「どんぐりくらぶ」
人形劇団ひとみ座
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2023/03/23 (木) ~ 2023/03/29 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
宇宙を調査して回るアノオカタ(声だけ)。目が複数付いた毛虫のようなムムムを地球に派遣、人間について調べさせる。それに同行するのが美少女アンドロイド、レイリン。
彼等が目を付けたのはどんぐりに取り憑かれた小学生三人組、自称『どんぐりくらぶ』のイチロー、ソウタ、アサヒ。天才クリエイターのアサヒがどんぐりで次々と斬新なアートを産み出す。学校でそれらをオークションに掛け、代金としてどんぐりを集めさせる。どんぐりがどんぐりを産む錬金術。どんぐりこそがこの世の全てであるかのようだ。
下から棒に付いた人形を操作する系。(蹴込み芝居)。
挿話エピソオド~A Tropical Fantasy~
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2023/03/14 (火) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
加藤道夫によって1948年10月に発表された今作、1949年3月に文学座によって初上演。東部ニューギニアに出征しマラリアと栄養失調で死線を彷徨った経験をもとにした。鬱病気味になり1953年、35歳で突然の縊死自殺。
ニューギニアにあるヤペロ島、終戦を伝えるビラを撒く米軍機。生き残った日本兵は12人。師団長は士気を下げる為の計略だとして信じない。だが原住民達は戦争が終わったと祭の準備。
師団長役の清水明彦氏が一人奮迅。戦争体験者のルックス、リアリティーがある。クルーゾー警部役のピーター・セラーズや『悪魔くん』のメフィスト役の潮健児、堀田眞三を思わせる風貌。
参謀長役は中村彰男氏。
二年前の上陸時、この二人はヤペロ島の島民が挨拶に出向いたものを襲撃と勘違いして日本刀と銃で惨殺した過去がある。
本来は子供向けが正解なのだろう。もっと60分位に縮めて歌と踊りでテンポよくやった方がいい。
気配
カンパニーデラシネラ
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2023/03/23 (木) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
小野寺修二氏は天才なのだろう。
一体どうやってこの空間を導き出しているのか。
どこに(頭の中の)カメラを置いて切り取っているのか。縦横無尽にカメラが動き何台も違う角度のものに切り替わる。バレットタイムのようなパースペクティブ目線で脳が作られているのか。光と影、空間認識能力、人の描く動線、こだわり抜いた音。聴こえるどんな音にも必ず意味があり、タイミングから音量から練りに練られている。必ずこうでなくてはならない完成形が見えているのだろう。
夏目漱石の『門』を舞台化。まるで鈴木清順の世界。チーンとりんが鳴る。格子戸、窓枠、動く床、走るミニチュア模型、壁に投影される影絵、縫い物、電話、揺れる車両、新聞、明治末期の空気感。
主人公の田中佑弥氏、寺脇康文っぽい。強調した肩幅、汗がボタボタ滴り落ちている。ずっと俯いて暮らす、物思いにふけった受け身の男。
奥さん役の兵藤公美さんは室井滋や森口博子系の顔立ち。このもの静かな和服の女性が内に秘めた情念を時々露わにする瞬間がある。そこが今作最大の魅力。
崖の下に暮らす夫婦の何てことはない日常。何かをしなければならないような気がするが、さしあたって何かをするつもりもない。
狂気の歯医者は藤田桃子さん。
崖の上の屋敷の主人は小野寺修二氏。
訪ねて来る弟は浅井浩介氏。
酒井抱一の屏風が美しい。
下に降りては上がる、揺れる裸電球。紐一本を引っ張るだけの仕掛けで見事な光の演出。
紅い鞠を追い掛ける夢。
一番の名シーンは弟が帰ると、『パルプ・フィクション』のように情熱的にサルサを踊り出す二人。(SEXの暗喩)。静から動への転換が巧い。
