I元の観てきた!クチコミ一覧

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ブラック・ボックス・デストロイ

ブラック・ボックス・デストロイ

れんげでごはん

上土ふれあいホール(長野県)

2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/09/29 (土)

構造的には「カメラを止めるな!」の逆パターン? 自主制作映画のゲリラ撮影にまつわるドタバタ・コメディ。その騒動における登場人物の振る舞いに、その人の半生がしっかり窺える「性格と口癖の作り込み」が面白い。

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それを背景に、ポロっと出てくるセリフがまた絶妙で、辻の「お母さんに聞いてもいいですか?」は最高でしたよ(笑)

華の美術品を愛でる時の微笑みも何とも言えず味わい深い表情で良い。それがあるとコロッと意見を翻すキャッシュな性格もまた良し です。

ラストの映画は、芝居の端々で出てきたセリフを反映した小ネタが入っていて楽しかった。

ただ、最後は主人公(?)辻の選択が明かされる仕掛けになっていたけど、アレって結局二択のうちの一方を選んだだけに過ぎないように思えて、ちょっと物足りなかったのが本音。

芝居のラストシーンを飾るには やや尺の長い映画を流したのだから、二択からはみ出した第三の決断を見せて欲しかった。…私が誤読してなければ…だけどね。

なお、妙に凝ってパンフで紹介されている この美術間の展示美術品の数々… いやぁ、全部見たかったわ!
X(キー)

X(キー)

パッチワークス

深志神社天神会館(長野県)

2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/29 (土)

そのタイトルから既に思考性を窺う謎めく作品。

当事者として眼前に拡がる災害、芝居に対する強い拘り、伝わらない想い、伝えられないもどかしさ、不甲斐ない自分、体の内に生じた病巣、実感する被差別、増殖する流言飛語、隔絶する実社会… 様々な生々しい想いと感情が降り注ぎ、ヒリヒリした口論があてどもなく舞台上を彷徨う。

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その場ではうまく言い返せなくて、後で一人でグチグチもやもやと中空に反論する主宰の姿に何となくシンパシー。苛烈な正論の機銃掃射を放つ女優の圧力が… 対照として効果的でした。

伝えたいこと…伝えられることのアンバランス、分かっていて欲しいこと…考えて欲しいこと…集団で生みだしたいモノの産みの苦しみと、それを誘えない力不足へのやり場のなさ。本当に生々しい。

何も物語はなく、幾度も繰り返された「演劇は社会を写す鏡」という言葉のごとく、ただひたすら現代日本に対する現実の危機感が… 投影され重ね合わされる映像とともに透けて見える作品でした。

セリフに現わされる日付と場所にドキュメンタリー感満載…というか、根底はそうなのだろう。まさしく私小説的な思考の吐露。

白塗りの舞踏は…主人公の悩み苦しむ魂を示すモノだろうか… その蠢くような動きが映像と重なり合う様は、不思議な美しさを生んでいた。舞うは世界劇団 三重公演で拝見したばかりのzooさん。何やら縁ですねぇ。
彼岸花、咲くころ

彼岸花、咲くころ

幻想劇場◎経帷子

深志神社天神会館(長野県)

2018/09/28 (金) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/09/29 (土)

赤い絨毯の舞台…それを取り巻く彼岸花。そこに四方から登場するアングラ白塗りの装いの人々…その色彩のコントラストはとても鮮やかでした。
まさしく異界感… この世のモノではない空気が漂う光景でしたね。

…かといって 訳が分からない世界ではなくて、…→耳慣れぬ「ムカサリ絵馬」を軸に、民俗的な空気を添えて、地に足が付いた感じもあります。

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結局、ムカサリ絵馬に纏わる禁忌が核だったようで、改めて調べると、なるほどなと思います。

生と死の狭間を想起させる空間に…乳母車を押して彷徨う女、母を探して放浪する少年。序盤は他にも有象無象がいて、繋がりがよく見えていませんでしたが、終盤にこの2本の線が1本に交わった時の切なさが何とも言えない。

ともすれば禍々しくも映る結末でしたが、…明らかに…この母子への救いはそこにしか無かったと思える。

ラストで幕が落ちて、ムカサリ絵馬が現実になっていく様はとても鮮烈。
禍々しさが逆に白無垢の美しさを際立たせ、禁忌よりも大切な繋がりが確かにそこに存在しているのを感じました。

シチュエーションや空気は全く違うものの、夏に観た水素74%の「ロマン」における母子の繋がりを思い出し… 当人たちが大事にするものが何よりも尊い… そんな後味が残りましたね。

本作も異彩を放って、まつもと演劇祭のラインナップの豊かさを感じました。
カゲムシャ

カゲムシャ

劇団モカイコZ

まつもと市民芸術館 小ホール(長野県)

2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/29 (土)

ちょっと変わった演出をみせてくれた…ライト戦国モノ(Wミーニング?)

