ジンジャーに乗って
快快
王子小劇場(東京都)
2008/05/15 (木) ~ 2008/05/25 (日)公演終了
満足度★★★
確実に言えることはセグウェイがあるということだけなのだ。
前回の衝撃のままに大いなる期待を持って観劇。
生でセグウェイを見るのも初めてだったもので、若干ミーハー気分もあり。
改めて感じさせられたのは、「物語」を持たない作品性だということ。
むしろ、その語りは「感想」とか「提起」とかそんなものに近くて。
日常と思考のパッチワーク具合がなかなか面白いのだが、
終盤に向かって、いまいち尻すぼみになっているような気がするのだ。
セグウェイの軽やかさが作品自体に乗ってこないのはちょっともったいない。
「そこにあるもの」だけで魅せる難しさを感じさせられた。
アタシだけ怒られた
バナナ学園純情乙女組
桜美林大学・町田キャンパス 徳望館小劇場(東京都)
2008/05/02 (金) ~ 2008/05/05 (月)公演終了
満足度★★
ヤリ逃げ上等。
「ヤリ逃げ公演」と題され、中屋敷流に言うなれば「ひりひり」した公演。
二階堂瞳子の演出は、まさに“中屋敷チルドレン”そのものである。
よくできた模倣であると同時に、模倣はオリジナルを越えない。
ストーリーは蛇足だと切り捨てんばかりの進行の遅い一場物。
「とろい」「ぬるい」印象を与えるのは、そこも手伝っているのか。
やりたいことをやっているのは、マニフェストどおり。ごちそうさまでした。
菊池佳南の熱演が、このヤリたい放題の中で、ブレずに蝶番になっている。
好感しか持てない。
飛ぶ痛み
キリンバズウカ
王子小劇場(東京都)
2008/04/25 (金) ~ 2008/04/29 (火)公演終了
満足度★★★
違和が手を握ってる気がしてならない。
基本線、本当に素晴らしいんである。
『S高原から』を意識させる美術に始まり、そこを這い回る役者の妙があり、
静かなのに会話がいい感じにうるさくて、ドラマがガチガチに構築されていて、
不満が入り込む要素がないはずなのに、違和が残ってしょうがない。
あるいは、キャラクタや物語に対する残酷さが鮮やかだったからだろうか。
それは“軽み”とすることもできるし、“ぺらさ”とすることもできる。
もちろんそれは、魅力になるだろうし、実際に“軽み”が功を奏したように思う。
ただ、最後のエンディングに着地する根拠が、あまりにも希薄なのだ。
少なくとも“あの二人”の切実さが、いまいち感じられなかった。
たぶん、そこが違和なのだろう。
とにもかくにも、早く次が見たい団体であることに違いはない。
関西の秘密兵器から王子の核弾頭となる日は遠くない、と思うのだけど。
HIDE AND SEEK
パラドックス定数
ザムザ阿佐谷(東京都)
2008/04/24 (木) ~ 2008/04/27 (日)公演終了
満足度★★★★
硬質で上質な。
作家と登場人物の蜜月の関係を、実際の作品を軸に語り進める。
本当にクレバーな作品であると同時に、かなり野心的な作品だ。
硬質で上質なメタフィクションを観られたことは本当に至福である。
だからこそ、問題点を俳優陣に振ってしまいたくなるのだが、仕方あるまい。
それこそ、大御所を揃えても恥ずかしくない戯曲がここにあるのだから。
腕に自信アリの男性俳優に、どんどん出演して欲しい。
そして、照明の具合が実に素晴らしい。この作品の陰の巧者である。
ヤクザとアリス
ろりえ
早稲田小劇場どらま館(東京都)
2008/04/25 (金) ~ 2008/04/28 (月)公演終了
満足度★★
奥山雄太を水割りで。
15mmの衝撃は、結局のところ、濃度・密度の問題だったのだろうか。
120分にしてしまったところで、相当度数が薄まってしまったのは事実だろう。
やりたいことを詰め込んだ結果、散漫な印象を与えてしまっているのである。
