ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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お勢、断行

お勢、断行

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2017年2月、シアタートラムで上演された『お勢登場』が素晴らしかった。黒木華主演で8本の乱歩の短編小説を一つに纏め上げたピカレスク・ロマン。やはりそれを期待して今作のチケットを取ったが2020年2~3月公演は緊急事態宣言で中止。しかも公演の二日前の発表。そして今回ようやく上演される運びに。無垢で天真爛漫、そして天性の犯罪者。お勢を倉科カナさんがどう演じるのか?

きつい和装美人の大空ゆうひさん、アイドル顔の福本莉子さん、和製ドニー・イェンの梶原善氏、池谷のぶえさんに江口のりこさん・・・、豪華キャストの大盤振る舞い。
金の掛かった舞台美術は上下左右前後に可動。

あるシーンを予告篇のように先に見せる手法。作中でそのシーンが訪れる際、デジャヴを感じて妙な気分になる。「ああ、あの描写はこれだったのか」的な。

福本莉子さんの歌う「明日にするわ」がやたら良かった。

ネタバレBOX

この脚本は・・・、酷い。

可動するセットも余り意味がない。舞台を転換する必然性がないのにガラガラ動くだけ。そもそも芝居にする程の話ではないのに、無理矢理膨らませているような。
『アウトレイジ』のキャッチコピー、「全員悪人」を狙ったのだろうが不発。各人の欲望の目的があやふや。財産目当てなのか、復讐目当てなのか、ただの悪戯なのか。倉科カナさんが福本莉子さんの願いを叶える為に動くのもさっぱり理解出来ない。(せめて彼女だけは確固たる目的があって欲しかった)。
財産目当てで「暗所恐怖症」の主人を無理矢理精神病院に監禁。その金の取り分を巡って仲間割れ、みたいな話。

時系列が前後するので、更に裏に思惑がありそうだが何もない。倉持裕(ゆたか)のオリジナル脚本、江戸川乱歩が如何に凄いのかを再認識させられた。
グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

Mo’xtra Produce

吉祥寺シアター(東京都)

2022/05/13 (金) ~ 2022/05/19 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『グリーン・マーダー・ケース』

滅茶苦茶面白い。ミステリー好きなら必見。何か内容は全く関係ないのだが、ファミコンの『ミシシッピー殺人事件』とかをやっていた頃の気分に。どっかり腰を据えて面白いミステリーを腹一杯味わえる。
舞台美術の片平圭衣子さんと衣裳の鶴岡寛恵さんを称えたい。センス抜群、女性支持率100%。ピチカート・ファイヴの小西康陽全盛期を思わせるPARCO調オシャレの極致。全ての役者の衣装に必ずグリーンのアクセント。成程、スタイリッシュとはこういうことか。ウォーレン・ベイティの『ディック・トレイシー』なんかを思い出すレトロでカラフルなステージ。

1926年ニューヨーク、犯人の死によって終わった『グリーン家連続殺人事件』。その屋敷に居合わせた刑事(鍛治本大樹氏)は頭に弾丸をかすめて入院。その後遺症で事件に関する記憶の殆どを失っていた。退院した彼を心理カウンセラー(毛利悟巳〈さとみ〉さん)が治療に当たり、そこで本当は何が起こったのか、失くした記憶を取り戻していく。

MVPは看護婦役の大澤彩未さん、最高に面白い。
女主人役は小玉久仁子さん、豪華な配役。
女中役の小林春世さんも見せ場タップリ。
意地の悪い次女役の今泉舞さんは流石の助演。
毛利悟巳さんはサトエリ似。
名探偵ファイロ・ヴァンス(齊藤陽介氏)の独特なキャラ。
シリアスと笑いの配分が絶妙で、全く長さを感じさせない。

ネタバレBOX

原作は未読なのだが、原作ファンも驚くような二重三重の仕掛けだろう。古典である『グリーン家殺人事件』を今描くとするならばこの手法が正解か。刑事が記憶を取り戻す過程と同時進行して起きる新たな殺人。事件は未だに終わっていなかったのか?

欲を言えばラストの方がゴチャゴチャし過ぎ。何故、刑事がアダ(小口ふみかさん)の次女殺害を必死に止めたのかがよく分からなかった。刑事の目的、心理カウンセラーの目的、アダの目的が三重に連なっている。
雫のバッキャロー!!

雫のバッキャロー!!

株式会社Ask

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/17 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ワイン三部作の完結編。山梨県勝沼の甲州ワインを醸造するワイナリーと山形県蔵王連峰(ざおうれんぽう)のワイナリーとは昔から家族ぐるみの付き合いをしていた。山梨では若くして病魔に倒れ早逝した天才醸造家・久下恭平氏の物語、山形では交通事故で未だに意識不明、入院中の中右遥日(なかうはるか)さんの物語が。(今作での中右さんの出演はない)。久下氏の遺した白ワインと中右さん一家が造り出した赤ワインに心打たれた人々が、二人の足跡とその腕前を世に知らしめるべく動き出す。

主演の久下恭平氏は流石に凄い。あっという間に観客を味方に付け、心を虜にする。生まれついての天賦の才能か。幼馴染の恋人役、音羽美可子さんがまた魅力的。久下恭平氏とのコミカルな遣り取りは宮崎駿作品を思わせるデフォルメの効いた痛快なもの。この空気感は出来そうでなかなか出来ない。かなり面白く密度が濃い人間ドラマ。妹役の水野花梨(かりん)さんがやたらグラマラスなのも気になった。

皆でワインを飲む場面は秀逸。愛好家なら手が震え出すだろう。真摯にワイン醸造家と向き合った真面目な作風。死生観まで広がる世界。

ネタバレBOX

どうも視点が山形県に移ると、説明ばかりでなかなか話が進展しない。ずっと登場人物達の説明を聞かされている印象で停滞するのは勿体ない。中右遥日さんの存在が欲しかった。
ラスト、久下恭平氏が幽霊のように皆の話を聴いているのだが、そこに中右さんも居て欲しい。肉体が目を醒ます少し前に退席する感じで。
『焔 〜おとなのおんなはどこへゆく〜』

『焔 〜おとなのおんなはどこへゆく〜』

下北澤姉妹社

駅前劇場(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

海外戯曲のようなハイソな作風。こういった試みを全面的に支持する。「言いたいこと全てぶち撒けてやる!」との作家の姿勢がカッコイイ。ただその統一感の無さが散漫な印象を与えてしまい、勿体無くもある。かなり真面目な問題提起を掲げており、宗教的社会主義的な蜂起の萌芽すら予感させる程。

超高級タワマンで行われるホームパーティー。和歌を嗜む美人コンシェルジュ(関口秀美さん)が歌い踊りドリンクを運び、ユーモラスにミステリアスに話の鍵を握る。
社会的成功者である精神科医の松岡洋子さんは、事実婚のパートナーである形成外科医・成田浬(かいり)氏の浮気を疑っている。学生時代からの友人で、松岡さんに憧れてタワマンに入居してきた明樹(あかぎ)由佳さんは週刊誌記者の夫(辻輝猛〈てるたけ〉氏)と大学生の娘(裕海さん)がいる。学生時代の後輩、美容師のみょんふぁさんはバツ4で子供が4人。