HOME劇団の中では最も目を惹きましたね… エンタメ系の派手さということよりも、演出の創意工夫という意味が強いです。

1人多役の芝居は数多くあれど、それを多人数で…しかも同時に切り替えというのは中々観れない。僅かな見立てを効果的に使って、シームレスに…しかもハッキリと役が切り替わっていく巧みさが目を惹く。それが芝居の進行のダイナミックさにも繋がる。

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ハンドライトを刀剣に見立て、暗闇に軌跡が光るライトセイバーばりの演武の見映えは素晴らしかったし、それがふと…照明にも使われたりもするのが小粋です。

いや、それどころか…大道具(サンダーバード)にまで成っちゃったね。…お話としてはストレートに情に訴えてくる感じの王道でした。欲を言えば、もうちょっと驚きの要素が欲しいけど。

役者は、早渡知利さんの奇怪な演技力が好みで、役の切替りで笑わせてくるところや形態模写的なところ好きですね。やはり、赤ん坊と痩せた牛(笑)
一輪の華に幸あれ

一輪の華に幸あれ

近大ドラコミ

池上邸蔵(長野県)

2018/09/28 (金) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/09/29 (土)

17世紀フランスの戯曲 モリエール作「人間嫌い」を現代劇に翻案ということらしい。こういう作品がしっかり入っているところが、この演劇祭の優れたバランス感覚。本質部分のアレンジの程はオリジナルを知らないので何とも言えないが、かなり突飛な個性を持つ登場人物が居並び、それだけでもかなり楽しめた。

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嘘やお世辞が言えない… 自分の心に思うがままの自由人 美術学生・一華が、その性格ゆえに巻き起こす騒動の数々。周囲の人々は割とステレオタイプに描写してシニカルに笑いに繋げていく感じだが…それでも 飛び級の小学生れもんちゃんには意外性とインパクトあった。あと講師 大山の人となりは好きだね。

絵のダメ出しを貰いながらも、一華の辛辣さを好んでいる れもんの描写が結構好き。心折れ、心ならずも れもんの絵を褒めようとする一華に眉をひそめ、…結局いつも通りにダメ出しを始める一華に微笑む れもんちゃんの表情の変化はとても印象に残った。

一華の振る舞いは大きくバランスを欠いてはいるが、全ての人が個々にバランスを取る必然も無いし、取れるわけもない。こういう人が居ても良い。それを好む人もいる。…一方、オチはかなりシニカルな方向に流れるが、若干取ってつけた感もあった。この千鶴の暗躍が、彼女のそこまでの振る舞い(演技)に符合していたのかは、察し損ねました、残念。

ただ、いずれにしても、千鶴と れもんの対比は活きたかも。

捨てる神あれば拾う神あり。
mini capsule「試験管ベビーの勧進帳と身替座禅」

mini capsule「試験管ベビーの勧進帳と身替座禅」

試験管ベビー

まつもと市民芸術館 小ホール(長野県)

2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/29 (土)

松本に来て、一番最初に観たのが 名古屋でお馴染みの試験管ベビーというご縁。しかも一番好きな「勧進帳と身替座禅」です。色んな意味で意欲作の歌舞伎オマージュ。初演は名古屋歌舞伎の聖地 御園座至近の小劇場でやってたんですよ。

勧進帳は、古典と現代の率直なギャップを…特に若者感覚で描き出す笑いの数々。良い意味で痛快な悪ふざけ感が楽しい。
そして劇団の特色でもある「お客様参加システム」!

それを体験してもらうのに「大向こうの掛け声」は最適だったのでは?
跡形もなく粉々になっていく屋号!、最高ですよね?
松本の人達もきっと楽しめたはず。

身替座禅は… かこさん… 松本初御目見得がこれで大丈夫だったんですかね(笑)

アノ姿で松本民の脳裏に鮮烈に摺り込まれましたね。

名古屋民向け情報。千枝&小枝コンビが新キャストで、演じるは…既に試験管ベビー お馴染みの顔となりつつある山岡黛佳さんと… 水本いくみさん! 彼女は何とコレが初舞台!

しょうもない右京に何故か尽くしちゃう…元気でお茶目な…ちょっと毒舌の侍女sを好演でした。

ところで、演劇祭を巡って客席にいると、お世辞じゃない生の評判を耳にすることもあるわけで…

上演したその場ではない別の会場で、試験管ベビーを観た人が その友人に「試験管ベビーは観た? あれはとても良かったよ。」と褒めているのを2度聞きましたよ!

上首尾!

笑う茶化師と事情女子

笑う茶化師と事情女子

匿名劇壇

in→dependent theatre 1st(大阪府)

2018/08/24 (金) ~ 2018/08/27 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/08/26 (日)

相変わらずキレキレの理屈っぽい口論とコミカルでシニカルな物言いが好き。見た目に反して"茶化し"とは対照的な福谷さんが描く今回の世界は意外に論点がちゃんと収束していく気がしました。いつもなら最後に観客は突き放されるんだけどね笑…

ミキサーで一緒くたに掻き混ぜられていくが如きトラブルの数々は、各々がまるでコントの様に面白かったです。何か個人差というよりは、男女差に根ざす感覚の違いとして描かれる部分が多かった様な気がしましたね。

あと、今回は場転の演出がとても好きでした。

ビシバシと 叩いて渡る イシバシ君

ビシバシと 叩いて渡る イシバシ君

劇団ジャブジャブサーキット

七ツ寺共同スタジオ(愛知県)

2018/09/27 (木) ~ 2018/09/30 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/28 (金)

すっごくハセさんらしさ満載の構成。ほんのりホラーでミステリー、ちょっと自虐的な一言も(笑
様々な喪失感と…ひっそりとそれに抗う人々。危機の中で魅せるのんびり日常感までもが暗喩となり、もやもやと頭の中に拡がる… 現代社会における人々の心理への不安感。

