ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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宇宙の旅、セミが鳴いて

宇宙の旅、セミが鳴いて

劇団道学先生

新宿シアタートップス(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/24 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白さは保証付き。演劇好きなら一度は観ておきたい演目。役者の厚みが凄い。只々感心。

未来、地球は食糧難に喘ぎ、宇宙ステーションで栽培した野菜を宇宙船で運搬している。日本の民間企業が運営しているその船内が舞台。もうすぐ地球に到着する頃合い、微妙なトラブルが頻発する。
船長(佐藤正和氏)は調理師(稲葉佳那子さん)にキツく当たる。味の濃さ、メニューのマンネリ、野菜の量・・・、延々と因縁をつけては便所掃除の罰。不条理なハラスメントに船内クルーも呆れる始末。
クルーの数名にアトピーや水虫が発生。チャラい医師(速水映人氏)は「大丈夫大丈夫、気の持ちよう。」と意に介さない。納得がいかない潔癖症の女医(鈴木結里さん)。
野菜生産技術者の三人姉妹(尾身美詞〈みのり〉さん、浅野千鶴さん、月海舞由〈つきみまゆ〉さん)とその弟(川合耀祐〈ようすけ〉氏)。父親に愛されたかった心の空洞を抱えるアダルト・チルドレン、弟への過剰な干渉に繋がるようだ。弟は野菜以外にも隠れて花を育てている。
ナルシシストの操縦士(青木友哉氏)は美形の会計・庶務職員(中村中さん)をひたすら口説き続けている。
エンジニア(本間剛〈つよし〉氏)は神父の資格を持っており、個人的にミサを行ない、心の平安を説こうと努める。

日本人版『インターステラー』の趣き。萩尾望都なのか竹宮惠子なのか少女漫画家目線からの本格SFのよう。何故、蝉はあんなに激しく鳴くのか?木の枝に産み付けられた卵は1年掛けて脱皮し幼虫となり地中に潜る。5年程地中に籠もり、木の根の汁を吸ってじっと生き延びる。夏のある日、樹に上りゆっくりと羽化する。成虫、蝉として数週間飛び回り繁殖行動を遂行。激しく鳴いて死んでいく。本能の赴くままに、DNAのプログラミング通りに。

凄くふざけたコメディで有りつつ、人間という種の本質を語らんともする。どうにも上手く言語化出来ない、否が応にも死を突き付けられないと直視出来ない“生”がある。もしかしたら皆早く死にたかったのかも知れない。

佐藤正和氏は『父と暮せば』の印象が強かったが今回もまた素晴らしい。妙に赤ら顔なのは演出なのか?
稲葉佳那子さんは中村玉緒の若い頃と高橋尚子を足したような和風美人。今作のキャラでは藤田紀子っぽさも思わせる。全く内面が読み取れない。
月海舞由さんは『カムカムバイバイ』のイメージが強烈だった。ラストに泣かせる。

衣装(担当は石川俊一氏)の制服が秀逸。水兵の襟にネクタイの付いたジャージ。黒のスキニーパンツで女性陣の美脚を強調。脚で選んだのか?と思う程皆細かった。スニーカーは韓国のfashionのハイカット、白黒ツートーン。

ネタバレBOX

黒澤明のデビュー作、『姿三四郎』。柔道家・矢野正五郎の弟子になり、最強の名を売る為に町で喧嘩を重ねる姿三四郎。その高慢さに我慢がならなくなった師匠は破門を言い渡す。師匠の名を高める為にしたことなのに、ショックを受けた三四郎は庭の池に飛び込んで意地でも出て行かない。満月が輝く真夜中の池に浸かりガタガタ震える三四郎。ゆっくりと長い夜が明けていく。それと共に泥の池から蓮の花が咲く様を目の当たりに。その余りにも筆舌に尽くし難い美しさに涙する三四郎。強さには美しさが求められ、己にはそれが欠けていたこと。この理屈ではない、本能的にインプットされている美しさとは一体何なんだ?

『インターステラー』は滅びんとする人類をどうにか救おうとする話。その根幹にあるのは人が人に想う愛情。その気持ちは時空を超えて目に見えぬ力となって働き、必ず相手に伝わっていく。理屈を超えた、それこそが人類の最大の力だと語る映画。

稲葉佳那子さんが船長の歪んだ愛情表現に気付き、それを受け止める為に航路の軌道を変え、通信機を破壊。地球に帰還したら、この愛が終わってしまうから。全くの狂気。
船長は故意か過失か、燃料を全て宇宙に捨ててしまう。愛を成立させる為の心中なのか?

この辺の描写が自然ではなく、違和感を感じる観客も多いことだろう。テロ的に道連れにされる他のクルーが怒り狂わないのもおかしい。皆、すんなりと死を受け入れる。まるで初めから死にたかったように。
いろいろと文句はあるが、それでも魅力的な作品。一人だけ死にたくなくて泣き叫ぶ奴が欲しかった。
インバル・ピント『リビングルーム』

インバル・ピント『リビングルーム』

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/05/19 (金) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

かつてロザムンド・パイク主演の『エンテベ空港の7日間』という映画を観て、イスラエルのコンテンポラリー・ダンスに興味が湧いた。映画では椅子を使ったオハッド・ナハリン氏振付の作品が挿入される。これが妙に記憶に残るもので、映画の内容は忘れてもそのシーンのインパクトだけは未だに残る。十数人の男女がパイプ椅子に腰掛けては立ち上がり繰り返しては踊り続ける。何の意味があるのかないのか、随分面白い世界があることを知った。

イスラエルのインバル・ピントさんの新作公演。サイレント映画の古典的な喜劇を思わせるクラウン・パントマイムからのスタート。過剰な動作の繰り返しからその意図、意味を投げ掛け、観客は個々に妄想して読み解いていく。物凄く単純な動作を使って観客のイマジネーションを刺激してはいざない、いつのまにかに気が付いてみれば随分遠くの見知らぬ地平まで連れて行ってみせる手腕。

主演のモラン・ミュラーさんは人間と人形のハイブリッドのよう。ヨガの行者みたいに鍛え抜かれ研ぎ澄まされた肉体。腕を背中に回す動作はホイラー・グレイシーを思わせる。これ以上削げない程砥いだパーツはブルース・リー。『人間凶器』が真樹日佐夫なら、彼女は『人体表現機械』。本来、人体のパーツはそもそも何の為に備わっているのかを考えさせられる。

居間の壁紙に描かれた樹々のスケッチ、クロッキー画。ミュラーさんの服にも同様の樹々が描かれている。ミュラーさんは爪先と踵を交差する動作だけで壁沿いにスライドしムーヴしてみせる。部屋への違和感、服を脱ぎこの空間に慣れようとするも自分の意思ではどうにも自分の肉体を動かせない。まるで誰かの操り人形のような不具合。ポルターガイストのように椅子は動き出し壁の上部に備え付けられた照明はぐるぐる回転、蚊が飛び回り、ポットは壁に吸い付いて踊り出す。ロマン・ポランスキーの『反撥』のような離人症と強迫神経症のダンス。ワードローブを開くと流れる様々なミュージック。まるで精神は音楽に支配されているよう。

