あとのさくら 公演情報 ここ風「あとのさくら」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    よく練られた脚本、感心する。笑いは薄いが桜の花びらが音もなく降り続けるその美しさ、一人のいなくなってしまった女性の面影をずっと追い掛けていく物語だ。台本執筆中に作・演出の霧島ロック氏の母堂が亡くなったという。それを知って腑に落ちた。奏でられるのはレクイエム。胸いっぱいの鎮魂歌。

    看板女優の天野弘愛さんの魅力を作家は知り尽くしている。
    『泣き顔でsmile 擦り切れてshine 踊るならrain
     ピント外れの我儘Juliet』
    (今ではダサい歌詞にしか聞こえないが何周も周るときっと好きになる)。
    群馬の暴走族だった氷室京介はミュージシャンで成功しようと上京する。そんな氷室を追って来た女が美容師になって食わせてくれた。ままごとみたいな同棲生活、甘え切った日々。ある日、女は他に男を作って別れを告げる。氷室京介のラブソングはほぼその女への歌ばかりだ。自分のものにとても収まらない女、だけど自分のものだった女。
    天野弘愛さんの演じるさくらはまさしくそんな女。どうしようもなく悲しい場面で満面の笑みを見せてくれる。

    天野弘愛さんは8月に和歌山県の熊野本宮大社で『おぐりとてるて』のてるて姫をやるという。気になる。

    香月健志氏はかなり痩せていた。最新型のオシャレ番長。
    吉岡大輔氏のキャラは非常に重要なスパイス。いい味を足してくれる。ひたすらトイレ。
    はぎこさんは橋爪未萠里っぽい強キャラ。
    星出紗希奈さんは中舘早紀っぽい。

    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    凄く好きなシーンが二つある。

    再婚を懇願されていた男の家には先妻が遺した二人の息子。物心が付いていた兄は決して懐こうとはしなかった。神社の宝物殿に忍び込んで掛軸を盗んで捕まり、「あの女にやれと命令された」と嘘を付く。亡き母親を守る為に新しくその座に座ろうとする女を敵視する子供の純情。義母に家を追い出されて息子と引き離された女は思う。自分の息子がまだ自分にそんな想いを抱いてくれていたならばどれだけ嬉しいことか。だからこそ、その子のことを憎めなかった。全部自分が罪を引っ被って逃げ出すことにした。その子の純情を守る為に。

    やっと大学受験も終わり、妹の入院している病院に朝早く着く兄。積もっているのは初雪、その雪を足で掻き桜の花びらを描いてやる。妹の五階の病室からもよく見えるように出来るだけ大きく。「ほらどうだ、桜が満開だぜ」なんて嘯く為に。だが妹は前夜に亡くなっており、息子の受験を案じた両親が知らせていなかっただけだった。冷たくなった妹の顔、その窓から見えるのは泥に汚れた桜のつもりだった絵。その醜さ。それがまるで自分自身に思えた。

    彼女はしあわせになった
    雪がたくさんつもった夜に
    溶けてなくなるその雪を
    眺めていたのは誰

    SION『信号』

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    2024/03/15 00:36

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