是非観に行って頂きたい。
四兄弟
パラドックス定数
シアター風姿花伝(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開幕、暗闇に浮かび上がる四人の男。三男は酷く痛めつけられて床に転がり呻いている。弟の四男を庇って父親に半殺しにされたらしい。長男が「今夜は月が眩しくて綺麗だ」と言うが、誰にもそんなものは見えない。恨み節を呻き悔しさを吐き捨て怒りと憎しみで悶える兄弟達。ふと次男が「俺が親父を殺してきてやる」と言う。はっとする皆。「そんなことをして許して貰えるだろうか?」「お前は誰に許して貰いたいんだ?」武器を手にした四兄弟は凍った川の前に立っている。そこで初めて煌々と照る巨大な満月に気付く。月の光でこんなにも世界は明るく照らされていたことに。川を渡って親父を殺す。ロシア革命だ。
このオープニングがゾクゾクする。ドストエフスキーの『白痴』を黒澤明が映画化したもののような荒っぽさ。観念を映像にどうにか焼き付けようと挑んだ執念。剥き出しの思想が擬人化されて掴み合う。
物語は父を殺して村の指導者となった息子達が理想の社会を築こうとそれぞれのやり方で挑戦する様を描く。皆を説き伏せる為に掲げるのは長男の綴った赤いノート。バイブルのように。
どうもこの村は島の中にあり、海の向こうにも別の村があるようだ。彼等とうまくやっていけるのだろうか。
凄く知的快楽を刺激される寓話。
是非、観に行って頂きたい。
先行予約のおまけで知恵の輪を貰い、人生で初めて外せた。(解説を読んだ)。だがこの仕組みがどういうものか未だに理解出来ず。
掃除機
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)
2023/03/04 (土) ~ 2023/03/22 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第十二回東京国際映画祭、『ツイン・フォールズ・アイダホ』を観に行ったつもりが間違えて、レトロスペクティヴ:ロベール・ブレッソン『ラルジャン』の上映館に入ってしまった。時間通りに来た筈がもう始まっているし、渋々途中から観劇。シャム双生児と娼婦の愉快なラブストーリーを観に来た筈が、スクリーンに映し出されるのはトルストイ原作のひたすら陰鬱な物語、最後は一家皆殺し。「どうもおかしいな」とずっと思っていたがまさかの“シネマトグラフ”。
このように本来観る筈のないものとの偶然の邂逅は人生には得てしてあるもの。その化学反応を期待して場違いなチケットを敢えて購入することも。
チェルフィッチュなんて全く知らないが、何か人の話を聞くと糞つまらない批評家向けのイメージ。全く期待しないで観た。
開幕は掃除機の自己紹介から始まる。これは筒井康隆の『虚航船団』だろうし、それに影響を受けた糸井重里の『家族解散』だろう。(無機物の述懐的なものが当時流行った)。栗原類氏が痩せて顔色が悪いのが気になった。
村上春樹のプロットを村上龍が書き下ろし、イ・チャンドンが映画化したような作品。(村上春樹の『納屋を焼く』を『バーニング 劇場版』として映画化したものにテイストが似ている)。途中、環(たまき)ROY氏が客席に向かって語り出す内容がもろ村上龍。『コインロッカー・ベイビーズ』や『愛と幻想のファシズム』、『コックサッカーブルース』、『エクスタシー』、散々読んだ。環ROY氏はライセンス藤原と中邑真輔を足したような感じ。
舞台はスケボーパークのように左右が湾曲している。上手が父親役モロ師岡氏の部屋で壁にテレビが着いていて、下手の娘役家納ジュンコさんの部屋は壁に布団が敷かれてある。寝る時は真横になるので大変だ。
モロ師岡氏は話し始めると意識が三つに分裂する。同じ格好の俵木藤汰氏と猪股俊明氏が登場し同時に同じ台詞を喋らせることでそれを表現。
開幕から居眠り率が高く、こんな舞台を観に来る熱心なファンでさえ次々と意識を失っていく。
引きこもりの家納ジュンコさんが二階でドンドン音を出して喚き散らす。それを下で聴いた環ROY氏が「彼女、ミュージシャンですか?内容が魂の叫びっぼい」と真顔で訊く。閉ざされた家にやって来た闖入者が全てを破壊していくようでそうでもない感じ。
