ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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空鉄砲

空鉄砲

柿喰う客

ザ・スズナリ(東京都)

2022/01/14 (金) ~ 2022/01/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

気が狂っている。作家(中屋敷法仁)の脳内に力ずくでぶち込まれた観客が乗せられるのは妄想と情動のジェットコースター。『ミクロの決死圏』のようにインナースペースの至る所を猛スピードで駆け巡って行く。素舞台で着の身着のまま、三人の役者が語るのは家族と同性愛と虚構。何一つ解決しないミステリー小説と、映画化を口実にしたいつまでも撮影の始まらない極私的リハーサル。完全に気が狂っている令和型寺山修司は満杯の女性客で狂熱。

ネタバレBOX

ベストセラー連発の大御所ミステリー作家が自宅の風呂場で遺体として発見、死因はヒートショックと見られた。若き息子(永島敬三氏)はその父の死を映画化しようと試みる。長年父の愛人であった解体工(玉置玲央氏)は主演に無名の役者(田中穂先氏)を推薦する。役者は作家そっくりに整形を重ねた、解体工の腹違いの弟であった。映画の為の役作りと称して、自宅に役者を住まわせる息子。在りし日の再現を繰り返すうちに三人の脳内が現実と虚構の垣根を越え、死んだ作家=父=愛人=“兄を虜にした男”の仕掛けた大伽藍の性愛絵巻へと。

キーワードは「ケダモノの白い涎」と「弾の出ない由緒ある火縄銃」、「貴方の子供を作りたい」男と「空鉄砲」を持て余す男。元乃木坂の若月佑美さんと新婚ほやほやの玉置玲央氏のエロスが腐女子を惑わす。田中穂先氏が作家の役を演じるのだが、突然憑依するようで怖い。

個人的にはラストの歌(KinKi Kidsの『Kissからはじまるミステリー』)とアフタートークが作品の余韻を掻き消してしまうようで少し勿体無い気も。何か有りがちな風景に観客はほっとしてしまい予定調和の安心を得てしまう。妄想なら妄想でキッパリ叩き付けてさっさと終幕しても、それも一つの立派なファン・サービスだろう。

作家の産まれてくる息子への想いを込めた作品は変態的な内容となり、世間の評価は低かった。それを本屋で立ち読みした中学時代の解体工は、異様に興奮し精通に至る。「ケダモノの白い涎」を垂らしたことをファンレターにて作家に告白。数年後その作品が映画化するとなってオーディションで役を勝ち取る。しかし彼を一目見た作家は業界に圧力を掛けて芸能界を追放させる。理由は「一目惚れ」だった。彼を愛人にして情事に耽る作家。金を一切仲介させないことが二人の歪な関係性を更に特別なものとするプレイへと。作家の息子は母を亡くし、愛人の下に入り浸り帰って来ない父に孤独を募らせる。ある日父から見せられた先祖代々伝わる由緒ある家宝の火縄銃、それを抱いたまま布団に入り興奮、精通に至る。十五の夜、父と解体工を密室に閉じ込めて性行為を見せることを強要。歪んだ性癖は父を媒介にした純愛か。

挿絵画家の石原豪人と彼の絵に性的興奮を植え付けられた「自殺サイト殺人事件」の前上博の関係を想起。
女性向けの同性愛であって、男性的には物足りないのがやや不満。(その気のないこちらもベロンベロンに興奮させて欲しかった)。石原豪人の名言に「女はホモの美少年を見ると濡れるんです。」と云うのがあるが、きっとそれは真理なのだろう。

こういう形態の作品が成り立つのは小劇場演劇の特権。商業演劇、TVや映画になると説明を求められ、理路整然とした納得を要求される。舞台は作家のぶつぶつとした独り言を複数の役者で彩りを添えただけだと観客は理解しているので、受け止める度量が深い。このレベルの語り口を当たり前のように許容する観客の熟練度に拍手。
令和元年のシェイクスピア~マクベスvsハムレットマシーン~

令和元年のシェイクスピア~マクベスvsハムレットマシーン~

虚飾集団廻天百眼

ギャラリーo2(東京都)

2022/01/16 (日) ~ 2022/01/27 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

バーのカウンターの前で、台本片手の朗読劇。コスチュームが凝っていて荒れ地の三人の魔女なんてSMの女王様風味のボンデージ・ファッション。語られる物語は『マクベス』そのままで、時折『ハムレット』のオフィーリアの話題が出てくるのみ。目黒鹿鳴館のギスギスした雰囲気かと思いきや、役者もスタッフも観客陣も人柄が好く、居心地の良い優しい空間。これはまた観に来たくなる感じ。

挟み込まれたチラシのイメージから、J・A・シーザー調の歌をヴィジュアル系にアレンジしたLIVEが展開されるんだろうと勝手なイメージを持っていたが全く違った。「いつか観に行こう」と思ってはいたが、“いつか”なんて一生訪れることはないのが真理。無理して観に行く以外に道はなし。

ネタバレBOX

ラスト、死を望むマクベスは『女の腹から産まれていない男』を探し求める。「どいつが俺を殺してくれるのか?」と楽しみに待つがそんな奴は誰もおらず、到頭生き延びてしまう。そこからは寺山修司風のポエトリーリーディングが始まって終劇。何か中途半端な『マクベス』朗読劇だったかな。女優が誰が誰だかさっぱり判らず、後で名前を知って驚いた。

『マクベス』と云えば黒澤明の『蜘蛛巣城』とロマン・ポランスキーの作品が決定版で、他に何を観ても物足りない。幸せになる筈の行動がどんどん自分を不幸に追い詰めていく様。幸せとは欲望の現実化ではないことを諭す。
恋愛論

恋愛論

動物自殺倶楽部

イズモギャラリー(東京都)

2022/01/11 (火) ~ 2022/01/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何にも情報を入れずに観た方がいい。何が面白いのかを熟知している手腕。金が取れるプロの仕事。大手拓次(たくじ)の『動物自殺倶楽部』と云う詩から劇団名を取っているが、その詩の内容は陰惨な獣達の自死の風景を淡々と叙述するもの。恐るべし高木登。

ネタバレBOX

「ルッキズム」がテーマのように見せ掛けているが、多分違う。この劇団『動物自殺倶楽部』の紹介のようなもので、「こんな感じで半分ふざけてやっていきますよ」と云うことだろう。シリアスな作風は『鵺的』が担うが、零れ落ちるアイディアをここで華咲かせていく。「夜会行」のパロディーのようにも見えた。セルフ・パロディーと自虐ネタ満載で、観客はニヤニヤニヤニヤしっ放し。“役者”や“演劇”や“観客”まで全て引っ括めてネタにして笑い飛ばしてみせる力量。
野花紅葉(のはなもみじ)さんがやたら綺麗だった。赤猫座ちこさんはセルフ・イメージをパロっている感じ。小西耕一氏はキモい演劇論を振りかざすステレオタイプなイタい役者を好演。金子鈴幸氏は弁舌の立つ理論的なダメ演劇人を見事に肉体化。

赤猫座ちこさんの突然の一般人との結婚により、捨てられた演劇人達が彼女の部屋で未練タラタラ。役者引退作を高木登主導の作品でやると言うが···。
朝ぼらけ

朝ぼらけ

teamキーチェーン

吉祥寺シアター(東京都)

