ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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高円寺が踊る

高円寺が踊る

東京高円寺阿波おどり演劇公演

座・高円寺1(東京都)

2022/10/13 (木) ~ 2022/10/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

素晴らしい。これを無料で観れたなんて杉並区は太っ腹。阿波おどりにも高円寺にも何の思い入れもなかったが、ラストは郷愁たっぷりに見入った。池亀三太氏は流石の仕事をした。記憶の断片が降り注ぐ中、優しかった人、あたたかかった人の温もりだけが胸を衝く。

1957年、高円寺を盛り上げる記念行事の企画会議。自転車屋の銀次郎(中島多朗氏)が中心となって、踊りながら通りを練り歩く徳島名物の阿波おどりを開催することに。行きつけの居酒屋の娘、智恵子(松本みゆきさん)への秘めた想い。回を重ねる毎にどんどん盛り上がっていく『高円寺阿波おどり』。遂には海外のイベントにも招聘され、国を代表する民族舞踊として世界的評価を得るまでになる。昭和平成令和、一家三代の高円寺物語。

ネタバレBOX

銀次郎と智恵子は結ばれ、将太(あらおえみりさん)と葉子(小久音さん)が誕生。中三の将太は父親に抗い子供の頃からやっていた阿波おどりを拒否する。

京都の大学に行き、そのまま就職した将太(日下諭氏)は八ツ橋をメインとする和菓子屋の娘、百合(中坂弥樹〈みき〉さん)と結婚することに。久方振りに実家に帰省し、銀次郎(伊藤嘉信氏)、智恵子(やすみきよこさん)に紹介。そこで離れて初めて分かる、阿波おどりへの愛着を自覚。

結婚し高円寺に帰った将太と百合、麻美(小池舞さん)と久美(樋口双葉さん)を授かる。だが百合は思わぬ病で早逝。銀次郎も老衰で世を去る。
銀次郎の葬儀の後、智恵子が麻美に思い出話をするところから舞台は開幕。

ラストは現在、軽い認知症に陥った智恵子(やすみきよこさん)は若い頃の自分(松本みゆきさん)と会話をしている。数々の胸に刻まれたシーン、シーンが再現されていく。記憶の雨に打たれて立ち尽くす智恵子と観客。そこに本物の『高円寺阿波おどり』の一団が踊り始める。「楽しかったなあ。退屈なんてすることはなかった。」と笑顔。
ぴえろ

ぴえろ

タクフェス

サンシャイン劇場(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

前作でも思ったが、客いじりとサービスが尋常じゃない。ガチで観客に感謝して舞台を制作している。本気度に心から感心する。「そこまでしなくても」と客側が恐縮する程に。
駅前で『顕正会』の婆さんが横断歩道に立ち、通る人全員に「有難うございます」と朝から頭を垂れている姿を重ねた。まるで『法華経』の常不軽菩薩を目指しているが如く。
生の舞台の面白さを啓蒙しているような劇団。小学生の子供達が家族で毎年楽しみに来ている物凄さ。

蔵前の寿司屋に盗みに入った二人組、突然バットで殴られて気を失う。目を覚ますと自分の歓迎パーティー。どうやら他の誰かと勘違いされているらしい。何となく話を合わせてずらかる算段を講じるが・・・。

登場人物のキャラが立っていて面白い。大衆演劇の中にかなり捻った工夫が練り込まれている。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

宅間孝行氏(二役)は喋りは宮迫調、役柄は三又又三っぽい。悪党キャラをやる時の右手の震えなんかが効いている。
佐野和真氏はカッコイイが、キャラの立ちがイマイチで勿体無い。
浜谷健司氏(二役)は巧い。お笑いの強み、客席の空気感を鷲掴み。
柴田理恵さんとモト冬樹氏は返しの一言で必ずどっと笑わせる。柴田理恵さんの会場人気は凄かった。
鈴木紗理奈さんはいつも通り、そのまんま。
太田奈緒さん(二役)も彼女だと気付かない程、弾けていた。元NMBの誰かだと思っていた。口上が吉本新喜劇っぽい。
竹内茉音(まりん)さんは健康的で手足が長い。
三戸なつめさんの可愛いオーラが凄かった。

風鈴のオチが分かりにくい。本当に数億円の価値があるのか?YouTubeのスピンオフを観ないと分からないのか。

井上ひさしの『雨』と同じく、間違われた男を演じていく内にそこに生き甲斐を感じていくドラマ。他人の望む誰かを演じる過程で自身の心境にも変化が。人は他人の為にだったら変わることが出来る。(本来の自分を表現出来る?)

もう少し粘れば大傑作になった可能性が残るプロット。ありきたりのネタだが勿体無さが残る。話の畳み方を逡巡して明らかに間違えている。誰を主人公として捉えるか、の話。秋子か春子か沢木かテルか?実はヤス目線が正しい気も。先にヤスが仕掛けに気付いておきながら知らん振りしている方法もあった。

島倉千代子『愛のさざなみ』
クランク・イン!

クランク・イン!

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ゴダールの『軽蔑』を思わせる雰囲気。全編秋山菜津子さんの独壇場。彼女の羽田ゆずるという役名は羽生結弦を連想せずにはいられない(何の関係もないが)。秋山菜津子さんの独り芝居でも成立したであろう世界。彼女の静かなる狂気が美しく奏でられ観客はその世界に浸されていく。
『プラトーン』で有名なサミュエル・バーバー作曲の『弦楽のためのアダージョ』に似た曲が流れ、厭世的な空気を醸成。
香り高き素材だけを並べ、観客の想像力を刺激していく作劇。調理は頭の中で個々に為されなければならない。

主演女優の事故死によって撮影が中止された映画。相手役の秋山菜津子さんを主演に脚本を弄り直し、後はクランク・インを待つばかり。監督(眞島秀和氏)はもてもてで家庭を持ちながらも次々に女優に手を出す女にだらしない昭和型。秋山菜津子さんがくどくど脚本にクレームを付ける為、一向に撮影は始まらない。暇を持て余した女優やマネージャー達はペンションのような宿舎で愚痴を零し噂話を立てる。そんな中、大部屋女優の吉高由里子さんがふらりと顔を見せる。

ネタバレBOX

鈴木清順的な話かと思ったら、そうでもない。類型的な撮影所話なのは勿体無い。石橋穂乃香さんに多大に期待していたのだが、あんまり上手くいっていない。始めはスタッフなのか女優なのかよく分からなかった。吉高由里子さんや富山えり子さんを見下したスタンスの方が判り易い。

