ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕65分休憩15分第二幕70分。

ザ・ウェルキンとは英語の古語で“天空”の意味。日本だと“天つ空”みたいな感じか。1759年、ハレー彗星の到来に湧き立つ英国の片田舎。裕福な屋敷の少女が無惨なバラバラ死体で発見される。犯人として男女2名が逮捕され、裁判の後、男はすぐに公開縛首。屋敷の使用人であった共犯の女(大原櫻子さん)は事件のあらましについては黙秘したが自身の妊娠を主張。当時の死刑制度では妊婦は死刑を免れることが出来た。その真偽の判定の為、集められた陪審員は12名の妊娠経験のある女性。ベテラン助産婦・吉田羊さんはかつて自身が初めて取り上げた赤ん坊である彼女の命を何とか救おうとする。

客層は大原櫻子さんのファンが多いのだろう。11000円の高額チケットながら、きっちり入っていた。恐るべし大原櫻子!初めて観たが魅力的な女優。(LIVEはフェスで観たことがあるがピンと来ず)。序盤の鬼気迫った存在感に呑まれた。
吉田羊さんは手堅い。観客のガイドラインとしての役割を粛々とこなす。
那須佐代子さん、凛さんの親子初共演にも興奮。(観ていて初めて知って驚いた)。佐代子さんのメタ台詞、「自分のお腹を痛めて産んだ子ですもの。可愛くない筈がない。」に反応する観客もちらほら。

ネタバレBOX

バケツに小便、搾乳、大原櫻子さんはキャパのデカい良い女優。声色が少々物足りない。
ちょっと遣り取りがTVドラマ調なのが気になるところ。那須凛さん等が突然、「彼女はやっていないんじゃないか」と言い出す展開が不自然。(懸命に搾乳する様子を見ていたからと云うことなのだろうが)。
ホンと演出が上手く噛み合っていない気も。多分“神”が関係する話なのに、日本人には実感として理解出来ない為ズレが生じているのか?悪魔を見た女の話、妄想が現実化したと嬉しそうに語る大原櫻子さんの話。

自分の産んだ娘を自ら手に掛けるラスト。この世からTHE WELKINへと。矢張り足りないのは大原櫻子さんの見ていた風景。何故にハレー彗星をどうしても見たかったのか、だ。生と死の狭間でゆらゆら揺らめく頼りない蝋燭の火。後ろの壁が手前にせり出してくる。

演出加藤拓也氏のけれん味と戯曲の狙いとが互いに殺し合っているような弱さ。ラストはハレー彗星が大原櫻子さんに直撃するぐらいやるべきだった。

吉田羊さん演ずるリズは少女時代、勤め先の屋敷の主人(の友人?)にレイプされ子を孕む。産んだ我が娘は母親の図らいにより小銭で売られる。その娘はサリー(大原櫻子さん)と名付けられ、小さい頃から売春を強要され犯罪の道に走る。散々な人生を送ってきた彼女は、好きでもない暴力的な夫と暮らす日々の中、何処かから理想の男が自分を攫いに来てくれることを夢想している。その願いが叶ったのか、突然男が現れると彼女を誘い連れ去る。だがセクシーで魅力的なその男は邪悪な欲望の塊で、ありとあらゆる悪事を働く。サリーはそんな男の生き様を全肯定する。男に命じられるまま、勤め先の屋敷の少女を誘い出し、少女は身に付けた高価なアクセサリーを奪う為に無惨に殺される。後始末を命じられたサリーは死体をバラバラにして暖炉に捨てる。
「どうでもよかった」とサリーは言う。「死刑を免れたら、アメリカに行って男のように好き放題に生きたい」と。そんなサリーの心象風景に愕然とするも産み捨てた負い目があるのか、リズは彼女の側であろうとする。妊娠が証明され、死刑を免れるサリー。
しかし、大切な娘を惨殺された屋敷の主人(母親)にとってそんな判決を受け入れることは到底出来ない。役人に賄賂を渡し襲わせ、暴力的にサリーを流産させる。このままでは妊娠していないサリーは公開絞首刑にされてしまう。サリーはリズに誰も見ていないこの場で殺して貰うことを懇願する。自身の最期の尊厳の為に。リズは天空を仰ぐ。
真夏の夜の夢

真夏の夜の夢

東京シティ・バレエ団

日生劇場(東京都)

2022/07/16 (土) ~ 2022/07/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕65分休憩20分第二幕40分。

非常にバレエ向きの題材。
やっとこの話の主人公がヘレナ(大内麻莉さん)であることに気が付いた。元彼のディミトリウス(西澤一透〈かずと〉氏)もライサンダー(濱本泰然氏)もハーミア(石井日奈子さん)に夢中。誰にも相手にされないヘレナ。見るに見かねた妖精王オーベロン(吉留諒氏)は惚れ薬を使って男達をヘレナに夢中にさせる。薬の魔法は解かれるが、最後はディミトリウスと結婚に至る。
メンデルスゾーンの『結婚行進曲』は今作の為に書かれたものだった!
妖精パック(渡部一人〈かずひと〉氏)の運動能力と肉体美に目を瞠る。

開演前と幕間に会田夏代さんの見事な解説が入り、大変解り易い。

きゃんと、すたんどみー、なう。

きゃんと、すたんどみー、なう。

やしゃご

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

驚く程面白い傑作。非常にブラックな笑いをまぶしていて、イメージと全然違った。笑いと真剣に向き合う姿勢にリスペクト。何か適当な安い人情噺に逃げていない。障害者を扱えば「24時間テレビ」のようにお決まりの文言が繰り返されるしかない世の中。そこをガッチリ笑いに徹してみせた。
事前の告知が下手なのか、糞詰まらない道徳話だと思っていた人々は損をした。喜劇としての完成度の高さ。引越し業者の受難の視点からこの歪な家を語らせるテクニック。

タイトルはリバティーンズの『Can't Stand Me Now』(君は私にもう我慢できない)から来ているのだろう。

知的障害者の長女(豊田可奈子さん)を持つ高木家。両親はとうに亡くなり、世話をする次女(とみやまあゆみさん)は結婚し家を出ることに。残されるのは三女(緑川史絵さん)だけ。長女雪乃は「自分も施設の友達のマサシ君と結婚する」と暴れ出す。てんやわんやの家で一向に進まない引っ越し。途方に暮れる業者の二人(海老根理〈おさむ〉氏と清水緑さん)。部屋中にばら撒かれるハッピーターン。

岡野康弘氏にやられた。『花柄八景』の落語家師匠から、今回はガチ知的障害者マサシ君。昔よくバスで見かけた『仮面ライダー』の名前をずっと羅列し続ける男にソックリ。このリアルさ、言葉に対する反応と返し、本物だ。凄い役者がいるものだ。デ・ニーロ・アプローチ。
清水緑さんの使い勝手のよさ、連発される「すみませ〜ん」。こういう娘、一人置くだけで場の空気が持ち、話は成立する。
清水緑さんの舞台にハズレはない。『ガマ』が楽しみ。