もう一人のダンサーはイタマール・セルッシ氏。コンパクトなワードローブからランプの魔神の如く這い出てくる。その軟体動物のような動きは『ロシアン・ラスト・エンペラー』、エメリヤーエンコ・ヒョードルを思わせる。サンボや獣の回転体の運動、受け身を繰り返す。スキンヘッドに鬚を生やした顔の下半分の印象でストーン・コールド・スティーブ・オースチンっぽくもある。酔った魔神がぐるぐる回転し続けながら重力に馴染もうとしている。舞踏というよりも格闘技だ。

使用される音楽のセンスが良い。マヤ・ベルシツマン氏や阿部海太郎氏。ポスト・トークに登場した阿部海太郎氏は今回初めて知ったが本物っぽい。

ネタバレBOX

振付、衣裳、舞台美術まで手掛けた演出のインバル・ピントさん。エルトン・ジョンっぽいチャーミングさで親近感が湧く。ポスト・トークでいろんな謎が解けた。
壁紙が何か気に入らないと思っている主人公。違和感と離人症。まるで自分が誰かの人形になったみたいな、自由になれず操られている感覚。どうしてこんなに自分の肉体は扱いにくいのか。明晰夢の感覚で自分の意思が通用しない世界。強烈な重力に押さえ付けられて不確定な物理法則。椅子や照明器具は自由に踊り、蚊が飛び廻る。コンパクトなワードローブから這い出てくる見知らぬ男。恐怖と不安から次第に信頼と安心へと。デュエットで踊り出す。男は去り、残された主人公は部屋の角の隙間から壁の中へと吸い込まれる。気が付くとそこは壁紙の世界。(壁に投影されたアニメと実写で表現)。そこでは椅子は愛らしい犬のように懐いてくる。穏やかな樹々と家と池。気に入らなかった壁紙が至極の楽園に変わる。『不思議の国のアリス』のような趣き。ほんの少しの想像力でこの世界は劇的に変わること。

インバル・ピントさんはモラン・ミュラーさんとの遣り取りから沢山刺激され作品を創造していったそう。元々は子供に読んでいた絵本からの発想。もう一人、ダンサーがいると思い立ち、18の頃からの古い友人を捜した。イタマール・セルッシ氏は現在44歳、29でインバル・ピントさんとは離れた。仕事がなくプールの監視員をしていたが、土曜の朝の突然の電話のオファーに飛び付いたそうだ。
綿子はもつれる

綿子はもつれる

劇団た組

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

舞台は四分円。豪華なアコーディオン・カーテンが寝室と客間を仕切る。爆竹花火のような、ビニールに叩き付ける豪雨のような効果音の炸裂と共に時空間が切り替わる。

ある壊れた家庭の人間模様、様々な感情に揺れ動くコップの水。自分でもどうしたらいいか誰にも判らないまま、ただ揺れ続けている。

ホテルでは永遠の美少女、安達祐実さんと不倫相手の鈴木勝大(かつひろ)氏。自宅では夫の平原テツ氏、継子の高校生の息子、田村健太郎氏。息子の友達、秋元龍太朗氏と天野はなさん。鈴木勝大氏の妻、佐藤ケイさんも登場。

表現が不器用な平原テツ氏が安達祐実さんのふくらはぎをマッサージするシーンが秀逸。韓国映画っぽい。
二人のイライラする掛け合いは流石。もう定番。

田村健太郎氏の両親とのシーンにおけるチック症が見事。そして対比しての同級生とのシーンの開放感。食ってるものがやたら美味そう。

個人的MVPは天野はなさん。すっぴんの彼女の魅力に溢れている。加藤拓也氏は良い仕事をした。誰もが昔好きだったあの娘のことを胸の鈍い痛みと共に想い出すようなキャラ。第十一回公演『百瀬、こっちを向いて。/小梅が通る』の2本立てのテイスト。こういうものの描き方がずば抜けている。大林宣彦だったかが石田ひかりと吉岡秀隆で綴った初体験の鈍い記憶のシーンを想起。(付き合えずに妄想で終わった方が、らしかった)。

上手く説明出来ないけれど人に勧めたくなる作品。

ネタバレBOX

平原テツ氏は私立大学の講師。別れた前妻との間に連れ子の息子がいる。後妻の安達祐実さんは前妻との息子に気兼ねして子作りを諦めた。しかし平原テツ氏が別れた前妻と浮気をしていたことが発覚。夫婦仲は冷え切り、家庭内別居の暮らし。安達祐実さんはかつてパーティーで知り合った既婚の男とW不倫。しかし、その男はホテルから出た所で事故に遭い亡くなる。平原テツ氏は夫婦仲の再生に力を注ぐが、安達祐実さんの財布に大切に仕舞ってあった指輪を見付けて激昂。不倫を認める安達祐実さんだったが、既に相手は亡くなっている。彼のことを想い出し泣きじゃくり過呼吸に。やり場のない怒りの拳をどうしたらいいのか判らないまま、安達祐実さんの介抱をする平原テツ氏。「別れたいわけじゃないんだ」。

平原テツ氏の「その変な泣き方をやめろ!」が名台詞。トッド・ソロンズの『ハピネス』を連想させる、一体これ何の話なのか?が炸裂。いや、まだ話は何も始まっちゃいないんだよ。
虹む街の果て

虹む街の果て

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2023/05/13 (土) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前からずっと廻り続ける2つの乾燥機。役者達が登場して挨拶。マイクを持つのは中華街の有名店『馬さんの店 龍仙』の女主人・馬双喜(マー・ソウキ)さん。北京語で全員を紹介。ステージに吊るされた4つのモニターに日本語字幕が流れる。「彼(彼女)の笑顔に何度も救われました。」と一人ひとりに。パーカッショニストの渡辺庸介氏と小人症の俳優、赤星満氏以外はプロではないようだ。かなり多国籍な陣容。紹介が終わると、皆緑色のツナギの作業着に着替えてそれぞれの立ち位置に着く。
どうやらここはシェアハウスのような建物。
1つの乾燥機が止まり、段ボールのロボット姿の小澤りかさんがストッキングを取り出して干していく。そしてもう1つが止まると、小柄な段ボールのロボット姿の赤星満氏が現れる。これらのロボットのデザインが『猿の軍団』に出てくるチップ(ポップ)と同じレトロ・チープな魅力で凄い好き。
話は有って無いようなもので、皆チルっている。それぞれに見せ場が用意されているが面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らない。皆それぞれの言語で好きに喋る。(字幕がフォロー)。

二階で寝ている(?)脚だけ見えた人間が気になった。死体か?

