ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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虹の人〜アスアサ四ジ イヅ ジシンアル〜

虹の人〜アスアサ四ジ イヅ ジシンアル〜

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2021/09/30 (木) ~ 2021/10/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ベシミル! 華5つ☆ 流石に大賞を何度も獲得してきた劇団。

ネタバレBOX

 いい加減な脚本が矢鱈多くなっている昨今、流石に攻めるべきは攻め、気に留めるべき点は気に留めて分かり易く、而も東京帝国大学(坂下)と京都帝国大学(石野)との研究者のタイプ差も描き分けている。自分も両大学の研究者とも付き合いがあるので戦前の研究者もこうではないか? と類推する楽しみがあった。近代国家成立以前に大学が在ったヨーロッパやアメリカのように思想・信条・学問の自由・人間の尊厳をベースにした思考の価値を創造し護持してきたのは大学人であるとの認識が国家権力への大学人主張に繋がるという体制の根拠が日本には薄弱である。然し京都にはこれとある意味似たことがあるかも知れぬ。というのは権威という形で将軍を任命し国家権力を相対化してきたからであり、或は千年の都であった京(一時的に奈良)の地で育まれてきた底深い文化や学問の中心地という歴史からくる矜持と大きな政変が在る度に戦場の憂き目をみてきた民衆の反権力的指向が京大の学生にも京大の研究者にもどこかで影響しどちらかというと大らかで権力よりも人間的価値を重んじる傾向が強いのかも知れぬ。そこへゆくと東大は幾つかの学問塾のような(例えば昌平坂学問所等)が合体してヨーロッパの近代国家を真似て作りそのイデオロギーを広めようとして作った「最高学府」であったから自立心が弱く時代権力に阿易いのかも知れぬ。無論、第2次大戦中に軍に引っ張られ命を落としたり身体を毀損した者の比率は私大より帝大の方が圧倒的に多い。学生ばかりか、助教授クラス迄兵士として出征させられたケースもあった。このような学問の自治に纏わる大問題は現在も我々の足下に在る。学術会議任命問題が良い例だ。両教授の台詞及び各々の助手の台詞からもこれらの事情がとてもよく分かる。無論、研究者各々で個性もあるから、京大(京都帝大)の教授が総てより人間的であるとは限らないだろうが。
 さて、今作では伏線の張り方に際立った特色がある。通常伏線は脚本に書き込まれているが、今作では演技というか小道具に伏線が仕込まれている。即ち基本的には観た観客にのみ分かるように仕組まれているのである。これは演劇人として新しい態度なのではないか? 観客を信じなければこんな芸当はできない。演劇人として一期一会を舞台化したと言っても良い位だ。いつも通り、作・演を井保氏が担当している。と同時に役者としても演じている。三役をこなしながら体得した観客への信頼がベースにあるのだとしたら、これは素晴らしいことではないか? 他にも褒むべき点がある。出演者全員がラビ番のメンバーかV-netメンバーであるということだ。若手をキチンと育てて来た実践がここに稔っているのだ。実力というものは、このように目立たない地道な努力と継続、そして参加した人々が持ち続けるインセンティブによって成り立つ。その証が今作には見て取れる。女性陣の和服の着こなしも良い。
 椋平の虹が他の誰にも見えない謎に関しては、消去法で考えてゆけば簡単に答えは分かる。無論、早く答えが分かった所で今作の魅力が減じる訳ではない。至る所に掘り下げられたサブストリームが横たわっているしキチンと納得できる深さでそれが表現されているからである。要するに飽きさせないのだ。それは舞台美術にも表れている。目隠しとしても用いられる障子は、俳句の季語としては秋・冬に関係する。風鈴はお分かりだろう。オープニングの蝉の鳴き声は、ミンミン蝉。即ち夏も盛りを過ぎゆく頃である。こういった舞台上の総てが作品の生成・情緒・表現に関与してくるのだ。それら総てをひっくるめて東大の詭弁と京大の哲理・真理が対立し、椋平を通して世界が関与する。更に・・・も示されているが、観劇した人々は何を観るだろうか。実に面白いではないか? 
ヨコハマ・ヤタロウ~望郷篇~

ヨコハマ・ヤタロウ~望郷篇~

theater 045 syndicate

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2021/09/30 (木) ~ 2021/10/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 華三つ☆。役者陣、殊にヤタロウ役、市長役に拍手。彼らの活躍で華を付けた。

ネタバレBOX

 近未来の戦争で荒み荒れ果てた横浜、力で他人を支配するそんな連中が蔓延っていた。中でもウォリアーズと名乗るグループは勢力範囲も広くハマを我が物顔でのし歩いていた。今作のヒーロー・ヤタロウは、そのウォリアーズに妻を殺された、元オリンピックゴールドメダリストである。射撃の腕に掛けては無双を誇り、妻の復讐の為に立ち上がった。殺した相手は疾うの昔に50人を軽く超えているが彼は殺す前に相手に対してある問いを発する。そして殺された者がやりたかったことを身に引き受けて実現する為に奮闘してもいる。彼に馬鹿という言葉を投げつけてはいけない。度を失ってその言葉を吐いた者を殺してしまうからだ。
 以上のようなキャラ設定の中で物語は進展してゆくのだが、普通復讐するとなったら、そんな情けは絶対掛けないし、相手が出来るだけ苦しんで死ぬような殺し方をするだろう。復讐である以上、それは当然のことである。この辺りの感覚が作家と共通であるか否かで評価は分かれると考える。
 ところで、ウォリアーズという名前やマクベスに登場する3人の魔女よろしく登場する3人組{姉妹と弟(弟は鬘をかぶって女装している)}で多少LGBTqを意識して居るかも知れないがその深い内実は描かれていない。そんなトリオは占い師として登場し、マクベスの魔女同様様々な予言をし、その予言は的中するが、それだけでは単に表層を移築しただけのことに終わってしまう。何となれば占いが信じられるような社会的背景が色濃く出ていないとリアリティーに欠けるし、或はそのような社会的背景を強烈に批評する目で透徹した論理を向こう側に見せていないとパロディーにもならない。単に大衆を小手先で笑わせるだけの小ネタで終わってしまうのだ。その手の小ネタは随所にあった。然し本質に届いていない。主役・ヤタロウを演じた今井勝法さんは心理的なものをやらせてもいい演技のできる役者だと思う。脚本をもっと練って欲しい。でなければ役者陣が気の毒である。他に面白いキャラとしては市長を演じた寺十吾さん。市長の市政方針演説実況中継で、秘書が肝心なことを総て言い、市長は「その通りでございます」のみを延々と繰り返すシーンは日本政治の愚劣そのものをパロっていて面白い。脚本全体をこのレベルにもってゆければ相当の傑作になろう。
海の上のピアニスト