2022/01/07 (金) ~ 2022/01/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

自閉スペクトラム(連続体)症とは、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」の三つに分類される。その中で知的障害を伴う者を「自閉症」と現在では呼んでいるらしい。(この辺、定義が不明確な為、はっきりしていない)。障害者の兄弟姉妹である、「きょうだい児」と云う言葉を初めて知った。

障害のある息子(山中雄輔氏)の自立を促す為に自宅を改装した八百屋で働かせているモロ師岡氏一家。そこにバイトで田中愛実(あみ)さんが入ってくる。知的障害者への偏見、蔑視、敵意がそこら中に渦巻く世間。そこで織り成す日常の物語。

自閉症の山中雄輔氏、更に重度の暴力を伴う自閉症のマナベペンギン氏の熱演。『聖者の行進』のイメージからか、いしだ壱成、そしてキャラクター的に香取慎吾を想起。ピョンピョン飛び跳ねるポゴダンスは甲本ヒロトの痙攣ダンスを思わせる。嘗てブルーハーツがNHKに出た際、観ていたファンの母親が「こういう人達も一生懸命頑張っているのねえ」と涙ぐんだエピソードを思い起こす。

安未紗さんがエロいキャバ嬢みたいになっていた。思えば寺山修司作品以外の彼女を初めて観た。これはこれで魅力的。常連のお客さん役宮永薫さんが綺麗だった。

ネタバレBOX

周囲で軽度の知的障害者が結構働いていて、彼等の行為にうんざりする現実がある。彼等を見ていて思うのは、人に好かれる嫌われるは知能の問題ではなく、個々の人間性なのだろうと云うこと。
自分は偏見の塊の為、この手の作品に素直に感動することが出来ない。(何某かの障害があるのかも?)。ただ、隣の男性客が声を震わせて号泣するような作品であった。障害者から目を背けずに真っ直ぐに一つずつ何度でも少しずつでも心を通わせていこうとする現実的な物語。気の遠くなるような苦悩の果てにほんの少しの笑みが零れる。介護と一緒で自分の身に降りかからないと(自分の物語だと自覚しないと)本当の意味では理解は出来ないのだろう。正解は無い。あるのは日常だけ。モロ師岡氏が言う名台詞。「未来を考えていたら私達は生きていけないのですよ。今日一日を生きていって、その先にあるのが未来なんです。」

この手の作品で一番衝撃を受けたのが、韓国映画『オアシス』(イ・チャンドン監督)。重度の脳性麻痺のヒロインとの恋愛話なのだが、もうこのジャンルでこれ以上の作品は作れないのではないか?と思った。
赤目

赤目

明後日の方向

王子小劇場(東京都)

2021/12/29 (水) ~ 2021/12/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕70分休憩10分第二幕80分。
白土三平の紙芝居時代から貸本劇画時代への変遷期を、劇中劇としてマニアックな初期作品『赤目』と共に綴る。白土三平の会話の内容がかつての左翼文学っぽく、自省的でちょっと難解。何かを言おうとすると「いや違う。本当は僕はそう思ってはいない。」的に自らすぐに打ち消しにかかる。独り言のように繰り返される自問自答。1967年に書かれた斎藤憐(れん)のこの作品を白土三平は観たのだろうか?
1958年(昭和33年)、紙芝居画家の白土三平(直江里美さん)は金野(こんの)新一(野村亮太氏)の下で共同生活をしながら働く。しかし、テレビの普及に伴い紙芝居の人気はどんどん落ちていく一方。仲間の瀬川拓男(渡邊りょう氏)は指人形劇団太郎座を率いて全国を巡業している。(実際の時代とは3年程ずれている)。後に妻となる李春子(百花亜希さん)がそこに移り住んでくる。紙芝居屋に人生を賭けると言っていた満州帰りの吉やん(國松卓氏)はある朝書き置きをして去って行く。貸本漫画家の誘いを受けつつも紙芝居による表現に拘る白土三平。上野国(こうずけのくに)〈群馬県〉の義民・磔茂左衛門(はりつけもざえもん)を描いていく。将軍に農民の窮状を直訴した罪で、妻子もろとも川原で磔刑に処せられた郷土の英雄。そのうち、白土三平は自分が描きたいものがどうも違うことに気付き出す。「物事の結果がどうであるかはどうでもいいんだ。大事なのはその過程で、具体的に何をしたのか?なんだ。」

『ドップラー』の主演で印象を残した國松卓氏はいつも汗だくで目が座っている。何か痩せたような。百花亜希さんは観る度に役柄の纏うイメージが違うので、一体どんな女優なのか未だに掴めない。今作のような陰々滅々たる物語には彼女の明るさが必須。キーボードコンダクターの後藤浩明氏とコントラバス奏者の藤田奏(すすむ)氏の生演奏が最高だった。
新聞紙を上手に使った美術、段ボールの紙芝居、「金は無いがアイディアは有る」気概。

ネタバレBOX

白土三平の『赤目』が劇中劇として挿入。領主信平の圧政に耐えかねた百姓・松造(菅野貴夫氏)達は蹶起し、一揆を起こすも種子島(火縄銃)の前に悉く敗れる。身重の妻を惨殺された怨みを抱いたまま、何とか生き延びる松造。忍者に拾われ数十年修行を積むも、「才能なし」と大怪我をしたまま打ち捨てられる。山猫の大群に襲われたところを猟師に助けられるも、片目と片脚を失う。自分を救ったものが因縁の種子島であった事に項垂れる。猟師の言葉、「餌である“赤目”がいないせいで山猫が人を襲う」にピンと来る松造。「赤目」とは兎のことである。
郷里の村に帰り、廃寺に棲み着く松造はいつしか「上人」と呼ばれるようになる。松造は「赤目教」と云う兎を崇める新興宗教を広めていく。段々と「赤目教」は広まり、村人が兎を殺さなくなった為、兎は増え続ける。兎を餌とする山猫も増え続けていくも、今度は兎の食べる野草が無くなる。無理して何でも食べようとしたせいで、疫病が発生し兎は大量死。松造は人の死体を山猫に食わせ、味を覚えさせる。飢えた山猫は無差別に人間を襲うようになる。領主信平は百姓達に種子島を渡し、山猫駆除を命ず。それを手にした百姓達はくるりと踵を返すと、種子島を城に向ける。

3年後、大人気の劇画家として成功を収めた白土三平に、瀬川拓男は『赤目』のラストを褒め称える。「民衆が主人公となって初めて自らの意思で銃を権力に向けたんだ。このラストは君にしか描けない。」
それを否定する白土三平。「本当のラストシーンなど誰にも描けない。」、筆を手に狂ったように加筆していく。一揆が成功して勝利の歓喜に沸く百姓達。復讐を遂げた松造は「まだ何も終わってはいない!今から始まるのだ!」と檄を飛ばす。ポカンとする群衆。狂ったように皆に斬り掛かる松造に「上人様が狂った!」と逃げ惑う人々。「まだだ!まだだ!まだだ!まだだ!」と暴れ続ける松造と「松造!狂え!狂うんだ!」と描き続ける白土三平で終幕。

原作の『赤目』のラストは、領主信平の首をぶら下げた松造が気がふれて何処かに歩き去って行くもの。

難解な作品だが、ラストの昂揚は素晴らしい。
『脱兎を追う』

『脱兎を追う』

楽園王

d-倉庫(東京都)