これは観客も皆回して気怠く浸った方が良い。

ネタバレBOX

ジョセフィン森さんが唐突に歌うマドンナの名曲、『マテリアル・ガール』が見事。アリソン・オパオン氏のギターが冴え渡る。彼が電話ボックス越しに妻に歌う『ストッキング愛のテーマ』なんか良かった。傘を差して狭いダンスルームで皆で踊るEDM。チープなTVゲーム。二階の部屋から靴を釣り竿で釣り続けるビルラ・スニル氏。ダンゴムシになりたい無限ループの老人、阿字一郎氏。スマイリーの子供の癇癪。ラストは『ルーディー』の合唱。

今作はドラッグ・ムービーならぬドラッグ・プレイ。作家はかつてそっち系にかなり嵌っていたのでは?昔の知り合いにやり過ぎて刑務所で実刑まで喰らった奴がいて、彼が話したエピソードに感覚やディティールが似ている。多幸感からくる壮大なメッセージなんかはもろ。(全くの見当違いなら申し訳ありません)。
糸地獄

糸地獄

劇団うつり座

上野ストアハウス(東京都)

2023/05/11 (木) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

滅茶苦茶面白い。押井守『イノセンス』とか、りんたろう『迷宮物語』の感覚。合法ドラッグを決めて集合的無意識、そして自らの深層心理にダイヴ。そこは日本人が共有する戦前田舎の紡績工場のイメージ。親に売られた娘達は昼は糸を紡ぎ、夜は自身の色を紡ぐ。
亀戸にある工場、月のない夜、海から上がって来たずぶ濡れの繭(青木恵さん)は東京湾から上陸して来たようだ。記憶を失くした繭は本能だけで『家』を探す。

天井から垂れ下がった何本もの赤い太縄。糸屋主人の縄(柘植英樹氏)はSMの緊縛師を思わせる佇まい。その太縄と淫靡に絡み合う女達のエロスが噎せ返るように立ち込める。女達が寝話に語るそれぞれの身の上話。梅の花の入墨を入れる梅(yokoさん)が印象に残った。

「さやりひゅう」。淫らな秋風が体を駆け抜けてゆくとき、老いさらばえた皺くちゃの女は自らの肉体に涙ぐむ。「さやりひゅう」。
女性のカルマをリアルに女優達が顕現。この布陣でないと表現出来なかったであろう世界観。

見事な演出、見事な美術、篠本賢一氏にリスペクト。

ネタバレBOX

「吹いてよ、風!」
風とは『希望』であり、生命を突き動かす奔流のこと。その風を細胞中に感じて、人間は自身を闇から解放する。時にはそれは悪い方向にも行くだろう。歳を取るとそんな風をふっと逃がす方法も身に付けるそうだ。必ず希望はある。きっと良いことがある。全ては上手くいく。

岸田理生(りお)と言えば『1999年の夏休み』、深津絵里デビュー作の傑作の脚本。未だに衝撃を憶えている。

後半、からくり人形めいた身の上話辺りから自分的には失速。家とか父とか母とかのテーマになっていくと何かしっくり来ない。『身毒丸』を初めて観た時もそんな感じになった。皮膚感覚として自分には欠けているのかも知れない。血の糸で紡がれた家系図に宙吊りにされた自分。
あたらしい朝

あたらしい朝

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなり面白い。
清水緑さんと木村巴秋氏の夫婦がピンクの車で山道を走っている。誰も通らないような山奥で『羽田空港』行きのボードを掲げているヒッチハイカーの北川莉那さん、何故か中世のペスト医師の『くちばしマスク』姿。それが可笑しくて何度も何度もUターンしてそこを通る二人。到頭乗せる羽目になる。車の中で盛り上がる話題。何処か遠くへ旅行に行きたい気分。

木村巴秋氏は宮藤官九郎風味のもう中学生。矢鱈ハイテンションで明るい。
清水緑さんは扱いがムズい情緒不安定女子。
北川莉那さんの態度の悪さが笑えた。チュッパチャップス。

デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』や筒井康隆の『夢の木坂分岐点』を思わせる作風。新婚旅行の思い出や病死した母親と行けなかった旅行。鯖にあたって死んだ男のエピソードの断片や『あいのり』風のラブワゴンでの旅。ベトナムのメコン川、ヴェネツィアの墓地であるサン・ミケーレ島。『地獄の黙示録』のように記憶の川を遡上し、『ベニスに死す』のように耽美的な終焉へと。曖昧な記憶と想像と妄想とが何処までも彷徨い続けていく。つげ義春だよなあ。

途中、哀しみが足りなく感じていたが、一曲の唄で作品を決定付けてみせた。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

客入れSEが坂本慎太郎(元ゆらゆら帝国)。レトロ風味な山下達郎っぽい。
飛行機内でバスガイド風CA、小瀧万梨子さんの歌う昭和歌謡も良かった。選曲のセンスが良い。小瀧万梨子さんが時折ケリー・チャンに見えた。
何と言っても金澤昭氏がギターを弾きながら歌う「オリオンビールの唄」(たまの柳原幼一郎の名曲)。菊池佳南(かなみ)さんのコーラスも効いている。
「野原が僕を呼んでいる パリも水(見ず)に沈んでく」
余談だがたまは柳原幼一郎(現・陽一郎)に注目が行きがちだが、アルバムを繰り返し聴いているとベースの滝本晃司の才能に驚くこととなる。「むし」「丘の上」「星を食べる」「あくびの途中で」などなど。
ラストはゆらゆら帝国の「EVIL CAR」で決める。
雨、晴れる

雨、晴れる

teamキーチェーン

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/08 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『A・P・B-Tokyo』の絶対的ヒロイン、横木安未紗さんが好きだった。寺山修司といえば彼女の印象。今は安未紗名義で活動中。またキャバ嬢か、と思えば今回はまさかの弁護士役。

前作の『朝ぼらけ』のイメージが、善人の織り成す優しさの甘ったるいおとぎ話。ファンタジーとしては有りなのだが、現実から目を背けた作風に拒否感。どうしようもない現実の痛みに打ちのめされた時に握り締めるような強さがない。「みんな良い人だったら良い世界になるのにね」。(自分も含めて)そうじゃないから皆苦しんでいるんだろう。リアルな苦しみを凌駕する強さが欲しい。

だが今作には強度があった。テーマは『性同一性障害』。いろいろと不満はあるが、言わんとしていることはしっかりしている。

元フェアリーズの伊藤萌々香さんが主演。初々しい清純派キャラで応援するファンも多そう。
FtM(フィメール・トゥ・メール)=〈肉体は女性だが自己認識は男性〉を演ずる三澤康平氏がMVP。凄く納得させる役作り。清潔感が圧倒的。
不妊治療に励む森川梢さんは見覚えがあるのにそれが何だか思い出せなかった。
化粧品で成功した女社長役、徳岡明(あかり)さんの台詞が芯を食う。それぞれの美しさに手を伸ばすこと。高い鼻梁。
ガサツな今井裕也氏はどこにでもいそうな存在感。