多様な問題を予兆させながら、混沌としたまま…拡がった不安に安易な解決を見せないのが味だね。バトンは観客に委ねられた。

恭子と小木曽の微妙なコミュニケーション、夏奈の不思議なボケ味が好きでした。

星をみた少年

星をみた少年

パズル星団

七ツ寺共同スタジオ(愛知県)

2018/09/21 (金) ~ 2018/09/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/09/22 (土)

パズル星団は「冥王 Ver. 1.02」と「パパ・ユートピア」しか観ていませんでしたが、本作でごっそりイメージが置き換わりました。今まで、どこか垢抜けない印象があったのが、一挙に洗練度が増したように思えました。主宰・高倉麻耶さんの貪欲さが実を結んだ… 怯まず大胆に様々な要素を取り込んでいかれた結果でしょうか。観た直後は…今までに無いものを観れた…という感激でいっぱいでした。(勿論、更に劇団内での試行錯誤の賜物であることも後で伺いました。)

最も印象深かったのは、ダンスと芝居との調和。特に芝居の「核心」を具体的に表現してみせたコンタクト・インプロヴィゼーションの効果です。「他者に接触することで在り様を変えていくコンタクトインプロ」と「人生における他者との関わり合い」は、本質的に近いのものと感じられました。

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【続き】

割と安易な行動で夢に向かうサンチャゴが、案の定 様々な苦難に見舞われながらも、その誠実な振る舞いのせいなのか、周りに救いの手を差し伸べられながら歩を進めていく。

コンタクトインプロのパートで、サンチャゴを周りの人々が取り囲み、彼の四肢に触れる度に、彼は向きを…動きを変えていく。周りの人に促され、影響され、それでも ただ流されるでなく自分のものとしながら、自らの軌道を変えていく姿は、彼の人生そのものを表現している様に思えました。周りから何もかも吸い込んだサンチャゴ。ついにはハッサンが捨てた夢まで取り込んで、本当のゴール・いちじくの木に辿り着くという因縁めいた予兆で終わる幕切れはとても印象的でした。

一方で、当初、疑問に思えたのがハッサンの扱い。素性の知れない曖昧なお告げに過ぎない「夢」を諦めただけのことで、こんなにも酷い扱いを受けねばならぬのか?というのが、直後の率直な印象でした。唯一神に根差す宗教観を背景にしている感じが、馴染めない感触もあるのだけど、それを払拭した上で考察。

​サンチャゴとハッサンの対比には「自分の希望を他人に依存するな」という教訓が込められている… と解釈しました。

他人の為に自分を…自分の夢を犠牲にする…という思考からは、目的が成就されなかった時に…後悔や憎しみの負の感情が生まれがちです。結果的に同じ行為でも、あくまで自分の為と考えるメンタリティは大事。他者に寄り掛かって生きようとしたハッサンと、自己の執着に迷いながらも…他者と関わり…その力を取り込みはしても…決して依存はしなかったサンチャゴ… この違いが2人の結末の差かな。

また… もしハッサンの夢が本当に彼にとって大事であったのなら、破談した時点で彼は海を渡っても良かったはずだ。もしかしたら、ハッサンにとって…本当にミリアムの方が「夢」だったのかもしれない。

彼女と結婚するタイミングの「前兆」を掴みそこねた…彼にとっては、それこそが本当の失策だったのかも。

もう一つ、本作では無生物の表現が巧みでした。
その最たるものが「風」と「心」。
本来、形無きものをどう表現するか。
自由を象徴するかの様な「風」との交歓を、ダンスで表現するセンスはさすが。サンチャゴが風になるシーンの高揚感は素晴らしかった。

一方の「心」の役。
とかく、分かっている様で分からないのが自分の気持ち。
自らの心に耳をそばだてる…心の声との会話。
ナレーションや映像での表現ではなく、心を「別の役者」で表現したのは、自分の心を客観視し、距離感を作る上で非常に効果的と思えました。

さて、本来は最大の核心であるはずの「アルケミストとは何なのか」という点。正直、「錬金術師」という訳語からは即物的なイメージ(ぶっちゃけハガレン…)しか湧かないのだが、ここではむしろ「人生の生き様に長けた者」という精神的な扱いに思える。実際、アルケミストは物質に寄与する術を超えた…もっと広義の意味で扱われているのだそうで、プレ企画に参加して既成概念から脱することが出来ていたのは観劇の備えとして幸運でした。芝居上の見た目はスピリチュアルだけど、「前兆を読み取る」=「物事の因果を理解し、今の状況から先を読む」という感じで、スピリチュアルよりも…それこそ現代的な「優れた経営感覚」、「危機管理能力」を想起させるモノとして私は受け取りました。

…ま…実のところは、芝居を観ただけの段階では、まだ呑み込めずにいた部分は多くて、推カケ☆批評塾の「語る会」で原作を読まれている方の話も聞けたのは為になった。

もちろん、それでも観た人が心に留めている解釈は様々で…印象に残ったキーワードだけ書き残すと…、
「結果よりプロセスこそが宝物」、
「日頃の行為が夢の実現を引き寄せる(ご縁?)」、
「人生はタイミングが要?」…かな。

演出面だと「世界を可視化している」って評は、さもありなんと思いました。

以上
てふの島唄

てふの島唄

演劇集団「こちら側」

ユースクエア(名古屋市青少年交流プラザ) (愛知県)

2018/09/14 (金) ~ 2018/09/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/16 (日)