海の上のピアニスト

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2021/09/25 (土) ~ 2021/09/25 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 一人芝居研究会のメンバーによる演技、映画にもなった作品だという。

ネタバレBOX

タイタニック級豪華客船の一等室船客の演奏会に使われる部屋のピアノの上に捨てられ、船員に発見され彼の子として育てられるが、名付け親でもある義父は8年後事故の為他界する。然し捨てられた子・ノヴェチェントは出生証明書も無ければ戸籍も国籍も実の親も実際無い。陸に上がっても碌なことは無いとの大人達の判断とそのピアノの天才としての才能と物怖じせず、図抜けた才能を持つ人間特有の悠揚迫らぬ態度で誰からも愛され、船で生涯過ごすことになった。原作はイタリアのアレッサンドロ・バリッコの独白劇「ノヴェチェント」である。尺は90分。
 兎に角、物凄い台詞量を1人何役もやりながらこなす役者の負担は大変なものなのに、また作中の主人公・ノヴェチェントは男性であるのに、演じたのは女優である。無論、台詞量だけでも大変な量だし、何役もこなすから体力や水分の消費も半端ではない。そこをアルコールを飲む体で瓶に水を詰めた物を飲んで凌ぐ演出もグー。因みに一人芝居研究会のメンバーは自分で演出・演技総てを受け持つから、最も基本的な板上の体調調整も総て自分の判断でしなければならないのだ。音響や照明は専門の方が就いているが。
 脚本の良さは、孤高の天才音楽家の逢着せざるを得ない究極のテーゼを過不足なく描いている点だ。即ち境界の無い無限を相手に己は何を対置し、対置し得たことによって得られる束の間の均衡と平衡に載って何をどのように配置しどの1音によって世界全体を集約するかというテーゼである。またそのようなことを可能たらしめる数式の解を見付けることだ。更にこの解が得られた暁に己の存在をどう始末するか? である。この知的且つ実存的テーゼを解く旅の何と清々しく高潔なことか! そしてその解の何と奥深く切ないことか!
 このような作品を演じた女優・安藤繭子さんの力演に拍手!
ホシノヒト

ホシノヒト

演劇企画アクタージュ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2021/09/23 (木) ~ 2021/09/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 物語が展開するのは、星が綺麗に見えることで人気のある某県にあるペンション。当然天文ファンも多く宿泊するから壁には天文関係のポスターが貼られ大きなソファが置かれて居たり、天体望遠鏡が置かれていたりもするが、物語自体は、もう少しSF的でファンタジックである。
 ところで、1994年7月に木星に彗星が衝突した。

ネタバレBOX


その彗星の名をシューメイカ―・レビー彗星という。木星は太陽系の惑星中最も質量が大きい為、その重力に引き付けられ数々の彗星が衝突してきた。シューメイカー・レビー彗星もその1つであるが、この年、この日が物語の核(コア)の1つとなる。もう1つの核は2021年の7月である。この時期には流星群が観られた。
 この2つの核を結ぶものが、物語に登場する或るアイテムであり、このアイテムの持つ不思議な力と今は行方不明だが自分は宇宙人だと言っていたというヒロインの父、亡くなった母とおばの話が起点になって第1の位相が展開してゆく。察しのいい方には、大体お分かりだろう。時間、空間、場、位相が関係してくる話である。もっとアリテイに言えば時間移動を含むタイムパラドクス物。そこに親子や友人、仲間たちが関わり宇宙に関わるファンタジーを紡いでゆく。単体であったハズのアイテムが同時に1つずつ存在するシーンについては、奇異な感覚を持つ方が居るかも知れないが、これもパラレルワールドの概念を用い2つの位相系が同時に現れうる高次元の論理を想定することが可能であれば是とすべきであろう。今作の作家ならその人間的次元をこそ「夢」と呼ぶに違いない。
『アドリブ・オン・ザ・ウォーター』『品川野放図』

『アドリブ・オン・ザ・ウォーター』『品川野放図』

品川親不知

ウッディシアター中目黒(東京都)

2021/09/21 (火) ~ 2021/09/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「アドリブ・オン・ザ・ウォーター」を拝見

ネタバレBOX

 かなり乾いた感じの笑いが鏤められたオムニバス。各挿話は単体でも一応独立しており、1本、1本観てもそれ自体楽しめる創りになっているが、先に上演された作品は後で上演される作品の伏線を様々な形で提供しており、最終的にラストの作品に込められた設定によって全体の緩やかな繋がりが論理としても明確化されるという創りになっている。拝見した回の尺は90分で丁度良い長さ。楽しめる。
哲学者の午睡