全て秋山菜津子さんの妄想だった位が丁度いい。
吉高由里子さんが捲し立てると、坂下千里子に似ている。
「カレル・チャペック〜水の足音〜」

「カレル・チャペック〜水の足音〜」

劇団印象-indian elephant-

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

死ぬ程面白い。本当に才気が実体化して見える位に圧倒された。チェコの国民的作家であり、SFの礎(日本だと手塚治虫だろう)、カレル・チャペックの18年間の物語。これが何の前知識も必要ない位、面白いドラマに。天才的なシナリオ。
第二次大戦前夜、ナチス・ドイツに併合される前のチェコスロバキア共和国が舞台。誰もがウクライナとロシアを連想せずにはいられない。
シリアスとコミカルのバランスが絶妙で、あれよあれよと言う間に彼等の織り成す人間模様に夢中。
役者陣の配役はズバリ。一人ひとりの内面まで投影したかのよう。

身体の弱い劇作家カレル・チャペック役は二條正士氏。加瀬亮似で格好好くコミカル。
カレルの永遠のマドンナ、野心に燃える女優・オルガ役は今泉舞さん。今回もまた素晴らしい。この人一人である女性の半生の抒情詩を謳い上げてくれる。
同居しているカレルの兄、画家のヨゼフ役は根本大介氏。天才で世界中に名を馳せていく弟への嫉妬心に苛まれる。後にアンネ・フランクと同じナチスの強制収容所で獄死。
ヨゼフの妻、翻訳家のヤルミラ役は岡崎さつきさん。これがまた巧い。複雑な内面を顔の細かな表情で客席に伝える。
その娘、アレナ役は山村茉梨乃さん。赤ん坊から少女まで時の経過を感じさせる。
カレルの親友、軍医で作家のランゲル役は岡田篤弥氏。ハナコの菊田竜大(たつひろ)似。銃を取らざるを得ないユダヤ人の葛藤。
チェコスロバキア共和国の初代大統領で現在も紙幣になる程の国民的英雄・トマーシュ・マサリク役は井上一馬氏。一際重厚で作品の格調を高める。
その息子の外交官、ヤン役は柳内(やない)佑介氏。オルガの恋人でもある。
そして作品の鍵を握る謎のドイツ系女教師ギルベアタ・ゼリガー役は勝田智子さん。彼女の登場で作品世界は不安と妄想と幻影と恐怖に蝕まれていく。

クローネンバーグやテリー・ギリアム、ティム・バートン作品を思わせる不安神経症のヴィジュアル化。カレル・チャペック自身が己の作品内に引きずり込まれていくような不安。何処からともなくピタピタと迫り来る“水の足音“。
絶対に観ておいた方が良い作品。

ネタバレBOX

クライマックス、カレル・チャペックが銃を取った後のオルガとの遣り取りが必見。戦争(暴力)が人を変えていく様をまざまざと見せつけられる。『母 MATKA』の引用。

ガスマスクの山椒魚は石井聰亙っぽいヴィジュアル。近付いてくる“水の足音”の正体は未来の死者達の泣き声。勇壮なスローガンに騙されて何の意味もなく死んでいく、顔を失くした人々。
ラストの感じがあんまり好きじゃない。無理に現在に話を繋げる必要はないのでは。観終わった後、個々の観客が思い巡らせるべき余白の部分。

今作とは関係ない話だが、ラストが現実の政治問題に繋がる作品を多々観てきたが、虚構の無限性を現実に落とし込む為に矮小化したようで白けるばかり。
ウクライナの人々にどんな演劇を観せてもナンセンスだろう。突き付けられた暴力の前で選択肢などないのだから。
きっとこれもリハーサル

きっとこれもリハーサル

エイベックス・エンタテインメント

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/09/29 (木) ~ 2022/10/13 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

石野真子ファンは是非足を運んで頂きたい。石野真子さんの魅力に溢れている作品。葬式コーディネーターのしゅはまはるみさんは『カメ止め』の監督の奥さん役だった!旦那役の羽場裕一氏は見事に助演。9nine以来の川島海荷さんに鈴木福氏、豪華な一家だ。
葬式のマニュアル・ビデオを製作する為、旦那が死んだ体で模擬葬儀の撮影。文句ばかりの死人役の旦那、父親に不信感の子供二人を宥めすかし、石野真子さんの奮闘は続く。非常に魅力的なお母さん。

ネタバレBOX

自分の死期が近いことを予見していた石野真子さん。死ぬ前に家族がわだかまりを捨て心を分かち合えるように願った。愛する旦那、娘、息子、互いが互いを許し合えるように。

もう少し前半に笑いが欲しいところ。もう一捻り工夫が必要か。川島海荷さんのコンテンポラリーダンスは見せるべき。
美しきものの伝説

美しきものの伝説

流山児★事務所

小劇場B1(東京都)

2022/10/05 (水) ~ 2022/10/12 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

YouTubeにアップされている『美しきものの伝説・解説動画』が秀逸。クロポトキン(大杉栄)役・田島亮氏が劇団ひとりのたけしモノマネを駆使して作品の魅力を徹底的に解説。観劇予習として完璧な出来映え。今後こういう作品を上演する際の雛形となることだろう。

クロポトキンはマルクスのパロディTシャツ『I TOLD YOU I WAS RIGHT!(私は正しいと言っただろう! )』姿に金髪でPUNKS風味。そこらの兄ちゃん姉ちゃんが不確定な未来に向かって情熱を燃やす青春群像劇。唐十郎調。

名うてのプレイボーイ大杉栄(田島亮氏)と恋多き情熱家伊藤野枝(山丸莉奈さん)の怒涛の日々。
芸術座を旗揚げした島村抱月(里美和彦氏)とスーパースター松井須磨子(竹本優希さん)の今に語り継がれる悲恋。
この二組が柱。

田島亮氏は偉く格好良く、大正ベル・エポックの破滅型が映える。
1981年まで独り生き延びた暖村(荒畑寒村)役・申大樹(しんだいき)氏の荒野を流離うが如く寂しげな眼差しが印象的。
ルパシカ(小山内薫)役・鈴木幸ニ氏が好き放題。ロシアかぶれの嫌味なインテリをカリカチュアライズ、客席を沸かす。

若き久保栄(十河尭史〈そごうあきふみ〉氏)と島村抱月の『大衆と芸術』に対する討論が白眉。「結局のところ、芸術とは果たして何なのか?」の答がうっすら見えてくる。

「日本は敗戦で滅びた」と仮定して観ると、滅びる宿命の国で若者達が放った一瞬の煌めきのよう。灯滅せんとして光を増す。「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」。