ネタバレBOX

開演前、縁側に佇む男女二人の引越し業者。部屋で眠りこける漫画家。訪ねてくる障害者就労支援施設の職員。暇を持て余した引越し業者の清水緑さんは庭にあったサッカーボールでドリブル&カズダンス。会社の送別会の余興用に温めていたエア・バルーンアートのプードル作りを披露。このマイムが実に上手い。場内アナウンスだけ流れるがそのまま開演。この世界が現実と地続きであることを語る。
「行けるとこまで行くか」と、終演後も長女雪乃のお化粧を続ける次女ツキハ。この話は終わっていない、何も片付いていないことを観客に強烈に印象付けた。

引っ越し会社社長・佐藤滋氏の常に論点のズレた台詞が最高。元大学准教授・辻響平氏の発言も印象的。「普通、普通って一体何処の誰が普通に暮らしてると言うんだ?皆誰も彼もが苦しみ足掻いているじゃないか。皆普通じゃないから助け合おうとしているんじゃないか。」

「“サ”〜の付く言葉は〜?」「サヨナラ」と言い去って行こうとするマサシ君。「寂しい」でも良かった。ここで幕を閉じた方が自分的には満足。そこからアフタートークのようなエピローグがだらだら続く。しかもそこそこ面白い。ただ障害者が場面から消えた途端にありきたりの感想と文脈、盛り下がる空間。最後に三女カスミだけが残ると、死んだ母親が現れる。ああ、これを描きたかったのか?と思うも、その描写もイマイチ。答えのない問題にリアルに向き合おうとして攻めあぐねた感じ。

豊田可奈子さん演じる雪乃がどうもリアルに感じなかった。キャラ設定のせいか。

全く関係ないがこの前の参院選、乙武洋匡氏の落選の弁、「手も足も出なかった」が実に見事だった。

書き忘れたのが電灯の演出。急に電灯を点ける三女の姿から、何かがあるのだと思っていたが。
実録ヤクザ映画の最高傑作、『仁義なき戦い 代理戦争』。抗争中の二つの組が手打ちの為に料亭に集まる。そこで突然の停電、狼狽し殺気立つヤクザ達。女将が蝋燭を持ってくる。頼り無く揺らめく灯り、疑心暗鬼のヤクザ共は上目遣いで辺りを伺いながら話を進める。
改変をひどく嫌う脚本の笠原和夫が、絶賛した深作欣二の演出。今作にもそんな狙いが透けて見えた。電灯が点滅したり消えたり急に点いたり。照明に演出を託すセンス。秀でている。
『おわり』『はじまり』

『おわり』『はじまり』

大駱駝艦

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/07/14 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『おわり』
素晴らしいPUNK ROCK、ナゴム系。
下手に銀色の消防車のゴムホースのようなものが丸まった物体、上手に侘び寂びを感じる曲がり萎びた老木、奥に巨大なシーソー。
御歳79の麿赤児氏の今作における宣言からスタート。これは彼なりに到達した宇宙観、暗黒舞踏でこの世界の成り立ちを解き明かしてみせる。
麿赤兒氏は自身の死を見据えている。今、こんな作品をリアルタイムで体験できる者は運が良い。
観客全員に配られる五十周年記念パンフレットがオールカラーの凄い出来。

ネタバレBOX

①『だるまさんが転んだ』で遊ぶ少女達、独り取り残されてしまう女の子。そこに現れた奇妙な物体にアブダクションされてしまう。銀のゴムホースの塊を神輿のように担ぐ異形の者達は八本脚で蛸を思わせ、異星人をイメージさせる。鎖で背中合わせに繋がれた二人の禅僧がシーソーの天秤(この世の法則)を左右に揺らす。長く白い顎髭を垂らした村松卓矢氏は痴呆のようにヘラヘラ笑い、厳しい修道僧の面構えの田村一行氏は喝を叫んで回る。老木は宙に浮き空間にたゆたう。村松卓矢氏の指の一本一本の長さが気になる。足の指も長い。
②舞台は銀河へ。白、青、金の長大なドレスの三組の女、それぞれ黒塗りの男が対になっている。銀河における陰陽のSEX。禅僧がそれを蹴散らす。金のドレスの女は赤毛でエリザベス一世のよう。特に切っ掛けもないのに全員の舞踏の変化が揃っている。
③額に紐を付けた男女、赤と青の二組。対角線上に張られた二本の紐はこの世界の法則のように人々を囚えて苦しめる。銀のゴムホースの塊を手にする麿赤兒氏。糸は切られる。この塊はきっと宇宙の心臓なのだろう。繰り返されるシーソーの無限運動、手を合わせる村松拓矢氏の姿にぐっと来た。禅の魔境のヴィジョンを超え、到頭本質に至る。物理学と禅の到達点が一致する瞬間。
④80年代のシンセ・ポップのような曲をパロディーのように暗黒舞踏団が送る。カッコイイ。

「麿赤兒氏がこれだけやってるんだから、自分も頑張らないと」と、素直に思えた。
NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-

NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-

『NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-』製作委員会

シアターGロッソ(東京都)

2022/07/01 (金) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

TEAM BLACK

1992年、フジの深夜でやっていた『NIGHT HEAD』。豊原悦司と武田真治の超能力を持つ兄弟が研究所から脱走し、その力を新世界の扉への礎とする物語。元ネタは宮部みゆきの『龍は眠る』であろう。「兄さん、頭が痛いよ」は未だに愛される名台詞。映画も観に行ったが完結とは程遠いまま終わってしまった。この手の作品は完結しようがないのか。2021年アニメとして新たに描かれたものが今作の元となっている。

2014年、超能力者の霧原兄弟は研究所に隔離される。15年後、結界が破られ森の中で目を覚ます。しかしこの世界は全く理解が及ばないディストピアで、しかも2041年であった。
消えた12年間、一体何があったというのか?

霧原直人役は鍵本輝氏。GACKTっぽいルックスで、サイコキネシス(念動力)を操る。
その弟、霧原直也役は大崎捺希(なつき)氏。リーディング(読心術)で人の心に感応する。
超能力者を取り締まる特務部隊には、黒木タクヤ(木原瑠生〈るい〉氏)と黒木ユウヤ(矢部昌暉〈まさき〉氏)の兄弟が。
スタイル抜群エロエロのヒールが元モー娘。の飯窪春菜さんで驚いた。
元宝塚の悠未ひろさんは要所要所を歌声で締めてみせる。
アクションは流石に後楽園ヒーローショーの聖地、ずば抜けている。

かなり凝り練った設定で、SF好きには面白い。
石ノ森章太郎の『サイボーグ009完結編』っぽい世界観。

ネタバレBOX

5次元宇宙とは、リサ・ランドールの唱えた多元宇宙のこと。平たく言えばパラレル・ワールド。地球が近い将来滅亡するので別の世界線の地球に選ばれた者達を移住させる計画が“ゴッドウィル”。2014年、霧原兄弟の実験が成功したことを受けて大規模な移住が始まった。残された地球の人々からすれば人類が次々と消えていく大災厄。『エヴァンゲリオン』の「人類補完計画」に近い発想で、もう一つの地球では人類は精神体として一体化するようだ。“イデ”みたいなものか?どうもその辺が未整理。

