こまごめとなりの観てきた!クチコミ一覧

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雲。家。◆フェスティバル/トーキョー09春

雲。家。◆フェスティバル/トーキョー09春

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/03/04 (水) ~ 2009/03/07 (土)公演終了

満足度★★

詩的なアジテーション。
「F/TはとりあえずPort-Bが観たい」という誰かの話を聞いて、観劇。
イェリネクという作家でさえ、Wikipedia程度の知識しか持ち合わせていない。
一部ではポルノ作家とさえ言われているイェリネクだが、さて……。

かなり咀嚼しにくい作品だ。原作テキストだけではなおさらだろう。
原語でなければ作品としての広がりを失うという感覚も、何となく判る。
それを日本に置換する作業の努力は、感嘆させられる。

しかし、どうにもイェリネクよりは高山明の強いメッセージを感じる。
観察者というよりは、デモ行進の先頭に立っているような印象。

ネタバレBOX

ほぼ一人の声によって、録音/マイク等を通じて、丹念に語られていく。
「私たちは」「私たちは」のリフレインに、うまく全容を掴むことができない。
テキスト至上主義を掲げる私だが、これほど詩的言語に埋もれると戸惑う。

その結果が、ナショナリストのアジテーションのように聞こえた。
詩的な言葉で埋められているだけに、あまりにも力強い。
サンシャイン60/巣鴨プリズンの光景は、想像を限定させるものがあった。
考える契機というには踏み込んだ内容だったからかもしれない。
火の顔◆フェスティバル/トーキョー09春

火の顔◆フェスティバル/トーキョー09春

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2009/03/05 (木) ~ 2009/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★

冷静な熱視線。
家族がテーマやツールとなる作品を描いてきた松井周。
今回の作品も家族がテーマであるからして、“松井の視線”に注目した。

実に鋭利な作品で、引きこもり・インセスト・親殺しと事件には事欠かない。
歪みがある家という空間を、実に気持ち悪く演出する。
長男の童貞的な妄想ぶりなど、松井脚本にも通ずるものがあるからか、
割とのめり込んだような演出を取ったのではないかと思われる。
特に冷静さを欠いていたとは思わないが、“冷静な熱視線”と言うべきか。
同世代の佳作に何を思ったのか、というものが作品に現れている気がする。

この作品のキーとなる、姉・野津あおい。妄想を具現化したような姉ぶり。
弟・菅原直樹は、まさに“アン・ファン・テリブル”そのもの。圧巻。

恋人としては無理(JAPAN TOUR)

恋人としては無理(JAPAN TOUR)

柿喰う客

STスポット(神奈川県)

2009/03/05 (木) ~ 2009/03/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

“柿喰う客”という現象。
初演時から感じていたのだが、この作品は“柿喰う客の名刺”である。
柿メソッドのコアの部分をたっぷり見せつけているし、
物語としても“柿喰う客”という現象の実体を探っている。
過不足なくシンプルなスタイルで、名刺というには打ってつけだ。

STスポットという劇場を選んだのは、作品としては大正解。
ただ、観客的には辛かったということを記しておく。
作品と観客の幸福を同時に叶えられる劇場ってなかなか難しい。

点数は、初日ということで期待含みで5点に加点した。
地方公演も一つくらいは観て、自分の評価を裏付けたい。

ネタバレBOX

役者で気になったのは、コロと堀越涼。
コロは、コロブチカの成果が見事に体現されており、心強い。
堀越はそつなくの感は強いものの、流石の反・現代口語演劇の若頭ぶり。

横浜公演ゲストに中野成樹を呼べたことは限りなく正解に近い。
柿喰う客のスタンスに乗らない冷静な第三者をしっかり見せていた。
全公演で中野でもいいと思うくらいの素晴らしさだった。

蛇足だが、「中屋敷法仁+フランケンズ」でも、「中フラ」である。
これを機に「多田フラ」の次は「中フラ」でいかがなものでしょう?
メガネに騙された

メガネに騙された

箱庭円舞曲

OFF OFFシアター(東京都)

2009/02/18 (水) ~ 2009/03/01 (日)公演終了

満足度★★★★

それでも騙されたいから。
箱庭円舞曲はブレない。
タイトルとは違う話であり、でもタイトルからはつかず離れず。
そして、タイトルから問題を提起してくる。
言ってしまえば、気持ちのよい裏切りがそこにある。

