もっと美人だった 公演情報 箱庭円舞曲「もっと美人だった」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    選択
    構成と台詞の妙、スパイスのように効く少々シュールなエピソードや濃い目のキャラも秀逸。
    “聞いたことはあるが私は出会ったことがない”登場人物の名字がフルってる。
    思いがけないことで日本中に知れ渡る名前もあるが、名前に翻弄される人生もある。
    隙の無い役者陣が台詞の繊細さを的確に表現し、絶妙の間で客席の笑いを呼ぶ。
    創り手の温かいまなざしも心地よく、長さを全く感じさせない舞台。

    ネタバレBOX

    舞台は3つのパートに分かれている。
    2階下手側は大学のゼミ室。
    上手側は自宅で自己啓発系美容教室を開いている、その教室。
    そして1階は失踪した議員の留守宅の居間という設定になっている。
    これは毒島未来(ぶすじまみき)というひとりの女性の半生記である。
    その名字からずっと「ブスブス」と呼ばれた未来は、
    婿を取ってやっぱり毒島のままである。
    自宅でちょっと怪しい「内面から美しくなる」とうたったお教室を開いている。
    やがて夫は議員になったが、議員なら誰もがやるような不正を突かれて失踪、
    自宅に石が投げ込まれるなどして、未来は引っ越ししたりしている。
    物語は3つの時代を行き来しながら未来の人生を浮き彫りにする…。

    3つの場所でそれぞれの未来がその時々を精一杯生きているのが伝わってくる。
    無責任な先輩乃木坂(安藤理樹)に振り回され、自分の存在価値を見失う
    若き日の未来(白勢未生)が痛々しくも率直。

    疑いながらも怪しい教室へ通い続ける生徒平陽役の辻沢綾香さんが素晴らしい。
    中途半端でない振り切れた演技が、“地味にくすぶっている人生とその爆発”を
    極めてリアルに、“切羽詰った感”満載で見せる。
    実は潜入ルポライターである、もう一人の生徒美女木(川口雅子)との
    次第にエスカレートするやり取りは本音と攻撃性が鮮やかで、台詞・演技とも秀逸。
    生徒の疑問を巧みに丸め込もうとする未来(牛水里美)のしたたかさも大したもの。

    現在の未来(ザンヨウコ)もまた追いつめられた状況にある。
    “ほかの議員だってやってる”程度の不正がスキャンダルになって、
    ネットで叩かれ、自宅に石を投げられている。
    出入りする選挙管理副委員長資延(すけのべ)役の山崎カズユキさん、
    政治の中で生きる人のうさん臭さ、日和見根性が
    ちょっとした姿勢や視線からビシビシ伝わってくる。
    信頼する人を失って孤立する未来が強く、たくましいのは
    過去の様々な体験の積み重ねの結果だ。
    愚かしくも真剣だった過去の出来事が、今の未来を支えている。

    その愛おしさがしみじみと伝わってくるのがラスト、3人の未来が語り合うシーンだ。
    下手をすると蛇足になりがちなこのシーンが、温かくまとまるのは
    あの頃の愚かさを悔いたり反省したりするのではなく、肯定し受け入れているから。
    この自己肯定と受容が、強靭なしなやかさとなって作品全体を貫いている。
    かつて自分を傷つけたはずの人々を笑顔で許すザンヨウコさんの姿が、
    それを象徴している。


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    2015/11/07 01:50

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