前半の面白さが後半、御厨恭二朗、奥原晶子、双海翔子の異次元の予知能力者の話になるともうスピリチュアル系宗教。誰に入信するかの話になって科学的面白さが薄れる。(平井和正の『幻魔大戦』もそうだが)。そうなるともうこの話は畳めない。

2014年、パラレル・ワールドに霧原兄弟が飛ばされる際、誕生した赤子に魂が分与された、それが黒木兄弟。(弟が産まれるのはもっと後だが・・・)。

黒木タクヤがダイナーの物陰に潜んでいた女に後ろから刺される。そこで時が逆戻りする描写があったのだが、あれは何だったのか?
私の恋人 beyond

私の恋人 beyond

オフィス3〇〇

本多劇場(東京都)

2022/06/30 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなり面白かった。大林宣彦の『海辺の映画館』や今敏の『千年女優』を想起する、時空間を転生し駆け巡るラブストーリー。
2015年上田岳弘による小説刊行、2019年舞台化、今回はバージョンアップしての再演。
渡辺えりさん67歳、小日向文世氏68歳が、のん28歳と遜色なく歌い踊る音楽劇。洞窟のクロマニョンからナチス収容所から満洲から病院から時計屋からオーストラリアの荒野から、世界中をコスプレ三昧で疾走。10万年の時を越えてまだ見ぬ“私の恋人”を探し続ける“行き止まりの旅”。
早着替えの連続で一体何役やったやら、めくるめく世界線とキャラクターがカオティックにばら撒かれる。

アンサンブル的に脇を固める天使達4人が更に素晴らしい。このスピーディーな演出をつけられる渡辺えりさんの腕前。
山田美波さんはMAXのLinaっぽい長身、奈良美智(よしとも)の描くしかめっ面の子供のイラストに似ている。兎に角インパクトがある。
坂梨磨弥さんは松岡茉優っぽい見事なバレエダンサー。
関根麻帆さんは福島弓子っぽい顔立ちで元気満々走り回る。
松井夢さんは何となくあーりんっぽい愛嬌。

矢張り、のんの存在感はずば抜けている。彼女以外がこの役をやると全く別な話になるだろう。替えの利かない唯一無二のカリスマ性。内面が全く想像つかない。これぞ“純少女”か。アイドル・アングラ。
ひたすら弾き続ける三枝(みえだ)伸太郎氏のピアノが最高。

ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】

ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】

劇団四季

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2022/05/21 (土) ~ 2022/08/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕80分、休憩20分、第二幕55分。

原作者は『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユーゴー。
自分は多分、サイレントの『ノートルダムの傴僂男』を観ている筈。(1923年公開)。エスメラルダを抱きかかえて暴れるカジモドは悪役の描かれ方だった印象。
カジモドはフランス語で「ほぼ」、「殆ど」の意味。亜人的なニュアンスで名付けたのだろう。

1996年、ディズニーのアニメ版を映画館で観て、余りのつまらなさにショックを受けた。(今観ると違うかも)。美男美女の恋愛物語を醜悪な奇形がアシストするような都合のいい話。そもそもこんな話だったか?何もかもがディズニー調の嘘臭いヒューマニズムで安っぽく味付けされた粗製品に変えられてしまう昨今。その時の失望感があるので逆に今回どうアレンジするのか、妙に気になった。

結論から言うともう一回観たいくらいの良い出来。話は例によって『醜男の叶わぬ恋』と見せつつ、もっと深みにまで到らんとする。手塚治虫×荻田浩一の『アラバスター』も同テーマだった。一人ひとりの歌声が素晴らしい。大小六つの鐘が音もなくスルスルと降りてくる舞台美術の厳かな完成度。今回、役者陣は額に極小ピンマイクを貼り付けていた。(よくあるのはもみあげ部分)。

真の主人公、フロロー大助祭(司教に次ぐ高位、その下に司祭)役は野中万寿夫氏。キリスト教に人生を捧げた筈が、まさかの情欲(リビドー)に襲われ惑わされていく。
先天的に背中と眼の上に醜い瘤を持つ傴僂男・カジモド役は金本泰潤氏。二つの声を見事に使い分け、いざ歌わせれば絶品。劇中にてメタ的に醜い被差別者を演じるという演出がズバリ嵌っている。
ジプシーの踊り娘、絶世の美少女のエスメラルダ役は松山育恵さん。雛形あきこと仲里依紗を足したような美人。この娘が象徴するものは哲学的命題。神への信仰を裏切ってでも我がものとしたい本能的衝動。理性を簡単に捻じ伏せる、動物に本質的に組み込まれたDNAの強さ。彼女の美しさの前で貴賤の誰もがひれ伏し、理由も解らぬまま崇拝していく。
大聖堂警備隊長フィーバス役は佐久間仁氏。職務を裏切ってまでエスメラルダに惚れ抜く。

金本泰潤氏が登場すると傴僂の甲羅のようなアイテムを装着、顔を指に付いた黒のドーランでこすると一瞬でカジモドに变化。声も嗄れ、醜い傴僂男が現れ物語が滑り出す。

ネタバレBOX

第一幕ではエスメラルダという情欲が男達を狂わせていく情景。「この女が手に入るなら全てを失っても構わない」と男達が狂っていく。ノートルダム寺院に幽閉されていたカジモドは怪物の石像・ガーゴイルを唯一の話し相手として育つ。無論、彼等はカジモドのイマジナリーフレンド(想像上の友達)。
第二幕はトーンダウンしてディズニー調に。悪いフロローから善いカジモドとフィーバスがエスメラルダを救う展開。
エスメラルダとフィーバスが歌う『いつか』の歌詞も唐突で受入れ難い。冤罪で火炙りの刑に遭う前夜に、「いつか皆が平等に暮らせる日が訪れる」なんて夢想するのは余程の思想家だけだろう。

原作ではエスメラルダはカジモドの醜さを嫌い、顔を逸らす。ただ一方的に恋をするだけのカジモドは処刑されたエスメラルダの亡骸を抱き締め、一緒に死体置き場の中で死ぬ。数年後、掘り起こされた二体の白骨遺体、女性の身体を強く抱き締めている畸形の姿。

原作とディズニーの中間のような舞台、個人的にはもっと嫌なものが観たかった。
ラスト、皆が黒のドーランで顔を汚し、逆にカジモドだけが素顔に戻る。「醜さとは何なのか?」を端的に表現。「美醜を決めるのは大衆、貴方達自身なのだ」と云う結末。
ここで観衆が思うのは、「何故エスメラルダに皆狂わされたのか?」である。生まれながらの外見的な醜さ(主観的な美醜)を理性で否定してみせたところで、カジモドがエスメラルダに夢中になったことは事実。理屈不要の生物学的本能(子孫繁栄)なのか?それとも未だ解明されていない何かがあるのか?
もんくちゃん世界を救う