色眼鏡という言葉があるように、確かに誰もが眼鏡をかけている。
そこを残酷なまでに抉り出し、今回はやや露悪の体すらある。
古川が本質をここまで攻めることは珍しい。が、考えさせられる。

今回は、現代の農業が抱える問題も主題となってくる。
精力的な取材の結果が自然にドラマに取り込まれており、
質のよいドキュメンタリを観ているような感じさえある。
(都会人向けの)就農センターという舞台設定も、
都会人と現地人の交流の場としてごく自然であった。

今回も気持ちよく裏切られた。

ネタバレBOX

舞台セットが広がり(と言うしかないのだが)、物語が始まる。
観客をしっかりと掴む術を知っているというか、見事である。

今回、実際の町の名前を使っていることを観劇後に知った。
あくまで架空の町で名前だけの使用なのだろうけれど、
産地偽装というデリケートな問題を扱っているだけに、
その辺の配慮が無いように感じられたのは残念。
カール・マルクス:資本論、第一巻◆フェスティバル/トーキョー09春

カール・マルクス:資本論、第一巻◆フェスティバル/トーキョー09春

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/02/26 (木) ~ 2009/03/01 (日)公演終了

満足度★★★★

『資本論』の実感。
演出家集団・リミニ・プロトコルが、『資本論』を再構成した。
何かを解釈する時に例示は有効で、彼らはそれを有効に利用する。
それも、実際の経験談を本人に語らせるという形で。

その人の経験談が『資本論』とクロスする瞬間がある。
つまり、『資本論』が実感される時だ。
そして、今の時代状況と『資本論』がクロスする。
1867年に刊行された書物が、2009年を説明する。
これ以上に滑稽で痛快なことなどない。

前方の席は、字幕が舞台の上部にあるため、少し観づらい。
後方の席の方が、役者と字幕が同時に観られる可能性が高いと思われる。
字幕を必要とする劇はどうしてもそういったジレンマがある。
かと言って、その人のヴォイスは大切だから、吹替えは望まない。
字幕で巧く見せる方法をどこまでも模索していただきたい。

1年に1度、リミニ・プロトコルが来日してくれることを切に願う。
これほど新作を楽しみにできる団体はなかなか無い。

ネタバレBOX

日本人キャストにやや準備不足や過度の緊張がある。
外国人キャストが慣れ切っているだけに、そこのギャップが気にかかる。
(また、ドイツ語を介さない日本人キャストはきっかけが難しいのだろう。
何度か台詞の順序が役者間で前後してしまう時があったようだ。)
素人を舞台に載せる難しさが露呈しているように思われた。
前年の『ムネモパーク』では感じられなかったことだ。

今回、日本版にリミックスした部分が効果的でありつつ、
上記のような理由でうまく噛み合ってないような部分がある。
バランスがなかなか難しいであろうが、精度を高めてほしいところだ。

また、実際にテキストを配られたことには驚いた。
実際に目にすることで、実感してほしいという意味があるのだと思う。
そのおかげで、より一層講義のような雰囲気となった。
たまにはこんなお勉強も悪くないものです。
パイパー

パイパー

NODA・MAP

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2009/01/04 (日) ~ 2009/02/28 (土)公演終了

満足度★★★★

ホラの説得。
野田地図の新作というのは実は初めての経験。
賛否両論の噂が飛び交う中、コクーンのシートに座した。

野田がスケールの大きな物語を志向していることは、よく知られている。
だから、SF作品が今回初めてであるというのが意外なくらいである。
物語の話者が大きなホラを吹けば吹くほど面白い。
本作が、野田の信念に適った作品であることに違いはないだろう。

気になる点。
物語の進み方に、どうやって嘘をつこうかという手探りが見える。
結果として、たまたま今回の物語の着地点があっただけで、
別の着地点だって大いに考える余地がある雰囲気がある。
このクロニクルは、本当にあやふやな上で立っているのだ。
そのホラに説得されるのかどうか。観客は試されている。