格差社会、子供のあるなし、女性の幸福の基準、本音と建前、優越感と劣等感、じっと隠してきたものが曝け出される不思議な一夜。めらめらと立ち上る焔(ほむら)。

松岡洋子さん明樹由佳さんみょんふぁさん、主演女優3人はそこに立っているだけで成立する熟練した存在感。何をやらせても巧い。この3人の会話劇だけでも行けた。これは作家も書き甲斐がある。

かなり意識が高い舞台、変わっていて面白いのでお薦め。

ネタバレBOX

現実とリンクした話題がちょこちょこ登場。ゲス不倫をスクープした週刊文文の記者は政界を揺るがす社会的告発を狙っている。「政治家の仕事とは国民から集めた税金の使い途を決めることだ。その一番重要な事に国民は関心を示さない。興味を示すのは有名人のスキャンダルだけ。だから国民に興味を持たせる下世話なネタを暴きつつ、大事な問題へと誘導していかなければならないんだ。」
コンシェルジュに惹かれた男が彼女にアプローチするようなハラハラネタも盛り込みつつ、作家の語り口はかなり巧妙で意図は深い所にあるようだ。

作中、フラメンコのリズムがしばしばカスタネットで奏でられる伏線。いよいよ皆がフラメンコで踊り出す素晴らしい演出。「人生はそれ自体がそもそも法廷であり、己の全てを晒してジャッジを委ねよ」と云うラスト。「さあここからが開廷だ」。

何故、舞台を2018年12月30日にしたのかが分からなかった。翌年の12月から武漢のコロナ騒動が話題にはなったが、まだ誰もマスクなんてしていなかった。多分何か隠された意図がある筈。
衣人館 / 食物園

衣人館 / 食物園

牡丹茶房

ギャラリーLE DECO(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『食物園(しょくぶつえん)』

健康保険料、厚生年金保険料、住民税etc.・・・。未納の代金の催告に現れた区の担当の男(杉本等氏)。ガンガンとドアを叩き鳴り止まぬインターフォン。大家(國枝大介氏)に鍵を開けさせ、怒鳴りながら部屋に侵入。やっと彼等が出て行くと、浴室に息を潜め隠れていたこの部屋の住人(二ツ森恵美〈めぐみ〉さん)が顔を出す。部屋には沢山の土を入れたプランター。テーブル上のIHクッキングヒーターにはスープの入った鍋。仕事を辞めて引き籠もっている彼女のもとに、兄(坂井宏充氏)や学生時代の友人(池島はる香さん)が訪ねて来る。どんどんどんどん彼女の病は悪化する一方だったが・・・。

自分が弱者であることを自覚して、他人の迷惑にならないよう必死に息を潜めて生きてきた女。そうまでしても矢張り社会は排除の手を緩めない。口にするのはスープだけ。只々スープを啜るだけ。

ネタバレBOX

『家政婦は見た!』のように“シロアリ”(赤猫座ちこさん)視点の連作集になりそう。(このマンションにはキチガイしかいないのか?)

上島竜兵氏の自殺のニュースと共に日本中にバラ撒かれた鬱。よりによってこんな日にここまでの鬱舞台を観る羽目になるとは・・・。話に流れる旋律は柳田邦男の『犠牲(サクリファイス)―わが息子の脳死の11日』に似たもの。自己否定の果ての果てに微かに手に触れたのは捻れた自己犠牲の美。誰にも理解されない生き方を選び、緑の大地と青空の真下でカラスにつつかれて死んでいくのだ。
衣人館 / 食物園

衣人館 / 食物園

牡丹茶房

ギャラリーLE DECO(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

昨年8月に演った短編二本立てイベント『うたかた』。その中の一編、「腥(なまぐさ)の壺」〈脚本烏丸棗(なつめ)・演出杉本等〉が素晴らしかった。何か理想の美のバランスを保った作品で作家の一つの到達点だと思う。未だに「何か凄く嫌な夢を見たが堪らなく美しかったなあ」なんて記憶に残る。となると勿論新作にも期待は高まっていく。(あれを観た人は今回全員観に来てる筈)。

『衣人館(いじんかん)』

マンションの一室、無数の可愛い服やアクセサリーが店内のように部屋中に並べられている。住人の石澤希代子さんは“可愛い”に取り憑かれ、それ以外の価値観を拒絶。彼女の憧れの“先生”、丸本陽子さんとお付きの稲葉葉一氏が会いに来てくれる。“先生”はかつてサロンで、彼女に可愛く在る為の心得を講義してくれた。世界中を放浪しているバックパッカーの弟(飯智一達〈かずと〉氏)が御土産を手に帰国して来るのだが・・・。

石澤希代子さんの表情と高い声が狭い室内を狂気で充たしていく。丸本陽子さんの雰囲気も見事。後半のヴィジュアルが鮮烈でラストは美しい。

ネタバレBOX

“シロアリ”と呼ばれ、勝手にいろんなマンションの部屋に入って暮らしている居候型泥棒(赤猫座ちこさん)がキーパーソン。
石澤希代子さんは本当に理想の“可愛い”に変態する為、無数の洋服で繭を作りその中に閉じ籠もる。その手伝いを頼まれるシロアリ。どんどん繭は膨れ上がり、ジョン・メリックのように奇形化。彼女は成虫の時を迎える、それはまるでエド・ゲインのように・・・。

醜形恐怖症の話にも思える。
バケモノの子

バケモノの子

劇団四季

JR東日本四季劇場[秋](東京都)

2022/04/30 (土) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕70分休憩20分第二幕75分。
最前列は3列目。

細田守の2015年のアニメ映画を何故か今更ミュージカル化。
当時映画館で観たが雑な出来で、「何でわざわざこれを選んだのか?」と不思議に。細田守作品はどこかで見たような話と設定にその場の思い付きのような適当な展開ばかりで、作品に文学性や哲学を感じる事がない。ただどう作品化するのか何となく足を運んだ。

バケモノの暮らす街、「渋天街(じゅうてんがい)」と渋谷の街が実は繋がっていた。母親を事故で亡くした9歳の蓮(石黒巧君)は親戚達にたらい回しにされることを嫌い、一人逃げ出す。偶然出会った熊のバケモノ・熊徹(伊藤潤一郎氏)に付いて行き、弟子になることに。異世界で九太と名付けられた彼の望みは「一人で生きていけるように強くなること」。“強さ”とは果たして何なのか?がテーマ。

猿のバケモノ・多々良役の韓盛治(ハン・ソンチ)氏がアニメ声で味がある。
主人公の石黒巧君が大活躍、孤独に追い詰められた少年がバケモノの世界で自我を取り戻す通過儀礼を見事にこなす。このバトンを受け取ったのが青年期の九太(蓮)役・大鹿礼生(らいき)氏、流石に上手い!
主人公の対となる存在、一郎彦役の笠松哲朗氏の横顔が尾崎豊似。

