
兄妹どんぶり
劇団道学先生
新宿シアタートップス(東京都)
2024/10/09 (水) ~ 2024/10/15 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
『無頼の女房』を観て、やっぱり青山勝氏の演出力はずば抜けているなと再認識。かんのひとみさんだけを頼りに何となくチケットを購入。これが万馬券。荒み切った心の砂漠を潤してくれる恵みの雨。金を払ってでも観るべき芝居とはこれだ。騙されたと思って観に行って頂きたい。帰りに物販で散財したくなる筈。故・中島淳彦氏にRespect。このクラスの脚本を出されたら文句のつけようがない。ただただ感心。凄い作品だ。
主演の演歌歌手を目指す少女は初舞台!?の宏菜(ひろな)さん。随分歌上手い女優だなあと思っていたが本業は弾き語りのシンガーソングライター。ちょっと度肝を抜かれた。若き日の新垣里沙や高畑充希、蒼井優系の清純派の田舎娘だが歌い始めると観客の心を鷲掴み。よくこんな娘を見付けてきたもんだ。
そのマネージャーで義理の兄でもある佐藤銀平氏は佐藤B作氏の息子!もう見事と言うしかない絶品の話術。圧倒された。つかこうへい節の角番の男を舞台に鮮烈に刻み付ける。
時代は平成元年(1989年)、東京の下町にある居酒屋「歌声」。元音楽プロデューサーだった旦那(佐藤達氏)と店を切り盛りする女将(かんのひとみさん)のもとに兄妹(佐藤銀平氏&宏菜さん)がやって来る。「天才的な歌声を持つ妹をプロの演歌歌手にする為、裸一貫大阪から上京して来た。ついてはしばらくここで働かせてくれ」と。そこに元教師(藤崎卓也氏)率いる商店街のアマチュア・コーラス・グループが稽古にやって来る。昼間は店を稽古場として提供していたのだ。頼まれた妹は彼等に混じり歌声を響かせる。フォーク・ソングにかなり小節(こぶし)を回して・・・。
各役者の役に仕込んだ細かなキャラ設定が抜群に味になる。
佐藤達氏のちょっとゲイっぽい仕草とか巧妙。
芸能プロダクション社長、板垣雄亮(ゆうすけ)氏は何かとボブルヘッド人形のように頭を左右に揺らす癖。
消えた演歌の天才作曲家、ジョージ相原役の宮地大介氏。これがへべれけの志村喬や由利徹のようでヨロヨロ歩くコミカルな動作が場内を爆笑に叩き込む。お見事!
藤崎卓也氏が身にまとう笑いのセンスは自分の大好物。この斉木しげる系の笑いを求めていた。
気田睦(けたむつみ)氏が咥えているのは禁煙パイポだろうか?水道橋博士を思わせる表情。
菅沼岳氏はBEGIN寄せ。
夫の佐藤銀平氏を追って上京して来た妻の山像(やまがた)かおりさんがまた最高。きっちり物語を構えてみせる。
酔ったかんのひとみさんが忘れられない見せ場を作る。
美空ひばりの曲が効果的に使われる。ひばりが亡くなったのはこの年の6月24日。美空ひばりの『みだれ髪』は最早文学の域にまで達している傑作だと思う。
是非観に行って頂きたい。そして宏菜さんのCDを買って欲しい。

現代韓国演劇2作品上演「最後の面会」「少年Bが住む家」
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2024/10/04 (金) ~ 2024/10/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『少年Bが住む家』
ある韓国の田舎町、自動車修理店を営む家。母親(鬼頭典子さん)、父親(横山祥二氏)、20歳の息子デファン(八頭司悠友〈やとうじゆうすけ〉氏)が朝食を囲んでいる。変に気遣った妙な雰囲気。向かいの家に引っ越して来た妊婦の奥さん(横幕和美さん)が挨拶に訪れると、慌ててデファンは屋根裏に隠れる。奥さんの職業は講師で父母教育のワークショップの勧誘をする。家族がより良く在る為にはそれぞれの役割を改めて学ぶ教育こそが必要だと。その話に目の色を変えて食いつく母親。胡散臭く思う父親は話を打ち切って帰らせる。ソウルに暮らす28歳の娘ユナ(森川由樹さん)から電話、「サプライズがあるの!」と。帰郷して来るらしい。
韓国のチープな歌謡曲が場面転換ごとに流れる。日本だと昭和50年代位の雰囲気。
少年凶悪犯罪を犯した息子を持つ家庭。地元では白眼視され陰口を叩かれているが父親は意地でも引っ越さなかった。被害者遺族に謝罪したいものの面会を拒否されてそのままに。
鬼頭典子さんは流石の芝居。かんのひとみさんとがっぷり四つで絡ませた芝居なんか観てみたい。
猫背でおどおどした吃りのデファン役、八頭司悠友氏は元弾丸ジャッキーのオラキオっぽい。
横山祥二氏もリアル。生活に疲れ果てた悲愴感。
森川由樹さんは韓国人女性っぽい。パックのシーンが良い。
横幕和美さんは有能なコメディリリーフ。
厳しく冷徹な保護観察官役の藤田一真氏は松岡修造と秋山成勲のブレンド。実にいいムードを作っていた。
少年B役の中田翔真氏は衝撃的なシーンを刻み付ける。デイヴィッド・リンチ作品やラース・フォン・トリアーの『ハウス・ジャック・ビルト』を連想させる狂気。
是非観に行って頂きたい。