哲学者の午睡

空間旅団

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2021/09/17 (金) ~ 2021/09/20 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 プロレスの試合をガチでやれば無論どちらかが死ぬかさもなければ再起不能の大怪我を負うのは必定。格闘技をそれなりにキッチリやった経験のある者が見ればそれは自明だ。
 今作の基本構造は、哲学とプロレスをマッチングさせた上で、真剣勝負とシナリオのあるショーとしてのプロレスを対比させることで、哲学上の真と偽のテーゼを中心に展開する物語だ。サブストーリーとして権力VS民衆、男と女、友情等々は無論出て来る。

ネタバレBOX


 今作の主人公・プラトンは、ここ暫く試合はしていないものの300連勝無敗の覆面レスラー・ソクラテスに心酔し押し掛け弟子となった。単にプロレスの師匠としてのみならず、政界の重鎮や各界の名士、高位の者らを公衆の面前で論破した哲学者として盲信し弟子となったのである。然しソクラテス自身は、妻の論法を真似ただけだと主張する。が、この態度も謙遜と見做しプラトンは持論を変えず、所属プロレス団体のガチプロレスラーとしてこれまでヒール専門だが、矢張りガチ専門のレスラー・アレクセイと30戦して30敗。毎回死の懸念があるような試合にプラトンを慕う彼女も「もうついて行けない・・・」と迷い出す始末だ。にも拘わらず、プラトンの念は変わらずイデアを求め続けている。そんなプラトンに周囲の者達は魅力を感じているのも事実であった。
 一方、公衆の面前でソクラテスに恥じをかかされたと感じ恨みを抱く者達は、その権力や威力を用いてソクラテス弾圧に舵を切った。無論、弟子プラトンにも警戒を緩めて居ない。このような状況にあってプラトンの所属するプロレス団体は、経営が思うように行かず破綻寸前で辛うじて生き延びているが、団体トップは興業成績を上げる為、ソクラテス本人の了解も得ずにソクラテスVSアレクセイの試合をマッチングしてしまう。ソクラテスは1度もガチプロレスをやったことが無いのに、アレクセイ側が試合の条件として出してきた条件は、そのガチ試合(セメント)であった。
 ここから先はホントのネタバレになるので控えるが、最終的には弁証法的論法によってアウフヘーベンされて舞台は終了する。
 ところで、池袋演劇祭参加作品ということだが、本気で賞を目指すのであれば、プロレスラー役の役者は総てもっと身体を鍛え上げて出演すべきであろう。嘘が嘘としてキチンと機能するには、嘘が真実だと思われるほどの真実味がなければならない。フィクションであると断り書きはあるもののソクラテス、プラトン、クサンティッペ、クセノポン等は、ギリシャに実在した人物として現代に迄名が知られており、多少哲学を齧った人間ならば遅くとも高校生位の段階でこれらの名は記憶に留めていたハズだから、ギリシャに対するイメージもそれなりにキッチリしたものを持っている。ホメーロス等も読んでいよう。而も今作のテーマが、真と偽、イデアと現実等々対立・相克の克服である以上、通常のショーとしてのプロレスを嘘の象徴と見做すならば、それが本物に見えるように嘘が真(まこと)として成立し得る脚色が必須であろう。また費用の関係でギリシャ風の履物が用意できないのであれば、素足で演じ、衣装とのバランスを良く考え演出を工夫すれば演劇的真実は描けたハズだ。様々な点で不徹底だが、訴えたいものは伝わってくる。今後の成長を祈る。
SENSE

SENSE

早稲田大学舞台美術研究会

早稲田大学学生会館(東京都)

2021/08/14 (土) ~ 2021/09/18 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

「SENSE」早稲田大学舞台美術研究会 2021.9.16 配信を拝見
 5度目の正直! 配信なので受信する側の器機の性能によって全然音質が異なり4回目迄は、PCのスピーカー音量を如何に調整しても台詞が殆ど聞き取れず、イヤホンを用いても結果は同じで途中で投げ出さざるを得なかったのだが、偶々別のイヤホンで聞いてみると可成りよく台詞を聴き取ることができ作品を楽しむことができた。通常版(1h18m47s)と楽ステSP版(1h22m51s)版の2種が配信されており、楽ステ版の方が音声は聴き取り易いが、こちらは天井の照明器具迄映り込んでいる。尚5度目迄は総て通常版を拝見していた。