しょぼい『キャッツ』のようなメイクで開幕、不安がよぎるも、舞台が渋谷に移ってからは素晴らしい出来映え。目眩く可動し回転する半透明のセットが渋谷のビル街の雑踏を見事に表現。プロジェクションマッピングではなく、組立式の立方体が変化変形トランスフォーム。無数の通行人達は流石に劇団四季のアンサンブル、一人ひとりキャラ設定があり、プロの味を披露するレベルの高さ。石黒巧君の負の影が実体化するシーンにはゾッとした。(真っ黒な子供が現れる)。熊徹と猪王山(いおうぜん)の対決シーンは香港の獅子舞を思わせるド迫力。九太に皆で料理を教えるシーンは、ミュージカルの楽しさに溢れている。

映画を叩き台として、今の劇団でやれるアイディアを精一杯詰め込んでいる。漫画のコマ割りの額縁のようにシーンを細分化して分けていくセンスも良い。少なくとも映画よりは全然良かった。自分のような捻くれた人間には「あの映画でここまでやった」と云うのが高評価。

「胸ん中で剣を握るんだよ!あるだろ、胸ん中の剣が!胸ん中の剣が重要なんだよ!」
アナーキーの名曲、『心の銃』を思い出す。
「俺達拳銃なんか持ってないけど
 戦うことを諦めちゃいやしないぜ
 心の銃を使って戦って行くのさ」

ネタバレBOX

クライマックス、白鯨のシーンが最高。無数のシャボン玉が客席に降り注ぐ。幾つにも分割されたスケルトンの白鯨のパーツが縦横無尽にステージを泳ぎ回る。対決時、ヒロインの楓(柴本優澄美さん)の存在は余りに意味がないので別の役回りに変更すべき。(映画内の無駄な設定も出来る限り変えるべきだった)。

両親に捨てられた少年(離婚と死別)。
尊敬する父親のようになれない少年(バケモノと人間の違い)。
親に全ての選択を決められ言いなりにされているだけの少女。
無力な子供達が溜め込んだ鬱屈した狂気が本当のテーマだろう。
「何で全く自分の話を聞いてくれず、勝手な思い込みだけを押し付けてくるんだ?」

“心の闇”とは、世界と自分への憎悪と否定のことで人なら誰もがそれを持つ。“心の闇”に支配されず、その存在を認め受け入れ共存すること。自己を肯定する為にも“胸ん中の剣”が必要となってくる。
ラスト、主人公は“強さ”とは他者との絆だと訴える。(ここがイマイチ、ピンと来ない。共同体からの除け者は心の闇に堕ちるしかないのか?)

世界観が「スター・ウォーズ」っぽい。ライトサイドとダークサイドの戦い。ダークサイド(暗黒面)は強大な力だがそれを許容すると自らが呑み込まれていってしまう。ラストの一撃はルークのXウイングがデス・スターを破壊した場面を彷彿とさせる。(その元ネタは『燃えよドラゴン』)。

多分再演されなさそうなので、今回一度観ても面白いと思う。一応映画はチェックしておいた方が良い。
観劇者(再)

観劇者(再)

ADプロジェクト / サンライズプロモーション東京

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2022/05/04 (水) ~ 2022/05/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

外岡(とのおか)えりかさんが増々女優として魅力的に。それだけで充分。この人は「た組。」の『壁蝨』やズッキュン娘の『歩いてみやがれ!』などで美人だが性格の悪い苛めっ子ばかり演じる時期があった。顔がアイドル過ぎて役柄が難しいのか。今作の等身大の女性社員役は今後を期待できる魅力に溢れている。ソトオカだと思っていて、何で愛称“とんちゃん”なのか不思議だったがやっと間違いに気付いた。

『痛快活劇「UMA 未確認生物が地球を救う」再演』の舞台を観に来た面々。席は最後列のM列に座った10人の物語。皆人知れぬストーリーを抱えてここにやって来ていた。

席番M列の・・・
⑤林明寛氏
⑥大滝樹さん
⑦清水麻璃亜さん
⑧吉田翔吾氏
⑨毎熊宏介氏
⑩長戸勝彦氏(Wキャスト安芸武司氏)
⑪井上薫さん
⑫外岡えりかさん
⑬岩佐祐樹氏
⑭伊藤あいみさん

略称「UMAスク」の初演を観て、各人それぞれの思い入れを持っている。
「いつかこの舞台が再演される時、主演のツチノコを俺がやるんだ!」
「こんな吐き気がする程、期待に胸が震える仕事に私も関わりたい!」
「推しのサトル君がキラッキラッしている!」

ステージ上段に設置された観客席に座る面々。その上に更に被せる形で各々の姿をプロジェクターで投影。(役者がいなくなってもいいように)。それぞれのエピソードの時だけ役者は下のステージで演じる。それに合わせて投影されたその人の観客席の映像も空席となる。誰が誰だか凄く判り易いし絵的に面白い。

⑥大滝樹さんが「舞台俳優推し活」OLを見事に演じる。ガチヲタあるあるで、観客の共感率はMAX。オペラグラスで他の皆とは違う方向を観ているのがツボ。
⑧吉田翔吾氏はトイレに人が入っていて、行きたいのに行けないまま舞台が始まってしまう悪夢を存分に表現。これぞこの世の地獄。彼を見る度、観客の方もイライラそわそわして気が滅入る。
⑪井上薫さんは流石に上手い。
普通に面白かった。

ネタバレBOX

席番M列の・・・
⑤林明寛氏 良い奴だがかなり抜けている酒屋。マッチングアプリで知り合った⑥に惚れている。
⑥大滝樹さん 推しのサトル君をずっと応援し続けているヲタの鏡。
⑦清水麻璃亜さん 舞台に関わる仕事がしたくて上京した大学生。
⑧吉田翔吾氏 生焼けのホルモンを食べたばっかりに、公演中ずっと尿意と便意に苛まれる地獄の男。「もう舞台は諦めてトイレに行ってくれ!」と観客は祈る思い。
⑨毎熊宏介氏 役者を目指していたが挫折、今はホームセンターでバイト。昔の養成所仲間が主演を張る舞台に足を運ぶ。
⑩長戸勝彦氏(Wキャスト安芸武司氏) 今舞台アンサンブルの父親。昔映画俳優を目指していた。
⑪井上薫さん ⑩の妻。娘の舞台を観に来た。
⑫外岡えりかさん 「真面目すぎてつまらない女」と云うレッテルに落ち込んでいる。普段やらないことをしてみようとふらり当日券で観劇。
⑬岩佐祐樹氏 舞台観劇を人生の中心に置き、その為だけに日夜バイトする男。
⑭伊藤あいみさん 田舎に帰る前の最後の東京の思い出としてこの舞台を観劇。

チケット発売日に取ったのに最後列は酷すぎる。推しのサトル君が河童役なのに、全通しないのはおかしい。(描かれていないだけで全通したのか?)。舞台愛を叫び過ぎるのもどうかと思う。(逆に鼻白む)。エピソードがありきたり、捻りがない。
劇中劇が音声だけで行われているが、正直詰まらない。

矢張り、観劇者10人が一人二役で舞台上も兼ねるべきだったと思う。観客、観ている舞台、それぞれの背負ったエピソードが三つ巴となってグチャグチャのカオスへと登り詰める。(鴻上尚史っぽい)。そしてその昂揚のクライマックスに、ツチノコの名台詞「ここからが本番だ!」が決まる。

