実演鑑賞
満足度★★★
開幕から滅茶苦茶面白い。
1947年カナダの東海岸、ケープ・ブレトン島にある炭鉱町グレース・ベイ。スコットランド移民のアイデンティティはケルト語。バグパイプで奏でる曲はスコットランド民謡。『テルーの唄』に似たメロディーがメイン、元々谷山浩子がケルト音楽をイメージして作ったのであろう。
「洟ッ垂れ」と呼ばれ、誰にも相手にされないチビのマギー(小池のぞみさん)が今日も独りダイナーで時間を潰している。そこに現れたのは戦争帰りの大男ニール(加賀谷崇文氏)、デカい荷物を抱えて。「この席いいかい。」と相席になり、ポテトとティーを奢ってくれる。警戒するマギーの前でニールはバグパイプを取り出して組み立てると、大音量で吹き鳴らす。店主に怒鳴られ叩き出されるニール。
こんな出会いから物語は転がり出す。『俺たちに明日はない』のオープニング、歌の歌詞のような出だしが心地良い。
マギーの暮らす狭い掘っ立て小屋では、塵肺で寝たきりの口のきけない祖父(大久保たかひろ氏)、ビンゴだけが楽しみの母(荒井晃恵さん)、独り一家を支えて炭鉱で働く弟(大川原直太氏)が。弟は労働組合の力で炭鉱夫の待遇改善を目指している。マギーに惚れたニールは毎日通ってバグパイプを吹き鳴らす。
ロバート秋山風味の布袋寅泰、加賀谷崇文氏がカッコイイ。一本気で無頼、プライドが高く強い信念を持っている。
小池のぞみさんの揺れる女心、亡き兄への今も変わらぬ畏敬の念。
大川原直太氏は潮健児や高並功の若い頃を思わせるアクの強さ。
大久保たかひろ氏はいいキャラ設定、ガンガン木片を叩いて人を呼ぶ。
荒井晃恵さんが床を雑巾で拭く様子が印象に残る。
貧しい惨めな暮らしの中で人々の考えは揺れ動く。
一番の名シーンは湾に死にかけた鯨が打ち上げられる。酔っ払った住民共はおどけてふざけ合い小便をかけ痛めつけて遊ぶ。それにキレた弟は独り止めに入ろうとする。弟を宥めるニール。「あいつら何人いると思ってるんだ?それにたかが鯨じゃないか。」弟は怒鳴り返す。「それを言うならば俺はたかが炭鉱夫だ!何とか生き延びる為に必死になっている奴を助けることに理由なんかいるものか!」それを聞いたニールもはっとなり、二人で多勢に殴りかかっていく。
何も持たない弱者達が手を伸ばすべきものは過去の栄光か?闘争の果ての未来か?