まず何においても「作り込みの拘り」…というところには称賛の言葉しか浮かばない。「ブラックメリーポピンズ」でも、衣装と小道具だけで時代の空気を作るディテールと質感の拘りは目を惹いたけど、本作では…1500円しかとらない公演でコレ作っちゃうかよ…という住めそうな家屋の作り込み、相当に考証を突き詰めたと思われる生活感のある小道具の数々にはやはり唸る。

はっきり言って、観客はそんなところまで目が届かないよ…ってところの拘りを、終演後に主宰がtwitter上でじわじわ明かしていっており、圧巻ですわ。

いやぁもうこれは、誰よりも自分達が喜ぶためにやってるよね、これを手にして演じることで、役者達がこの時代にトリップする為にやってるね…って気がします。

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【続き】

勢いで先に音照に触れとくと…、人の心情に寄り添った曲を作る常滑さんの曲は…2組の絆にフォーカスされる話にベストフィット。ユースクエア公演だと物販が無いのが惜しいよね。

照明は…観劇直後に言ったけど、揺れる水面の演出が…人の心理や運命の移ろいまで予兆させる深みを作り出していて、演出要素の中では最高に好きでした。

さて、お話のこと。過酷な環境ですら逃げ場所になる様な…重いものを背負った人間達の描写と…2組のカップルの極限下での結び付きが核心として描かれると思う…思うんだけど、演劇集団こちら側は何故「エロ・グロ・バイオレンスをテーマしている」と標榜するのか…というのは今もって疑問なのね。

様々な制約が厳しいのは理解しつつも、それ自体がテーマだと言われると…その割りにマイルドだった…との印象は否めない。どちらかというと…描き出そうとする人の心情の背景にリアリティを持たせるために…言葉だけで済ましてしまうと記号的になってしまう「安易な逆境描写」から脱するために…「エロ・グロ・バイオレンスを隠さずに描写することを辞さない」という姿勢を表しているんかな…と解釈してます。

観劇直後に呟いた…「終盤の様々に複雑な心情をリアルに浮き立たせるために…偽りないシビアな世界描写が必要だった…その為のエロ・グロ・バイオレンスなんだな」という感想には、そういう思考過程があった。

この背景描写が一番効果的だったのは、美社(ミシロ)かなぁ。

…愛を独り占めするために罪を犯した…と本人が言う割りに、彼の周りにあるのは「暴力」ばかりだった。人気があったにせよ、愛されていたとはとても思えない。「どんなプレイでもやってくれる」という評判が如実に一般客からの扱いを物語っていて、それでも彼がすがれるのはソレだけだった…と思わせる過酷な背景描写。愛してくれる人は樹生(タツキ)に限らずいたと思えるのに…自虐的にそれを拒み…他者のネガティブな迷いや負の感情にだけは鋭敏に反応する… 一種の被害妄想といっても良いけど、…いずれも育った過程での徹底的なトラウマ、自己肯定感の欠如、故だよなぁ。猜疑心の塊と化し、罪を犯した後も復讐と神罰を怖れて負のスパイラルに沈んでいく彼の描写は、人間的な弱さの余りにも極端な具現。

観た直後よりも、作品を咀嚼していく過程で…どんどん存在感が増して感じられたのが彼でした。客出しで結城さんが開口一番「しんどかったです」って語ったのはさもありなん。カーテンコールでも役から降りずに美社を貫いたのは良かったね。

なお、美社の心理描写にはアンサンブル(むしろコロス?)を抜きに語れない。こういうの好きだし、時代背景にギャップのある衣装との掛け合わせは一興だったけど、出番が少ないのが勿体なかった気も。いっそ舞台で背景美術と化して、ボソボソと深層心理を呟き続けてくれても面白かったんじゃ…って思ったぐらい。

ところで、復讐の連鎖を断ち切った樹生の決断もちょっと興味深かった。理性としてはもちろん納得できるんだけど、あのタイミングで首領を押し留めてまで追及を阻んだのは ある種の驚きだった。ただ、社会正義とか復讐の復讐を怖れるチキンさとかよりは、むしろ「美社が背負い続けた負の業」を、美社の為にここで終わらせてやりたかった…って感じかなぁとボンヤリ思います。

もう一人印象深かったのは、直後にも呟いた一智(イチ)ですね。
柔らかな物腰、慈愛溢れる印象が特徴的で…しかもあの仕事で…貞操を貫いても周りが許してくれる… 不可侵の天使って感じですね。

余りにも美社と対照的で…むしろ美社が可哀想になるぐらいの圧倒的な癒し感。それでいながら、自死…いやこれは自殺というのが相応しい苛烈な最期。この落差は凄かった。凶器を抜いてもらう時に全身でジタバタした迫真の演技から…また圧倒的なリアリティが伝わってきて、バイオレンスさではあのシーンが飛び抜けて迫力があった。

​​ほとんど文句なしの彼について、唯一 疑問が残るのが、紀葉(クレハ)が実は血を分けた兄弟だった…という設定下で…母の遺した書類を見ての…一智の悲観しているかの様な反応。非情な物言いの様で恐縮だけど、元々が無法の世界に生きていて、しかも生殖を伴わない関係なら、実の兄弟であろうと関係ないのでは…って思ってしまう。むしろ紀葉の語る…「契 以前に…既に家族であったという運命的な受け取り方」の方がすんなり納得できたんだけどなぁ。