主演陣・アンサンブルともに特に話すことはない。
まっすぐにホラに対して献身していたというだけのことである。
それだけで十二分な仕事であろう。
ただ一点だけ。
大倉孝二が大変な働きをしていることを忘れてはならない。
狂言回しと道化の両立をこれほどまでに器用にこなす人はいない。
カッコイイ。

ネタバレBOX

状況は違うものの『ひかりごけ』が思い起こされた。
トワイライツ

トワイライツ

モダンスイマーズ

吉祥寺シアター(東京都)

2009/02/19 (木) ~ 2009/03/01 (日)公演終了

満足度★★★

設定の害悪。
今まで未見だったモダンスイマーズを岸田賞受賞後に初観劇。
何の印象も持たずに観劇に臨んだ。

繰り返される恋愛人生にひとつふたつのスパイスを注入。
なるほど、ダークな印象の恋愛ファンタジーだ。

ただし、巧妙な設定だからこそステロタイプの人物しか出せない。
だからこそ、起こる事実全てが薄っぺらに感じられる。
二律背反というか、矛盾を抱えた舞台であったように思う。

客演の鶴田真由の山本亨の好演が光る。
この2人だけはステロタイプとは外れた部分にある(あらざるを得ない)。

次回作に判断を仰ぎたい。

ネタバレBOX

珍しくあらすじを書いておく。
あらすじはもちろんのこと、その後の文章についても、
ネタバレを避ける方は、絶対に読まれぬよう。

---あらすじ---

主人公(名前は同じだが性格は違う)に3度の人生を経験させる。
失敗の後、別の主人公が夢から覚める。
それを教訓に新たな人生を展開する。
そして、また失敗し、また別の主人公が夢から覚める。

言ってしまえば、マルチバッドエンディングの恋愛ゲームだ。
どの人生においても、お隣のお姉さんを幸せにすることは叶わない。

最後に、お姉さんの義理の兄が夢から覚める。
主人公の3回繰り返される恋愛人生を夢として見てしまったのだ。

ここで失敗する恋愛人生の謎が明かされる。
それは、お姉さんが、義理の兄と結ばれることを望んでいたからだ。
だから、結果として主人公とは巧くいかない。
兄はタブーを犯さぬため、粗暴な兄として振舞うようになる。
(つまり、兄が粗暴な理由をここで観客は知ることとなる)
それが、3回の主人公の人生に粘着質に絡み合うのだ。

---あらすじここまで---

設定に工夫がある点は、素直に評価したい。
別のことを書かせれば、岸田賞を獲るのかも知れないなぁとも思う。

少し無理を感じるのは、義理の兄に夢を見させたという部分だ。
巧いやり方であるとは思えないし、妹の兄への想いが、
取ってつけた印象すら感じられ、要するに設定で片付けている。
ロジックの粗さが、この着地点を軽いものにしているのだ。

少なくとも本作を観て、岸田賞受賞に納得できるものではない。
44マクベス 【トークゲスト決定!!】

44マクベス 【トークゲスト決定!!】

中野成樹+フランケンズ

d-倉庫(東京都)

2009/02/18 (水) ~ 2009/02/23 (月)公演終了

満足度★★★

臆することなかれ、見くびることなかれ。
シェイクスピア戯曲とは、これほどまでに引力があるのか。
誤意訳の名手・中野成樹をもってしてもその引力を意識させてしまった。
別に引力に勝つとか負けるとかそういう話ではない。
どう付き合うかという話である。
それまでの中野作品は、その点が絶妙なバランス感覚だったのだと思う。
しかし、それが今回はうまく機能していないように感じられたのだ。

ダイナミズム溢れる戯曲である『マクベス』と中野演出の相性の問題である。
現代口語翻訳調で対処できてきた雰囲気が、王冠を出した時点で崩れる。
そこに中野演出の迷いが見て取れるようであった。

『マクベス』に対し、臆する必要はないし、また見くびる必要はもっとない。
中野演出は後者の選択をしてしまった気がしてならないのだ。

ネタバレBOX

別にシェイクスピアに造詣が深いわけでもないが、少し長めに印象を記す。

トークゲストだった翻訳家の松岡和子の言葉がこの劇を語っている。
“シェイクスピア戯曲の引力”という枕詞を置きつつ、
 ・引力を利用した部分
 ・引力から離れた部分
 ・引力から離れようとして離れ切れていない部分
という3点のコラージュであるという感想を述べたのだ。
私も全面的に同意したい部分である。