再演の度により面白くなりそう。息の長いコンテンツになるのでは。

⑨毎熊宏介氏が観劇後役者への未練を断ち切るのがリアルで斬新。大半はもう一度夢を追ってみるのが通俗的なラスト。「俺じゃ無理だと吹っ切れた」と云うのが嘘臭くなくて良い。⑭伊藤あいみさんのキャラにしてもこの作家のオリジナリティーを感じる。
時々展覧会

時々展覧会

時々自動

元映画館(東京都)

2022/04/28 (木) ~ 2022/05/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

由緒正しき日本の前衛。倒すべき敵は妖怪キャピタル(資本〈主義〉)。芥正彦の舞台を観に行った時と似た感慨に。
『人工地獄(Artificial Hells)』とまで言われているインタラクティブアート(双方向芸術)の世界。今回はコロナ対策の為、当初の予定の「作品(俳優)展示会」を断念。通常の舞台の形を取ることに。若者が目立つ客層は現代美術(コンテンポラリー・アート)の愛好家のよう。37年の歴史を持つこの劇団の訴求力の高さ。主催の朝比奈尚行氏の挨拶から始まり、後ろのスクリーンには映像や写真や絵が流れる。所々、朝比奈氏の解説入り。全てのマイクスタンドに血が滲んだ包帯が巻かれ、無機生物のよう。

まずスクリーンに旅一座の面々の冒険の旅が映し出される。これがPV調のかなり良い出来。体調不良で降板となったチカナガチサトさんも映像のみで出演。「東京少年」の笹野みちるを思わせる中性的な魅力。そしてその面々が会場に入ってくる。
サーカス団のような思い思いの出で立ち。全員歌唱力は折り紙付き。なかでもホアキン・ジョーカー風味なクラウン・メイクの伊地知一子さんと柴田暦(れき)さんの歌声が印象に残った。会場に防音設備がないことを逆手に取り管楽器なし(ウクレレのみ)のアカペラ縛りでいきなり始まる合唱。しかも無茶苦茶レベルが高い。足踏みで異なるリズムが刻まれ見事なアンサンブル。この展開が苦にならないのは曲の素晴らしさ。今作の楽曲の殆どを作曲した故・今井次郎氏の才能。

ニュートンが発見した「光にも重さがあること」、降り注ぐ光の重さで潰れていく動物達の姿が絵本のようなイラストで展開される疑似科学テイストな“みんなのうた”の『また森へ』。
時々失神したり眠りに就いたり突然誰かがスキャットを口ずさんだり・・・。
「『風吹き』やろうか。」と誰かが言い出し、何度も歌詞を変えて歌われる代表曲的『風が吹いてきたよ』。
『革の鎧』の歌詞が意味深。
「もしもわたしに勝ち目があるなら
 何も信じぬ虚ろな心
 これを頼りに撃ち進むだけ」

会場の元映画館を拠点に今後活動していくそうだ。ハマる人はかなり深みにハマりそうな『It's sometimes automatic.』。

ネタバレBOX

上京してすぐ何かの切っ掛けで足を運んだ人が観たならば、「東京は怖い所だ」と思うだろう。

遅れて合流してくる三井耶乃(かの)さん(別の人かも?)、いきなり服を脱いで下着だけに。(「何でもするので入れて下さい」の意味か?)。訳が分からないが歌声は続いていく。

紛争地域へ観光旅行に出掛けたカップル、戦争を娯楽として目茶苦茶楽しむ。実は移動中のトラブルで自分達の祖国に戻っていることに気付かない『素敵な夜』。曲の前に作り始めたポップコーン、パンパンと弾け鳴り響く破裂音が爆撃音へと重なっていく。POPなイラスト風絵画で綴られる。

ラストの量子力学漫才は、理系の学生が見たら大爆笑だろう。『インターステラー』を観ているような知性の地平に圧倒された。
グレーな十人の娘

グレーな十人の娘

劇団競泳水着

新宿シアタートップス(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

滅茶苦茶評判が悪い為、身構えたが果たして・・・?
正直、普通に面白かった。

両親が死に、母の妹である叔母(ザンヨウコさん)に育てられた五姉妹の物語。華のある女優ばかりで艶やかな舞台。

長女役は都倉有加さん、バリバリ働くキャリアウーマンのシングル・マザー。
二女役の小角(こかど)まやさんは盗癖のある今作のキーパーソン。
芸能界にスカウトされて東京へ行く三女役佐藤睦さんは川口春奈っぽいクールな美人。
語り手であり、そのマネージャーとして一緒に東京へ行く四女役は小川夏鈴さん、宮地真央似。
五女役の橘花梨さんは出る度に印象に残る女優で、今回も一番残像が焼き付く。自分に自信がないネガティヴな末っ子役を好演。
長女の娘役、成瀬志帆さんは吉高由里子似の目立つ美人。(一之瀬花音さんと混同していた)。
五女以外家を出ていたが叔母が晩婚する連絡を受け、久方振りに帰郷。

相手側の娘達も挨拶に来る。
三女役江益凛さんの細かい動作や表情に味がある。
女子高生の二女の娘役鄭玲美(チョン・レミ)さんもかなりの手練。
二女役加茂井彩音さんはちょこちょこ観客を大いに笑わせる場面が。
遅れてやって来る橋爪未萠里(いゆり)さん演じる長女の登場からミステリーは幕開く。
ウディ・アレン調の和やかなコン・ゲームを思わせる展開、この事件の真の目論見とは果たして何なのか?

ネタバレBOX

冒頭の伏線で、妻に先立たれた父親がおかしくなってしまったことが語られる。嵐の深夜、長女が母の妹(叔母)に泣きながら電話して助けを呼ぶシーン。その後、父が死んだこと、長女が妊娠してシングル・マザーになったこと・・・。
父に犯されて孕んだ長女、叔母がその父を殺害したことが暗示される。すわ、横溝正史か!?因業極まりない一族の秘められた過去が思いも寄らぬ悲劇の連鎖を産み出すのか!?と身を固くしたが全くの見当違い。(多分ミスリードだろう)。

実際のネタは『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督の2作目、『スペシャルアクターズ』のような話だった。今作に頭に来た人々にこの映画を観て欲しい。こんなことで頭に来るのは余程良い作品ばかり観ているからだと実感できる筈。糞映画の世界は底なし沼だ。

女子高生を演じる二女の娘役鄭玲美(チョン・レミ)さんは役柄と同じく本当に28歳だった。衝撃!