2021/12/21 (火) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

☆白組
日暮里の名・小劇場、dー倉庫の閉館日。観易くていい小屋だった。これで日暮里に来ることは無さそう。
開演前の舞台上から、淹れたコーヒーを飲みながら古きタイプライターで執筆中の本堂史子さん。この劇団は音楽の使い方が抜群で、選曲が素晴らしい。その部屋に訪れる妹の林美月(みづき)さんは宇多田ヒカル似で時折水川あさみっぽくもある美人。この二人の遣り取りが秀逸で、「夢の中で飛び降り自殺をした現場に行きたい」と妹は言う。崩壊した家庭の生き残り、自殺願望のある妹。姉はそのこと自体を執筆中の舞台のシナリオに取り入れながら、入れ子構造の物語は続いていく。

ネタバレBOX

自殺の名所であり、心霊スポットにもなっている集合団地の三号棟。靴を脱いで屋上に立つのはイトウエリさん。それをじっと覗き見ているのは、ドッペルゲンガーか死神か謎が謎を呼ぶ存在のあべあゆみさん。イトウエリさんがなかなか飛び降りないので、あべあゆみさんは到頭促しに姿を現す。イトウエリさんが死んだら『代わりの女』となって、彼女の人生を引き継ぐらしい。「それは御免だ」と揉める二人。更にそこにやって来るのが飛び降りに来たハイジ・アーデルハイド(黒田智栄さん)と止めに来たクララ・ゼーゼマン(加藤彩さん、怪演!)。ドタバタが続いて行く。

結局、あべあゆみさんが飛び降り、イトウエリさんは彼女の『代わりの女』として生きていくこととなる。どうも彼女の魂は林美月さんを兼ねているようで、ここから生きていくことを力強く宣言する。

本堂史子さんと林美月さんの紡ぎ出す世界が素晴らしかっただけに、後の二組の話は同じ作家が書いたとは思えない雑さ。時間を埋める為のコントか?会話の内容も低レベル。残念極まりない。
マンホールのUFOにのって

マンホールのUFOにのって

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開演前、毛むくじゃらの謎の着ぐるみの男(大垣友〈ゆう〉氏)がアコギを爪弾き出す。やたら巧い。その後、開幕すると舞台上手に座り、鍵盤楽器を奏でる松本みゆきさんと劇伴を生演奏。
前半は高橋留美子調のラブコメで、冴えない大学生の主人公へちま(宮地洸成〈ひろなり〉氏)がやたらめったら癖のある女の子にもてまくる展開。へちまの彼女の遥(小久音〈さくね〉さん他)は自称(?)宇宙人で、複数の役者が交替制で演じていく。UMA研究会会長の若葉(早舩聖〈はやふねひじり〉さん)、レディースの渚(御飯ゆかりさん)。
不思議な遥に夢中な優しいへちま。彼女から預かった大切なガチャガチャのカプセル。絶対に開けてはいけないそれを到頭開ける時が来る。
遥&猫役の小久音さんが可愛かった。

クライマックス、大垣友氏のオリジナル曲『マンホールのUFOにのって』が炸裂。これが胸を打つ名曲で、この舞台はこの一曲を奏でる為にあったことが分かる。全てのシーン全てのエピソードがこの一曲に凝縮されていく素晴らしい演出。

昔凄く仲が良かったが喧嘩別れした奴と、何十年振りかに思わぬ場所でばったり再会。流れで飲みに行って久方振りに矢鱈盛り上がり、御機嫌で店を出て「じゃあな」と二人別れて行く。そしてお互い共もう二度と会うことはないことを知っている。そんな舞台だった。
「寂しがれたのさ、君が傍にいた。ばっちり世界は幸せに溢れてんのな。」 The ピーズ 『手おくれか』

28日から隣の「駅前劇場」でも劇団の別作品を同時公演。日程が合えばこれも行きたかった。是非観た方が良い。

ネタバレBOX

後半は15年後の遥(松本みゆきさん)と、ナマケモノとへちまのカサブタから採取したDNAを交雑して誕生した“えにし”(大垣友氏)の物語。えにしはアコギを肩に掛け、人語を解す。喋れるチューバッカのような存在。遥は自らへちまに別れを告げ去って行ったものの、ずっと彼のことが忘れられず引き摺っていた。遥の親友でもある元レディースの伝説の総長、紫(宍泥美〈ししどろみ〉さん)が帰郷して来る。(芸名は宍戸留美のパロディーか?)。紫と「喫茶さざなみ」のマスター(久間健裕〈たけひろ〉氏)との恋模様。えにしの独り立ち。マンホールはきっとワープゾーンで、望んだ場所に連れて行ってくれる筈。へちまとの再会。

中学時代、屋上で小さなUFOを捕まえた遥はそのまま落ちていく。『ラピュタ』の飛行石を手にしたシータのようにゆっくりと。そこで紫と出会う。UFOに乗っていた宇宙人は紫に恋をする。遥はUFOをガチャガチャのカプセルに入れ、自分が他人とは違う特別な存在であることの証明として隠し持つ。大学に入り、へちまと付き合い出し、へちまにカプセルを預ける。二人の関係が終わる頃、遥に促され到頭カプセルを開けるへちま、中には何もない。矢張り自分は特別な存在でも何でもないことを認めた遥は大学を辞め、へちまの前から姿を消す。実はUFOはとっくの昔にそこを抜け出ており、宇宙人は人間型に擬態し「喫茶さざなみ」のマスターとなっていたのだった。

何人もの役者で演じることにより、遥はへちまにとって掴みどころのない女の子に見えることを巧みに表現。遥の行動言動は全て思春期の厨二病のように思わせて、きっちりとSFでもある。胸に残るラブ・ストーリーだった。
眠れぬ姫は夢を見る

眠れぬ姫は夢を見る

サヨナラワーク

劇場HOPE(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

かなり良く出来ている。演出家(深寅芥〈みとらあくた〉氏)も脚本家(Arry氏)も才能がある。今敏の『パーフェクトブルー』を思わせる展開。照明とプロジェクションマッピングが素晴らしく、心象風景を氷の結晶のように美しく描き出す。地下アイドルグループ、「ネバーエンディング・ガールズ」(通称ネバガル)に加入した少女の物語。全員役名を自身の芸名のまま演じる。同じ話が違う視点から幾度も語られて、その裏側に隠された物語を観客が味わっていく構成。“熊”の存在が少女の心の闇を象徴し、『森のくまさん』の歌が効果的に使われる。
「世界は見える所にしかないんだ。見えない所に世界はない。だから、その為に僕がいるんだ。」
女優8人を効果的に配置し、楽しく語られていく暗い混沌。好きな人には堪らない筈。
「夢を見る為に人は生きているんだ。さあ夢を見よう。」

ローカル局のアナウンサー、水野奈月は地下アイドルがストーカーに襲われた事件を取材中。メンバー達に彼女について聞いて回る。

ネタバレBOX

2011年 ネバガルに南岡萌愛が加入。
2014年 美澄優羽のストーカーに襲われ南岡萌愛が意識不明の重体に。その後、記憶が戻らぬまま入院生活。
2021年 十年前の約束を下に一夜限りの再結成ライブの準備に取り掛かる。