ネタバレBOX


 舞台美術研究会の作品らしく随所に仕掛け(2次元から3次元への通路は都合5カ所等)が施され効果的に用いられているし、ホリゾントのセンターに2次元から3次元へ通じる扉が設けられ、その下手に3次元での出入り口が設けられているのだが、このセンスもグー。殊に作中描かれた漫画「空を青に」の主人公・蒼穹(そら)が2次元から3次元へ飛び出すシーンは圧巻である。
 台詞が聞こえさえすれば脚本も良い出来だ。ザックリ言うと創造ポテンシャルは高いもののその才能が未開化の若手漫画家・ムラタが、己のセンスを見極め成長する過程を描いた秀作だ。
 秀作の秀作たる所以は、今作が若者の成長譚であると同時に成長の過程が作品創造の過程・創作方法及び能力の開花・進展と重なりあって展開する点だ。この傾向は終盤に使われる小道具・五十音表の使い方にも表れている。つまりそれ迄の話の展開をも下敷きにして各所作が振りつけられ、ラストにパズルを解くような明快さで連なっているのだ。而も最後のチャンスを与えてくれた担当編集者・カオルが沖縄出身乃至ファンらしいこと、沖縄がヤマトンチュから押し付けられている不条理に対して沖縄の宝、即ち青い海、青い空、そして沖縄の人々の心で応じることを示唆したラストも優しさに満ちている。
 物語が進展するのは、有名な漫画家を輩出してきた出版社・編集部。ここには連載漫画家のアトリエも併設されており、若手有望漫画家が各々のデスクで作品を描き覇を競っている。世間では、このアトリエ併設の編集部を‟ときわ荘“に準えることも流行っている。殊にときわ荘に準えれば手塚治と評される人気漫画家・ヒナタは無論、巷の評価もダントツであるが、彼が光るものを持っていると紹介し連載を任されることになった今作の主人公・ムラタは、元ネタを知らずに似たような作品を立て続けに発表してしまったことでパクりばかりやっている奴、読む価値無し等の酷評を受けるハメに陥りカド番に立たされている。
 というのも、新たに才能のある新人・ナオトが発掘されポストムラタの刺客として送り込まれてきたのである。既に外堀のみならず、内堀迄埋められ絶体絶命の危機を迎えたムラタは、担当編集者のたっての頼みで首の皮一枚でラストチャンスを得る。このチャンスを活かす条件は、3日後の朝ムラタの弱点であるネーム(つまりストーリー)が完成稿として提出できること。それが通れば直後にストーリーや登場人物の絵柄のみならず背景の細部まで目配りの利いた完成稿を仕上げることだ。この極限的危機の中で、主人公はドッペルゲンガーにでも出会うかのように己の創作した登場人物達とリアルな遭遇体験を過ごし、彼らと協働で作品を創り上げてゆく。「空を青に」の主人公、小説家を目指す碧木蒼穹(あおきそら)、ロックミュージシャン、シェフ、占い師、事件に鼻の利く名探偵ら5人の登場人物と共に殆ど徹夜の3日後出来上がった作品は、そのストーリーを読んだヒナタもナオトも絶賛する傑作であった。
 蛇足だが、創造されたキャラクターの数が5人なのは無論視聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5感を象徴しており、ムラタは所謂創作者の神の位置を占めて居ることは容易に見て取れよう。この辺りの作り方も創作の王道に則っている。またタイトルのSENSEは多様な意味を持つ単語だから、各々の意味を噛みしめながら観劇して欲しい作品である。
注:各登場人物の氏名表記に関してはパンフがある訳では無いようなので、表音文字を用いるかハンダラが作品から受けた印象を基にイメージした漢字を用いて表記した。
ぼくらが非情の大河をくだる時

ぼくらが非情の大河をくだる時

オフィスリコプロダクション株式会社

テルプシコール(TERPSICHORE)(東京都)

2021/09/10 (金) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 今作を舞台として拝見するのは初めてだが、脚本は数十年前に読んでおり、その時受けた印象と隔世の感がある。(追記2021.9.13)

ネタバレBOX

これが第1印象だ。清水作品を良く読んでいたのは学生運動が盛んな時代であり、今作のトーンにもその雰囲気が分からなければ何故、そこにそのような台詞が出て来るのか? その繋がりが見え難いことがあろう、自分が隔世の感を抱くのも当にこの事情からである。何れにせよ、近代国家の前提となるのは、国家による暴力装置の基本的占有であり、その合法的使用である。そのような強固な支配機構に対し、毛沢東の「革命は銃口から生まれる」発言を真に受け実際の戦闘が如何なるものかについては殆どド素人の学生が立ち上がって‟革命“を叫ぶこと自体、余りにも幼稚で無理がある。少なくとも様々な重火器に精通し、最低限安価で効果的而も使い勝手の良い爆弾製造を自ら為し得るだけの技術を持ち、敵情の把握にスパイを送り込み、敵組織中枢を攪乱できるだけのインテリジェンスを組織運営でき、情報操作や実働部隊管理、民衆対策をキチンと行使出来る所迄行かないと革命等遠い夢に終わるは必定。今作はこのような前提を一切欠き而も革命為すべしとの思い込みのみ強い必敗必至の状況を居直りとデュアリズムによって乗り越えようとした愚かな試みの記録と見ることができよう。そもそも20世紀の独立運動や革命は弁証法的思考によって裏打ちされてきた。今作で詩人(理論家)の主張は基本的にデュアリズムの域を出て居ない。一見、ラディカルなその物言いは、決意一般を語るのみの空しい表象に過ぎない。それでも彼が真の狂気に陥るのは、終盤に差し掛かる辺りからである。M.フーコーによれば”狂気とは純粋な錯誤である”が弟は、何とか衆愚に紛れ込もうと努力してきた。然し彼の偏狭でエキセントリックな論理は衆愚に認められることは無い。衆愚の衆愚たる所以は、異質性を嫌い同化することによって総ての擬態に自らの精神を合わせることにある。一方、弟は自らを特別な存在と自己規定することに逸り真にアイデンティファイすることも甘えを自ら排除することもなく、デュアリズムを用いて世界に対抗しようとする。ところで論理というものの唯一の展開は、オーダーを決めてしまえば先鋭化することでしか無い。上記の複合的状況が彼を苛み追い詰めてしまった。後は孤立の深い陥穽に只管落ち行くのみである。この時点で薔薇の花びらが撒かれるのは無論葬送の意味を持つ。即ち詩人を語る弟の真の姿・愚か者の深層も暴かれたのである。この状況をもっと分かり易い言葉で記せば、日本の鵺社会に剥き身の貝のような裸形でどっぷり浸かりつつ、正鵠を得る方法もなしに彼の目に映じた世界を解明しようと蟷螂之斧を振りかざしたものの、その未熟で現実分析に乏しい論理もまた鵺の海に漂う泡沫の憂き目を見たということである。その狂おしい苦悩のうちに、憧れであり唯一の盾であったボクサーの兄を殴り倒してしまったことを契機として大衆の悍ましい裸形を一瞬見てしまったことは、第三者性の容赦ない楔を彼の精神に打ち込み、その結果が発狂であろう。
 蛇足ながら、薔薇のテーゼが出て来るので、少し薔薇についても論じておこう。薔薇は数多くの花言葉を持ち、品種によっても本数によっても花言葉の内容が異なる。一般的に棘は罪を表し、赤い薔薇は愛を表すが時には葬送にも用いられる。何れにせよ換骨奪胎が激しいので破瓜やBLでのネコの初体験等を意味してもおかしくない。物語が展開するのはデザインされた壁の隙間から、雑草の蔓が便所内に迄延びた壊れかけた公衆便所のある一角である。どこの盛り場でもこのような公衆便所には同性愛者が屯していた。
 さて、弟を死に至らしめた後、兄は遺体を担いで新たな旅立ちをしようとするのであるが、このシーンでは、詩の好きな清水が思い浮かべていたであろう、有名なRimbaudの“Lettre du voyant”及び“Bateau ivre”を想起すべきであろう。興味のある方は当たってみると良い。前者は“見者の手紙”後者は“酔いどれ船”という日本語に訳されている。
 最後に息子たちから虚仮にされる父の姿、台詞に最もリアルな現実が描かれている点にも注意を喚起しておきたい。
沙也可