この話を時系列に整理。
①父は自分が死んだことにして失踪。(それは叔母しか知らない)。別の家庭を設け娘が誕生。
②二女が服役クラスの窃盗事件に関わり逃亡生活に。(父が死んでいないことを叔母から聞き出す)。その時叔母に睡眠薬を飲ませて眠らせる。
③二女が重い病に罹り、親友の刑事(橋爪未萠里さん)に「自分が死んだらこの手紙を叔母に渡してくれ」と託す。二女は亡くなる。
④叔母は手紙の通り、演技代行の役者達を雇い偽装結婚を装って娘達を集める。全員に薬を飲ませて眠らせ財布を盗む。(叔母と役者達は眠った振りの演技)。

[二女は叔母の財布の中の鍵を使って地下の金庫から宝石を盗む。更に共犯だった結婚詐欺師(松尾太稀氏)を殺してそれを独り占め。睡眠薬を使った事から二女の仕業だと勘付いた叔母は、世間体を考え男の死は事故死だと報告。宝石は盗難保険が掛かっているのである程度は補償される。五女にだけ、二女からの手紙を渡す。目的は二女が何処かで元気にやっていることのアピール。]
以上括弧内は、娘達にそう思わせようとした嘘。

真相は家族全員を集めて、ニ女の葬式を行うことだろう。演技代行の役者の一人(江益凛さん)は失踪した父の娘、皆の腹違いの妹であった。自分が死んだ時に皆を一度昔のように集めてワイワイやって貰いたかったのだ。死んだことを伝えるとしんみりするので、宝石泥棒のふざけた女を騙り戯れてみせた。

まあかなり無理のあるネタで、作家の二転三転した苦しみを感じる。重要なのは五女の視点。誰からも疑われない無防備であどけない天然女に思わせつつも、実は全て判っていて騙された振りをしていただけのキャラにすべき。そうでないとこの話は落ちない。
FLOWER DRUM SONG

FLOWER DRUM SONG

エイベックス・エンタテインメント

日本青年館ホール(東京都)

2022/04/23 (土) ~ 2022/04/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕85分休憩20分第二幕60分。

チャプスイとは、アメリカでの中華料理の代名詞となった人気料理で日本で謂うところの八宝菜。いろんなものを炒めて餡掛けにしたもののこと。

1949年中国共産党が中華人民共和国を樹立。非共産政党を弾圧、独裁を強めていく。今作の主人公達は虐殺を怖れてアメリカへと密航。事実、大躍進政策によって1958年から1965年の間に4500万人以上が餓死。1966年に起こった文化大革命では、死者1000万人〜2000万人以上と言われている。

『フラワー・ドラム・ソング』は、1957年中国からの移民C・Y・リーにより小説が出版されベストセラー、1958年ミュージカル化、1961年映画化。中国移民の老人がアメリカ文化を拒絶して暮らしているも、最後は受け入れていく話。2002年かなり改変したリメイク作品が今回のもの。

1960年父の形見のフラワードラム(花柄の鼓)を持ってサンフランシスコのチャイナタウンにやって来たメイ・リー(桜井玲香さん)。客の入らない京劇の劇場を経営している父の旧友ワン(石井一孝氏)とその息子ター(古屋敬多氏)のもとへ。メイ・リーはターに恋するも、ターは看板ダンサーのリンダ(フランク莉奈さん)に夢中。そこに敏腕エージェントのマダム・リャン(彩吹真央さん)がやって来て劇場をナイトクラブに改装してしまう。

石井一孝氏と彩吹真央さんがずば抜けている。二人が歌い出すと劇場の空気が変わる。流石の腕前。桜井玲香さんも歌はメチャクチャ上手い。ひたすらクラブでのショーが続く感じなので、派手に生バンドが欲しいところ。ステージの合間にエピソードが展開する位で丁度良い。一日三回公演、フランク莉奈さんが連発する「Fan Tan Fannie」が盛り上がる。ゲイの衣装係ハーバード役泰江和明氏は場内案内もその美声で見事にこなす。

ネタバレBOX

話が判り辛い。古屋敬多氏が桜井玲香さんを好きなのかどうかハッキリしない。フランク莉奈さんに振られたから言い寄るようにも見える。
ダイバーシティ(多様性)を重んずるとドラマに成りにくくなる。金子みすゞの詩、「みんなちがって、みんないい。」にしか成りようがない。
桜井玲香さんは歌は美声で上手いのだが、歌詞(台詞)が頭に入ってこない。声質のせいなのかも知れないが、まだまだ伸び代はある。

伝統を重んじる父親とアメリカで成功したい息子の対立。いざナイトクラブが大人気になっていくと父親はアンクル・サミー・フォンと名乗り自らがスターへと。複雑な思いの息子は、逆に伝統回帰の京劇へと向かっていく対比。
拝啓、モリエール様 -モリエールへの挑戦状- 〜“ドン・ジュアン”より〜

拝啓、モリエール様 -モリエールへの挑戦状- 〜“ドン・ジュアン”より〜

good morning N°5

中野スタジオあくとれ(東京都)

2022/04/22 (金) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

14世紀スペイン、ペドロ1世の宮廷に出入りしていたドン・フアン・テノーリオの伝説をティルソ・デ・モリーナが1630年『セビーリャの色事師と石の招客』で戯曲化。1665年フランスでモリエールがキリスト教狂信者への憎悪を込めた『ドン・ジュアン』を発表。15回で上演中止に追い込まれる。1787年モーツァルト作曲で有名なオペラ・ブッファ『ドン・ジョヴァンニ』も同じ話。
稀代の女たらし、伝説のプレイボーイ、この世の価値観の全てを嘲笑うエピキュリアンのニヒリスト。最期は教訓的に地獄に引き摺り込まれるのだが、彼の人気は決して衰えない。

前作の朝日新聞夕刊の劇評が虚偽情報ばかりで一部で話題になった劇団。15年前の旗揚げの場所で15年前と同じチケット代で演る試み、勿論大赤字。開場前からファンがとぐろを巻いて異様な熱気。劇団のTシャツを着て、タオルは飛ぶように売れる。澤田育子さんのカリスマ性か。こんな感覚は久し振り。全員開演ギリギリまで舞台に立ってお出迎え、客と交流。野球観戦と同じ自由なスタンスで観劇を楽しんで欲しいと語る。

松山ホステス殺害事件の福田和子(15年近く逃亡生活、時効成立21日前の逮捕)を模した澤田育子さん。殺したホステスの荷物にあったモリエールの本を読んでみる。

ドン・ジュアンを演ずるは千代田信一氏。「平成の無責任男」ザキヤマを彷彿とさせるやりたい放題。「ワンワン」と手で犬になる持ちネタは秀逸。召使は藤田記子さん。

全員怒涛の早口で台詞が聴き取れようが聴き取れまいがお構いなしで捲し立てる。二つの話が同時進行していく構成。老若男女、一度ハマったらずっと通い続けたくなるスナックのような劇団。一度は観に行った方が良い。

ネタバレBOX

冒頭、「モリエールを知ってますか?」と新橋で酔客に街頭インタビューをする映像が流される。個人的にここが一番笑えた。

澤田育子さんが時折、中森明菜に見えた。ラストの歌はウクライナでの戦争へのメッセージにすら聞こえる大熱唱。
ムーランルージュ

ムーランルージュ

ことのはbox

萬劇場(東京都)

2022/04/20 (水) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

斎藤憐の80年代後半に発表された戯曲。「ムーラン・ルージュ」とはフランス語で「赤い風車」を意味する。19世紀末パリに誕生したキャバレーでフレンチカンカンなど扇情的なショーで大人気となった。今作の「ムーランルージュ」は「ムーラン・ルージュ新宿座」のことで、戦前から戦後まで存在した大衆劇場のこと。

