諜報員 公演情報 パラドックス定数「諜報員」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    篠田正浩の遺作となった『スパイ・ゾルゲ』。太平洋戦争開戦直前に捕まり、後に死刑となったソ連のスパイをまるで反戦平和活動家のように描こうとした無理のある作品。ラストに流れるのは「イマジン」(使用料が高いのでインストに字幕の歌詞だけ)。いや、無理があるだろ。まさに篠田作品。(ただ彼の『沈黙』だけは傑作だと思う)。

    グループで来ている熱狂的野木ファンの女性達が大挙押し寄せたイメージの不思議な客層。「ゾルゲ事件」だぞ、これ。

    作品は黒沢清調のサスペンスで流石に面白い。シチュエーションが練られている。突然拉致監禁され雑居房に放り込まれた4人の男、互いの名前も素性も判らない。ここが何処だか奴等の目的が何かも判らない。一人ずつ彼等を呼び出し尋問する2人の男。誰が嘘をついているのか誰が騙そうとしているのか一つ一つ疑い始めれば確かなものなど何もない。観客の想像力を刺激し続ける無言の関係性。役者がゆらゆら揺れるように立つシーンが幾つかあるのだが、その揺らめきこそが今作の象徴。

    知っておいた方がいい人物と名称。

    リヒャルト・ゾルゲ ドイツ人の父とロシア人の母の間に生まれる。共産主義に心酔し、ソ連のスパイとして中国、日本で諜報活動。ナチス党員のドイツ人ジャーナリストとして信頼を得、ドイツ大使の相談相手となり最高機密にアクセスする権限を入手。独ソ不可侵条約と日ソ中立条約を破って、いつドイツがソ連に戦争を仕掛けるか?日本はそれに参戦するのか?が最大の案件。

    尾崎秀実(ほつみ) 朝日新聞の特派員として渡った上海でゾルゲを紹介され、協力を約束する。後に総理大臣となる近衛文麿の政策研究団体に参加、内閣嘱託としてブレーンの一員となる。御前会議(戦争の開始と終了に関して開かれた、天皇・元老・閣僚・軍部首脳の合同会議)の内容まで入手出来た。

    宮城与徳 沖縄生まれ、画家を志すも結核に罹患。父に呼び寄せられて渡米、絵の勉強をしつつ共産党に入党。洋画家として個展を開くまでになるが、指令を受けて帰国、ゾルゲ諜報団に参加。ゾルゲと尾崎の連絡役となった。結核が悪化して喀血。

    安田徳太郎 京大卒の医師。医療を通して社会運動に参加。東京青山に内科病院を開業。無産政党(合法的社会主義政党)を支援。共産党シンパとして睨まれ検挙されたことも。宮城の治療を受け持つ。

    特高(特別高等警察) 日本の秘密警察。思想犯を取り締まる為に作られた組織。

    このクラスの作家の新作初日でも満員にはならないとは厳しい世界だ。前説後説、主宰の野木萌葱(もえぎ)さんの言葉に力があった。来年は青年座に書き下ろした作品、『ズベズダー荒野より宙へ‐』のセルフカバーを演ると発表。2021年9月、シアタートラムで公演されたものを3部作に改変すると。「今回、御覧になってイマイチだった、合わなかったと思った方も絶対に観に来て下さい!」自分の作品を信じている。絶対に価値があるものだと信じる力。いや、そりゃ皆観に行かざるを得ないでしょう。行きますよ!

    今作も是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    内閣情報局 小野ゆたか氏 国を大事に思う。
    安田病院の医師 植村宏司氏 人の生命を大事に思う。
    朝日新聞の記者 西原誠吾氏 自由を大事に思う。
    教会の神父 井内勇希氏 正しい秩序を大事に思う。

    刑事 神農(かみの)直隆氏
    警部(警視?) 横道毅氏

    唯一、初めに小野ゆたか氏が横道毅氏に取調べを受ける際の会話の意味がよく判らなかった。符丁?冗談?

    今作で自分が気に食わない流れは、急にぶち切れてカミングアウトを始める諜報員の井内勇希氏。いやそんなんじゃ6年も潜入出来ないだろ、早過ぎるよ。その辺の雑さが課題。何か話の流れの都合で急にキャラ変。キャラクターを物語(チェス)の駒としてしか見ていないから、観客の意識とズレる。後半戦はそれぞれの記憶の再現。闇に葬り去られる事件を歴史に残したいという願い。

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    2024/03/08 23:20

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