KAEの観てきた!クチコミ一覧

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ニッポンヲトリモロス

ニッポンヲトリモロス

劇団チャリT企画

王子小劇場(東京都)

2013/10/25 (金) ~ 2013/10/30 (水)公演終了

満足度

羊頭狗肉でお茶を濁した?
もう少し、楢原さんらしい、機知に富んだ、暗喩的頭脳明晰な脚本を期待していたのですが、完全な肩すかしを食らいました。

見かけ倒しならぬ、仕掛け倒しの感。

やけに挿入される、謎かけ問答のような台詞のやりとりも、計画した間が、冗長に感じるだけで、面白さゼロ。

社会の現状を、徹底的に、笑倒し、ブラックな笑いで、告発する、チャりTらしい、真実を茶化す茶番劇の真髄には、到底及ばない、脚本の出来栄えに、かなり落胆しました。

楢原さんが、何を描きたかったのかは、提示がダイレクトなので、すぐにわかります。でも、これでは、手品の品物だけ並べて、手品師が、トイレ休憩に行ってしまったような印象です。仏作って、魂入れずの感!

楢原さんらしい、センスある切り口に期待してたんだけどなあ。

ネタバレBOX

本水を使ったり、コクーン歌舞伎さながらの大仕掛けを施す割には、肝心な脚本の方には、創意工夫が足りなさ過ぎ。

題名のセンスが良かったので、もう少し、内実の詰まった名戯曲を期待してしまいました。

今の政治の危うさを、もっと巧みな台詞の応酬で、笑いに昇華させつつ、問題提議してほしかった!

小学生でも、本当は全くコントロールされていないことを知っている、原発問題を、誰でも知っているレベルで、やっているレベルでおちょくるのではなく、もっと楢原さんらしい、誰も気づかない問題を、茶番劇に仕立ててほしかったというのが、一番正直な思いです。

「魔女の宅急便」のコスプレ的な扮装の宅急便屋さんにしても、あれで終わるのなら、単なるハロウィンの仮装レベル。
たまたま、昨日、ヤマト運輸のクール宅急便の杜撰管理とかが報道された矢先なのだから、公演中のいじり的なアドリブ台詞を加えるくらいの、戯作者魂もあれば良かったのではと思います。
エニシング・ゴーズ

エニシング・ゴーズ

東宝

帝国劇場(東京都)

2013/10/07 (月) ~ 2013/10/28 (月)公演終了

満足度★★★

主題曲のタップダンスは壮観!
以前、大地真央さん主演舞台を観ているし、今回のメインキャスト数名に苦手な出演者がいたので、観る予定はなかったのですが、eプラスで、得チケが出ていたので、急遽観劇して来ました。

1幕途中までは、あまり面白さを感じませんが、、このミュージカルならではの圧巻のタップシーンは、やはり壮観!の一言。

日本のミュージカル上演の最初の舞台から、かなりのミュージカルを拝見していますが、最近のアンサンブル俳優さんのレベルの高さには、嬉しくなります。
この舞台でも、水兵さん達のダンスが素晴らしい出来栄えでした。

瀬奈さんは、いつも思いますが、ミュージカルコメディエンヌとしての資質が備わった女優さんで、今回も、無理なく楽しい舞台を務めて下さいました。

ずいぶん昔「スイートチャりテイ」で、魅力的な演技が印象的だった玉置成美さんは、年月を経て、歌も演技も、大変力量がアップされ、目を見張りました。
保坂さんは、かなり年齢の高い役をユーモアたっぷりに演じられ、大変魅力的でした。
大澄賢也さんも、途中まで、誰かと思う程、役を演じきってお見事。益々、なくてはならない、中堅役者さんの存在感がタップリ。
吉野さんの演じられた役は、よく考えると、台詞が相当大変そうなのに、違和感なく、言葉を発せられていて、役者魂に感服しました。

全体的に、メインキャストより、脇が光ったステージでした。

ネタバレBOX

以前、観た時も思ったのですが、この作品、コメディとしてはそれ程、面白さを感じない作品です。

特に、コメディは、シリアスな芝居以上に、演技力が必要だと思うのですが、ミュージカルを中心に活動されている役者さんは、どうしても、まだそこまでの演技力をお持ちの方は少ないんですよね。

だから、演技、歌、ダンス、全てにおいて、最高のキャストが揃ったら、もっと面白くなるだろうにと、何度か歯痒さを感じてしまいました。

特に、ホープ役のすみれさんは、「ニ都物語」の時以上に、学生会演技で、ちょっと残念に思いました。
少しづつ、舞台を経験され、上達して行く世界で、いきなり、大役続きなので、無理もないかとは思いますが、もう少し、演技力に磨きが掛ってからのこのホープ役であれば良かったのにと、キャスティングされた方のご意向に疑問を感じてしまいました。
つかのま真打ち

つかのま真打ち

蜂寅企画

シアター風姿花伝(東京都)

2013/10/17 (木) ~ 2013/10/21 (月)公演終了

満足度★★★★

題名からして、秀逸
中尾さん、拝見する度、筆さばきが進化していらっしゃると感じます。

中尾脚本の秀逸さに比例して、役者さんの演技力も、旗揚げの頃に比べて、各段の進歩をされていると実感しました。

台詞に、説明過多な部分が少なくなったのも、脚本家としての中尾さんの成長ぶりを痛感して、胸にこみ上げる嬉しさがありました。

ただ、前半部分の、コント的な騒々しさには、やや蛇足感を否めませんでした。笑を生んで、舞台の空気を温めようという作者の配慮かもしれませんが、あーいう無意味な軽いギャグのような場面を廃した方が、作品の品を高めるように思うのです。

最後は、少し、涙腺が緩みました。
つかのま真打ちの、体を張った落語噺には、感動を頂きました。この場面で、この題名の真意がわかり、なるほど、してやられた感!