沙也可

(株)フリーハンド/(有)Yプロジェクト

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイゼツ、 ベシミル!! 華5つ☆

ネタバレBOX

 文禄・慶長の役のことは歴史に出て来たから皆さんご存知だろう。秀吉の命によって2度に亘り朝鮮出兵をした歴史的事実を指す。今作は、この時代に実際に起こったことをベースに創られた物語である。日本も戦国時代勝敗は敵の首級をあげることによってその証としたが、文禄・慶長の役では耳・鼻を削いでその証とした事実等も織り交ぜリアリティーを細部に於いても表現している。が、大局を判断する為政者としての目論見がオープニング早々、秀吉と家康の対話で示されている点でも極めて筋の通った脚本であり、その後何度か出て来る秀吉・家康の対話でも各々の性格が見事に対比され関ケ原から豊臣滅亡迄の将来を見事に織り込んでいる。
 戦記物の側面がある舞台だから殺陣のシーンも多いが分割・可動型の階段を上手く移動させ実に合理的に殺陣のスペースを確保している舞台美術も素晴らしい。無論、極めて機能的に創られた舞台美術だから、シーンに応じて照明・音響がその場の雰囲気を見事に醸しだす。殺陣を演じる役者陣の体捌きもスピード感、切れがあってグー。居合の達人も登場するが、この居合術も中々のものであり、沙也可を含め傑物が意気投合するシーンにその後の因縁の対決に連なるシーンがキチンと埋め込まれている点等もこの脚本が極めて高いレベルで練られていることが良く分かる。
 この時の因縁こそ、沙也可が朝鮮族として生きる道への布石になっている訳だが、これに恋が絡み、敵対する民族の殺し合いが負わせた人々の無念、取返しのつかない大切な人々を失って行き所の無い怒りや悔しさ、断ち切れない未練が日本に襲われた村の多くの人々の魂を苛み続けることからくる敵との恋に落ちた村人への非難となって、村の娘の命の恩人ではあるものの、敵である日本人との間に成立した恋に対してアンヴィヴァレンツの苦しみを担わせる。このリアリティーが観客の心を実に深い所から撃つ。
 また実際付き合ってみれば分かるが、未だに朝鮮族の情の厚さは本当に深く、今作に描かれた通りであると実感させられた。恩に対してはキチンと恩返しをする義理堅さも彼らの民族的美質である。
 終演後、舞台上の挨拶に沙也可の末裔の方が登場して挨拶をなさった点、韓国では教科書に載る程沙也可が評価され記念博物館も存在しているなどの話をしてくださった。キチンと架け橋になって下さっていることに心からお礼を申し上げる。
【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

「プラスチックヒーロー」 アリエル・ドロン 2021.8.12
 ネタバレに書かれたことの背景を知りたい方は、以下をご覧頂きたい。
https://handara.hatenablog.com/

ネタバレBOX


 イスラエル出身の人形遣い。二十歳過ぎでセサミストリートのキャラで最も上手い人形遣いがやるエルモ役を担当、然し人形遣いの用いる人形操作に飽きてしまい30を過ぎた現在は市販のおもちゃを用いて作品創りをしている。現在イスラエルはシオニストが中心になって政局を動かしているが、長年に亘るパレスチナとの争闘、兵役義務、イスラエル社会にウンザリ、今作もある程度正確なイスラエル・パレスチナ情報を掴んでいる者にとってはその表現の意味する所が良く分かる作品に仕上がっている。
 登場するヒトは、人形を操作するアリエルと国際法に反する占領地からTV電話する兵士の妻や娘たちの人形以外は総てが兵士であり、電話をしている兵士も妻から任地を尋ねられて応えることができない。無論「軍事機密」に属するからである。出て来るおもちゃは、戦車、戦闘ヘリ、軍用ヘリ、軍用車両、防護用ブロック、歩哨台、レーダー或は電磁兵器らしきもの等々、総て軍事絡みのおもちゃである。因みに虎のぬいぐるみが登場するが、1人の兵士が虎と仲良くなり、虎に舐められたり、虎の喉を撫でたりしながらBigcatと呼びかけ親密になる。偶々ヘリか何かが上空を飛び兵士も虎も一旦避難する。兵士が後ろ向きになっている時、虎が戻ってくる気配に気付いた兵士は、振り向きざま虎を撃ち殺してしまう。何故ならそれが兵士の基本的な行動だからであり、動くものは総て撃てという命令は金科玉条だから条件反射的に撃ち殺してしまった訳だ。敢えてこのような状況を描く所にドロンの反イスラエルの姿勢が表れていよう。
歌姫・ネバーダイ! in deep