期待を集めに集めた旗揚げ公演としては、少し残念な結果だった。
それにしても、ろりえというか奥山雄太のあざとさは苛々させられる。
もちろん、悪い意味ではなくて、各所に感じられる計算高さに「参ったなぁ」と、
こちらの唇を歪ませることに成功しているという点においてだ。
そこに、悪態をつきながらも「次も観なけりゃ」という原動力になってくる。
というわけで、悔しいけれど、次も観たい。
どらま館で、超満員・120分芝居は実に劣悪な環境であった。
そういった意味でも、90分が限界だろう、と思う。
どん底
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2008/04/06 (日) ~ 2008/04/27 (日)公演終了
満足度★★★★
共感を得ること。
岡野宏文×豊崎由美『百年の誤読 海外文学篇』で指摘されていた、
社会主義的思想をうまく排除したのは、KERAの慧眼であったと思う。
2008年に賞味するということについて気遣いが行き届いていたように思う。
「いつになっても人間変わらんですね」という共感を得ることは強い。
前半部を丹念に描くからこそ、後半部が非常に鮮やかになる。
それは判るんだけど、……それでも、前半はちょっとかったるい気もする。
必要な部分とは言え、ねぇ……。
段田安則をはじめ試合巧者が多く、安定感が素晴らしい。
苛々する大人の絵本
庭劇団ペニノ
はこぶね(劇団アトリエ)(東京都)
2008/04/11 (金) ~ 2008/04/26 (土)公演終了
満足度★★★★
愉快な悪夢。
タイトルに踊らされているのかもしれないが、確かに苛々する(笑)。
謎だらけの世界観に、突拍子もない展開に、特に愛せないキャラクタたち。
それこそ、悪夢なのだが……どこかしら愉快にも感じられるのだ。
ペニノの美術にはいつも驚嘆するのだが、今回もやはり驚嘆。
マンションの一室の中に、確かに“その世界が在る”ことを感じさせる。
今回がアトリエ公演の最後になるかもしれないとのこと。
また、機会があれば、取り組んでいただきたい。
恋人としては無理
柿喰う客
ギャラリーSite(東京都)
2008/04/13 (日) ~ 2008/04/13 (日)公演終了
満足度★★★★
したたかに凱旋。
固有名詞の羅列、ギャグの応酬といった台詞ひとつひとつの情報量の多さ。
だからこそ、柿は非常にドメスティックな団体であると思っていた。
フランスで本当に公演として成功を収めたのか、正直、疑心暗鬼だった。
だが、一目見て、大いに納得した。
なるほど、柿は、中屋敷は実にしたたかに勝ち戦をしてきたのだ。
その方法により、今までの柿以上のドライブ感を体感できた。
だが、さらに切れ味が増した時、どんな体感を生むのか、興味深い。
早期の再演、またはこの方法への可能性を期待し、星を一つ落としておく。
BALM in GILEAD(バーム・イン・ギリヤド)
the company
新宿シアターモリエール(東京都)
2008/04/04 (金) ~ 2008/04/20 (日)公演終了
満足度★★★★
トム・ウェイツのだみ声。
むっとするくらいの密度と熱量は想像通りの心地よさだった。
台詞が聞き取れんくらいの雑然とした感じは群像劇の醍醐味の一つ。
役者陣。役の重い軽いはあれど、29名、それぞれの存在感がむんむん。
個の面白さを見せてもらったように思う。
舞台美術の素晴らしさは一級品。
音響も照明もろくでもないダイナーの夜を見事に構築している。
いやあ、トム・ウェイツのだみ声の似合うこと。
できれば、前の方の席が吉。
顔よ
ポツドール
本多劇場(東京都)
2008/04/04 (金) ~ 2008/04/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
ぜつぼうした!