ネタバレBOX

①社会主義運動家
幸徳秋水の仇討ちを胸に秘め、四分六(上田和弘氏)、クロポトキン、暖村は売文社で雌伏の日々。

②青鞜社(女性解放運動家)
モナリザ(春はるかさん)、サロメ(橋口佳奈さん)、伊藤野枝は女流文芸雑誌『青鞜』を発行して、女性の意識改革を啓蒙。

③新劇運動家
世界標準の劇作を目指して、坪内逍遥と島村抱月が文芸協会を設立。不倫スキャンダルで島村抱月と松井須磨子は脱退し芸術座を創立。ルパシカは自由劇場を結成。“芸術性”と“大衆性”の葛藤。ロマン・ロランの『民衆演劇論』が大きな影響を齎す。

休憩中、女性客が「隣の男性がマスクをちょこちょこずらしている」と騒ぎ立て係員が取りなすスケッチ。げんなりしたムードの空間、スタッフが「本日は初日です!」と観客を盛り上げて力技で第二幕に繋げた。お見事!

シーンシーンは美しく決まるのだが、何か流れが途切れ途切れ。狂おしく鮮烈な美しき生き様を観客は欲している。下手な説明をぶった斬って絵で叩き付けて欲しい。松井須磨子と伊藤野枝に解説は不要。理解不能のまま、ただ呆然と眺めていたい。松井須磨子の遺書は素晴らしかった。
住所まちがい

住所まちがい

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/09/26 (月) ~ 2022/10/08 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「暁精密機械製造工業(?)」が気になった。
客席通路を駆け回る仲村トオル氏は脚が長く細くてカッコイイ。でも舞台向きじゃないような。田中哲司氏のキャラ作りは矢鱈凄かった。渡辺いっけい氏の脇汗が凄まじい。服が見る見るうちに染みていく程の凄い熱演。

ネタバレBOX

別々の住所に着いた筈が皆ビルの7階の同じ部屋(第七天国?)に辿り着く。しかもエレベーターもない。間違えたと思い、引き返して住所を確認しても矢張りここで間違いない。社長(仲村トオル氏)、公安〈警部?〉(渡辺いっけい氏)、教授(田中哲司氏)の3人。不思議なことに自分の入ってきたドア以外開かない。他のルートでは帰れない。冷蔵庫を開ければ自分の望んだものが何でも出てくる。一度出て行った教授は土砂降りの雨に打たれて戻って来る。そこに大気汚染(?)の警報が鳴り、街は戒厳令が敷かれて電気の使用すら制限されることに。

イタリア戯曲を日本に無理矢理置き換え、これが上手くいっていない。原作の大尉を警察から出向して秘密裏の職務に就いている公安に改変。社長が密会する女と面識がないのも不可解。出会い系か?警報で外出禁止令の世情も腑に落ちない。
死生観がテーマなのだが日本人の感覚に合致していないのでまるで絵空事。無理に盛り塩を入れたりもおかしい。

自分的にはかなりつまらなかった。前の方だったが前半結構寝ている人がいた。朝海ひかるさんの登場から皆集中して観る感じ。待ちかねた朝海ひかるさんは志村けんのコントの研ナオコまんまの掃除婦、床からセリで登場。観客愕然。このおばちゃんの正体は一体何なのか、聖母マリアなのか、皆ハラハラ見守る。何気ない一言一言にもこじつけのような深い考察を入れて。
死の前の休憩所みたいな設定で、解釈は色々可能。ラストの朝海ひかるさんの神々しい美しさに救われた。

3人は渡辺「仲村」、仲村「田中」、田中「渡辺」と名乗る。電話帳(死者リスト?)にも名前は載っているがラストで皆本人の名に戻っている。偽名を使っていたというギャグだったのかもよく判らない。最後の審判を免れて、それぞれの扉で帰って行くも外の扉の鍵が閉まっていて戻って来る。一度助かったと安堵してからの絶望。

中盤、田中哲司氏が渡辺いっけい氏のドアを開けてみることに成功する。この部屋のルールは心の思い込み次第という解釈をしたのだが、それも判然としない。

多分スッキリとした解答などなく、モヤモヤした感覚で手探りで生きるのが人生ということなのだろう。劇中の3人の会話もずっとモヤモヤしているだけ。何もハッキリしたものはない不条理な世界。
『ワルプルギスの夜』

『ワルプルギスの夜』

劇団Q+

萬劇場(東京都)

2022/09/29 (木) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

チームB

「ワルプルギスの夜」もしくは「ヴァルプルギスの夜」とは、死者と生者の境目が弱くなる特別な夜。魔女達がブロッケン山でお祭り騒ぎをすると云う。
80年代の小劇場にタイムスリップしたかのような舞台。世界観はレトロSF風味で、『フラッシュ・ゴードン』やらあの辺の安っぽい未来世界が心地好く、観てると段々時空概念が狂ってくる。選曲のセンスも良い。凄くちゃっちいヴィジュアルが一周回って魅力的。

地球が核戦争で滅んで千年後、一部の人類は月と金星と火星に逃れて生き延びていた。地球の陸地は水没し、人の住めない真っ青な惑星。舞台は地球の観測をずっと続けてきた月のコロニー。ミュータントのような奇形な道化達がかつての地球の昔話を伝えて走り回って遊ぶ。はるさん演じる「兎頭」と呼ばれる道化がキーパーソン。双子のレーナ(小泉愛美香さん)とミーア(藤咲優希さん)が奇抜なファッションとメイクで踊りまくり、松田桜さん演じるバレリーナは皆の間を縫って舞う。月人類の口調が何故か花魁詞(おいらんことば)で『ありんす』調。お洒落なPUNKSファッションの観測員達。
そんな中、火星から探査船に乗って数百年振りに3人の火星人類がやって来る。

柳本璃音さん演じる見習い観測員リエットが魅力的。若い頃のマリアンみたいにキラキラしていた。
火星からやって来た考古学者ルベリオ役は佳乃香澄さん、上品。
同じくサンダー役は和泉涼太氏。演技も演出もキャラも“THE 80年代”といった暑苦しさ。
月の女王ユリウス役の神野(じんの)美奈実さんは声色を使い分けてムードを高める。