歌姫・ネバーダイ! in deep

ライオン・パーマ

萬劇場(東京都)

2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 まんを持しての公演。タイゼツベシミル!! 華5つ☆
 換気休憩5分を挟み2時間半の大作だが約400年に亘るストーリーを幾つかの場所・時代に展開する挿話に分け、丁度それぞれの物語が時の大河に浮かぶ洲で起こる各々の事象を描いたかのように編み込まれており、而も大河の流れは共通しているので全く飽きず無理なく自然に鑑賞できる。また、歌が重きを為す作品なので歌の上手い役者を揃え、音響技術の良さ、脚本の素晴らしさも手伝って実に良い作品に仕上がっている。

ネタバレBOX


 誰もが知る人魚の肉を喰らえば、人は不老不死を得るという人魚伝説を巧みに織り込むことで、殆ど永生を得た人間の有為転変を実に深く、時に肺腑を抉るような切ない台詞を鏤めながら変奏する。各挿話を幾本もの柱として建て、その柱の立つ深く無限の軸、即ち永遠を生きる不老不死を得た主人公の、或は他の愛しい者達の個々の生死を看取り、同時に遺伝子を継承する個々の人物たちの永生をも綯い交ぜてその死生観自体を重層低音のように響かせながら、相互を絡ませ或は輻輳させることで実に微妙でコレスポンダンスに富む奥行きと普遍性を実現させてみせた。各挿話のテーマは多岐に亘り、全体を通してヒトの生き死に、ヒトとは何か? 等々普遍的な問題に切り込んでくるが、極めて示唆的な点は、如何にも喜劇劇団らしく本物の悪人は登場しないことである。その代り非人間的な行為を実践する主体として公権力を操る人間共の非情を描いている点が喜劇劇団としてのアイロニカルな切れを見せている。他の登場人物達は、官権からは悪と見做され犯罪者として処罰の対象にされようと、人としての約束を守りその為に死をも甘んじて受け、気恥ずかしさや生き方の美学を持ち精一杯生きている。即ち倫理的・人間的に生きているのに対し、官憲の非人間性は我々が日常的に体験する如く、「法」や「正義」の名に於いて非人間的な事を実践し続けている。然し、これこそが真の悪に最も近いという事実は自認することが出来ないことを提示していることが鋭い批評意識を為していると観た。
【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

「快傑ゾロ」アルファ劇場 
操り人形劇だが、ギター、太鼓等のパーカッション、サックスの生演奏が入り、演奏が実に上手い。人形劇は猫の顔を思わせる装置が用意され、ゾロの仮面を付けた部分が跳ね上がるとそこが人形達が活躍する舞台になる。主たる登場人物は、ゾロ、ドン親子、市長、将軍、犬のポポ、セニオリータ、その母、ワキに酒場の客、酒場のホステス、兵隊等。子供達が観て楽しい内容になっている。筋は単純で、市長は人々に重税を掛けて将軍や兵たちに徴収させ贅沢三昧をしているが、弱者は堪ったものではない。この市長や将軍・兵士ら弱者を痛めつけ収奪する者達に鉄槌を食らわすのが、ゾロの役目だ。覆面をしているのでゾロの正体は美しいセニオリ―タにもよく分からないが、ドンの子息には憧れており、子息の方でも美しいセニオリータに気が在るが、だからこそ彼女の前に出ると体が竦んで何もできない。それで彼は見捨てられてしまう。一方、将軍は美しいセニオリータにぞっこんで嫌われれば嫌われる程増々恋しくなり付きまとう。弱い者苛めの先頭に立って行動する将軍は何度かゾロと戦い総て負け、ゾロマークを剣で付けられる。
 ラストは、セニオリータの懇請に負け、マスクを取ったゾロの正体を知った彼女と子息のメデタシ、メデタシ!
 ところで、ワークショップで本物の人形を使って実習をさせて貰ったが、この人形が結構重い。遣いこなすのにかなりの体力が居ることが分かった。

【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「The Worthless」
ウクレレ、バンジョー、ギター、小型シンバル、鐘、ラッパ、小さな打楽器等を取り付けてあるウォッシュボードの他、時折小型マラカス等も用いられ軽めで楽しい楽曲が演じられる。板上には縦長のスクリーンが置かれ、マスコットキャラが踊ったりしている。このグループは様々な絵本を基に曲を創るという。可成りメジャーなグループのようだが、自分は初めて知った。

「侠」  君、逃げたもうことなかれ

「侠」 君、逃げたもうことなかれ

サンハロンシアター

「劇」小劇場(東京都)

2021/09/02 (木) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 ホリゾント中央に額に入った「侠」の字の墨書が掲げてあるが、これは今作の展開する双葉デパート・お客様相談室長、九条侠介の名前から摂ったものである。他に舞台美術は下手と上手に丁度司会台の高さほどの所に書類が置けるようになっており、正面だけ目隠しに書見台に直角に延びている部分を除き側面は書見台に向かって斜めになった三角を形成している台。中央には両側面に箱馬収納場所のある直方体。この直方体奥に椅子1脚とシンプルだ。華4つ☆