「笑う門には福来たる」というテーマが、堂々と語られ、胸のすく芝居でした。

ただ、役者さんにお願いですが、こういう小さな劇場では、一般客の帰り道を塞がない工夫をして頂きたいと思いました。せっかく、お知り合いのお客様と歓談されている中、「どいて下さい」と言うのも野暮かと待っていたら、いつまでも外に出られそうもありませんでしたので。

ネタバレBOX

てっきり、円朝が主役なのかと、途中まで勘違いして観ていましたが、これは、故あって、落語の世界から身を引いた円也が主役の芝居だったのですね。

円朝が、師匠の2代目円生の妬みによる嫌がらせによって、彼独自のオリジナル噺を確立した経緯は、昔観た「すててこてこてこ」という、風間杜夫さんの芝居でも拝見して知ってはいましたが、そのエピソードから、こんな素敵な、ファンタジー時代劇を創作してしまう中尾さんの戯作者としての技量に感服します。
蜂寅作品でも、珍しく、悪人が一人もいない芝居で、清々しい観劇後の清涼感がありました。

一世一代の落語を披露する、円也役の菊池さんの役者としての存在感が素晴らしく、つかのま真打ちの真骨頂をまさに体現され、その眼力に圧倒されました。

相変わらず、簡素なセットが、縦横無尽に、変化を遂げ、高座が、一転、円生のお墓になった時は、心で喝采を叫んだほど。

「お後がよろしいようで」の台詞が、物語で、うまく語られ、意味を持つラストの小粋な演出にも、笑顔を禁じ得ませんでした。

現代の戯作者中尾さんのお手並み拝見、益々、今後が楽しみでなりません。

余談ですが、円朝の母親の「膝がバーン」には、個人的に大受けしました。
私も、つい先日、膝がバーンで、大変だったものですから。
本当のことを言ってください。

本当のことを言ってください。

劇団昴

赤坂RED/THEATER(東京都)

2013/10/19 (土) ~ 2013/10/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

創作劇としての完成度は高い


食品偽装事件は後を絶たないし、最近、「週刊文春」が、特集を組んでいたのを見るにつけ、気にしていたら、何も食べられない病に陥りそうな昨今ですが、たまたま今日やなせたかしさんの「100年インタビュー」の再放送を観たばかりだったので、オリエントミートの会長がやなせさんと重なり、そのため、会長の娘瑞穂やその息子次郎の行動に、現実性がないような印象も感じてしまいました。

ただ、あくまでも、創作劇だという視点で観れば、相当よくできた芝居であることは間違いありません。

昴の役者さんは、どなたも演技者としてのレベルが高いので、こういうリアルな告発芝居は、固唾をのんで観られ、いつも見応えがあると感心します。

どうも、青年座風な芝居作りだと感じたら、演出は黒岩さんで、納得しました。
かつて、青年座で上演した、スーパーマーケットを舞台にした作品と、雰囲気が似通っていました。 

尚、この舞台を観た数日後に、阪急グループのホテルレストランの偽装が明るみに出て、関係者の謝罪会見の台詞が、あまりにも、この芝居さながらだったので、一人で、大受けしてしまいました。

高級ホテルや、大手スーパーマーケットまでがこの騒ぎでは、まさに事実は小説より奇なり。本当のことを言う日本人は、我が国にどれだけいるのだろうと、気持が暗くなるばかりです。

ネタバレBOX

弁護士と、謝罪会見のリハーサルをする場面は、「謝罪の王様」にも共通する面白さがありました。

食肉偽装の内容は、WOWOWのドラマ「震える牛」にも似て、かなり具体的なので、観劇後は食事したくなくなりそうな気持になるかもしれません。

戦後、娘においしい食事をさせてやりたい一心で、食肉会社を創業した会長役は、ご病気の北村さんに替って、小山さんが演じられましたが、この役にピッタリで、見事代役を務められたと思いました。

同級生の弓子の頼みで、何も知らずにこの会社に勤め、敏腕営業部員として活躍する内に、会社の暗部に気づき、内部告発に踏み切るしおり役の市川さんは、激して台詞を言う時、初日だということもあってか、何度か閊えるところもあったのですが、それがかえって、ドキュメンタリーを観るような臨場感を産んでいました。

役者さんも、全員、好演されていますし、脚本にも、演出にも齟齬はないのですが、ただ、こういう実に誠実な企業人の会長の親族が、幾らコスト削減のためとはいえ、平気で、従業員に濡れ衣を着せたり、子供や孫にも食べさせられないような、口にするのもおぞましい食肉偽装をするだろうかと、人物キャラクターの設定には、どうしても疑問を感じてしまいます。

人格のDNAって絶対あると信じている私としては、この会長から、瑞穂のような娘は絶対育つ筈はないと思うので、あくまでも、創作劇としては、満点という評価でした。
TRUE WEST~本物の西部~

TRUE WEST~本物の西部~

梅田芸術劇場

世田谷パブリックシアター(東京都)

2013/09/29 (日) ~ 2013/10/13 (日)公演終了

満足度★★

わかるようなわからないような…
何となく、途中までは作者の意図をわかったつもりで観ていたのですが、ラストになって、自分が理解しているのか、自信がなくなりました。

内野さんが、役作りでわざとそういう喋り方をされているのだろうとは、納得しますが、如何せん、3階席だと、ほとんど台詞の言葉を聞き取れず、手探り状態の観劇でしたから、尚のこと。

演出は、外国の方なんでしょうか?そうだとしたら、日本語の台詞が、どう客席に聞こえるのか、ご理解できないかもしれないので、仕方ないのかもしれませんが、これはあくまでも、台詞劇なので、もっと台詞を届ける工夫をして頂きたかったと思います。

音尾さんと菅原さんの演技は、愉快でした。

ネタバレBOX

どうも、生活態度にかなり問題がある父親のDNAを受け継いだらしき、兄弟。

盗みなども平気のへいざの兄に比べ、弟は、脚本を書いて、地道に生活しているように見えるのですが、久しぶりに、自由気ままな兄と再会し、だんだん、兄の影響を受けて、結局は、弟も、兄のような生活をするようになる。

