雲。家。◆フェスティバル/トーキョー09春
フェスティバル/トーキョー実行委員会
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2009/03/04 (水) ~ 2009/03/07 (土)公演終了
満足度★★
詩的なアジテーション。
「F/TはとりあえずPort-Bが観たい」という誰かの話を聞いて、観劇。
イェリネクという作家でさえ、Wikipedia程度の知識しか持ち合わせていない。
一部ではポルノ作家とさえ言われているイェリネクだが、さて……。
かなり咀嚼しにくい作品だ。原作テキストだけではなおさらだろう。
原語でなければ作品としての広がりを失うという感覚も、何となく判る。
それを日本に置換する作業の努力は、感嘆させられる。
しかし、どうにもイェリネクよりは高山明の強いメッセージを感じる。
観察者というよりは、デモ行進の先頭に立っているような印象。
火の顔◆フェスティバル/トーキョー09春
フェスティバル/トーキョー実行委員会
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2009/03/05 (木) ~ 2009/03/08 (日)公演終了
満足度★★★★
冷静な熱視線。
家族がテーマやツールとなる作品を描いてきた松井周。
今回の作品も家族がテーマであるからして、“松井の視線”に注目した。
実に鋭利な作品で、引きこもり・インセスト・親殺しと事件には事欠かない。
歪みがある家という空間を、実に気持ち悪く演出する。
長男の童貞的な妄想ぶりなど、松井脚本にも通ずるものがあるからか、
割とのめり込んだような演出を取ったのではないかと思われる。
特に冷静さを欠いていたとは思わないが、“冷静な熱視線”と言うべきか。
同世代の佳作に何を思ったのか、というものが作品に現れている気がする。
この作品のキーとなる、姉・野津あおい。妄想を具現化したような姉ぶり。
弟・菅原直樹は、まさに“アン・ファン・テリブル”そのもの。圧巻。
恋人としては無理(JAPAN TOUR)
柿喰う客
STスポット(神奈川県)
2009/03/05 (木) ~ 2009/03/09 (月)公演終了
満足度★★★★★
“柿喰う客”という現象。
初演時から感じていたのだが、この作品は“柿喰う客の名刺”である。
柿メソッドのコアの部分をたっぷり見せつけているし、
物語としても“柿喰う客”という現象の実体を探っている。
過不足なくシンプルなスタイルで、名刺というには打ってつけだ。
STスポットという劇場を選んだのは、作品としては大正解。
ただ、観客的には辛かったということを記しておく。
作品と観客の幸福を同時に叶えられる劇場ってなかなか難しい。
点数は、初日ということで期待含みで5点に加点した。
地方公演も一つくらいは観て、自分の評価を裏付けたい。
メガネに騙された
箱庭円舞曲
OFF OFFシアター(東京都)
2009/02/18 (水) ~ 2009/03/01 (日)公演終了
満足度★★★★
それでも騙されたいから。
箱庭円舞曲はブレない。
タイトルとは違う話であり、でもタイトルからはつかず離れず。
そして、タイトルから問題を提起してくる。
言ってしまえば、気持ちのよい裏切りがそこにある。
色眼鏡という言葉があるように、確かに誰もが眼鏡をかけている。
そこを残酷なまでに抉り出し、今回はやや露悪の体すらある。
古川が本質をここまで攻めることは珍しい。が、考えさせられる。
今回は、現代の農業が抱える問題も主題となってくる。
精力的な取材の結果が自然にドラマに取り込まれており、
質のよいドキュメンタリを観ているような感じさえある。
(都会人向けの)就農センターという舞台設定も、
都会人と現地人の交流の場としてごく自然であった。
今回も気持ちよく裏切られた。
カール・マルクス:資本論、第一巻◆フェスティバル/トーキョー09春
フェスティバル/トーキョー実行委員会
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2009/02/26 (木) ~ 2009/03/01 (日)公演終了
満足度★★★★
『資本論』の実感。
演出家集団・リミニ・プロトコルが、『資本論』を再構成した。
何かを解釈する時に例示は有効で、彼らはそれを有効に利用する。
それも、実際の経験談を本人に語らせるという形で。
その人の経験談が『資本論』とクロスする瞬間がある。
つまり、『資本論』が実感される時だ。
そして、今の時代状況と『資本論』がクロスする。
1867年に刊行された書物が、2009年を説明する。
これ以上に滑稽で痛快なことなどない。
前方の席は、字幕が舞台の上部にあるため、少し観づらい。
後方の席の方が、役者と字幕が同時に観られる可能性が高いと思われる。
字幕を必要とする劇はどうしてもそういったジレンマがある。
かと言って、その人のヴォイスは大切だから、吹替えは望まない。
字幕で巧く見せる方法をどこまでも模索していただきたい。
1年に1度、リミニ・プロトコルが来日してくれることを切に願う。
これほど新作を楽しみにできる団体はなかなか無い。
パイパー
NODA・MAP
