兄弟
劇団東演
あうるすぽっと(東京都)
2016/03/30 (水) ~ 2016/04/03 (日)公演終了
満足度★★★★
隣国
“現代中国で最も過激な作家”と呼ばれる余華の長編小説の舞台化で
休憩15分を挟む2時間45分の作品。
尺の長さを感じさせないテンポの良い展開で、
怒涛の流れに揉まれながら生きる市井の人々が生き生きと描かれている。
良くも悪くも極端な中国という国にあって、人々もまた共産主義から爆買いへと走る。
ただ、極端から極端へと大きく振れ、モラルをかなぐり捨てるのもまた
“成長のエネルギー”と呼んで肯定する、その国民性にはどうしても距離を感じる。
が、それこそがこの作品の真価なのだと思った。
ネタバレBOX
舞台正面奥には階段、左右には黒っぽい抽象的な壁が1枚ずつ立っている。
時が移って資本主義流入後になると、その壁がくるりと回って裏を見せるのだが
生活感・雑多なイメージが、一転してシャープでモダンな柄に変わり効果的だった。
リーガンとソンガンは、親同士が再婚したため、兄弟となった。
互いを尊敬し合って再婚した両親のもと、二人は貧しくとも仲良く暮らした。
ところが文化大革命の波が押し寄せ、父は反革命分子として撲殺されてしまう。
失意のうちに母も病死、兄弟はその絆を一層深めつつ成長する。
控えめで口下手、理知的な兄ソンガン、対照的に商売上手で行動的なリーガン。
リーガンが見初めた女リンホンが、実はソンガンを好きだったことから
兄弟は初めてぎくしゃくする。
そして常に弟に譲って来たソンガンが、初めて自分の気持ちを表明し、押し通して
リンホンと結婚する。
時は流れ、リーガンは商売が上手くいって大企業の社長となる。
一方ソンガンは、盤石なはずの国営企業が倒れてから人生が傾いていく。
健康を損ね、家を出て一儲けしようとするが詐欺に遭って帰るに帰れなくなってしまう。
そのころリーガンは、ついに憧れていたリンホンを自分のものにする…。
冒頭の悲惨さから、大河ドラマのようなイメージを持ったが
やがて歴史は”兄弟の絆の強さの理由”を示す背景であって、テーマではないと判る。
奔放で自己チューな弟のリーガン(南保大樹)がいかにもおおらかでのびのびしている。
対する兄のソンガン(能登剛)は常に弟を守ろうとするが、
結婚だけは譲らない芯の強さがあり、ラストの悲壮な決意を予感させる。
冒頭の“8歳”という設定が若干苦しかったが、それはいつの間にか忘れて
二人のメリハリの効いた台詞に惹き込まれた。
「兄弟じゃないか」「兄弟なんだから」という言葉が、
時に支えとなり、時に枷となるのも、血のつながりが無い分哀しく切ない。
この強大で矛盾だらけの大国では、即座に対応してうまく立ち回る者が成功するのだ。
その陰でソンガンのように実直で優しい人間は生きるのが苦しくなる。
ラスト、ソンガンの選択は何かを変え得るだろうか。
号泣はしても、すぐにリーガンとリンホンは自分を責めることに飽きて
また歩き出すだろう、自分の欲望の方向へ。
自己の欲望を他者の心情よりも優先させる瞬間に、ためらいと罪悪感が薄いことが
違和感の理由であると思う。
原作はその違和感を容赦なくさらけ出したからこそ自国でも物議を醸したのだろう。
脚本・演出はそこを忠実に、ストレートに舞台化していると感じた。
中国という国をテレビのニュースとは違い、裏返して内側深く見せてくれた舞台だった。
ドロボー・シティ
あひるなんちゃら
駅前劇場(東京都)
2016/03/25 (金) ~ 2016/03/28 (月)公演終了
満足度★★★★★
楽しいドロボーライフ
キャスティングの妙と、“笑いのバリエーション”が豊かで素晴らしい。
メリハリのある会話がとても面白かったが、中でも
堀靖明さんの、噛まずに滑舌良く機関銃のように台詞を繰り出すところにクラクラきた。
また、こんな“大人の間”を醸し出すのは山田百次さんと根津茂尚さんのコンビくらいだろう、
という台詞と演出が私的にどストライクだった。
ネタバレBOX
客入れの音楽は駆け出しアイドル風、それなりの歌だが
どれも「あひるなんちゃら~♪」という一節で、オリジナル曲だと判るほど良く出来てる。
テーブルと椅子4脚、スカスカの棚以外、これといって家具もないさっぱりした部屋。
ここは女ドロボー4人のアジト(家と言わずに敢えてアジトと呼んでいる)である。
このアジトに2組のドロボーが入るというお話。
一つは3人組、もう一つは男2人組。
3人組のツッコミが堀靖明さんでハイテンションをキープするエネルギーは
さすがMCRで鍛えられている。
放たれる怒涛の台詞が気持ちよく、他のボケぶりが際立つから余計可笑しい。
堀さんのテンションは、2人組の「かっこいい」ことにのみこだわる渋いオジサン2人をも
劇的に際立たせる。
用もないのにかっこいいというだけで「タイガー」「ドラゴン」と
互いのコードネームを呼び合うオジサンって(笑)
スーツを着ても私の腕くらいしかない細い脚で、ゆっくり歩く百次さんが最高!
根津さんとの掛け合いのあの“間”は、堀さんの機関銃との相乗効果で絶妙な味わい。
あのテンポに耐えられる役者さんは、そういないだろう。
女ドロボーが色鉛筆で盗みの「予告状」を手書きしていたり、
メンバーの日記を読むのを楽しみにしていて、裏切りを知ったり、
キャラにメリハリがあって楽しい。
あひるなんちゃらってこんなにバリエーションのある笑いだったっけ?
ここしばらくチラシの関村さんの文章だけ読んで笑って、舞台観たような気になっていたら
いつの間にか進化・深化・真価してすごいわ。
ちなみに「タイガー&ドラゴン」は、私がカラオケで最初と最後に必ず歌う歌である。
それだけに深い思い入れがあったのは確かである。
でもだからって★5つをつけたわけではない。
脚本・演出・役者さん・制作の皆さんに敬意を表してのことであります。
マッチ売りの少女
天幕旅団
【閉館】SPACE 梟門(東京都)
2016/03/09 (水) ~ 2016/03/13 (日)公演終了
満足度★★★★
夫婦
番外興行として、初めて既成の台本を使った作品だという。
これが大変面白かった。
まず役者の台詞が強い。
自分の論理に相手を従わせようとする強引さが要求される台詞が飛び交い、
ファンタジーで時折見せる浮遊感や儚げなタッチが封印された感じ。
これが社会や“善良な市民”の外面を引っぺがすのに効果絶大。
既成の台本を使うと、アテ書きとは違った役者の別の面が立ち上がって興味深い。
“まず形から入る”的な夫婦の会話が白々しく、そこに満足している
小市民のうさん臭さがとても良く出ていたと思う。
この夫婦、上手い組み合わせだわ。
ネタバレBOX
対面式の客席の間には少し高くなった舞台。
いかにも家庭の居間らしいフローリングの床に黒くて四角いテーブルがどーん。
テーブルの下にティーカップや食べ物の入ったびん、菓子皿などが
きちんと置かれており、この几帳面さが天幕旅団らしくて好きだ。
やがて渡辺実希さんが登場して語り始める。
─7歳で母親を亡くした少女は、大みそかの夜裸足で町を彷徨う…。
語っている渡辺さんも裸足だ。
場面は変わって初老の夫婦(佐々木豊・加藤晃子)の「夜のお茶」シーン。
そこへ突然「市役所から来た」と女(渡辺実希)が訪れる。
お茶とお菓子でもてなす夫婦。
やがて彼女が「私はあなたの娘です」と言い出したから「夜のお茶」は大混乱。
「自分の娘は幼い頃電車に轢かれて死んだのだ」といくら言っても聞く耳を持たず、
おまけに「外に弟を待たせてある」と言って、弟(渡辺望)を家に入れる・・・。
夫婦の楽し気な会話と笑い声がとってつけたようで、
“善良な市民・無害な市民”のうさん臭さがぷんぷん。
少年ぽさを消した加藤晃子さんのオバサンぶりが見事。
佐々木さんは無理なく恰幅の良いオジサンになっていて、
女に不意を突かれてオロオロする辺りも上手い。
豹変する女と、あざだらけの身体を晒す弟の不気味さが秀逸。
女も弟も、時代の必要悪に加担した父親を責め、
ぼんやりとそれを見過ごした母親をも責めている。
そのくせ自分を“善良だ”などと思いたがる夫婦を責めている。
「あなたを責めているのではない」「あなたが悪いのではない」という言葉の
何という説得力の無さ。
「お父様・お母様・お姉様」という丁寧な言葉遣いが
理想と現実のギャップを際立たせて虚しく響く。
誰のせいでもないが、どうしてくれるんだという怒りが怨念のようにこみ上げて、
女は行き場のない怒りを弟にぶつける。
このシーンの手のつけられない暴力的な女には迫力があった。
善良な市民とは、「何もしない役立たずのことだ」と思い知らされる夫婦。
小物で“形から入る”夫婦の人生が描かれ、それを女が払い落として崩壊させるところ、
「夜のお茶」にしてはボリュームあり過ぎのテーブルセッティング、
動きとメリハリのある台詞のやり取りなど、演出の面白さを堪能した。
役者さんの声の良さ、力強さが心地よかった。
終わってみれば不条理劇というよりも、
あの女はマッチ売りの少女の亡霊だったのか…?