ネタバレBOX

津田恭佑氏の存在はかなり重要なポイントなのだが、展開が雑。性同一性障害を病気だと思い込んで、暴力的にそれを治療しようとする。ここを丁寧に描けたら、観客も痛いところを突かれたかも知れない。

性同一性障害については、正直よく分からない。ただ自分が他の人とは違う的な不安感は誰もが密かに抱えているものだろう。

『X-MEN』というアメコミ映画シリーズがある。突然変異で特殊な能力を持って生まれた人間=ミュータントが世界的に発生する近未来。差別され忌み嫌われた彼等を解放しようとするマグニートー(イアン・マッケラン)。人間達は異質な存在を恐怖し排除し治療しようとする。逆にマグニートーは人間達を強制的にミュータント化するテロを計画する。

監督のブライアン・シンガーはゲイ寄りのバイ・セクシャルを公言。名優イアン・マッケランはゲイであることをカミングアウトしている。その観点からこのシリーズを観ると一層興味深いもの。
二次会のひとたち

二次会のひとたち

エイベックス・エンタテインメント

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/04/14 (金) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

チャップリンの『ライムライト/テリーのテーマ』がここぞとかかる。この名曲、作曲すらもチャップリン。チャップリンを流されたら反射的に感動するように日本人は幼少時より躾けられている。
セットが見事。吹き抜けの洋館、オープンテラス。大きなカーテンが鍵になる。閉めればスクリーン、映像の投影。開けば開放的で気持ちのいい清々しい空間。調度品もバッチリ。中二階への階段。

美村里江(旧芸名ミムラ)さんが美しい。できる女オーラが半端ない。後半のジャージ姿でこの美貌と気品は宝塚OG並み。皆が使いたくなる気持ちが分かる。
内田理央さんもスラリとしたシルエット。かつて『星の数ほど星に願いを』と云う、ある意味記憶に残る舞台を観たことがある。
東啓介氏は190cmの長身でフルポン村上のようなうざキャラ。誰得なクイズを出し、シンキングタイムでは妙なステップで踊る。
元光GENJIの佐藤アツヒロ氏は初めて観たが、稲垣吾郎みたいに軽妙な俳優になっていた。

さくらももこのような可愛いイラストはカラテカの矢部太郎。『のろい少女』が良い。
巨大なカーテンを上手く利用し、イラストやアニメやシルエットを使って心象風景を表現。ふざけた新郎新婦からのラブラブ動画も。

結婚式の二次会の仕切りを任された、あぶれた初対面の4人。手探りで互いのことを知っていく。
かなり好感度の高いコメディ。

ネタバレBOX

凄く好感を持てる作風なだけに、残念な気持ちもある。ウディ・アレンや古き良きハリウッド映画へのリスペクトを作品内で表現して欲しかった。後半の4人の自身のバックボーンの告白、トラウマや原風景の語りはストーリーに自然に組み込むべき。ざっと羅列されて「さあ感動して下さい」ではどんよりする。フジテレビの安くて俗っぽいドラマに堕ちてしまう。モノ自体は悪くないのだから、重要なのは語り口。観客も気付かないまま誘導されて、ハッとさせるのがテクニック。ラストも皆そうなるであろうと気付いている。そこを上手に決めてみせてこそスカッとする。全部説明しないで観客の想像力をつくべき。
舞台「遙かなる時空の中で3 Ultimate」

舞台「遙かなる時空の中で3 Ultimate」

High-position

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2023/04/23 (日) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『十六夜記編』

『王家の紋章』を思わせる女子高生異世界トリップもの。『再縁編』が前編、『十六夜記編』が後編。源平合戦が行なわれる平安時代末期をモチーフにした異世界。主人公は白龍に選ばれし「白龍の神子(みこ)」、不思議な能力を身に付けていく。きらびやかな2.5次元、乙女ゲー世界をイケメンで再現。ゲームに思い入れがある人には堪らないだろう。陰陽師っぽい世界観でファンタジー時代劇でもある。
元乃木坂の渡辺みり愛さんが愛する者達を守る為に時空を超えて挑んでいく。決戦の場は奥州平泉。藤原泰衡役の和合真一氏が人気があった。

ネタバレBOX

話がつまらない。もっと乙女ゲー要素を出して、ゲームをやったことがない客にもその面白さを伝えて欲しい。展開は後楽園ゆうえんちの東映ヒーローショー。ラスボスが九尾の狐なのがイマイチ。余りにも歴史とかけ離れているので盛り上がらない。一度バッドエンドを迎えた主人公がやり直す展開がキモ。何処が間違っていたのか何を選択すべきだったのかを観客と一緒に解き明かしていけたなら。
今作こそ歌とダンスが必須。
ナイゲン(R05年新宿版)

ナイゲン(R05年新宿版)

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/04/18 (火) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

面白かった。
この話の展開上、そのときどきに要のキャラがいて、そこをきっちり押さえていくとどんどん盛り上がる。そのスイッチがハッキリ見えて感心した。
序盤はハワイ庵(環幸乃さん)が鍵。彼女の天然な疑問がいろんな問題を炙り出す。梅こんぶLOVE。
中盤はアイスクリースマス(坂本七秋氏)が鍵。この会議というゲームのルールを観客に知らしめて回す。3148の答弁にペンを机に打ち付けて一つ一つ煽るアクション、計算され尽くした動きに唸った。

この二人にリスペクト。役者側から作品を幾らでも面白くすることは出来る。

全体芸としてもよく出来ている。全員が今何をするシーンなのかを理解して行動。出番じゃないキャラがリアクションで細かく張る伏線。見事。

ネタバレBOX

議長(河西凛氏)は前半もっとモブキャラに徹して埋もれていた方が後半の展開が盛り上がった筈。ラスト30分まで溜めておいた方がいい。巧くなり過ぎて目立つようになった弊害。
監査(白井更紗さん)は凄く良かった。御手本になるような演技。それでも去年の大槻朋華さんに受けた強烈な記憶は何なんだろう?自分でも分からない。キャラが綺麗すぎるのかも知れない。
3148(近藤くれはさん)は文句なし。彼女の泣き出す様は美しい。絶妙なバランス。
おばか屋敷(長谷川智也氏)もストライク。これが正解な気がした。もてない駄目男の純情。
Iは地球を救う(ひろなかたけと氏)も先輩との遣り取りが上手い。
海のYeah!!(渡邉晃氏)は文句なし。

