
海越えの花たち
てがみ座
紀伊國屋ホール(東京都)
2018/06/20 (水) ~ 2018/06/26 (火)公演終了
作家は多くの時間と労力をかけて、綿密な取材とともに氷山のごとく膨大な
資料の丹念な読み込みを行うが、作品としてあらわれてくるのはその一角にすぎない
ということを重々承知した上でいうと、ストーリー展開は予定調和的で
テレビドラマ向きのスタイルになっており、陰影に富んだ演出も手堅くはあるが、
台本と演出との相性はいまいち。
その分、それぞれの俳優の持ち味がうまく引き出されるようなつくりに
なっていて素早い場転への参加も含め出演陣の奮闘ぶりが際立っている
(半海さんの怪演も含めふり幅のある演技、桑原さんのはじけた演技などは
なかなかのもの。下ネタギャグはほとんど半海さんが一手に引き受けているが、
台本が生真面目すぎてゆとりがなく空回り)。
背景の舞台美術の使い方なども秀逸。舞台空間全体に対して実際の演技空間が
比較的狭く空疎感というかスカスカな感じはあるが、これはこれで登場人物たちが
内面に抱える孤独感、疎外感、絶望感などを漂わせ訴えかけている気がしない
でもない。
紀伊国屋ホールは座り芝居などをされると特に前方の平間の客席からは演技が
非常に観づらくなることがあるが、今回、装置の一部にもなっているある程度
高さのある可動性の台の上で主に演技がされていて客席からほとんどの演技が
観やすくなるよう配慮されているのも好印象(ただ、オープニングとエンディング
の特に下手側で、この演技台の高さがかえって邪魔をしているところもあるが)。

最後の炎
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2018/04/14 (土) ~ 2018/04/28 (土)公演終了
観ながら聴きながら頭をフル回転させてオーディエンス側が
各々のイメージを想起し膨らませてゆくことを強く求められる戯曲。
惹きつけられる場面もありスマートな演出だが、意気込みが
盆に乗って空回りして一本調子になっている感は否めず、
次々と解き放たれ押し寄せるコトバ(特に、「私たち」のセリフ)の波に
対してイメージが追いついていかないところもあり、観慣れていないと
2時間強の上演時間の間しばしば襲ってくる睡魔と格闘せざるを得なくなる
スタイルの、でも、言葉に鋭敏な役者さんなどは気に入りそうな作品
(より深く鑑賞するにはリピート観劇が必要なタイプの作品。
現在芸劇ウエストで公演中の『Photo.51』も、劇構造や
戯曲のたち上げ方など同様の印象あり、フィーリングや感覚的に
ではなくきちんと鑑賞するためには最低限高校レベルの化学、生物学の
知識をもって臨むことが大前提となっている点を別にしても)。
盆が終始廻る仕掛けは同じで面白いが、視点が逆転する豊洲の劇場で
上演中の作品群とは対極に位置する作品。

かさぶた
On7
小劇場B1(東京都)
2018/02/03 (土) ~ 2018/02/11 (日)公演終了
タンツテアーター(Tanztheater)あたりを念頭におき、新劇の女性俳優たちが
演出者らと協同し、普段の公演では武器とする言葉を極力抑え断片的ながらも
演劇的要素を積極的に取り込んだ舞踊パフォーマンスで挑んだ作品で、
一義的な解釈を押し付けることなく観る側が自由に感じ想いを馳せる余地を
残してくれている、プリミティブで粗削りだが熱意に溢れた意欲作。
同じ下北沢演劇祭参加でほぼ同じ上演時間、同じ体力勝負パフォーマンス
の作品ということでみると演劇的物語性と言葉の比率がグッと上がっているのが
サスペンデッズの再演公演『おせん』(すでに公演は終了)。パワフルかつ
スピード感漲るパフォーマンスでなかなかのもの。
また、舞台床が客席最前列よりもやや低くほこりが立ちやすい仕様ということで
開演前のマスクの配布と脱帽のお願いのアナウンスも観客への気配りがあり好印象。

かんかんじいちゃん、
green flowers
シアター711(東京都)
2018/02/07 (水) ~ 2018/02/12 (月)公演終了
古くからある銭湯が舞台というやや手垢の付いた題材ではあるものの、
人物造形にすぐれた安定感のある台本、巧みな俳優陣のキャスティングの妙
そして台本と俳優の立ち上げ方を心得た飽きさせない演出の三拍子が揃った、
幅広い層が楽しめる会話劇。

THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2017/12/10 (日) ~ 2017/12/24 (日)公演終了
Should I be as I am, or shouldn't I be as I am ?
と心揺れる女性主人公モーリーンの行動の先にあるものは...
作劇の妙と切れば血の出る思いに裏打ちされた、シアター風姿花伝
という劇場名にあった序破急の劇的な展開をみせてくれる濃密な舞台作品。

