宇宙の旅、セミが鳴いて 公演情報 劇団道学先生「宇宙の旅、セミが鳴いて」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白さは保証付き。演劇好きなら一度は観ておきたい演目。役者の厚みが凄い。只々感心。

    未来、地球は食糧難に喘ぎ、宇宙ステーションで栽培した野菜を宇宙船で運搬している。日本の民間企業が運営しているその船内が舞台。もうすぐ地球に到着する頃合い、微妙なトラブルが頻発する。
    船長(佐藤正和氏)は調理師(稲葉佳那子さん)にキツく当たる。味の濃さ、メニューのマンネリ、野菜の量・・・、延々と因縁をつけては便所掃除の罰。不条理なハラスメントに船内クルーも呆れる始末。
    クルーの数名にアトピーや水虫が発生。チャラい医師(速水映人氏)は「大丈夫大丈夫、気の持ちよう。」と意に介さない。納得がいかない潔癖症の女医(鈴木結里さん)。
    野菜生産技術者の三人姉妹(尾身美詞〈みのり〉さん、浅野千鶴さん、月海舞由〈つきみまゆ〉さん)とその弟(川合耀祐〈ようすけ〉氏)。父親に愛されたかった心の空洞を抱えるアダルト・チルドレン、弟への過剰な干渉に繋がるようだ。弟は野菜以外にも隠れて花を育てている。
    ナルシシストの操縦士(青木友哉氏)は美形の会計・庶務職員(中村中さん)をひたすら口説き続けている。
    エンジニア(本間剛〈つよし〉氏)は神父の資格を持っており、個人的にミサを行ない、心の平安を説こうと努める。

    日本人版『インターステラー』の趣き。萩尾望都なのか竹宮惠子なのか少女漫画家目線からの本格SFのよう。何故、蝉はあんなに激しく鳴くのか?木の枝に産み付けられた卵は1年掛けて脱皮し幼虫となり地中に潜る。5年程地中に籠もり、木の根の汁を吸ってじっと生き延びる。夏のある日、樹に上りゆっくりと羽化する。成虫、蝉として数週間飛び回り繁殖行動を遂行。激しく鳴いて死んでいく。本能の赴くままに、DNAのプログラミング通りに。

    凄くふざけたコメディで有りつつ、人間という種の本質を語らんともする。どうにも上手く言語化出来ない、否が応にも死を突き付けられないと直視出来ない“生”がある。もしかしたら皆早く死にたかったのかも知れない。

    佐藤正和氏は『父と暮せば』の印象が強かったが今回もまた素晴らしい。妙に赤ら顔なのは演出なのか?
    稲葉佳那子さんは中村玉緒の若い頃と高橋尚子を足したような和風美人。今作のキャラでは藤田紀子っぽさも思わせる。全く内面が読み取れない。
    月海舞由さんは『カムカムバイバイ』のイメージが強烈だった。ラストに泣かせる。

    衣装(担当は石川俊一氏)の制服が秀逸。水兵の襟にネクタイの付いたジャージ。黒のスキニーパンツで女性陣の美脚を強調。脚で選んだのか?と思う程皆細かった。スニーカーは韓国のfashionのハイカット、白黒ツートーン。

    ネタバレBOX

    黒澤明のデビュー作、『姿三四郎』。柔道家・矢野正五郎の弟子になり、最強の名を売る為に町で喧嘩を重ねる姿三四郎。その高慢さに我慢がならなくなった師匠は破門を言い渡す。師匠の名を高める為にしたことなのに、ショックを受けた三四郎は庭の池に飛び込んで意地でも出て行かない。満月が輝く真夜中の池に浸かりガタガタ震える三四郎。ゆっくりと長い夜が明けていく。それと共に泥の池から蓮の花が咲く様を目の当たりに。その余りにも筆舌に尽くし難い美しさに涙する三四郎。強さには美しさが求められ、己にはそれが欠けていたこと。この理屈ではない、本能的にインプットされている美しさとは一体何なんだ?

    『インターステラー』は滅びんとする人類をどうにか救おうとする話。その根幹にあるのは人が人に想う愛情。その気持ちは時空を超えて目に見えぬ力となって働き、必ず相手に伝わっていく。理屈を超えた、それこそが人類の最大の力だと語る映画。

    稲葉佳那子さんが船長の歪んだ愛情表現に気付き、それを受け止める為に航路の軌道を変え、通信機を破壊。地球に帰還したら、この愛が終わってしまうから。全くの狂気。
    船長は故意か過失か、燃料を全て宇宙に捨ててしまう。愛を成立させる為の心中なのか?

    この辺の描写が自然ではなく、違和感を感じる観客も多いことだろう。テロ的に道連れにされる他のクルーが怒り狂わないのもおかしい。皆、すんなりと死を受け入れる。まるで初めから死にたかったように。
    いろいろと文句はあるが、それでも魅力的な作品。一人だけ死にたくなくて泣き叫ぶ奴が欲しかった。

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    2023/05/22 20:55

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