家納ジュンコさんの物語に絞った方がよかった。
オペラ『森は生きている』オーケストラ版〈神奈川公演〉
オペラシアターこんにゃく座
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2023/03/18 (土) ~ 2023/03/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕50分休憩15分第二幕65分。
ずっと気になっていたこんにゃく座、到頭観れた。
終わってから気付いたのが出演者が12人のみということ。全員何役も兼ねていた。
むすめと十二月(じゅうにつき)の精の場面で、何故精が11人しか出ないのかずっと不思議に思っていたが、そりゃ無理だ。
林光氏の作曲した曲の完成度。詞も理解し易く聞き取り易い。
客演の佐山陽規(はるき)氏は12月役と博士役という物語の要所を担う。高田恵篤氏かと思っていた。
1月役の佐藤敏之氏の声は太くて通る。
4月役の泉篤史氏は若さと清廉さがある。
ヒロインであるむすめ役の鈴木裕加(ひろか)さんは天地真理っぽい。
ヒールである女王役の熊谷みさとさんは三雲孝江っぽい。
年に一度、大晦日の夜に全ての月の精が森に勢揃いして新年を祝うお祭りを行なう。同じ日、その国の我儘な女王が御布令を出す。春の4月に咲くマツユキ草を持って来た者に金貨を取らせると。強欲な継母と姉は吹雪に荒れる森の奥へと、むすめに探しに行かせる。
手塚治虫っぽい世界観。
子供達が最後まで楽しく観ているのが凄い。
マツユキソウ(待雪草)=スノードロップ。
送りの夏
東京演劇アンサンブル
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
永野愛理(えり)さんのファンならば今作は必見。気の強そうなバンギャのイメージがあったが、今回は12歳の小学生役。ほぼすっぴんで少女の目に映し出された奇妙な人間世界を切り取ってみせる。家から遠く離れた海沿いの田舎町、失踪した母親を追ったひと夏の冒険譚。この人の独特な声が耳に残る。アニメの声優なんか向いてるのでは。途中浴衣のシーンがあるのだが、驚く程鮮やかな色彩。
お父さん役の和田響き氏は岸博幸っぽい。
やたらインパクトを残す医師役は公家義徳(こうけよしのり)氏。坂本龍一と細野晴臣を足したような印象。
悪ガキ中学生役の雨宮大夢(あめみやひろむ)氏はかなり痩せて美形になっていた。
死者への執着を心ゆくまで過ごす人々。そこに正解はない。他人が口を出すことでもない。あるのは優しさと悲しさ。
SHERBETS『サリー』
悲しみはきっと優しさと同じ成分なんだね
思い出はきっと悲しみと同じ成分なんだな
ガレッジセールのゴリが監督した映画、『洗骨』を思い出した。
是非観に行って頂きたい。
少女仮面
糸あやつり人形「一糸座」
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
メリー・ホプキンの「悲しき天使」。
荒野を彷徨う亡霊の乞食、彼等が乞うのは“肉体”だった。
永遠の宝塚スター、春日野八千代の経営する喫茶店『肉体』をヅカガールに憧れる少女・緑丘貝と老婆は訪ねる。そこは防空壕を改造した地下の城。
店にはボーイ主任の丸山厚人(あつんど)氏と奴隷のような二人のボーイ。
腹話術師役、中川晴樹氏と腹話術人形役、夕沈(ゆうちん)さんの絡みが最高。中川晴樹氏は“クレイジー・モンキー”葛西純みたいで印象的。
水飲み男役、田村泰二郎(たいじろう)氏74歳!由利徹や小松政夫みたい。昭和のコメディアンの持つ静かな狂気。
甘粕大尉役、大久保鷹氏79歳!格好良いな。ちなみに皆大好きな甘粕正彦は54歳で自害している。
ALIEN MIRROR BALLISM
岩渕貞太 身体地図
吉祥寺シアター(東京都)
2023/03/16 (木) ~ 2023/03/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
WBCの準々決勝で日本中が熱狂する中、コンテンポラリー・ダンスの聖地(?)、吉祥寺シアターもチケット完売で盛り上がっていた。