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2009/01/04 (日) ~ 2009/02/28 (土)公演終了
満足度★★★★
ホラの説得。
野田地図の新作というのは実は初めての経験。
賛否両論の噂が飛び交う中、コクーンのシートに座した。
野田がスケールの大きな物語を志向していることは、よく知られている。
だから、SF作品が今回初めてであるというのが意外なくらいである。
物語の話者が大きなホラを吹けば吹くほど面白い。
本作が、野田の信念に適った作品であることに違いはないだろう。
気になる点。
物語の進み方に、どうやって嘘をつこうかという手探りが見える。
結果として、たまたま今回の物語の着地点があっただけで、
別の着地点だって大いに考える余地がある雰囲気がある。
このクロニクルは、本当にあやふやな上で立っているのだ。
そのホラに説得されるのかどうか。観客は試されている。
主演陣・アンサンブルともに特に話すことはない。
まっすぐにホラに対して献身していたというだけのことである。
それだけで十二分な仕事であろう。
ただ一点だけ。
大倉孝二が大変な働きをしていることを忘れてはならない。
狂言回しと道化の両立をこれほどまでに器用にこなす人はいない。
カッコイイ。
トワイライツ
モダンスイマーズ
吉祥寺シアター(東京都)
2009/02/19 (木) ~ 2009/03/01 (日)公演終了
満足度★★★
設定の害悪。
今まで未見だったモダンスイマーズを岸田賞受賞後に初観劇。
何の印象も持たずに観劇に臨んだ。
繰り返される恋愛人生にひとつふたつのスパイスを注入。
なるほど、ダークな印象の恋愛ファンタジーだ。
ただし、巧妙な設定だからこそステロタイプの人物しか出せない。
だからこそ、起こる事実全てが薄っぺらに感じられる。
二律背反というか、矛盾を抱えた舞台であったように思う。
客演の鶴田真由の山本亨の好演が光る。
この2人だけはステロタイプとは外れた部分にある(あらざるを得ない)。
次回作に判断を仰ぎたい。
44マクベス 【トークゲスト決定!!】
中野成樹+フランケンズ
d-倉庫(東京都)
2009/02/18 (水) ~ 2009/02/23 (月)公演終了
満足度★★★
臆することなかれ、見くびることなかれ。
シェイクスピア戯曲とは、これほどまでに引力があるのか。
誤意訳の名手・中野成樹をもってしてもその引力を意識させてしまった。
別に引力に勝つとか負けるとかそういう話ではない。
どう付き合うかという話である。
それまでの中野作品は、その点が絶妙なバランス感覚だったのだと思う。
しかし、それが今回はうまく機能していないように感じられたのだ。
ダイナミズム溢れる戯曲である『マクベス』と中野演出の相性の問題である。
現代口語翻訳調で対処できてきた雰囲気が、王冠を出した時点で崩れる。
そこに中野演出の迷いが見て取れるようであった。
『マクベス』に対し、臆する必要はないし、また見くびる必要はもっとない。
中野演出は後者の選択をしてしまった気がしてならないのだ。
ブ、ブルー
川崎市アートセンター
川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)
2009/02/14 (土) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★★
「×(かける)」の効果。
コラボレーションとは聞こえはよいが、なかなかに胡散臭い。
ダンス×文学という今回の企画にしてみても、同じこと。
多少の疑いを持ちつつ、2人の爆発力に賭けて、新百合ヶ丘に足を運んだ。
正直、ダンス嫌いの私が圧倒された。
『ブ、ブルー』という言葉から、生まれた物語とダンス。
そこに圧倒的な早さで『ブ、ブルー』という物が構築されていく。
ダンスとも文学とも言い難く、まさに「×」の効果が見えたように思う。
たった2回の公演であったことがもったいない。
こういったコラボレーションならば、いつでも歓迎である。
その夜明け、嘘。
TBS
青山円形劇場(東京都)
2009/02/07 (土) ~ 2009/02/22 (日)公演終了
満足度★★★★
誰かの英断。
宮崎あおいを小劇場で観られる。それだけでも価値を見出すことは可能だ。
大河ドラマ後第1作に、まさか小劇場でやることになるとは。
そのような驚きを引き出せただけで、この企画は成功したも同じだ。
そんな3人芝居を、雑音を気にせずにまっすぐに見つめてみた。
吉本菜穂子・六角精児という気鋭を起用したのは、正解である。
おかげで、舞台慣れしていない宮崎あおいがのびのびと遊べている。
線の細い感は否めないが、円形劇場では、さほどマイナス要素でもない。
そして、何となく成功しちゃっている福原充則。
3人それぞれ複数役で遊ばせることで、3人の魅力を引き出している。
あまりにもライトで投げっぱなし感があるのも、福原の魅力。
やりたいことはやれていたのではないか、とは思うのだ。
1時間40分で逃げ切れれば、傑作であったろう。
誰の英断か分からないが、円形劇場を選んだのは正しい。
身の丈という意味において、小劇場を選んだことが正解だった作品である。
ちっちゃなエイヨルフ
メジャーリーグ
あうるすぽっと(東京都)