そう思わせるところがあって天幕旅団らしいと思った。
こういう企画、またやってください。
御家族解体
ポップンマッシュルームチキン野郎
ステージカフェ下北沢亭(東京都)
2016/03/05 (土) ~ 2016/03/13 (日)公演終了
満足度★★★★
原点
久しぶりにちっちゃな空間で、ポップンの役者さんの呼吸まで感じられる作品。
11年前の立ち上げにこれをやったのか、と感慨深いものがあった。
吹原さんの原点ともいえる毒吐きキャラが全開で、役者がどれもはまっている。
“外では言えないけどウチでは言って笑っちゃう”タブーなネタが満載。
ハチャメチャだけど一番大事なものだけはしっかり持っている家族の話に
この際アラ探しは野暮というもの。
破たんしてるくらいが丁度いいのだ、と思う。特にこの劇場では。
パンのみみをもらえばよかった、と今も後悔(/_;)
ネタバレBOX
会場に入ると、増田赤カブトさんが10か条の“リハビリメニュー”に黙々と取り組んでいる。
(元気になってよかったね、次の舞台を楽しみにしていますよ)
最後にゆっくりとスクワットをした後、時間が来ると勢いよく前説が始まった。
「いいトシをして定職にも就かず・・・」といういつものフレーズに
あー、ポップンの舞台に来たんだな…と私は感慨にふける。
いいトシをして定職にも就かず作り上げた作品を披露する彼らに、
尊敬と羨望の念を抱く。
舞台はこの下町の居間がすべてだ。
母一人子一人の家庭、母の留守にフリーターの青年は履歴書を書いている。
そこへ有名プロ野球選手が訪ねて来て、この家にまつわる自分の家族の話を始める。
彼の大ファンでもある青年は、荒唐無稽な彼の家族の話に次第に引き込まれていく。
外での大事件は、全てここへ持ち込まれ、報告され、共有され、受け入れられる家庭。
父の使い込み、兄のひき逃げ、受験期の姉、彼女を妊娠させた小学3年の弟。
そして自分は野球に夢中で、ひじの手術を受けてプロになりたいと思っていた。
母はしょっちゅう男と家を出てはまた戻ってくる。
マイナスばかりのこの家で、それでも彼らは笑って暮らしていた。
そしてフリーター青年に驚きの事実が告げられる・・・。
まずいきなり腹ボテ彼女を連れて来る驚きの小学3年生がインパクト大。
CR岡本物語さんがこましゃくれて早熟すぎる3年生にドはまり。
半ズボンから伸びたきれいな脚も違和感なく、ランドセルのCMも行けるよ!
ひき逃げして海外へ逃亡したい次男に加藤慎吾さん、トラック野郎の荒くれ感が良い。
この人は”定番のキャラ”でなく驚きのキャラを見せてくれる。
ガチな被り物ながら衝撃の展開に涙せずにはいられなかった
「ウチの犬はサイコロを振るのをやめた」(7月に再演!)が忘れられない。
ダメ親父にダメ兄弟たちが、それでも笑って暮らせるのは価値観の共有があるからだ。
「大丈夫、何とかなるさ」と、およそ何ともならない感じの出来事を受け止めてくれる。
誰も追いつめられない、誰も疎外感を持たない、だって家族全員一緒だから。
唯一イライラしているのは小岩崎小恵さん演じる常識人の長女だけだ。
その常識さえ捨てれば人生楽しいのに・・・、あーもったいないなあ、という話。
(いやいや、それだけじゃないけど)
これがポップンのスタートだったのかと、大変納得。
この小さな居間から始まったんだね。
劇団が大きくなり、活動範囲が広がった今だからこそ
観客と共に原点を共有しようという吹原さんの姿勢を(勝手に)感じた。
あの空間、あの距離感、そこでパンツ脱がせたりするポップンが好きだけど、
確かにドリンク代込み4000円はちと高いかな。
小劇場ならではの“毒を持ったポップン”にファンは焦がれている。
盆と正月には、実家に帰ってあの居間で過ごそうよ、って思った。
妙に白髪の似合う吹原さん、下北沢で待ってますから(^^)/
ルルドの森(平成28年版)
バンタムクラスステージ
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2016/02/19 (金) ~ 2016/02/28 (日)公演終了
満足度★★★★★
こういうのが観たい
2012年に観た舞台よりもだいぶ肉付けがされて解りやすくなった気がする。
整然とした場面転換や、ブラインドの光と影で場所を示す的確な照明など
無駄のない演出が美しい。
人間の弱さと欲望が生み出す狂気の沙汰を第一級のエンタメにした舞台。
バンタムクラスステージには、他劇団にないこの路線をキープして欲しいと
切に願う。
ネタバレBOX
遺体の一部がきれいに持ち去られるという連続猟奇殺人事件が起こる。
警部補の三島と黒船のコンビは、捜査に当たるうち
かつての人気テレビドラマ「ルルドの森」のファンクラブに行き当たる。
その主人公を演じた元女優、菱見玲子と付き人の勉、
殺された女性のルームメイトなど謎の多い人々を追いつつ
暗い森の中へと足を踏み入れた三島と黒船は、
やがて自分たちが事件の核心に捉われていることに気付かないまま、
翻弄されていく…。
猟奇殺人の動機が1冊の本の記述から始まり、
それが歴史的に裏打ちされた事実であることが
犯人の行動に説得力を与え、単なる想像力を超えた恐怖を突き付ける。
“変態の狂った好み”ではなく、誰もが抱く喪失への怖れや
他者への憧憬が根底にあるという設定が実にドラマチックで、
観客も一気に深い森の中へ引きずり込まれてしまう。
犯罪者の思考回路に焦点を当てるキャラ設定が、この作品の特徴であり魅力。
この強力な設定に役者陣が良く応えている。
事件を捜査する側にもヒーローはいない。
弱さにつけ込まれて自らも取り込まれていくのを見ているとハラハラする。
また巧みに他者を操った結果、目的を果たしたにもかかわらず
ラスト、うつろな犯人の視線を見ると“どうしても塞ぐことのできない穴”を
見る思いがした。
犯罪者に対する強い憎悪を持て余し職場で“厄介者”扱いされる三島役の福地教光さん、
「あー、そうなっちゃうかぁ…」という展開でどんどんヒーローから遠ざかるし、
(そこがまたいいのですが)
三島を軌道修正するはずの黒船(西川康太郎)もちょっと隙を見せたら
あんななっちゃうし。
彼らの人間らしい弱さがまた、それを利用する犯人の強靭な思想をさらに際立たせる。
ゲイのママ(沖田幸平)のキャラが良かったなあ。
闇で銃を入手するような飲み屋のママという設定がクライムサスペンスらしくて好きだ。
カーテンで仕切る場面でちょっと違和感を覚えた。
白い透けるカーテンならまだしも、あの色柄はどうだろう。
照明と場転は素晴らしく、銃声も完璧。
ストーリーは解っているのに、黒船が撃たれる場面は全身でびくっとした。
あの緊張感、複雑怪奇な犯人像、強制終了の銃声、
これらバンタム鉄板のアイテムが最高。
こんな舞台、私はほかに知らない。
Stay of Execution
メガバックスコレクション
錦糸町SIM STUDIO 4F C-studio(東京都)
2016/02/20 (土) ~ 2016/02/28 (日)公演終了
満足度★★★★
改札口の向こう
Bを観劇。
久しぶりのメガバは、過去の人気作品のスピリッツを詰め込んだ盛りだくさんな作品。
ちょっと盛りだくさん過ぎてメリハリに欠けた印象が残念。
いつもの「パニック」と「受容」のギャップや緊張感が少し甘くなった。
その分登場人物一人ひとりの心情や、客席への問いかけは丁寧で共感を呼ぶ。
世界を二分する“改札口”の存在など、相変わらず設定の巧さが光る。
ネタバレBOX
エレベーターを降りて客席に案内されるといきなり暗い!