額田大志(ぬかたまさし)氏が下手で電子ドラムを使ってビートを構築。上手の渡健人氏はドラムでリズムを刻む。
そこに登場する5人のダンサー、その舞踏がメロディーを奏でる。タイムマシンで20年後の日本に行くと『モーニング娘。'43』をやっていて、「今こんなふうになってんだ」と衝撃を受けるようなLIVE。
CHICAGOの名曲「Street Player」を思わせるAOR。YMOから
小室哲哉、ジョルジオ・モロダーの『メトロポリス』のように、うねるビートが心地良い。クライマックスでは渡健人氏が下手にやって来て二人並んでドラムを叩く。PiLの傑作アルバム『フラワーズ・オブ・ロマンス』のマーティン・アトキンスを彷彿とさせるビートの地響き。
入手杏奈さん、若々しい新人だと思ったらガチガチのベテランだった。手脚がやたら長く目立つ。
北川結(ゆう)さんのベロ出しダンスは『寄生獣』っぽい。ベロに引っ張られているように踊る。
涌田悠(はるか)さんはインド舞踊風味。
中村理(まさし)氏はジャニーズのミュージカルを思わせる華のある動き。『忍者武芸帖 百地三太夫』での真田広之のジャズダンスを想起。
辻田暁さんが胡坐をかき、アフリカ部族のシャーマンのように唸り始めると、降霊した動物霊が皆に取り憑いていく。
いよいよ主催の岩渕貞太氏の登場。イケメンの土方巽のような雰囲気。覗く上半身はまるでヨガの行者、片岡鶴太郎的。
「こんばんは、こんばんは」と挨拶をすると今作についての解説を始める。
「内臓と心は直結している」
「(舞踏の)輪郭は描かなくてもそもそも備わっているもので、体内のアメーバを外部へ向けて不定形に放出していくこと」
ベロを垂らして踊り出す。
日本の祭礼の踊りを感じさせる群舞。日本の祭礼は神を祀る表現として“笑い”を多用する。自虐的なものなのか日本独特の感性。日本最古の踊り子、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が八百万の神々と共に笑ひゑらぐ姿。天の岩戸の前で胸をはだけ陰部を露出、シャーマニズムとトランス、笑いと狂気。神の心を楽しませ和らげるものとして始まった神楽、神遊び。そんな原初的衝動についてまで考えが広がる。
レプリカ
ハツビロコウ
シアター711(東京都)
2023/03/14 (火) ~ 2023/03/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
主演の松田佳央理さんがやたら美人。丸川珠代の横山めぐみ風味。開演前から舞台上では豪雨と稲光、轟く雷鳴。毛布を被って恐れ慄く姿は中世の修道僧。独特な指の握り方。不安を掻き立てる。
嵐の中、突然の停電、けたたましく鳴る電話のベル。何かに怯えている人々。人里離れた田舎の山奥の家、十年前から因縁のあるストーカーの影がちらつく。娘を守る父親の必死の戦い。
父親の松本光生氏は竹原慎二っぽい。
医師の井手麻渡(あさと)氏は長井秀和的。
沖縄から出て来た新垣(あらかき)亘平氏は石井智宏のようなふてぶてしさ。
酪農家でアダルトグッズ屋も兼業している高田賢一氏、パロディTシャツに悠然たる髭を貯えた巨漢。ジョン・テンタを思わせる。
画家の田辺日太氏は小松政夫の味わい。
ウイスキー、煙草、砂糖の入れすぎたコーヒー、ナイフ、ラジカセ、カセットテープ、精巧なレプリカ人形。
誰もが肚の底で松田佳央理さんの美しい肉体を我が物とせんと静かに欲望をたぎらせているようだ。
『10 クローバーフィールド・レーン』みたいな雰囲気。アメリカのサイコ・スリラーを思わせる。誰の言うことを信じ誰の言うことを信じてはいけないのか。誰が誰を騙し誰が誰に騙されているのか。
張り詰めた狂気、二転三転する緊迫の舞台。
是非観に行って頂きたい。
Dramatic Jam 5
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2023/03/10 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
感想は何もない。