「顔」がテーマなのだから、それなりの覚悟していた。
にもかかわらず、三浦大介は物量的にも質的にも軽く上を越えてきた。
暗澹たる気分になる、のにずっと見続けていたい欲望もある。
例え笑っていたとしても、同時に酷く怖くなったりもする。
あっさりそういった倒錯が起きてしまえるのは、圧倒的な作品力からだろう。
その露悪ぶりは想定していっても圧倒される。
それは、近しいテーマであればあるほど、威力を増す。半端ない。
とりあえず、しばらく鏡でまともに自分の顔を見ることはできない。
錆花
TOCA*
神楽坂die pratze(ディ・プラッツ)(東京都)
2008/04/04 (金) ~ 2008/04/06 (日)公演終了
満足度★★★★
湿度と粘度
静かなのだが、主張は意外とうるさい。
どうしようもない人たちばかりなのに、極端な露悪にも走らない。
川上未映子の言う「釘」という表現の、しっくり加減は驚くばかりだ。
現実的でいて、それでもメルヘンになってしまうのは、甲斐の世界観なのか。
今回だけでは、どうにも見当がつかないままだった。
確かなものとして残ったのは、むわっとした湿度とねちゃっとした粘度。
気持ちいいものではないが、世界の触感でもあるのだろう。
ちょっと面白い切り込み方なので、次も注目して観てみたい。
三人姉妹
時間堂
王子小劇場(東京都)
2008/03/13 (木) ~ 2008/03/23 (日)公演終了
満足度★★★
深呼吸はどこへ行ってしまったのか。
本の面白さは知っていたので、演出と俳優に注視。
第一印象として、黒澤演出のいいところが出ていないのが気にかかった。
翻訳調の台詞に振り回されて、息苦しささえ見え隠れする俳優陣。
180分という上演時間もあいまって、空気があやふやなままに。
でも、疲弊の感覚が、ありありと感じられたのは事実である。
それは確かに普遍であるし、身に染みて感じる日常でもある。
何だか、日常の疲弊を再生しているようで、気持ちは良くないけれど。
そこに、今回の見所はあったように思う。
世界でいちばん熱いエロ本
ザ・プレイボーイズ
PRUNUS HALL(桜美林大学内)(神奈川県)
2008/03/21 (金) ~ 2008/03/23 (日)公演終了
満足度★
客席がアツかったのはひとえに暖房のためです。
タイトルとプロットに見合わぬ中途半端さに大いに落胆。
ベタなストーリーを押せるだけのエネルギーが全くもって不足している。
熱さが伝わらないのは、空気を動かせない役者と、小屋の大きさのせいか。
小屋の規模と上演時間を半分、出演者を倍にしたら、印象は良くなりそう。
要するに、「規模感を読めないとこうなるよ」という見事な悪例である。
ブラウファウスト
劇団銀石
明石スタジオ(東京都)
2008/03/20 (木) ~ 2008/03/23 (日)公演終了
満足度★★★★
ころがる快感。
役者と戯曲の噛み合い方が想像以上に面白い。
「体感」という看板に偽りなく、うまい具合にドライブ感を生み出している。
80年代回帰というよりは、反・現代口語演劇の流れなのか?
なるほど、うまく騙されてしまったような気がする。煙に巻かれたというか。
つまり、メソッドの面白さを見たかというとそうではないということだ。
もちろん、瑣末な問題である。今のところは。
相変わらず、自信過剰だとも思うが、それも大いに結構だと思います。
取りあえず、次も期待。
葦ノ籠~アシノカゴ~
黒色綺譚カナリア派
青山円形劇場(東京都)
2008/03/19 (水) ~ 2008/03/23 (日)公演終了
満足度★★★
水面は震わず。
おそらく作家・赤澤ムックの本髄はこちらにあるんだろう。
それは、暗い情熱で、それこそ暗い水のほとりが似合うような空気だ。
ただ、水面は実に穏やかなもので、人間が何をやろうと関係ないようだ。
胸に迫るものが無かったということなのか……いや、そんなはずは。
でも、水面は震わないままだ。
赤澤ムックは、ロジカルに攻めるタイプだと思っていたのだが、
どうにも今回は説得力にかける部分があり、妙に引っかかってしまう。
今まで、畳み掛けの上手さが光っていただけに、そこが解せないのだ。
たぶん、アングラ寄りを意識したのだろう……と好意的に解釈したい。
久々のザムザでの暗躍にかつてないほどの期待を込める。
箱
メタリック農家
ギャラリーLE DECO(東京都)
2008/03/18 (火) ~ 2008/03/23 (日)公演終了
満足度★★
僕はおしゃれじゃない。
スタイリッシュでキャラクタもズレていて、何だかキレイな空間だ。
しかし、終わってみて、あまり印象に残らない。
皮肉は効いているし、笑えなかったわけじゃない。じゃあ、なぜ?