2009/02/04 (水) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★★
それがトリガーとなって、
「厄介なものは、あたしが駆除してさしあげよう」がトリガーとなり、
事件と感情の発露がドミノ倒しのように押し寄せてくる会話劇。
あまりに正直すぎる感情の発露と気まぐれな動き。
もはやシュールですらあるが、現実、意外とそんなものなのかも知れない。
毎回思うが、タニノクロウは古典に対して真面目すぎるほど真面目だ。
流石にペニノのような料理はできないと言うことなのだろうか。
テキストだけで充分刺激的だから、僕はこれで割と満足なのだが。
グランド・フィナーレ
富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(埼玉県)
2009/02/10 (火) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
骨太な気持ち悪さ。
この気持ちの悪い短篇小説の舞台化を楽しみにしていた。
そして、その気持ち悪さが舞台にしっかり載っていたことが気持ち悪かった。
食い入るように舞台を見張り続けた。満足であった。
脚本と演出が原作を上手く再構成できたからに他ならない。
小説とは違う形で、解答が導かれたことは、喜ばしい。
佐藤(松田洋治)の内に込めた歪みの発露も悪くなかったし、
それを取り巻く人物やら、佐藤の自意識やらがなかなかに凝っている。
キラリ☆ふじみが、今後も骨太な舞台作りに寄与してくれることを望む。
遠くても通いたくなる劇場が増えることは嬉しいことだ(辛いけどね)。
クロウズ
スロウライダー
新宿シアタートップス(東京都)
2009/02/07 (土) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★★
GAME OVER
前作よりもくすぐり多めのアンチ・サバイバルホラー。
怖さも何割か増していて、棚にある物全部持って行って状態。
おかげさまで、しっかりスロウを堪能できたように思う。
スロウは時に難解なイメージを持たれがちである。
が、特にエンタテイメント性が高いので、そのようなことはないだろう。
でも、それが魅力を薄めているようで少し残念ではあった。
狙いに狙いきった演出のチープさは、かなり笑わせてもらったけど。
數間優一と芦原健介。
この役者2人がいてこそのスロウだなと再認識。
他の役者陣も十二分にいい仕事をしており、気持ちがよすぎるくらい。
とにもかくにも、スロウライダーとしてのGAME OVERである。
さらば、スロウライダー。ありがとう、スロウライダー。
俺の宇宙船、
五反田団
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2009/02/06 (金) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★
ガキじゃねえんだから。
三鷹の広い空間に、なんとなく五反田団が収まっている。
いつもと違うような気がしていたのだが、紛うことなく五反田団だ。
人数が多いためだろうか。いつにも増して、キャラクタ押しだった印象がある。
それはそれで楽しいのだが、どうもごまかされた気がする。
ニッチな方向に楽しめればそれでいいってもんじゃねーぞ、みたいな。
ラストのずるさは、最近で一番。十八番が決まった、という感動すら覚える。
今回は、大山雄史がとことんやりきっている。
こんなに声と体を張っている役、今までの五反田団にあっただろうか。
床下のほら吹き男
MONO
吉祥寺シアター(東京都)
2009/02/06 (金) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★★
納得の20年選手。
ウェルメイド・コメディーとして安心して観られる作品。
そこはやはり20年選手。安定感がある。
特に奇抜なこともなく、ただただ物語とキャラクタで魅せる。
床下にばっちりスーツで決めたほら吹き男がいる。
シュールで秀逸な設定であり、ほら吹き男も愛せるムカつくキャラクタだ。
連作短篇小説なんかに使えるアイディアだろう。
静かな爆
東京タンバリン
駅前劇場(東京都)
2009/02/04 (水) ~ 2009/02/09 (月)公演終了
満足度★★★★
あざとさ乱れ撃ち。
最初から、あざとい演出と台詞の数々にやれやれと思っていた。
しかし、だんだんに高井浩子の思惑にハマってくる自分に気づく。
あざとさも過ぎると強固な作品になるのだなぁ。
13人のキャラクタの切り分けも見事なもの。
「この人いいなぁ」「こいつ嫌い」とこちらでも切り分けしやすいくらい。
逆に言えば、類型的に役割を割り振っているわけで、
そのへんも変にあざとさを感じる要因となっているのかもしれない。
何よりも音や言葉について、思いをめぐらす時間が必要なのかもしれない。
そのやんわりとしたメッセージこそが、この作品の面白さだろう。
しとやかな獣
オリガト・プラスティコ
紀伊國屋ホール(東京都)
2009/01/29 (木) ~ 2009/02/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
コツコツやる奴はご苦労さん?