違うように見えても、親や兄弟は、似た者同士だなって、そんな感じの芝居かと思って観ていたのですが、ラストで、兄弟喧嘩の果てに、弟の方が兄を殺してしまったかと思いきや、そうでないことがわかったところで、幕なので、この先の展開が読めず、結局、作者は何を描きたかったのかとわからなくなってしまいました。

弟が、兄を真似て、盗んできたたくさんのトースターが、全部コンセントが繋がれていないのに、パンが焼けるというのも、すごく不思議だし、兄が、ペンと紙を探すシーンも、筆記具なんてある筈もないところまで、わざとのように、食器を部屋にばら撒きつつ、探すのも、一体どういう意味があるのかと、頭の中は??だらけ。

結局、頭の硬い私には、不向きな作品だったようでした。

Forever Plaid(フォーエヴァー・プラッド)

Forever Plaid(フォーエヴァー・プラッド)

シーエイティプロデュース

東京グローブ座(東京都)

2013/10/01 (火) ~ 2013/10/10 (木)公演終了

満足度★★★★★

楽しいまさに夢のライブショー
4人のハーモニーグループの、現世では実現できなかった、夢のライブショーは、本当に、観客の私にとっても、夢のようなひと時でした。

宣伝文句にあるような、絶妙なハーモニーと言うと、やや褒めすぎだと思うけれど、少なくても、絶妙なキャスティングであることは間違いない。

元劇団四季の綜馬さん、サッカー選手から転身した川平さん、ソフィアの松岡さん、V6の長野さんと、全く出自の異なる4人のキャスト陣のチームワークが抜群!

普段は、同じ公演は観ないような4キャストそれぞれのファンが、客席に集い、共に、ステージングに参加するような形の舞台構成は、実に、心地よい快感でした。

東京楽日ということで、皆さんのラフなトークが聞けたことも嬉しかった!

11月28日の青山劇場追加公演が決まったそうで、行けたら、また行きたくなる、本当に楽しいステージでした。

ネタバレBOX

大きなイベント参加を前にして、交通事故で、4人とも昇天してしまうという経緯に、つい先日亡くなった桜塚さんを思い出してしまいました。

現実では為し得なかったステージを、我々観客の前で、実現するという構成なので、最初から最後まで、観客も、このハーモニーグループのライブ客として、ステージに参加する気分になります。

現に、演奏のエバリーが煙草休憩と称して席を外すと、綜馬さんのスマッジがキーボードを弾き、そこに会場から連れて来られた観客の一人が連弾する形を取ったりして、まさに客席参加型ステージの王道を行く展開。

4人のファンそれぞれに、振りや手拍子を交互にさせたり、それはそれは、心がほっこりと嬉しくなるステージング。

もしかしたら、作者は、カトリックの学生のバスと衝突して、彼らだけが命を落としたり、スパーキーとジンクスの異母兄弟の両親が、いつもはいがみ合っているのに、エドサリバンショーの放送時間だけは、仲良くテレビを視聴して、その後は、仲良く寝室に消えて行くというようなエピソードの裏に、何かメッセージを込めていたのかもしれませんが、欧米事情がよくわからない私は、単純に、日本キャストの絶妙なチームワークのショーにただワクワクしながら、客席で興奮していました。

いつもは口パクが多いと噂の事務所に所属されているあるキャストに、松岡さんが言った冗談も愉快でした。
彼は、間違いなく、ちゃんと歌っていましたよ。(笑)

最後の「慕情」のメインテーマのハーモニーは、とても心に残り、少し涙腺が緩みました。
音楽劇 「ヴォイツェク」

音楽劇 「ヴォイツェク」

TBS

赤坂ACTシアター(東京都)

2013/10/04 (金) ~ 2013/10/14 (月)公演終了

満足度★★

難解なのか、自分好みでないだけか?
それが、一見では、はっきりわからないというのが、正直な感覚。

役者さんは好演されているとは思うのですが、芝居の空気と劇場の相性が悪いのかもしれない。

もし、これがトラムとかで上演されていたら、もっと気持ちを持って行かれたのかもしれませんが、少なくても、ACTシアターで、一万円近くのチケット代で、観るような芝居ではないと思いました。

一番感じたことは、マイコさん、大変そう!ということと、真行寺さん、雰囲気のある女優さんになられたなということ。

ネタバレBOX

後半の展開は、ある意味戦慄が走るくらい、怖いという感覚がありました。
特に、ウ゛ォイツェクが、歌いながら妻をメッタ刺しにするところが。

この頃、日本でも、サスペンス映画も顔負けのおぞましい事件が日常茶飯事だし、人間が生きている限り、これは永遠の命題なのかもしれないと感じました。

山本さんが、マイコさんを抱く場面は、構図的に、「レ・ミゼラブル」のマリウスが、エポニーヌを抱きかかえるシーンと酷似しているけれど、描かれてる状況は、全く似て非なるもの。それが、演出の暗喩めいて感じられました。
十月大歌舞伎

十月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2013/10/01 (火) ~ 2013/10/25 (金)公演終了

満足度★★★★★

梅枝の進境著しさに嬉しさ
ニ度目の新歌舞伎座。

考えてみたら、その役者さんの見せ場で、その役者さんの屋号の掛け声が掛るという、言わばあたりまえの状況の中での歌舞伎観劇、実に久々でした。

それだけでも、余念なく、落ち着いた気持ちで、舞台に集中することができ、本当にあたりまえのありがたさを痛感しました。

仁左衛門さんのいがみの権太観たさに、初日に参りましたが、梅枝さんの小金吾の演技が繊細で美しく、いつの間にこんな楽しみな役者さんに成長されたのかと、胸が熱くなりました。

仁左衛門さんの権太は数えきれない程拝見していますが、いつも芸が細やかで、何度観ても泣かされます。父と息子の情愛の機微に、昨日観た「そして父になる」と相通じるものを感じました。

