弟が研究所から脱走し、その力を新世界の扉への礎とする物語。元ネタは宮部みゆきの『龍は眠る』であろう。「兄さん、頭が痛いよ」は未だに愛される名台詞。映画も観に行ったが完結とは程遠いまま終わってしまった。この手の作品は完結しようがないのか。2021年アニメとして新たに描かれたものが今作の元となっている。
2014年、超能力者の霧原兄弟は研究所に隔離される。15年後、結界が破られ森の中で目を覚ます。しかしこの世界は全く理解が及ばないディストピアで、しかも2041年であった。
消えた12年間、一体何があったというのか?
霧原直人役は鍵本輝氏。GACKTっぽいルックスで、サイコキネシス(念動力)を操る。
その弟、霧原直也役は大崎捺希(なつき)氏。リーディング(読心術)で人の心に感応する。
超能力者を取り締まる特務部隊には、黒木タクヤ(木原瑠生〈るい〉氏)と黒木ユウヤ(矢部昌暉〈まさき〉氏)の兄弟が。
スタイル抜群エロエロのヒールが元モー娘。の飯窪春菜さんで驚いた。
元宝塚の悠未ひろさんは要所要所を歌声で締めてみせる。
アクションは流石に後楽園ヒーローショーの聖地、ずば抜けている。
かなり凝り練った設定で、SF好きには面白い。
石ノ森章太郎の『サイボーグ009完結編』っぽい世界観。
私の恋人 beyond
オフィス3〇〇
本多劇場(東京都)
2022/06/30 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
かなり面白かった。大林宣彦の『海辺の映画館』や今敏の『千年女優』を想起する、時空間を転生し駆け巡るラブストーリー。
2015年上田岳弘による小説刊行、2019年舞台化、今回はバージョンアップしての再演。
渡辺えりさん67歳、小日向文世氏68歳が、のん28歳と遜色なく歌い踊る音楽劇。洞窟のクロマニョンからナチス収容所から満洲から病院から時計屋からオーストラリアの荒野から、世界中をコスプレ三昧で疾走。10万年の時を越えてまだ見ぬ“私の恋人”を探し続ける“行き止まりの旅”。
早着替えの連続で一体何役やったやら、めくるめく世界線とキャラクターがカオティックにばら撒かれる。
アンサンブル的に脇を固める天使達4人が更に素晴らしい。このスピーディーな演出をつけられる渡辺えりさんの腕前。
山田美波さんはMAXのLinaっぽい長身、奈良美智(よしとも)の描くしかめっ面の子供のイラストに似ている。兎に角インパクトがある。
坂梨磨弥さんは松岡茉優っぽい見事なバレエダンサー。
関根麻帆さんは福島弓子っぽい顔立ちで元気満々走り回る。
松井夢さんは何となくあーりんっぽい愛嬌。
矢張り、のんの存在感はずば抜けている。彼女以外がこの役をやると全く別な話になるだろう。替えの利かない唯一無二のカリスマ性。内面が全く想像つかない。これぞ“純少女”か。アイドル・アングラ。
ひたすら弾き続ける三枝(みえだ)伸太郎氏のピアノが最高。
ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】
劇団四季
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2022/05/21 (土) ~ 2022/08/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕80分、休憩20分、第二幕55分。
原作者は『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユーゴー。
自分は多分、サイレントの『ノートルダムの傴僂男』を観ている筈。(1923年公開)。エスメラルダを抱きかかえて暴れるカジモドは悪役の描かれ方だった印象。
カジモドはフランス語で「ほぼ」、「殆ど」の意味。亜人的なニュアンスで名付けたのだろう。
1996年、ディズニーのアニメ版を映画館で観て、余りのつまらなさにショックを受けた。(今観ると違うかも)。美男美女の恋愛物語を醜悪な奇形がアシストするような都合のいい話。そもそもこんな話だったか?何もかもがディズニー調の嘘臭いヒューマニズムで安っぽく味付けされた粗製品に変えられてしまう昨今。その時の失望感があるので逆に今回どうアレンジするのか、妙に気になった。