そもそも節電エコアクションをクラスではなく、出し物にあぶれた生徒達有志にやって貰えばいいだけの話だが、それでは物語にならない。物語には選択不能な抑圧が不可欠。

残念ながら、どさまわり(ヒガシナオキ氏)のキャラにイマイチ魅力が感じられない。こいつにむかつきながらも「一理あるな」とどこかで皆が認めていなければ成立しない話。そこが難しいところでただのひねくれたクレーマーではそもそも物語にならない。ある種、皆よりもっと文化祭のことを学校のことを真剣に考えている存在で、誰もが一目置くどさまわりが議長の提案を呑むシーンが文学。「何で賛成したんですか?」が余韻になる。教師ではなく、反体制の旗手が頭を垂れる事がドラマ。それは議長の何か、会議の何かに負けを認めた葛藤が必須。それが伝わらなかった。
令和5年の廃刀令

令和5年の廃刀令

アガリスクエンターテイメント

すみだリバーサイドホール ミニシアター(東京都)

2023/04/21 (金) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

マイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』というドキュメンタリー映画があった。1999年に起きたコロンバイン高校銃乱射事件からアメリカを考察するもの。この事件は世界中に衝撃を与える。2人の生徒が13名を射殺し、負傷者は24人、自分達は自殺。ガス・ヴァン・サントの『エレファント』という傑作にもなった。マイケル・ムーアは銃社会アメリカの歪さを訴える。全米ライフル協会のロビー活動が国を支配していると喝破。だが銃による犯罪が多発しているだけに皆銃を手放せない。銃から身を守るのは銃だけ。

今作はそれを刀に置き換えたコメディ。タイトルは大江健三郎の『万延元年のフットボール』からの御馴染みのネタ。廃刀令が施行されないまま、現代を迎えていたら?のワンポイントSFのifもの。
墨田区のタウンミーティングのていでパネルディスカッションを行ない、住民参加者による投票の結果を区議会に参考意見として持ち込む。日本刀の携帯を禁止するか、現状通り容認するか。

自分は『ナイゲン』では全く笑えないタイプの人間なので、今回も何も期待はしていなかった。それが始まれば滅茶苦茶面白い。登場するキャラ一人ひとりの描き込みだけで大満足。夜中に一人ニヤニヤしながら作ったんだろうなあ。淺越岳人(あさこしたけと)氏の大月隆寛系のキャラ作りが最高。司会の前田友里子さんは里村明衣子のような女子プロ顔。刀剣協会の矢吹ジャンプ氏の大御所面も文句なし。フェミニストの鹿島ゆきこさん、NPO野郎の斉藤コータ氏、鎖鎌YouTuberの古谷蓮氏、まさにズバリのテイスト。ベンチャー企業家の伊藤圭太氏も良い味。元区議会議員の榎並夕起さんの客席に笑顔を振りまいて展開する話術は大受け。『グレーな十人の娘』で印象に残った江益凛さんは刀拵職人のインスタグラマー役で場を大いに盛り上げた。

『朝まで生テレビ』で言論プロレスというジャンルを知った者達にはたまらない空間。これだけキャラを練り込まれると何をやっても面白い。細かなリアクション一つひとつに感心。
実際に観客に投票して貰い、その結果如何でニ通りの展開が待っている。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

矢吹ジャンプ氏演ずる隅谷を『スマ刀』につられて「スマ谷さん」と呼ぶシーンに笑った。巧い。
政治的野望剥き出しに見えた榎並夕起さんが、実は政界を捨てて家系ラーメン店を開業するエピソードは効いている。こういうところが隠し味。

どう考えても(筋道的には)廃刀令に賛成になる話なのが少し残念。(今から銃携帯を容認する社会には決してならないだろう)。逆にもう一つのエンディングが気になる。

近未来、肉食を全面禁止するか否か?の討論なんか見てみたい。論理的には肉食を禁止すべきなのだが、欲望的には禁止したくないような、そんなニュアンス。本音と建前の葛藤なんかが見たい。
ハートランド

ハートランド

ゆうめい

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/04/20 (木) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

この劇団は一度は観ようと思っていた。糞つまらないか滅茶苦茶好きかのどちらかだろうと。何か今までの感想から受けるイメージだと考え過ぎで自滅しているパターンの作風。開演前に延々流れる単館日本映画の予告篇にうんざりしつつ。

劇中流れるアニメが面白い。舌がベロンと出て女の顔、女の身体、女の下半身、アゲハや鳩が飛んで行く。サブリミナルな奇妙な感覚。作者のりょこさんは何を思って創ったのか?

sara さんが気になる。LIVEが見てみたい。

ネタバレBOX

延々流れる予告篇、これがネタで映画館の盗撮犯を捕まえるオープニングが客席内で始まる。もうちょっと巧くやってくれ。本当に観客が騒然とするぐらいやらないとすべる。

saraさんがQUEENの「Somebody to Love」を熱唱するクライマックスが最高。一番興奮した。

正直、かなりつまらなかった。受け手の自分が悪いのか?と自己嫌悪すら覚えた。何かどこをどうすればとかではなく、根本的な問題。逃げ道をいっぱい用意している感じがつまらない。大して才能ないんだから剥き出しでやってくれ。(皆ハッタリだけで才能なんか誰も持っちゃいない)。批評家に褒められようとか思わない方がいい。権威ではなく、観客と向き合って欲しい。

そこそこ著名な映画監督が『ハートランド』という映画を撮る。田舎の山奥にあるブックカフェ的でシェアハウス的な店、『ハートランド』を借りてあるシーンを撮影。監督はそこで端役で出演していた女優(児玉磨利さん)と肉体関係をもつ。その物語は海外で非合法な仕事をしてきた父親が逮捕され服役中に女房が亡くなる。出所した時には息子の居場所が分からなくて捜すというもの。
その映画の公開日の初日、監督の息子(鈴鹿通儀〈みちよし〉氏)は盗撮していた男(相島一之氏)を捕まえる。男は海賊版で生計を立てているプロであった。その後、息子は映画製作に興味を持ち自主映画を撮り始める。
駆け込み寺的に機能していた『ハートランド』に台湾からやって来た美人(saraさん)が転がり込む。そこに住んでいた皆と関係を持ったとの噂、男達は気まずくなって出て行ったそうだ。いじめられっ子の過去を引きずる童貞キモヲタのハッさん。異才のアニメーター。店のマスター。
今残っているのは後からやって来たVRゴーグルを装着したメタバースに嵌った男(相島一之氏)。美人と何十台ものスマホを並べ、仮想現実で何かを探している。
モキュメンタリー(ドキュメンタリー調のフィクション)映画の撮影で若手監督(鈴鹿通儀氏)と女優(児玉磨利さん)がやって来る。父と不倫関係にあった女優の目線から、父親を描いていくのが狙い。店に現れる昔からの常連(高野ゆらこさん)と新顔のアーティスト(田中祐希氏)。

仮想現実に隠されている自殺スポットの遺書。データが消える前に息子の痕跡を探す相島一之氏。彼は映画『ハートランド』のモデルで、勝手に自分の人生を映画化されたことに怒りを覚えていた。

