疚しい理由2021 公演情報 feblaboプロデュース「疚しい理由2021」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     約1時間の作品、Qチームを拝見しだが、役者陣の演技が素晴らしい。ドンデン返しが幾重にも仕組まれその度にドラスティックに変化する脚本をブラジリー・アン・山田さん、的確で周到な演出を池田 智也さん。(ミステリー要素を含む為、最終稿追記2021.12.21)

    ネタバレBOX

     客席はいつもと異なり入口対面の客席は無く、板上は中央に大きくほぼ正方形に近い長方形の平台が右肩上がりに設えられ下手奥にやや長めの平台が出吐けから延び、上手には小さな正方形に近い平台が上手の出吐けに通じている。平台は総て赤、下手平台の上辺中央、真ん中の平台の上辺両コーナーとセンターに天井迄届く太目の柱が立ち上手コーナーの柱から客席方向に延びる辺の中程に細目の柱が立っている。各柱の間は赤い錯綜した紐が幾何学的に張られ、何やら不安を掻き立てるように或はやや疎に或は密に迫ってくる。紐の張り方に疎と密があるのは、起承転結及び結論が観客の判断に委ねられていることを表している可能性もある。客席から見て右肩上がりの中央の板上にはテーブルがこの板に対して斜めになるように置かれ、不安定感を醸し出している点も見逃せない。極めて優れた舞台美術である。因みにテーブルについている椅子は4脚。実際の登場人物は3名、他に話題に上る人物が2名。
     物語は新婚の綾乃の暮らす家のリビングで展開する。綾乃の夫はフリーのカメラマン。殆ど家には戻らない。現在妊娠4カ月で高校時代には演劇をやっていた。訪ねて来たのは演劇部の先輩・陽子とその紹介になる保険外交員・中西である。妊娠もし、出張がちのフリーランスのカメラマンということであれば、万が一ということも考えておかねば、というのが訪問の理由であった。陽子の演技力はピカイチでその才能の高さは演劇部の華、然るに綾乃は、という評価であった為、陽子は綾乃を子ども扱いしていた。オープニング早々、中西が披露した初歩的なトランプ手品に対する反応で綾乃の無邪気が見事に描かれる。また、訪れた陽子らに茶も出さない気の利かなさも描かれる。一方、陽子は2年前に夫を失くし後追い自殺を図るほど一時追い込まれていた。子供は居ない。然し、陽子に気の利かなさを指摘された綾乃が茶の用意をする為にキッチンに行っている間に陽子と中西の関係が明らかになってくる。彼らは男女の仲であり陽子は亡くなった夫の保険金4千万を受け取って安楽な生活を送っている、中西が夢見る鎌倉の海の見える場所に新居を持ちたいという夢を一緒に見ているという訳だ。
     綾乃が淹れた茶は、カモミールのハーブティー。精神を安定させる作用があるという。さて、茶を飲みながら話は保険に関わるものになってゆくが、様々なオプションを説明する中西に綾乃が応じたのは高額保険であった。それも掛け金は比較的安くなるが下手をすると数年間の掛け金が掛け捨てになるタイプの保険である。
     流石にそんな条件では、受け取る可能性が余りに低くなると心配した陽子が、他のオプションに変えた方が良かろうと説得に掛かるが、綾乃は1つ提案をした。「夫を殺して欲しい」というのである。嫌がる2人に綾乃は脅しを掛ける。2人が泊まったホテルでの写真を証拠として見せて。また、陽子の夫は自殺ではなく彼女が保険金目当てに泥酔させた夫を後ろから押しベランダから墜死させた事実、その後の彼女の狂言自殺迄。その狂言自殺の為手首を切った時に神経を痛め指に後遺症が残って上手く動かないことまで中西に告げたのだ。而も陽子は夫の背中を押した手の感覚がまざまざと残り何時迄も消えないと言い、不眠症に陥っていることも告げていた。中西は彼女の手のマヒには気付かなかったと言うが。何れにせよ陽子・中西カップルは窮地に追い込まれる。中西、陽子2人の対応は分かれる。中西は保険は受け取れるよう手伝うが殺人自体には関わらないことを示唆し、陽子は殺害を承諾する。このように緊迫したシーンが連続することで今作はサスペンスとして極めて緊張した舞台になっているのだが、通常最期に解ける謎の解は観客に委ねられて終わる。
     ところで“チェーホフの銃”という言い方を御存知だろうか? 「もし、第1幕から壁に拳銃をかけておくのなら、第2幕にはそれが発砲されるべきである。そうでないなら、そこに置いてはいけない。」とチェーホフが言ったとされることから、舞台上に現れた総ての道具も作品展開に関係しなければならない、と解釈されていることを指す。先に述べた通り今作では最終結論が作品に描かれない。即ち観客に判断が任されるという形で幕となる。この幕切れを如何様に解釈するか? という問題である。もしチェーホフの銃を援用して解釈するなら、テーブルに付いている椅子の数が4脚であることを考慮した方が良かろう。上演中に使用されるのは3脚のみだ。話題になる人物は登場人物以外に2名いる。既に亡くなった陽子の夫と殆ど帰宅しない綾乃の夫である。つまり4脚目は綾乃の夫を暗に示していると取り今後陽子が綾乃の夫を殺害し、中西が保険金を綾乃が受け取れるように手配すると取るのである。
     然し乍ら、この見解にも反論できるシーンがあった。陽子が左手の指がマヒしていないことを示すワンシーンが挿入されていたことだ。然るにマヒしたのが左手だとは示されていなかったので、これも確定要素ではない。これら総てから舞台上でされた表現総ては、創作された作品中で仕掛けとしての演技として機能している可能性があるということである。私の記憶が正しければ、つまり描かれたことをベースに判断できないように作られている。ということは、今作のテーゼは、作品を通して解を得ることではなく、虚実の皮一枚の被膜を描くことこそが演劇なのではないか? との主張、即ち演劇作品による演劇のメタ批評ということになるのかも知れない。

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    2021/12/16 19:00

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