もんくちゃん世界を救う

U-33project

王子小劇場(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ストーリーテラーの中村透子(とうこ)さんが本作の絵本を手に持ち、読み聞かせを始める。文句ばかりで喧嘩が絶えない老人夫婦の話を子供向け番組風味のコミカルなアクションをまぶして展開。皆で同じ動作をダンスのように振り付ける様がリズミカル。子供番組のノリで話は進む。おじいさん(伊藤瑛佑〈えいすけ〉氏)が向かったのは牛丼屋。牛丼の吉田家の店内放送がなか卯の水樹奈々そっくり、何故かaikoばかりかけている。そこにいたゆでちぃ子さんがおじいさんの目に止まるのだった。
ゆでちぃ子さんを中心に桃太郎を模した一行、不条理な世間に文句を言えない弱者達が鬼退治に向かう。会社でパワハラに遭っている犬(柴崎史也氏)、学校で苛めに遭っている猿(早見蛍〈けい〉さん)、誰からも無視されている雉(田中天さん)。町中に痛みが溢れ、被害者の憎悪が向く先は加害者ではなく、何も出来なかった自分自身。

中村透子さんが最高、ずっと観ていられる。彼女のリアクション芝居は秀逸。赤鬼役の平安咲貴さんはこういう嫌なキャラがよく似合う。小泉愛美香さんはもう神々しい。(ただファンなだけ)。

ネタバレBOX

前半は厳しい展開、なかなか面白くならない。後半、小泉愛美香さんの登場からパーッと明るくなる。キク(聞く)ちゃんはひたすら「何で?」と聞いて回る好奇心旺盛な小学生。彼女がいれば場は成立する存在の強さ。更にゆでちぃ子さんが絵本を奪いストーリーテラーの中村透子さんと役割を強引に入れ替える。肩を落とし仕方なく話の続きを力なく展開する中村透子さん。ここからが真骨頂、ぐんぐん面白くなっていく。

いつも物語は同じ構造。正しいと思ったことを突き詰めてみても、更なる絶望的な結末が待っている。相対的な価値観を突き合わせてみても立場が変わるだけで構造自体は変わらないからだ。頭で善悪を考えないで、あるがままに生きていくしかないのか。それにはまず自分を好きになる必要がある。自己肯定がこの世界の肯定に繋がるから。まあそここそが一番の難問なのだが。
たぐる

たぐる

ここ風

テアトルBONBON(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

約2週間前に体調不良で降板が発表された三谷建秀氏。代わりに脚本・演出の霧島ロック氏が浜辺のバーのマスター役を兼ねた。これが流石に何の違和感もないもので、三谷氏バージョンだったらどういう構想だったのか気になるところ。

東京から田舎の海辺の家に独り越してきた元女医・市橋一花(もなみのりこさん)。寺島しのぶを思わせる凛とした独身女性。元同僚(天野弘愛さん)とその息子(岡野屋丈氏)、元患者(はぎこさん)が遊びに来る。更にリョウと云う男に会いに訪れるフリーライター(岸本武亨〈たけゆき〉氏)や勝手に家に入ってくるイケメン久右ェ門(花井祥平氏)。彼女に密かに恋する地元の床屋(?)の斉藤太一氏。記憶喪失のインド人ジョニー役の香月健志氏は最高だった。

何の変哲もない数日間で綴られるのはまさに文学で、作家の創作意図の深さに驚く。誰もが誰かに赦されたがっていて、一体何をすればいいのか判りはしない。けれども何かをせずにはいられない。この物語の全体像が見えた時、観客はこらえきれぬ涙を零す。是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

はぎこさんは男性役かと思った程ずけずけとした関西弁、痛快なキャラ。ウクレレも巧い。(弾く真似か?)
久右ェ門の由来は『オバケのQ太郎』と『ドラえもん』であろう。リョウが拘る娘に嫉妬し、貝の瓶を隠し沖に出たイルカ。そのせいで海難事故に遭ったリョウを救けられなかった悔い。

前半は設定が雑でキャラもイマイチ跳ねない。ワンシチュエーションに拘ると手詰まりになるのか。なかなか話が核心部に行き着かない閉塞感。それが後半、フリーライターの「自分は蜘蛛を殺したことがないんです。」から、一花が「カンダタ?」となって芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に話題が飛ぶ。ああ成程タイトルの『たぐる』とはここから来ているのか!どうしようもなく駄目な屑が地獄の底から這い上がる唯一の希望、お釈迦様のお遊びの蜘蛛の糸。誰かの為に自分を犠牲にすることで少しでも己を浄化出来ないかと夢想。無論今更何をしたところで何一つ取り返せはしない。それでも心は痛み苦しみ何かをせずにはいられない。自分の罪が赦される道筋が何処かにないかと。足掻いて足掻いてのたうち回って死んでいく。パーゴラの下で皆が愉しげに一花とリョウの誕生日を祝う酒宴、それを見ていたのかいないのか、『真夜中のカーボーイ』のように死んでいくフリーライター。彼はリョウに自分自身を仮託して、蜘蛛の糸を手繰る方法論を探っていたのだ。

登場しない亡父リョウが舞台上に確かに浮かび上がる。
筋肉少女帯の『戦え!何を!?人生を!』が流れるよう。
セイレーンの痕

セイレーンの痕

たすいち

吉祥寺シアター(東京都)

2022/06/23 (木) ~ 2022/06/27 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

いきなり開幕からピーズの『しげき的な日々』が轟く。
「バカはたばになって がなっているだけ
 バカはちぢこまって だまっているだけ
 きどってねーで スリルだぜ
 しげき的な日々」
作品世界とは全く関係なく、15周年を迎えた劇団の雄叫び。人生やったもん勝ち、吉祥寺シアターが沸く。

幻想的な舞台美術は海上にぼんやりと浮かぶ光る金属の環。ギリシア神話の海の怪物セイレーン、美しい歌声で人々を惹き寄せ惑わせたまま喰い殺す。

物語はカリスマ的人気を博す女性シンガーの歌声に導かれた人々の群像劇。岸口萌香役の北川理恵さんがメチャクチャ説得力のある歌声、楽曲の完成度も高い。(本物の歌手だった)。『Polaris(ポラリス)』は頭上に輝く北極星、闇夜を彷徨う旅人達の唯一の目印。それを遠く見上げる者達一人ひとりに「大丈夫」と優しく告げてくれる。ライブシーンが盛り上がるので、もっと観たかった。
信者のように熱狂し取り憑かれていくファン達。そこに疑念を感じた者達がライブハウスに潜入する。

同時に描かれるのは、とある女子高の合唱コンクール前の様子。やる気をなくした教師(中田暁良〈あきら〉氏)や何かに悩み続けている生徒(永田紗茅さん)、それを心配する友人(中野亜美さん)。

小柄なチカナガチサトさんと身長182cm!の杉田のぞみさんの対峙するシーンが絵になる。
印象に残るのは信望厚い学級委員長の中野亜美さん。彼女はどんな役を演らせても何か気になる存在感。
ファンの一人、小野里茉莉(おのざとまり)さんが可愛かった。

