四兄弟 公演情報 パラドックス定数「四兄弟」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    開幕、暗闇に浮かび上がる四人の男。三男は酷く痛めつけられて床に転がり呻いている。弟の四男を庇って父親に半殺しにされたらしい。長男が「今夜は月が眩しくて綺麗だ」と言うが、誰にもそんなものは見えない。恨み節を呻き悔しさを吐き捨て怒りと憎しみで悶える兄弟達。ふと次男が「俺が親父を殺してきてやる」と言う。はっとする皆。「そんなことをして許して貰えるだろうか?」「お前は誰に許して貰いたいんだ?」武器を手にした四兄弟は凍った川の前に立っている。そこで初めて煌々と照る巨大な満月に気付く。月の光でこんなにも世界は明るく照らされていたことに。川を渡って親父を殺す。ロシア革命だ。

    このオープニングがゾクゾクする。ドストエフスキーの『白痴』を黒澤明が映画化したもののような荒っぽさ。観念を映像にどうにか焼き付けようと挑んだ執念。剥き出しの思想が擬人化されて掴み合う。

    物語は父を殺して村の指導者となった息子達が理想の社会を築こうとそれぞれのやり方で挑戦する様を描く。皆を説き伏せる為に掲げるのは長男の綴った赤いノート。バイブルのように。
    どうもこの村は島の中にあり、海の向こうにも別の村があるようだ。彼等とうまくやっていけるのだろうか。
    凄く知的快楽を刺激される寓話。
    是非、観に行って頂きたい。

    先行予約のおまけで知恵の輪を貰い、人生で初めて外せた。(解説を読んだ)。だがこの仕組みがどういうものか未だに理解出来ず。

    ネタバレBOX

    長男は理想主義の思想家、レーニン(=マルクス)。小野ゆたか氏。今田耕司とバイキング小峠を足したような味。
    次男は武力こそ全てのスターリン。西原誠吾氏。中田翔や新井浩文を思わせる暴力性。
    三男は違った互いをきっと分かり合えると夢見たフルシチョフ。井内勇希氏。高橋一生のサバンナ高橋風味。工業を象徴。
    四男は社会主義のバイブルを破り捨てたゴルバチョフ。植村宏司氏。凄く女性的な顔立ちで目立つ。農業を象徴。

    そしてラストは今現在。失意のゴルバチョフがレーニンとスターリンに銃を渡す。スターリンはもう一度やろうと決める。プーチンだ。

    フルシチョフのネタが判り辛い。資本主義(経済的自由主義)の国と何故うまくやれずに爆撃されたのか。ビートルズみたいに皆と仲良くやろうとしていたのに。何か失墜のエピソードが無理くりで腑に落ちない。向こうの世界をもう少し描かないと。

    社会主義は一家のようなもので、家族の稼ぎを主が分配する感じ。主が家の秩序を守っている。そこに自由競争型市場経済が導入されれば、イオンモールに侵略されて焼け野原化する地方商店街になるだろう。ノウハウのある大資本大企業に太刀打ち出来る筈がない。彼等(西側)に簡単に食い物にされることは目に見えている。彼等は自分達に都合のいいルールとシステムを押し付け、当然勝利し植民地のように支配するだろう。それに抗う拠り所が社会主義とイスラム教。二つの共通点は暴力の肯定。

    ラストがプーチンになることは観客にも解っている。だからこそ、プーチンの見方が一変するような物語を期待していた。理想の人間社会を築く為に自らの手を血で汚した四兄弟の物語を、ドストエフスキー的に締め括って欲しかった。

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    2023/03/23 14:37

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