南岡萌愛(もえ) 主人公。狂気じみた役が板に付いている。ハロプロ顔。
美澄優羽(みすみゆう) スラリとした長身の、目を惹く華のある美人。地下アイドルのスターから、キャバ嬢で太客と結婚というリアリティー。
桜羽萌子 二階堂ふみに似た、今作の笑いの要。キャラ変のし過ぎで訳が分からない存在に。熟練した技量。
丹羽(にわ)まなえ 内田眞由美っぽい、一番客に近いニュートラルな視点で物を語れる。ツッコミ担当。
杢原朱織(もくはらしゅり) ロボットのような動きをする感情表現の希薄な変人キャラ。
宮本朋実 ネバガルのプロデュースとリーダーを兼ねて、解散後は小さな芸能事務所の社長となる。
水野奈月 ローカル局のアナウンサー。地下アイドル暴行事件についての特集を担当する。
彩原双葉 主人公のイマジナリーフレンド(架空の友人)。ビーターパンを演っていた頃の高畑充希っぽい。

孤独な萌愛の子供の頃からの心の支えとなった双葉。同性愛者の萌愛は優羽に恋をし、彼女の傍にいる為グループに加入。必要とされなくなった双葉は消えていく。萌愛は優羽の卒業にショックを受け、ストーカーの暴行事件も重なり、入院生活の中で別人格・水野奈月になってしまう。

6年入院は長過ぎ。ストーカーの暴行ではなく、自殺未遂の方が“再生”の物語としてまとまる。奈月が萌愛の別人格であることが判明し、双葉がイマジナリーフレンドであることも衝撃的に明かされる。その後が無駄に説明をぐだぐだし過ぎで勿体無い。奈月が自分こそが萌愛であると受け入れる話を一直線に語るべき。

死んだ振りをしてでも、耐え切れない苦しみをどうにかやり過ごし、また夢を見なくてはいけない。素晴らしい夢を。
vitalsigns

vitalsigns

パラドックス定数

サンモールスタジオ(東京都)

2021/12/17 (金) ~ 2021/12/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ノンマルトの使者』や金城哲夫を思わせるガチガチの直球SF。本多猪四郎や実相寺昭雄テイスト。『アトランティスから来た男』等海外SF秀作シリーズを思い起こさせる生真面目な作風に好感。
深海救難艇(艇長と操縦士)が救難信号を受信し、水深840mにて海底探査艇バラエナ(鯨の学名)から三名を救助。だがどうやら、その三名は人間ではない···!?

舞台は狭い救難艇内のワン・シチュエーション。人間と、人間ではないものとの存在を巡る対話。知的快楽に満ちたSF。好きな人には堪らない。お薦め。

ネタバレBOX

ブラックスモーカー(高温の熱水噴出孔)から採取された熱水の中に未知のバクテリアが付着。バラエナの艇内に蒸気として充満。人間に寄生し肉体を乗っ取ることに成功。そこで初めて誕生した意識だった為、それ以前の記憶はない。兎に角生物の本能として、浮上して地上にのぼることを望む。

西原誠吾 主人公の艇長、怒りっぽい。
神農(かみの)直隆 中立の立場の操縦士。
小野ゆたか 人間を乗っ取った初めの男、適応性に優れている。
植村宏司 動きや表情で人間ではないものを見事に表現、友好的。
堀靖明 憎々しげな物言いの男、劣っている者を見下す。

人間ではないことの証明に体温20度、テレパシーが使えるなどがあるのだが、特に体温の件はない方がいい。何処までいっても人間と何ら変わりがないのに、明らかに違う方が恐怖。(主人公の疑いが晴れないのが厄介だが)。

前半が滅茶苦茶面白く、『アビス』や『スフィア』的なファーストコンタクトものの興奮があった。後半になるにつれ、演劇的な隠喩にも取れる構図になってしまい、それが自分的には残念。徹頭徹尾SFに徹して欲しかったのだ。
鈍色(ニビイロ)のヘルメット -20歳の闘争-

鈍色(ニビイロ)のヘルメット -20歳の闘争-

KUROGOKU

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演の富川陽花(はるか)さんが顔は岡田奈々(AKBじゃない方)、空手は大会優勝経験もある腕前。大谷翔平といい最近の天は気前よく二物も三物も与えまくっているようだ。「ゲバルト・ローザ」こと柏崎千枝子がモデル。
高校時代、『サウンド・オブ・ミュージック』を観た帰りにデモ隊と機動隊の衝突に巻き込まれ、投石で怪我。彼女を介抱してくれた東大生(小坂広夢氏)に恋をする。彼は後に東大全共闘の議長を務める存在に。モデルはカリスマ山本義隆。
フリーのカメラマン役の松本みなみさんが時代背景の語り手となり、東大全共闘に参加した少女から見た安田講堂陥落までを綴る。議長の演説の説得力。「戦争に勝った国は学問に秀でた国である。国の根幹とも言える学問の発展を阻害するものと闘う事は学生達にとって自明の理である」。
日大全共闘との抗争や共闘、田中美津をモデルにしたような女性解放運動家の登場。革命歌『インターナショナル』が轟くが政治思想は希薄で、一つの「青春グラフィティ」として仕上げてある。片桐健人氏と久原大知氏がコメディリリーフとして機能。小守航平氏のルックスがまさに当時の学生運動家顔で、山本直樹の描くキャラのような目付きに好感。
東大の少女が正義の為にせっせと機動隊に投げる火炎瓶を作る現実。これが本当に日本の風景だった。その頃の空気感を味わいたかったら、是非観劇を。

ネタバレBOX

物足りないのは”敵“が描かれないこと。大学が警察(国家権力)を導入して、学生達をどんどん追い詰めていく様が必要。徹底した暴力に晒されてこそ、武力闘争に踏み切らざるを得ない空気感に共鳴出来る。自分達の意思を超えて、予め定められていたかのように物事は着実に進んでいく。選択肢など初めからなかったのだ。
主人公の友達や家族も敵に回った方が良かった。特に高校時代からの親友(守谷花梨〈もりやかりん〉さん)に「変わったね」と決別を突きつけられて欲しかった。
ラストの『エーデルワイス』は、機動隊突入の時に流れるべき。暴力で血塗れに打ち倒されていく面々の対位法として。ジョン・ウーならスローモーションで白い鳩を飛ばすだろう。

日大全共闘を潰した日大の番犬、「関東軍」を率いていたのは今話題の田中英壽(ひでとし)前理事長。悪質タックル事件の指示で有名になった井ノ口忠男元理事もそこにいた。日大全共闘を潰した御褒美に日大の権力構造の恩恵に預かり、取り立てられていったのだ。非常に分かり易い、これぞ日本のシステム。
『水』/『青いポスト』

『水』/『青いポスト』

アマヤドリ

新宿シアタートップス(東京都)

2021/12/16 (木) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『水』

開幕すると所謂“演劇”がスタートして、集団で台詞を合唱斉唱重唱輪唱していく自分の嫌いなタイプの語り口。「これが2時間20分続くのか」と気が滅入るものの、いざ物語の中に投げ込まれると話自体が面白くて世界に没入出来る。ただ暖房が効き過ぎで、周囲は結構居眠りしていた。

物語の原型はボリス・ヴィアンの『日々の泡』(邦題『うたかたの日々』)。妙な現実感を組み込んだ大人の為の童話(寓話?)のテイストは『劇団おぼんろ』の感覚にも似て。

初めにこの話がハッピーエンドであることが観客に明かされ、ハッピーエンドのちょっと前の様子も見せてくれる。それがどう見てもハッピーエンドには成り得そうにない光景でこれが蒔いた一粒目の種。ヒバリのバニラの無惨な死の光景も前もって語られる。これが二粒目の種。

細かい台詞や動きも完璧に計算され尽くしていて、相当な稽古量が透けて見える。演出家の完璧に構築された設計図があり、役者皆が一人ひとり自然に輝くようにデザインされている。
ヒロイン役一之瀬花音(かのん)さんは吉高由里子にちょっと似ているような可愛らしさ。ヒロインの旦那役・阪本健大(けんた)氏は岡田圭右似でえらく格好良く、強い存在感で目を離せない。ヒロインの母親役の右手愛美(うてまなみ)さんは韓国映画の女優みたいな派手な美人。夏に『歴史法廷の中に生きる我々のための小噺集』で観た、医者役の木村聡太氏はスタイルの良さから記憶に残る。ヒバリ役冨永さくらさんはバレリーナのようにステージ中を軽やかに跳ね回り、その余韻が木霊し影が残像となって消えていく。

序盤に蒔かれた二粒の種が約束通り芽吹くとき、無力さに打ちのめされるだけのこの物語に果たして光は射すのだろうか?