ネタバレBOX

北川理恵さんに自分の力を預け一緒に歌う幽霊は巨乳が目立つ永渕沙弥さん。(今作を最後に無期限休養とのこと)。聴く者の潜在意識に働きかけるサブリミナル効果で次々に聴衆を魅了していく。ただ自分の想いを誰かに聴いて貰いたいと思うだけの孤独で純粋な女性。普通はこの手の悪霊キャラには邪悪な野望があるものだが面白い設定。
北川理恵さんを信奉し路上ライブからずっと追い掛けている最古参ファンは山咲和也氏。彼女を「キチキチ」と呼ぶのが気になる。
ライバルだった筈がどんどんファンを取られて激しく人気の差を付けられていく落ち目のシンガー、大森さつきさん。金髪ロングはやたら似合っていて美しい。ウィッグだと思っていたが、地毛か?
独りアクション俳優のような青木清四郎氏。舞台上を上下左右奥手前、走り廻り踊り廻る。気ままな風来坊の亡霊。
古参ファンの細田こはるさんは『嫉妬深子』の印象が強い。
北川理恵さんの「助けて」と云う心の声が聴こえて会場に訪れた宇佐見輝(あきら)氏。彼の存在を上手く使いこなせていないのが残念。

複雑な物語の語り口には作家のオリジナリティが溢れる。ばら撒かれたエピソードが多彩で話の構造がなかなか読み取れない。二つの話が実は5年間の隔たりがあったことが最後に分かる仕掛け。

生徒に掛かりっ切りになり過ぎて、家庭が崩壊し妻に去られた教師。仕事への意欲を無くし次に何かあればもう辞めようと思っている。
両親の離婚問題で自分が何かを選択することに恐怖している少女。
友達の為に何かをしてあげたいのに何もしてやれない無力さに涙する少女。
もう誰が歌ったものかさえ分からない『Polaris』、それを編曲し合唱する生徒達の歌声が流れる。
「何もしてやれないかも知れないけれど僕はずっとここにいるよ。ずっと君の傍にいるよ。僕は君の味方でいるよ。」
北極星が闇の中で煌めく様が確かに見えた。
ゴンドラ

ゴンドラ

マチルダアパルトマン

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『黄色いゴンドラ』

凄い才能。ウォン・カーウァイの登場時みたいな。触れるもの皆黄金に変わり、未だ誰も観たことがない作品世界の扉が開かれる。
よくある設定の三人芝居なのだが、辿り着く到達点に驚く。一体ここは何処なんだ?数十分の観劇(しかも初日2000円!)で相当参った。これは是非観に行った方がいい。コメディとしても秀逸。

山本直樹のエロ漫画みたいな開幕で、東京から田舎の実家に帰ってきた無職引き籠もり駄目男(坂本七秋〈ちあき〉氏)が寝たきりの父親の訪問介護のヘルパー(小久音〈さくね〉さん)に恋をする。その女性は天然?というかかなり頭が悪く、会話もなかなか成立しない。これシナリオなの?と驚く程、自然に間の抜けた噛み合わない会話のラリー。駄目男の叶わぬ恋模様かと思いきや、全くそんな話ではない。宇宙論だ。

ネタバレBOX

小久音さんは若い頃の宮崎美子を薄幸そうにしたような美人。会話のセンスが抜群で、これを書いた作家は天才だ。「ん?」の使い方。
坂本七秋氏は典型的な駄目っぷり。「ああ、これは駄目だな・・・」と誰もが哀しげに溜息をつく。その駄目さ加減が段々と笑えなくなり、みんな己の分身のように愛おしく感じていく。
ズレた二人の間に理性として突っ込みを入れるファミレス勤務の妹(富山華佳〈はるか〉さん)。飼い犬はダークネス号(ダーク)、カワウソはウソツキ(ウソちゃん)。地に足の着いた現実に生きている者の声を聞かせてくれる。

多分キーになる話が母親に関する“何か”なのだろう。「妹と並んで乗った観覧車、向かいの席の母親の顔が逆光で思い出せない」と主人公は語る。「貴女に母に似たものを感じた。だから一緒に観覧車に乗ってくれませんか」と。
妹も「母の死の時、兄が私を守ってくれた・・・」と涙ながらに“何か”に触れる。それはマクガフィンで存在しないものなのだろうが、この物語の底流に流れ続けている。

『ブロック宇宙論』とはそもそも時間など存在しないと云う理論で、「過去・現在・未来が今全て同時に存在している」と云う考え方。この考え方だと仏教で云う因果律が成立し得ない。主人公は自分を駄目にした“因果律”にがんじがらめになっていたが、ふとそこから自由になる。ほんの少しだけ。
嵐になるまで待って

嵐になるまで待って

CfY

新宿村LIVE(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

原作は1991年に発表された小説で1993年に舞台初演。韓国映画『超能力者』に感じが似ているなと思ったが、こちらは2010年の作品。
『ナルニア国ものがたり』がアニメ化、急遽声優のオーディションを受ける中舘早紀さん。その独特な声が評価され見事合格。ベテランの中3声優・環幸乃さん、主演の人気俳優・土屋兼久氏と顔合わせ。そこにアニメの音楽を担当する作曲家・三浦剛(たけし)氏とろう者(聴覚障害者)である姉の椎名亜音さんがニューヨークから挨拶に訪れる。実は土屋氏と三浦氏には友人ギタリストに関わる因縁がありその場で口論、喧嘩となるが・・・。

狂言回しでもある精神医学教授役、近江谷太朗(おうみや・たろう)氏が印象的。カエルのぬいぐるみとやるユーモラスな腹話術。声が出なくなった中舘さんが何とか身振り手振りで伝えんとする必死のジェスチャーを、悉く外してみせるアドリブ満載の遣り取りに場内爆笑。声が出せない中舘さんが必死に笑いを堪える程の好き放題。観客の心を巧みに掴み掌に乗せて操ってみせるサイコロジーは流石のベテラン技。手話の腕前も凄い。

「劇団6番シード」から椎名亜音さんと土屋兼久氏が参加。
ろう者の雪絵が物語のキーパーソンになる為、流麗な手話が飛び交う。椎名亜音さんをこの役に選んだセンスの勝利。いつも早口で捲し立てる彼女が一言も喋らない役で見事な存在感、全く凄え女優だ。奥さんがろう(聴覚障害)の女優、忍足(おしたり)亜希子さんである三浦剛氏も本物の手話を披露。(ちなみに二人の出会いは今作の2002年の再々演公演での共演)。
手話が理解出来たならばもっと楽しめる作品だろう。

テーマは『聴こえない声と言葉にできない想い』。障害で声を出せない人もいれば、声は出せても本当の気持ちが伝えられない人も沢山いる。この世に満ち溢れた“聴こえない声”が人々を苦しめ、無意識を支配している現実。言語化すると途端に嘘になってしまう淡い複雑な想い。人に何かを伝えようとすることの難しさ、同じく他人の気持ちを正しく受け止めることの難しさ。人と人とが意思を疎通する唯一の手段、コミュニケーションの苦しみ。

ネタバレBOX

椎名亜音さんが演じるのは天真爛漫な善人、ろう者の雪絵。
彼女の弟・波多野役の三浦剛氏が人の心を読み、相手の無意識に暗示を掛けて意のままに操る超能力者を怪演。佐村河内守や高野拳磁を思わせる妖気、怪僧ラスプーチンすら連想させる。少年時代から、ろう者の姉に危害を加える者達を幾人も始末してきた血塗られた過去。
ユーリ(中舘早紀さん)は波多野と偶然同じ声質を持ち、同じく特殊能力を持っている可能性がある。胸に秘めた片想いと自身の声がコンプレックスであることを波多野に読まれ、暗示を掛けられてしまう。
チカコ(環幸乃さん)も実はテレパスで、相手の心を読み、相手に暗示を掛け操って生きてきた。(流石にこの設定はやり過ぎだろう)。

