ライン(国境)の向こう【ご来場ありがとうございました!次回は秋!!】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「ライン(国境)の向こう【ご来場ありがとうございました!次回は秋!!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    クールな反戦スピリッツ
    戦争の影響などないはずのど田舎を舞台に、
    予想に反して次第に崩れていく一族の連帯感とその再生が描かれる。
    チョコレートケーキ単体での公演とは違うテイストが大変面白かった。
    どこへ行っても、誰が加わってもチョコの芝居を提供することは易しいかもしれない。
    ユニットによってこういうものも作れる古川さん、日澤さんの力を改めて感じさせる。
    熱い人情話とクールな反戦スピリッツの対比が素晴らしく、
    台詞による小さな笑いが外れなく光る。
    チョコの3人が舞台に立った時の、それぞれの思惑が交差する緊張感あふれる場面、
    そしてラストの、一瞬こちらまで騙されそうな展開に、劇団の真骨頂を観る思いがした。
    戸田恵子さん、高田聖子さんの骨太な演技が巧みで、存在感大。

    ネタバレBOX

    舞台には階段状の大きな山が二つ、
    10人の役者はその高低差を生かして位置を取る。
    1946年、戦争に負けた日本が北と南に分断され、「日本国」と「日本人民共和国」が誕生。
    それぞれがアメリカとソ連の勢力下に置かれているという設定である。
    その国境線が走る山奥の村に2つの家族が住んでいた。
    毎日国境を超えて互いの家を行き来し、協力して農作業に励んでいる。
    こののどかな国境警備に当たる兵士二人は、共に「戦争はごめんだ」という認識を持ち、
    村の人々の作業を手伝ったりして仲良く暮らしている。
    ところがある日、ついに北と南が戦争状態になる。
    そして北のエリート兵士だった息子が、脱走して実家へこっそり戻って来たことから
    2つの家族の間に微妙な溝が生じ、それは修復不可能なほどに大きくなっていく…。

    「ここには戦争なんて関係ない」と笑い飛ばしているのは
    あたかも紛争地のニュースを見ている平和ボケした現代日本そのもののよう。
    それが、戦争の影響を意識した途端、一転して疑心暗鬼に陥りパニックになる、
    という展開も日本にありがちでとてもリアル。

    戦争は「感情」から発生する。
    「論理」ではない、「分析」でもない、庶民の素朴な感情から始まるのだと感じた。
    「あいつら何をするかわかったもんじゃない」「信用なんかできるもんか」という
    根拠のない嫌悪感が膨らんで世論になり、大勢を占めるようになる。
    その最初の火種が燃え広がる様子が庶民の側から丁寧に描かれている。

    一方で戦争経験者である兵士が、ここでは抑止力となっている。
    軍の実情を知って脱走した息子(浅井伸治)と、南北両方の兵士である。
    この3人の場面がチョコレートケーキらしい張りつめた緊張感を見せて素晴らしかった。
    南の兵士(西尾友樹)が何度か北の兵士(岡本篤)に問いかける。
    「何を考えているんだ?」
    自分たちの存在が2つの家族の紛争を大きくし、不安を煽っていると感じた北の兵士は
    「俺たちそろそろ消えた方が良さそうだな」という意味のことを言って思案している。
    その結果が、“兵士の本分に立ちかえって民衆に銃を向ける”行為であり、
    2つの家族がわだかまりを一気に解消して一致団結する、という結末を呼ぶ。

    迷わず銃口に立ちふさがる母親(戸田恵子)に対峙する
    西尾友樹さんの一瞬ひるんだような演技が、複雑な構造を見せて秀逸。
    進んで悪役を買って出ながら、一抹の寂しさを見せる2人の兵士の表情が忘れられない。
    と、これは私の思い込み解釈。

    民衆の愚かしさ、その素朴な感情の恐ろしさが際立つのは、
    濃い目の人情噺が振り切れているから。
    対する兵士2人の、徹底した戦争嫌悪は静かに描かれ、声高ではない。
    チョコ3人組のシーンは舞台の空気を一変させる力を持っていて
    やはり息をのんでしまう。

    激高して怒鳴り合い、取っ組み合いの喧嘩をする男どもに比べて
    女はいつも強くしなやかだ。
    兵士が去り緊張がほぐれて、女二人が泣き笑いで労り合うラスト、
    思わずこちらも安堵の涙がこぼれてしまった。
    高田聖子さんと戸田恵子さんが素晴らしかった。

    “ゴリッとした”作品はまた次のお楽しみとして
    私としては“コリッとした”歯触りもまた、チョコの新しい一面として大変楽しかった。

    アフターイベントも楽しかった。
    素敵なクリスマスプレゼント、うらやましかったなあ。
    今年の〆の観劇がチョコレートケーキで幸せです(*^^*)





    0

    2015/12/27 11:32

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大