戦後、廃墟と瓦礫の焼跡の中で「ムーランルージュ」は再建される。幕が開けば橋本愛奈さんのレヴュー。流石に歌が上手い。オーナーの青山雅士氏は彼女を口説き続けている。
そこにニューギニアで戦死した筈の彼女の旦那である松浦慎太郎氏が生環。彼は座付きの構成作家であった・・・。長身で端正な顔立ちの松浦慎太郎氏はいずれ映像方面で成功することだろう。

戦時中は内務省や警視庁の検閲で何度も上演不許可を受け、戦後もGHQの検閲で何度も書き直しさせられる台本。レヴュー一座の群像劇でありつつ、敗戦直後の日本人が共有していた気分が見事に醸成されていく。

米兵達にレイプされていたところを救われる石森咲妃さん。
GHQの検閲官である日系人を怪演した如月せいいちろー氏。
必ずねづっちのようななぞかけで事態を比喩するベテラン大道具役佐野眞一氏の名演。
空襲で亡くした赤子の亡霊と共に生きる篠田美沙子さん。
役者陣は皆魅力的で各々見せ場がある。

阿佐田哲也の『麻雀放浪記』なんかを思い出す、捨て鉢でニヒルな魂の抜け殻、アプレゲールの無頼派。生と死、恋と嫉妬、アメリカと日本。アメリカに敗戦し占領された現実から目を逸らし、悪い軍部から解放して貰い救われた善良な民衆の振りをする日本人の変わり身の早さ。大勢に迎合することを美徳とした全体主義。太宰治の懊悩。「愛する者を食べさせてやること以上に価値のあることはない。」との真理。

歌われる楽曲のセンスが良く、1933年のアメリカのヒット曲、『イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン』が作品のキーとなる。
「これはただの紙の月
段ボールの海に浮かぶだけ
でも君が信じてくれたなら
それは本物にだってなれる」

ネタバレBOX

第一幕は東宝調、第二幕では一座に拾って貰った石森咲妃さんが見事な歌い手に開花、日活調で堂々と歌い上げる幕開けが見事。
ホンの完成度が高く、これを岡本喜八や深作欣二なんかのジャズのリズムで細かくカットを刻める監督が映画化したら傑作になっただろう。ちょっと今回の演出では力不足の感も。複数の登場人物達のエピソードがうねりを打って、ラストのレヴューに集約されていく。薬で狂い滅び朽ちていく松浦慎太郎氏。皆、袖で彼の苦悶を心配しつつも幕は上がる。ショーは始まり、彼女達は笑顔で踊り出す。
ミュージカル「弥生、三月 -君を愛した30年-」

ミュージカル「弥生、三月 -君を愛した30年-」

エイベックス・エンタテインメント/クオーレ

サンシャイン劇場(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『弥生、三月』、波瑠と成田凌主演の映画は当時観た。高田馬場で再会した二人、逃げる波瑠を追う成田凌。大森ベルポートでやっと捕まえる。「随分、走ったな」と映画館で感心したもの。1986年の3月、高一の時に出会った二人の人生を2020年3月まで三月縛りで描いていく。数年単位で飛び飛びの三月のエピソードだけで、間に何があったかは観客の想像力に任せる試み。
菅田将暉と小松菜奈主演の『糸』と話がこんがらがる。要はお互い好き同士の二人が、あれやこれやの障害で中々結ばれないさまに一喜一憂する『君の名は』(岸恵子主演の方)系すれ違いメロドラマ。観客がやきもきしたら勝ちのジャンル。 映画はイマイチで、これをどうミュージカル化するのか見当が付かなかったが・・・。

正義感のやたら強い弥生(田村芽実〈めいみ〉さん)、Jリーガーを目指す山田太郎、通称サンタ(林翔太氏)、薬害エイズで苦しむサクラ(岡田奈々さん)の物語。
語り手として神里優希氏、見事なバレエを踊りながら舞台転換を行うkizuku氏と大倉杏菜さん(やたら巨乳)、ずっとピアノを演奏し続ける安藤菜々子さん。演出に品があって美しい。楽曲にもオリジナリティが感じられ、繰り返す詩の構造も効果的。ピアノの旋律が奏でられ続け、真白な精霊のように優雅に舞う二人の男女。バックのヴィジョンに映し出されるイラスト調の背景のセンスも冴えている。出演者の歌唱力も本格的。
胸を焦がした高校時代からそれぞれの道に別れ、家庭を持ち夢に挫折し何度も人生を諦める。その度に目に見えない不思議な絆が自分達を繋いでいることを感じていく。

『奇跡の人』のサリヴァン先生に憧れて教師を目指す弥生。演ずる田村芽実さんは元アンジュルム。時折表情が若き日の吉永小百合を思わせ、古風な顔立ちが清楚で役に合う。物語のキーを握る岡田奈々さんも素晴らしい歌声で、登場するとステージがぱーっと明るくなる。
演出の菅野こうめい氏がいい仕事をした。

ネタバレBOX

演出の菅野こうめい氏の才気が冴え渡る序盤は傑作の雰囲気がムンムンする。それが段々とトーンダウンしていくのは、原作のストーリーテリングが映画用の為、話が散漫で年表を見せられている感覚に。端折った部分こそ重要なエピソードだったりする。
ここは早逝したサクラ(岡田奈々さん)の視点を作って、二人を温かく見守る構成にした方が良かったかも。息子のあゆむ(神里優希氏)が語り手なのだが、殆ど登場しないし話にリンクしない。映画ではサクラの好きだった曲、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」がキーアイテムに使われている。今作もそんなキーアイテムを設定すべきだった。
安心して狂いなさい

安心して狂いなさい

中野坂上デーモンズ

北とぴあ ペガサスホール(東京都)

2022/04/17 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEで延々般若心経が流れ、野性爆弾のようなガロ系の笑いを想像する。

冒頭、作・演出の松森モヘー氏から説明が入る。今作の世界はメタバース(仮想空間)であり、20代30代の歳が近い年代を中心とした小規模なコミューンであると。精神だけをアバター(分身)に移し、仮想世界で生を謳歌している。
舞台上、沢山の男女が四方八方上下左右に設置された出入り口から共用スペースに現れる。皆言う台詞は決まっている。「〇〇さんを知りませんか?」

筒井康隆の『マグロマル』のように噛み合わない会話が延々と続く。興味深いキャラは四人。
「私のことが嫌いなの?嫌いなの?」と男をひたすら追い掛け続けるメンヘル系のまちだまちこさん
小さなウェブ雑誌の記者、加藤睦望さん。誰も彼もにインタビューを仕掛けてメモを取る。
柿原寛子さんは統合失調症なのか?存在しない架空の男をずっと捜し続けている。
一番観客を慄かせたのが、中尾仲良(なかおなかよし)さん。後半白目をひん剥いての大暴れ。核兵器のような凄え女優を抱えているな。MVP。
そのうち、どうもこの世界からログアウト出来なくなるバグが発生して・・・。

当日パンフには、大学時代パニック障害を患った松森モヘー氏がこの劇団をリハビリ的に旗揚げして、「安心と狂気」の十年を歩んだことが吐露されている。ただのおふざけではないのだ。