ただ、そういう運命的な繋がりを再認識したが故に、確実に予感できる自分の死の方に苛まれた…とも解釈できるか。紀葉の復讐劇は、実現性こそ ご都合的な無理やり感があったけど、「船による轢死」という…およそ想像し難いスペクタルを描いたのには驚いた。

あと存在感あったのはムキムキのゴリラ夫婦かねぇ…良い味出てた。スピンオフバイオレンス芝居を予感させる笑

他にも語るべきところは多々あったけど、発散気味なので、ここらで仕舞い。

私が生まれた時代の芝居が、意外なところから生み出されてきて、稀有な出会いでしたよ。チケット代の遥か上をいったのは間違いなく、また次の"あちら側"を期待したいところです。
笑ってよゲロ子ちゃん-殉情編

笑ってよゲロ子ちゃん-殉情編

NPO法人C,A,ワークス

ナンジャーレ(愛知県)

2018/09/13 (木) ~ 2018/09/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/16 (日)

ロ組(野村有志×真臼ねづみ)で拝見。

うだつは上がらないけど(だからこそ?)…志は一際高いラジオ番組のディレクター 井口時次郎が、棚ボタの人気に溺れて堕ちていく私欲の闇。理想の精神論を熱く語る姿、成果が伴わない現実に対する激しい落胆、転がり込んだ成功に酩酊し、それに目がくらんで…かけがえのない唯一の支えを生贄にし、挙句の果てに自業自得の己が罪への疑心暗鬼に怯える。人間の様々な弱さを…みっともなさも含めて、ここまで熱く、生々しく演じた野村さんの「熱量」は圧巻の一語に尽きる。

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【続き】

ぶっちゃけ、ナンジャーレの激しい蒸し暑さを「演出効果」と錯覚するほどに大きな相乗効果を生み出して、演る方も観る方も堪らんけど(笑)、噴き出す汗が時次郎から伝わってくるものにも感じられるほどの一体空間でした。野村さんが自らの顔をパーンと叩いた時に逆光化下で大きく飛散した「汗の飛沫の輝き」も… 目に焼きつく光景だったなぁ。

たま子/ゲロ子があまりにも従順で 抵抗がほぼ皆無なので、相対的に「時次郎が狂気にシフトする実感」はやや薄めにも思えたところもあったけど、結局、それがホラーとオチの両方の裏付けとなっていくのか。

音響でのホラーの盛り上げは十二分、真臼さんの作った声質もゲロ子のホラー感にぴったりで、想いが募って「物の怪」と化す…まさしく怪談の予感を最後の最後まで引っ張り続けた… でも…いや、だからこそ、ホラー演出の裏で純愛を貫き通したゲロ子の想いが沁みて沁みて…仕込み花束のインパクトは素敵でした。それが鮮烈である程に…時次郎の後悔の深みも一際…思えば、序盤からの 普段の声(過去)とモノローグ(現在)での野村さんの声質/口調の落差は、ホラーとしての盛り上げ以上に、時次郎の落胆の度合いを表現しているモノにも見えて、いずれ時次郎も…失意の果てに…物の怪になっていくのだろうか…と感じさせつつ… 最後のON AIRは 自らの語録とゲロ子の想いが時次郎を奮い立たせた…と素直にみるべきなのだろうなぁ。

取り憑かれて…新たな「都市伝説」が生まれた…とみるのも業が深くて良いのだが笑。

なお、ハガキによる悪意の肥大化は… むしろ現代のSNSの荒れぶりを如実に表現した風刺にも見えた。今の世の中、人一人の罪よりも匿名の悪意の増幅装置たるSNSの方がよほど手に負えない感あり。
沙翁十四行詩集 故郷へ帰りたい

沙翁十四行詩集 故郷へ帰りたい

Contondo

G/Pit(愛知県)

2018/09/14 (金) ~ 2018/09/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/09/16 (日)

公演形式としては、この週で最も異色、「展覧会形式」を標榜します。演劇のカテゴリーを飛び出した本公演は、出入り自由、どこから観てもOK、会場内の徘徊も自由、撮影自由、SNSへの投稿自由…というと、愛知トリエンナーレ感覚だよね。インスタレーション展示の様でもあり、映像作品を流し続けるのを「生」でやっている感じでもある。演劇クラスタ以外も呼び込める魅力があるよなぁ。自分が美術鑑賞クラスタから流れてきた人間だから、このハイブリッド感はとても心地よい。

概要として、モチーフにシェークスピアのソネット(十四行詩)を持ってきて、詩の1行1行が「ごく短時間の芝居」に相当する全体構造をしている。全体で一つの詩とまで感じ取れるかどうかは観客の歓声と解釈次第だろう。ぶどうさんなら、そういう仕込みがあってもおかしくはないけど。(私にはソネット自体を味わえる教養が無いので比較してどうかは語る術がない。)
深く考えずに感性で観ることもお勧めされているけど、じっくり腰を据えて、何度も眺めて思索に耽るのも楽しいよ。

さて、中身はソネット73番をベースに「老い」をメインテーマに持ってきているとのことだが… 何となく、「まだそれなりに若さの残る年代…だけれど子供ではない…」というお年頃の視点から、まだ幼き老いに思いを馳せる感じが窺える。主客層であろう若者には ちょうど等身大だな… そんな感じがする。ただ、そんな個人の印象を超えたところにこそ 本作品の趣きがあって、まるでエチュードの様に役者が世界を拡げていく感じだ。多分…いや絶対…観客の心に浮かぶ世界は、また更に拡がりをみせているはずで、楽しみは本当に多様だ。