デヴィッド・ボウイの名曲が高らかに鳴り響き、真っ当、誠実でスタンダードなSFが語られる。レイ・ブラッドベリ風味のラストも美しい。凄く好きな感じの脚本。

ネタバレBOX

『スターマン』
「空ではスターマンが待っていて
 彼は“それを無駄にしてしまうな”と言っている
 その全てに価値があることを彼は知っているのさ」

デヴィッド・ボウイが亡くなった頃に日本公開されたマット・デイモン主演の『オデッセイ』。見せ場でこの曲が一曲丸々大音量で流され、観客は皆涙ぐんだもの。ボウイの息子のダンカン・ジョーンズが撮った『月に囚われた男』なんて映画もあった。

金星は滅び、火星と月の見通しも暗い。地球の再生を願い、探査船で調査に降り立ったルベリオとリエット。しかし地球はすでに完全に滅び、死の星と化していた。絶望的な現実を前に、女王ユリウスは地球に遺してきた全ての魂に懺悔して息絶える。そこに解読された金星人類からの最後の通信が読み上げられる。それは聖書の一節のような讃美歌のような荘厳な詩。『希望は自身の胸の中にこそある。暗闇を自らの希望の炎で照らし出せ』。

「兎頭」の死など雑な展開もあるが、デヴィッド・ボウイの歌で掻き消された。
あゆみ

あゆみ

果報プロデュース

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/09/28 (水) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これは観ておいた方がいい。名前だけは知っていたのだが、成程よく出来た戯曲。柴幸男(ゆきお)本人の演出。他の様々なバージョンも観たくなる。客席二面に挟まれた素舞台、非常に観易い。

登山の格好の前田綾さんの周りに7人の女性(石森美咲さん、稲田ひかるさん、井上みなみさん、小口ふみかさん、田久保柚香さん、橘花梨さん、山本沙羅さん〈プロデューサーも兼ねている〉)。
「初めのいーっぽ!」
主人公の半生の記憶をありとあらゆるやり方を使って7人が演じ続ける。それを椅子に腰掛けて静かに見つめる前田綾さん。胸が痛む描写の数々。母親とはぐれて迷子になって不安で不安で泣き出しそうで、やっと見つけた母親の姿。
BJCの『車泥棒』のような気持ち。
「楽しい遊園地の中で迷子になった小さな子供がお母さん  を探す気持ちは真実。
 多分宇宙の形はその母親が子供を抱き締めた時に湧いてくる気持ちに似ているんだろう。」

顔と名前が一致したのが橘花梨さんだけ。小口ふみかさんは何となくそうじゃないかと思っていた。他の方はかなり見覚えがあるのに名前が出て来ない。人の名前を覚えるのは大変だ。

非常に演劇的でありつつ、物語は映画向き。細切れのエピソードが粉雪のように降り積もる。記憶の雪で辺り一面が真っ白。雪塗れの前田綾さんと観客は自分の映画を観ている。

ネタバレBOX

幼馴染の梅原、仔犬のコロ、尾崎さんをハブったトラウマ、田辺先輩への初恋、母親との上京、会社の後輩・前田との飲み会、結婚式の練習、あゆみを出産、母の死、独り登山。

主人公、中野あみっていうのか!?
中野亜美さんはアンダースタディ(もしもの代役)として物販に立っている。

ラストはあゆみの唐揚げで終わった方が綺麗。そこからのエピローグが余り好きじゃない。

何故だか松任谷由実の『Hello, my friend』が脳裏に流れていた。
世界が朝を知ろうとも

世界が朝を知ろうとも

劇団papercraft

すみだパークギャラリーささや(東京都)

2022/09/28 (水) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

Aチーム

存在意義を喪失すると、その人は“虫”になってしまう世界。カフカの『変身』なんかを連想し、頭の中にはスターリンの『虫』なんかが流れてくる。
「虫になったらよろしく」

A 葛堂(かどう)里奈さんの独り芝居。小4の時、保健室で先生が気付くと虫(コオロギ)になっていた。パニックで踏み潰してしまったトラウマ。「虫になんかなってたまるか」と生きてきたつもりだったが・・・。篠原涼子に小雪を混ぜて不幸にした感じの雰囲気、熟練した技術。彼女はラブホに向かっている。

B 女子大生2人がラブホで秘密の作業。お互い四年で進路もちらつく。井上向日葵さんと清田みくりさん。

C 久々に訪れたラブホで深刻な痴話喧嘩。前田悠雅さんと緒形りょう氏。前田悠雅さんはハーフっぽい。木の実ナナの若い頃を感じさせる。

ギターをぶら下げて突然登場する紫野さんがカッコイイ。これならもうずっと部屋の片隅でギターを弄っていた方が良い。

ちなみに『前田悠雅バースデーイベント2022』会場・渋谷DESEO mini 2022/10/23(日)のチケットは絶賛発売中。

ネタバレBOX

人間が虫化する為、全ての虫の採集や売買は禁じられている世界。この設定が判り辛い。特殊な虫として別種にすべき。そうした方が“人間虫”が商品になる、非合法な基盤が出来る。どれだけ罪が重いのかもよく解らないので女子大生の口論にも深刻さがない。警察ではなく、被害者の家族に報復されるべき。

葛堂里奈さんのイカれた旦那は登場させた方がいい。
逆に前田悠雅さんのネタは独り芝居の方が合うのでは。
三つのエピソードが交差しないのであればラブホ縛りの意味もない。

演出を別の人に託した方が良い。笑いのセンスがなさすぎて、地獄のような会場。ネタ自体は馬鹿馬鹿しくて結構笑いをまぶしているのに、お通夜のような重苦しい雰囲気が延々続く。テンポよくリズミカルに演ればこんなに長くはならないホン。前田悠雅さんと緒形りょう氏の痴話喧嘩も早回しで充分。女子大生二人のエピソードは本筋に絡めるべき、これじゃ只の引き延ばし。散々笑わせておきながら、ふっと憂鬱で残酷な世界と向き合わせゾッとさせるべき題材。ワークショップじゃないんだから、役者のナルシシズムなんか誰も興味ない。

実は狂った女の妄想だった的な匂わせもあるが、それも要らない。
ドードーが落下する

ドードーが落下する

劇団た組

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2022/09/21 (水) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

令和版『男女7人夏物語』、コミカライズなら根本敬御大に、主題歌はBJCの『ディズニーランドへ』。
ラストが痛快。タランティーノ製作総指揮のオムニバス映画『フォー・ルームス』風味。ブライアン・デ・パルマの『ファム・ファタール』を観た後の昂揚に近い。こりゃ酷い、最高だ!