菊五郎さんの「川連法眼館」は、何度も拝見していて、自分の好みではないので、今回は、パスさせて頂きました。

ネタバレBOX

「義経千本桜」は、私の記憶が確かなら、つい最近まで、滅多に通し上演はされなかったのではないかと思いますが、やはり、「木の実・小金吾討死」から続けて、「すし屋」を観ると、いがみの権太の悲劇が身に沁みて感じ取れるので、今後も是非こういう上演形態でお願いしたいと強く思いました。

「木の実」の場面で、権太と妻小せん、幼い息子との仲睦まじさに微笑ましく感じる瞬間があるため、「すし屋」での3人のその後の状況に涙が禁じ得ません。息子から受け取った笛が、最後に、あーいう形での小道具に使われるという絶妙な伏線と、それを丁寧に演じられる仁左衛門さんの芸に、泣かされました。

権太の父役の歌六さんの秀逸な演技、悲劇の中で、無理のない笑いの場面を見事に演じるお里役の孝太郎さんも、今や、押しも押されもせぬ、女形さんに成長され、楽屋でミニカーで遊んで父上に叱られていた男の子が、こんなに立派な役者さんになられたんだなあと感慨深い思いがしました。

秀太郎さんの小せんも大好きです。

これだけ、ベストキャスティングの舞台も、なかなかないなと感じました。
OPUS/作品

OPUS/作品

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/09/10 (火) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★★★

見せ方上手な演出
いつもは観難いバルコニー席も、こういう舞台配置ならどこからもよく観えそうと喜んだのも束の間、お隣の巨体女性が終始、前のめりでご覧になっているので、私は、彼女の顔と腕の挟間から、舞台を覗き込む形になり、かなり左肩が痛くなっての観劇体制でした。

もっと環境が良ければ、満点の満足度だったかもしれません。

小川さんの演出は、いつも見せ方が御上手だなと感心します。

カルテットメンバーは、皆さん芸達者揃いで、どなたも演技面で、ベストを尽くしていらっしゃり、見応え充分ですが、個人的には、相島さんの佇まいが一番好きでした。相島さんて、テレビとかだと嫌なタイプの人種を演じられることが多いような気がしますが、こういう、数人のグループの調整役的な役柄を演じられると、とても光り輝く気がしています。

紅一点の伊勢佳世さんも、相変わらず、演技の振り幅が自然で、愛嬌があって、文字通り、舞台に華を添えていました。

セットを特に変えることなく、小道具だけで、部屋を特定する技が素晴らしかったと思いました。

内容自体は、もっとシニカルで、重たい内容かと思いましたが、言ってみれば、どこの誰にも経験ありそうなごく一般的なお話でした。
ですから、クラシック音楽の素養がなくても、全く問題なく、楽しめる作品です。

ネタバレBOX

それにしても、あの小道具は、公演の度にあーいうことになるわけだから、いったいどれだけ用意されたのかしら?と余計なことが気になってしまいました。スタッフの隠れた努力に思いを馳せました。
next to normal(ネクスト・トゥ・ノーマル)

next to normal(ネクスト・トゥ・ノーマル)

東宝

シアタークリエ(東京都)

2013/09/06 (金) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★★★

後列で正解!
以前、トニー賞の授賞式のパフォーマンスショウを観て、大よその雰囲気は予想がついていましたが、意外にも笑えるシーンなどもあって、舞台の雰囲気的にも「RENT]に共通するものがありました。

当事者にとっては深刻な内容で、決して愉快でもないストーリーですが、悩める家族が必死に関係性を保って、生きようとする姿が感動的です。

ダイアナとナタリーの母子関係に、藤圭子さんと宇多田ひかるさんを連想してしまいました。


自分の身近でも、まさに実際似たような体験をした時期もあるし、まさにネクスト・トウ・ノーマル!

人間十人十色、誰の人生を基準にするかで、幸福観も、価値観も、正常異常の判断も、人それぞれ。

この家族は、100%のハッピーエンドではないにしろ、不完全融和的なハッピーエンドを迎えたかに見えました。

訳詞が字余りで、皆さん歌いにくそうでしたが、作品の魅力は十分伝わる舞台でした。

セットの構造上、後部座席の方が見易いのではないかと思います。

ネタバレBOX

子供を亡くしたことがトラウマになるという芝居は過去にも何度か拝見しましたが、この作品が一番リアルに胸に響きました。
ダイアナ役のシルビアさんのお義父様は、同様のご病気でいらしたし、ご主人のお兄様は、幼い頃に、人の手に掛り亡くなっているので、この役を演じるに当たり、かなり複雑な思いもされたのではと心が痛みました。

私自身も死産を経験していますし、家族の心身症に悩んだ10年、親友の欝に寄り添って、共依存症になった時期もあり、いろいろ他人ごととして観られない問題を随所に感じて観ていました。

息子も出演したことのある「カッコウの巣の上で」のように、今でも、あーいうショック療法が用いられていることに大変驚きました。

結局、精神の病は、薬やショック療法では完治しないのだと思います。
苦しくても、家族が向き合って、互いに体を張って対峙しなければ、光明は見えて来ないのでしょう。

治療に失敗したダイアナが実家に戻り、後に残された夫と娘ナタリーにはこの先も辛い葛藤が続くのかもしれませんが、でも、あのラストシーンには、家族の愛が感じられ、決して悲観的になる必要はないのだと教えられた気がして、爽快な幕切れだったように感じます。
かもめ

かもめ

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2013/09/04 (水) ~ 2013/09/28 (土)公演終了

満足度★★★★

「私は女優」対決?
ニ―ナ役の蒼井さんと、トレープレフの母親役の大竹しのぶさんとの、一騎打ち感覚の観る楽しみがありました。

個人的感想では、蒼井さんに軍配かな?