俳優座スタジオで『対話』を観劇した時のようなピリピリした緊張感が張り詰める客席。(ベクトルは逆だが)。
やっぱ今井未定さんが欲しいところ。
寺園七海さんの人をムカつかせる表情が好き。
いつか「正論ティー!」でどっと客席が沸く日までこのギャグを続けて欲しい。
ジョン万次郎の夢
劇団四季
自由劇場(東京都)
2023/03/11 (土) ~ 2023/04/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「ジョン万次郎」といえば居酒屋チェーンだが、もう全部潰れているらしい。江戸時代に難破してアメリカ漁船に救助され向こうで英語を学んで帰ってきた人、位の知識しかなかった。去年の夏観た『人間になりたがった猫』がイマイチだった為、四季のファミリー向けには警戒していたが今作はよく出来ている。楽曲も悪くない。美術も衣装も見事。
冒頭、当時のアメリカの新聞記者の女性二人と江戸の瓦版の女性二人が地図を前に解説してくれる。大森美優似の土居來未(くるみ)さんと秋元才加の目力を持つ東沙綾さんが気になった。
大荒れの海、嵐に遭遇した漁船が大波の中を右往左往。ド迫力のポリエステルサテン生地(?)をうねらせた大海原。投影された雨、アナログの力を思い知る。人力に勝るものなし。
バカリズムっぽくもある島村幸大(ゆきひろ)氏演ずる14歳の万次郎。アメリカの捕鯨船に救助される。ホイットフィールド船長(北澤裕輔氏)に見込まれ、養子のような形でアメリカへ。こんな優しい良い人がいつの時代も世界に確かに存在していることの不思議。万次郎は11年後に到頭帰国。薩摩藩主、島津斉彬(なりあきら)の夢、開国して日本を近代国家に生まれ変わらせることを聞く。島津斉彬役も北澤裕輔氏。
侍が突然美声で歌い出す違和感が悪くない。今こそ『鴛鴦歌合戦』をミュージカル舞台化したら受けるのでは。
デラシネ
鵺的(ぬえてき)
新宿シアタートップス(東京都)
2023/03/06 (月) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
いや、参った。高木登氏の才能にひれ伏す。これを否定するのは嘘になる。メチャクチャ好きな話。
2012年指原莉乃主演の『ミューズの鏡』という深夜ドラマがあった。福田雄一作品で『ガラスの仮面』を大映ドラマ調に展開。ツッコミのない笑い(ツッコミは視聴者各個人の裁量)。このスタンスが受けて福田雄一は成り上がっていく。竹熊健太郎✕相原コージの『サルまん』信者の自分としてはこの手の作品には弱い。今作は美内すずえや梶原一騎の大真面目にイカれているスポ根漫画風味。(『男の条件』なんかも機会があれば読んで貰いたい)。脚本家養成ギブスなんか着けてもよかった。海原雄山のようにがなり立てる佐瀬弘幸氏が痛快。これだけ怒声を上げる舞台もないだろう。弟子が全員若い女というところも素晴らしい。
才能を認められ大御所脚本家(佐瀬弘幸氏)の内弟子に抜擢された木下愛華(まなか)さん、声が魅力的。屋敷に住み込みとなる。憧れの先輩、とみやまあゆみさんに挨拶。このクールな眼鏡の天才脚本家(師匠のゴースト)は無機質な抑揚のないボカロのような話し方。とにかくキャラが立っている。アニメだったら同人誌が放っておかないだろう。松井玲奈みたいでカッコイイ。
才能もないくせに脚本家の愛人になって成り上がった高橋恭子さん。この人も魅力に溢れている。おっとりした上品な雰囲気。
才能はないが毒舌でゴシップ好きな小崎愛美理(えみり)さん。
マネージャー役の田中千佳子さん、ドラマのプロデューサー役の川田希さん、時々丸い内窓から顔を覗かせる奥さん役は米内山陽子さん。(本物の脚本家、『インディヴィジュアル・ライセンス』が素晴らしかった)。
時折、客席に語りかけもする娘役は未浜杏梨さん。コスプレ三昧。
亡くなった天才脚本家役は中村貴子さん。
ドラマのトップ女優役は堤千穂さん。
女性の描き方、筆運びにセンス有り。キャラ一人一人が立っている。ちゃんと内面があり、自分なりの哲学で生きている。
ある企みをもった木下愛華さんが奇妙な屋敷に潜入する様子は『青ひげ公の城』。一体そこで彼女は何を体験するのか?
とみやまあゆみさんが最高!