売れない漫才コンビの片割れ、夏目(平原テツ氏)はファンの子と結婚しその実家に居候、ビストロでバイトの38歳。イベンターの信也(藤原季節氏)や他のお笑い芸人、ちょっと売れているアイドルなんかとワイワイ集まるのが憂さ晴らし。「いつか世間に見つかってやる」を合言葉に日々をやり過ごしている。そんな彼が突然失踪した3年前からの話。

夏目役が平原テツ氏だと判らずに、浜野謙太?と思って観ていた。知ってびっくり。この役を演るのはキツイ。凄い俳優。今作が代表作になるのでは。
安川まりさんが松岡茉優っぽくて可愛かった。
秋乃ゆにさんのキャラもリアル。

『ルージュの伝言』のカラオケシーンが美しい。松任谷由実の明るく躍動的なリズムとメロディーで賑やかにノリまくる面々、それとは裏腹のメランコリックな歌詞が遠く懐かしき記憶を刺激し鈍い痛みが走る。

言葉一つ足りない位で全部壊れてしまうような
か弱い絆ばかりじゃないだろう
B'z 『HOME』

友情なんて言葉では括れない、信也と夏目のギリギリの関係。「お前は俺の人生の登場人物であり、俺はお前の人生の登場人物なんだ。そう簡単にこの話を終わらせてなるものか!」涙ぐむ藤原季節氏、言語化出来ないエモーション。観ている誰もが今までに喪失した人間関係を想い起こしヒリヒリする。

唇噛み締めて自分の無力さになす術もなく泣いた悔しさ
身体半分持ってかれるような別れの痛みとその寂しさ
amazarashi『奇跡』

タイトルのドードーとは、モーリシャス島に生息していた鳥。天敵のいない楽園のような孤島で繁殖していた為、空も飛べず警戒心もない。人間の上陸によって乱獲され、83年で絶滅した。
絶滅すべき種の前で為す術もなく、それでも必死に無意味に足掻く。

間に合うかも知れない 駄目かも知れない
約束した訳じゃない 会えないかも知れない
橘いずみ『まにあうかもしれない』

ネタバレBOX

中学の頃から統合失調症を薬で抑えてきた夏目。薬を飲まなくなって幻聴が聴こえ出す。奇行を重ね、警察に捕まり強制入院。コンビも解散し、奥さんとも離婚。売れない病気持ちの芸人を相手にする人の方が珍しい。

『アル中地獄(クライシス)』という実録本の中に、著者(邦山照彦氏)が精神病院に入院している時のエピソードがある。脳味噌が吹っ飛ぶ幻覚に襲われた著者、必死に床に這いつくばり泣きながら破片を拾い集める。他の二十数名もの患者が三時間近くそれに協力してくれる。他人の幻覚に親身になって付き合ってやる優しさ。

「ちゃんとやらなきゃ、でしょ。」
クライマックス、夏目と信也のお馴染み不毛な敬語の口論が開幕。普通なら途中でタメ口に変わり感情をぶつけ合う汚い言葉の怒鳴り合い、その展開をスレスレで回避。こういうセンスがずば抜けている。

最後まで藤原季節氏が善人だったのでホッとした。久方振りに彼の役に好感を持てた。
縁を切る側だったり切られる側だったり、必ず誰もの胸が痛み出す。

欲を言えばキャスティングをオールスターで固めて欲しかった。演劇ファンが唸る豪華配役でこそこれをやるべき。キャスティングから作品だと言わんばかりに野田秀樹系の上客を集めに集めてやるべきネタ。広瀬すずとか無駄に使ってこれをやる狂気。

無論、自分のような客層に受けても未来はない。次作は生真面目な女性客と真摯に向き合って欲しい。
コマギレ

コマギレ

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2022/09/22 (木) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開場前から長い行列が出来、皆(?)スマホで将棋を指しているような凄い絵面。
藤井聡太監修の伊右衛門ペットボトルを観客全員にプレゼントの太っ腹。

将棋のプロ棋士(六段)・熊谷学、演ずるは井保三兎氏。両親のいない貧しい家庭で育ち、何とかプロ(四段)になるも今は負け続き。史上最弱のプロとしてネットで妙な人気を得ている。
その弟子、女性で初めてプロ棋士となった天野桂子(岡本美歌さん)。彼女の凛とした美しさと関西弁が女流棋士っぽく魅力に溢れる見事な配役。(現実世界では里見香奈女流五冠が棋士編入試験を今まさに行なっているところ、未だ達成されていない)。

熊谷一門の道場は毎日弟子が遊びに来て、豚肉のカレーライスとコーヒーでおもてなし。出世頭の郷田竜王(渡辺あつし氏)、マスコミ大注目のスター、天野桂子・香子(鈴木彩愛さん)姉妹。そんなある日、桂子が脳梗塞で倒れてしまう。退院後、復帰をするもどうも後遺症が残ってしまい・・・。

流石によく出来ている。後半からの盛り上がりが凄い。熊谷の幼少時代のエピソードをシルエットで再現するセンス。天野役の鈴木康平氏と友人役の門地ジル子さんが実に巧い。『無法松の一生』の回想シーンを思い出した。ぐっと感情移入させておいて山田洋次流の落としで笑わせるテクニック。いつのまにかに劇場は熊谷師匠の心の風景の中に、観客はその安らぎに身を委ねてしまっていた。
昔、Kioskで毎週『週刊将棋』を買っていた頃の気持ちを思い出した。

江崎香澄さんと鈴木彩愛(あやめ)さんはスピンオフで観たい程キャラが立っていた。

ネタバレBOX

「○○? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。だけど・・・、オイラ(俺は)負けないよ。」
「えー、こまたっ、駒達が躍動するオイラ(俺)の将棋を、皆さんに見せたいね。」
佐藤紳哉棋士の名台詞を橋本崇載棋士がパロり、『ハチワンダイバー』にも載った定番ネタ。
将棋連盟会長役の野崎保氏が見事に決めてみせた。

中盤まではよくある話であんまり嵌まれず。熊谷の幼少時代、天野と仲良くなるエピソードあたりからぐっと来た。貧乏で勉強も運動も駄目な気弱な子供、唯一の武器が祖父から習った将棋だった。ガキ大将の天野に認められ、片道二時間以上列車に揺られ神戸の将棋大会へ。中学生達を相手に優勝してしまう。天野の家でお母さんに振る舞われた豚肉の入ったカレーライス。初めて食べたカレーライスが美味しすぎて涙を零す。ずっと自分を応援し続けてくれた天野は早逝し、忘れ形見の娘二人を我が子のように可愛がることに。