ネタバレBOX


 設定で褒むべきは、物語の展開に地方のデパートを据えたことである。言う迄も無くこの設定には深い意味がある。選挙の趨勢を見るまでもなく一般論として都市部より地方の方が保守的であり、産業形態、就労し得る産業の少なさ、それらの産業への就労形態等々からこの保守傾向図式は広く用いられ、指摘したような地方事情形成即ち日本的不条理にも寄与してきたのは衆知の事実である。
 因みに侠の字は俠の俗字にあたり、夾は脇の下に挟むが原義。弱者を庇い抱き抱える力のある者を意味する所から男伊達という意味が派生した。この男伊達に対応しているのが、矢張り侠(俠)の字を用いで表される‟おきゃん“である。今作のタイトルが与謝野晶子の有名な一節をもじっているのと同様、侠(俠)を巡っても言葉遊びが上手に用いられていると言って良い。
 ところで、今作の台詞の中でクレイマーと苦情を述べる客とを比較する場面が出て来るが、イマイチその差が明確ではないように思えた。苦情を述べる客は、企業の気付かなかった改善すべき点を気付かせてくれる意見と室長は捉えておりプラス評価だが、この点を意識した上で社長に見込まれ助っ人として入っている倉持は終盤「それは苦情ではなく、クレーマーですよ」と客に述べていたと記憶する。このクレーマーという表現に引っ掛かった。ここは“言い掛かり”とでもした方が良いのではないか? 
 今作のもう一つの見所が、室長と倉持の方法的差異の対決にあることは言う迄もあるまい。深読みすれば、この点が最も面白く深いのである。余り書くとネタバレになるからここ迄とする。
つみ

つみ

アブラクサス

すみだパークシアター倉(東京都)

2021/08/22 (日) ~ 2021/08/28 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 時代は湾岸戦争前後、舞台設定はアメリカ。同性愛が蛇蝎の如く扱われた物語をサブスクリプトとして描かれた現代版「人形の家」。見事である。華5つ☆ ベシミル!

ネタバレBOX


 トラウマが精神及び身体に残す深く間断の無い苦しみを通して、自らの可能性を真実に向けて開いてゆく女性達の描き方が素晴らしい。ベッセル・ヴァン・デア・コークを挙げる迄も無かろう。親密になった人々の語る多くの事例から、実際に今作で描かれているような年輪も行かない子供たちへの心無い行為が為されていると信じる。そしてそのような大人達或は年上の人々の行為が子供達に与える取返し用のない傷が心優しく純粋な魂を悲劇の淵から深淵に陥れるのである。
 一方、世間とやらは手前勝手な価値観や「正義」を振りかざし、実際には知りもしない事件の真相にレッテルを貼り、蓋をする。それは無論、嘘と欺瞞と自らの価値観を構成する総ての要素が嘘に満ち満ちている事実を、自らの虚妄の体系に絡めとる為であるに過ぎない。それもこれもその程度のマヤカシで自らの「アイデンティティー」を満足させんが為である。
 然し、今作はこのような欺瞞を切開してみせる。誰にも言えなかった、即ち社会化できなかったことによって主張すべき真とは自ら思うことの出来なかった真実・事実をその深く残酷な痛みそのものが齎した事件の真相に潜む血も肉も骨の軋む音も総て踏まえ尚且つ己が身をも自ら手術して見せることによって客観化してみせた。その意味で今作も今までアサノ氏が描いてきた女性の女性による女性解放の太く豊かな流れを継承している。ただ、今作では、犯罪という形を取らざるを得なかった過酷なケースについてより踏み込んだ視座でより社会性を帯びた作品として上梓されている。羽杏さんが演じたリーを通して牧師エミリー・ライトは自らの内に在ったトラウマの意味する所を通して最終段落で筆者が述べたような成長を遂げるのであるが、これは現代の“ノラ”と言っても過言ではあるまい。無論、現代のノラはあの当時離婚した女性が性を商う他は無いと作品終了後のノラの人生を想像する読者が考えるのとは異なり、弁護士を目指せる点でまさしく現在の先進国女性の生き方をキチンと表現している。にも拘わらずこのような問題が起きてくる社会の闇をも表象しているのである。
【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「エイトリング」PESTRiCA 2021.8.12 19:30
ブラボー!

ネタバレBOX


 エイトリングという大道芸は初めてみたが、亀戸の大道芸フェスで演じたらバズった。というのはよく分かる。ジャグリングの1種だそうで、ドーナツのように中空の円形の薄い板を用い様々な幾何学模様を空中に作り出す。その手腕が余りに見事なので恰も何の支えも無くリングたちが空中に様々な文様を描き出す手品ではないか? との錯覚を起こす程だ。ハシブト烏の嘴のような大きな嘴の付いた面を付けハットを被りウエストが締まり裾が広がった長めの上着に黒いパンツ、黒靴。背中の側には丁度腰の辺りに大きなネジ巻が付いていてゆっくり回転している。
 PESTRiCAという名前の由来は、ペストが大流行した時に医療従事者が感染予防対策として用いたマスクの名に由来しているそうだ。最も感染症に目に見えないウィルス等が関係しているなどということは分かっていた訳ではないから、用いられたマスクにも殆ど効果は認められなかったらしいが。
 閑話休題、舞台では最初に述べた普通のリングの他に暗闇にした舞台で電飾を施した器具を用いた演技もあり、こちらは点滅の妙も加わって極めて美しく幻想的な演技を楽しむことができた。捌き方はこちらも上述の如く見事なものであった。
【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

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プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「あらい汎のピエロマジック」2021.8.11 19時5分
“マイム詩集”と称して朗読主体の演目。