結論から言うともう一回観たいくらいの良い出来。話は例によって『醜男の叶わぬ恋』と見せつつ、もっと深みにまで到らんとする。手塚治虫×荻田浩一の『アラバスター』も同テーマだった。一人ひとりの歌声が素晴らしい。大小六つの鐘が音もなくスルスルと降りてくる舞台美術の厳かな完成度。今回、役者陣は額に極小ピンマイクを貼り付けていた。(よくあるのはもみあげ部分)。
真の主人公、フロロー大助祭(司教に次ぐ高位、その下に司祭)役は野中万寿夫氏。キリスト教に人生を捧げた筈が、まさかの情欲(リビドー)に襲われ惑わされていく。
先天的に背中と眼の上に醜い瘤を持つ傴僂男・カジモド役は金本泰潤氏。二つの声を見事に使い分け、いざ歌わせれば絶品。劇中にてメタ的に醜い被差別者を演じるという演出がズバリ嵌っている。
ジプシーの踊り娘、絶世の美少女のエスメラルダ役は松山育恵さん。雛形あきこと仲里依紗を足したような美人。この娘が象徴するものは哲学的命題。神への信仰を裏切ってでも我がものとしたい本能的衝動。理性を簡単に捻じ伏せる、動物に本質的に組み込まれたDNAの強さ。彼女の美しさの前で貴賤の誰もがひれ伏し、理由も解らぬまま崇拝していく。
大聖堂警備隊長フィーバス役は佐久間仁氏。職務を裏切ってまでエスメラルダに惚れ抜く。
金本泰潤氏が登場すると傴僂の甲羅のようなアイテムを装着、顔を指に付いた黒のドーランでこすると一瞬でカジモドに变化。声も嗄れ、醜い傴僂男が現れ物語が滑り出す。
もんくちゃん世界を救う
U-33project
王子小劇場(東京都)
2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ストーリーテラーの中村透子(とうこ)さんが本作の絵本を手に持ち、読み聞かせを始める。文句ばかりで喧嘩が絶えない老人夫婦の話を子供向け番組風味のコミカルなアクションをまぶして展開。皆で同じ動作をダンスのように振り付ける様がリズミカル。子供番組のノリで話は進む。おじいさん(伊藤瑛佑〈えいすけ〉氏)が向かったのは牛丼屋。牛丼の吉田家の店内放送がなか卯の水樹奈々そっくり、何故かaikoばかりかけている。そこにいたゆでちぃ子さんがおじいさんの目に止まるのだった。
ゆでちぃ子さんを中心に桃太郎を模した一行、不条理な世間に文句を言えない弱者達が鬼退治に向かう。会社でパワハラに遭っている犬(柴崎史也氏)、学校で苛めに遭っている猿(早見蛍〈けい〉さん)、誰からも無視されている雉(田中天さん)。町中に痛みが溢れ、被害者の憎悪が向く先は加害者ではなく、何も出来なかった自分自身。
中村透子さんが最高、ずっと観ていられる。彼女のリアクション芝居は秀逸。赤鬼役の平安咲貴さんはこういう嫌なキャラがよく似合う。小泉愛美香さんはもう神々しい。(ただファンなだけ)。
たぐる
ここ風
テアトルBONBON(東京都)
2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
約2週間前に体調不良で降板が発表された三谷建秀氏。代わりに脚本・演出の霧島ロック氏が浜辺のバーのマスター役を兼ねた。これが流石に何の違和感もないもので、三谷氏バージョンだったらどういう構想だったのか気になるところ。
東京から田舎の海辺の家に独り越してきた元女医・市橋一花(もなみのりこさん)。寺島しのぶを思わせる凛とした独身女性。元同僚(天野弘愛さん)とその息子(岡野屋丈氏)、元患者(はぎこさん)が遊びに来る。更にリョウと云う男に会いに訪れるフリーライター(岸本武亨〈たけゆき〉氏)や勝手に家に入ってくるイケメン久右ェ門(花井祥平氏)。彼女に密かに恋する地元の床屋(?)の斉藤太一氏。記憶喪失のインド人ジョニー役の香月健志氏は最高だった。
何の変哲もない数日間で綴られるのはまさに文学で、作家の創作意図の深さに驚く。誰もが誰かに赦されたがっていて、一体何をすればいいのか判りはしない。けれども何かをせずにはいられない。この物語の全体像が見えた時、観客はこらえきれぬ涙を零す。是非観に行って頂きたい。
セイレーンの痕
たすいち
吉祥寺シアター(東京都)