大竹さんは、以前、チェーホフの妻を演じたことがあるので、どうもそういう視点で、アルカージナの役作りをなさったのではと思いました。

以前、拝見した、Kさん演出の「かもめ」とは比較しようもないほど、喜劇としての面白さには満ちていました。

ただ、大竹さんの役作りには、少しやり過ぎ感があったのと、萬斎さんの演技意図があまり理解できず、戸惑った部分もあります。

生田とう真さんのトレープレフが、清廉な美しさで、青年の戸惑いを誠実に再現されていて、大変好感が持てました。若い頃、夢中になって読んだロシア文学の作中の青年が目の前にいるような錯覚を覚え、清々しい気持ちになりました。

ケラさんの演出では、トレープレフと母親の関係が、「ハムレット」のように描かれ、マザコン的な印象もありました。そのせいか、いつか、生田さんの演じる「ハムレット」を是非拝見したくなりました。

ネタバレBOX

今回改めてわかったのは、チェーホフの登場人物って、皆自己中心的な人ばかりなんですね。

何度か観た「かもめ」では、脇役の存在意義をあまり感じなかったのですが、今回の舞台は、ソーリン、ポリーナ、マーシャ、メドウ゛ェジェンコ、ドールン、シャムラーエフなどの脇役にかなり光が当てられた演出だったように感じます。それぞれの役が立っていて、その人物の登場の意味がわかりました。

わかりにくい、人物関係もよく理解できました。

チェーホフ劇にケラさん演出は、適任人事だと思いました。

場転の人物の流れは、いつもケラさんが映像で表現されるのを生で再現したかのような演出で、見た目にも美しく、次の場面への興味を繋げました。
とても自然で、場転が芸術的だと感じたのは、初めてかもしれません。
真田十勇士

真田十勇士

TBS

赤坂ACTシアター(東京都)

2013/08/30 (金) ~ 2013/09/16 (月)公演終了

満足度★★★★★

最高の高揚感で楽日を満喫
台風の中、半年以上も心待ちした舞台故、何も躊躇せず、行ってまいりました。

神のご加護か、往復とも雨には降られず。

キャストも、装置も、見せ方も素晴らしく、大満足!!

台風だと言うのに、満場の客席からは、何度も本気のスタンディングコールが…。

何人か、知らない役者さんもいらしたので、クオリテイを心配したりもしたのですが、全くの杞憂で、私の認識不足でした。特に、倉科カナさんの2変化振りには感服しました。

十勇士それぞれを同じ配分で描くことはせず、必要最小限の登場人物に絞ったのも賢明でした。

馬木也さんファンとしては、十勇士にキャスティングされたら尚嬉しかったのですが…。

それにしても、猿飛佐助の命名理由の説明には、ある意味、驚き!
とてもまことしやかで、信じてしまいそうですが、作り話ですよね?

ネタバレBOX

とてもスタイリッシュな見せ方でした。

十勇士それぞれに、同じ配分で焦点を当てるのでもなく、彼らと幸村の出会いなどに言及することなく、光を当てる登場人物を絞ったことで、ストーリーが散漫になりませんでした。それでいて、殺陣などのシーンは、幸村も含めた10人や、大野兄弟などにも、均一に各人の見せ場をきっちりと作り、男優さん、役者冥利に尽きるだろうなというおいしい場面が全員に用意されているのが、観ていても大変気分爽快でした。

家康に時代劇の重鎮里見さんを配したのも成功の要因です。真田十勇士が主役だと、普通の舞台では、家康は、年配の俳優さんならいいかなんて、間に合わせ的な配役の場合もありますが、今回の舞台、役者さんが全員適任者揃い踏みでした。こういう機目細やかな配役が、舞台を重厚なものにしたと思います。

若い俳優さんが多かったので、殺陣の出来栄えも不安でしたが、皆さん、身のこなしも鮮やかで、感心しました。

「半沢直樹」ばりに、うまく観客騙しをやってのけたり、脚本と演出も、熟練の技。

中島脚本を、宮田さんが演出されたことで、いつもの新感線のようなおふざけシーンや、「シャキーン」という効果音が多用されないのも、じっくり落ち着いてストーリーを堪能できた一因だったかもしれません。

上川さん、馬木也さん、葛山さん、松田さん等、声音がしっかりされている役者さんが多いことも、舞台に箔をつけました。

装置も、工夫が凝らされ、あれだけで、それぞれのシーンに使い回す技術には圧倒されました。

わけあって、十勇士ではなく、9勇士が次々と倒れ、その姿にスポットが当たり、最後に、幸村が、中島みゆきさんの迫力ある歌声の中で、絶命する様は、本当に、目に美しく、演劇のマジックを堪能させて頂きました。
彼らが、舞台に倒れたままで、幕を閉めるのではなく、その後の世の中の解説者として、彼らが復活したのも、ファンには嬉しい心遣いでした。

DVDが発売されるそうですので、楽しみに待つことに致します。
犬、だれる

犬、だれる

劇団HOBO

サンモールスタジオ(東京都)

2013/09/10 (火) ~ 2013/09/16 (月)公演終了

満足度★★★

小林さやかさん快演
HOBOは、おかやまはじめさんのファンなので、観始めた劇団です。

皆さん、実力ある俳優さんばかり。

だから、つい安心して観てしまうのですが、これだけ達者な役者さんが揃っているのだから、たまには、劇作はプロに任せた方が更に面白い舞台になりそうな気がします。

役者と演出のおかやまさんは満点ですが、劇作には、どうもスパイスが不足している気がして…。

今回、一番気に入ったのは、時男さんと直子さんでした。直子役の小林さんは、青年座の中でもとりわけ好きな女優さんですが、演技してるのを感じさせない、それでいて、抜群の計算され尽くした役作りぶりに、いつも脱帽します。

松本紀保さんの寝顔が美しいことも、新たな発見でした。

ネタバレBOX

役者さん、皆さんお上手だから、ついつい好意的に観てしまうのですが、どうも脚本に旨味が足りない気がしてなりません。

沖縄の離島らしき島が舞台で、不発弾や焼夷弾が近くに転がっていたり、不穏な空気の中で、お気楽に暮らす人々が登場し、確かに、親近感は持つものの、作者がこの芝居で何を訴えたかったのかが今ひとつ見えません。