「段差にお気をつけください」と言われても目が慣れていないので不安。
その後どなたか転んで大きな音がしたが、雰囲気よりも安全を優先して
もう少し照明を工夫した方が良いと思った。
素敵な紙飛行機の当日パンフに感心したが、それを読むのも難しい暗さは残念。
渋谷駅で未曽有の大地震に見舞われた地下鉄の車両、観客はその車両の中にいる。
車両の中から荒れた渋谷駅構内を見渡すという設定だ。
意識を取り戻した人々が記憶を繋ぎ合わせ、事実を探ろうしているとき
来世である“無”の世界からワイスが現れる。
目覚めた死者を無の世界へ連れて行くのがワイスの仕事だ。
だが今回は、目覚めた5人が全員、もうしばらくここに居たいと主張した。
101日のStay of Execution(執行猶予)を与えてワイスは去っていく。
だがこれから始まる地獄の101日間を、その時誰も想像していなかった・・・。
彼らが死者であることが分かっているのでストーリーはすんなり入ってくるが
登場人物たちと一緒に謎解きをしていた、いつもの緊張感と驚きはない。
それが物足りなくて寂しい。
が、その分丁寧に描かれていたのは
生者と関わりたい、外の世界を知りたい、自分の人生をもう少し考えたいという理由で
現世と来世の狭間であるこの場所に居たいと言った5人が
食欲も痛みも感じない退屈な空間に次第に耐えられなくなって行くプロセスだった。
人間関係がきしみだし、精神に異常をきたす者が現れる。
改札口の向うに行けば、魂は永遠にさすらい続けることになるというその設定が
彼らの選択の切羽詰まった状況を物語る。
こういう人間の弱さと、それを互いに補い合う関係が人を救うという展開は
本当に温かく、巧いと思う。
狭間に出入りする生きている少女が言う
「死んだ人間より生きている人間の方が怖い」という台詞がスパイスのように効いている。
道徳の時間みたいな直球ストレートすぎる客席への呼びかけも
役者さんの真摯な姿勢につい一生懸命聴いてしまう。
定番のキャラもあり、意外なカップルの誕生もありと、人物のバリエーションも楽しめた。
一人だけ、ワイスの言葉に耳を貸さずこの狭間に残り続ける女の“忍耐”の理由が
息子であるという設定は若干無理も感じたが、
そこに自分と共通の強い希望を見い出していることが、他の人々と違う所以だろうか。
冒頭の自己紹介のシーンで、BGMの音に声がかき消されることがあった。
今後、小さくても通る声、もしくはBGMを調整する必要がありそう。
当日パンフで滝一也氏が書いているように、
“すべての人に確実に訪れる、しかも説明できる人はいない”「死」というものが
メガバにとってこれまでもそしてこれからも、一貫したテーマであり続けるならば
今後ますます既視感のない設定と、舞台装置のクオリティが求められるだろう。
ハードルは高いが、次はいったいどんな新しいシチュエーションを提示してくれるのか、
滝氏の豊かな想像力に期待せずにはいられない。
鈍色の水槽
ロデオ★座★ヘヴン
【閉館】SPACE 梟門(東京都)
2016/02/09 (火) ~ 2016/02/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
鈍色
十七戦地の柳井さんが書く大胆な設定と、
ロデオのお二人の繊細で息の合った芝居がグッドバランス。
人の骨格を持つ人魚が打ち上げられるという、このあり得ない設定が
次第にリアルな色合いを帯びて来るプロセスが素晴らしい。
ファンタジーを面白くするのはいつも人間の“裏の顔”だが、
人魚のそれが秀逸。
映像が美しく巧みで、ファンタジーらしい雰囲気と妖しさを盛り上げる。
ネタバレBOX
光村海洋生物研究所は、三陸海岸沿いの港町の水族館跡地に建てられている。
港では最近漁網が破られたりする被害が出ており、研究所も対策を迫られている。
研究員たちが白イルカの仕業ではないかと考えて対策を練っていたところ、
ある日その白イルカを捕獲したという知らせが入り、研究所は沸き立つ。
水槽に入れられた白イルカを調べていくうちに不思議なことが起こる。
”人魚”と名付けられた白イルカが人間をコントロールするような出来事が続き
やがてそれが30年前に起こった事件と奇妙な一致を見せ始める。
町の誰もが口を閉ざす30年前の出来事とはいったい何なのか・・・?
さらに、何かを知っているらしい館長の秘密は・・・?
冒頭、研究員である天野司(澤口渉)が夢の中で
イルカトレーナーの舞原(音野暁)と語り合ったあと、
タイトルと出演者名が映像で流れるのが大変美しい。
チラシの写真と同じイメージがゆらゆらと立ち上る映像は
このストーリーの根幹を成すものだ。
未知の海洋生物が人間の生活を脅かすというテーマは「花と魚」とも共通するが
今回はそのかかわり方が全く違う。
人魚には感情があり、人間を翻弄するしたたかさがある。
明確な意図をもって陸に近づき、目的を遂げて戻って行く。
その理由を知ると、この物語がラブストーリーであり喜劇であるとも思える。
“登場人物”として白イルカ=人魚は、巧みな映像によって映し出されるだけなのに
ある種の「人格」を持っていることが、このファンタジーの核になっている。
そして驚愕の真実を聞かされた司が割とすんなりそれを受け容れるので
観ている方も「まあ、本人がそれでいいならいいですけど」的に納得してしまう。
こと人魚に関して納得させる所以は、澤口さんと音野さんの自然な感情表現である。
ことさら熱弁を振るったり思い入れたっぷりなわけではない。
ゆったりとしたテンポで、観ている私たちも彼らの心の動きについて行く。
司の夢と現実の行き来が、重なったり同時進行したりという
かなり自由な構成であることなどを考えると、
けっこう強引な作りとも思えるのだが
つまりみんなが信じてしまえばファンタジーは成立するということだ。
「うっそだぁ~!んなわけないじゃん!」と言ったらおしまいなわけで。
朝倉洋介さん演じる同僚研究員のキャラなどが魅力的なので
温かなラストまで惹きつけられる作品。
館長を演じた関根信一さん、いつもながら達者だが、
火サスの愚かな母親みたいなキャラはあまり似合わない気がした。
理性と緻密さで自己をコントロールできる女を演じると
硬軟の加減が絶妙なんだな。
【追加公演決定!!】29日19時最高のおもてなし!
ゴツプロ!
駅前劇場(東京都)
2016/01/22 (金) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
米の飯
戦争中海に沈んだ客船を舞台に、異なる時代の、だが志は同じ男たちが交差する。
達者な役者陣がそろっているので面白くないはずはなく、芝居も濃いが感動も濃い。
ただちょっと濃すぎて観ている私も肩に力が入り過ぎた。
人の話を聞かない人々が集まって大声で「俺の話を聞け!」の繰り返し的な印象が残念。
無口な浜谷康幸さんの表情が、複雑な心情を雄弁に語っていて一番感情移入した。
ふくふくやで拝見した時もそうだったが、この人は台詞に依らない表現が素晴らしい。
縁ある人々を引き寄せる不思議な船に魅せられた。
ネタバレBOX
舞台は客船の厨房兼従業員食堂(?)。
戦時中に米軍の攻撃を受けて沈んだ竜王丸は、現代の技術で忠実に再現され、
今日は記念すべきお披露目の日だ。
ところが、沈んだ船から引き揚げられた古い大時計のあるこの厨房に
時空を超えたもう一つの世界が現れる。
それは攻撃を受けて沈む直前の竜王丸だった。
昭和17年と現代、2つの世界のスタッフたちは、価値観の違いにとまどいながら
事態を理解しようと悪戦苦闘する。
彼らは誰に引き寄せられたのか、歴史を変えることは不可能なのか、誰が助かったのか、
紛れ込んだライターの男は、パラレルワールドを変える要因にはならないのか?!
