実演鑑賞
満足度★★★★
主演の辻凪子さんを初めて知ったが、一発でファンになった。表情によっては藤谷美和子さんに見える超絶美人、それでいてこの狂った世界で小学生からの十数年の物語を見事に紡いでみせた。尾田清笑(せえ)という役名だが、セイだと思っていた。
中央には開いた本の白紙のページ。上手と下手に昇降式の白い緞帳(ブレヒト幕?)があり、テンポよくカットを割る。激しい場面転換、切り替えの為のアイディア。このスピード感が人気の秘密。笑いのセンスはずば抜けている。キャラの造形が異常。まともな人間が一人も出て来ない。凄く優しいキチガイのジュブナイル。観客は大熱狂、やたら凄いことになっている。ブレイク前のバンドみたいな盛り上がり。
亡くなった母親の影響で漫画大好きな小学生、辻凪子さんが転校してくる。その学校では誰も漫画の存在を知らず、アニメの話だけ。彼女が漫画を貸してやると、皆夢中になって読み耽る。彼女と亡き母親の一番好きな漫画、『ネバーエンディング・エスポワール』(終わりなき希望)にハマって、今後の展開を考察していく皆。担任の先生(高畑遊〈あそぶ〉さん)も『ネバエン』に夢中。だが狂気を秘めた教師、尾形悟氏はそれを許さなかった。
佐藤一馬氏がされる指錠に一番笑った。上下後ろ手に手を組まされ、親指だけを毎回指錠される。凄く好きなセンス。
中身空っぽイケメン、海上学彦(うなかみまなひこ)氏は徳井義実顔。
落語家の息子、てっぺい右利き氏は落語のサゲを極めることに。
四柳智惟(ともただ)氏は四つ子の四兄弟を一人で演じ切る。
立川がじら氏と土本燈子さん父娘の秘密。
映画ならトッド・ソロンズ系になるんだろうな。必死でバカをやって、カメラが引いて俯瞰になるとどこか物悲しい感じ。いつだってフィリップ・シーモア・ホフマンはそこにいた。
笑いは味覚と同じで個々人、好みは違う。けれど、それだからこそ面白いんだと思う。自分の味覚こそ最高と信じられたから、二郎系はここまでポピュラーになった。まだ見ぬ地平を地図もなく歩き出したのだから、誰にも正解は解らない。
「思い出野郎Aチーム」の『笑い話の夜』、『楽しく暮らそう』が印象的に使われる。凄く良いバンドだ。選曲センス、キャスティング・センス、笑いのセンスは脳の同じ領域にあるのかも知れない。この作家の武器は間違いなく笑いのセンス。自分を信じて貫いて欲しい。笑いにやられたので次作も観に行く。
「こんな夜は消えてしまいたい」とよく思うけれど
今終わったら全部が無駄で何か残したくて生きる
正解でも間違いでもそれが分かるのはどうせ未来今は走るだけ
amazarashi『奇跡』