幾ら、親交のあった照之だからと言って、警察官の前田さん、犯罪者逃亡に加担しては、やはりまずいでしょ!彼の犯罪に、情状酌量の余地はないのだから。一般人の友人や愛人が彼を逃がそうとするのとはわけが違うし…。

「あまちゃん」の話題を出し、「じぇじぇじぇ」に似た、「ズベベ」(だったと思う)なんて、感嘆詞を作っても、それ以上広がらないから、特に面白くもないし、正子と秋平の口喧嘩で、二度同じ台詞の応酬を繰り返しても、客席の笑いを誘発もせず、何となく、劇作に、中途半端さが否めませんでした。

「犬だれる」なる名称の世にも美味なる魚を食べて、食べるとオイルが肛門から駄々漏れするという設定で、大の大人が皆オムツをしているというのも、構図としては面白いのですが、それが、作品の本質にまで波及せず、それで終わってしまうのも、何かもったいなさを感じました。

そうは言っても、おかやまさんの前田さんの演技には、心から癒され、幸せな時間を過ごすことができたのは、正直な告白です。
『ジャンヌ』 ―ノーベル賞作家が暴く 聖女ジャンヌ・ダルクの真実―

『ジャンヌ』 ―ノーベル賞作家が暴く 聖女ジャンヌ・ダルクの真実―

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2013/09/05 (木) ~ 2013/09/24 (火)公演終了

満足度★★★

シニカルなジャンヌ・ダルク劇
社会主義者のバーナード・ショーの原作だからか、ジャンヌに対して、それ程好意的な気持ちは抱いていないようなキャラクター設定でした。

カトリックに対しても、プロテスタントに対しても、ナショナリズムに関しても、皮肉めいた台詞が随所に散りばめられています。

ですから、ジャンヌの役作りは、あれで正解かもしれないのですが、それにしても、もう少し、人たらし的な、魅力があっても良かったような気がします。

聖女ジャンヌなんだから、やはり、オーラのようなものは不可欠ではと感じました。舞台の空気を変える力が、まだ笹本さんには感じられませんでした。

何度も、台詞をつっかえて、言い直したりしているのは、どうも、この役には馴染まない。松たかこさんの「ひばり」の完璧さとつい比べてしまいました。

ショーの描き方がどうであれ、歴史上、フランス軍を率いたジャンヌの功績は事実だったのでしょうから、もう少し、特別な少女感があればと感じました。

一方、伊礼さんのデュノアの登場は、一瞬にして、舞台の空気を変え、やはり彼の舞台での存在感は圧倒的だと感じました。

演出の鵜山さんと、芸術監督の萬斎さんのアフタートークは、もっと、芝居の中身について論じられるのかと期待しましたが、それほどでもなく、肩すかし。わざわざ残って聞く程の内容ではなく、残念でした。

ネタバレBOX

今井さんのウ゛ォリック伯爵と村井さんのフランス司教が、ジャンヌの扱いを論じる場面が、あまりにも、台詞劇としての体裁が長過ぎて、眠くなりました。

ジャンヌをヒロインとして描くのではなく、あくまでも、彼女は、ストーリー上の道化のような存在で、主役ではなく、モチーフに過ぎないのでしょう。ショーが描こうとしたのは、宗教とナショナリズムの対立、人間社会の仕組みの不条理などなのだろうと感じ、そういう人間のき弁めいた行為を揶揄して描いたのだと思いました。

火刑になったことで、その日から、永遠の命を与えられたジャンヌ。彼女は、台詞の中で、何度も、傲慢だとか、宗教に恋してるだけとか、戦争に恋してるとか言われます。実際のジャンヌは、政治や宗教に、言いように利用されただけだったのかもしれませんが、処刑されたことで、後年、聖女と崇められて行くのだから、皮肉なものです。

「ひばり」でも思いましたが、宗教家や政治家のき弁には、いつも呆れつつ感心します。これは、古今東西、同じですね。一般庶民は、騙されないように、頭脳明晰にならないと、ジャンヌのように危険な目に遭いますね。
上手に笑えないまさこさん

上手に笑えないまさこさん

ペテカン

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2013/09/04 (水) ~ 2013/09/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

益々好きになる劇団
長く演劇を観ていると、最初好きでも何度か拝見する内に、手の内が見えたり、個人的に裏切られた思いがしたりで、自然と足が遠のく劇団もあるのですが、ぺテカンは、拝見する度、満足度が大きくなる劇団で、今回の芝居は、とても自分好みで、久しぶりに、笑顔で会場を後にすることができました。

遊び心と優しさに満ちた脚本、お洒落な演出、強靭な役者力で、私にとっては理想形に近いお芝居でした。

19人もの登場人物を配して、ストーリーが散漫にならず、各人に存在価値がある芝居が書ける本田さんの才能に感嘆してしまいます。 

結婚式場に打ち合わせに訪れるカップルそれぞれに、親近感が湧き、登場人物全員に愛着を感じてしまいました。

笑って、泣いて、とても素敵な舞台でした。

ただ、お父さんは、ラサールさん以上に、適任者がいたのではという気もしました。

ネタバレBOX

結婚式場の両側にある椅子に、交互に、打ち合わせカップルが座るのですが、出捌けの時に、もう少し、他方を暗くして、目立たなくした方が、進行を妨げないのではと感じました。

まさこが、書き溜めた格言の名文句に一々同感し、何かと注文の多い綾乃を宥める大熊の殺し文句にときめき、気弱な新郎を差し置いて、しゃしゃり出る姑と嫁の、シュガーの「ウエディング・ベル」の替え歌デュエットに大笑いし、昔俳優をやっていたという駒田の出演作を聞く、トリオ漫才風なシーンに受け、デフォルメ表現の芸能人カップルに笑顔を貰い、来ない彼女との思い出を語る児玉にやや気持ちを持って行かれ、…etc.