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【続き】 スケッチ毎の感想

「大きな散歩」
会場で開演を待っていると…最初に現れるのが彼女…別のお客と見紛うこの空気(笑)
大きなリュックをヨイショと背負ったアラサー女子が…その半生に想いを馳せるお散歩。くよくよ考えるお年頃だけど…自由人らしい悟りと確信の言葉がとっても良いのよ。

「Take Me Home」
リュックから溢れ出る彼女の半生。この時点で、この大荷物は彼女がこれまで積み重ねてきたモノの隠喩なのかも…と思い返した。次々と現れる愛おしい半生のパーツ達… ここら辺りから、グッとこの作品の空気に取り込まれる。この子の性分に何か共感(笑

「ライン・ダンス」
題の意味は…観始めれば…ほどなく理解できる。役者達がとても愛らしく感じられる逸品。公演の中では最も異質かもしれないが、この作品群の制作過程を一番想像させるものにもなっている。これはね、何度も観るといいよ。私はここは3回観れた。幸せ。
「街」
不意に…リュックの彼女の半生が…再構成されていく。最初は何が始まっているのか分からないが…これこそまずは感性で味わうべきもの。勿論、誰しもが気づくポイントはあるが、これが何から生まれたかを考えると意味深だ。半生から…悠久の時間へ移ろっていく。

「宇宙少女、わたしと出逢う」
ここから一転。おっとビックリの宇宙少女降臨… なのかは分からないが、他には考えられないだろう(笑)
舞台を漂いながら…その手に携える「時の流れ」の意味するものは。​正直…ディテールはよく見えない。だからこそ、妄想がモノを言う。

「宇宙少女、中也を詠う」
これがまたシュールな世界に突入。中原中也の『星とピエロ』を宇宙少女がロックに詠唱…不思議な組み合わせなのに、「宇宙少女の存在」と「つぶやく言葉」が絶妙に相性良いんだコレが。霊媒感もあるね。この異世界感はぜひ生で体験しとくれ。

「宇宙少女、銀河を育てる」
これは公式アカウントで動画が上がっているけど、4人の男女が作り上げる「多重多層の囁き空間」は その中に入って体験してこそだ。自ら会場を漂いつつ…4人の囁きに耳をそばだてる。自らが異空間に紛れ込んだ感覚は 体験型アート空間。

「宇宙少女時間旅行」
その佇まいは…まるで「籠の中のインコ」のよう。ピンキーな2人…同じピンクでも印象は対照的な2人は、この籠の中で何を見る。何を思う。ブラックボックスの中で極めて映えたこの空間は…大阪ではどんな空気になるのだろうか。

「風船を配る男」
とっちらかしたものは片づけねばならぬ。暗転も幕間もないこの公演における…実は非常に興味深いプロセスでした。作業をしているだけのように見えながら楽しげ。回収と配布。けっして配ってはくれぬ風船。相反する事物を重ね合わせてどこへ行くのか。

「ある雨の日の情景」
これだけ、やけに現実的で生活感のある世界が流れていく。エッセイ的。26歳と15歳の間を隔てるもの…それは時間だけではなさそうだ。想い出の祖母の言葉にひどく含蓄が感じられ…リフレイン…でも…それは年を経ないと受け取れぬモノなのかも。​

「珈琲の美味しい淹れ方に関する考察」
珈琲の話をしているようでいて、そうでもない気もする。「珈琲」を何になぞらえるかで、このスケッチの先に見通せるものが形を変えそうだ。​2人の意識の差が…この先の道程を感じさせる。

「<老い> ソネット73番を踊る」
舞いの中に…時折り姿を現す「言葉」は…原詩に基づくものの様だ。キーワード"だけ"を連ね、その間を観客の想像に委ねて生み出される世界は、観客の数だけ様々な姿を見せるものなのだと思わせる。ぼやぁっとトランス状態で眺めるのが吉。

…以上、12のスケッチ。



これは1サイクル(90分)観るので止めてしまうと本当に勿体ない。2回目からが本番だ…1dayチケットが標準なのは伊達ではないと思う…徐々に見えてくる…頭に思い浮かぶものがあるのだ。なお、この12スケッチに「灯入れ」と「灯消し」を加えて14行詩としている様だ。
スケッチ毎の音楽付き図鑑が気が利いている。音楽はさすがの いちろーさん。もやもやと想いを湧かせ、異空間の空気を味あわせてくれた。
カットは…売り物にできるレベルの絵で紡がれる「絵コンテ」が有名な 主宰 紺野ぶどうさんのものでした。
さらばコスモス

さらばコスモス

世界劇団

津あけぼの座(三重県)

2018/09/15 (土) ~ 2018/09/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/09/15 (土)

凄い!興奮冷めやらぬ世界初演でした。何てジャンルと語れば良いのか分からぬ時空を超えた世界の融合ぶり。ミステリーの様であり、観念世界の様であり、社会を憂う様でもあり、様々に意味深な妄想と現実。こふく劇場でのトークから後引いたのも嬉しいオマケ。

役者の身体表現も異国文化の趣きで新鮮、放つ圧力と目力にもドキドキだ。音楽、照明、衣裳、小道具…演出効果の構成要素全てに隅々まで凝っていて、良い意味で古さと新しさ、和と洋のハイブリッド感も。初の長編新作なのに2018年上演台本と謳う辺り、ツアーの先も見据えてるよ これは。