中野成樹に言わせれば、“古典戯曲の保険”ということになるだろう。
彼は、シェイクスピア保険に懐疑を抱いていたが、結局保険を使っている。
『マクベス』をやること自体の重みを、彼は見誤ったのかもしれない。

ここだけは中野作品の妙だなと思ったシーンを2つ。

魔女の予言の性質を中野流に分解できていた点は面白い。
そこらにいそうな若者のいい加減な言葉にしても、当たれば予言になる。
別に当たったとしても、偶然か自分がそうしただけのこと。
そこに溺れていくマクベスという定番の印象を、別の形で提示できている。

最後に、マクベスとマクベス夫人が一緒に墓で眠るシーン。
眠れなかった2人が眠るという清々しいシーン。
これまでの『マクベス』に対し、新たな解釈を提示できているように思う。

この2点にしても、そこだけを切り取ればと巧いというだけなのだ。
要するに3点のコラージュが有機性のある提示ではなく、
どこかでこぼこが気になるような感じで提示されているのが本作だ。
地ならしした結果、別の地ならしが必要になったのではないかと思う。
ブ、ブルー

ブ、ブルー

川崎市アートセンター

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2009/02/14 (土) ~ 2009/02/15 (日)公演終了

満足度★★★★

「×(かける)」の効果。
コラボレーションとは聞こえはよいが、なかなかに胡散臭い。
ダンス×文学という今回の企画にしてみても、同じこと。
多少の疑いを持ちつつ、2人の爆発力に賭けて、新百合ヶ丘に足を運んだ。

正直、ダンス嫌いの私が圧倒された。
『ブ、ブルー』という言葉から、生まれた物語とダンス。
そこに圧倒的な早さで『ブ、ブルー』という物が構築されていく。
ダンスとも文学とも言い難く、まさに「×」の効果が見えたように思う。

たった2回の公演であったことがもったいない。
こういったコラボレーションならば、いつでも歓迎である。

ネタバレBOX

花火を使っての圧倒的なスタートから爆発的なダンス。
静と動を繰り返しながら、朗読と絡み合いながら、世界が構築される。

それにしても、古川日出男が踊るとは思わなかった。
これも、「×」の効果か。
その夜明け、嘘。

その夜明け、嘘。

TBS

青山円形劇場(東京都)

2009/02/07 (土) ~ 2009/02/22 (日)公演終了

満足度★★★★

誰かの英断。
宮崎あおいを小劇場で観られる。それだけでも価値を見出すことは可能だ。
大河ドラマ後第1作に、まさか小劇場でやることになるとは。
そのような驚きを引き出せただけで、この企画は成功したも同じだ。
そんな3人芝居を、雑音を気にせずにまっすぐに見つめてみた。

吉本菜穂子・六角精児という気鋭を起用したのは、正解である。
おかげで、舞台慣れしていない宮崎あおいがのびのびと遊べている。
線の細い感は否めないが、円形劇場では、さほどマイナス要素でもない。

そして、何となく成功しちゃっている福原充則。
3人それぞれ複数役で遊ばせることで、3人の魅力を引き出している。
あまりにもライトで投げっぱなし感があるのも、福原の魅力。
やりたいことはやれていたのではないか、とは思うのだ。
1時間40分で逃げ切れれば、傑作であったろう。

誰の英断か分からないが、円形劇場を選んだのは正しい。
身の丈という意味において、小劇場を選んだことが正解だった作品である。

ネタバレBOX

某紙で、役の入れ替わりがわかりにくいという指摘があったと伝聞で聞いた。
(確認が取れ次第、この部分は修正します)
これでわかりにくいのであれば、もう少し目と耳を頭を使ってほしいものだ。
ちっちゃなエイヨルフ

ちっちゃなエイヨルフ

メジャーリーグ

あうるすぽっと(東京都)