高野ゆらこさんが池田亮氏に勧めた、小松原織香の『当事者は嘘をつく』という本がメチャメチャ気になる。
あたしら葉桜 東京公演

あたしら葉桜 東京公演

iaku

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/04/15 (土) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

①岸田國士の『葉桜』の朗読。林英世さんと松原由希子さん。1926年発表。
5分休憩。衣装チェンジ。
②『あたしら葉桜』上演。2015年初演。

林英世さんは杉村春子を思わせる貫禄。こういう役は声が重要。嗄れた声に生活の重みが乗る。
松原由希子さんは吉田羊や中江有里っぽさもある美人。

ネタバレBOX

①縁談を受けるかどうか複雑な心境の娘。母は「そんな男なら断っておしまい!」。でも娘の心は惹かれているようだ。母は自分の経験談を語る。男の張る見栄、つまらないお芝居について。「お前に自分のような思いはさせたくない」と。娘は停車場までの花の散った桜並木、青葉のトンネルのような道を男と歩いたエピソードを語る。そこにホラーのようなBGMが流れ、緊迫感を強調。日が暮れていく中、ゆっくりゆっくり歩く二人の姿。きっとこの縁談は成立し、娘は出て行くのだろう。母娘の零す複雑な涙。

②いきなり関西弁全開の母娘が走り回る。先程との落差で舞台がぱっと明るくなる。アイネキュッヘンシャーベ(ドイツ語でゴキブリ)が出現してパニックに。娘の雑誌の下に潜んでいると踏んで、片側にゴキブリホイホイを置き、逆側から制汗剤をシューッ。何も出て来ない。じっとその様子を見守りながら、娘の恋人の話になる。さらりと語られるので気付かない人も多いのでは。(自分も半信半疑だった)。娘は同性愛者でネットで知り合った恋人にドイツ赴任の同行を誘われている。同性婚が合法な国。複雑な心境の母。現代版『葉桜』という位置付けなのだろうが、同性愛を入れる必要はなかったのでは。母娘の想いのノイズになってしまっている。(同性愛ネタが強すぎる)。さらりと触れられるだけなのだが、逆にそれが物語を阻害している。(いろんな推測を呼んで混乱を招く)。母はずっと自分の運命の男を探していたと言う。学生時代、会社員だった男を逆ナン、それが今の旦那。自由な現代に背景を変えても、母娘の持つ複雑な想いは変わらない。

何か物足りない。
「キムンウタリOKINAWA1945」「OKINAWA1972」【4月6日(木)19時の回の公演中止】

「キムンウタリOKINAWA1945」「OKINAWA1972」【4月6日(木)19時の回の公演中止】

流山児★事務所

ザ・スズナリ(東京都)

2023/04/06 (木) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「キムンウタリOKINAWA1945」

1978年、The Crassは「Punk Is Dead 」と歌い、1981年、The Exploitedは「Punks Not Dead」と返した。
今作はまさに「Punks Not Dead」。もう演劇である必要もない。アイヌと琉球の被差別の歴史から日本を語る。
『ドラゴン怒りの鉄拳』というブルース・リーの名作がある。日本映画にある、耐えに耐えて到頭堪忍袋の緒が切れて・・・の段取りを全部カット。開幕そのままブルース・リーはブチ切れている。Aメロ、Bメロ省略、サビだけというハードコア・パンク。スターリンの『虫』みたいな感じ。今作もそんな荒々しさで叫びまくる。言いたいことが客に伝わらなくちゃ意味ねえんだよ!どんな形になろうが伝えてやる!凄く良い。

『怒りの鉄拳』の「東亜病夫」のように、「琉球、朝鮮、アイヌはお断り」がキャッチーに歌われる。作曲演奏の鈴木光介氏の才能が今作を彩る。
知念正真の戯曲『人類館』をモチーフに物語は綴られる。1903年大阪で起きた「人類館事件」。人間動物園として、各地の土人の暮らしぶりを観客に提供。アイヌ、琉球、台湾生蕃、朝鮮・・・。今作では沖縄戦に投入されたアイヌ人兵士と現地のウチナンチュー(沖縄人)のエピソードを芝居形式で送る見世物。シルクハットにタキシードとマント、鞭を片手に持つサーカス団の団長風の調教師(山下直哉氏)、横に立つアシスタント的な女(伊藤弘子さん)。鞭を鳴らしながら観客に口上をふるい、絶望と地獄の沖縄戦で楽しませてくれる。属国とされた弱い民族は理不尽に支配され服従するしか道はない。しかもアイヌは琉球人にさえ差別された。実話のエピソードが並べられ皆当たり前のように死んでいく。後に残るのは「キムンウタリ(山の同胞)」と刻まれた石碑、南北之塔。

安全圏から高みの見物を決め込む観客に拳銃を向ける調教師・山下直哉氏がMVP。このメフィストフェレスは誰も彼もに銃を突き付ける。どうやったらこの話を観客が自分自身の話だと受け止められるようにすることが出来るのか?
ウチナンチューの兵士役、五島三四郎氏は林泰文や若き日の本田博太郎っぽくて愛嬌がある。
ウチナンチューの妊婦役、竹本優希さんも印象的。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ひめゆり部隊の看護兵役の福井夏さんが記憶に残る。米軍に投降して生き延び、戦後はパンパンになった。

死んだ先でも差別が待っている。しかももう死ねない。祀られるのは英霊だけで、殆どのウチナンチューは犬死にだ。

この世は差別で作られている。差別こそが人間の本質である。差別を克服する為ありとあらゆる取り組みを試してみたが、新しい差別が増えていくだけ。今作に「絶望すらも抱き締めろ」という台詞がある。「それだって唯一無二の自分自身」。世の中の矛盾、自分の中にある矛盾を肯定して生きていくことか。

長渕剛『ひとつ』

悲しみは何処からやって来て
悲しみは何処へ行くんだろう?
幾ら考えても解らないから
僕は悲しみを抱き締めようと決めた
「キムンウタリOKINAWA1945」「OKINAWA1972」【4月6日(木)19時の回の公演中止】

「キムンウタリOKINAWA1945」「OKINAWA1972」【4月6日(木)19時の回の公演中止】

流山児★事務所

ザ・スズナリ(東京都)

2023/04/06 (木) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「OKINAWA1972」

素晴らしい脚本に唸った。
まさかの実録ヤクザもの。中島貞夫の『沖縄やくざ戦争』と松尾昭典の『沖縄10年戦争』を観ておいた方が楽しめる。笠原和夫の危な過ぎて映画化されなかった『沖縄進撃作戦』という脚本も御薦め。「これを製作したら俺が殺される」と東映の岡田茂社長がストップを掛けたガチ実録。この辺りの映画は、抗争を煽るとして当時沖縄では公開出来なかった。

伝説の空手家兇暴ヤクザ、新城喜史(よしふみ)、通称“ミンタミー”(目ん玉)。映画では千葉ちゃんが大友勝利まんまで演じた。とにかくヤマトンチュー(本土の人間)が大嫌い。「タックルせえ!タックルせえ!(叩き殺せ)」。
今作では甲津拓平氏が演ずる。