ネタバレBOX

話は難病モノで、一之瀬花音さんが結婚式の夜、奇病に冒されてしまう。このまま病気が進行したら肉体が湖になってしまうので、それを抑える為「海老の尻尾」を摂り、水は一日小さじ2杯まで。旦那の阪本健大氏は「ゲロ掃き屋」で、電線に籠を引っ掛けてロープウェイ代わりに移動し、深夜のゲロを掃除し続けている。二人の出会いの切っ掛けを作った斎藤拓海氏はDH(公務員である国家公認犯罪者)。彼の恋人の徳倉マドカさんはお笑いコンビ・チタンカーメンズの大ファン。そのチタンカーメンズがネタで提案したDHシステム(国が管理出来る犯罪者を養成し、国の管理の下、マッチポンプとしての犯罪を犯すこと)。これが評価採用され、チタンカーメンズの二人は大臣の座を与えられている。
斎藤は恋人の気持ちをチタンカーメンズから逸らす為、暗殺を企てる。友人の阪本が代わりにそれを実行に移すが、殺さずにコンビの一人をホトトギスに変えて拐う。逃亡する阪本は逃げ延びた先のマンションで、「叢雲(むらくも)屋」になる。「月に叢雲、花に風」(良いものに限って必ず邪魔が入る)から意味を採り、人が死ぬ前日に家族にそれを伝えに行く仕事。その職業故、妻が明日死ぬことを知った。

一之瀬花音さんは子供の頃、母親とボートに乗っていて誤って湖の中に落ちてしまう。何処までも沈んでいき、遠くなっていく水面。母親の右手愛美さんは娘を助ける行動が何故かどうしても取れない。空を見上げると、娘が見ているであろう光景に自らを重ねてしまう。遠く空の青さを眺め、沈んでいく自分。近くの青年が飛び込んで助けてくれたのだが、母と娘は決定的な心の傷を負う。母は病み、家に閉じ籠もり、食事も摂らなくなる。この件の母娘の対話シーンが絶品で右手愛美さんの見せ場。この作品の一つの核である。

そしてラスト、妻は死んで湖になった。旦那はその湖にマンションから飛び込む。彼女との二人だけの秘密の合図、水面に咲く蓮の花になった手を繋ぎ、何処までも沈んでいく。何処までも水に溶けていく。何処までもそして何処までも。

「···とさ。」と話を締め括る松尾理代さん。
最後に流れるのは大槻ケンヂの『オンリー・ユー』(田口トモロヲ率いるパンクバンド『ばちかぶり』の代表曲のカバー)。ちょっと意外な選曲。

会場で配布された小角(こかど)まやさんのイラスト人物相関図が秀逸。他の劇団も真似て欲しい。
舞台サルまん

舞台サルまん

気晴らしBOYZ

小劇場B1(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

この世で一番面白いギャグ漫画は『サルまん』な人にとって、ファン感謝デーみたいな舞台。初日は作者の竹熊健太郎氏と相原コージ氏も観劇。この場にいられることの幸福。原作の素晴らしさを逐一確認していくような作品で、ファンフィルムを観ているような気分。これ当時、毎週『スピリッツ』を楽しみに読んでいた連中は観た方がいい。『とんち番長』が観れるだけで充分。
開演前SEは何故か、RCの『COVERS』が延々流される。主演・竹熊健太郎役のコウガシノブ氏がいい。ド迫力の顔芸、「俺を描け~!」のパンイチ・ポーズ、目が常に血走っていて、「ちんぴょろすぽーん」ポーズのキレもいい。相原弘治役の錦織純平氏もいい表情、もっと頭を抱えてゴロゴロ床を転げ回って欲しかったか。とんち番長役は栗原卓也氏、一休役はアモーレ橋本氏、彦一役はドロンズ石本氏、吉四六役は佐野寛大(かんだい)氏。紅一点のヒロイン役は杏さゆりさん。何役もこなす大忙しの青地洋氏。元力士の両國宏氏が辮髪(べんぱつ)姿で、担当編集者・佐藤治役を見事に再現。これを大真面目にやってくれるだけでリスペクト。編集長白井勝也役と意味なし番長役の石橋保氏。役者の無駄遣い感が心地良い。
原作ファンならずっとニヤニヤしていられる。会場で一番受けていたのは吉四六の決め台詞「もう警察に任せた方がいい」で、どっと沸く。自分の作品に笑う竹熊健太郎氏を横目で眺めながら、ファン冥利に尽きるひととき。未だに『サルまん』以上のギャグ漫画は登場していない。リアルタイムで読めたのは幸運だった。

ネタバレBOX

当時、電車の中で堪え切れずに吹き出したオクラホマ美樹子のエピソードも入っている。編集者のちょっとした指摘に突然ブチ切れ「そこが一番描きたかったのに〜!!」と手首をカッターで切り裂き自殺を図るエピソード。あの伝説の毒電波ネタも再現、ファン感涙だ。
青空のぼるを登場させなかったのは残念極まりない。時間的に切ったのだろうがかなり重要なキャラクター。
杏里調に作られた『とんち番長』のあのアニメ主題歌を歌う杏さゆりさん、バックでメンバーがパラパラを踊るのも良い。アモーレ橋本氏は一休役として最高のキャスティング。
敢えて文句を付けるなら、再現だけじゃなく客席の観客を爆笑させる演劇的アレンジが欲しかった。もう少し工夫すれば幾らでも面白くなりそう。意味なし番長の巨大化から、とんち番長を呑み込むシーンは何とか映像化して欲しかった。

ラスト、全てを失ってホームレス生活の二人。やっと正気に返った竹熊に相原は言う。「漫画も表現の規制化が厳しくなって、もうダメな産業になってしまったんだ。」竹熊はそんな相原に檄を飛ばす。「馬鹿野郎!そんな時こそ”とんち“が物を言うんじゃないか!規制が厳しくなった状況でこそ、読者は真に面白い漫画に餓えている筈だ!」
『サルまん』で希望を見せられるとは見事なラスト。

『ムジナ』も無駄に金を掛けた2.5次元舞台化を切に望む。
人間讃歌

人間讃歌

エンパシィ

スタジオ空洞(東京都)