とにかく、登場人物それぞれのエピソードが、一々、心の琴線に触れました。

人気番組の「相棒」や「あまちゃん」や「半澤直樹」のネタの出し方にもセンスが光り、最後のミスチルの「花火」のカラオケのビデオクリップの出来栄えには、感嘆ものでした。役者をやっていたという駒田が、上記のような「人気番組には出たことないけれど、どこかで、映像で観たら笑ってやって下さい」と言った台詞を受けて、あのカラオケの映像では、駒田が最初に登場するんでしょうね。そういう細部の作りに、本田さんのセンスが感じられて、本当に、この劇団、大好きです。

役者さんも、美男美女揃いで、その上芸達者な方ばかりで、いつ拝見しても、類稀な劇団力に、感激します。

もう役者の足を洗ってしまった家族に、役者時代に、ぺテカンの芝居を見せてやりたかったと激しく後悔しきりでした。
兄帰る

兄帰る

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2013/08/03 (土) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

満足度★★★

これで、岸田賞は意外
永井愛さんは大好きな劇作家であり演出家です。

永井作品に、何度も感激を頂いた身としては、この作品にも、感動を頂いたと錯覚しようとする自分もいたのですが、やはり無理でした。

途中までは、面白く拝見しました。ですが、正春の登場あたりから、時計が気になり出しました。

あー、これは、永井さん、シチュエーションアイディアに重きを置き過ぎて、人間描写がおざなりになっていると感じました。

全体を通して、手際の悪い脚本の粗が目立ち、居心地が悪くなりました。

結局はそういうことなのねとわかるまでの、枝葉末節、装飾を施し過ぎた、引っ張りすぎの脚本に、冗満さを感じて、後半退屈でした。

20分は、余計な部分があったように感じます。

素敵なセンスのインテリアは、芝居の中身とも関係する、重要な舞台セットですが、部屋の奥に見える植木の置いてある窓の外の景色が、マンションのベランダ風で、そこから庭に続くという設定なんでしょうが、どうしても、家族以外の人達が羨んで話題にする、百日紅の咲く一戸建ての庭は想像出来かねました。

役者さんは、どなたも、気持良い好演です。ただ、皆さん、演出に忠実過ぎたきらいもあります。御自身で、役の気持ちを掘り下げて下さる役者さんがいらしたら、もっと深みのある舞台になった気もします。

ネタバレBOX

草刈さんは、台詞のないバレエの世界から、女優さんに転身されてから、まだ何年も経っていないのに、台詞表現がお上手で、また感心してしまいました。草刈さん演じる、真弓は、半分正義感の持ち主で、全身全霊を通して、正義の人になりきれないところが、自分に重なり、妙に感情移入して観ていました。

でも、家主の保の姉の夫である正春が、冷蔵庫の修理に訪れるあたりから、人間描写より、シチュエーションのアイデアに、作者が溺れてしまったような気がします。

いくら、親戚が電気屋だと言っても、あーも直らないまま、何日も、彼に修理を任せているなんて、無理があります。趣味の電化製品ではなく、冷蔵庫です。正春に直せないなら、私ならすぐに他の電気屋に頼みます。

兄が実は、売春斡旋ツアーのコンダクターだったと知っている正春を、何度も修理に訪れさせ、謎解きを引っ張るのは、作者の腹積もりであって、登場人物の気持ちとはかけ離れた行為でしかありません。

真弓と友人金井塚との関係にしても、もっと真弓の内面を照らす方向に筆を動かすこともできたのに、何だか中途半端でした。

最後の謎解きで観客にわかった、兄の正体は、そうであるなら、もう少し、深い心象描写の演出が必要だったように思います。(これは、脚本の問題ではなく、演出の問題だと思いました。)この舞台からは、兄の行動の整合性に不備があると感じます。最初の兄の登場の時の臭いも、あーいう設定の話が真実なら、少し無理があった気がします。

それ程重要にも思えない人物の性格付けの強調も、しつこくて、無駄なシーンだと感じるところも多々ありました。

笑いを取るために設置されるシーンは、もっとテンポ良く!地方テレビのCMみたいに、何度も繰り返すと、逆効果で、冗満になると思います。

叔母の壊れた蓄音器ネタとか、あまりストーリーと関係のない部分は、何度も時間を取る程の場面ではなかったように感じました。

半分正義感の真弓が、自分の性格に疑念を抱く部分などをもっと膨らませて、対極にある兄の生き方とのバランスを前面に押し出した脚本であれば良かったのにと、残念です。

真弓が、友人に対して、「金井塚!」と呼び捨てにする部分などに、真弓本人が気付いていない、周囲の人間に対する支配欲など、人間描写劇の隠し味はたくさん入っていたのに、それを生かしきれない脚本に、歯がゆさを感じてしまいました。
10 MILLION MILES  テン・ミリオン・マイルズ

10 MILLION MILES  テン・ミリオン・マイルズ

サンライズプロモーション東京

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/08/24 (土) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

この値段は罪
このチラシを目にした時から、素敵な作品だろうと予感して、観たいと思いながら、やはり、国立の小劇場での公演にしては、べらぼうな値段で、二の足を踏んでいましたが、幸いカンフェテイで、割引チケットが買えたので、行ってきました。

素敵な味わいのある、ミュージカルでした。

何役もこなされる、土居さんと戸井さんのご活躍が光ります。

貴城さんは、チャーミングで、美しく、魅力的。

岡田さんも、相変わらず、普通の人のリアルな存在感を体現されて、素敵。

でも、岡田さん、数年前から、台詞が不明瞭なのはネックです。特に、語尾は、ほとんど聞き取れないので、想像しつつ拝見します。これが、ちょっと、観劇に疲労をもたらすので、困りものでした。

ネタバレBOX

アメリカの片田舎の、若い男女が、出会いから結婚までの数週間のドライブを通じて、出会う人々との関係性の中で、ちょっとだけ大人に成長する、市井の人の日常をスケッチ風に描いた、素敵な舞台でした。

カントリーソング風な歌曲も、耳馴染みが良く、登場人物の心情も、軽やかにメロディと、歌詞に乗せて、無理なく観客の心を近づける要素を持っていました。

土居さんと戸井さんが演じる、主人公二人以外の脇役達が、誰も、登場シーンは少ないのに、その人物の人となりが、観る者に、理解できる脚本の描写力と、お二人の演技表現力が、素晴らしかった!