かけおち
TOKISHIRAZ
ザ・ポケット(東京都)
2017/08/01 (火) ~ 2017/08/06 (日)公演終了
舞台版『かけおち』は、デフォルメされた人物設定や強引とも言える展開など
つか作品の特色が色濃く残っていて、9PROJECT 第3回公演で初めて観劇、
今回で二度目。
大量のセリフを早口でまくしたて熱く激しい口調でがなり立てるだけが、
つか作品を引き立たせるすべではなく、台本構成と演出の工夫次第でそれとは
また違った切り口で作品のおもしろさや魅力を際立たせられることをみせて
くれる舞台。
また、舞台面の高さを十分高くとっていて、座り芝居が多くなる後半でも
役者さんの演技がみやすくなっているところも観客の目線に立っていて好印象。

グーグス・ダーダ なになにもなになにもない NO nothing nothing nothing
果てとチーク
インディペンデントシアターOji(東京都)
2017/05/01 (月) ~ 2017/05/02 (火)公演終了
ディスポーザブルチルドレン(disposable children)それに関連しての
リフォーミング(reforming)そしてポストドラマ演劇といったあたりを
大まかに押さえておくと、観劇の際の展望がかなり開けるはず。

「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊~
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/01/18 (水) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
女歌舞伎から野郎歌舞伎への移行期に材をとっており、戯曲としては
( 近松の虚実皮膜論などをベースに、プレイハウス次回公演の大々的な
宣伝なども含め)力技でずいぶんいろいろ詰め込んできたなという感はあるが
出演者の熱演と相まってその分エンターテインメント性はぐっと高まり、
作者(達)の溢れる熱い想いが十二分に伝わってくる作品。
さらにリファインメントがかかってくれば演舞場あたりで観てみたい
とおもわせる舞台でもあった。
ただ、後半劇に拍車がかかったのはよいが、重層的になり過ぎた構成の下で
虚実が入り乱れめまぐるしく交錯する展開は、昨今では、ややわかりにくいか
(→幕間入れは適切。作品の作りはある意味シェイクスピアのロマンス劇に
近いのかもしれないが)。

燦々
てがみ座
座・高円寺1(東京都)
2016/11/03 (木) ~ 2016/11/13 (日)公演終了
江戸のレンブラント
お栄が応為と名乗るまでの物語で、観客にvividなイメージを喚起させる演出手法などを駆使していろいろな意味での光と影(光と闇)を描こうとする意欲に溢れてはいる。が、すでにfamiliarな題材で(『眩』との対比ということもあり)、戯曲における人物造形や内面描写の点で己の画風を追求模索し自問自答するお栄の心境のような印象が残る舞台。
上演時間は休憩なしの約2時間10分。

SQUARE AREA【ご来場ありがとうございました!】
壱劇屋
インディペンデントシアターOji(東京都)
2016/04/06 (水) ~ 2016/04/10 (日)公演終了
満足度★★★★
しなやかさ
キューブの各面が完成されるごとに謎が明らかになってゆく(作品としての)流れは、しなやかで躍動感にあふれたムーブメントと相まって、点から線へそして線から面へと見事につながっていたと思います。
また、ステージゲストの方の話は時として芝居の進行の本筋から大きく逸脱することもありますがそれにも臨機応変に対応し流れに合わせて本筋に回帰できる柔軟性も備わっている劇団のようにも感じました。

深海大戦争
パラドックス定数
上野ストアハウス(東京都)
2016/04/05 (火) ~ 2016/04/10 (日)公演終了
満足度★★★★
神vs.知性
大義としての神を手にした抹香鯨一族と武器としての知性を手にした大王烏賊一族との北極海での最終決戦の結末はいかに。進化を大きなテーマのひとつに展開される物語(異種間だけでなく有機物と無機物の間でも共通言語で意思疎通できることが当然暗黙の前提になっていますが)ですが、キャラクターがより魅力的になり緩急が効いた台本と照明効果が抜群で、シェイクスピアの史劇的な雰囲気も漂う、見事なリターンマッチの作品になっていたと思います。
上演時間は約1時間45分。

いのうえ歌舞伎≪黒≫BLACK『乱鶯 みだれうぐいす』
劇団☆新感線
新橋演舞場(東京都)
2016/03/05 (土) ~ 2016/04/01 (金)公演終了
意気込みだけが空回り
正統派時代劇をベースに新しい本格派時代劇の舞台をつくろうという意気込みは伝わってくるのですが、いかんせん実際との隔たりが大きく、構成バランスの不味さや人物造形の浅さなどどうも粗さが目につき、意気込みだけが盆にのって空回りしているような印象を拭えませんでした。

兄弟
劇団東演
あうるすぽっと(東京都)
2016/03/30 (水) ~ 2016/04/03 (日)公演終了
満足度★★★★
見事に再構築された舞台作品
上巻の文革篇、下巻の開放経済篇と原作はかなりの長編で(舞台化ということでやや個々の人物描写が浅くなったり説明的になったりすることはどうしても避けられませんが)、それでもそのよさを活かしながらうまくエピソードを紡ぎ見事に再構築されていた脚本演出家の手腕そして堅実な出演陣の熱演が光る舞台作品になっていたと思います。
上演時間は約2時間45分(途中休憩15分を含む)。