ひとり語り芝居『土神ときつね』他
お茶祭り企画
あさくさ劇亭(東京都)
2023/03/10 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一部は詩の朗読と宮沢賢治マニア、川島むーさんによる講演。本多千紘さんがピアノと効果音を担当。
①冬と銀河ステーション
②岩手軽便鉄道の一月
③シグナルとシグナレス
④青森挽歌
第二部はひとり語り芝居。
⑤土神ときつね
宮沢賢治に興味がある人は観に行って損はない。会場のあさくさ劇亭も以前より気になっていたが味がある。幕間で換気の為、扉を開け放つと、そこは路地で犬の散歩の人達が往来。
②の樹々が凍ってキラキラと反射して光っている様子を「鏡を吊し」と表現。美しい。
③は信号機の恋物語。何でも擬人化してしまう。
④は死んだトシを捜して列車に飛び乗り、何処までも彷徨う宮沢賢治の魂。
まだまだ面白い宮沢賢治の世界。入場料も安いので是非観に行って頂きたい。
蜘蛛巣城
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2023/02/25 (土) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
黒澤と『マクベス』を全く知らない方が楽しめるのかもしれない。一体何を観せられているのか途中不安になった。『マクベス』の翻案ものの最高傑作とされる黒澤明の『蜘蛛巣城』。それを下敷きにこんな作品を作る人間の業。「蜘蛛手の森」の妖婆の笑う声が聴こえるようだ。
衝撃を受けたのは開幕から幕間ごとに流される曲。お経を英語でがなっているようにも聴こえたフスグトゥン(Khusugtun)の『Tes Gol』他。モンゴルの伝統音楽グループのニューウェーヴ。和洋折衷なおどろおどろしさ。この曲を選んだ人が今作のMVP。
美術のセンスも良い。蜘蛛の巣の張られた背景を仕切る幕。
主演の早乙女太一氏は声が通るので台詞が聞き易い。マクベスにしてはカッコ良すぎるが。弟の早乙女友貴(ゆうき)氏の方がこういう汚れた役は似合いそう。
「蜘蛛手の森」の妖婆役は銀粉蝶(ぎんぷんちょう)さん。上品で声が朗々としている。
黒澤明は『マクベス』を「自分の身の丈以上の地位を求めた故の悲劇」と語っていた。
ちなみに黒澤明のシェイクスピア翻案ものは三作ある。『マクベス』は『蜘蛛巣城』、『リア王』は『乱』、そして実は『ハムレット』は『悪い奴ほどよく眠る』だったりする。(外国人からの指摘)。日本人よりも外国人の方が気付き易い。
マギーの博物館
劇団俳小
サンモールスタジオ(東京都)
2023/03/03 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開幕から滅茶苦茶面白い。
1947年カナダの東海岸、ケープ・ブレトン島にある炭鉱町グレース・ベイ。スコットランド移民のアイデンティティはケルト語。バグパイプで奏でる曲はスコットランド民謡。『テルーの唄』に似たメロディーがメイン、元々谷山浩子がケルト音楽をイメージして作ったのであろう。
「洟ッ垂れ」と呼ばれ、誰にも相手にされないチビのマギー(小池のぞみさん)が今日も独りダイナーで時間を潰している。そこに現れたのは戦争帰りの大男ニール(加賀谷崇文氏)、デカい荷物を抱えて。「この席いいかい。」と相席になり、ポテトとティーを奢ってくれる。警戒するマギーの前でニールはバグパイプを取り出して組み立てると、大音量で吹き鳴らす。店主に怒鳴られ叩き出されるニール。
こんな出会いから物語は転がり出す。『俺たちに明日はない』のオープニング、歌の歌詞のような出だしが心地良い。
マギーの暮らす狭い掘っ立て小屋では、塵肺で寝たきりの口のきけない祖父(大久保たかひろ氏)、ビンゴだけが楽しみの母(荒井晃恵さん)、独り一家を支えて炭鉱で働く弟(大川原直太氏)が。弟は労働組合の力で炭鉱夫の待遇改善を目指している。マギーに惚れたニールは毎日通ってバグパイプを吹き鳴らす。
ロバート秋山風味の布袋寅泰、加賀谷崇文氏がカッコイイ。一本気で無頼、プライドが高く強い信念を持っている。
小池のぞみさんの揺れる女心、亡き兄への今も変わらぬ畏敬の念。
大川原直太氏は潮健児や高並功の若い頃を思わせるアクの強さ。
大久保たかひろ氏はいいキャラ設定、ガンガン木片を叩いて人を呼ぶ。
荒井晃恵さんが床を雑巾で拭く様子が印象に残る。
貧しい惨めな暮らしの中で人々の考えは揺れ動く。
一番の名シーンは湾に死にかけた鯨が打ち上げられる。酔っ払った住民共はおどけてふざけ合い小便をかけ痛めつけて遊ぶ。それにキレた弟は独り止めに入ろうとする。弟を宥めるニール。「あいつら何人いると思ってるんだ?それにたかが鯨じゃないか。」弟は怒鳴り返す。「それを言うならば俺はたかが炭鉱夫だ!何とか生き延びる為に必死になっている奴を助けることに理由なんかいるものか!」それを聞いたニールもはっとなり、二人で多勢に殴りかかっていく。
何も持たない弱者達が手を伸ばすべきものは過去の栄光か?闘争の果ての未来か?
