掃除機 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「掃除機」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    第十二回東京国際映画祭、『ツイン・フォールズ・アイダホ』を観に行ったつもりが間違えて、レトロスペクティヴ:ロベール・ブレッソン『ラルジャン』の上映館に入ってしまった。時間通りに来た筈がもう始まっているし、渋々途中から観劇。シャム双生児と娼婦の愉快なラブストーリーを観に来た筈が、スクリーンに映し出されるのはトルストイ原作のひたすら陰鬱な物語、最後は一家皆殺し。「どうもおかしいな」とずっと思っていたがまさかの“シネマトグラフ”。
    このように本来観る筈のないものとの偶然の邂逅は人生には得てしてあるもの。その化学反応を期待して場違いなチケットを敢えて購入することも。
    チェルフィッチュなんて全く知らないが、何か人の話を聞くと糞つまらない批評家向けのイメージ。全く期待しないで観た。

    開幕は掃除機の自己紹介から始まる。これは筒井康隆の『虚航船団』だろうし、それに影響を受けた糸井重里の『家族解散』だろう。(無機物の述懐的なものが当時流行った)。栗原類氏が痩せて顔色が悪いのが気になった。

    村上春樹のプロットを村上龍が書き下ろし、イ・チャンドンが映画化したような作品。(村上春樹の『納屋を焼く』を『バーニング 劇場版』として映画化したものにテイストが似ている)。途中、環(たまき)ROY氏が客席に向かって語り出す内容がもろ村上龍。『コインロッカー・ベイビーズ』や『愛と幻想のファシズム』、『コックサッカーブルース』、『エクスタシー』、散々読んだ。環ROY氏はライセンス藤原と中邑真輔を足したような感じ。

    舞台はスケボーパークのように左右が湾曲している。上手が父親役モロ師岡氏の部屋で壁にテレビが着いていて、下手の娘役家納ジュンコさんの部屋は壁に布団が敷かれてある。寝る時は真横になるので大変だ。
    モロ師岡氏は話し始めると意識が三つに分裂する。同じ格好の俵木藤汰氏と猪股俊明氏が登場し同時に同じ台詞を喋らせることでそれを表現。

    開幕から居眠り率が高く、こんな舞台を観に来る熱心なファンでさえ次々と意識を失っていく。

    引きこもりの家納ジュンコさんが二階でドンドン音を出して喚き散らす。それを下で聴いた環ROY氏が「彼女、ミュージシャンですか?内容が魂の叫びっぼい」と真顔で訊く。閉ざされた家にやって来た闖入者が全てを破壊していくようでそうでもない感じ。

    家納ジュンコさんの物語に絞った方がよかった。

    ネタバレBOX

    つまらなくはないのだが、面白くもない。

    Amazonの倉庫を四日で辞めた環ROY氏。「初日からここは糞だなと何となく気付いてて。で、何で気付いてたのに二三日やっていたのかと。そもそも言うとやる前から糞だってことに薄々気付いてたんじゃなかったのかと。じゃあ気付いていながら何でそこで働こうとしたのかと。」
    突き詰めると、世界が糞なのに人生が糞なのに何故俺は生き続けているのか?という問い掛け。糞であることを知っていながら、目を逸らして誤魔化してまで生きる価値はあるのか?
    糞のような世界を器用にすり抜けて気楽に楽しく生き延びるにはコツがいる。如何に自分の機嫌を取るか、如何に自分を騙して誘導するか。
    「どうでもいいじゃないか そんな事はどうでも
     どうでもいいじゃないか そんな事はどうでも」
     ヒロトとマーシーはがなっていた。

    カート・コベインの自殺に対し、Oasisは『Live Forever』と歌う。

    多分俺は飛びたいだけ
    生きていたい、死にたくはない
    息をしたいだけかも知れない
    信じていないだけかも

    多分お前は俺と同じ
    俺達は奴等に見えないものが見える
    俺達は永遠に生き続けるんだ

    ずっと生きてやる
    ずっと生きてやる
    永遠に生きてやる

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    2023/03/21 14:33

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