意識が途中で途切れてしまう、棋士としては致命的な桂子の後遺症。手番が分からなくなり、二手指しを繰り返して敗れ続ける。タイトルは「駒切れ」かと思わせて、意識の「細切れ」とは成程。
クライマックス、師匠から弟子に思い入れのある大事な扇子を譲ったように見せ、いざ対局中にそれを広げてみると『キフよめ』。慌てて記録係から棋譜を見せて貰い確認する桂子。自身の引退を賭けて対局に臨んでいる女流名人(山本綾さん)が桂子の二手指しを自ら制する名シーンと合わさって今作の肝、胸に焼き付く。
エピローグ、漫画家(野田あゆみさん)が完成した雑誌を皆の前でお披露目、巻頭カラーの美しい見開きに熊谷・桂子の師弟対決。狙い通りの畳み掛けがズバリ決まって大喝采。
深刻な後遺症すら呑気に受け流す熊谷師匠の楽天的な人生観、アイディアの大勝利。
君と約束した桜色の中で

君と約束した桜色の中で

劇団えのぐ

萬劇場(東京都)

2022/09/21 (水) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

劇団えのぐは4年前の『紅姫物語』以来。何となく好印象。少女漫画なのだが、門戸が広い感じ。
昔々人間と鬼とが共存している領地の話。鬼をインディアン(ネイティヴ・アメリカン)や黒人のように視覚的にハッキリと区別が出来る別人種と捉えると理解し易い。
そこでは人間と鬼との種族を超えた信頼関係や恋愛がある。けれど他の領地の人民からは理解されず異質な連中ということで偏見の目を向けられている。穀物の不作で領地に飢饉が迫っていく。

鬼はバッファローマンのような角と、頬にそれぞれの幾何学模様のペイントがクール。
驚くのは殺陣が本格的で、ツイ・ハークばり。富野由悠季風味のチャンバラしながらの理論闘争なんかも欲しかった。男の子役の環幸乃さんがまさに適役。純真無垢な役は嵌まる。

絶望的な現実を前にし、恋人達はせめて来世での約束を交わすだろう。そんな約束がいつか果たされる日が訪れるのだろうか?

ネタバレBOX

勿体無いのは構成。実録ドキュメント風味で語るべき作品。全員登場人物が良い奴なのも欠点。もっと残酷で醜いからこそ、恋人達の約束が尊く浮かび上がる。鬼をファンタジーではなく、比喩として描いた方がよかった。(分かる人には分かるように)。
天の敵

天の敵

イキウメ

本多劇場(東京都)

2022/09/16 (金) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

兎に角、話が目茶苦茶面白い。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』をマーティン・スコセッシが自身の開拓したドキュメンタリー手法を用いて映画化したような作品。こりゃ面白い、誰が観ても納得の作品。観客は2時間強、酔い痴れた。

澤田育子さんがベッキーや土屋アンナみたいで凄かった。多才な人だ。
豊田エリーさんはこういう世界を描くときに絶対必要不可欠な存在なんだろうな。
冒頭、舞台に食材を配膳する牧凌平氏と高橋佳子さんの佇まいが素晴らしい。観る側も緊張を強いられ、襟を正す。

ネタバレBOX

飲血によって不老不死の肉体を手に入れた主人公(浜田信也氏)。1895年に生まれ、今現在(2017年)も名前を変えてTVで活躍する健康料理研究家。ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っているジャーナリスト(安井順平氏)の取材を快く引き受ける。ジャーナリストは戦後まもなく現れすぐに消息を絶った伝説の健康食研究家との関係性を訊く。「彼の孫ではないのか?」と。主人公は「その男は自分自身だ」と答える。年齢が合わない為、何かの比喩だと捉えるジャーナリスト。主人公は最初から話を語り出す。第一次世界大戦時、シベリアに出征、山で遭難し飢餓で死を目前とする。そこに現れた謎の日本人、時貞(森下創氏)。完全食となる食材を見付け、日本の飢餓問題を永久に解決せんと理想に燃えている。帰国し医師となった主人公のもとを度々訪れる時貞。何度も死線を彷徨いながら自らの肉体を実験材料として完全食を探し求めていた。戦後、最愛の妻が癌に倒れ、主人公はある思い付きを試してみる。時貞が試さなかった唯一の食材、“血液”。

この時貞の存在が魅力的で、荒唐無稽な物語に一抹のリアリティーを齎す。

天の造りし“食物連鎖”の摂理。その生態系から逸脱した“天の敵“。罰として太陽の下を歩けないようにされるも、菜食主義者の血液だけを飲むことによってその戒めも突破。(物凄いアイディアだと思う)。

『フォレスト・ガンプ』のように、日本現代史を綴っても面白かった。

ちなみに『ヴァンパイア・クロニクルズ』(『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のシリーズ)では、ヴァンパイア・レスタトはカリスマ・ロック・スターになっている。
音楽劇「組曲虐殺」

音楽劇「組曲虐殺」

劇団しゃれこうべ

シアター風姿花伝(東京都)

2022/09/16 (金) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

小林多喜二の拷問死。指も前歯も折られ睾丸も陰茎も三倍以上に腫れ上がり、焼け火箸や錐で刺された穴が身体中に無数。太腿は鬱血で暗紫色に変色。こめかみ、手首、背中、脛に打撲傷や縄の跡。内臓が破れ内出血。その死顔を油絵で描いたのが盟友・岡本唐貴(白土三平の父)。

貧富の差を失くし、人間が平等な社会を実現する為に小説を書いた。上げる声を持たない弱者達の胸の痛みを代弁して。演出も兼ねる劇団代表の木田博喜氏が丁寧に演じた小林多喜二。
支援する姉役の小倉啓子さんは彼の出身である劇団神戸の代表、ずば抜けて巧い。
多喜二の恋人役は和泉美春さん。実際の田口タキに面影が似ている。
特高刑事役、酒井耕一朗氏はスリムクラブの真栄田賢に似た声。
同じく高野圭祐氏は愛嬌がある。
凄く気になったのが多喜二の妻役の原島千佳さん。表情がものまねタレントのホリに似ていて千変万化。いろんな役を演れそう。

観応えある井上ひさし、戯曲を読み込んだ演出、是非観て頂きたい。レベルが高い。

ネタバレBOX

歌の力が弱い。生伴奏のピアノなんか居たら最高。実はこの話の主人公は小林多喜二を付け回す2人の特高刑事。彼等が多喜二と触れ合うことで内面が変わっていく様。ラストのおしくらまんじゅうの流れが弱い。小林多喜二が「また胸の映写機にかけがえのないシーンが写された」と呟くだけの絵が欲しい。チャップリン的動きを所々見せていた方がラストに繋がる。
俺は、君のためにこそ死ににいく2022