2021/12/14 (火) ~ 2021/12/16 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演劇好きな人間には大好物、涎を垂らすような御馳走。稽古場にパイプ椅子を二列並べたような会場。舞台セットはDIY感漂う裸の木材の建前、実に良く出来ている。すぐ目の前で繰り広げられる取っ組み合いや集団演舞。これだけ近くに囲まれていたら、役者もやりにくかっただろうに。プロのダンサーでもある引間文佳(ひきまあやか)さんの舞踏が爆発的で、この狭い空間をズタズタに切り裂いてみせた。余りの激しさに履いていたパンプスのソールが剝がれてしまう程。(後半は裸足で熱演)。
岸田國士(くにお)の短編戯曲三本を交互にシャッフルしザッピングするように送る。岸田國士は名前しか知らなかったがかなり面白い。何か既視感を感じ調べてみたら、成瀬巳喜男の『驟雨』が岸田戯曲を組み合わせたものだった。この感じ、確かに成瀬巳喜男だ。磯部莉菜子さんが借りてきた戯曲集をベンチで朗読していく内に作品世界にのめり込んでいく構成になっている。

A 命を弄ぶ男ふたり
夜、線路を見下ろす土手で自殺の為、汽車を待つ男。そこに現れる顔中に包帯を巻いた男。
B 恋愛恐怖病
夕暮れ時、海を見下ろす小高い砂丘の上で腰を下ろしている男女二人。ツンデレ会話のような互いの本音の探り合いが続く。突如『Let It Go(ありのままで)』が炸裂する異色の演出。
C 屋上庭園
デパートの屋上庭園で、久方振りに偶然再会した男二人。どちらも奥さんを連れている。一人は裕福そうで、一人は見窄らしそうにも見える。

全ての話に共通するのは上下関係である。マウントの取り合いとも言えるが、どちらも互いの投影するイメージに対しての優劣に異常に拘り抜く。死ぬことよりも自分を見透かされることに非常に怯えている。岸田國士は人間のそんな奇妙な習性が面白くて仕方がなかったのだろう。
もっと大きな会場で沢山の観客に味わわせるべき作品。このような試みを是非続けて頂きたい。演出の三上陽永氏はセンスがある。
勿論出演する全ての役者が素晴らしいのだが、個人的MVPは『屋上庭園』の裕福な友人役、久保貫太郎氏。この役を説得力のある、胸を震わす友人へと見事に昇華してみせた。『命を弄ぶ男ふたり』の包帯男役、中田春介氏は眼と口だけしか見えない容貌で、声という武器を駆使してこの奇妙な男の存在にリアリティーを乗せた。

ネタバレBOX

A①
B①
C①
A②
C②
B②
A③

映画っぽい構成で、森田芳光作品を連想。
A①の後、引間文佳さんのコンテンポラリー・ダンスが突如始まる。オープニングとして出演者一同踊り狂うのだが、『命を弄ぶ男ふたり』の串田十二夜(じゅうにや)氏の肉体美ダンスも魅力的。『恋愛恐怖病』は夏目漱石っぽい登場人物で、『それから』を意識させる。好きな女をわざと振って、他の男のものとなった彼女のことを独り想うラスト。(演出次第で解釈も変わる)。『屋上庭園』の二人の妻、今泉舞さんと伊藤麗さんの出番が驚く程少なすぎる。何て贅沢な使い方をすることか。

物語としてのテキレジは『命を弄ぶ男ふたり』のラストのみ。包帯をした男が自ら包帯を外すと、顔に何一つ火傷の痕などない。「なあ」と、眼鏡をかけた男に声を掛け一緒に去って行く。いろんな解釈が可能だが、これは蛇足だったような。
そっと左手を添えてお釣りをくれるかわいいコンビニ店員野沢菜菜さんとの秘密の出来事・in・ブルー

そっと左手を添えてお釣りをくれるかわいいコンビニ店員野沢菜菜さんとの秘密の出来事・in・ブルー

イチニノ

小劇場 楽園(東京都)

2021/12/11 (土) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

タイトルのイメージから楽しいラブコメを想像していたのだが、社会に適応しているよう必死に見せかけた、社会不適合者の「心の旅―地獄篇―」だった。当日配布パンフがオールカラーで凄い出来。舞台は角に柱を挟んで、L字型二面に客席を配置する為、重要な場面の時はどちらにも見えるよう役者が配慮してくるくるくるくる回ってくれた。物凄い台詞の量、主演の大図愛さんと佐藤ホームラン氏にリスペクト。2回の公演の為とは思えない熱量。

高校教師の佐藤氏はコンビニの女子高生店員、大図愛さんがお釣りを渡す度に毎回手を触れてくれることが気になって仕方ない。自分にだけなのか?誰にでもなのか?妄想が妄想を呼び、到頭デートに誘ってしまう。

「ガトーフロマージュ」がこの世界を脱出するキーワードで、廃線寸前の心の列車に乗って、終点の何駅か先まで進まなくてはならない。二人の心の牢獄に棲み着いた“あおい”(梅木彩羽〈いろは〉さん)。彼女(彼)への贖罪から、心に蓋をして生きていくことを決めた過去。大図愛さんがうまく説明出来ないオリジナルな魅力に溢れていて、痛みが生々しい。生活の手触り、体臭、寝癖、服の皺、余りに現実であり過ぎて御伽話には成り得ない話。二人のデートシーンの演出がエレクトリカルパレードみたいで楽しい。脇を固める通行人のような役者陣がいい仕事をしてくれる。

ネタバレBOX

世界を変えられたかも知れない。自分を変えられたかも知れない。ずっと逡巡してずっと自問自答し続ける。自分が本当に望んだのなら。自分が本当に望んでいたのなら。自分が本当に望みさえしたならば···。

本当にこんな舞台だった。超満員の観客、大図愛さんへのファン一同からの巨大なスタンド花。

おっさんを救済するのは美少女との恋愛だけなのか?おばちゃんが美少年に救済される話は何で無いのか?(ホストクラブになるから?)。昔、小林よしのりが「この国は『恋愛真理教』に支配されている」と描いた。「しかもそれは資本主義の論理に則って、計画的に誘導されている」と。(恋愛以外に価値のあるものはないように大衆に刷り込んでいる)。この仕組まれた支配構造を破壊するような発想に期待。
溺れるように走る街

溺れるように走る街

吉祥寺GORILLA

劇場HOPE(東京都)

2021/12/09 (木) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

チラシと配布パンフの写真のセンスが良い。その辺で撮ってもこんな風に切り取れるものだ。色彩の使い方が上手なのか。
お笑いコンビ「ダブルマインド」のボケ役、川上献心氏が巧い。本職のような口調、テンポ、ノリ、全く違和感が湧かない。ツッコミ役、平井泰成氏はいつもながら観客を内面へと引き込んでいく。この役者は私小説みたいな存在で、ふと気が付くと没入して深く読み込んでいる自分に気付く。稀有な存在。「ダブルマインド」のネタが観たかった。
ラジオ番組のブースがメインなのだが、舞台美術も小道具も本当に良く出来ている、ディレクター役岡野優介氏の表情やジェスチャー、構成作家役魔都氏の風貌、まさに皆が思い描くラジオの世界だ。作者は本当にラジオが好きなんだろうなあ。インターネットが無い時代、TVではやれない笑いが深夜ラジオには満載だった。
売れない芸人ラクーダ矢野役ヨシケン改氏も本物。「さんまのお笑い向上委員会」に出てそう。