なるべく派手な服を着る
MONO
吉祥寺シアター(東京都)
2023/03/03 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『おそ松くん』の亜種みたいな喜劇。増築を繰り返したせいで迷路のように入り組んだ家。茶の間の押し入れの隠し通路を通らないと台所にまで辿り着けない。父が危篤で六人兄弟が久方振りに揃う。長男だけが書道家の父の跡を継いで実家暮らし。
上の四兄弟は四つ子、五男は存在感がなく誰も思い出さない。六男は養子で四人の兄にとっては可愛くて仕方ないマスコット的存在。
次男の内縁の妻、四男の内縁の妻、五男の彼女も連れて来られる。
奇妙な味わいの作風、謎ルールに縛られた家。全員妙にキャラが立っている。早逝した母親への愛慕。
家族が他人になっていく瞬間、他人が家族になっていく瞬間、言語化出来ない人と人との感覚。空間と時間の共有、優しさの共有。手触りで相手の存在を確かめ合い心を許し合う。階段の隅で誰にも気付かれずずっとそこに居た、ラストの五男の涙が美しい。
キーワードは「おひおひ」「オロロンロン」。
ザ・フラジャイル ライト/レフト
miuna
スタジオ空洞(東京都)
2023/02/28 (火) ~ 2023/03/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈ライト〉
The Fragile とは「壊れやすい」という意味。
人口15万の羆川市、市議会議員選挙に立候補させられた山森信太郎氏。市政を牛耳る竹田グループの娘と結婚した為、駆り出された。事務所では渡辺実希さんが選挙運動を仕切る。竹田グループの会長の孫娘、中野亜美さんは名目だけの後援会長。
公選はがきの二千枚の宛名書きをボランティアで知人にお願い。 やって来たのはヤンキー崩れの杏奈さんとインド人の青柳糸さん。ヘビメタバンドのボーカル菊川耕太郎氏と彼女で街宣右翼(似非右翼)団体の構成員・福井夏さん。
とにかく役者が豪華。キャスティングだけで勝ったようなもの。誰もがこの場を喰ってやる、のギラギラした演技合戦。
山森信太郎氏は目が永田裕志に似ていて好感。
中野亜美さんは凄まじいキャラ作りで唸らせる。
渡辺実希さんの使い勝手の良さ。
杏奈さんは深夜のドンキのジャージの姉ちゃん。妙にエロい。
青柳糸さんは美人のトンパチ・インド人。
菊川耕太郎氏は市原隼人の喋りっぷり。
やはりMVPは福井夏さんだろう。
この人は役者馬鹿なので要求が高い程、燃えるタイプ。
面白かった。
カミサマの恋
ことのはbox
萬劇場(東京都)
2023/03/01 (水) ~ 2023/03/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Team 箱〉
素晴らしいシナリオ。 2011年に畑澤聖悟氏が劇団民藝の奈良岡朋子さんの為に書き下ろした作品。青森県津軽地方の民間信仰「カミサマ」(「ゴミソ」)とは、神霊を体に憑依させ託宣を授ける霊感を持った巫者(ふしゃ)のこと。神託を受ける『神降し』と死者の魂を呼ぶ『仏降し』がある。
主演の「カミサマ」役、長崎りえさんが素晴らしい。乙羽信子を思わせる上品でリアルな存在感、目が離せない。本当にこんな人がいるならば一度会ってみたいと思わせる。
その若き内弟子役の石森咲妃さんは眞子さまを思わせる柔和な表情と柳原可奈子のようなチャーミングなコミカルさ。細かい動きの一つ一つが創意工夫に満ちている。お茶を入れる仕草にも注目。