真空プール
劇団フィータル
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2024/10/06 (日) ~ 2024/10/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
タイトルとチラシのイメージでかなり陰々滅々たる作品を想像していた。若松孝二監督・内田裕也主演の『水のないプール』は「仙台クロロホルム連続暴行魔事件」の映画化だった。しかも劇団名フィータルは胎児の意味。現実に窒息しそうな者達の喘ぎ声叫び声過呼吸SOSをイメージ。
コロナ禍の地方病院で実際に勤務していた作家のリアルな体験記。開演前と終演後に挨拶した作家(ジェシカ)さんは惣田紗莉渚っぽい、ほんわかした人。舞台が開幕するとミュージカルのように踊りながら笑顔で役者達が舞台美術をセット。愛知県豊橋市の三河弁が炸裂する。5年一貫看護学校を卒業するニ人、看護師国家試験に合格出来るか不安。二人共見事合格。安齋彩音さんと赤石さくらさん。配属された病院に待ち受ける厳しい新人指導担当の山本蓮さん、主任の宮本順子さん。主任の娘の同期にさとうあかりさん。男性看護師の関秀斗氏は陽キャなパリピ。研修医の坂本七秋氏も同期。これが普通に日常をめくるだけなのだが妙に面白い。特に何の事件も起きない。明るくて好感の持てる作風は東京向き。かるがも団地みたいに支持されそう。多分次来る時はもっと観客が期待大で待ち構えている。
夜、スナックでバイトしている安齋彩音さん、そこのママの渡邉理衣さんがいい味。凄く既視感があったのだが思い出せなかった。
宮本順子さんは宝塚顔。
関秀斗氏はありがちなキャラだがハマリ役。バカっぽさとパチンカスが嫌味にならない。
赤石さくらさんと坂本七秋氏のエピソードも巧い。
私利私欲を感じさせるキャラが全く出てこなかったことが観劇後の爽快感に繋がったのかも知れない。
面白かった。

現代韓国演劇2作品上演「最後の面会」「少年Bが住む家」
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2024/10/04 (金) ~ 2024/10/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『最後の面会』
流石の傑作。これを日本人ではなく韓国人が記したことが文化の強度を物語る。日本人はこんな話、もう誰も求めてはいない。日本人が欲しいのは手が届く恋愛物語と成功物語だけ。この国の教育はきっと完成されたのだろう。支配層の理想通りに。
刑務所の面会室、机の上に仕切りのアクリル板のみ。死刑囚と面会人はシーンによって位置を入れ替えもする。客席に背を向けて座る手前側の者の表情は板に反射して映る。ステージの角の隅に丸椅子が一つずつ。二人の刑務官はかつての父親になったり、事件を起こす前の自分になったりする。
オウム真理教、死刑囚林泰男(山口眞司氏)。
長文の熱意溢れる手紙を送り面会に漕ぎ着けた女性ルポライター(佐藤あかりさん)。
若き日の林泰男を演ずる奥田一平氏。
国鉄職員だった生真面目な林泰男の父に髙井康行氏。
大学を卒業しバックパッカーとして世界中を放浪。帰国後、「オウム神仙の会」(後のオウム真理教)と出会う。自己の救済の為に解脱を果たし、その上で衆生(全人類)の救済に至ろうと考えた。最終的にはこの道こそがこの世の全ての人間が苦しみから解放される唯一の方法だと信じた。幾多もの事件を重ねたオウム真理教、教団本部への強制捜査が間近に迫り、捜査の撹乱を狙って大きなテロを計画。1995年3月、5人の信者が走る地下鉄車内で神経ガス・サリンを散布。霞ヶ関駅に勤める官僚の通勤ラッシュを狙って午前8時、サリンの入ったビニール袋を床に置き、先端を削った傘で穴を開けて逃亡。死者14名、負傷者6300人。林泰男だけサリンを3袋持ち込んだ為、逃亡指名手配中に「殺人マシン」との呼び名が付く。麻原彰晃奪還の為に手段を選ばない狂信的テロリストのイメージ。
この世を良くしたいと思った。苦しんでいる人達を救いたいと思った。誰もが公平に平等に生きる喜びを享受出来る世界に。その為には自分を犠牲にしようと。
山口眞司氏は今一番旬な役者。出演する作品全て見逃す訳にはいかない問題作ばかり。こんな凄い存在をリアルタイムで味わえる幸福。
是非観に行って頂きたい。