2009/02/04 (水) ~ 2009/02/15 (日)公演終了

満足度★★★★

それがトリガーとなって、
「厄介なものは、あたしが駆除してさしあげよう」がトリガーとなり、
事件と感情の発露がドミノ倒しのように押し寄せてくる会話劇。
あまりに正直すぎる感情の発露と気まぐれな動き。
もはやシュールですらあるが、現実、意外とそんなものなのかも知れない。

毎回思うが、タニノクロウは古典に対して真面目すぎるほど真面目だ。
流石にペニノのような料理はできないと言うことなのだろうか。
テキストだけで充分刺激的だから、僕はこれで割と満足なのだが。

ネタバレBOX

主要の3人をピックアップ。

物語のキーを妹のアスタが握るが、馬渕英俚可が見事に勤めている。
ボーイッシュで芯の強いところは、そもそも好かれやすいとも言えるのだが、
しっかり好かれる役になっていたのではないかと思う。

勝村政信は、アルメルスという役に誠実に向き合っている。
ちょっとのおふざけの入る余裕すら見せず、全力で取り組んでいる。
少なくとも観るべきモノは観られたという気分にさせるのは流石だ。

とよた真帆はそれこそ舵取りが難しいところだ。
女の嫉妬深さやら気まぐれやら、悲哀なるエロスと言うべきか。
言ってしまうと馬鹿馬鹿しいのだけれど、なかなかに身勝手な感じは、
その役を攻めきっている感すらある。
だからこそ、最後の台詞が素直になるのだろう。
グランド・フィナーレ

グランド・フィナーレ

富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ

富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(埼玉県)

2009/02/10 (火) ~ 2009/02/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

骨太な気持ち悪さ。
この気持ちの悪い短篇小説の舞台化を楽しみにしていた。
そして、その気持ち悪さが舞台にしっかり載っていたことが気持ち悪かった。
食い入るように舞台を見張り続けた。満足であった。

脚本と演出が原作を上手く再構成できたからに他ならない。
小説とは違う形で、解答が導かれたことは、喜ばしい。

佐藤(松田洋治)の内に込めた歪みの発露も悪くなかったし、
それを取り巻く人物やら、佐藤の自意識やらがなかなかに凝っている。

キラリ☆ふじみが、今後も骨太な舞台作りに寄与してくれることを望む。
遠くても通いたくなる劇場が増えることは嬉しいことだ(辛いけどね)。

ネタバレBOX

まさか、音楽劇ふうにまとめてくるとは思わなかったから面食らった。
結果的に、そんなに嫌な感じはしなかったが、過分なことだと思う。

佐藤のまわりにサトーズと呼ばれる、佐藤の分身を配置したことは、
結果として、「グランド・フィナーレ」の主人公を解体できていると思う。
歪んだ愛というか、ずれた考えというか、そういったものを分散したことで、
佐藤の世界観を存分に見せつけることに成功している。
そこは、今回一番魅せられたところだ。

ラストに関して、佐藤に希望があるような終わり方を見せたことに関しては、
ちょっと疑問を抱かないでもない。
少なくとも原作では、さらに歪んだステージが始まろうとしているのだから。
そこに関しては、岩井さんに訊きたいなぁと思った次第。
キレイな終わり方であったとは思うけれど。

アフタートークについても一言。
生田萬芸術監督が言うように、「9.11」を想起させる作品として、
僕はこの短編小説を捉えてはこなかった。
なるほど。原作でもちーちゃん(佐藤の娘)は、9月11日が誕生日である。
まあ、舞台においても、重要なファクターとはなっていなかったから、
特に気にも掛けてはいなかったが、当然の指摘であるとは思う。
クロウズ

クロウズ

スロウライダー

新宿シアタートップス(東京都)

2009/02/07 (土) ~ 2009/02/15 (日)公演終了

満足度★★★★

GAME OVER
前作よりもくすぐり多めのアンチ・サバイバルホラー。
怖さも何割か増していて、棚にある物全部持って行って状態。
おかげさまで、しっかりスロウを堪能できたように思う。

スロウは時に難解なイメージを持たれがちである。
が、特にエンタテイメント性が高いので、そのようなことはないだろう。
でも、それが魅力を薄めているようで少し残念ではあった。
狙いに狙いきった演出のチープさは、かなり笑わせてもらったけど。