コンビ解散を切り出した平井泰成氏、マネージャーは病気休養という事にして休ませる。レギュラーのラジオ番組は川上献心氏が一人で何とか切り盛りする。そのラジオを姉に薦められてずっと聴いていた女子大生(山下真帆さん)、大ファンのハガキ職人(榎本悟氏)等の人生模様。ラジオ収録場面はかなり面白い。

ネタバレBOX

平井氏が解散を決めた理由も「何となく」なら、もう一度やろうと思ったのも「何となく」。まあリアルっちゃあリアルなんだが、街なかに流れているよくある曲のように聴き流されてしまうだけ。とにかく何かが足りない。(劇中では「ピンの方が相方が売れると思うから」となっているが、それが本気ならもう一度やる訳がない)。
姉の脳梗塞に自分の責任を感じて、見舞いにもいけない女子大生。番組の最終回、姉が送ったハガキが読まれる。そのメッセージを受けて、病院に姉に会いに行くのがラスト。これも女子大生の気持ちに感情移入出来ない。
誰も傷付けない優しさに溢れた世界で「何となく」悲しかったり、「何となく」嬉しかったり。
前半が面白かっただけに、後半の無理矢理ドラマっぷりに違和感。番組を去った後の平井氏の内面こそ描くべき部分。
ぶっかぶか

ぶっかぶか

ここ風

シアター711(東京都)

2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

メチャクチャ面白い。超満員の客席、高いリピート率、もっと大きな箱でやっても良いのでは。口コミの熱気に嘘が無く書かれた言葉の通り、喜劇としてもかなり笑える。登場人物一人一人のキャラへの描き込みが半端なく、普通の舞台なら「この人主演で一本行ける」ネタを惜しげもなく何本もぶち込んでいる。帰り道、観客達の幸福な会話が下北に溢れ返る光景。「舞台って面白いなあ」としみじみする。
タイトルの『ぶっかぶか』とは、サイズの合わない大きすぎる外的自己を押し付けられてどんどんストレスが溜まっていく内的自己のことであろう。

舞台は妹夫婦の経営する小さなペンション、そこに居座る兄のエピソードからスタート。兄・牧野耕治氏は西田良や郷鍈治を思わせる強烈な風貌、ズカズカ無神経に振舞う口上は近田春夫を思わせる。妹夫婦は矢鱈巨大な香月健志(かつきたけし)氏と本格的なカーフキックを見せる天野弘愛(ひろえ)さん。兄と妹夫婦の遣り取りがモロ『男はつらいよ』で、「この駄目な兄の話だな」と思わせるが実は全然違う。そこを訪れる宿泊客達の抱えるエピソードは予想もつかない突拍子のないものばかり。圧倒されつつ、人の想いの織り成す不思議なハーモニーにじんわり浸されていく。

漂泊民、三谷健秀(たけひで)氏のキャラは一本の映画のようで、よくもこんな人物を創造出来たものだ。日本人離れした雰囲気は外人が演じているのか?とも思った程。浅井健一の詩のような人物像。

ネタバレBOX

牧野氏の催眠術動画をYouTubeでたまたま観た、物置会社の社長(斉藤太一氏)がおかしくなってしまう。心配した兄(後藤英樹氏)が牧野氏の居場所を突き止め、弟を連れて会いに来る。
実はこれは逃げられた女房に向けて撮った動画で、「催眠を解く」ことを伝える内容。(プロポーズの時、照れ隠しで「俺と結婚したくなる」と催眠術をかける真似をし、女房はかかった振りをした)。離婚届を置いていなくなった女房に、「催眠術を解いたから自由になっていいよ」と伝える為の動画が、偶然斉藤氏の潜在意識に反応し彼を外的自己から自由にしてしまったのだ。斉藤氏の時折狂い出す(”世界のナベアツ“風味)シリアスな演技に必死に笑いを堪える面々の顔。宅麻伸に似た後藤氏。斉藤氏と後藤氏の愛憎入り混じった兄弟の物語も胸を打つ。

余談だが黒沢清の傑作『CURE』は萩原聖人が人々にストレスから解放する催眠をかけて回る話。かけられた人々はストレスの要因を殺し、救済(CURE)に至る。人によってその要因が愛する家族だったりするところが黒沢清の鬼才たる所以。

クライマックス、ペンション夫婦の妹、斉藤ゆきさんとその亡き親友の双子の姉(はぎこさん)との対話は名シーンに。親友は一年前、社員旅行の火事で焼死し斉藤さんは会社を辞めた。妹が命を懸けて助けたかった友達に興味を持ち、独り墓参りする斉藤さんを墓地からずっとペンションまでつけてきてしまう姉。妹とその友達が二人で見上げた満天の星空。姉は全てを理解し帰っていく。複雑な感情を丁寧に重ねた斉藤ゆきさんの名演。彼女にかなり見覚えがあるのだが思い出せなかった。

作・演出で1シーンだけ登場(助六を食うだけ)の霧島ロック氏。才能に溢れた巧い脚本、見事。
帝国月光写真館

帝国月光写真館

流山児★事務所

ザ・スズナリ(東京都)

2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

少年探偵団の小林少年を思わせる主人公、山丸莉菜さんは躍動的でその姿をずっと観ていられる。
支那事変から太平洋戦争へと戦火が拡大していく昭和初期。婦女子を拐う「怪人紅マント」の噂で町中に不安が広がっていた。公園にやって来る紙芝居屋が繰り広げるのはエログロ風味の「紅マント」のお話で、集まった子供達は水飴をしゃぶりながらその顛末に恐れ慄く。
プロローグとエピローグで語られる女学生による三原山火口投身自殺事件。彼女が死の間際、最期に見たいものは「支那上海の阿片窟」で、「はないちもんめ」と「かごめかごめ」が効果的に歌われる。彼女は誰にも必要とされていない自分を殺し、誰かに必要とされる自分に生まれ変わることを望んだ。
皆、誰かの妄想の中に棲み着いていて、更にそこでいつも何かを妄想し続けているような世界。その漆黒の闇の中に差す一筋の月光、山丸莉菜さん扮する少年の真っ直ぐな情熱は迷いがなく清い。

ネタバレBOX

「どちらの夢が値が高い?どちらの夢が値が高い?」
冒頭自殺する少女は「生まれつき醜く太っていた為、皆に嫌われて育ったが、死を決意したその日から不思議とどんどん痩せていった」と語る。ワンシーンだけの登場ながら、演じた竹本優希さんが作品全体を覆う旋律として矢鱈と印象に残る。(巫女役としても出演)。

今作のモデルとなった事件が報道されてから、その年だけで129人(未遂者も含めて944人との説もあるが···)が三原山火口に投身自殺している。「怪奇赤マント」の噂も東名阪の子供達を中心に異常に広まっていった。集合無意識かシンクロニシティか、時代は群衆を一個の不安神経症患者へと統合していく。

高取英の作風は多分意図的に書き割りのコスプレのようなキャラクターが配されているのだろう。憲兵隊、呪術教団真理支教、謎の研究所、二重スパイ、帝国月光写真館、幻視複製機···。個々の実存感はなく纏ったイメージだけがひらひらする亡霊のよう。唐十郎のような郷愁感の強い設定、クライマックスではつかこうへいっぽい“言葉”が意味を喪失し引っ繰り返り続ける言語ゲーム感。好き嫌いはかなり分かれる所で、自分はもっと気の滅入る重い物語の方が好み。
ダウト 〜疑いについての寓話