広い世界のほとりに
劇団昴
あうるすぽっと(東京都)
2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「広い世界のほとりに、独り佇みもの思えば、恋も名誉も無に沈む」19世紀のロマン主義詩人ジョン・キーツ。
この世界、実は何も無いと気付いた詩人が吐いた溜息。だが何かあるのでは?無の中にまだ何かあるのでは?足掻いた英国の劇作家サイモン・スティーヴンスの書き殴った戯曲が今作。果たして何か有ったのだろうか?それは観劇した者それぞれの胸の内。
開演前にはモリッシーの曲が流れている。
ホームズ家の三世代家族の人間模様。個人で独立して工務店をやっているピーター(江崎泰介氏)、妻のアリス(落合るみさん)。リタイアしたが時々手伝ってくれるピーターの父親チャーリー(金尾哲夫氏)、妻のエレン(姉崎公美さん)夫妻は近くに住んでいる。ピーターの息子、18のアレックス(笹井達規氏)、15のクリストファー(福田匡伸氏)。
アレックスはドイツ人の彼女、サラ(賀原美空〈みく〉さん)が出来て家に泊まらせる。クリストファーは一目で彼女に夢中になる。アレックスとサラは二人で家を出てロンドンで暮らそうと考える。何気なく家族の生活に落ちた小さな石ころが波紋となり、遂には家族の存在の核にまで届き揺さぶっていく。
休憩10分込みで2時間50分。
ハッキリ言って前半は退屈。だが休憩後の後半がまるで違う作品のように面白い。これを味わわないのは実に勿体ない。落合るみさんがどんどんどんどんイイ女になっていく。恋バナの時の表情なんか少女のよう。どこの国もこの年代の女性がキーパーソンなんだな。
主人公ピーターに家の修繕の依頼をする妊婦スーザン(舞山裕子さん)もいい味。ピーターの誰にも言えない心の痛みをずっと静かに聞いてあげる。
観客も世界もいつしかピーターのどうしようもない心象風景に同期していく。
杉山至氏の舞台美術に照明の田中祐太氏が投げ掛ける光。影の形を練って作った造形なのだろう。伸びる影のフォルムが見事な演出となっている。登場人物達の心情を伝える光と影の演出。
この戯曲の本国での評価は各世代の纏った痛切なリアリティーなんだと思う。それぞれの抱えたやり切れなさ。
是非観に行って頂きたい。

RTA・インマイ・ラヴァー
東京にこにこちゃん
駅前劇場(東京都)
2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
作家・萩田頌豊与(はぎたつぐとよ)氏の飽くなき姿勢にビンビン来る。(何故かスターダスト・プロモーション所属になった)。ある種の狂気すら感じる。独特の会話ギャグがノンストップで炸裂。初日に集った若い観客等は待ってましたの爆笑の連続。面白かろうがつまらなかろうが思い付いたこと全部ぶち込む姿勢を全面的に支持。とにかく手を伸ばしている。その先に手を伸ばしている。何でだか判らないがひたすら手を。何が正解かなんて誰にも解らない。その手を伸ばす情熱に興奮している。
主演の前田悠雅さんは綺麗すぎて怖ろしくなる程だった。ファンは全公演全通する位で丁度いい。そのぐらいの価値は断然ある舞台。損はさせない。一体全体もう I don't know!
野上篤史氏は独特なキャラ。
木下もくめさんは気が違っている。
藤本美也子さんは長身。
立川がじら氏は設楽統っぽい喋り方。
高畑遊さんはいつも通り。
てっぺい右利き氏の安定感、段々大物っぽい雰囲気に。
加藤美佐江さんは訳が分からない。
やたらスピードを競い合う世の中で何をやるにもノロマで何事も決めかねる主人公。主人公達の小学校の教室の風景から恋や部活の青春模様、成長物語が描かれていく。だが何とは言えぬ違和感が少しずつ覆い始めるとあっという間に世界は一変してしまう。
今作のテーマは「バグ」(プログラム上のミス)。
是非観に行って頂きたい。

グローバル・ベイビー・ファクトリー
劇団印象-indian elephant-
座・高円寺2(東京都)
2024/09/30 (月) ~ 2024/09/30 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
凄まじい傑作。
東京演劇アンサンブルの『彼女たちの断片』と同じ系譜。
どうしたって女性にしか語れない問題、“出産”の核にあるものを掘り起こす。リーディング公演というよりもクラウドファンディング目的の読み合わせのようにも感じた。作品は完璧に完成している。誰か映画化してくれ。ト書きの通りに実際の公演の模様を容易く思い浮かべることが出来る。(実際、2014年3月に調布市せんがわ劇場にて公演済み)。いや、これ観たい。ラストをどう持っていくのかずっと気になっていたが成程!
ギッチリ入った観客。テーマに対しての関心は高い。自分の子供を残す行為、DNAのバトンを未来に託すリレー、生物の本能。だが日本の現状は少子化の止まらない進行による超高齢化社会。2024年現在にて65歳以上の人口の割合は29.3%。間違いなく機能不全に陥る日本社会。未来の話ではなく今の現実だ。
主演・砂子役の佐野美千子さんが最高。(砂子と名付ける親もどうかと思うが)。美人のキャリア・ウーマン、男を必要としない稼ぎ。全てを持っているが37歳という年齢に不安を覚えていく。父親(太田宏氏)、母親(佐野美幸さん)のプレッシャーに負けてお見合いパーティーに。(父親の台詞「ま〜わ〜り〜く〜ど〜く〜」が秀逸)。そこで出会った脚フェチの容器メーカー営業、佐藤滋氏と結婚。腹部に違和感を感じ、産婦人科へ。妊娠五週目だったが子宮頸がんと診断され子宮全摘出へ。これでもう自分の子供を持てなくなった絶望感。そこに現れた最後の希望、代理母出産。
佐藤滋氏はゴン中山似。
親戚の「結婚しないの」合唱団が素晴らしい。メチャクチャ完成されたコーラス。
ト書きから卵子のクジャク、代理母の一人、ラストの赤ん坊まで演じた笹良まゆさんが芸達者。
インド人代理母、ナジマ・ヴァグラを演じた大久保眞希さんも名演。ヒンディー語映画『愛するがゆえに』の主題歌、アリジット・シンの「Tum Hi Ho」を皆で歌うシーンは絶品。
挿入される精子スキヤキ(太田宏氏)と卵子クジャク(笹良まゆさん)のエピソードが作品を多面的なものにしている。善悪ではなく事実の提示。
「子供が欲しい」が「血の繋がった子供が欲しい」になり、今では「自分達のDNAを持った子供が欲しい」に。DNAなんて皆知らない方が良かったのかも。子供の意味合いが変わってしまった。
泣けるシーンが多々ある。妊娠していた自分、胎児ごと殺して子宮を摘出しなければいけない自分。手に入った筈のものを知った時から痛切に迫る欠落感。狂おしい程この欠落感に悩まされる。
今回カットされたシーンは佐藤滋氏の新鮮な精子を採るコミカルな場面。