なかなか理解し合えない2つの世界をひとつに結び付けるキーワードが
「お客様に最高のおもてなしを」というプロの矜持であることが清々しい。
仕事において自らに課したストイックな姿勢が、窮地に陥った時の拠り所となる。
やがて沈む運命にあることが受け入れ難くて七転八倒する者も
自分の存在が何かの形で受け継がれていくことを知って安堵の表情を浮かべる。
自分の血縁者を見い出して人生の選択が間違っていなかったことを確信する者もいる。
理不尽な人生の強制終了を告げられ、それを受け容れようとする過程が切なく悔しい。
ハイテンションの台詞が飛び交う中で、浜谷さん演じる男は寡黙で言葉少ない。
屈託のある人生を抱えて兄の勧めでこの船に乗り込み、ともに死んでいく運命を
静かに受け止める。
愛した人が自分の死後長く生きて、今孫と名乗る男が目の前にいるということを
おそるおそる確かめながら喜びに浸っている姿に、思わず涙があふれた。
家族を支えたのが、他ならぬ自分の書いた脚本を演じる浅草の役者仲間だったというのも
大いに泣かせる。
孫である現代のチーフを演じる塚原大助さんの、熱い台詞との相性が
ここでは抜群に良かった。
それにしても、「沈む前に一番おいしい飯を」、と万感の思いで白い飯を出したのに
昭和17年組が「不味い…!」という予想外の反応で
“いい話”にならない下りは面白かった。
私たち日本人が戦後得たものは確かに大きいが、それと引き換えに失ったものも
計り知れないほど大きいのだろうなと思った。
当日パンフに大きく描かれている「竜王丸」の細密な絵、赤い色も鮮やかな絵が、
出演していた中下元貴さんによるものと知って驚いた。
船室一つひとつに、クルーたちと当時の日本人の精神が込められている。
ティーチャーズ・ルーム【ご来場ありがとうございました!!】
劇団マリーシア兄弟
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2016/01/27 (水) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
爆発
男ばかりの群像劇、今度は職員室が舞台で相変わらずぶっ飛んだキャラの教師たち。
そのキャラのバリエーションが大変楽しかった。
弟キャラの佐々木祐磨さんが“クセあり過ぎの兄ちゃんたちの間を走り回る”感じ。
力の抜けた会話劇だが、時々大事なことを言ってる。
変な教師がまっとうなことを言う。
「教育とは?」って台詞が出るあたりがこの劇団の面白いところ。
ラスト、素敵な先生の熱弁に泣いちゃったよ、あたしは。
ネタバレBOX
職員会議で話し合うべきことがたくさんあるのに、なかなか話は進まない。
学校には今、「体育祭を中止しないと爆弾を仕掛ける」という脅迫状が来ているし
生徒がラブホから出てくるところを補導されることが相次いでいるし、問題山積なのだ。
元教え子と交際している教師とか、教え子を三股かけてる教師とか、両刀使いとか、
教師の方にもバラエティに富んだ問題や対立がある。
そんな職員室で若手教師は何とか話し合いをまとめようと奔走し、
やがて脅迫状の意外な真意にたどり着く…。
さっぱりした職員室のセット、相変わらず力の抜けた台詞、そして男だらけ。
いつものマリーシアらしい舞台だが、先生たちのキャラがくっきりしているのは
役者がキャラによくはまったからだろうか。
三三三三さんの脚本は結構台詞量が多く、また似たようなシーンを重ねるので
時として役者は台詞を追うのに精いっぱいに見えることがある。
例えば皮肉屋の倫理教師役、狩野健太郎さんは
いつもより台詞にゆとりが感じられ、掛け合いの間や声の変化が良かったと思う。
その結果、辛辣できれいごとを嫌うキャラがぴったり重なった。
客席の笑いの反応が良かったことからもそれを感じる。
佐々木祐磨さんは、青臭いほど純粋で一生懸命、素直に反省もする弟キャラがぴったり。
狂言回し的に質問を投げかけ、教師たちに本心を語らせようとする姿が初々しい。
この弟キャラが必死に訴えるものだから、ラスト泣けちゃったんだなあ。
若干台詞が勢いに頼っている印象で、あと少し技術的なものがあればテッパンだと思う。
理科の教師、森山匡史さんは最近無口な役をやってから急激に面白くなった。
細かい動きまで繊細に表現して大事な時にギャップをアピールするのが上手い。
欠点だらけの男たちが淡々とゆるい話をしながら
「考え方」や「価値観」の違いを提示しぶつかり合い、次第に互いを認め合っていく、
というプロセスはマリーシアお得意の流れで、私は好き。
あともう少し、毒ッ気があっても良いと思うけど。
例えば爆弾魔の素顔とか、あっと驚く演出で最後に
“もうひとびっくり”させて欲しい気がする。
この劇団は制作の方も含め、みなさん丁寧でいつも感心する。
受付のあと客席へ案内しながら、この時点でトイレの場所を教えてくれたりする。
そして役者がみんな細い。(あ、吉田哲也さんごめんなさい)
細い竹の棒が立っているよう。
優しく礼儀正しい竹の棒に見送られて、私は気分よく劇場を後にしたのだった。
鶴かもしれない2016
EPOCH MAN〈エポックマン〉
OFF OFFシアター(東京都)
2016/01/20 (水) ~ 2016/01/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
驚愕の鶴
脚本と構成の巧さに加えて生き生きとした台詞が素晴らしく、芝居の面白さを堪能した。
思わず本当にひとりなのか、と思ってしまうほど見事な掛け合いと、あっと驚く演出。
誰かにお礼を言いたい、喜ばせたいと思った時に他の方法を持たない女の一途で切ない思いがビシビシ伝わってくる。
完璧な台詞のタイミングには驚嘆しかない。
哀しい鶴の声がまだ聴こえる…。
ネタバレBOX
二方向から客席が囲む舞台には、3つのラジカセが置かれ
床には古めかしい大きなトランクがひとつ。
細い竹(?)の棒が所々に立っている。
やがてこの細い棒が自由に移動し、ドアとなり機織り機となることがわかる。
一つのラジカセから昔話の「鶴の恩返し」の朗読が流れる。
それにつれて現代の若い男女の物語が展開する。
新宿の往来で泣いていた女にティッシュを差し出した男の元へ
お礼を言いたいと女が訪ねて来るのだ。
そして一緒に暮らし始めるが、女は時々1週間ほど“バイト”に行く。
ある時不審に思った男がたどり着いたところは…。
ラジカセから発せられる台詞との掛け合いが何と生き生きとしていることか。
ヘタな相方など要らないとさえ思わせる、完璧なタイミングに驚愕。
同時に、後半ラジカセを使わず、衣装も変えずにシリアスな場面で
ごく自然に男と女を交互に演じた時は圧巻の台詞力を目の当たりにした。
この自在な切り替わりが、物語のテンポと緊張感をキープする所以かと思う。
料理のシーンの、しなやかな身体性を生かしたほとんどダンスのような演出。
いきなり劇場の外が見えた時の、客席のどよめき。
羽織り、重ねた着物の鮮やかさ。
アイデアと工夫に満ち、練り上げた作品とはこういうものかと感動した。
大切な人を喜ばせる方法はほかにもあるのに、
それは例えば一緒にいることだけで十分なのかもしれないのに
鶴は自分の身体を痛めて布を織ろうとする。
鶴子もまたほかの手段を知らないという点で、同じように痛々しい。
愚かなまでに自虐の道をたどる女の可愛らしさ、哀しさが繊細な表情からこぼれる。
すごいなあ、こんな作品を創るんだ、小沢さんって。
鶴の声、女の声、男の声、どれも耳に残って忘れられない。
素晴らしい作品をありがとうございました。
戯曲試食会 『タバコの害について』
劇団夢現舎
「行灯パブ・ろびっち」(通常は新高円寺アトラクターズ・スタヂオ)(東京都)
2016/01/06 (水) ~ 2016/01/11 (月)公演終了
満足度★★★★