他人の宝物箱を見ても、共感や理解ができない部分ってあると思う。
せめて、その熱意を伝えてくれたら、落ち着けることはできるんだけど。
ああ、熱っぽくなったら、おしゃれじゃないですね。
たぶん、おしゃれじゃない男子的な感想なんだと思います。はい。
ムネモパーク
NPO法人アートネットワーク・ジャパン(ANJ)
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2008/03/14 (金) ~ 2008/03/17 (月)公演終了
満足度★★★★★
記憶と統計とインド映画と。
鉄道模型のレイアウトに広がる記憶の数々。
そこで遊び語る老人たちが、記憶から現実を立ち上げる。
と言ってしまうと、ただただ感傷的な感じがするのだけど、それだけじゃない。
記憶からリンクして、現在のスイスの状況が見えてくる。
そこには数々のくすぐりがあり……そう言えば老人方は俳優じゃないのだ。
それこそ”脱力ドキュメンタリー”という言葉がしっくりくる。
なんだか考えれば考えるほど、虚構と現実の境目が難しくなってくる。
終演後に、レイアウトを見学していたら、なおさらそのように感じられた。
新しいパフォーマンスのスタイルとして、目から鱗の100%刺激的な体験。
また、日本で観られることを希望する。
偉大なる生活の冒険
五反田団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2008/03/06 (木) ~ 2008/03/16 (日)公演終了
満足度★★★★
力強い日常。
別に前田司郎の小説がスタイリッシュと言う気はさらさらないのだけど、
小説と戯曲の文体を考えた時に、小説はシュッとして寄り道がないし、
戯曲はくすぐりやらなんやら付随しやすい。
もちろん、これは好みの問題であって、僕はどちらも好きだ。
生きることにこれほどポジティブな作品も珍しい。
だからと言って、真っ直ぐに笑っていられるほど、無邪気にもなれず。
前田司郎+内田慈のコントラストが実にしっくりくる。
その陰に、妹役の石橋亜希子がキラリ。
フリータイム
チェルフィッチュ
SuperDeluxe(東京都)
2008/03/05 (水) ~ 2008/03/18 (火)公演終了
満足度★★★★
頭を共有できずとも、空間は共有できる。
だらだらと話を展開されると、ついぼうっと別のことを考えてしまう。
別のことと言っても、ベースラインは「フリータイム」についてなのであって、
それが日常の全然フリーじゃないことについてだったりして、
もう、大袈裟に言ってしまえば暗澹たる気持ちである。
自分の中で「フリータイム」が定着したのは二幕からだ。
一幕と二幕に特別な飛躍があるとも思えないのだが、しっくりきてしまう。
たぶん、「フリータイム」の受け容れ方がわかったと言うか、しっくりきた。
最後の、小さく確固たる結論を聞いて、明らかに解き放たれた。
それにしても、Super Deluxeという空間は本当に面白い。
日常との隔絶感はあるし、劇場ではないし。
場所がそれとわかる、シンプルでいて役者を見せることに特化した美術も、
そういった空間だからしっくりくるんだろうな、とも言える。
黎明
reset-N
相鉄本多劇場(神奈川県)
2008/03/05 (水) ~ 2008/03/09 (日)公演終了
満足度★★★
再演を観られる機会の大切さ。
「変遷」、つまり過去のNから現在のNまでの線を見出したかったのだが、
『黎明』という点と『繭』という点を、上手く繋げることができなかった。
気だるい感じの空間に、酷く不穏なもの(欲かな?)が渦巻く。
話の有機的な繋がり(と言うより繋げ方)が、あまりにも真っ直ぐすぎて。
若書きと言ってしまえばそれまでだし、完成度は高いのだけど。
話の中に出てきた、「リアル/非リアル」の話をさせてもらえば、
足立由夏の妖艶さは、間違いなくリアルとして立ち上がっていた。
横浜SAAC再演プロジェクトは、ぜひ今後も続けていただきたい。
年に3回くらいは、やらないとあまり意味は無いと思うけれど。