江川蘭子の数奇な運命
犬儒派リーディングアクト
アトリエ三軒茶屋(東京都)
2024/09/27 (金) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
犬儒派(キュニコス派)とは古代ギリシャ哲学で「野良犬のように自然に与えられたものだけであるがままに生きていく」心の持ちようのこと。
6人の作家によるリレー探偵小説『江川蘭子』の第一回の江戸川乱歩執筆部分、同じく乱歩の短編『踊る一寸法師』、オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』。この3作品を同時進行で語っていく。
行動主義心理学を生み出したジョン・ブローダス・ワトソンの学説を引用し、生後数ヶ月の環境によって人間の行動と心理の因果関係が決定されると語る乱歩。「支持の滅失」という独特な言葉が繰り返される。安全な安定した状態から危険な不安定な状態に不意に落とされる恐怖感を「支持の滅失」と呼んでいるようだ。
①江川蘭子は特異な環境で育ち、「支持の滅失」に悦楽を感じるある種の変態。死への恐怖にこそ魅せられる化物。才色兼備、運動能力にも長けた美少女が家出し、曲馬団(サーカス団)で空中ブランコ乗りになる。
②曲馬団の緑(ろく)さんは一寸法師(小人症)の道化役だった。いつも団員の玩具にされて虐められている。美人玉乗りのお花に惚れているがお花の方はからかって嘲っている。公演後の酒席の宴で余興として隠し芸大会が始まる。緑さんとお玉は美人獄門の大魔術を披露することに。
③ユダヤの王の義理の娘サロメは井戸に幽閉されている預言者ヨカナーンに恋をする。彼に拒まれたサロメはどんな手を使っても口づけをすると誓う。
壇上に4つの椅子。左端の天才ナカムラスペシャル氏は植本純米氏っぽかった。真ん中2つの椅子、橋本樹里さん、松葉麻里花さん、愛弓(あゆみ)さんはシーンによって入れ替わる。右端の宇鉄菊三氏は岸田森や内田裕也系の顔で声が独特、声優向き。
口周りに血が付いたり、「首」と書かれた紙に赤い糸で血痕が垂れていたり、赤い紙を血飛沫として撒いたりの演出。
オープニングのSEが布袋寅泰の『CIRCUS』。この曲のイントロの元ネタはボニーMの『怪僧ラスプーチン』だろう。ちなみに林あさ美の『ジパング』はモロの替え歌。

白魔来るーハクマキタルー
ラビット番長
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2024/09/26 (木) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
滅茶苦茶面白い。
タイトルだけでずっと観たかったのは今作と鵺的の『悪魔を汚せ』。全く情報を入れずに観たのが正解。ラビット番長は再演を度々行なってくれるのが本当に有難い。
ホラーなのかと思っていたらガッチリした人間ドラマ。改めてチラシを見るとよく出来たイラストだ。まさにこれ。場面転換に使うのは土間と板の間を遮る障子戸、左に3枚右に3枚。
北海道の北西部苫前(とままえ)郡を旅行していた2組の大学生カップル(宇田川佳寿記氏&鈴木彩愛さん、金田央〈ひろと〉氏&青山真梨さん)。渋滞を避けようと脇道に入ったところホワイトアウトに遭い車の中で暖を取る。ガソリンも底を尽き救助を呼ぼうと外に出、一軒の建物の灯りに辿り着く。廃墟のような小屋には老人(松沢英明氏)が独り、一晩泊めて貰うことに。「何でこんな廃村に一人でいるのか?」皆が不思議に思う。「それを伝えるには長い昔話が必要だ」と老人はゆっくりと話し始める。時は1915年(大正4年)、日清日露戦争に日本が勝利し第一次世界大戦に参戦した時代の物語。
ラビット番長オールスターズ、皆適材適所に適役でハマっている。
鈴木彩愛さん、江崎香澄さん、流石の見せ場。
子役の酒井碧葉君、大崎嬉(うれい)ちゃん、プロの仕事。
MVPは傲岸不遜の陸軍隊長・宮沢天氏。
是非観に行って頂きたい。