同じく伝説の空手家ヤクザ、又吉世喜(せいき)、通称“スター”(仇名のシターが訛ったものとされる)。未だに尊敬を集める男の中の男、リンチを受け生き埋めにされても自力で這い出して生き延びるなどのエピソードが多数、“不死身の男”と呼ばれた。Vシネでは小沢仁志が演っていた。
杉木隆幸氏が演ずる。

内部抗争の末、本土の山口組と手を組まざるを得なくなる上原勇吉。上原組は50〜60人、対する旭琉会は800人。勝負にならない戦いだが、延々と地獄の抗争を繰り広げた。映画では松方弘樹が踏ん張る。
演ずるは龍昇氏。

主人公的な立ち位置にいる語り部は日島稔。『海燕ジョーの奇跡』という小説、映画にもなった。演ずる五島三四郎氏は石森太二と町田町蔵をMIXしたような魅力。喋り口が朴訥で好感を持つ。上原組のヒットマンとして名を残した。

亀頭をペンチで捻り上げ切断されると云う、未だに誰の心にも残るトラウマリンチを受けた日島稔の弟分。演ずるは工藤孝生氏。やけに明るく能天気でこの地獄をエンジョイしてみせる。

この修羅地獄を生き延びてみせたのは富永清。演ずるは浅倉洋介氏。金城正雄の要素も混ぜているのかも。

エロい巨乳がいるな、と思ったら福井夏さん。流石に場をさらっていく。

佐藤栄作(塩野谷正幸氏)と若泉敬(里見和彦氏)が沖縄返還を巡り、ニクソン配下のハルペリン、キッシンジャーと極秘会談を続ける描写がサイドストーリー。

フィリピン人にレイプされて孕んだ子供を必死に育てた母親役、かんのひとみさん。彼女がある意味、今作の要。縫いぐるみの猫との遣り取りは美しい。読み書きが出来ない為、必死に勉強して字を覚えていく。

凄く好きなドラマ。こういう作品にこそ、神が宿る。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

この話、どうまとめるのか心配になったがアメリカの属国としてろくに相手にもされていなかった現実で締めてみせる。(若泉敬は密約を暴露した後、自死する)。
沖縄密約暴露事件の元毎日新聞記者、西山太吉氏についても触れられた。

だが自分が求めたのはそこではない。純情を汚さず生きていこうと云う人々の秘めた願い。そこに何の意味も価値もないが、それが故に尊い。刑務所に面会に来る母親がどんどん字を覚えていく描写が美しい。ただ、それでも物語は終われない。何故、沖縄は今日まで苦しみ続けなくてはならないのか?

話題になった『新聞記者』も、安倍政権が生物兵器の研究施設のある大学を作ろうとしていると云うネタにどうも乗れなかった。何か違う。安倍政権(黒幕の『日本会議』)が憲法改正してまでどうしてもやらなくてはならないことを示すべきだった。『それは“戦争の出来る国”作り。敗戦国の汚名を払拭して、敗戦前の主権国家に戻すこと。敗戦国のまま、戦争回避を掲げたままではこの国に未来はない。戦争は一つの有力な外交手段であるが故』。善悪の彼岸に立つ、そここそを突いて欲しかった。

眼前に迫っている台湾有事、嫌でも選ばざるを得ない。
Hand Shadows ANDRESEN

Hand Shadows ANDRESEN

劇団かかし座

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2023/03/27 (月) ~ 2023/03/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

影絵に対する妙な感覚。子供の頃見た夢の風景に質感が似ているような。どこかで聴いたがどうしても思い出せないこびりついたメロディーみたいな。記憶や意識の狭間から微かに見える無意識の世界、デジャヴー。『ザ・カゲスター』や『名たんていカゲマン』なんか大好きだった。

菊本香代さんが自分にとってのこの劇団のイメージ。四人が登場して『Mr.Shadow』を歌い踊る。

何の説明もない『おやゆび姫』、スクリーンに映し出されたアニメの風景の上を手で作った影と最低限の小道具だけで物語る。夢の中を彷徨うような水中を漂うような。

アンデルセンの説明を挟んで、『マッチ売りの少女』。死以外に苦しみから解放されない貧しい少女。歌と音楽が素晴らしい。音楽は石川洋光氏。アンデルセンの作る話には嘘がない。

手影絵と切り紙のワークショップ。会場の子供弄りがプロ。アンデルセンは切り絵マニアでもあった。
手影絵の連発、『Mr.Shadow Show』。

ラストは一切小道具を使わない手影絵のみの『みにくいアヒルの子』。美しい。

アンデルセンではないが、『幸福の王子』(オスカー・ワイルド)なんかこの劇団に合っていると思う。純粋な優しさと悲しみを表現することに影絵は適している。『ジャータカ』(本生譚)の「兎の話」も良い。(坊主に供物をする為に自ら火に飛び込んだ兎の話)。
是非、観に行って頂きたい。

「モモ」

「モモ」

人形劇団ひとみ座

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/03/23 (木) ~ 2023/03/29 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

小学生の頃から何度も読もうとし、映画を観ようとし、到頭今日まで持ち越した。流石にミヒャエル・エンデ、目茶苦茶面白い。これは是非とも観ておくべき作品。
人形の造形が見事で表情が抜群、ずっと眺めていられる。演者が片腕を突っ込んで動かすタイプの人形劇(出遣い)だが、顔を隠した黒子ではない。皆顔を出し、人形と一体になって演じていく。このやり方が一番いいのではないか。人形にも演者にも感情移入していく。
松本美里さんの大きく口を開けた独特な笑顔が魅力的。『ひなたと月の姫』、『エリサと白鳥の王子たち』、今作も最高。歌が巧い。
時間貯蓄銀行の灰色の男達が真鍋博のイラストっぽくてカッコイイ。横山光輝デザイン的でもある。
可動式舞台美術も効果的。今作はデザインの勝利。人形劇美術家小川ちひろさんがMVP。

とある街の廃墟となった円形劇場。浮浪児の少女、モモが住み着く。人の話を聴くことが大好きなモモ、「どうして?」と何度も尋ねる。呑気な街の優しい住民達は皆で面倒を見てやる。そこに現れた灰色の男達、人の生きる時間には限りがあることを伝えて回る。人間はすぐに死んでしまう、残された時間を効率的に使わないといけない。不安と恐怖に焦り苛立ち、住民は常に時間に怯える。無駄な時間を廃し、ギリギリまで切り詰めて生活しないといけない。皆の変心がモモには理解出来ない。実はこれは壮大な罠であったのだ。

ネタバレBOX

後半の展開が荒っぽく、トーンダウン。原作をかなり弄っているようだ。芸能界でスターになったジジのエピソードが不要。時間(人生)を恐怖と不安に書き換えた世相への抗議。人生は数値化出来ない。数字で優劣を競う競技でもない。重要なのは“今”を全身で抱き締めること。
「どんぐりくらぶ」

