気配 公演情報 カンパニーデラシネラ「気配」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    小野寺修二氏は天才なのだろう。
    一体どうやってこの空間を導き出しているのか。
    どこに(頭の中の)カメラを置いて切り取っているのか。縦横無尽にカメラが動き何台も違う角度のものに切り替わる。バレットタイムのようなパースペクティブ目線で脳が作られているのか。光と影、空間認識能力、人の描く動線、こだわり抜いた音。聴こえるどんな音にも必ず意味があり、タイミングから音量から練りに練られている。必ずこうでなくてはならない完成形が見えているのだろう。

    夏目漱石の『門』を舞台化。まるで鈴木清順の世界。チーンとりんが鳴る。格子戸、窓枠、動く床、走るミニチュア模型、壁に投影される影絵、縫い物、電話、揺れる車両、新聞、明治末期の空気感。

    主人公の田中佑弥氏、寺脇康文っぽい。強調した肩幅、汗がボタボタ滴り落ちている。ずっと俯いて暮らす、物思いにふけった受け身の男。
    奥さん役の兵藤公美さんは室井滋や森口博子系の顔立ち。このもの静かな和服の女性が内に秘めた情念を時々露わにする瞬間がある。そこが今作最大の魅力。
    崖の下に暮らす夫婦の何てことはない日常。何かをしなければならないような気がするが、さしあたって何かをするつもりもない。

    狂気の歯医者は藤田桃子さん。
    崖の上の屋敷の主人は小野寺修二氏。
    訪ねて来る弟は浅井浩介氏。

    酒井抱一の屏風が美しい。
    下に降りては上がる、揺れる裸電球。紐一本を引っ張るだけの仕掛けで見事な光の演出。
    紅い鞠を追い掛ける夢。

    一番の名シーンは弟が帰ると、『パルプ・フィクション』のように情熱的にサルサを踊り出す二人。(SEXの暗喩)。静から動への転換が巧い。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    大学時代に親友の内縁の妻を奪った主人公。学校を辞め実家からは見捨てられ住居を転々とし二人で細々と暮らす。今は東京で公務員の職を得て、崖の下の借家住まい。親と伯父が亡くなった為、高校生の弟は大学に進学する為の学費を工面出来ず頼ってくる。どうにも手をこまねいて何をするにも決断の遅い兄にうんざりする弟。
    ある晩、崖の上の屋敷に泥棒が入り、落とした手文庫が斜面を滑って転がっている。届けに行く主人公。それをきっかけに屋敷の主人と親しくなる。近い内、弟が満洲から帰って来るので会わないかと誘われる。弟が一緒に連れて来る友達が大学時代の親友であることに気付き青ざめる。彼と顔を合わせない為に十日程、禅寺に入る主人公だった。

    構成をもっと弄ってもよかった。ラストの禅寺のシーンがなかなか伝わらない。弟の要件もよく判らない。原作を頭に入れて観るとまた違うのかも。

    世間を棄てて一緒になった二人だけにしか解らない不思議な幸福。その気配。

    SION『12月』
    そして俺ときたらいつもこの頃になると
    何かやり残したようなやわらかな後悔をする

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    2023/03/24 16:52

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