行灯パブろびっち
戯曲単体にとどまらず、客席のつくり、客入れ時の歌、構成など
スタヂオに一歩足を踏み入れた時から大変楽しい。
歌は素敵だし席は落ち着くし、飲めないくせにうっかりビールなど
頼んでしまいました(笑)
まずチェーホフを紹介する前半が良く出来ていて面白かった。
そして「タバコの害について」ひとり芝居。
“講演会なのにひたすら愚痴る初老の男“が妙に可笑しい、意欲作。
チェーホフさん、大変だったんだね(^_^;)
ネタバレBOX
客席に足を踏み入れると、コーヒーテーブル程の小さな机がいくつか置かれ
一つの机にクッション付きの椅子が1脚か2脚設置されている。
上手に女性がひとり(三浦せつこさん)座って、歌っている。
綺麗な声でオリジナルだろうか、ちょっとシャンソンのような歌をうたっている。
息継ぎの音が聞こえず、ことばがきれいな、私の大好きなタイプ。
隅っこに座ると、飲み物を聞かれてつい「小さいビール」と言ってしまった。
静かなライブハウスみたいな雰囲気で超リラックス。
サービスのおつまみも来て、観客はワインやソフトドリンクを飲みながら開演を待つ。
暗転の後カラスの鳴き声、明転すると黒いミヤマガラス(高橋正樹)登場。
カラスをあざ笑う人間(室賀竜也)を逆にやり込める、というチェーホフの短編だ。
その後、ロシアの地図や年表を使ってチェーホフの人となりを紹介していくのだが、
解説する高橋正樹さんが巧みでとても面白かった。
代表作「かもめ」の、チェーホフ自身が投影されているというトリゴーリンと
ニーナの場面なども、直前の解説があったのでとても興味深く観た。
「タバコの害について」は、講演会の演台に立ちながら
“ひたすら33年間の結婚生活を愚痴る男”を描くひとり芝居である。
益田喜晴さんは、楽屋の女房を窺いつつ、女房さえいなければ…と
思いのたけを聴衆に愚痴る男を緩急つけた台詞で演じる。
リアルさより、うじうじと同じところを行ったり来たりする情けない男を
面白おかしく誇張している感じ。
“何も起こらない”芝居は、“変われない人間”そのものを揶揄している。
そんなに嫌なら反撃すればいいのに、離婚すればいいじゃん、と思うような人生を
人は33年間も受け入れて生きるのだ。
ドラマや本になるような劇的な変化など起こりはしない、凡人には。
チェーホフって基本的に成功者を信用していないのだと思う。
そんなの成功じゃない、そんなの幸せじゃない、そんなの本物じゃない…。
いつもそう思いながら書いたり結婚したりしたんだろうなあ。
当日パンフがとても面白く、会場にある写真などと共に試食の上で大変役に立つ。
「行灯パブろびっち」の名前からして洒落っ気があり楽しい。
夢現舎の公演は、演劇に対する考え方がストレートに伝わっていつも楽しみだが
今年最初の観劇が「パブろびっち」でラッキーでした。
おもてなし、ありがとう\(^o^)/
ライン(国境)の向こう【ご来場ありがとうございました!次回は秋!!】
劇団チョコレートケーキ
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/12/17 (木) ~ 2015/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
クールな反戦スピリッツ
戦争の影響などないはずのど田舎を舞台に、
予想に反して次第に崩れていく一族の連帯感とその再生が描かれる。
チョコレートケーキ単体での公演とは違うテイストが大変面白かった。
どこへ行っても、誰が加わってもチョコの芝居を提供することは易しいかもしれない。
ユニットによってこういうものも作れる古川さん、日澤さんの力を改めて感じさせる。
熱い人情話とクールな反戦スピリッツの対比が素晴らしく、
台詞による小さな笑いが外れなく光る。
チョコの3人が舞台に立った時の、それぞれの思惑が交差する緊張感あふれる場面、
そしてラストの、一瞬こちらまで騙されそうな展開に、劇団の真骨頂を観る思いがした。
戸田恵子さん、高田聖子さんの骨太な演技が巧みで、存在感大。
ネタバレBOX
舞台には階段状の大きな山が二つ、
10人の役者はその高低差を生かして位置を取る。
1946年、戦争に負けた日本が北と南に分断され、「日本国」と「日本人民共和国」が誕生。
それぞれがアメリカとソ連の勢力下に置かれているという設定である。
その国境線が走る山奥の村に2つの家族が住んでいた。
毎日国境を超えて互いの家を行き来し、協力して農作業に励んでいる。
こののどかな国境警備に当たる兵士二人は、共に「戦争はごめんだ」という認識を持ち、
村の人々の作業を手伝ったりして仲良く暮らしている。
ところがある日、ついに北と南が戦争状態になる。
そして北のエリート兵士だった息子が、脱走して実家へこっそり戻って来たことから
2つの家族の間に微妙な溝が生じ、それは修復不可能なほどに大きくなっていく…。
「ここには戦争なんて関係ない」と笑い飛ばしているのは
あたかも紛争地のニュースを見ている平和ボケした現代日本そのもののよう。
それが、戦争の影響を意識した途端、一転して疑心暗鬼に陥りパニックになる、
という展開も日本にありがちでとてもリアル。
戦争は「感情」から発生する。
「論理」ではない、「分析」でもない、庶民の素朴な感情から始まるのだと感じた。
「あいつら何をするかわかったもんじゃない」「信用なんかできるもんか」という
根拠のない嫌悪感が膨らんで世論になり、大勢を占めるようになる。
その最初の火種が燃え広がる様子が庶民の側から丁寧に描かれている。
一方で戦争経験者である兵士が、ここでは抑止力となっている。
軍の実情を知って脱走した息子(浅井伸治)と、南北両方の兵士である。
この3人の場面がチョコレートケーキらしい張りつめた緊張感を見せて素晴らしかった。
南の兵士(西尾友樹)が何度か北の兵士(岡本篤)に問いかける。
「何を考えているんだ?」
自分たちの存在が2つの家族の紛争を大きくし、不安を煽っていると感じた北の兵士は
「俺たちそろそろ消えた方が良さそうだな」という意味のことを言って思案している。
その結果が、“兵士の本分に立ちかえって民衆に銃を向ける”行為であり、
2つの家族がわだかまりを一気に解消して一致団結する、という結末を呼ぶ。
迷わず銃口に立ちふさがる母親(戸田恵子)に対峙する
西尾友樹さんの一瞬ひるんだような演技が、複雑な構造を見せて秀逸。
進んで悪役を買って出ながら、一抹の寂しさを見せる2人の兵士の表情が忘れられない。
と、これは私の思い込み解釈。
民衆の愚かしさ、その素朴な感情の恐ろしさが際立つのは、
濃い目の人情噺が振り切れているから。
対する兵士2人の、徹底した戦争嫌悪は静かに描かれ、声高ではない。
チョコ3人組のシーンは舞台の空気を一変させる力を持っていて
やはり息をのんでしまう。
激高して怒鳴り合い、取っ組み合いの喧嘩をする男どもに比べて
女はいつも強くしなやかだ。
兵士が去り緊張がほぐれて、女二人が泣き笑いで労り合うラスト、
思わずこちらも安堵の涙がこぼれてしまった。
高田聖子さんと戸田恵子さんが素晴らしかった。
“ゴリッとした”作品はまた次のお楽しみとして
私としては“コリッとした”歯触りもまた、チョコの新しい一面として大変楽しかった。
アフターイベントも楽しかった。
素敵なクリスマスプレゼント、うらやましかったなあ。
今年の〆の観劇がチョコレートケーキで幸せです(*^^*)
イエドロの落語其の参 再演!!
イエロー・ドロップス
新井薬師 SPECIAL COLORS(東京都)
2015/12/18 (金) ~ 2015/12/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
覚悟
10月の「其の参」から2か月半、あえて畳みかけるように再演する意義は何か?