クライマックス、暴風雨の高層ホテル、波多野の催眠暗示から逃れる為、幸吉(野口オリジナル氏)とユーリは部屋の灯りを消し窓を叩き割り、嵐の夜に身を委ねる。

無垢なる雪絵の無意識が波多野に命じた殺人だったのか。全ての汚泥を背負って波多野は消えていく。
自らの意志で声を取り戻したユーリはチカコと『ナルニア国ものがたり』の読み合わせ。「君が本当にそう信じてくれたのならばその時それは本当になるんだ」。
バロック【再演】

バロック【再演】

鵺的(ぬえてき)

ザ・スズナリ(東京都)

2022/06/09 (木) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初演を観ているので二回目。
野花紅葉(もみじ)さんの美脚がエロエロ。小崎愛美理(えみり)さんの秘書も良い。杉本有美さんの霊感NPOもやたら美人だった。

照明バッテリーの充電トラブル(?)で演出の寺十吾氏が舞台に登壇して突然の中断。充電休憩を挟んでの再開。寺十吾氏は土下座までしたが、観客は玄人でこの手のトラブルには慣れたもの。何の混乱もなく拍手で舞台の再開を後押し。逆に後半戦の雰囲気が良くなった程。

もうこれはホラーではなく、メタ的セルフパロディーの域に達しているのでは。

ネタバレBOX

途中、これは作家と役者の話ではないかと考え始めた。絶対的な権力を持つ作家(創造主)に役者達一人一人が抗うような。作家(超自我)をどう切り崩していくのかの寓話。そう考えないとどうも物語の構造がおかしい。作家は単純なホラーを語ることにうんざりしているようだ。

黒沢清や高橋洋など、Jホラー・ムーブメントを牽引してきた作家がことごとく方向転換。黒沢清の『LOFT』を当時観た時、本当にこんなものを創る作業が心から嫌なんだろうなあと同情すら覚えた。「もう怖いと思うものが無くなってしまった」と彼等は語る。恐怖は突き詰めていくと笑いに変化し、笑いは狂って意味を為さなくなるもの。無意味と真剣に向き合う作家は当然熱烈なファン以外からは相手にされなくなる。高木登はどうもそんな境地と向き合っているような気がした。全くの勘違いなら申し訳ない。煮詰まった時は原作ものか史実に基づいたものをやると良い。
瀬沼さんのことを何も知らない

瀬沼さんのことを何も知らない

ライオン・パーマ

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2022/06/08 (水) ~ 2022/06/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

海辺の田舎町。舞台は人気ラーメン店に並んだタクシー運転手(草野智之氏)と市役所勤めの幼馴染(星野そのみさん)のエピソードから始まる。なかなか席が空かない人気店。一人どうも奇妙な客がいるようだ。その男の余りの気味悪さに、隣の喫茶店に集った町の顔馴染達が語り合う程。一人の男が登場したことにより小さな町にさざ波が立っていく様相はスティーヴン・キングの『ニードフル・シングス』を思わせる。

主演は瀬沼敦氏、役名もそのまま。長身で強面の妙な雰囲気は古尾谷雅人と田中哲司を足して更に異様な犯罪者のオーデコロンを振り掛けたような。全く内面を他者に類推させないこの男が観客の心を徐々に掴み、ある種の感傷を呼び起こすのは見事。
海沿いの小さな田舎町、花村怜美(さとみ)さんは町の男の誰もが恋するような華のあるホステス。ママのいないラウンジやクラブ的な店で男達に夢を売っている。彼女の所作が本当に魅力的で目を奪われる。
その店「ピンクムーン」の店長、 嶋澤秀展(ひでのぶ)氏はスリムクラブの真栄田賢を思わせるゴツさ。
狂言回し的な役回りのタクシー運転手、草野智之氏は元巨人の槙原寛己似。
人気ラーメン店「漫々亭」の主人、樺沢崇氏は若い頃の石橋蓮司に似た印象的な風貌。
ラーメン店に弟子入りする室谷靖氏は鳥越俊太郎っぽい。
ラーメン店の隣にある喫茶店のマスター、草野智博氏はモロ師岡に似た雰囲気で物語の謎を解くキーパーソンに。
喫茶店でバイトする高校生、本多正憲氏は競歩がよく似合う。オダギリジョーの若い頃みたい。
スーパーのパート役、斉藤優紀(ゆうき)さんがお色気ムンムンのミニスカでエロかった。

長目のコントが続いていくような奇妙な作風。そこにこの町で過去に起こった奇怪な事件が絡んでくる。そして第二幕からいよいよ物語は作家の語りたかった核心に迫る。

ネタバレBOX

花村怜美さんと瀬沼敦氏が「ピンクムーン」で二人きりになるクライマックス。花村さんは過去を捨てて逃げ続け偽りの自分で生きていくことを腹に決めている。瀬沼氏にも自分と同じ業を感じ、二人で町を出て行かないかと誘う。このシーンで流れる曲がブランキー・ジェット・シティの『いちご水』(しかもLive Version!)。まさかここでこう来るとは・・・、参った!

「サヨナラが知ってるのさ 何が一番綺麗な世界?
 目に映るもの全て 切なくなる程純粋なものばかり···」
「消えてくれないか今すぐ 僕の目の前から今すぐ
 死ぬ程お前を愛しているから」 

死ぬ程美しく愛おしいから、それを醜く感じてしまう前にサヨナラを告げようとする歌。それ以外に美しさを守る術を知らない愚かな人間の詩。
ああ、ここでこれを流すか・・・、と胸が千切れそうな想い。この世で一番美しい女の心の中に手を伸ばした男達の零す涙。(店長、嶋澤秀展氏がボロッと流した涙の重たさ)。この海辺の田舎町は弱い者達のありったけの優しさで出来ていた。優しくて優しくて痛くて堪らない。

この曲が流れた以上、瀬沼氏が一緒に行くことはないことを観客は知っている。花村さんは独り海辺でタクシーに乗り込み、「何処か遠くへ」と告げる。喫茶店では瀬沼氏が窓の外の海を黙って見つめている。ヌーヴェルヴァーグだ。BJCなら『砂漠』なんかを流したくなる気分だが、『いちご水』を選曲する作家のセンスにやられた。
夏至の侍

夏至の侍

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/06/07 (火) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「金魚金魚、鬼祓えや厄祓え、全てを流せや永久に
 金魚金魚、生まれ変われや人となれ、命を繋げや永久に」
この印象的な劇中歌、作曲はもりちえさん!