るつぼ
演劇ユニットキングスメン
座・高円寺2(東京都)
2024/09/25 (水) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
チケットを発売日に定価で買った。
『るつぼ』は堤真一、黒木華、松雪泰子、溝端淳平ヴァージョンを観ている。ただ黒木華さんが観たかっただけなのだが、堤真一氏のラストの独白にやられた記憶。サルトルの『壁』と云う短編小説に近い衝撃を受けた。自身の存在と死との対峙を極限まで追求し考え抜いたもの。
1692年アメリカで実際に起きた「セイラム魔女裁判」を戯曲化。魔女と告発された村人150人以上が逮捕、25名が死亡。当時田舎の村、セイラムのピューリタン(キリスト教プロテスタント派の総称)の教義では回心を重要視。「罪を認めれば許される」という宗教的倫理観から被疑者達は悪魔との契約を認め、求められるがままに自白した結果こうなったという。悪を認めて他者を告発すれば許されたのだ。やってもいない悪を認められなかった善良な信者達だけが絞首台に吊るされた。
アーサー・ミラーが今作を発表した1953年はアメリカで赤狩りの真っ最中。マッカーシズム=共産主義者追放運動が公然と行なわれ、疑われた者達は公職を追放されていた。無実の者達がその無実を理由に処刑されていく社会の狂気、そこがテーマであろう。
主人公ジョン・プロクター(平澤智之氏)は妻エリザベス(絵里さん)がありながら、17歳の女中、アビゲイル・ウィリアムズ(絵里さん二役)と一夜肉体関係を結んでしまう。勘づいた妻はアビゲイルを解雇する。
アビゲイルは叔父のパリス牧師(マキノマサト氏)の家に身を寄せる。夜な夜な深夜の森に少女達を集め、カリブ海のバルバドス島出身の奴隷・ティテュバ(芳尾孝子さん)の知るブードゥー教の儀式をもって降霊会を開催。(日本でいうコックリさん)。到頭それをパリス牧師に目撃されてしまう。全裸の少女達が森でトランス状態で踊り狂う様を見たパリス牧師は悪魔に取り憑かれていると考え、悪魔祓いの為に専門家のヘイル牧師(小松大和氏)を呼ぶことに。
問い詰められたアビゲイル達は村に悪魔が住み着き、村人達を操っていると告発。魔女狩りが始まる。
胸元を強調する絵里さん(の胸元)が気になった。だが何故二役を演じたのか?演出的に意味があるのなら平澤智之氏も相反する二役を演らないと釣り合わないだろう。
芳尾孝子さんがろう者とは知らず、緊張で台詞を出すタイミングが判らない為、石井亮次氏が背中を叩いて合図をしているのかと勘違いして観ていた。大変申し訳ない。素晴らしかった。石井亮次氏をもしや『ゴゴスマ』の司会者?と勘繰っていたが普通に同姓同名。
平澤智之氏は本田博太郎と町田町蔵(康)を合わせた野性味。足がデカく足の指が柔道経験者っぽかった。
今作は万有引力の『チェンチ一族』風味に調理するのが正解なのでは。正攻法で行っても何か行き詰まるネタ。
プロクター家の女中・メアリー・ウォーレン役の山本麻祐さんが全て振り切って何も関係なく突っ走っていたのがMVP。ひたすら突っ走れ!

ベラスケスとルーベンス
やみ・あがりシアター
Paperback Studio(東京都)
2024/09/21 (土) ~ 2024/09/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
凄く面白い。
素舞台で二人の女優が会話するだけ。それなのにここまでの作品になるとは。考え尽くされた脚本と魅力溢れる役者さえいれば他にはもう何もいらないのだろう。
この脚本にも感心するが、これを現実世界に受肉してみせた二人こそ讃えられるべきだろう。どんなに良い曲を作っても誰かが歌ってくれないことには存在し得ない。
開演前に主催の笠浦静花さんが劇中で台本を朗読してくれる者を募集する。総勢13人。一台詞ごとに100円を貼り付けた紙を渡す。皆、腕に覚えのある人々が集まったのか参加者がスムーズに決まり見事本編に納まった。開幕と閉幕に観客全員で朗読する箇所もあり、ただぼんやりと眺めている訳にはいかせないような仕掛け。参加させる演劇。いろいろと仕掛けていくアイディア。
1628年9月、スペインの首都マドリード。スペイン・ハプスブルク家の支配からネーデルラント(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルク)が独立戦争を仕掛けた八十年戦争の休戦期。イングランド(イギリス)はネーデルラントを支援する大元。七ヵ国語を操る画家ピーテル・パウル・ルーベンス(木下祐子さん)は外交官としても重宝され、スペインとイングランドにおいて戦争の終結の為に働いていた。スペイン国王フェリペ4世から寵愛を受けた若き宮廷画家ディエゴ・ベラスケス(加藤睦望さん)。自作の「フェリペ4世の騎馬肖像」が離宮から外されルーベンスのものが飾られた事にショックを受ける。
木下祐子さんは何でも出来るいい女。森ようこさんみたいな量り切れない容量を感じた。
加藤睦望さんはオリジナル。もう誰も代わりが出来ない。
色々と考えさせられた。