俺は、君のためにこそ死ににいく2022

劇団夜想会

俳優座劇場(東京都)

2022/09/13 (火) ~ 2022/09/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕90分休憩15分第二幕45分。
〈月組〉
2007年当時、現役都知事である石原慎太郎が製作総指揮と脚本を兼ねて話題となった映画の舞台化。映画の内容はイマイチだった記憶。
“特攻の母”と呼ばれる鳥濱トメさんを題材にした作品は多い。『帰って来た蛍』シリーズ、『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』、高倉健主演映画の『ホタル』。
宮川三郎少尉「俺、心残りなんて何にもないけれど、死んだらまたおばちゃんのところに戻って来たい。そうだ、蛍になって帰って来るからね。」
光山文博少尉(卓庚鉉〈タク・キョンヒョン〉)「おばちゃんのような良い人は見たことがない。自分にも分け隔てなく接してくれた。ここにいると朝鮮人であることを忘れてしまう。長い間、親身に世話をしてくれて本当に有難う。実の親も及ばない程だった。」
勝又勝雄少尉「おばちゃん、人生50年と言うけれど俺の余した30年分の寿命はおばちゃんにあげる。おばちゃんは人より30年余計に生きてくれよ、きっとだよ。」

冒頭、“特攻の生みの親”大西瀧治郎海軍中将(名高達男氏)の司令部での決断が描かれる。「一刻も早く講和を結んで戦争を終わらせないといけない。少しでも良い条件で講和を結ぶ為には、一度でも敵に勝利し追い落とす必要があるのだ。最早、手段は選べない。」(一撃講和論)。
こうして始まった「神風(しんぷう)特別攻撃隊」、250キロ爆弾を搭載した戦闘機で連合国の艦船に体当りする自爆攻撃、十死零生。
しかし戦局は一向に好転せず、時間稼ぎの捨て石としてのみ特攻は続いた。死者数約4000名。
「コンコルドの誤謬」と云う言葉がある。それまでに費やした資金や労力が勿体無いと無益なシステムにしがみつき、かえって損失が拡大していくこと。「一億総特攻の魁となって頂きたい」との言葉で出撃させられた戦艦大和の水上特攻などその最たるもの。沖縄に出発した翌日に撃沈され、乗組員3332人の内、生還したのは276人のみ。

歴史学者の有馬学氏の文章を引用させて頂く。『・・・特攻はもはや戦術ではなく、崇高な行為を続ける儀礼的なものへと変わっていった。犠牲的な行為が日本人の精神性の高さを示すという考え方が支配的になり・・・』。
まさに宗教儀式のように若者達を機械的に殺していくシステム。
上原良司大尉「自由は人間性なるが故に、自由主義国家群の勝利は明白である。日本は思想的に既に敗れているのだ。何で勝つを得んや。」
「権力主義、全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも、必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。」

鳥濱トメ役の石村とも子さんが好演。歩き辛い大きな下駄を履いて舞台を駆ける。
その娘、鳥濱礼子役の山木コハルさんが綺麗だった。

自分は光山少尉のエピソードに思い入れがあり、毎回考えさせられる。

ネタバレBOX

のりピーはチョイ役だった。まだ若き特攻隊員の妻を演じられる可愛らしさ。
名高達男氏もまさに特別出演といった感じで、冒頭とラストだけ。

国の為に家族の為に愛する人の為に、自分の命を犠牲にしてもいいと陶酔するヒロイズム。人間は常に何かに酔っ払っていたい生き物。戦争、宗教、政治運動、恋愛、自己実現、芸術etc...。「死んでもいい」とまで思い詰めることのできる陶酔に本能的な憧れをもつ。そこまで純粋にのめり込めたら清々しいだろうな、と。逆にその酔いから醒めると、余りに非論理的で幼稚なシステムに洗脳され支配されていた自己に恥ずかしさと怒りを覚える。
特攻隊への畏敬の念と同時に、愚かな軍部の狂気に玩具にされた彼等を英雄視してはいけないとも思う。そんな複雑な相反する感情を併せ持っている日本人。『七人の侍』でさえ公開当時、旧日米安全保障条約の締結の最中、非難を浴びに浴びた。(侍=米軍)。二度と戦争を起こさない国にする為に一体何をするべきか?家父長制を否定し国家を敬愛することを否定、否定に否定を重ね合わせた挙げ句、反動として反日教組の風潮が出来上がっていく。結局人心のコントロールなど出来ないのだ。
「死ぬことが運命ならば、生き残ることも運命ではなかろうか?」
Letter2022

Letter2022

FREE(S)

ザ・ポケット(東京都)

2022/09/13 (火) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『カセットテープ・ダイアリーズ』という映画がある。1987年、イギリスで暮らすパキスタン移民一家の青年が主人公。差別にがんじがらめにされ、抑圧と偏見に踏み躙られる日々。ある時知人が貸してくれたブルース・スプリングスティーンのカセットテープ。夜、部屋で何となく聴いた瞬間、人生に電撃が走る。目が醒めるような衝撃。居ても立っても居られなくなり、世界が一変していく興奮。人気ジャーナリストの自伝の映画化。ロックの魅力が詰まっていた。

今作にもそんなシーンがある。現在から戦時中にタイムスリップしたバンド青年。「どんな歌を歌っていたのか?」とせがまれて、渋々ミスチルの『終わりなき旅』を歌ってやる。その歌に衝撃を受けた若き兵隊が“生きる為”に脱走を決意する。ロックには力があり、人の生き方を変えられる。目を醒ましてくれるのかも知れない。洗脳を解く鍵になる。

主演の松田将希氏がフルポンの村上みたいなふざけたチャラ男で戦時中の緊迫した空間を掻き回す。ヒロインの市瀬瑠夏(いちせるな)さんはなかなかいない不思議なキャラ。オープニングの大久保銀河氏のブレイクダンスは恐れ入る程凄まじい。特攻隊員の予備要員(?)の華本みなみさんが何故かやたら目立った。

ロシア・ウクライナ戦争の勃発で、戦時中の話がかなり現実的に感じられる昨今。時代は変わろうとも人間の本質は変わることはない。

ネタバレBOX

粗をつつけば切りがないが、そういう作品でもない。オープニングの『千本桜』が良かったので、二つの時代を同時進行に描く手もあった。(『永遠の0』とかそうだった)。ラストを8月15日にはしないで、特攻せざるを得ない物語を組み立てるべき。観客に「これは自分でも行く」と思わせたら、現代のエピローグに繋がる。
プラズマ再臨