2022/06/23 (木) ~ 2022/06/27 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
いきなり開幕からピーズの『しげき的な日々』が轟く。
「バカはたばになって がなっているだけ
バカはちぢこまって だまっているだけ
きどってねーで スリルだぜ
しげき的な日々」
作品世界とは全く関係なく、15周年を迎えた劇団の雄叫び。人生やったもん勝ち、吉祥寺シアターが沸く。
幻想的な舞台美術は海上にぼんやりと浮かぶ光る金属の環。ギリシア神話の海の怪物セイレーン、美しい歌声で人々を惹き寄せ惑わせたまま喰い殺す。
物語はカリスマ的人気を博す女性シンガーの歌声に導かれた人々の群像劇。岸口萌香役の北川理恵さんがメチャクチャ説得力のある歌声、楽曲の完成度も高い。(本物の歌手だった)。『Polaris(ポラリス)』は頭上に輝く北極星、闇夜を彷徨う旅人達の唯一の目印。それを遠く見上げる者達一人ひとりに「大丈夫」と優しく告げてくれる。ライブシーンが盛り上がるので、もっと観たかった。
信者のように熱狂し取り憑かれていくファン達。そこに疑念を感じた者達がライブハウスに潜入する。
同時に描かれるのは、とある女子高の合唱コンクール前の様子。やる気をなくした教師(中田暁良〈あきら〉氏)や何かに悩み続けている生徒(永田紗茅さん)、それを心配する友人(中野亜美さん)。
小柄なチカナガチサトさんと身長182cm!の杉田のぞみさんの対峙するシーンが絵になる。
印象に残るのは信望厚い学級委員長の中野亜美さん。彼女はどんな役を演らせても何か気になる存在感。
ファンの一人、小野里茉莉(おのざとまり)さんが可愛かった。
ゴンドラ
マチルダアパルトマン
下北沢 スターダスト(東京都)
2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『黄色いゴンドラ』
凄い才能。ウォン・カーウァイの登場時みたいな。触れるもの皆黄金に変わり、未だ誰も観たことがない作品世界の扉が開かれる。
よくある設定の三人芝居なのだが、辿り着く到達点に驚く。一体ここは何処なんだ?数十分の観劇(しかも初日2000円!)で相当参った。これは是非観に行った方がいい。コメディとしても秀逸。
山本直樹のエロ漫画みたいな開幕で、東京から田舎の実家に帰ってきた無職引き籠もり駄目男(坂本七秋〈ちあき〉氏)が寝たきりの父親の訪問介護のヘルパー(小久音〈さくね〉さん)に恋をする。その女性は天然?というかかなり頭が悪く、会話もなかなか成立しない。これシナリオなの?と驚く程、自然に間の抜けた噛み合わない会話のラリー。駄目男の叶わぬ恋模様かと思いきや、全くそんな話ではない。宇宙論だ。
嵐になるまで待って
CfY
新宿村LIVE(東京都)
2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
原作は1991年に発表された小説で1993年に舞台初演。韓国映画『超能力者』に感じが似ているなと思ったが、こちらは2010年の作品。
『ナルニア国ものがたり』がアニメ化、急遽声優のオーディションを受ける中舘早紀さん。その独特な声が評価され見事合格。ベテランの中3声優・環幸乃さん、主演の人気俳優・土屋兼久氏と顔合わせ。そこにアニメの音楽を担当する作曲家・三浦剛(たけし)氏とろう者(聴覚障害者)である姉の椎名亜音さんがニューヨークから挨拶に訪れる。実は土屋氏と三浦氏には友人ギタリストに関わる因縁がありその場で口論、喧嘩となるが・・・。
狂言回しでもある精神医学教授役、近江谷太朗(おうみや・たろう)氏が印象的。カエルのぬいぐるみとやるユーモラスな腹話術。声が出なくなった中舘さんが何とか身振り手振りで伝えんとする必死のジェスチャーを、悉く外してみせるアドリブ満載の遣り取りに場内爆笑。声が出せない中舘さんが必死に笑いを堪える程の好き放題。観客の心を巧みに掴み掌に乗せて操ってみせるサイコロジーは流石のベテラン技。手話の腕前も凄い。
「劇団6番シード」から椎名亜音さんと土屋兼久氏が参加。