昭和49年7月、記録的な台風が大分県に上陸。舞台はここから開幕する。由緒ある老舗の金魚問屋、その跡取り息子が新婚3ヶ月の妻を遺して水死。残された一家は、女主人(音無美紀子さん)、長男の嫁(板垣桃子さん)、女子高生の長女(長嶺安奈さん)、次女(大手忍さん)。その後二人の娘は自由と夢を求め家を捨てて出て行くことに。
昭和60年夏至が近付いたある日、それぞれ現実に敗れ果てた二人の娘、あてどなく足は実家へと向かう。

ステージ上部から降り続ける雨。裏返り、奥へと可動するセット、舞台美術は流石の出来栄え真骨頂。皆が差す何本もの黒い傘が印象的な場面転換を生む。

「夏至の侍」とは、夏至の水門開きの時、何処からか生まれ育った溜池に帰って来る金魚のこと。身体中傷だらけになりながらも生命力に満ち溢れた縁起のいい存在とされる。水車は台風で壊れたまま何年も放置され、水は腐り淀んだ死に池にもう金魚なんか育ちはしない。しかし閉業目前の金魚問屋の溜池で水面を跳ねる赤い金魚を見た者が現れる。

鈴木めぐみさん演ずる本家の女主人の優しさに救われる。
この劇団の顔といえば、客入れのもりちえさん。誰もが間違いなくファンになる。

ネタバレBOX

それぞれ物語を抱えているのだが、各支流が本流に合流し奔流が激流へと川の大氾濫を起こすまでには至らない。板垣桃子さんの秘めたる恋のエピソードの描き方が物足りず勿体無い。(イチジクの花言葉は「実りある恋」)。ヤンキー長女の子宮癌、多額の借金を返せずに逃げ出した次女、親友との約束の為に無償で水車を修繕する大工(稲葉能敬〈よしたか〉氏)。
どうも話と話が上手く噛み合わず転がっていかないもどかしさ。主人公の視点を置かず群像劇にしたせいなのか。音無美紀子さんの自分に言い聞かせるような「負けんぞ、負けんぞ。」の呟きだけが作品のリズムとなる。

今作に足りないのは、登場しない冒頭で水死した跡取り息子。彼の幻影を「夏至の侍」とだぶらせて語るべき。息子であったり、夫であったり、兄であったり、親友であったりする。登場しない彼の存在を観客もリアルに手触りで感じられた時、ラストの奇跡を音無美紀子さんと共に体感出来るのであろう。
関数ドミノ

関数ドミノ

イキウメ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/05/17 (火) ~ 2022/06/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

粗筋から藤子・F・不二雄の『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』を想像したが、M・ナイト・シャマランの『アンブレイカブル』だった。
2005年初演、2009年再演、2014年再再演。2017年寺十吾によるプロデュース公演。

地方都市の交通事故、横滑りした乗用車の助手席部分と歩行者がぶつかった。歩行者には何一つ怪我はなく、逆に車は大破。助手席に乗っていた運転手の娘は意識不明の重体。その事故を目撃していた複数の人物が保険屋によって集められる。誰もが納得のいかない“神の奇跡”。一人の男が半生を賭けて導き出した「ドミノ幻想」理論について語り出す。

ネタバレBOX

『アンブレイカブル』は先天的に脆い骨を持って生まれてきた「ミスター・ガラス」がアメコミに耽溺する内に、自分の対極であるスーパーヒーローも実在するのではないか?と捜索する話。そんな人間を見付ける為に大規模な事故を自ら仕組み、生き残る者を調査する。

今作は「ドミノ幻想」理論と云う架空の理論を掲げ、願いが全て現実化する“ドミノ”を探し求める男の執念。“ドミノ”と睨んだ者にHIV陽性の男を近付かせ、彼の力によって陰性に変わるのかを試す。男は仲良くなり友人関係を築くのだが、彼といて変わったことといえばやたらパンチラを目撃することだった。“ドミノ”の願いによってパンチラ目撃率が大幅に上がったのか!?それともただの偶然か?

誰の視点による願いなのかがドラマの焦点。しかも“ドミノ”の力は半永久的なものではなく、時と共に移り変わる一時的なものでしかないという。誰にも確定不可能な、まさに妄想。ある一時期、神の力を手にしていたかも知れないという推測に基づく・・・、仮説。精神科医の言う通り、そんな妄想にしがみついていても全く仕様がないこと。不思議な事件(バグ)に拘り過ぎて全てを台無しにしてしまうパラノイド(偏執狂患者)のような話。
サラサーテの盤

サラサーテの盤

くじら企画

座・高円寺1(東京都)

2022/05/21 (土) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』が大好きで、それを期待して観に行った。
内田百閒(ひゃっけん)の短編小説『サラサーテの盤』。
1904年にレコーディングされた『ツィゴイネルワイゼン』、作曲家サラサーテ本人がヴァイオリンを弾き、フアン・マネンがピアノの伴奏を。3分30秒辺りでサラサーテ本人のものと思われる謎の声が入っている。(伴奏者への指示とされている)。
主人公の長年の親友が亡くなり、遺された妻が生前旦那が貸していた物を返してくれと訪ねて来る。その中の一つがサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』のSPレコード盤。すぐには見付からず、探しておくと主人公は言う。

主人公ウチダ役の戎屋海老(えびすやえび)氏が奮闘。小日向文世や石橋蓮司を思わせるルックスでコミカルなマイムが絶品。夢と記憶の迷宮を彷徨い歩くような物語。どこかしら『銀河鉄道の夜』やつげ義春を想起する。「カラン コロ カラカラカラ」と頭上から音がする度にふと我に返るよう。ちぎりこんにゃくのことが頭から離れなくなる。

ネタバレBOX

難解。やっぱりちょこちょこ居眠りの人が散見。多分、生と死の境目に迷い込んでしまったお話。懐かしい死者達が生き生きと存在し、自分の記憶が頼り無く混在する。瓦の上を小石が転がるカラカラという音、庇を伝って庭に落ちたのだろう、音は途中で消えてしまう。(自分には丁半博打の壺振りの音に聴こえた)。人の一生を転がる小石の音に仮託してみせたのかも知れない。
花柄八景

花柄八景

Mrs.fictions

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

才能に満ち溢れた舞台。ファンタジーのような、落語の一席のような。
落語界の名門花柄一門。花柄花壇師匠役は岡野康弘氏。これが素晴らしい。とにかく惹きつけられる話芸。
その弟子、前座のプラン太役はぐんぴぃ氏。愛らしい巨漢で語り手も担う。

PUNKSの鉢は今村圭佑氏。頭の悪い喋り方が秀逸。
その彼女、ナンシー・スパンゲン風味の苗は永田佑衣さん。今作のかなりの笑いを担っている。
橋の下で暮らしていた風変わりな少女、燐役は前田悠雅さん。チラシの浴衣の女性も彼女。物凄い演技派なのか天然なのか判断が付かない。ただ強烈な印象が残る。
この三人の微妙な関係性、口の利き方や会話の内容が絶妙。

今作に関わった人全員の次作に興味が湧く。
落語に何の興味もなかったが、岡野康弘氏のような人が高座に立つのなら一度見てみたいと思った。そのぐらい落語の魅力に溢れている。
照明の暗転の繊細な具合が絶品。この効果が強烈で作品の記憶を夢うつつなものとする。
不思議な話で、今作を人に薦めたくなる気持ちに皆自然となってしまう。