それが観たくて行ったのだが、元ネタの落語を忘れさせる弾け方が秀逸。
庶民の下世話な価値観と勢いが落語の身上だと思うが、それを上手く生かした
新しいストーリーが疾走するように展開する。
同時にシュールな展開に哲学があって一緒に立ち止まって考えさせる。
わかばやしさん、明と暗、悲と喜、哀と愛のメリハリが素晴らしい。
さひがしさん、あなたのお尻に覚悟のほどを見ました。
ネタバレBOX
八幡山とよく似た会場が何だか懐かしい雰囲気。
かつ丼女から品川心中の後、新たな2つのエピソードを挟んだことで
古典落語の枠を完全に離れ、パラレルワールドのイメージが豊かになった。
「女郎でない人生」に思いをはせるお染の思索がリアルになったと思う。
案山子の師匠とのやり取りも膨らみが増した。
あの案山子の顔、前回は案山子の真下の席だったので見えなかったが、
あの時も「へのへのもへじ」の口が動いたの?
今日師匠の顔を見てびっくりした。
とても良く出来ていて楽しい。
わかばやしさんの台詞と表情にメリハリがあり、お染の行き詰まった人生と悔しさ、
身勝手な行動とその後の“選択しなかった人生”を思う表情の深さが素晴らしい。
ご都合主義の庶民感覚が笑いを呼ぶ落語のポイントを、テンポよく切り替えて魅せる。
冒頭のカツ丼女から心中場面、やがて記憶が戻るまで、鮮やかな切り替えが見事。
さひがしさんは受けに回ってその切り替えを受け止める。
息の合ったダンス(?)とついでに追剥がれでふんどし1本になるあたり、
ニートの金蔵の性格そのままと見せて、時々過激に仕掛けてくる。
表現として既に確立している落語を超えるためには、
ある程度の過激さが必要なのではないかと思う。
それにしても「ニートの金蔵」のお人よしキャラは素晴らしい。
物語コーディーネーター末原さんの力と、さひがしさんの覚悟がかみ合って
元ネタが気にならない、新しいストーリーが生まれた感じ。
客席で“顔を作る”のも“ヅラを忘れる”のも演出のうち、
と見せるのがまた良し(笑)
次回も楽しみにしています。
宮地真緒主演 「モーツアルトとマリー・アントワネット」
劇団東京イボンヌ
スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)
2015/12/08 (火) ~ 2015/12/10 (木)公演終了
満足度★★★★
よくわかるフランス革命
次第にクラシックが本格的になり、大変充実して来たのは良いが、
その分芝居の方が軽くなった印象を受けた。
マリー・アントワネットのキャラと悲劇性が弱く、肝心な
“モーツァルトの音楽に救われた”感が薄いのが残念。
また、マリー・アントワネットぐらいは結婚後衣装替えがあっても良かったのでは?
囚われの身になって初めて夫ルイ16世と心を通わせるシーンはとても良かった。
神様役の吉川拳生さんが登場すると舞台が引き締まる。
ネタバレBOX
開演前のミニ・コンサートで、客席には豊かな歌声が流れている。
ロビーの花の香りと共にクラシックコンサートの華やかさが伝わってくる時間。
電子機器の電源OFFを歌で促すなどの工夫も楽しい。
舞台は奥に向かって階段状に高くなり、一番高いところにオーケストラが控えている。
舞台手前上手側にピアノが置かれている。
神の子モーツァルト(石井康太)は自信家である。
「自分の音楽で人間世界を変えてやる」と父である神(吉川拳生)に宣言、下界へと下る。
彼の音楽は熱狂的に受け入れられるが、やがて貴族や大衆、同業者ら世間の
気まぐれな感情に翻弄され、次第に疲弊していく。
そんな彼が出会ってすぐに愛したのが、あのマリー・アントワネットであった。
叶わぬ恋ながら、モーツァルトは彼女の悲劇的な運命を見守ることになる…。
挿入されるクラシック音楽が素晴らしく、物語がおまけになりそうな迫力。
その中でモーツァルト役の石井さんは頑張っていたと思う。
メリハリがあり、笑いのタイミングも良い。
ピアノを弾くシーンなども、シンプルながら良く工夫されていた。
神役の吉川さんが素晴らしく、ラスト「過ちを繰り返す人間をそれでも許す」と語るところは
舞台が引き締まるような台詞だった。
ちょっともったいなかったのは、マリー・アントワネットの影が薄かったこと。
宮地真緒さんは素のままの髪型で衣装替えも無かった。
“作らない”設定はもちろんありだが、クラシックの方々のいで立ちと迫力に
負けないだけの“生まれながらの王女”感があれば、さらに悲劇性が高まったと思う。
清楚で華奢なだけでは“知らなかった”と泣き崩れる説得力が弱い。
ルイ16世(鈴木貫大)との最期の別れは、不器用な人間の哀しさ切なさが伝わったが、
マリー・アントワネットの“寂しい豪遊”がもう少し丁寧に描かれていたら、
さらに高まっただろう。
鈴木さんのルイ16世、最後の最期に彼の特技を生かす場面が出来た、
その誇らしさと哀れさが伝わって来てとても良かった。
クラシック音楽と演劇の融合は難しい。
“クラシックだけよりストーリーが豊かで楽しい”とか
“芝居の中に本格的な歌が入って違和感がない”とか
そんな風に双方のファンから支持されるようになったら良いと思う。
福島さん、お身体に気をつけてまた素晴らしい“融合”を見せてください。
『痕跡≪あとあと≫』◆◇終演。ご来場ありがとうございました!!!◇◆
KAKUTA
シアタートラム(東京都)
2015/12/05 (土) ~ 2015/12/14 (月)公演終了
満足度★★★★★
善意の罪
初演を観ていないのでこれが私にとって初めての「痕跡」。
皆ひたむきで、傷つきながら誰かを守ろうと必死になっている。
その姿が本当に真摯でそれだけに哀しい。
事件の証言者が丁寧に解説する構成、スピーディーな展開、
美しく的確な照明、そしてくっきりしたキャラで2時間20分はあっと言う間。
KAKUTA20周年記念に相応しい秀作で、隙の無い出演陣も素晴らしい。
ラストシーンの余韻が、観る者に長く痕を残す作品だと思う。
ネタバレBOX
冒頭、衝撃的な事の起こりを語るバーのマスター(若狭勝也)、その語り口が魅力的だ。
緊張感にあふれ緩急自在、私も一緒にその場に居合わせているような錯覚に捉われる。
この後10年間忘れられない人物の顔を、彼はこの台風の夜、2人目撃する。
ひとりは自殺しようとしていたところへ声をかけて、店でビールを飲ませた男(松村武)。
もう1人はその夜起こった、9歳の少年ひき逃げ事件の犯人と思われる男(佐賀野雅和)。
そして10年後、余命半年と宣告された少年の母親(斉藤とも子)が、
どうしても諦めきれずにこの町へ戻ってきた。
彼女の義妹(高山奈央子)、ドキュメンタリー作品の為カメラを回し続けるジャーナリストの男(成清正紀)、バーのマスターも巻き込んで、
10年前の真相に少しずつ迫って行く…。
誰もがあとあと後悔しながら生きている。
かわるがわる証言する登場人物たちはそろって「あとあと後悔した…」という
意味のことを口にする。
そして“人が存在していた跡を証明する”戸籍をめぐる物語でもある。
戸籍上は結婚していない夫婦や、戸籍を得るために偽装結婚する外国人、
戸籍を持たない人間の定まらない孤独…。
事件はそれぞれ当事者が自分の罪を認めるところから急速にほぐれていくが
肝心の母と息子が出会うのかどうかまで見せずに終わる。
だがその余韻に明るい兆しを私は感じた。
ああ、このあと母子は出会うのだと思った。
そうすることで、失敗に終わった多くの善意が報われるのだと。
初演の青山円形劇場を思わせる丸い舞台に川と橋のある町、クリーニング工場、
韓国料理屋、と変化する舞台装置が見事。
シンプルで整然とした場面転換も洗練されている。
斉藤とも子さんの儚げな母親が良かった。