セチュアンの善人
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2024/09/20 (金) ~ 2024/09/28 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
A
第一幕95分、休憩15分、第二幕70分。
吉田拓郎っぽい曲、「その日の名前は“決して来ない”」が印象的に使われる。
新生俳優座!伝統もプライドもかなぐり捨ててガチで生き残りに賭けてきた感じ。全面的に支持する。老人相手の慰問交流会じゃ演ってる方もつまらないだろう。とにかく面白い作品を胸を張って客に届けて欲しい。「これでどうだ!」と自信を持って。
桐朋学園芸術短期大学創立60周年記念事業として、19名の学生が参加。これが功を奏している。新鮮なエネルギーが漲ったステージ。上手サイドでアンサンブルの学生達が様々な小道具を使って効果音を出していく。下手サイドでも複数のワイングラスを使って音を出していたようだがそれはよく見えなかった。
中国・四川(スーチュアン)省が舞台。貧困に喘ぐスラムのような町。貧しき水売りのワン(渡邉咲和〈さわ〉さん)は3人の神様が下界に降りて旅をしている噂を聞き、町の入口で待ち続ける。やって来た彼等は東方の三賢者のようなイメージで白いクルタ姿、上田雪矢氏、中寛三氏、伊東達広氏。「人間界にどれだけまだ善なる者が残っているのか確かめに来た」と言う彼等。一晩泊まる宿を所望され、町を駆けずり回って探すワンだったが皆に断られる。やっと快く了承してくれたのはお人好しで有名な卑しき娼婦シェン・テ(森山智寛氏)だけ。3人の神様は彼女の善性に感動し御礼として大金を置いていく。シェン・テはその金で珈琲豆店を開くことに。だが次から次へと彼女にたかってくる無為徒食の連中に悩まされ、シェン・テの善性はどんどん追い詰められていく。
狂言回しの渡邉咲和さんがステージ中を大疾走、漫画のどろろみたいな元気っぷり。
クズっぷりが似合う八柳豪氏も魅力的。
神様の一人、上田雪矢氏もいい配役。ADHDっぼい頼りなさ。
MVPは勿論、主演の森山智寛氏。冷徹なる筧利夫的なクールビューティー、『リベリオン』みたいな衣装。
長さを全く感じさせない工夫に充ちた面白さ。他のヴァージョンも観てみたくなった。
是非観に行って頂きたい。

戦争とは…『被爆樹巡礼』『犬やねこが消えた』
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2024/07/15 (月) ~ 2024/07/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①「犬やねこが消えた」
犬役の髙宮千尋さんに妙な既視感を感じていたが、元AKB田野優花似が理由だったことにやっと気付く。方南ぐみの『青空』も同じ話だった。昭和19年、「犬原皮増産確保並狂犬病根絶対策要綱」が全国に通達され、軍需用皮革製品の為に飼い犬や飼い猫を供出させられることとなる。家族のように可愛がっていた犬や猫が“御国の為に”屠殺されなければならない。その時の張り裂けた心は一生ついて回り、何十年経って老いた今日も自らを苦しめ続ける。悔恨、無力感、理不尽への怒り。国を責め己を責める。何故あんなか弱き者達が殺されなければならなかったのか?あの時の怯えた目、助けを求める声、最期のあの鳴き声が耳にこびり付いて離れない。自分は人間よりも犬猫の方に感情移入するタイプなので彼等の気持ちは他人事ではない。危急時この世の常として弱い立場のものに皺寄せが来る。そんな世界は滅ぼしてしまえ。昨日今日生まれた子猫の為にこそ世界は存在する。その為だけの世界だ。
オープニング、中村たつさん(96歳!)によって茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」が朗読される。理不尽な人生への復讐の為、自殺ではなく長生きすることを選んだ詩。兎に角生きてやる。生きて生きて生き続けてやる。生き続けることこそが復讐だ。皮肉の効いた「倚りかからず」も。
岩崎加根子さん(91歳!)と阿部百合子さん(91歳!)、遠藤剛氏も健在だ。
ピアノを伴奏しエンヤのようにハミングで歌う石塚まみさんが素晴らしい。作曲も兼ねている。
作家の井上こみち(椎名慧都さん)が犬の散歩をしている松本潤子さんから戦時中の話を聞き、気になって調べ出す。ラジオ番組のディレクター、小泉将臣氏が情報を提供。二人は全国を飛び回り日本の隠蔽された黒歴史を暴いていく。
小泉将臣氏は大谷翔平と江口洋介を足したようなカッコ良さ。
②『被爆樹巡礼』
原爆投下によって被爆地周辺は「75年間は草木も生えぬ」と言われた。だが一面焼け野原、放射能の地獄の中から芽吹く樹木があった。研究者、作家の杉原梨江子(髙宮千尋さん)はカメラを持ち被爆樹木を訪ねて回る。絶望の底にいた被爆者達に生命の神秘が希望の灯となる。生命がそんなに不思議なものならば自分にだって奇跡は起こるのだと。

8人の女
劇団しゃれこうべ
シアター風姿花伝(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/16 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
1950年代のフランスの郊外、かつて成功を収めた実業家マルセルの屋敷。大雪が降り積もる中、ロンドンの大学からクリスマス休暇で帰郷して来た長女(一歳ナンギさん)。笑顔で出迎えるのは乳母として彼女を育てた女中の安田美忍(みお)さん。新人女中の原島千佳さんはやる気がなく不貞腐れている。気位が高くきつい物言いのマルセルの妻、和泉美春さん。高校生の次女、與儀千聖(よぎちとせ)さんは精神年齢が低くまだかなりガキっぽい立ち居振る舞い。
妻の母親と妹が居候、車椅子の眞野さよさんと持病持ちでオールドミスの田村祐子さん。
なかなか起きて来ないマルセルの部屋に入る原島千佳さん、血塗れのベッドの上でうつ伏せに横たわり背中にはナイフが突き刺さっている。悲鳴絶叫。皆がその様子を確認すると與儀千聖さんは部屋に外から鍵を掛ける。「警察を呼ぶまで現場をこのまま保存する」と。番犬が全く吠えなかったことから犯人は侵入者ではなく、この中にいる可能性が高い。疑心暗鬼の7人、そして8人目の女もやって来る。