ただいま

ただいま

劇団こふく劇場

三重県文化会館(三重県)

2018/09/15 (土) ~ 2018/09/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/09/15 (土)

再演。あぁ やっぱええ。当たり前の世界の中に掛け替えのない大事なモノがある。役者は勿論、特にト書きのナレーション… 更に舞台上にある全てが…舞台装置までが、音楽を奏でる様に佇んで優しい世界を形作る。その裏には想像以上に緻密な創作の場があった模様。観れば観るほど味が増す世界に 目を凝らし 耳を澄まし 再び浸れて充実した時間でした。

役者の変化も味わえた。前回やんちゃな笑顔が魅力だった大迫紗佑理さんに、しっとり大人の女性の色が上積みされて、あぁ3年経ったんだなぁ…と時の流れを実感。これも再演の味。

「そっちは苦い川だから」×「ボツ!東京くらげ男」

「そっちは苦い川だから」×「ボツ!東京くらげ男」

札幌ハムプロジェクト

スタジオ・座・ウィークエンド(愛知県)

2018/09/13 (木) ~ 2018/09/13 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/13 (木)

「そっちは苦い川だから」妄想の発露、しかもその扱い方が面白い。じわじわくるタイプの笑い。端々に登場するフェニキア人がやけに意味深で、様々な視点での格差と生き辛さを感じさせながら、…フワァっと持ち上げ… でも叩き落とす辛辣さも。

「ボツ! 東京くらげ男」男の口調が非常に面白く、自分の言葉を反芻しながら語る姿勢に、その半生が色濃く映る。怒濤の創作展開の勢いや良し。終盤の女の顛末と語りもグッときた。気に入って台本を買ったら、手書きのアイデアノートみたいな作り、イラストカット入りにビックリ。

ミラクルノート

ミラクルノート

劇団シアター・ウィークエンド

スタジオ・座・ウィークエンド(愛知県)

2018/09/07 (金) ~ 2018/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/09/09 (日)

冒頭の伏線、半ばいきなりのネタバレとも思える演出… ただし効果音と異質な女優の笑みにサスペンス脳を働かせてしまって、中盤まで私の頭の中が疑惑で面白いことになってました(汗)
そんな私の勝手な混乱を他所に、本筋はストレートな展開。
終盤の泣かせは率直に沁みた。やられたなぁ。

できる営業マン・橋本役の豊島輝真さんは「風に揺れて」に続けて好みの芝居を見せてくれたので、今後も注目したいです。

第7回名古屋学生演劇祭

第7回名古屋学生演劇祭

第7回名古屋学生演劇祭

ナンジャーレ(愛知県)

2018/08/31 (金) ~ 2018/09/04 (火)公演終了

満足度★★★★

[A予選]
バッカスの水族館、ヤバいぜこの洗脳感。過程を深く味あわせるに留まらぬドンデン返し、深い、怖い.
女塾、危険なヤツがいた…目が離せない笑笑.
在り処、女優達の変幻自在さと構成、織り成す心理が醸し出す少女のリアル.
イマココデ、社会の優しさの真の意味を問う.

[B予選]
劇団いかづち、意外なキャスティングが終始効果的.
劇団かのこ、貫く永遠の高校生集団. 個性で魅せたラブコメ風味.
でんでら、ライトだが安部公房ばりのダークでシニカルな風味. ファンタジックなツッコミや良し.
公募枠、新宮さん風味で異色の攻防に展開マジすか🐜


[C予選]
被らない独創性、いいぞぅ。
魚眼ベニショウガ、光起さんの溢れる暑苦しさがこの会場に一際マッチ。
劇団ひととせ東海支部、何たる詩情感、細やかな描写、見た目と味わいは抜群。
fooork、モチーフの使い方、とても好き。狂騒さと内面が上手く溶けて好み。

[D予選]
随想あけぼの、古典を見事にアレンジ、流石のまほろマインド、コロスや美術に唸る.
モルモット、重なり合う構成が好き。青春群像感、想いがしっとり.
超熟アトミックス、真っ直ぐさと演劇祭にぶつける皮肉感.
シラカン、脳内に拡がるモチーフの嵐。こういうの好き.

水素74%「ロマン」

水素74%「ロマン」

三重県文化会館

三重県文化会館(三重県)

2018/08/25 (土) ~ 2018/08/26 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/08/25 (土)

徹底的な自己肯定感の喪失… 生きる術を探して迷走する人々とそれを食い物にする輩。全編に漂う徹底的な薄気味悪さが良い(不思議な日本語)。

客観的に不気味な選択なのに…2人はもうそれでいいじゃん…と素直に思える後味が新鮮だ。
小道具含めた美術の主張がオツです。

中原中也まつり2018

中原中也まつり2018

G/PIT

G/Pit(愛知県)

2018/08/11 (土) ~ 2018/08/12 (日)公演終了

満足度★★★★

難しい話になるかなぁと思いましたが、朗読劇の方は意外に予備知識なくとも楽しめる味わいになっていて良かった。
さて、前口上の方は さすがに予備知識ゼロでは容易に頭の中には入らず、そもそも「ダダ」自体の具象が分からない(;^_^A