「一心、一心、一心!」
神様に拝む口上も耳に残る。
「カミサマ」に相談に来るのは地元の馴染みの御近所さん。嫁姑問題、孫の縁談、作物の収穫時期・・・。
どうも街角の手相占いのようなカウンセリング。一応、神様に聞いてみます的な段取りはあれど、良かれと思われるアドバイスにとどまる。けれども相手によっては「お前は何も悪くない!」と慰めてくれる。天からのその言葉の嬉しいことよ。誰にも理解して貰えなかった悔しさを、全てを見通す存在がじっと見ていてくれて全身で抱き留めてくれる。
姑(田中結さん)と嫁(蒼井染さん)の確執がリアル。各人の世代や職業によって「カミサマ」に対する態度が異なる点が面白い。
中右遥日さんのファッションが70年代の為、その時代の設定なのか?とも思っていたがレトロファッションでオシャレなだけだった。霊能力番組の人捜しコーナーで観て、はるばる東京から訪ねてくる人妻役。
崎山新大氏や篠田美沙子さん、堺谷展之氏などお馴染みのメンバーが現れると何か嬉しい。
物語は身を持ち崩して家を去って行った息子(加藤大騎氏)が、数十年振りにぶらりと帰宅するところから動き出す。
設定の妙と着眼点が流石。
幾重にも重ねられた複雑な人の心を絶妙に表現。
是非観に行って頂きたい。
ペリクリーズ
演劇集団円
シアターX(東京都)
2023/03/01 (水) ~ 2023/03/08 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『ペリクリーズ』はシェイクスピア晩年の作風、「ロマンス劇」と分類されている作品。登場人物が荒唐無稽に織り成す長大な時間を掛けて紡がれる大団円はホメーロスやギリシア三大悲劇詩人の作風を彷彿。とにかく話が壮大。一体何の話なのかさっぱり分からないがメチャクチャに面白い。シェイクスピア✕シアターΧ(カイ)✕演劇集団円(えん)✕中屋敷法仁(柿喰う客)=才能の大爆発。
14世紀のイングランドの詩人、ジョン・ガワー(藤田宗久〈そうきゅう〉氏)が横の通路から現れて古の物語を語り出す。藤本義一みたいな雰囲気。自らを灰から甦った存在だと称す。
舞台上に立つのは後ろ向きの死人達。何百年何千年も昔に死んでいった死者達がガワーに呼び出され静かに動き出す。全員うっすらと死人メイク。時には人形のように踊り、時には長机や椅子を手に大海原を駆ける帆船を集団マイム。
舞台は紀元前の東地中海、ツロ(現レバノンのスール)の王(領主)ペリクリーズは大国アンティオケ(≒アンティオキア〈現トルコ〉)の王女に求婚。結婚の条件として王女からの謎掛けを解かなければならない。「私が得た男は、父で息子で夫である。そして私は母で娘で妻である。さて如何にしてこの六人が二人であり得るのか?」
王と王女の近親相姦の関係に気付いてしまったペリクリーズはゾッとして逃げ出す。送られる殺し屋(片手だけ赤い手袋)。祖国が戦争に巻き込まれることを恐れたペリクリーズは忠臣ヘリケイナスに政治を託し船に乗って身をくらます。
王女役の大橋繭子さんが魅惑的、やたら踊る。この不思議な物語の開幕に相応しいヴァンプ(妖婦)。
主演のペリクリーズ役石原由宇氏が魅力的。全身汗だくでぜえぜえはあはあ必死に舞台の海を泳ぎ続ける。運命の不条理の嵐、またしても海に残酷に投げ出され息絶え絶えになりながらも何とかギリギリ生き延びる。生きてさえあれば話は続く。何度も波に飲まれ頭がおかしくなろうとも。
面白い舞台に飢えていたら足を運ぶべき演目。