「張り裂けた胸はくっつかない セロハンテープでとめた心 またいつ剥がれるのかと 今日もびくびくしながら生きるぜ」
amazarashi 『爆弾の作り方』

ネタバレBOX

つまらなくはないのだが、そこまで面白くもならない。終わりようのない物語にどうケリをつけるのか?“謎”と“真実”が必要か。
そもそもここは仮想空間ではなく、本当に現実だったことにする。どんなにうんざりした設定でもログアウトなんて出来ない。このアバターで何とか生き延びるしか手はないのだ。道はある!、・・・多分。
偏執狂短編集V 前夜祭

偏執狂短編集V 前夜祭

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/04/16 (土) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

メチャクチャ面白いか超つまらないかのどちらかだろうと予想して賭けてみたが・・・。

『黒の章』
①H+(トランスヒューマニズム) -頽廃芸術展-
②メンゲレとグレーゼで
③黒髪と魚の足とプレシオサウルス

『白の章』
④ジャンヌダルク異端審問裁判
⑤きこりと木の精
⑥ニヒリズムの肖像 2022

①1941年、ヒトラー(井口ジョージ氏)が画家のツィーグラー(和日和生〈のどかかずき〉氏)に退廃芸術について講釈を垂れている。そこに時空を越える伝説の男サン・ジェルマン伯爵(窪田裕仁郎氏)が現れて、ヒトラーに彼の憎むスキャンダラス画家エゴン・シーレ(平良和義氏)の日々を見聞させる。
②アウシュヴィッツ収容所で過酷な人体実験を繰り返したメンゲレ医師(宇田川佳寿記氏)が主人公。今作では彼は周囲の誤解に巻き込まれた善人として描かれている。傍に控えるのは19歳でアウシュヴィッツの看守になった女性看守イルマ・グレーゼ(木下紅葉さん)。性的サディズムの権化でナチスの最年少刑死者。メンゲレは双子を使った人体実験をする羽目になる。
双子の被験者役の杉山華子さんが可愛かった。
③知的障害者を多数雇用したような気違いサーカス団。そこに訪ねて来たのは医学研究者(上原ぺこさん)、合成麻薬MDMAを使って損傷した脳機能が回復される論文が証明されたとの報告。
フタバ役の小野瑞季さんに何故か見覚えが。大槻ケンヂの『くるぐる使い』をいつか演るならば、是非彼女で観てみたい。
④ジャンヌ・ダルク(やすいまほさん)がフランスのルーアンで異端審問に遭う。
⑤謎のきこり(高橋弘幸氏)が31人の女性達の足首を切断して拐っていく奇怪な連続誘拐事件。落合刑事(窪田裕仁郎氏)は憧れていたミステリー事件に遭遇して大興奮。
高橋弘幸氏の造形したキャラが良い。
⑥19世紀フランスで死刑となった犯罪者でありつつ、詩人として人気を博したピエール・フランソワ・ラスネール。彼をモデルにした男、演じるは平良和義氏。
死刑執行人の一族、サンソン家に嫁いだアヴリル(杉山華子さん)は歪んだ階級社会を憎んでいて、この世を正そうと密かに心に期していた。彼女に恋するも選ばれなかったシャルル(宇田川佳寿記氏)、彼女の兄代わりのジャン(山下諒氏)。結婚式の日、事件が勃発する。平良和義氏のキャラが決まっていて、フェンシングの殺陣も見事。杉山華子さんは絵になる。

⑤と⑥は見所あり。『白の章』の方がお薦め。

ネタバレBOX

①幼女を裸にしてモデルにするエゴン・シーレの倒錯美。ヒトラーは怒り狂うが、自分との共通点を見い出す。善悪の彼岸に立ち、世界や自分を滅ぼしてまでも追求したい“美”があった。話が長く無駄が多い。『新・デビルマン』みたい。
②話が長く無駄が多い。
③唐十郎調で空気がガラリと変わり、ちょっと面白そうに。白痴の振りをしていた元研究者(小野瑞季さん)は恋人(山本リョウ氏)の損傷した脳が治療出来なかった罪悪感から苦界に身を投じていた。後半がつかこうへい風味でだらだらだらだら長く引き伸ばした感じでぐったり。話もひどい。
④企画系AVのような雑な作り。イングランド人の看守達にレイプされ続けるジャンヌ。フェミが見たら発狂するような描写。どうにもつまらないのだが、火刑に処せられる最期のジャンヌの台詞が良い。「お前達男共を永遠に呪ってやる!いつかお前等が女達に支配され差別される日がきっと来る!」
⑤江戸川乱歩風味で『盲獣』なんかを思わせる。凄くキャラも流れも好きな感じ。
⑥凄く良く出来ている。全ての展開と伏線に無駄がない。貴族共が邪悪すぎる気もするが。ラスネールの処刑からのエピローグがぐだぐだし過ぎで残念。もっとズバッと決めて貰いたかった。ラスネールのここぞと歌う歌の歌詞とメロディーがイマイチ。人の胸を打つ言葉がここでこそ必要だったのだが。

石井輝男や牧口雄二のセンスが足りない。エロと笑いとグロのバランスか。『恐怖奇形人間』の土方巽なんて、作品を超えてしまっている。
エゴ・サーチ

エゴ・サーチ

プラグマックス&エンタテインメント / サンライズプロモーション東京

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/04/10 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEでオーストリアのバンド、オーパスの代表曲「ライブ・イズ・ライフ」が何度も何度も流れる。(『oktoberfest 2019』version)。これを聴くと、「ああ鴻上尚史だなあ」の気分。選曲のセンスはいつも抜群。今作も沖縄民謡「十九の春」の使い方が秀逸。(元曲は鹿児島県の与論島がオリジナルらしい)。

ガジュマルの古木に住み着く、赤い髪をした精霊キジムナー(村上航〈わたる〉氏)。沖縄の離島に遊びに来た吉田美月喜(みづき)さんの前に姿を見せる。東京から遊びに来た吉田さんは「また来る」と約束。しかしやって来ない・・・。

作家志望の青年、今江大地氏はアイディアは有るのだがなかなか筆が進まない。担当編集者の南沢奈央さんははっぱをかけるも、ネットで検索すると彼がブログやツイッターで遊んでいることを知り叱責。だがそれは濡衣で、同姓同名同プロフィールの人間がネット上に存在していることを知る。

インターネットを使ったステマ・ビジネスの会社、社長(渡辺芳博氏)と阿久澤菜々さん。ふざけたフォークデュオ『骨なしチキン』の二人(佐藤修作氏と古木将也氏)が「金はあるから有名にしてくれ」と依頼。彼等を売り出す仕掛けを練る。

話と全く関係ない木村友美(ゆみ)さんの底抜けの明るさが印象に残る。ハモりが凄まじかった。
イケメン結木滉星(こうせい)氏はボクサー飯田覚士っぽくてカッコイイ。

取り留めのなく投げ出された話が一つずつ結び付いていく。一体これは何の話なのか?的面白さ。

ネタバレBOX

ちょっと話が適当で、面白く感じなかった。
事故で恋人、吉田美月喜さんを死なせてしまった今江大地氏は自責の念で自殺を試みるが、命は助かり部分的記憶喪失に。彼を愛していた元同僚の結木滉星氏は彼とコンタクトを取る為に、彼の名前を騙ってネット活動。自分が死んだことを認められずに亡者となって現世を彷徨う吉田さんにキジムナーが逢いに来る。記憶を失くした今江大地氏が執筆するのは吉田さんから聞かされた話。全ての謎は彼が自殺未遂したマンションの屋上に集められていく。