ネタバレBOX


「汎」という漢字のサンズイは海を表し、凡は凡庸、即ち特に優れた所もなくありふれたもの、全体として海を漂うありふれた物をイメージしているのだと言う。とどのつまり l’épave だ。読まれたテキストは宮澤賢治の「雨ニモマケズ」である。この作品は賢治の作品歴では後期の部類に入る。度重なる不幸や父との断絶、理解されぬ天才故の孤独を抱えて詠まれた作品或は覚書だと思われるが、それが現行のような形で現れた時、寺山修司は、欺瞞の最たるものとして毛嫌いした。大抵の人は己の不甲斐なさを慰めるものとして受け入れるのであろう。或る意味、その虚しさを抱え込む人々の哀れが籠る「詩行」ではある。
 今回老いた道化は、余り身体を酷使しないで済むような演技形態を演じられた形に求めたと言えよう。但し落魄そのものを描くような鬼気迫るものでは無論ない。この辺りが凡庸の凡庸たる所以である。朗読の合間にいくつかの手品を挟み一応、ピエロの演じる作品という体裁を整えた。
 然し乍ら、賢治は法華経に帰依し、法華経によって世人を救おうと夢見た。その為、父との確執が殊に甚だしかったことは、研究者の指摘する所である。父は浄土真宗を奉じ、父子の論争は絶えることが無かった。こんな知識を持って今作を観ると矢張り、落魄をこそ演じて欲しかったとは思う。最大の理解者であった、妹・トシを既に失くして久しかったのだから。

【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

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プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

「マリオネット・サーカス」8月14日10時45分 ヴィクトル・アントノフ
 操り人形遣いだ。想像できる通り操り人形は1つ動作や手順を間違えばそれで終わりである。何と成れば、糸が絡まって総てがワヤになってしまうからだ。彼のスピーディーで極めて正確な糸操りは神業だ。

ネタバレBOX


 数々の人形を用いて各々独立した内容の作品をオムニバス形式で見せてくれる。板上の構造は実にシンプルで目隠しの床まで届く布を貼った枠に、用いる人形を吊り下げておいて演目毎に人形を換え演じる。この枠の観客側に円形の布を敷きこの円の内側が基本的な舞台と見做されて演技が披露される訳だ。用いられる操り人形たちは、様々な文化圏の様々な衣装を纏い、各々の文化圏に対するヨーロッパ的認識を反映しつつその見事な糸操りによって命を吹き込まれる。難易度の高い技術を幾つも用いて操り人形が持ったポットから種を撒いた鉢に本物の水を灌ぐと薔薇が生え成長するとか、3体の人形による複雑でスピーディー而もアクロバティックな組体操を披露したりしてくれるが、ずっと独りでやって来たので宣伝に手が回らず知名度は低かった。だが最近では人形劇フェスティバルに参加し、その高い技術が認められ幾つもの賞を得たことで俄かに注目されている。
今回披露された作品は以下に述べるような少人数の観客を相手にする人形劇フェスティバルで演じられたようだ。
 オランダにマイクロフェスティバルと名付けられたフェスティバルがあるそうだが、このフェスティバルは地域の民家に各演者が陣取って公演を行う。観客は10人から15人位のグループに分かれて街中を散策しながら公演の行われる各民家を訪れ、そこで作品を鑑賞して意見交換や歓談の後、次の演目を演じている民家に向かい別の作品と出会うという形で開催されている。2018年に開催された第一回のA-hoj! 発想の原点の1つはこのフェスの開催コンセプトから発想を得ている。
【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

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プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

クラウンマイム「ふたり」2021.8.11 18:15 全体として華4つ星

ネタバレBOX


 老若2人のクラウンが出演。老いたクラウンは流石に身体能力も落ち動きに切れが欠けるが、若いクラウンと比較できるので悲哀感が生まれることも意識してこのような形で演じているのかも知れない。若い方はジャグリングやパントマイムらしいマイムが得意であり、老いた方は手品や説明過多を感じた風船芸、人生の苦みを感じさせるような台詞を吐くという形で老いの特性を活かしている。
 とはいえ、老いによる身体技術的切れが落ちている現状は矢張り覆うべくもない。この点もっと悲哀を強調した方が良かったように思うし、説明過多になる自分を批判する視座が欲しかった。若い方のクラウンは中々芸達者で魅せてくれただけに惜しい。
【会場が変更になります8.7】A-hoj!2021

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プーク人形劇場

プーク人形劇場(東京都)

2021/08/10 (火) ~ 2021/08/14 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

「Little night tales」マティア・ソルツェ 2021.8.14 15時5分

ネタバレBOX


 スロべニア人だが、多くの名人形操り士を排出している名門プラハ芸術大学人形劇学部に学び優れたアーティストが集まるこの大学でも学生時代からその高く特異な才能を評価されてきた逸材。人形操りのみならず、作曲、演出でも高い才能を示しスロベニアのリブラナ人形劇場でも演出を担当する。因みにこの人形劇場はオペラ劇場にも比肩される程立派な劇場であり、スロベニアの人形劇は人形劇大国・チェコと同系統の人形劇でありソルテ自らの高い能力によってチェコの一流人形操りに勝るとも劣らぬ。今回到着したフィルムは彼の大学を卒業する頃に創られた作品だが、現在も尚、彼のレパートリー作品として演じ続けられる作品である。才能の枯れかけた作家が、観客のアイデアを参考にしながら作劇に挑む話だが、様々な観客からのアイデアを借用する結果しっかりした柱の無い作品になりそうになるが、それを何とか完成作に仕上げようと奮闘する内容だ。豊かな才能を持つ者の自由な発想が随所に見られる。尚用いられているのは指人形である。

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