詐欺をされるのは御免だが、詐欺師を見るのは面白い。
詐欺で生計を立てている一家というだけでも面食らうが、
そのさらに上を行く人物の登場は痛快の一言。
黒いことを明るく語る面白さがある。
一方で、そんな連中と関わった生真面目な人物は、悲壮感たっぷりである。
コツコツやる奴はご苦労さん、でいいものか。
生真面目な人物(玉置孝匡)が色濃い疑問を投げ掛ける。
とにかく戯曲が面白い。映画も観たくなる。
緒川たまきの飄々とした色気と、浅野和之の無責任親父ぶり。
2人ともキーパーソンとして存在感たっぷりである。
他の人物も胡散臭さたっぷりで、物語を豊かなものにしている。
写楽コンプレックス
劇団銀石
タイニイアリス(東京都)
2009/01/29 (木) ~ 2009/02/01 (日)公演終了
満足度★★★
反口語演劇は80年代の夢を見るか?
躁状態での台詞回しに始まり、キャラクタ芝居の徹し方など、
まるで中屋敷学校の模範的生徒のような作品だ。
役者も元気元気を前面に押し出し面食らうくらい。
後ろの席で見ても伝わるのだから、大したものである。
だから、面白い!……とはいかないのである。
前回公演、古典を題材に現代人を切り取ったのは痛快であった。
そして何よりも、暗さが魅力であったと僕は思っている。
今回はその暗さが躁状態の舞台に掻き消されてしまった。
(衣装が明るかったのも要因としては小さくなさそうだ)
佐野木雄太はどこに向かっているのだろう。
もう少し注目してみたい。
Play#2 「ソヴァージュばあさん / 月並みなはなし」
4x1h project
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2009/01/23 (金) ~ 2009/01/30 (金)公演終了
満足度★★
迷走、だと思う。
今回で#02となる4x1h Project。
質の高い短篇戯曲を取り上げる企画として期待している。
他人の演出で見えてくる部分というものがある。
朗読劇を舞台に乗せることで見えてくる部分というものがある。
そこは素直に認めたい。
ただ、戯曲のよさが演出に溺れている感が強かった。
少なくとも、テキストを生かす最良の手段であるようには見えなかった。
両人とも、もっとテキストの強度を信じてほしかったように思う。
演出対決ならば、そういう名目でやればよい。
この企画は、あくまで戯曲の見本市という立場であってほしい。
ごく個人的な願いではあるが、#03 Readingが望まれる。
四色の色鉛筆があれば
toi
シアタートラム(東京都)
2009/01/27 (火) ~ 2009/01/28 (水)公演終了
満足度★★★★★
“人間”が伝わる
柴作品は罰ゲームのようだなと毎回思っていた。
言い換えれば、柴幸男は自作を縛りまくっていた。
別に洒落とかじゃなく、発想先行のイメージがあったのだ。
4本の作品を観て、ちょっと考えが変わった。
柴作品にテキストの面白みを初めて感じられたのだ。
温かみと言い換えてもいいかも知れない。
その温かみを届ける方法の模索が、柴演出なのだろう。
そう思えるほど、4本とも“人間”が伝わってきた。
丸くて温かい素直な短篇集の手触りが、まだ残っている。
四色問題は、柴の手で一つの答えを見た。