數間優一と芦原健介。
この役者2人がいてこそのスロウだなと再認識。
他の役者陣も十二分にいい仕事をしており、気持ちがよすぎるくらい。

とにもかくにも、スロウライダーとしてのGAME OVERである。
さらば、スロウライダー。ありがとう、スロウライダー。

ネタバレBOX

ホラー感満載のオープニングから、だんだんアンチホラーに流れるくだりは、
怖さと面白さがコラージュとなり客席を飲み込む。
そして、展開が止まり、戯曲が彷徨し始めたあたりが、割と嫌いじゃない。
ただ、エンディングがやけっぱち感ありありで、やりきれぬ思いがした。
山中隆次郎が、「小劇場なんてクソゲーだ!」なんて思ってなきゃいいけど。
俺の宇宙船、

俺の宇宙船、

五反田団

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2009/02/06 (金) ~ 2009/02/15 (日)公演終了

満足度★★★

ガキじゃねえんだから。
三鷹の広い空間に、なんとなく五反田団が収まっている。
いつもと違うような気がしていたのだが、紛うことなく五反田団だ。

人数が多いためだろうか。いつにも増して、キャラクタ押しだった印象がある。
それはそれで楽しいのだが、どうもごまかされた気がする。
ニッチな方向に楽しめればそれでいいってもんじゃねーぞ、みたいな。

ラストのずるさは、最近で一番。十八番が決まった、という感動すら覚える。

今回は、大山雄史がとことんやりきっている。
こんなに声と体を張っている役、今までの五反田団にあっただろうか。

ネタバレBOX

善良なる宇宙人と少年探偵団が物語の軸になる。
それが実に子どもっぽくて、それを大人がやってるからもっと子どもっぽい。
「ガキじゃねえんだから」って誰かに怒られた方がいいと思う。

ずるいの話。
最後のシーンなど、それこそ最近の前田作品のイイトコ取りだったと思う。
『キャベツの類』+『偉大なる生活の冒険』のような感じ。
それを前田司郎自身がやっちゃうからかなりずるい。
床下のほら吹き男

床下のほら吹き男

MONO

吉祥寺シアター(東京都)

2009/02/06 (金) ~ 2009/02/15 (日)公演終了

満足度★★★★

納得の20年選手。
ウェルメイド・コメディーとして安心して観られる作品。
そこはやはり20年選手。安定感がある。
特に奇抜なこともなく、ただただ物語とキャラクタで魅せる。

床下にばっちりスーツで決めたほら吹き男がいる。
シュールで秀逸な設定であり、ほら吹き男も愛せるムカつくキャラクタだ。
連作短篇小説なんかに使えるアイディアだろう。

ネタバレBOX

4人姉妹とインチキ・リフォーム会社という二組もなかなか劇的だ。
その二組が、ほら吹き男に(偶然)秘密を当てられていくのは、痛快である。
嘘から出た真というか、瓢箪から駒というか。

とにかく設定の巧さと役者の妙技が噛み合った佳作と言ったところ。
静かな爆

静かな爆

東京タンバリン

駅前劇場(東京都)

2009/02/04 (水) ~ 2009/02/09 (月)公演終了

満足度★★★★

あざとさ乱れ撃ち。
最初から、あざとい演出と台詞の数々にやれやれと思っていた。
しかし、だんだんに高井浩子の思惑にハマってくる自分に気づく。
あざとさも過ぎると強固な作品になるのだなぁ。

13人のキャラクタの切り分けも見事なもの。
「この人いいなぁ」「こいつ嫌い」とこちらでも切り分けしやすいくらい。
逆に言えば、類型的に役割を割り振っているわけで、
そのへんも変にあざとさを感じる要因となっているのかもしれない。

何よりも音や言葉について、思いをめぐらす時間が必要なのかもしれない。
そのやんわりとしたメッセージこそが、この作品の面白さだろう。

ネタバレBOX


高井浩子は柔らかい露悪が巧いんだろうな、と思う。

聾唖者の○○さんというキャラクタが、説得力ある形で存在している。
ただ、少しばかり善人に仕立て上げすぎたのではなかろうか。
そして、健常者を少しばかり悪人に仕立てすぎたのではなかろうか。
なんというか、「聾唖者の方がいい」というニュアンスさえ取れてしまう。
流石にそこまで観客のリテラシーが低いとは思えないが、
そのへんのバランス感覚が少し偏っているように感じられた。
偏っているくらいが物語として成立することはわかるんだけれど。でも……。