もっと、煮詰めて、この素敵な、作品、長く、上演し続けて頂けたらと思いました。
『iSAMU』 20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語

『iSAMU』 20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語

KAAT神奈川芸術劇場

PARCO劇場(東京都)

2013/08/21 (水) ~ 2013/08/27 (火)公演終了

満足度★★★

前衛的な美しい、夢を見た気分
イサムノグチの作品は、感じることはできても、あまり理解し得たと思ったことはありません。

どんな人物だったのかも、よくわからない印象。
そういう、不可思議な人物を、窪塚さんが、体現される様子が、小気味よい舞台作品でした。

日本の古式ゆかしさを大事にする彼の考え方に、そんなもの、とっくに消え失せたこの国の人間として、辛い戦慄めいた思いが、何度も心をよぎりました。

村上春樹の作品を舞台化したような非現実的なシーンと、昔の、日比谷芸術座で上演したような東宝現代劇チックなシーンとが、ないまぜになった、一種アンシンメトリーな舞台空間でしたが、それが不思議とアンバランスでもなくて、何だか曰く言い難い観劇体験をさせて頂きました。

視覚的に、妙に心に残る美しい舞台でした。

ネタバレBOX

最初と最後の、航空機の機内のシーンが、大変印象的でした。

美しい絵画を鑑賞したような気持で、舞台の中に吸い込まれて行って、夢の中を浮遊しているような素敵な安らぎがありました。

ところが、一転、建築家の丹下さんや、魯山人や、山口淑子とのシーンでは、まるで、舞台進行が、ベタな、東宝現代劇みたい。菊田一夫の演出舞台とかを思い出してしまう。

とてもチグハグな構成のような気がするのに、あまり違和感はない。

その不可思議な舞台構成が、まさにイサムその人の人生ををそっと物語るかのような、心ではなく、目で感じる作品だったように思いました。
ミュージカル「ハロー・ドーリー!」

ミュージカル「ハロー・ドーリー!」

(公財)富山市民文化事業団

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2013/08/23 (金) ~ 2013/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

念願成就に感無量!
「ハロー・ドーリー」は、私にとって、最初に観た壮大なスケールのミュージカル映画でした。

ニューヨークの広い通りの、パレードのシーンや、ダンスシーンを観た時の興奮は、未だに、はっきりと覚えています。

その当時から、いつかこれを舞台でも観たいと、ずっと切望して過ごして来ました。

それが、やっと、それも、想像以上のクオリテイ高い舞台をこの目で観ることができて、感無量でした。

レストランのシーンの、アンサンブルの皆さんのダンスが心底楽しくて、できれば、もう一度観たいと思ったのですが、楽日で、叶わず。

どうか、近い将来、再演してもらえたらと切に願います。

キャスト、スタッフ、一丸となって、この舞台を成功させようとする気がいと熱意が感じられて、本当に、観ていて、胸が熱くなるステージでした。

ただ、欲を言えば、もう少し、開幕前のオーケストラの皆さんのチューニングの騒音は、何とかならないものかしらと感じました。

東宝のミュージカルとかでは感じたことのない、やや耐えがたい騒音でしたので。

ネタバレBOX

剣さんのドーリーが、可愛くて、素敵!!

コーネリアスの本間さんの歌には、感動を頂きました。

宝塚の銀橋のような、オケの前に設えた舞台も、楽しさを加速しました。

若い頃に観た時は、気づきませんでしたが、この作品、相当アイロニーが効いているんですね。「クリスマス・キャロル」のスクルージなども、モチーフにしてるのかなと感じました。
ドーリーは、お金持と結婚して、自分が幸せになろうとしたわけではなく、慈善事業をしたかったんですね?

単純なミュージカルコメディだとばかり思っていましたが、この作品、なかなか奥が深そうです。

剣さんの母校の吹奏楽部の皆さんの演奏も、舞台の流れに違和感を感じさせず、しっくり馴染んでいて、お見事でした。
ART

ART

関西テレビ放送

東京グローブ座(東京都)

2013/08/17 (土) ~ 2013/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★

初演の感動には遠く及ばず
ヤスミナ・レザのこの戯曲は、友人関係の真実の姿をあぶり出した、実に秀逸極まりない作品なので、もちろん、一定水準は楽々超える力を持っています。

演技者を目指す、男性俳優さんには、是非テキストにして頂きたい本です。
シチュエーションにばかり拘る、劇作家にもお手本にして頂きたい、戯曲です。

今回の男優3名も、実力のある若手俳優ばかりで、舞台作品として、かなり上出来な作品に仕上がっていたのですが、初演メンバーの舞台に比べると、どうしても、軽い印象を受けました。

他愛ないことから口喧嘩になる友人同士の関係に、他人ごと気取りで笑って観ている内に、自らの深層心理を抉りだされたような衝撃を受けた初演舞台の感動には、残念ながら、遠く及ばなかった気がします。

特に、イワン役の平田満さんの名演は、今でも、目に焼き付いていますので…。

ネタバレBOX

真っ白な絵を巡って、口喧嘩が始まるのに、舞台セットも全部白尽くめというのは、逆効果なんじゃないかなという印象を受けました。

BGMも、どうもこの作品にはそぐわない感じで、音楽が鳴り出すと、邪魔な気分になりました。異化効果を狙ったのかしら?

友人関係って、本当に難しくて、大切な友達であればあるほど、支配欲や意地悪な気持ちが芽生えたりします。何もかも、同感したい思いが高じて、思うままにならない友人に、説明できない怒りのような気持を抱くこともあります。
でも、最終的に、大事な関係を壊したくないから、自分の感情をコントロールして、友人であり続けようと、人間は常に、親しい人との関係に四苦八苦しているのですよね。

そういう、人間の深層心理を、実に巧みに舞台化して秀作であることは、間違いなく、今回も、初演から14年ぶりに観た、「ART]に、自省の機会を与えて頂きました。

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