実演鑑賞
満足度★★★★
凄く面白かった。何かチェーホフが初めてしっくり来た。鈴木清順の後期、『夢二』みたいな質感。演出の画角がバストショットで日本人風に繰り広げられる為、非常に解り易い。演出家の解釈が映画的でキャラクターをきっちり説明してくれている。思うに戦後の日本映画はかなりチェーホフに影響を受けているのだろう。起こる大事件は全て噂話、観客にはその隙間を垣間見せるだけ。ほんの少ししか見せず、観客の想像力を刺激して作品を補わせる手法。
役者のレヴェルが本物。こういう奴が観たかった。
ピアノを弾き、壁に何かを書き連ねるトレープレフ(喜多貴幸氏)。作家志望の青年は田舎の叔父ソーリン(竹内修氏)の屋敷に滞在している。その湖畔にある屋敷の一つに住む地主の娘、若き美しきニーナ(藤沢玲花さん)を主演に自作の舞台を発表するのだ。彼の母親アルカージナ(中込佐知子さん)は有名な大女優で著名な作家トリゴーリン(田中飄氏)を愛人として引き連れている。叔父の屋敷の支配人(執事)シャムラーエフ(中川香果〈かぐみ〉氏)と妻ポリーナ(須川弥香〈みか〉さん)、その娘マーシャ(安田明由さん)。マーシャに求婚している教師メドヴェージェンコ(佐藤幾優〈いくま〉氏)。やたらモテる医師ドールン(早船聡氏)。
屋敷の中庭の特設ステージでトレープレフは舞台を開幕。古き悪しき閉鎖的保守的な現代演劇界への宣戦布告、未だ誰も見ぬ全く新しき革命的作品のつもりだったが、ろくに観て貰えず嘲笑され全く相手にされやしない。傷付いて途中で打ち切り立ち去る。ニーナは有名な作家、トリゴーリンを紹介されて夢中になる。
大都会モスクワで女優になることを夢見るニーナ、藤沢玲花さんが美しい。有名になることへの幼稚な憧れがリアル。
トリゴーリン、田中飄氏はウィレム・デフォーと佐藤浩市を足した感じ。
ドクトルを誘惑し追い回すポリーナ、須川弥香さんの怪演に客席がどっと湧いた。
トレープレフを恋するマーシャ、安田明由さんは喪服姿のゴスロリ腐女子。二階堂ふみとかがやりそうな役。この過剰な現代風アレンジは正解。
嫌味な大女優アルカージナ、中込佐知子さんは桃井かおり調。こういう役に日本人は皆、桃井かおりを連想する。それだけイメージが強烈なのだろう。
この遣り口で『桜の園』や『三人姉妹』はどうなるのか?観てみたい。
かなり面白いので是非観に行って頂きたい。