ペリクリーズ 公演情報 演劇集団円「ペリクリーズ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    『ペリクリーズ』はシェイクスピア晩年の作風、「ロマンス劇」と分類されている作品。登場人物が荒唐無稽に織り成す長大な時間を掛けて紡がれる大団円はホメーロスやギリシア三大悲劇詩人の作風を彷彿。とにかく話が壮大。一体何の話なのかさっぱり分からないがメチャクチャに面白い。シェイクスピア✕シアターΧ(カイ)✕演劇集団円(えん)✕中屋敷法仁(柿喰う客)=才能の大爆発。

    14世紀のイングランドの詩人、ジョン・ガワー(藤田宗久〈そうきゅう〉氏)が横の通路から現れて古の物語を語り出す。藤本義一みたいな雰囲気。自らを灰から甦った存在だと称す。
    舞台上に立つのは後ろ向きの死人達。何百年何千年も昔に死んでいった死者達がガワーに呼び出され静かに動き出す。全員うっすらと死人メイク。時には人形のように踊り、時には長机や椅子を手に大海原を駆ける帆船を集団マイム。

    舞台は紀元前の東地中海、ツロ(現レバノンのスール)の王(領主)ペリクリーズは大国アンティオケ(≒アンティオキア〈現トルコ〉)の王女に求婚。結婚の条件として王女からの謎掛けを解かなければならない。「私が得た男は、父で息子で夫である。そして私は母で娘で妻である。さて如何にしてこの六人が二人であり得るのか?」
    王と王女の近親相姦の関係に気付いてしまったペリクリーズはゾッとして逃げ出す。送られる殺し屋(片手だけ赤い手袋)。祖国が戦争に巻き込まれることを恐れたペリクリーズは忠臣ヘリケイナスに政治を託し船に乗って身をくらます。

    王女役の大橋繭子さんが魅惑的、やたら踊る。この不思議な物語の開幕に相応しいヴァンプ(妖婦)。

    主演のペリクリーズ役石原由宇氏が魅力的。全身汗だくでぜえぜえはあはあ必死に舞台の海を泳ぎ続ける。運命の不条理の嵐、またしても海に残酷に投げ出され息絶え絶えになりながらも何とかギリギリ生き延びる。生きてさえあれば話は続く。何度も波に飲まれ頭がおかしくなろうとも。

    面白い舞台に飢えていたら足を運ぶべき演目。

    ネタバレBOX

    第二幕からが失速してしまうのは、いつものシェイクスピアのパターン。もう少しマリーナのキャラとエピソードに工夫が必要か。ペリクリーズのキャラが立ち過ぎている。
    妻サイサ(新上貴美さん)、娘マリーナ(古賀ありささん)。
    勢い余って机の上で正座したまま落下してしまった古賀ありささんには肝を冷やした。(『魔女の宅急便』みたいな衣装)。

    タルソ(現トルコのタルスス)に立ち寄ったペリクリーズは飢饉で瀕死の民に食糧を施し感謝される。だが航海の途中大嵐に遭遇、難破してペンタポリス(現リビア)に独り漂着。宮廷の槍試合に参加すると見事優勝、王女サイサと結ばれる。身重の妻と祖国ツロに凱旋の船旅でまたもや襲い掛かる大嵐。嵐の中、サイサは出産するも命を落とし、泣く泣く棺を海に葬ることに。棺にありったけの宝石と手紙を入れるペリクリーズ。タルソの領主に妃の忘れ形見となった娘マリーナを託すことに。

    〈第二幕〉14年後、美しい娘に育ったマリーナは領主夫人の嫉みから殺し屋に襲われる。偶然そこに現れた海賊共にさらわれ、ミティリーニ(現ギリシャのレスボス島)の売春宿に売り飛ばされる。やっと娘を引き取りにタルソに戻ったペリクリーズは娘の死を告げられ精神が崩壊してしまう。売春宿で純潔を守り通すマリーナは聡明なる知性と人を感服させる気品によって、民衆の指導者へと崇められていく。
    偶然ミティリーニに立ち寄ったペリクリーズを乗せた船。生ける屍と化したペリクリーズを癒やす為に聖女マリーナが呼ばれ歌を歌う。(これが名曲)。彼女が死んだ筈の娘であることに気が付いたペリクリーズは歓喜。更に女神ダイアナ(ディアナ)の御告げでエペソス(現トルコのエフェソス)に向かう。そこには水葬された棺の中で仮死状態であった妻サイサが、手厚い看護によって息を吹き返し、漂着した地の神殿で巫女となっていた。
    ペリクリーズ、サイサ、マリーナの家族の奇跡の再会。
    『運命の女神、あれだけ痛い目に遭わせながら、最後に立ち直る望みを残しておいてくれたのか・・・』

    語り手の物語を聴いている観衆、といった額縁が見事に効いている。面白かった。

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    2023/03/02 17:48

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