星をみた少年 公演情報 パズル星団「星をみた少年」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2018/09/22 (土)

    パズル星団は「冥王 Ver. 1.02」と「パパ・ユートピア」しか観ていませんでしたが、本作でごっそりイメージが置き換わりました。今まで、どこか垢抜けない印象があったのが、一挙に洗練度が増したように思えました。主宰・高倉麻耶さんの貪欲さが実を結んだ… 怯まず大胆に様々な要素を取り込んでいかれた結果でしょうか。観た直後は…今までに無いものを観れた…という感激でいっぱいでした。(勿論、更に劇団内での試行錯誤の賜物であることも後で伺いました。)

    最も印象深かったのは、ダンスと芝居との調和。特に芝居の「核心」を具体的に表現してみせたコンタクト・インプロヴィゼーションの効果です。「他者に接触することで在り様を変えていくコンタクトインプロ」と「人生における他者との関わり合い」は、本質的に近いのものと感じられました。

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    【続き】

    割と安易な行動で夢に向かうサンチャゴが、案の定 様々な苦難に見舞われながらも、その誠実な振る舞いのせいなのか、周りに救いの手を差し伸べられながら歩を進めていく。

    コンタクトインプロのパートで、サンチャゴを周りの人々が取り囲み、彼の四肢に触れる度に、彼は向きを…動きを変えていく。周りの人に促され、影響され、それでも ただ流されるでなく自分のものとしながら、自らの軌道を変えていく姿は、彼の人生そのものを表現している様に思えました。周りから何もかも吸い込んだサンチャゴ。ついにはハッサンが捨てた夢まで取り込んで、本当のゴール・いちじくの木に辿り着くという因縁めいた予兆で終わる幕切れはとても印象的でした。

    一方で、当初、疑問に思えたのがハッサンの扱い。素性の知れない曖昧なお告げに過ぎない「夢」を諦めただけのことで、こんなにも酷い扱いを受けねばならぬのか?というのが、直後の率直な印象でした。唯一神に根差す宗教観を背景にしている感じが、馴染めない感触もあるのだけど、それを払拭した上で考察。

    ​サンチャゴとハッサンの対比には「自分の希望を他人に依存するな」という教訓が込められている… と解釈しました。

    他人の為に自分を…自分の夢を犠牲にする…という思考からは、目的が成就されなかった時に…後悔や憎しみの負の感情が生まれがちです。結果的に同じ行為でも、あくまで自分の為と考えるメンタリティは大事。他者に寄り掛かって生きようとしたハッサンと、自己の執着に迷いながらも…他者と関わり…その力を取り込みはしても…決して依存はしなかったサンチャゴ… この違いが2人の結末の差かな。

    また… もしハッサンの夢が本当に彼にとって大事であったのなら、破談した時点で彼は海を渡っても良かったはずだ。もしかしたら、ハッサンにとって…本当にミリアムの方が「夢」だったのかもしれない。

    彼女と結婚するタイミングの「前兆」を掴みそこねた…彼にとっては、それこそが本当の失策だったのかも。

    もう一つ、本作では無生物の表現が巧みでした。
    その最たるものが「風」と「心」。
    本来、形無きものをどう表現するか。
    自由を象徴するかの様な「風」との交歓を、ダンスで表現するセンスはさすが。サンチャゴが風になるシーンの高揚感は素晴らしかった。

    一方の「心」の役。
    とかく、分かっている様で分からないのが自分の気持ち。
    自らの心に耳をそばだてる…心の声との会話。
    ナレーションや映像での表現ではなく、心を「別の役者」で表現したのは、自分の心を客観視し、距離感を作る上で非常に効果的と思えました。

    さて、本来は最大の核心であるはずの「アルケミストとは何なのか」という点。正直、「錬金術師」という訳語からは即物的なイメージ(ぶっちゃけハガレン…)しか湧かないのだが、ここではむしろ「人生の生き様に長けた者」という精神的な扱いに思える。実際、アルケミストは物質に寄与する術を超えた…もっと広義の意味で扱われているのだそうで、プレ企画に参加して既成概念から脱することが出来ていたのは観劇の備えとして幸運でした。芝居上の見た目はスピリチュアルだけど、「前兆を読み取る」=「物事の因果を理解し、今の状況から先を読む」という感じで、スピリチュアルよりも…それこそ現代的な「優れた経営感覚」、「危機管理能力」を想起させるモノとして私は受け取りました。

    …ま…実のところは、芝居を観ただけの段階では、まだ呑み込めずにいた部分は多くて、推カケ☆批評塾の「語る会」で原作を読まれている方の話も聞けたのは為になった。

    もちろん、それでも観た人が心に留めている解釈は様々で…印象に残ったキーワードだけ書き残すと…、
    「結果よりプロセスこそが宝物」、
    「日頃の行為が夢の実現を引き寄せる(ご縁?)」、
    「人生はタイミングが要?」…かな。

    演出面だと「世界を可視化している」って評は、さもありなんと思いました。

    以上

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    2019/01/03 16:32

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