個人的にはブログの話がかなり興味深かった。
他人の方が、自分の家の状況を知っている、ということが有り得るのだ。
なかなかに痛快なエピソードで、夫婦の問題にも切り込んでいる。

「柔らかい」という接頭語がつくものの、高井作品は本当に露悪的だ。
しとやかな獣

しとやかな獣

オリガト・プラスティコ

紀伊國屋ホール(東京都)

2009/01/29 (木) ~ 2009/02/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

コツコツやる奴はご苦労さん?
詐欺をされるのは御免だが、詐欺師を見るのは面白い。
詐欺で生計を立てている一家というだけでも面食らうが、
そのさらに上を行く人物の登場は痛快の一言。
黒いことを明るく語る面白さがある。

一方で、そんな連中と関わった生真面目な人物は、悲壮感たっぷりである。
コツコツやる奴はご苦労さん、でいいものか。
生真面目な人物(玉置孝匡)が色濃い疑問を投げ掛ける。

とにかく戯曲が面白い。映画も観たくなる。

緒川たまきの飄々とした色気と、浅野和之の無責任親父ぶり。
2人ともキーパーソンとして存在感たっぷりである。
他の人物も胡散臭さたっぷりで、物語を豊かなものにしている。

ネタバレBOX


息子の着服と、妾に行った娘の旦那への借金で生計を立てる一家。
それをのうのうと受け取っている両親も両親である。
戦後の貧しさから脱却してこの生活を手に入れたのだという。
高度成長へのアンチテーゼという見方もできるだろう。
(1962年に映画として公開されている)

奇しくも同じ年に『ニッポン無責任時代』が公開されている。
コツコツやる奴はご苦労さん、という植木等の言葉は、
当時どのように受け取られていたのだろうか。
その一つの答えが、先行作品である『しとやかな獣』にあると思う。

という難しいことを考えなくとも、詐欺師を見るのは面白い。
写楽コンプレックス

写楽コンプレックス

劇団銀石

タイニイアリス(東京都)

2009/01/29 (木) ~ 2009/02/01 (日)公演終了

満足度★★★

反口語演劇は80年代の夢を見るか?
躁状態での台詞回しに始まり、キャラクタ芝居の徹し方など、
まるで中屋敷学校の模範的生徒のような作品だ。
役者も元気元気を前面に押し出し面食らうくらい。
後ろの席で見ても伝わるのだから、大したものである。
だから、面白い!……とはいかないのである。

前回公演、古典を題材に現代人を切り取ったのは痛快であった。
そして何よりも、暗さが魅力であったと僕は思っている。
今回はその暗さが躁状態の舞台に掻き消されてしまった。
(衣装が明るかったのも要因としては小さくなさそうだ)

佐野木雄太はどこに向かっているのだろう。
もう少し注目してみたい。

ネタバレBOX


「桜美林に柿喰う客フォロワーの団体が増えるのは嫌なんだよ」
そんな話をとある人から言われたことがある。
「一時期の早稲田にポツドールフォロワーが蔓延ったようにね」
そうですかふむむ、と僕は受け流したわけだけれど。
ポツほどの影響があるかはともかく、柿フォロワーはいる。
例えば、この銀石もそれに当たるだろう、と私は思っている。
今回、それを確かめる思いもあったのは事実だ。
そして、それがどんぴしゃりで当たり過ぎた感がある。

写楽が3度、姥捨山に行くエピソードが中途半端である。
物語を深刻にしたいがために、後から捨てることにした感さえある。
逆に言えば、写楽コンプレックスの発生に主眼を置きすぎている。
キャラクタが多いなりに、もう少し交通整理が必要だと思う。
写楽コンプレックスという事件が面白いだけに残念。

駄洒落の多用は野田秀樹を思わせる。なんてね。
まあまあ、言ってしまえば80年代回帰で片付けることはできる。
彼らにも言い分はあろうが、僕も歴史くらいは踏まえて言い分がある。
柿喰う客にしてみても同じことが言えてしまったりするのだろうが、
それよりもずっと、言葉遊びの感覚は先祖がえりしている。