ろう者の雪絵が物語のキーパーソンになる為、流麗な手話が飛び交う。椎名亜音さんをこの役に選んだセンスの勝利。いつも早口で捲し立てる彼女が一言も喋らない役で見事な存在感、全く凄え女優だ。奥さんがろう(聴覚障害)の女優、忍足(おしたり)亜希子さんである三浦剛氏も本物の手話を披露。(ちなみに二人の出会いは今作の2002年の再々演公演での共演)。
手話が理解出来たならばもっと楽しめる作品だろう。
テーマは『聴こえない声と言葉にできない想い』。障害で声を出せない人もいれば、声は出せても本当の気持ちが伝えられない人も沢山いる。この世に満ち溢れた“聴こえない声”が人々を苦しめ、無意識を支配している現実。言語化すると途端に嘘になってしまう淡い複雑な想い。人に何かを伝えようとすることの難しさ、同じく他人の気持ちを正しく受け止めることの難しさ。人と人とが意思を疎通する唯一の手段、コミュニケーションの苦しみ。
バロック【再演】
鵺的(ぬえてき)
ザ・スズナリ(東京都)
2022/06/09 (木) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
初演を観ているので二回目。
野花紅葉(もみじ)さんの美脚がエロエロ。小崎愛美理(えみり)さんの秘書も良い。杉本有美さんの霊感NPOもやたら美人だった。
照明バッテリーの充電トラブル(?)で演出の寺十吾氏が舞台に登壇して突然の中断。充電休憩を挟んでの再開。寺十吾氏は土下座までしたが、観客は玄人でこの手のトラブルには慣れたもの。何の混乱もなく拍手で舞台の再開を後押し。逆に後半戦の雰囲気が良くなった程。
もうこれはホラーではなく、メタ的セルフパロディーの域に達しているのでは。
瀬沼さんのことを何も知らない
ライオン・パーマ
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2022/06/08 (水) ~ 2022/06/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
海辺の田舎町。舞台は人気ラーメン店に並んだタクシー運転手(草野智之氏)と市役所勤めの幼馴染(星野そのみさん)のエピソードから始まる。なかなか席が空かない人気店。一人どうも奇妙な客がいるようだ。その男の余りの気味悪さに、隣の喫茶店に集った町の顔馴染達が語り合う程。一人の男が登場したことにより小さな町にさざ波が立っていく様相はスティーヴン・キングの『ニードフル・シングス』を思わせる。
主演は瀬沼敦氏、役名もそのまま。長身で強面の妙な雰囲気は古尾谷雅人と田中哲司を足して更に異様な犯罪者のオーデコロンを振り掛けたような。全く内面を他者に類推させないこの男が観客の心を徐々に掴み、ある種の感傷を呼び起こすのは見事。
海沿いの小さな田舎町、花村怜美(さとみ)さんは町の男の誰もが恋するような華のあるホステス。ママのいないラウンジやクラブ的な店で男達に夢を売っている。彼女の所作が本当に魅力的で目を奪われる。
その店「ピンクムーン」の店長、 嶋澤秀展(ひでのぶ)氏はスリムクラブの真栄田賢を思わせるゴツさ。
狂言回し的な役回りのタクシー運転手、草野智之氏は元巨人の槙原寛己似。
人気ラーメン店「漫々亭」の主人、樺沢崇氏は若い頃の石橋蓮司に似た印象的な風貌。
ラーメン店に弟子入りする室谷靖氏は鳥越俊太郎っぽい。
ラーメン店の隣にある喫茶店のマスター、草野智博氏はモロ師岡に似た雰囲気で物語の謎を解くキーパーソンに。
喫茶店でバイトする高校生、本多正憲氏は競歩がよく似合う。オダギリジョーの若い頃みたい。
スーパーのパート役、斉藤優紀(ゆうき)さんがお色気ムンムンのミニスカでエロかった。
長目のコントが続いていくような奇妙な作風。そこにこの町で過去に起こった奇怪な事件が絡んでくる。そして第二幕からいよいよ物語は作家の語りたかった核心に迫る。
夏至の侍
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2022/06/07 (火) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「金魚金魚、鬼祓えや厄祓え、全てを流せや永久に
金魚金魚、生まれ変われや人となれ、命を繋げや永久に」
この印象的な劇中歌、作曲はもりちえさん!