後で調べても抽象的な概説が多くて分かり難いが、1つ『人類史上はじめて遭遇した世界戦争を受けて、その原因の本質が己が社会の文化的な価値観や既成概念にあると考え、その諸悪の根源たるものを、あらゆる表現手段を使って否定し破壊しようとした。』という趣旨の説明が一番腑に落ちた。

webで中原中也の詩自体も眺めてみたけど、およそ表層的な理解に留まるのが関の山と思えたので、雰囲気だけに触れて、朗読劇の感想に移ることにする(;^_^A

以降、ネタバレBOXへ

ネタバレBOX

【続き】

私の感覚だと、この朗読劇は漫画で言うところの同人誌・二次創作のノリに思えた。

今となってはお堅い印象も受けるこういう文学・歴史の世界にも、作家や作品に対する敬愛の表現の1つとして、こういう世界があるのだと思うと微笑ましい。舞台演劇陣が良い仲介になっているのだと思えた。

ひょんなことから中原中也に萌え萌えしてしまったレーニンが「尋問」を建て前に中也を呼び出して語り合う…という筋書きだが、あおきり花村広大さん演ずるレーニンが非常に愛らしい。官僚2人に制されながらも、めげずにファン心理を露にするレーニン。理論派さながらに理屈を捏ねまわしながら、中也に会えるロジックを紡ぎ出し…ご満悦の微笑みが輝く。

普段、カッコ良い佇まいながら…それを笑いに変える空気も持つ役者さんですが、今回の振る舞いは新たに「可愛い」と表現するのがピッタリでした。

対する山川さん演じる中原中也。ここに女優を充てた演出のセンスが光ります。

これまた、普段は 人を世話する甲斐甲斐しさを感じさせる役どころが多く… 秘めた愛情を滲ませる女優さんですが、…今回は鉄面皮。
毅然とした格好良さが際立って、でもご本人曰く常にぷんぷんしている役という表現で、何か唐突にSDキャラ(愛らしい二頭身キャラ)に脳内変換されました。最後にレーニンに一礼するところは、素直に「敬意」ととっても良いですが、…「あっ、堕ちた」と邪まな妄想もしてしまいました笑。

官僚2人も良いテンポを作り出す。

斜田さんは田舎者ぶりながら狡猾なところが良い味になっていて、特に私は「ぼたもち」をごまかす理屈のくだりがとても好き。

青木さんは、素がルーズでしょうもない笑いを突き詰める雰囲気あるのに、こういう芝居だと堅い役が回ってくるんだよね~ というギャップを面白く感じていました。

30分の短い朗読劇でしたが、手練れの出演で中身の濃い芝居でしたね。色んな意味で美味しかった。
美術がうみだす舞台

美術がうみだす舞台

とよた演劇祭

豊田市民文化会館(愛知県)

2018/08/11 (土) ~ 2018/08/12 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/08/12 (日)

初めて観る とよた演劇祭。共通の舞台美術イメージからの着想で各々作品を作っていくという異色企画でしたが、その上… 演劇祭なのにダンスパフォーマンスを招請して更に幅を拡げているのが素晴らしいです。

ネタバレBOXに作品毎の感想を。

ネタバレBOX

①青血図(新人枠:team 10+)
お遊び的要素がやや散漫な感じがしましたが、むっちゃ楽しそうなのは伝わってくる。以前から続けているコンセプトらしく、ずっと観れてればノレたんかな。舞台を船と見立てオールを使ったパフォーマンスは印象的で、これが船の揺動を錯覚させるまでいけたら凄い。

②ダンスパフォーマンス「 」(招請枠:afterimage 他)
序盤の流れがホント好き。一人ずつ、その人の家の間取りをなぞるように生活を追っていき、輪唱しながら増えていく感覚。徐々に拡がりをみせ、重なり、不意にシンクロする時の高揚感。個人から活きた集団に傍聴する感覚が素敵でした。全てが組まれた完成形からバラして作られているのかと思いきや、ホントに個人の生活を重ね合わせて作られているらしく、配られたバラバラの間取り図は そういうことだったのかぁと驚いた。

中盤以降の身体表現の数々は盛り上がりを見せ、エネルギッシュ。
終盤、ごみ箱さんによる怒涛のノンストップ・リフトは見応えありました。100本ノック感。
そういえば、あらゆるものを皆が打楽器にしだし、民族音楽的なノリが面白かったのですが、目の前でごみ箱さんが勢い余ってお盆を粉砕してしまったのは衝撃でした(笑)
一部バックで流れる演説は何か政治的な主張?と思っていたら、会場が国際会議場である故の演出とのことで、舞台美術のみならず、会場全体を消化しようという貪欲さを感じる。

最後に天井から垂れる長布をパフォーマー全員で繋いでいくアクトは印象的でした。

③象牙の船に銀の櫂(公募枠:古場ペンチ演出)
不条理感とコミカルさを重ねる看護師パートの面白い導入部。まるで「世にも奇妙な…」的に、元々が意味深な童謡を背景にして、徐々に…主人公が自分の罪悪感を掘り起こす…ここはそういう不思議な空間なのか…との感覚に陥る味わいやよし。

最終的に、医療事故の責任問題、病院での処世術がうっすら見えてきて、リアルな話に整理されていくのですが、後半… 医師パートから、私には若干の違和感が。
前半が自己との戦いであったのに対し、後半で他者1人の責任問題を問うていく様な空気になっちゃって、勧善懲悪的な味わいに映ってしまったのはやや残念。

1人を責めて済むのではない、組織的…あるいはやむを得ない過失の集積みたいな背景の方が、人間の悩みとして深くなりそうな気がして、その方が題材に対しては相性が良い気がしました。

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