実演鑑賞
満足度★★★
終盤の劇中、流山児祥氏が叫ぶ。「これのどこが『田園に死す』だ!?」、どっと笑う観客。『田園に死す』を叩き台に使った、天野天街大全みたいな舞台。ループ・ギャグ、駄洒落、時空間の割れ目、消失、入れ替え、デジャヴ、現実と虚構、無限問答、メタフィクション、昭和初期のギャグ、盆踊りのような群舞、飛ぶフィルム、言葉遊び···、天野天街ワールドを堪能するのだ。好きな奴には堪らなく好きな御馳走だろう。
やはり振付は夕沈さん。
中学生の寺山修司(木暮拓矢氏)と母(平野直美さん)、隣家の沖田乱氏と嫁入りした伊藤弘子さん。沖田乱氏は快楽亭ブラック&荒井注っぽい。
寺山修司は母親の支配から逃れて、女と東京へ駆落ちする妄想を抱いている。
村に来た怪しいサーカス団に潜入するのは少年探偵団。それを率いる小林芳雄を演じるのはさとうこうじ氏。せんだみつおのような、レツゴー三匹のじゅんのような、中川剛のような、躁病スタイル。
サーカス団の空気女他は新部聖⼦(にいべみなこ)さん、印象に残るおかっぱ。
竹本優希さんはやたら綺麗。目鼻立ちのハッキリしたJAC顔。簪代わりの五寸釘。
寺山修司は分裂する。眞藤(しんどう)ヒロシ氏、五島三四郎氏。
そして寺十吾氏はここでも当然のようにいた。遺影の父であり、怪人二十面相でもあり。だが彼は本当は実在しないのではないか?昔、押井守が『ルパン三世』の劇場版をやる事になった。その時の押井守のネタが、「ルパンは実在せず、次元五右ェ門不二子が代わる代わる演じ合っている共同幻想であった」というもの。それに怒り狂った上層部は押井守を引き摺り降ろし、突貫工事で『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』を全く別のスタッフに作らせることに。何か寺十吾氏も舞台上にだけ漂う如く存在する共同幻想なのかも知れない。
天野天街作品で一番観客にドッカンドッカン笑いが起きていた。是非観に行って頂きたい。