昭和49年7月、記録的な台風が大分県に上陸。舞台はここから開幕する。由緒ある老舗の金魚問屋、その跡取り息子が新婚3ヶ月の妻を遺して水死。残された一家は、女主人(音無美紀子さん)、長男の嫁(板垣桃子さん)、女子高生の長女(長嶺安奈さん)、次女(大手忍さん)。その後二人の娘は自由と夢を求め家を捨てて出て行くことに。
昭和60年夏至が近付いたある日、それぞれ現実に敗れ果てた二人の娘、あてどなく足は実家へと向かう。
ステージ上部から降り続ける雨。裏返り、奥へと可動するセット、舞台美術は流石の出来栄え真骨頂。皆が差す何本もの黒い傘が印象的な場面転換を生む。
「夏至の侍」とは、夏至の水門開きの時、何処からか生まれ育った溜池に帰って来る金魚のこと。身体中傷だらけになりながらも生命力に満ち溢れた縁起のいい存在とされる。水車は台風で壊れたまま何年も放置され、水は腐り淀んだ死に池にもう金魚なんか育ちはしない。しかし閉業目前の金魚問屋の溜池で水面を跳ねる赤い金魚を見た者が現れる。
鈴木めぐみさん演ずる本家の女主人の優しさに救われる。
この劇団の顔といえば、客入れのもりちえさん。誰もが間違いなくファンになる。
関数ドミノ
イキウメ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/05/17 (火) ~ 2022/06/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
粗筋から藤子・F・不二雄の『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』を想像したが、M・ナイト・シャマランの『アンブレイカブル』だった。
2005年初演、2009年再演、2014年再再演。2017年寺十吾によるプロデュース公演。
地方都市の交通事故、横滑りした乗用車の助手席部分と歩行者がぶつかった。歩行者には何一つ怪我はなく、逆に車は大破。助手席に乗っていた運転手の娘は意識不明の重体。その事故を目撃していた複数の人物が保険屋によって集められる。誰もが納得のいかない“神の奇跡”。一人の男が半生を賭けて導き出した「ドミノ幻想」理論について語り出す。
サラサーテの盤
くじら企画
座・高円寺1(東京都)
2022/05/21 (土) ~ 2022/05/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』が大好きで、それを期待して観に行った。
内田百閒(ひゃっけん)の短編小説『サラサーテの盤』。
1904年にレコーディングされた『ツィゴイネルワイゼン』、作曲家サラサーテ本人がヴァイオリンを弾き、フアン・マネンがピアノの伴奏を。3分30秒辺りでサラサーテ本人のものと思われる謎の声が入っている。(伴奏者への指示とされている)。
主人公の長年の親友が亡くなり、遺された妻が生前旦那が貸していた物を返してくれと訪ねて来る。その中の一つがサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』のSPレコード盤。すぐには見付からず、探しておくと主人公は言う。
主人公ウチダ役の戎屋海老(えびすやえび)氏が奮闘。小日向文世や石橋蓮司を思わせるルックスでコミカルなマイムが絶品。夢と記憶の迷宮を彷徨い歩くような物語。どこかしら『銀河鉄道の夜』やつげ義春を想起する。「カラン コロ カラカラカラ」と頭上から音がする度にふと我に返るよう。ちぎりこんにゃくのことが頭から離れなくなる。
花柄八景
Mrs.fictions
こまばアゴラ劇場(東京都)
2022/05/11 (水) ~ 2022/05/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
才能に満ち溢れた舞台。ファンタジーのような、落語の一席のような。
落語界の名門花柄一門。花柄花壇師匠役は岡野康弘氏。これが素晴らしい。とにかく惹きつけられる話芸。
その弟子、前座のプラン太役はぐんぴぃ氏。愛らしい巨漢で語り手も担う。
PUNKSの鉢は今村圭佑氏。頭の悪い喋り方が秀逸。
その彼女、ナンシー・スパンゲン風味の苗は永田佑衣さん。今作のかなりの笑いを担っている。