ダウト 〜疑いについての寓話

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2021/11/29 (月) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2回目。
観客の期待と熱気、口コミでどんどん盛り上がっていく正しい演劇ムーブメント。感謝。

ネタバレBOX

亀田佳明氏がどんどん魅力的に見えてくる。背を丸めて手帳に字をクチャクチャと書き込む姿。伊勢佳世さんとの夕暮れの中庭、ベンチでのシーンは美しい。『シスの復讐』のアナキン・スカイウォーカーのようだ。オレンジ色に世界は染まりカラスはカアカアと鳴き続けている。

津田真澄さんの語る世界観人生観、そこから得た哲学が凄まじい。圧倒される。「貴方はお知りにならないでしょうが、それが世界なんです。」「卒業したらここであったいい事だけを持って行き、嫌な事は全てここに置いていくんです。息子にはそう教えました。」

伊勢佳世さんのリアクションが少々オーバー気味か。余りに技巧派すぎて何をしても計算尽くに見えてしまう。ちょっと頭の悪そうな、抜けている天然女性のぼんやりとした目線が、二人の対決を見守る観客の目線とリンクしなければならない。映画版でこの役を演ったエイミー・アダムスはメリル・ストリープとフィリップ・シーモア・ホフマンという化物に挟まれて「ずっと吐きそうだった」と語った。那須佐代子さんと亀田佳明氏の人生を賭けた対決も、彼女からすれば余り興味の持てないどうでもいいことだったりする。そこがいいのだ。

亀田佳明氏の目線から今作を紐解くと、当時はタブー視された同性愛者の物語とも取れる。同性愛者である事を肯定し、聖職者として隠しながら、同じ苦しみを抱えた少年にシンパシーを感じている。今となっては病気でも異常でもない、尊重されるべき一つの生き方だが、当時は時代が悪すぎて、忌むべき犯罪者のように扱われてしまった。そう読み取るとこの物語は更に混迷を深める。「言えないこともあるんです!全てを口に出せるとは思わないで欲しい!」

ラストの那須佐代子さんの表情。

原作者ジョン・パトリック・シャンリィ(映画版の監督も務めた)はこの作品を書く切っ掛けとなったのは「911後のアメリカを包んだ異常な空気だ」と語った。意図したものは勧善懲悪のスッキリとした物語ではない。登場人物も観客も誰一人スッキリはさせず、もやもやを抱えたまま帰途につかせる作品。ジョン・ゲーガン神父の児童性的虐待事件はモチーフに過ぎないのでは。
みんなしねばいいのにII

みんなしねばいいのにII

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2021/11/26 (金) ~ 2021/12/07 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ヒロインの看護師役清水緑さんがえらくアイドル顔。たかみなに水島裕子と池脇千鶴を足したような雰囲気。「へえ、こんな娘いたんだ」と思ったらイキウメの『外の道』にも出ていた。「ちょちょちょちょ」「ムリムリムリムリ」。
ヒロインの死んだ母親役小瀧万梨子(こたきまりこ)さん、マンションの天井裏に幽霊として棲み着き、いつもニコニコしながら毛糸で編み物をしている。
ファミマの店員役、伊藤毅氏はリアルな狂気。多分誰もが思い当たる日常生活に順応しながら確実に狂っている奴を的確に表現。異常にナースに執着している。

舞台は女性入居限定のマンション、その近くのファミマ。何故かハロウィンが終わらず、延々と規模を拡大して続いている。コスプレ警官や医療従事者、血塗れの人々が路上に溢れ返り、本当だか嘘だか判らない騒乱が繰り広げられている。マンションでは心霊現象が続き、そこの三部屋にそれぞれ住む女性のエピソードが語られる。それぞれのキャラクターが魅力的なのでずっと観ていられる。

ネタバレBOX

開演前SEのセンスが良い。アンニュイ・ポップな雰囲気。小瀧さんが歌う「心底心底お前に惚れた」もラストの『サニー』も決まる。

設定は多分『パージ』シリーズを意識しているのでは。年に一晩だけ全ての犯罪が合法化される「パージ(浄化)」の日。ありとあらゆる鬱憤を晴らす為、暴徒化する群衆は店を襲撃し気に入らない奴を殺し、快楽と欲望の限りを尽くす。

ラストが何か物足りない。これでは店員のストーカー話になってしまう。幡美優(はんみゅう)さんの膨れたお腹から何が産まれるのか?三池崇史の『牛頭』では吉野きみ佳が哀川翔を出産するのがオチ。何かしら期待していた。
飛ぶ太陽

飛ぶ太陽

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2021/11/26 (金) ~ 2021/12/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

この作品を観れたことに素直に感謝。ここまで真剣に物作りをしている人達と相対すると、こっちも真剣に向き合わざるを得ない。鈴木めぐみさんにやられ、とことん泣かされた。取材を重ねた上での脚本の苦悩が如実に感じ取れる。書いては消し、書いては消しを繰り返したボロボロの原稿用紙。もうこれ以上、何も消せないし記せない。そこで生まれたであろう台詞、「生きることは戦いである。決して勝つことのない戦い。負けて負けて負けて、昨日も生きた、今日も生きた、明日も生きるだろう。」
地獄巡りの果てに一体何があると言うのか?きっと何もないのだろう。ただ今日一日を生きるのみ。

昭和20年11月12日午後5時19分、二又トンネル爆発事故発生。(実際は午後5時20分)。山が跡形も無く吹っ飛ぶ大爆発で死者147人、負傷者149人、町は地獄絵図と化した。

主人公、復員してきたばかりの青年吉田知生(ともき)氏。徴兵された軍隊で徹底的に虐められ、弱い自分に育てた母を憎んでいた。女手一つで育ててきたその母、行商人の鈴木めぐみさん。無学、無教養、常に他人の顔色を伺い媚びへつらう弱者。彼にはそれが許せなかった。同じく行商人の板垣桃子さんは両親を早くに亡くし、妹を自分が育てた。病気がちな妹、小学校の女教師の宮地真緒さん。

オープニング12分から舞台が爆発する。

ネタバレBOX

吉田氏は全身バラバラに吹っ飛び肉体は四散した。息子の身体を掻き集めようと鈴木めぐみさんは手を伸ばすのだが、その両腕はもぎ取られていた。生き延びた鈴木めぐみさんは退院後自殺しようとする。「手がないとうんこしても尻も拭けない。迷惑をかけたくない。人に拭いて貰うのは嫌だ。見られることが恥ずかしい。」行商人仲間の川原洋子さんは叫ぶ。「全然迷惑なんかじゃないよ。私はトワさんのお尻が大好きだよ。」

吉田氏は死後の世界でも苦しみ抜く。「死んだら安らかに眠れるなんて嘘だ。ずっと悔いて苦しみ続けるだけだ。」母に投げかけた罵声の痛み、本当に自分のことを大事に思ってくれたのは母親だけだったのに。
病気の自分の為にどんぐりを集めようとしてくれていた小学生29人が爆死。宮地真緒さんは精神を病み、奇行の果てに死んでいく。ほとほとその対応に疲れ果てていた板垣桃子さんは、妹の死にほっとする。

ラスト、妄想の過去の世界で復員してきた吉田氏が駅のベンチに座っている場面が繰り返される。宮地真緒さんがお握りを勧め板垣桃子さんが彼の素性に思い当たる。彼は笑顔で「そうです。母のもとに帰って来ました!」と挨拶。その場に迎えに来る鈴木めぐみさんの満面の笑顔。

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