結木滉星氏が同性愛者であることが非常に面白い設定なのだが、それを生かせず適当なキャラに。恋愛詐欺を繰り返すエピソードはただのノイズでしかない。キジムナーが普通に存在出来て、亡霊の吉田美月喜さんは誰にも見えない設定も必要だろうか?何か消化不良。
物語の構造としては、主人公の失くした記憶を亡霊やキジムナーが取り戻すもの。彼が書こうとした小説の先に、秘められた何かがなくてはならない。

当日配布パンフに書かれていたandymoriの『1984』、素晴らしい曲。ヴォーカルの姉、亡き小山田咲子さんに思いを馳せる。
シェイクスピア物語 ~ 真実の愛 ~

シェイクスピア物語 ~ 真実の愛 ~

「シェイクスピア物語」公演実行委員会

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2022/04/15 (金) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ヒールのエセックス卿(村上弘明氏)は史実ではエリザベス女王の愛人であったロバート・デヴァルー (第2代エセックス伯)がモデルか。
舞台は16世紀、当時のイギリスの演劇界では女性がステージに立つことはタブーとされていた。絶大な人気を博したものの女性であることがばれて処刑されたダンカン・ランズウィック(真野響子さん)の亡霊が今も彷徨い続ける。
役者から作家を始めたばかりのウィル・シェイクスピア(内博貴氏)は新作の執筆に苦戦中。偶然見かけたジュリエッタ・ド・キュープレッド(熊谷彩春さん)に一目惚れ、恋に落ちる。だが、彼女はエセックス卿の婚約者であり・・・。

ネタバレBOX

『恋におちたシェイクスピア』を期待して観に行ったが、音楽も曲も凡庸、脚本も演出も退屈。熊谷彩春さんなんか最高の素材なのに勿体ない。何かこの劇場で演る作品は低レベルなものが多い。本当に良い作品を創ろうと思っている人を集めて欲しい。
Break a leg!
飛んでる最高

飛んでる最高

艶∞ポリス

駅前劇場(東京都)

2022/04/13 (水) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「やだ、おっかしー!」
超絶面白い。笑いに真剣に向き合っている。この作家(岸本鮎佳さん)の姿勢にリスペクト。本当にもう一回観ようと思ったが日程的に無理だったのが残念。終演後、出ている一人ひとりの役者が魅力的で愛すべき存在に感じられる。要らない人物が一人もいないのは作家の底知れぬ才能。これはハマるわ。やっぱり世の中、自分が知らないだけで才能に溢れ返っている。
ぶつ切りのコントみたいに感じるが、実は全てがパズルのピース。時系列がシャッフルされていて、段々と全体像が見えてくる相当練り込んだストーリー。これが令和最先端、頭がおかしい。

航空会社、空港での業務を担当する面々。
不倫を拗らせた山田瑞紀さんはエロい。
岸本鮎佳さんは完全にイカれている。
性欲の塊の機長、渋江譲二氏のキャラの立ちっ振り。

ハワイに向かう仲良しおばちゃん三人組。
似非リッチ、高野ゆらこさんが圧倒的。何か凄いカルチャー・ショックすら覚えた。江頭2:50のような飛び道具感。女性は全面的にこの笑いを支持するものだと思う。
関絵里子さんと航空会社グランドスタッフ小林タカ鹿氏の夫婦間の物語も温かい。
今藤洋子さんの芸能マネージャー物語も美しい。

イケメン太田将熙(まさき)氏も最高。そりゃみんな笑うわ。
空港バイト、奥村佳代さんの表情と口の歪みのインパクト。

冒頭、不倫を拗らせた山田瑞紀さんがカッターナイフで暴れている。岸本鮎佳さんと小林タカ鹿氏が切り付けられた。一体、何が起きたというのか?

ネタバレBOX

高野ゆらこさん、今藤洋子さん、関絵里子さんのパワーは凄い。これにはひれ伏す。これぞ日本が海外に誇るべき笑いのジャンルなのだ。韓国が『パラサイト』なら、日本には彼女達のドメスティックでエコノミック・アニマルな生き様が。『オバタリアン』(死語)こそが日本に残された指針なのか?(『ドライブ・マイ・カー』ではなさそう)。

超面白いのだが、後半の関絵里子さんと太田将熙氏のネタバラシ的エピソードがイマイチ。流れを盛り下げてしまう。

ラストは冒頭の話の続きで締めるべき。ちょっと順番が違う気がした。
茶の間が水浸し【4月14日~17日公演中止】

茶の間が水浸し【4月14日~17日公演中止】

吉祥寺GORILLA

サンモールスタジオ(東京都)

2022/04/13 (水) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ドント・コールミー・バッドマン』とか『だからビリーは東京で』にグッと来た人には通じるものがあるかも。
「痛みと憂いの雨が降り続け、何処もかしこもひたひたと浸水し水が溢れ返っていくようだ。これ以上、水嵩が上がればもう息が出来なくなる。このままでは俺は溺れてしまう。助けてくれ。」みたいな話。
学校でも家でもひたひたと水が迫って来る。何処にも逃げ場はない!そんなリアルな感覚は皆が思い当たるもの。
主演の平井泰成氏を見ていて、令和のカリスマ(依代)のようにすら思えた。amazarashiの秋田ひろむのように、何かを象徴しているのか?この人を使って今何を発するべきなのか?『コインロッカー・ベイビーズ』のハシのように「これが僕の新しい歌だ」なんて決めて貰いたい。

初期の石井聰亙とか森田芳光の感覚。高三で学校に通えなくなった主人公はフリースクールに転入。そこは通信教育と通学が半々、担任(鳥居志歩さん)に誘われ演劇部に入ることに。犬のジョン(日下麻彩さん)が語り部となり、彼のゴボゴボと水の音に苛まれる青春が語られる。

前半は凄く好き。

ネタバレBOX

ラストの舞台では自身の家庭をモチーフにして、それを実の両親が眺めるくだりなんか欲しかったかも。リスカ少女、山下真帆さんのキャラをもう少し固めた方が良かった。

一発目の浸水で小さなプラスチックのボールが散乱。青、水色、白とそこらかしこに散らばった。だが二発目も同じ手法だと舐められる。二発目は本物の水であるべきだった。(諸事情あるだろうが)。『マグノリア』のあっと驚くラストのように、登場人物達のにっちもさっちも行かない切迫した状況を引っ繰り返す、「もう何もかもおしまいだ」のタイミングで発生するべき。

冒頭に記した前述のニ作品が如何に優れているか、と云うこと。駄目な点を差し引いても打ちのめされ圧倒された感覚があった。今作は中途半端に話を畳もうとし過ぎたか。先に決めたラストに合わせていった感じが拭えない。作家の意図を無視してキャラクター達が傍若無人に存在しなくてはいけない。「いや、これじゃ纏まらないじゃないか」、という作家の悲鳴が聴こえる作品こそ嘘がない。

初日以降全部中止となってしまった。残念。平井泰成氏は最高だった。

森崎真帆さんへの脅迫状が原因とのこと。酷い話だ。

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