プラズマ再臨

無名劇団

萬劇場(東京都)

2022/09/14 (水) ~ 2022/09/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

高校野球地区予選決勝、ピッチャーのいずな(尾形大吾氏)は監督の指示通り、敵の四番にデッドボールを喰らわせた。顔面骨折の大惨事に怒号が飛び交う中、甲子園出場を決める。その後精神が崩壊したいずなは家に籠もり、野球部の練習にも出なくなる。家は両親が出払い、ずっとニートの兄との二人暮らし。チームメイトや恋人のほむら(中山さつきさん)が訪ねて来ても門前払い。そんないずなの前に不思議な少女が出現。かづち(島原夏海さん)と名乗るその娘は、夜の闇を炎で照らし出す遊びを教えてくれる。夜な夜な遊びに耽るいずな。そしてその町で起こる陰惨な連続殺人事件。

「何か関西の劇団ってこういうのが好きなんだな」と共通点を多数感じた。

ネタバレBOX

話が物足りないのは描くべき部分が違っているから。いずなは犯罪に憧れつつも、結局何も出来ない方が良い。別に存在している犯人に理想の自分を重ね合わせた方が厚みが出る。結局何一つ出来ずじまいで無力さに打ちのめされて欲しい。突然の兄弟愛で纏める話じゃない。不在の両親こそ、この物語に必要不可欠な存在。かづちの正体なんて実はどうでもいいことで、日々のなんてことはない野球部の日常こそが描き込むべき部分。警察の存在も全く必要がない。
青ひげ公の城

青ひげ公の城

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2022/09/08 (木) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演の第七の妻、今川宇宙さんが可愛かった!流石に西郷輝彦の娘、清涼感溢れる美人。若い頃の藤圭子っぽくもある。

魑魅魍魎跋扈する虚構の世界に単身乗り込んだヒロイン、失踪した照明係の兄を捜して。芝居なのか現実なのかそのグレーゾーンを彷徨い歩く。舞台裏は魔窟で心の臓も凍る。最後までその感覚は拭えず、高田馬場のアパートに帰っても誰かを演じ続けているまま。この世は全てが芝居で、自分は客であり演者でもある。そこで何を為すべきか?答えなき問い掛けは虚しく、何の意味も持たない日々に押し潰されていくだけ。自分だけの言葉が見付からない!

MVPは文句なくマジシャンの渋谷駿氏。ネタ割れしている古典的なマジックなのだが、それでも圧倒される。彼は超能力者だと思わされる程。いや、そうであって欲しい。彼が青ひげ公であるべきで、そのぐらい作品を浸食している。
舞台美術が素晴らしく、これぞ『青ひげ公の城』。発泡スチロールでここまでやられたらひれ伏すのみ。
第一の妻、日下由美さんはヌーブラが悩ましい。
第二の妻、のぐち和美さんはそのまんま。
第三の妻、浜田えり子さんは死者。
第四の妻、若林美保さんはサーカス団並みの宙吊りの踊り子。物凄いインパクト、暴力的な表現。
第五の妻、水嶋カンナさんはそのまんま。
第六の妻、河西茉祐(まゆ)さんは人形。
第八の妻、浅井香穂さんもマジック・アシスタントも兼ねて素晴らしかった。

黒色すみれはアコーディオンとヴァイオリンで歌い踊り酔わす。BUCK-TICKのLIVEで観た以来。B−Tなら『キラメキの中で…』を聴きたい気分。

次回公演のチラシのイラストを今川宇宙さんが描いていて、凄く魅力的。

ネタバレBOX

作品は何か寺山修司感が足りなかった。戯曲の面白さを読み間違えているようなテキレジ。これじゃ物足りない。これを観て深みに嵌まる奴はいないだろう。ぬるい。
舞台「学徒隊」

舞台「学徒隊」

NPO法人文化活動支援会まつり

南大塚ホール(東京都)

2022/09/09 (金) ~ 2022/09/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

観て損はない。
商業演劇よりNPO法人系の方が腹が据わっている気もする昨今。沖縄戦に強制的に徴兵された学徒隊(14~19歳)を真正面から描いてみせる。アマチュア(?)の弱みと強みが交差するが、これを観劇したことは自分にとって正しかった。描こうとする気持ちが本物。本物の気持ちならどう紆余曲折しても絶対に伝わる。
プラスチック若しくはポリエチレン粉末を爆撃の表現として効果的に使用。爆音と共に撒き散らされる硬めの粉末がかなりの視覚効果を上げている。後ろからスタッフが粉末を投げ上げていく。役者陣の早着替えとメイク直しも凄い。アイディアとDIY精神によって組み上げられた無骨な足場がアマチュアの強みに溢れている。トラブルも多発、だがそれも良い。役者陣の気持ちが焔(ほむら)となってゆらゆら揺らめく。

第一幕は1944年10月10日沖縄大空襲まで。
第二幕は学徒隊(鉄血勤皇隊)として沖縄戦を戦う面々。

主演の若菜さんが柴咲コウ系の抜群のルックスで目立つ。
W主演の加藤郁海(いくみ)氏も一本筋の通ったキャラクターを表現。
石川鈴菜(りんな)さんも何かたかみなっぽくて良い。
口が大きいことを弄られていた、渡辺菜々子さんも印象的。
小沼雪乃さんをどうしても出したかった訳も伝わる。
図体のデカいヒール役の男も見事。
手に障害のある女優のシーンも記憶に残る。

ネタバレBOX

沢山の登場人物が恋と喧嘩の学校生活を送る日々。種々雑多なエピソードは空襲によって強制的に終わらされる。男は銃を持ち、女は看護助手に。泥沼の地上戦の中、殺し合い気が狂い暴力に塗れていく。主演の二人はメモ帳に日々の日記を綴り、いつか再会した時に交換しようと約束している。それを書いている時だけが正気に返る時間、人間性をどうにかとどめようと。

ラスト、再会した二人は何処かに隠すつもりだったメモ帳二冊を小さな女の子に託そうとする。自分達の生きていた痕跡をこの世に残す為。しかしそれは叶わず、銃殺される。
その海岸にひ孫を連れて今日も手を合わせているお婆さん(小沼雪乃さん) 。ひ孫は「何故いつもここで南無南無するの?」と尋ねる。「昔、あなた位の歳の時にここで殺される兵隊さんを見たんだよ。何処の誰だったかも判らない。でも私がその兵隊さんのことを忘れてしまったら、その人は何処にもいなくなってしまうだろ。一体どうしたらいいのかねえ。」

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