ネタバレBOX

「お後がよろしいようで」の意味をプラン太が解説。「次の方の準備が整いましたのでここで切り上げます。」との意味。これがマクラ(?)になってサゲが綺麗に決まる。

『シド・アンド・ナンシー』落語もよく出来ている。「ヴィヴィアン・ウエストウッドのブティック、『SEX』で・・・」から始まり「山師マルコム・マクラーレンがチンピラのガキ共を集め・・・」と来ればニヤニヤしてしまう。作者は本当に好きなんだろうなあ。ちなみにシド・ヴィシャス〈兇悪なシド〉の本名はジョン・サイモン・リッチー(母親が再婚してビヴァリーに)。ジョニー・ロットン〈腐ったジョニー〉が飼っていたアルビノのハムスター、シドに似ているとからかって付けたと昔聞いた。(諸説あるようだ)。

燐の存在が不思議。一年中季節外れの花を摘んできてはそれは枯れず、戸籍もなく誰にも正体を掴ませない。やたらケラケラケラケラ笑う。AI×初音ミクに敗れた花壇師匠が彼女にこそ自分の落語を託した理由。

終演後、階下に降りると貼られているポスターの絵柄が変わっているので要チェック。初演の60分バージョンも観てみたかった。

『人生讃歌』 Hazel Nuts Chocolate
孤という毒

孤という毒

獏天

サンガイノリバティ(東京都)

2022/05/14 (土) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

明日で50になる元刑事、今は自殺防止センターで夜勤。追い詰められた見知らぬ老若男女達と、受話器一つで向かい合う。妻は男を作って出て行き、17の娘はニ年前に家出して失踪。カップ焼きそばが御馳走で、独りで好きな曲を熱唱するのが大好き。自殺を思い詰めた人間がふと脳裏を掠めた気分でダイヤルしてくる。その微かな“生”への渇望の欠片を嗅ぎ分け手繰り寄せていく作業。

亀石太夏匡(かめいしたかまさ)氏、これが初舞台とは本当なのか?ルックスからも演技からも自信が満ち溢れている。歌もやたら上手い。玉置浩二の『メロディー』なんか素晴らしい。
全く退屈とは無縁。舞台上は一人だが受話器越しに声の出演者が複数。映画の脚本家を目指していただけあって、映画的な仕掛けに充ちている。良い台詞が沢山あった。
「本当に孤独でないと死ぬ資格はない。」
「全部捨てちまえばいいじゃないですか!」
「正しくなくてもいいじゃないか!」
自分が自分を苦しめていることに気付かなくてはいけない。
今、凄く心が弱っている人にお薦め。

ネタバレBOX

3人目の電話から一気に話は映画的に。言葉を口に出そうとしない相談者。受話器を指でコツコツ叩く音だけが響く。モールス信号かと思ったがそこまで複雑なものでもない。「はい」(1回)と「いいえ」(2回)の合図だけを勝手に決め、無言の相手に向かって亀石氏は喋り続ける。自分の半生、トラウマ、悩み、苦しみ、不安、葛藤、孤独、迷い・・・、堰を切ったように怒涛の言葉と感情が氾濫し狭い室内を浸していく。凄い熱気、これを観れただけで充分。

亀石氏の父は東映ニューフェイスの亀石征一郎。盟友伊勢谷友介と映画を製作し、「社会貢献に繋がるアート」を理念に掲げた会社も立ち上げている。

凄く心に響いた独り芝居。それでも自殺する者もいる。自分は自殺は否定しない。スタークラブの名曲、『THE LAST RIGHT(最終権利)』の通り、それも選択肢。西部邁が『死生論』で予告していた通り自死を選んだように。
グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

Mo’xtra Produce

吉祥寺シアター(東京都)

2022/05/13 (金) ~ 2022/05/19 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『ビショップ・マーダー・ケース』

死ぬ程面白い。この方法論で古典ミステリーの再生を続けていって頂きたい。幾らでも観れる。とにかく夢中になって読み漁った子供の頃の気分に浸れる。何だろう?この感覚は。役者の出入りのテンポが抜群で、ページを捲るようにシーンが切り替わる。
ソウルやファンクのR&Bが随所に仕込まれていて効果的、華やかに盛り上がる。センス抜群。
脚本・演出の須貝英氏は何者なのか?

1928年ニューヨーク、探偵を開業することを考えている元刑事のサイモン・ブレイ(林田航平氏)。降りた駅で彼を待つ新聞配達の少女アル(中野亜美さん)により、謎の依頼人のもとへと案内される。到着したディラード家には警官が集まって物々しい雰囲気。今まさに殺人事件が発生したのだ。マザーグースの童謡に準えた異様な連続殺人事件が幕を開く。

林田航平氏は勝村政信や寺脇康文、安藤政信に似た長身のイケメン、格好良い。
今作の名探偵ファイロ・ヴァンス役は大塚宣幸氏。オシャレで多趣味な精神分析好き。
地方検事のジョン・F・X・マーカム役は加藤良輔氏、コミカルなワトソンの役割で場を和ませる。
屋敷の主人、バートランド・ディラード(大内厚雄氏)は数理物理学の元教授。杖をついていかめしい。
誰からも愛される教授の姪ベル(佐藤みゆきさん)は男性陣の憧憬の的。
メイドのデイジー役の永田紗茅(さち)さん、強烈な役回りでこのミステリアスな屋敷のスパイスとなる。

ディラード家の隣家、ドラッカー家の母子が強烈。アマチュアだが天才理論物理学者のアドルフ(竹井亮介氏)は脊柱側弯症の子供好き。田中千佳子さん演ずる母、メイは認知症が進行していて横溝正史テイストの無気味な老婆。

MVPは小林少年を思わせる探偵助手として大活躍の中野亜美さん。明るく元気一杯のこういうキャラを創作して挟み込む作家のセンスに唸る。
数学者とチェスプレイヤーが織り成す高度な頭脳戦、ビショップ(司教)の真の目的とは?

ネタバレBOX

原作は名高い『僧正殺人事件』。「見立て殺人」ものの元祖の一つで、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』、横溝正史『獄門島』『悪魔の手毬唄』等はもろに影響を受けている。何かに準えた異様なヴィジュアルの殺人事件が続くといえば、角川映画×市川崑×横溝正史=金田一耕助。何でわざわざこんな手間が掛かった殺しをしなければいけないのか?と犯人に同情すら覚えたもの。日本人の大好物なミステリー・ジャンル。

今作は声だけの出演(駅に現れる時は日傘で顔を隠している)の謎の女、エレノア・ジョーンズ(声・永宝〈ながとみ〉千晶さん)。ここまで行くと浦沢直樹作『MONSTER』のカリスマ、ヨハン・リーベルトだ。この後、どんな展開を構想しているのか気になる。年一本でいいので続けて頂きたいシリーズ。

分からなかったのはアドルフとベルの遣り取り。「写真を4枚渡した筈だが。」「いえ、3枚だったわ。」、はっとして何かに気が付くアドルフ・・・。この伏線がよく分からなかった。

終演後、グッズ売り場に長蛇の列。かなり男性客も多く、今劇団に対する支持率の高さを実感した。

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