圧巻は真実に近づきながら、「違う」と言い張られて引き下がるところ。
絶望と自己嫌悪でいたたまれない様がビシビシ伝わって来た。
その義理の妹を演じた高山奈央子さん、情に厚いが人の話を聴かないタイプで
思い込みの激しい強い女性が素晴らしく、捜索隊メンバーにぐっと厚みが出た。
韓国料理屋のホステス山田花子役の多田香織さん、直面する現実の厳しさと、
世間から隔絶されて育った青年と恋に落ちる初々しさとのアンバランスさが
とても良く出ていて切なくなった。
吉川竹夫を演じた松村武さん、不器用な生き方と内に秘めた優しさ、最後の決断をする
強さ、そして少年が追いかけてきたとき「嬉しかった」と激白するシーンが忘れられない。
助けてくれた人を親と信じて育った少年は「何だかその人のそばを離れちゃいけない
ような気がして」という根拠のない不安と隣り合わせに生きて来て20歳になった。
このどこか浮世離れした青年を好演した川隅美慎さん、ラストに明るい兆しを感じた
もう一つの理由は、この青年像が明るく清々しいからかもしれない。
しばらくは、美しいいくつものシーンを反芻する日々が続きそうな作品だった。
クリスマス解放戦線
渡辺源四郎商店
こまばアゴラ劇場(東京都)
2015/11/21 (土) ~ 2015/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★
青森のサンタ
笑っているうちに、何だか現政権下で起こりそうなエピソードにうすら寒くなる作品。
二転三転して最後にドカンとまたひっくり返す展開が、サスペンスフルで秀逸。
工藤良平さん、三上晴香さん、音喜多咲子さん、工藤由佳子さん、役者陣がほんと完璧。
何がって、台詞の咀嚼度、キャラの作りこみ、台詞の間、声のトーン等々が。
70分くらいという長さも実に心地よい。
ネタバレBOX
舞台中央階段の上にはクリスマスリースの飾られた白いドア。
ここは「クリスマス解放戦線」の拠点で、訪問者は合言葉を言わなければ入れない。
リーダーのシンちゃん(工藤良平)は先代リーダーのコズエ(夏井澪菜)を慕い、
過激な活動の後今は行方不明になっている彼女を、10年間学生のまま待っている。
近未来の日本では、「クリスマスは日本国民を堕落させる」として
祝うことを禁じられている。
「クリ戦」は、密かにその禁じられたクリスマスを祝う集団だ。
今年もささやかなイベントを計画し、ツリーやケーキを用意している。
ところが新メンバーとして参加した者の中に、警察側の人間やカルト教団の教祖が
紛れ込んでいてメンバーたちは大混乱に陥る。
実はその時、誰も知らない秘密の計画が進んでいた…。
少し前“クリスマスにはホテル・ディナー・ブランド物のプレゼント”という
バブル3点セットみたいなものがもてはやされた時代があった。
日本人の価値観が狂い堕落したのはあの“クリスマスなるイベント”のせいだ、
だから取り締まれ、という乱暴な論理が現政権と重なって面白い。
クリ戦メンバーキララ(音喜多咲子)の“毒吐きキャラ”も健在で楽しい。
彼女が実は大学1年ではなく、中学1年だったというのも見た目リアルに可笑しい。
音喜多咲子さんは台詞の“当意即妙感”が素晴らしく、これは天性のものだと思う。
もう1人紛れ込んでいたカルト教団「クリスマス帝国」のレイコ(三上晴佳)の
教祖ぶりも強烈な印象を残す。
自在な声の使い方、“イッちゃってる”風な目つきと妙な押しの強さ、で存在感抜群。
手下のサンタ(畑澤聖悟)に武器を配らせ、クリ戦メンバーを殺人テロ活動へと導く
ダークな教祖の凄みが素晴らしい。
実はすべてが国のカルト教団を潰すための計画だったとは、
そしてシンちゃんが法務大臣と取引していたとは…。
ラスト、帰って来たコズエのお腹が大きくなっていることに打ちのめされながらも
10年分のクリスマスプレゼントを次々渡すシンちゃんの姿にほろ苦い思いがこみ上げる。
日常と非日常、現実と悲現実を、薄い膜1枚で隣り合わせに描くことにかけては
なべげんは最高峰だと思っている。
毎回“演劇が今の日本の危うさを炙り出す最高に効果的な手法である”
ことを思い知らされる。
その意味で、「翔べ!原子力ロボむつ」や「海峡の7姉妹」、
「エレクトリックおばあちゃん」等の震えるような、こみ上げるような、
突き上げる感動は今回鳴りをひそめた感じ。
今回は対象が、直面する困難さではなく“時代の価値観”みたいなもの
だったからだろうか。
でも娘を連れ戻しに来た母親(工藤由佳子)が
「恋人はサンタクロース?!背の高いサンタクロースだぁ?!」と毒づくところ、
どうせすぐ別れるのに大枚はたいて盛り上がる人々に感心していた私としては
心から賛同いたしました(笑)
十七人の侍
企画演劇集団ボクラ団義
CBGKシブゲキ!!(東京都)
2015/11/20 (金) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
殺陣の醍醐味を満喫
初めてのボクラ団義、殺陣の華麗な振付けと鍛えられた役者さんの動き、
そしてサービス精神に、エンタメ集団としての素晴らしさを実感。
複雑なストーリーながらドラマチックなシーンの積み重ねが美しく映画のよう。
登場するキャラも魅力的で、工夫された衣装がよく合っている。
惜しいことに殺陣の音に台詞がかき消されることが多く、
またその台詞が謎解きの大事なポイントだったりするのでちょっと置いてきぼり感あり。
これで3時間近いのは少々辛い。
似たようなシーン・似たような台詞が繰り返され、役者さんも大変だっただろうと思う。
でも殺陣は素晴らしくカッコよくて、台詞と同じくらい感情がこもった動きに魅了される。
ネタバレBOX
奥に向かって登るように傾斜する舞台。
中央には洞窟のような穴が黒く口を開けていて、
1階2階の上手下手と合わせると出ハケ口は5か所もある。
繰り返される闘いのシーンも、この出入りが滑らかなので乱れた感じがしない。
舞台は砂漠、ここではもう何年も西と東が敵対して刀による闘いが繰り返されている。
そしてもうひとつ、侵攻軍という勢力が、西と東の両方を襲ってくる。
襲われるから闘う、闘わなければ死ぬだけだ。
しかし誰も闘いの理由を知らない。
そんなある日、ひとりの少女がこの地へやってくる。
手には「十七人の侍」と書かれた手紙と1本のナイフ。
彼女もまた、どうして自分がここにいるのか判らない。
判らないまま十七人の侍を求めて西と東を行き来するうち、両方の
“オアシスの番人”と過去の記憶“を探るようになる。
3人にはある共通の記憶があり、それはこの闘いの理由につながっていた…。
流れるような美しい動きと刀の閃きに合わせた正確な効果音で
躍動感あふれる殺陣が素晴らしい。
ジュウゾウ・キュウゾウ役の竹内尚文さんのクールな殺陣が印象に残る。
侍として恥ずべきことをした自分を許せない潔癖さを持つ男が魅力的。
感情を抑えた表情と切れの良い動きが、かえって秘めた思いを雄弁に語る。
西と東の長老はじめ、キャラの構築がくっきりしていて解り易いのも良かった。
役割分担に応じたキャラの“典型”が、安定感と人物相関図理解の手助けになる。
黒沢明の「七人の侍」と“四十七士の討ち入り”の名前をアレンジしたアイデアも面白い。
ちょっと残念だったのは、やはりゲーム世代向けだったこと。
この場合は現実のプレーヤーの意思がキャラに反映されてさらに複雑になった。
謎解きの手引きとなるストーリーテラーの声がアクションシーンと重なり
聞き取りにくいこともあった。
“新しすぎて発売中止になった”理由が“脳に直接作用するゲームで危険すぎる”から、
というような理由だったと思うが、映画「マトリックス」みたいな感じだろうか?