橋の下で暮らしていた風変わりな少女、燐役は前田悠雅さん。チラシの浴衣の女性も彼女。物凄い演技派なのか天然なのか判断が付かない。ただ強烈な印象が残る。
この三人の微妙な関係性、口の利き方や会話の内容が絶妙。
今作に関わった人全員の次作に興味が湧く。
落語に何の興味もなかったが、岡野康弘氏のような人が高座に立つのなら一度見てみたいと思った。そのぐらい落語の魅力に溢れている。
照明の暗転の繊細な具合が絶品。この効果が強烈で作品の記憶を夢うつつなものとする。
不思議な話で、今作を人に薦めたくなる気持ちに皆自然となってしまう。
孤という毒
獏天
サンガイノリバティ(東京都)
2022/05/14 (土) ~ 2022/05/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
明日で50になる元刑事、今は自殺防止センターで夜勤。追い詰められた見知らぬ老若男女達と、受話器一つで向かい合う。妻は男を作って出て行き、17の娘はニ年前に家出して失踪。カップ焼きそばが御馳走で、独りで好きな曲を熱唱するのが大好き。自殺を思い詰めた人間がふと脳裏を掠めた気分でダイヤルしてくる。その微かな“生”への渇望の欠片を嗅ぎ分け手繰り寄せていく作業。
亀石太夏匡(かめいしたかまさ)氏、これが初舞台とは本当なのか?ルックスからも演技からも自信が満ち溢れている。歌もやたら上手い。玉置浩二の『メロディー』なんか素晴らしい。
全く退屈とは無縁。舞台上は一人だが受話器越しに声の出演者が複数。映画の脚本家を目指していただけあって、映画的な仕掛けに充ちている。良い台詞が沢山あった。
「本当に孤独でないと死ぬ資格はない。」
「全部捨てちまえばいいじゃないですか!」
「正しくなくてもいいじゃないか!」
自分が自分を苦しめていることに気付かなくてはいけない。
今、凄く心が弱っている人にお薦め。
グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース
Mo’xtra Produce
吉祥寺シアター(東京都)
2022/05/13 (金) ~ 2022/05/19 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『ビショップ・マーダー・ケース』
死ぬ程面白い。この方法論で古典ミステリーの再生を続けていって頂きたい。幾らでも観れる。とにかく夢中になって読み漁った子供の頃の気分に浸れる。何だろう?この感覚は。役者の出入りのテンポが抜群で、ページを捲るようにシーンが切り替わる。
ソウルやファンクのR&Bが随所に仕込まれていて効果的、華やかに盛り上がる。センス抜群。
脚本・演出の須貝英氏は何者なのか?
1928年ニューヨーク、探偵を開業することを考えている元刑事のサイモン・ブレイ(林田航平氏)。降りた駅で彼を待つ新聞配達の少女アル(中野亜美さん)により、謎の依頼人のもとへと案内される。到着したディラード家には警官が集まって物々しい雰囲気。今まさに殺人事件が発生したのだ。マザーグースの童謡に準えた異様な連続殺人事件が幕を開く。
林田航平氏は勝村政信や寺脇康文、安藤政信に似た長身のイケメン、格好良い。
今作の名探偵ファイロ・ヴァンス役は大塚宣幸氏。オシャレで多趣味な精神分析好き。
地方検事のジョン・F・X・マーカム役は加藤良輔氏、コミカルなワトソンの役割で場を和ませる。
屋敷の主人、バートランド・ディラード(大内厚雄氏)は数理物理学の元教授。杖をついていかめしい。
誰からも愛される教授の姪ベル(佐藤みゆきさん)は男性陣の憧憬の的。
メイドのデイジー役の永田紗茅(さち)さん、強烈な役回りでこのミステリアスな屋敷のスパイスとなる。
ディラード家の隣家、ドラッカー家の母子が強烈。アマチュアだが天才理論物理学者のアドルフ(竹井亮介氏)は脊柱側弯症の子供好き。田中千佳子さん演ずる母、メイは認知症が進行していて横溝正史テイストの無気味な老婆。
MVPは小林少年を思わせる探偵助手として大活躍の中野亜美さん。明るく元気一杯のこういうキャラを創作して挟み込む作家のセンスに唸る。
数学者とチェスプレイヤーが織り成す高度な頭脳戦、ビショップ(司教)の真の目的とは?