ヤマモトさんはまだいる
東京演劇アンサンブル
あうるすぽっと(東京都)
2024/09/12 (木) ~ 2024/09/16 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ドイツを代表する劇作家デーア・ローアーの文明批評、人生観のエッセイみたいな作品。東京演劇アンサンブル創立70年の為に書き下ろしたものでスイス・チューリッヒ国立劇場との世界ダブル初演。この後、ドイツ・シュツットガルト州立劇場での上演も控えている。
音楽は晩年の黒澤明映画を支えた池辺晋一郎氏81歳!
「貴方方はヴァーチャルな仮想空間をせっせと創り、そこに魂を移そうとしている。全ての欲望が充たされる夢のような嘘の世界。その嘘に依存して醜い“現実”を捨て去ろうと。正気?You talkin' to me?」
廻り舞台で基本時計回りに回る。白い部屋、黒い部屋、白い部屋、黒い部屋と4つ。登場人物やシチュエーション、会話の内容に脈絡がないので初め観客は混乱していく。ある街の人間模様のスケッチのような。
ドイツのアパート、空き部屋を見に来た林亜里子(ありす)さん。半開きのドアから入ってみると、そこはガランとした空室。だがそこにいたニノ(永野愛理さん)がこの部屋は空いていないと言う。「ヤマモトさんはまだいます」と。
隣室のヤマモトさん(志賀澤子さん)と会った話をパートナーのエリック(雨宮大夢氏)にするニノ。身体の衰えた孤独な老婆。その内に家に招待する。引きこもりの姪(福井奏美さん)もやって来てヤマモトさんの半生を聴く。別れた夫は製材所を経営、フリークライミングが趣味だった息子は山で亡くなったという。
永野愛理さんは美青年、大股開きでどっかと座る。衣裳・稲村朋子さんのセンスなのかシャツとズボンとスニーカーの色合いが抜群。濃いブルーをアクセントに。
雨宮大夢氏はガリタ・プロデューサーみたいなメイク。二人の設定はゲイのカップルなのか?男装女子みたいなのも普通にあるのでよく判らない。
宮山知衣さんが凄くいい女だった。
仙石貴久江さんが出ていないのが不思議。

そして下北沢で我々は
片岡自動車工業
ステージカフェ下北沢亭(東京都)
2024/09/12 (木) ~ 2024/09/16 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
凄く面白い。
劇団の疑似ドキュメンタリーな感じ。入団したそれぞれの女性の人生を切り取ってみせる。
女優を目指して上京したもののただのフリーター生活を送って腐っていた椎木ちなつさん。大阪で知り合いだった真壁愛(めぐみ)さんに劇団に誘われる。主宰は片岡百萬両氏。同世代の川嶋芙優さん、美鈴さん。ベテランの袋小路林檎さん、美津乃あわさん。客演の前川ゆう氏。キラキラとした目で劇団に入って来た新人、福澤音羽さん。
主催・演出・脚本の片岡百萬両氏は出演もこなす宮川大輔系。
真壁愛さんはハーモニカホルダーでIQOSを常時携帯する虻川美穂子系。気が利く理想の劇団の先輩。
川嶋芙優さんは親友4人組で集まり毎月カラオケBOXで夢を確かめ合っている。
美鈴さんは劇団の小道具の買い出しの帰りに異世界転移してしまう。
福澤音羽さんは真顔にコミカルな動きで台詞を繰り返す見せ場あり。
前川ゆう氏のデビルマンの被り物が良い。
袋小路林檎さんの「メ〜シ〜ア」「救世主」の合いの手。
美津乃あわさんは21歳のモデルを目指す役もハスキーにこなす。
椎木ちなつさんはアイドルフェイス。
MVPは衣装の植田昇明(のりあき)氏の爆発するセンス。この衣装抜きでこの世界は描けない。
細かい動作の振り付け一つ一つに手が込んでいる。
マチルダアパルトマンが好きな人は好きだと思う。
是非観に行って頂きたい。

スーホの白い馬
公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター
吉祥寺シアター(東京都)
2024/09/07 (土) ~ 2024/09/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
何でチケットを買ったのか思い出せなかったが、白い馬テグ役が小玉久仁子さんだったので多分それだろう。小玉久仁子さんはデビュー当時の池畑慎之介(ピーター)とミー(ピンク・レディー)を合わせたような魅力。
上手で二弦の馬頭琴(モリンホール)をヴァイオリンのように弓で弾くのはフルハシユミコさん。坂本龍一の『ラストエンペラー』で聴いた二胡に似た音色。その横で木目調のエレキベースを弾く竹内武氏。
淺場万矢さんが進行役で登場、子供達を元気にいじる。お婆さんやビラを配る人などを兼ね作品の基調となる。
主人公スーホ役は中西柚貴さん。この二人の声がのびのびと会場によく通り、子供達にも伝わりやすかっただろう。声優向き。
羊やトノ様などユーモラスなキャラ役の村山新(あらた)氏はユースケ・サンタマリア系。