そのあたりの説明がもう少しあっても良かったような気がする。
もっとも、よくわからなかったのは私だけかもしれない。
なにぶんゲームの世界に慣れていないので…(^^;)
サービス精神あふれるアフターイベント(指名した役者さんを斬る)も楽しかった。
終了後のアフターパンフは大変親切で有難いサービス。
もっと若い女性ファンが多いだろうと予想していたのだが意外に中年男性ファンが多く
私の前後左右のおじさん達が「撮影タイム」に一生懸命写真を撮っていたのにも驚いた。
以前別の劇団に客演していた沖野晃司さんを見てボクラ団義を知ったが
アクションにも台詞にも力のある役者さんが多く、また別の顔も観てみたいと思った。
もっと美人だった
箱庭円舞曲
ザ・スズナリ(東京都)
2015/11/04 (水) ~ 2015/11/09 (月)公演終了
満足度★★★★★
選択
構成と台詞の妙、スパイスのように効く少々シュールなエピソードや濃い目のキャラも秀逸。
“聞いたことはあるが私は出会ったことがない”登場人物の名字がフルってる。
思いがけないことで日本中に知れ渡る名前もあるが、名前に翻弄される人生もある。
隙の無い役者陣が台詞の繊細さを的確に表現し、絶妙の間で客席の笑いを呼ぶ。
創り手の温かいまなざしも心地よく、長さを全く感じさせない舞台。
ネタバレBOX
舞台は3つのパートに分かれている。
2階下手側は大学のゼミ室。
上手側は自宅で自己啓発系美容教室を開いている、その教室。
そして1階は失踪した議員の留守宅の居間という設定になっている。
これは毒島未来(ぶすじまみき)というひとりの女性の半生記である。
その名字からずっと「ブスブス」と呼ばれた未来は、
婿を取ってやっぱり毒島のままである。
自宅でちょっと怪しい「内面から美しくなる」とうたったお教室を開いている。
やがて夫は議員になったが、議員なら誰もがやるような不正を突かれて失踪、
自宅に石が投げ込まれるなどして、未来は引っ越ししたりしている。
物語は3つの時代を行き来しながら未来の人生を浮き彫りにする…。
3つの場所でそれぞれの未来がその時々を精一杯生きているのが伝わってくる。
無責任な先輩乃木坂(安藤理樹)に振り回され、自分の存在価値を見失う
若き日の未来(白勢未生)が痛々しくも率直。
疑いながらも怪しい教室へ通い続ける生徒平陽役の辻沢綾香さんが素晴らしい。
中途半端でない振り切れた演技が、“地味にくすぶっている人生とその爆発”を
極めてリアルに、“切羽詰った感”満載で見せる。
実は潜入ルポライターである、もう一人の生徒美女木(川口雅子)との
次第にエスカレートするやり取りは本音と攻撃性が鮮やかで、台詞・演技とも秀逸。
生徒の疑問を巧みに丸め込もうとする未来(牛水里美)のしたたかさも大したもの。
現在の未来(ザンヨウコ)もまた追いつめられた状況にある。
“ほかの議員だってやってる”程度の不正がスキャンダルになって、
ネットで叩かれ、自宅に石を投げられている。
出入りする選挙管理副委員長資延(すけのべ)役の山崎カズユキさん、
政治の中で生きる人のうさん臭さ、日和見根性が
ちょっとした姿勢や視線からビシビシ伝わってくる。
信頼する人を失って孤立する未来が強く、たくましいのは
過去の様々な体験の積み重ねの結果だ。
愚かしくも真剣だった過去の出来事が、今の未来を支えている。
その愛おしさがしみじみと伝わってくるのがラスト、3人の未来が語り合うシーンだ。
下手をすると蛇足になりがちなこのシーンが、温かくまとまるのは
あの頃の愚かさを悔いたり反省したりするのではなく、肯定し受け入れているから。
この自己肯定と受容が、強靭なしなやかさとなって作品全体を貫いている。
かつて自分を傷つけたはずの人々を笑顔で許すザンヨウコさんの姿が、
それを象徴している。
彼女にとって無敵の世界
ライオン・パーマ
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2015/10/29 (木) ~ 2015/11/01 (日)公演終了
満足度★★★
盛りだくさん
常に表面を軽い笑いが渦巻いていてクスッとさせる。
だが底の方に考えさせる要素が仕込んであって
最後にそれをスプーンでひと口、ほろ苦い味で〆る感じ。
その構成はいいが、ちょっと解りにくいのがもったいない。
もっとストレートに親心と、娘の成長譚であっても良かったような気がする。
ネタバレBOX
まこと(柳瀬春日)は眠りにつく前のひととき、今日も父親(樺沢崇)のお話を聴く。
父の語る物語は、昔ばなしや名作をアレンジしたもので、どれも現実的だ。
だから登場人物が死んでしまうことも多い。
ついにまことは「自分が物語の中に入って主人公を助ける!」と言い出す。
「世界で一番私を愛してくれるパパの創った世界なら、私にとって無敵の世界のはず」
そう言ってまことは自らその物語の中へと入っていく。
果たしてそこは、本当に無敵な世界なのか…?
おバカな世界と思っていると、父親の含蓄ある台詞も出てきたりする。
このお父さん、地味ながらなかなか台詞に味わいがあってよかった。
ただせっかくの意図がエピソードに紛れて解りにくいのが残念。
「浦島太郎」「銀河鉄道の夜」「走れメロス」「不思議の国のアリス」と
音無家、 山田家の人々という、盛りだくさんな展開にテーマが埋もれがち。
もっとストレートに“もう一つの世界”の価値観に触れたまことが成長し、
戻って来て厳しい現実を受け入れる、という話でも十分面白いと思う。
その理由は、出てくるキャラがバラエティ豊かで楽しいから。
シャドウ(あや)や、アナザー(比嘉建子)など存在そのものが意味深なのも大好きだ。
車掌(石毛セブン)の滑舌よく切れの良いジャッジは最高だった。
アナザーとシャドウも台詞が聞き取りやすくて、台詞の面白さが伝わる。
中には台詞が流れてしまってせっかく面白いことを言っているのに
テレビのように字幕があればもっと笑いが取れるだろうな、
と思う方もいてちょっと残念。
また常に笑いがちりばめられてはいるが、どかんと笑ったところは少なかったかも。
そのあたりのメリハリがあれば、もっと魅力的な舞台になると思う。
無心
劇団 東京フェスティバル
小劇場B1(東京都)
2015/10/23 (金) ~ 2015/10/28 (水)公演終了
満足度★★★★★
柔軟
直球ストレートな問題提起と、それを他人事と思わせない設定が
きたむらさんの真骨頂。
矛盾との共存を余儀なくされている沖縄の実情がビシビシ伝わってくる。
そこに暮らす人々の柔らかで、他を許し受け入れる精神が美しい。
“暑苦しく愛すべき”登場人物が大変魅力的で、うまく行き過ぎなラストまで
惹きつけられた。
シリアスなテーマを扱いながら笑いのタイミングを決して外さないところも
素晴らしい。
当分沖縄弁のイントネーションが頭から離れないさあ。
ネタバレBOX
沖縄、基地移設反対運動の拠点「テント村」が舞台だ。
活動を続けるメンバーたちは、皆沖縄の現状に矛盾を感じながら、
それでも協力し合っている。
ところがその矛盾が具体的な形で彼らの身に降りかかる。
娘が米兵と交際していたり、妻の病気にお金が必要で用地買収に傾いたり、
国の事業を請け負う仕事をしている父親の言いなりだったり…。
そしてそこへ東京からひとりの男がやってくる。
彼は地元の議員の主張の矛盾を突き、新しい発想で
事態を打開しようと試みる…。
基地がすぐになくならないのは誰もが分かっている。
考え出したら怒りと情けなさでいてもたってもいられないような場所で
沖縄の人々は生きている。
矛盾を矛盾のまま受け入れ、だけど純粋なエネルギーは持ち続ける。
そんな南国らしいおおらかさと、敵対する人をも理解し思いやるやさしさが光る。
きたむらけんじさんの脚本は、真摯に現実と向き合う人を描く時、その人を甘やかさない。
辛い選択をさせ、情けない告白をさせ、大事な友人を失う覚悟をさせる。
観ている私たちはそこに歩み寄り、深く共感する。
そして一緒に解決方法を探すのだ(たとえ解決できなくても)。
ストーリーを動かす登場人物が二人、実に魅力的だった。
一人は公務員でありながら反対派に心を寄せ、
敢えて間に立って職務を全うしようとする男。
菊池均也さん演じるこの男は、複雑な心情と立場が今の沖縄を象徴するようで、
この立体的な人物造形が物語に奥行を与えている。
もう一人は、東京から来て新鮮な空気とアイデアを吹き込む男。
江端英久さん演じるこの男は、アフロヘアの見かけとは違って硬派な一面を見せる。
硬直した関係性に全く新しいアプローチをする外の風だ。
これら役者陣の熱演が、暑苦しいキャラにはまって大変楽しい舞台になった。
山口良一さんの“間”と終演後の“しゃべり”に、さすが鍛えられてるなあと思った。
東京フェスティバル、テッパンの良心で泣かせる数少ない劇団だ。