いつかの膿
VAICE★
駅前劇場(東京都)
2016/03/01 (火) ~ 2016/03/06 (日)公演終了
満足度★★★★
人の心の奥底にあるもの
生きている人間の現在、その人間誰しもが心の奥底に抱えている欺瞞や傲慢さといったものが次第に露呈してゆく様が緻密に描かれ、緩急のバランスがうまくとれていた作品だったと思います。
上演時間約100分。

『TUSK TUSK』(タスク タスク)
あうるすぽっと
あうるすぽっと(東京都)
2015/12/10 (木) ~ 2015/12/13 (日)公演終了
作家の役割とは
題名にあるように実際に"Tusk Tusk"というわけではないでしょうが、出演者演出家を含め皆さんが原作にがっちりと取り組み格闘した成果が大いに表れていた舞台でした。
特にこうした題材の場合、問題を解決してみせることではなく今そこにある問題をていねいにすくいあげいろいろ手を尽くしきちんと正しく提示してゆくことが時として(劇)作家の大事な役割の一つなのかもしれないと思わせてくれる作品であったようにも思います。
ただ、オープニングのところあたりには劇場側の姿勢にやや疑問を感じました。

再びこの地を踏まず
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2015/11/06 (金) ~ 2015/11/15 (日)公演終了
満足度★★★★
人間とはいびつなもの。
人物設定や劇構成にはいろいろあるかもしれませんが、作者の、人の見方捉え方がそのまま反映されているおもしろい評伝劇。
人というのはいびつなもので、その度合いが大きいほど人間的な魅力も大きくなる。が、同時にそれに関わる人々も大きく振り回されることになる。そんなことを感じさせてくれる作品でもありました。
上演時間は約2時間30分(途中休憩15分含)。

地を渡る舟 ―1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち―
てがみ座
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2015/10/23 (金) ~ 2015/11/01 (日)公演終了
teamworkは健在ですが
人物造形にふくらみが出て人間ドラマとしての幅が広がり戯曲がさらに深みを増しています。舞台そのものも極めて水準の高い作品であり、1945年から現在に滑らかに移行してゆく最後の場面はすばらしく、役者さん、裏方さんが舞台裏では大変ご苦労されていたと思います。
ただ、可動性の高い舞台装置とマンパワーを駆使した新演出は一つの試みとしては面白かったのですが試行錯誤的で(決して悪いことではないのですが)全体的にどうしてもバタバタした感じが目立ってしまい、初演の時に感じられた躍動感と鮮明なイメージを呼び起こす舞台の冴えがかなり影を潜めてしまったような印象をぬぐえませんでした。
また、制作の姿勢に疑問あり。
上演時間は約2時間半(10分の休憩あり)。

夕陽伝
ワタナベエンターテインメント
サンシャイン劇場(東京都)
2015/10/22 (木) ~ 2015/11/01 (日)公演終了
満足度★★★★
相性抜群のエンターテインメント活劇
日本の神話特に古事記のエピソードをモチーフとしたエンターテインメント活劇ですが、末満さんの脚本と岡村さんの演出の相性が抜群で、疾走感にあふれストーリ性豊かでありながらもせりふの思いが観る側にきちっと伝わってくるしっかりした劇構成、映像、音楽、魅せる殺陣満載のアクションのバランスが実によくとれていた作品だったと思います。上演時間は途中休憩無しの約1時間50分。

島 The Island
キダハシワークス
芸能花伝舎(東京都)
2015/09/06 (日) ~ 2015/09/13 (日)公演終了
満足度★★★★
人間の本質(とは何か)を対話を通して問いかけてくる作品
息のあった俳優二人がみせてくれるテンポのいいコミカルな演技を通して、
人間の尊厳、真の優しさとはといったことを問いかけ考えさせてくれる、また、
会場にあわせた効果的な演出も光る作品になっていたと思います。
上演時間は休憩無しの約100分(演出家の短い前説付き)。

ポンコツ大学探険部
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/06/27 (土) ~ 2015/07/05 (日)公演終了
満足度★★★★
人生に迷えるすべての人への応援歌
大学の寄付金集めの90周年記念式典とパーティーに参加するために集まった探険部OBと現役部員が繰り広げるあれやこれやといった一夜の物語ですが、セリフのうまさに加え構成が実によくできています。
ほろ苦さを含んだ泣き笑いの連続の中に人に向ける優しく温かい眼差しを感じさせてくれ観る者の心をencourageしてくれる久々ににラッパ屋本来の持ち味がよく滲み出ていたというからしさが戻ってきたのではという作品になっており、鈴木節が大いに炸裂していたと思います。上演時間は途中休憩無しの約2時間。