蛇ヲ産ム 公演情報 日本のラジオ「蛇ヲ産ム」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    演出、異質な空気感の醸成、話の進め方が秀でている。そして言語感覚。「いい」を必ず「よい」と言わせる拘り。その細かさが観客を敏感にさせる。
    沈(しむ)ゆうこさんが語り手。自身の経験談を人名や地名は特定されないよう仮名にして語り出す。
    彼女が働いていた地方の肉屋にパートで入ってきた日野あかりさん、結婚を機に夫の田舎に引っ越して来たそうだ。最近腹部に違和感を覚え地元で評判の漢方薬局を勧められる。診療にあたるのは薬剤師の松浦みるさん。少し妙な問診。処方された漢方薬。

    実家で暮らす義理の妹(神藤さやかさん)がたまに遊びに来る。ガチガチの金髪、冷蔵庫の肉への執着。
    肉屋で毎日弁当を買う常連客は安東信助氏、かなりのメンチカツ中毒。「何か入ってんのかなあ?」
    残業後、会社の後輩(加糖熱量氏)と車で帰る。後輩は恋人(こばやしかのんさん)とイタリア料理店で食事をした際のことを話し出す。料理のパプリカを除けていたら咎められ、その訳となった小学生時代のトラウマを告白したことを。

    日野あかりさんの役への作り込みが凄い。チック症を多用。前作の弱視役を彷彿とさせる藪睨と神経症的な瞬き、ジスキネジア(自分の意志とは関係なく体の一部が勝手に異様な運動をする不随意運動)のように口をもごもごさせ、表情は神経質な痙攣を伴い続ける。
    そして異常に美人、気持ち悪くなる位の美人。こういう話には打って付け。

    こばやしかのんさんは脚が長くスタイルが良い。

    この感覚は『ファンタズム』っぽい。

    ネタバレBOX

    冒頭の問診は『CURE』を彷彿とさせる。途中、松浦みるさんが急に訳の判らない言葉を使い出す。不快に思い、聞き返す日野あかりさん。その遣り取りの内、不意にその質問を理解したかのように答える。その話を聞かされた沈ゆうこさんは意味が分からない。「だって、そうじゃない。」とだけ答える日野あかりさん。いつのまにか訳の判らない世界に取り込まれている感覚。

    セックスレス、夜毎見る夢、フロイトの『夢判断』だと蛇は男根の象徴。古典的な話を随所に散りばめていく。

    プリオン病とは、感染性を持つ異常蛋白質「プリオン」が脳内の神経細胞を壊す病気。共食い等で脳のようにプリオンが多く含まれる組織を食べたことで感染する。潜伏期には個人差があり、人の場合40年以上後の症例があった。発症後1〜2年で確実に亡くなる。羊のスクレイピー、牛の狂牛病、人間のクロイツフェルト・ヤコブ病、クールー、現在は北米の野生の鹿に慢性消耗病が蔓延している。

    今作のさんだ薬品の創業者の祖先が、流行り病の特効薬の為に自分の子供を殺して調合したという逸話はプリオン病を連想させる。2011年に発覚した中国吉林省の『人肉カプセル』事件。幾つかの病院が死んだ赤ん坊の遺体をブローカーに売り、それを粉末状にしてカプセルに詰め、高価な漢方薬として密売していた。これは今も現実にある話。

    安っぽい都市伝説的なホラーがノイズになっている。自分はカニバリズムにそれ程、禁忌を感じないのでそこはイマイチ興奮しない。人肉を食わされたことではなく、食わそうと思った意図に潜んでいるものの方が恐い。

    ずっと町全体に洗脳されていくような静かな恐怖。
    こういう話は意味が解らないことよりもその情景が記憶にこびり着くことの方が重要。気が付くと奇妙な薬剤師の問い掛けに普通に答えている自分を想像するように。

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    2024/03/21 06:44

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