悪態Q
劇団不労社
北千住BUoY(東京都)
2024/09/06 (金) ~ 2024/09/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『SAW』を思わせるコンクリート打ちっぱなしの殺風景な一室。会場ごと見立てて演出するという“空間への当て書き”、東京公演は北千住BUoY(ブイ)。かつて陰惨な事件が起き心霊スポットにされた廃ビルの一室のような佇まい。無機質で不穏な雰囲気が色濃く漂う中、気の違った陽気なSEがけたたましい。ムードは『ホステル』や『パージ』など病んだ作品の系譜。
幼稚園の卒園式の為に先生達が出し物の稽古中。ラジカセで『ピンポンパン体操』を流し愉快に踊る。黄緑(ライトグリーン)ジャージのむらたちあきさん、水色(シアンブルー)ジャージの永淵大河氏、紫(ロイヤルブルー)ジャージの荷車ケンシロウ氏。ジャージはやたらスタイリッシュ。愉快にコミカルに元気一杯に踊る。どうも男性二人はむらたちあきさんに好意を抱いているようだ。恋の鞘当てにヒリヒリした空気感。
ズンズンズンズンズンズンズンズン ピンポンパポン
ズンズンズンズンズンズンズンズン ピンポンパポン
がんばらなくっちゃ がんばらなくっちゃ がんばらなくっちゃ
延々続く気の違った唄に頭がおかしくなりそう。間奏に挿まれるむらたちあきさんが作った、園児向けのクイズ。ロールシャッハテストのようにサイコパスを炙り出す精神異常者向け。
むらたちあきさんは凄く魅力的だった。元気ハツラツなメンヘラ。
永淵大河氏はマトモな常識人としての立ち位置で「ちょっとそれ園児向けのクイズには相応しくないのでは?」と冷静にツッコむ。
荷車ケンシロウ氏は十一重(以上)人格者役も狂ったようにこなすハッスラー。
5つの連作集といった感じだが、とにかくしょっぱなの奴が凄まじい。これだけで元は取れる。
是非観に行って頂きたい。

『大洗にも星はふるなり』
ゴツプロ!
「劇」小劇場(東京都)
2024/08/28 (水) ~ 2024/09/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
舞台は茨城県の大洗サンビーチ海水浴場。何故かそこの海の家はサザンオールスターズの聖地、「江の島」を名乗っている。設定は2009年、海の家でのひと夏のバイト仲間達がマドンナ的存在だった江里子からクリスマス・イヴに各々手紙で呼び出される。真冬の海の家にノコノコ現れた男達が繰り広げる妄想恋愛バトル。
マスターは井上賢嗣氏。
ストーカー癖のあるナルシスト・バンドマンに葉山昴氏。
キックボード片手の浮気癖のある杉田大祐氏。黒澤明ネタは中途半端。
これまたストーカー癖のある牛窪航平氏。
鮫の研究をしている和田慶史朗氏。さかなクン帽子が似合う。女を口説くようなアクションでマスターにお願いをするシーンがどっと受けた。ちょっと窪塚洋介っぽい?
立ち退きを執行しに来た弁護士に佐藤正和氏。名探偵的に場を仕切る。
裏主人公、笹田伶氏。キャラ設定もあり、頭一つ抜きん出ていた。聞き間違いが多いことが物語のキーとなる。

松本清張「点と線」
カンパニーデラシネラ
神奈川県立青少年センター・紅葉坂ホール(神奈川県)
2024/07/27 (土) ~ 2024/07/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
マーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』を思い出した。デヴィッド・フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』やクリストファー・ノーラン監督のような理系の思考法。小野寺修二氏の物事の捉え方に似た感触を得た。映画の演出に向いているのでは。
美術家のニコラ・ビュフ氏のアイディアが冴える。可動型の長方形の立方体、合体すると路線図や駅舎になる。演者が舞うように回転させ動き離れ背景を作り出す。ワークショップ・オーディションで選ばれた数十人のエキストラが繰り広げる雑踏は美しい。(総勢38人らしい)。
時代は1958年。福岡の香椎海岸にて青酸カリを飲んだ男女の情死体が発見される。産業建設省(現・国土交通省)の課長補佐(小野寺修二氏)と割烹料亭の女中(大西彩瑛さん)。小野寺修二氏は今日本を騒がせている疑獄事件に関わっており、汚職や詐欺等を取り締まる警視庁捜査二課が既に動いていた。警部補(成河氏)が現地に向かう。捜査が打ち切りになった福岡署の古参刑事(武谷公雄氏)は心中に疑問を抱いていた。小野寺修二氏の遺留品から出て来た食堂車での領収書が一人分だったこと。心中の為に旅に出た二人が別々に食事を取るだろうか?
踊りのようにくるくる回り、不意に意識を失い、突然のストップ・モーション。『マトリックス』のバレットタイムを思わせる時間の恣意的な流れ。夢遊病者のような繰り返し。詠春拳のような遣り取り。まさに松本清張『点と線』の最新Remix。天野天街氏と流派は違えど根底に流れる宗派は同じような。
成河氏が崎山莉奈さんに突然言い出すメタフィクション・ギャグ、「お前が犯人···!」はどっと受けた。
再再演作品、流石に面白かった。原作を知ってから、もう一度観てみたい。
成河氏ファン中心の一般的な客層にも受け入れられたようで何より。崎山莉奈さんは絵になる。