反口語演劇の地盤は、想像以上に軟らかそうだ。
佐野木とか中屋敷とかが地盤を固めていくのかな。どうだろう
Play#2 「ソヴァージュばあさん / 月並みなはなし」

Play#2 「ソヴァージュばあさん / 月並みなはなし」

4x1h project

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2009/01/23 (金) ~ 2009/01/30 (金)公演終了

満足度★★

迷走、だと思う。
今回で#02となる4x1h Project。
質の高い短篇戯曲を取り上げる企画として期待している。

他人の演出で見えてくる部分というものがある。
朗読劇を舞台に乗せることで見えてくる部分というものがある。
そこは素直に認めたい。

ただ、戯曲のよさが演出に溺れている感が強かった。
少なくとも、テキストを生かす最良の手段であるようには見えなかった。
両人とも、もっとテキストの強度を信じてほしかったように思う。

演出対決ならば、そういう名目でやればよい。
この企画は、あくまで戯曲の見本市という立場であってほしい。
ごく個人的な願いではあるが、#03 Readingが望まれる。

ネタバレBOX

「月並みな話」
中屋敷演出とは、かくもテクニカルに溺れたものであったろうか。
超高速話法、2人1役の手法、男女逆転と「らしさ」は確かにあった。
その「らしさ」は、必ずしも戯曲に捧げられていなかったと思う。
パンフレットの言葉を信じるならば、リスペクトの空回りだったのか。

最初から観客を突き放すのはいつものことだ。
ただ、今回は役者の気持ちよさ重視が見えすぎていたように思う。
つまり、役者にはカタルシスはあるが、観客にはたぶんない。
そこに中屋敷の失敗があると断言せざるを得ない。

黒澤演出とは違う、新スタンダード演出になれなかったのが残念だ。


「ソヴァージュ婆さん」
朗読劇の方が素晴らしかったという事実を認めなければならない。
これは、どうしてみてもテキストが強すぎるらしい。
つまるところ、舞台向きの作品ではなかったということか。

映像に関しては悪い方法ではなかったと思う。
ただ、言葉の美しさをうまく手助けできてはいなかったようだ。
四色の色鉛筆があれば

四色の色鉛筆があれば

toi

シアタートラム(東京都)

2009/01/27 (火) ~ 2009/01/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

“人間”が伝わる
柴作品は罰ゲームのようだなと毎回思っていた。
言い換えれば、柴幸男は自作を縛りまくっていた。
別に洒落とかじゃなく、発想先行のイメージがあったのだ。

4本の作品を観て、ちょっと考えが変わった。
柴作品にテキストの面白みを初めて感じられたのだ。
温かみと言い換えてもいいかも知れない。
その温かみを届ける方法の模索が、柴演出なのだろう。
そう思えるほど、4本とも“人間”が伝わってきた。

丸くて温かい素直な短篇集の手触りが、まだ残っている。
四色問題は、柴の手で一つの答えを見た。

ネタバレBOX

「あゆみ」
ショートバージョンは、誤解を恐れず言えば百合っぽい。
でもまあ、男同士で薔薇っぽくしても成立はするだろう。
今はいない人を思う気持ちは、共通するものがあるだろうから。
歩みの先に月があるって挿話。嫌いじゃない。

「ハイパーりんくん」
知識のリンクが、言葉に乗り、音に乗る様が心地よい。
ネットサーフィンなんて言葉はもはや死語かもしれないが、
まさに知識の波乗りだ。
Wikipediaに人間を感じるか、感じないか。
そこにこの作品の好き嫌いがあるように思う。

「反復かつ連続」
四人姉妹+母+老婆という家族を一人でやりきる。
音をどんどん多重にして、家に音が満ちていく様はじわじわ面白い。
その音の重なりから外れたところにいる老婆に、胸を打たれる。
ハーモニーからずれたところにも音があることを見せられたようだ。

「純粋記憶再生装置」
時系列が遡る話としては、特段面白くはない。
ただ、遡った先に恋人同士の記憶に齟齬があり、
その齟齬が問題とならなかった瞬間は、ちょっと好感。
真っ白な紙で敷き詰められた床は、圧巻の一言。

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