「どんぐりくらぶ」

人形劇団ひとみ座

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/03/23 (木) ~ 2023/03/29 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

宇宙を調査して回るアノオカタ(声だけ)。目が複数付いた毛虫のようなムムムを地球に派遣、人間について調べさせる。それに同行するのが美少女アンドロイド、レイリン。
彼等が目を付けたのはどんぐりに取り憑かれた小学生三人組、自称『どんぐりくらぶ』のイチロー、ソウタ、アサヒ。天才クリエイターのアサヒがどんぐりで次々と斬新なアートを産み出す。学校でそれらをオークションに掛け、代金としてどんぐりを集めさせる。どんぐりがどんぐりを産む錬金術。どんぐりこそがこの世の全てであるかのようだ。
下から棒に付いた人形を操作する系。(蹴込み芝居)。

ネタバレBOX

心が汚れてしまっているのか、話は全く面白いとは感じなかった。効率に取り憑かれたマモル先生が夢の中でお告げを受ける。ソクラテス、プラトン、デカルト、孔子!「無駄を楽しめ!」と。訳の分からない展開が延々続く。どんぐり750個で作ったネックレスをレイリンにプレゼント。凄く無駄なもので人生は構成されている。価値も無価値も自分次第。
『Under Pressure』(Queen&David Bowie)っぽい曲が掛かる。
挿話エピソオド~A Tropical Fantasy~

挿話エピソオド~A Tropical Fantasy~

文学座

文学座アトリエ(東京都)

2023/03/14 (火) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

加藤道夫によって1948年10月に発表された今作、1949年3月に文学座によって初上演。東部ニューギニアに出征しマラリアと栄養失調で死線を彷徨った経験をもとにした。鬱病気味になり1953年、35歳で突然の縊死自殺。

ニューギニアにあるヤペロ島、終戦を伝えるビラを撒く米軍機。生き残った日本兵は12人。師団長は士気を下げる為の計略だとして信じない。だが原住民達は戦争が終わったと祭の準備。
師団長役の清水明彦氏が一人奮迅。戦争体験者のルックス、リアリティーがある。クルーゾー警部役のピーター・セラーズや『悪魔くん』のメフィスト役の潮健児、堀田眞三を思わせる風貌。
参謀長役は中村彰男氏。
二年前の上陸時、この二人はヤペロ島の島民が挨拶に出向いたものを襲撃と勘違いして日本刀と銃で惨殺した過去がある。

本来は子供向けが正解なのだろう。もっと60分位に縮めて歌と踊りでテンポよくやった方がいい。

ネタバレBOX

戦地を経験した者の書いたファンタジーをそのまんま鵜呑みにしてファンタジーにしてしまった失敗作。痛みや苦しみを戯画化せざるを得なかった体験者の苦渋の決断を推し量らず、幼稚な漫画に貶めてしまっている。
さんまが松尾伴内や村上ショージとよくやる日本兵コント風味。客は戯画化された描写に笑いを求めていた。やたらだらだらとした台詞の遣り取り。同じような会話が延々続く。間延びしている。もっと演出で退屈しないように工夫するべき。

殺した筈の呪術師達がスコールと雷鳴の中、ぞろぞろと現れる。その出で立ちがカッコイイ。全員緑色の目の開いたデルフィンマスクのようなものを被り、マスカラスの入場コスチュームのアステカ・バージョンを思わせる派手な衣装。恐れおののき這いつくばって許しを請う師団長。死者はマンブルゥの木に生まれ変わるとされる。

若き兵隊役の小石川桃子さん、後ろ髪を結んでもろ女。素人臭い台詞回しは演出か?これでいいのか?
気配

気配

カンパニーデラシネラ

北とぴあ ペガサスホール(東京都)

2023/03/23 (木) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

小野寺修二氏は天才なのだろう。
一体どうやってこの空間を導き出しているのか。
どこに(頭の中の)カメラを置いて切り取っているのか。縦横無尽にカメラが動き何台も違う角度のものに切り替わる。バレットタイムのようなパースペクティブ目線で脳が作られているのか。光と影、空間認識能力、人の描く動線、こだわり抜いた音。聴こえるどんな音にも必ず意味があり、タイミングから音量から練りに練られている。必ずこうでなくてはならない完成形が見えているのだろう。

夏目漱石の『門』を舞台化。まるで鈴木清順の世界。チーンとりんが鳴る。格子戸、窓枠、動く床、走るミニチュア模型、壁に投影される影絵、縫い物、電話、揺れる車両、新聞、明治末期の空気感。

主人公の田中佑弥氏、寺脇康文っぽい。強調した肩幅、汗がボタボタ滴り落ちている。ずっと俯いて暮らす、物思いにふけった受け身の男。
奥さん役の兵藤公美さんは室井滋や森口博子系の顔立ち。このもの静かな和服の女性が内に秘めた情念を時々露わにする瞬間がある。そこが今作最大の魅力。
崖の下に暮らす夫婦の何てことはない日常。何かをしなければならないような気がするが、さしあたって何かをするつもりもない。

狂気の歯医者は藤田桃子さん。
崖の上の屋敷の主人は小野寺修二氏。
訪ねて来る弟は浅井浩介氏。

酒井抱一の屏風が美しい。
下に降りては上がる、揺れる裸電球。紐一本を引っ張るだけの仕掛けで見事な光の演出。
紅い鞠を追い掛ける夢。

一番の名シーンは弟が帰ると、『パルプ・フィクション』のように情熱的にサルサを踊り出す二人。(SEXの暗喩)。静から動への転換が巧い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

大学時代に親友の内縁の妻を奪った主人公。学校を辞め実家からは見捨てられ住居を転々とし二人で細々と暮らす。今は東京で公務員の職を得て、崖の下の借家住まい。親と伯父が亡くなった為、高校生の弟は大学に進学する為の学費を工面出来ず頼ってくる。どうにも手をこまねいて何をするにも決断の遅い兄にうんざりする弟。
ある晩、崖の上の屋敷に泥棒が入り、落とした手文庫が斜面を滑って転がっている。届けに行く主人公。それをきっかけに屋敷の主人と親しくなる。近い内、弟が満洲から帰って来るので会わないかと誘われる。弟が一緒に連れて来る友達が大学時代の親友であることに気付き青ざめる。彼と顔を合わせない為に十日程、禅寺に入る主人公だった。

構成をもっと弄ってもよかった。ラストの禅寺のシーンがなかなか伝わらない。弟の要件もよく判らない。原作を頭に入れて観るとまた違うのかも。

世間を棄てて一緒になった二人だけにしか解らない不思議な幸福。その気配。

SION『12月』
そして俺ときたらいつもこの頃になると
何かやり残したようなやわらかな後悔をする

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