マッチ売りの少女 公演情報 天幕旅団「マッチ売りの少女」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    夫婦
    番外興行として、初めて既成の台本を使った作品だという。
    これが大変面白かった。
    まず役者の台詞が強い。
    自分の論理に相手を従わせようとする強引さが要求される台詞が飛び交い、
    ファンタジーで時折見せる浮遊感や儚げなタッチが封印された感じ。
    これが社会や“善良な市民”の外面を引っぺがすのに効果絶大。
    既成の台本を使うと、アテ書きとは違った役者の別の面が立ち上がって興味深い。
    “まず形から入る”的な夫婦の会話が白々しく、そこに満足している
    小市民のうさん臭さがとても良く出ていたと思う。
    この夫婦、上手い組み合わせだわ。

    ネタバレBOX

    対面式の客席の間には少し高くなった舞台。
    いかにも家庭の居間らしいフローリングの床に黒くて四角いテーブルがどーん。
    テーブルの下にティーカップや食べ物の入ったびん、菓子皿などが
    きちんと置かれており、この几帳面さが天幕旅団らしくて好きだ。
    やがて渡辺実希さんが登場して語り始める。
    ─7歳で母親を亡くした少女は、大みそかの夜裸足で町を彷徨う…。
    語っている渡辺さんも裸足だ。

    場面は変わって初老の夫婦(佐々木豊・加藤晃子)の「夜のお茶」シーン。
    そこへ突然「市役所から来た」と女(渡辺実希)が訪れる。
    お茶とお菓子でもてなす夫婦。
    やがて彼女が「私はあなたの娘です」と言い出したから「夜のお茶」は大混乱。
    「自分の娘は幼い頃電車に轢かれて死んだのだ」といくら言っても聞く耳を持たず、
    おまけに「外に弟を待たせてある」と言って、弟(渡辺望)を家に入れる・・・。

    夫婦の楽し気な会話と笑い声がとってつけたようで、
    “善良な市民・無害な市民”のうさん臭さがぷんぷん。
    少年ぽさを消した加藤晃子さんのオバサンぶりが見事。
    佐々木さんは無理なく恰幅の良いオジサンになっていて、
    女に不意を突かれてオロオロする辺りも上手い。

    豹変する女と、あざだらけの身体を晒す弟の不気味さが秀逸。
    女も弟も、時代の必要悪に加担した父親を責め、
    ぼんやりとそれを見過ごした母親をも責めている。
    そのくせ自分を“善良だ”などと思いたがる夫婦を責めている。
    「あなたを責めているのではない」「あなたが悪いのではない」という言葉の
    何という説得力の無さ。
    「お父様・お母様・お姉様」という丁寧な言葉遣いが
    理想と現実のギャップを際立たせて虚しく響く。
    誰のせいでもないが、どうしてくれるんだという怒りが怨念のようにこみ上げて、
    女は行き場のない怒りを弟にぶつける。
    このシーンの手のつけられない暴力的な女には迫力があった。
    善良な市民とは、「何もしない役立たずのことだ」と思い知らされる夫婦。

    小物で“形から入る”夫婦の人生が描かれ、それを女が払い落として崩壊させるところ、
    「夜のお茶」にしてはボリュームあり過ぎのテーブルセッティング、
    動きとメリハリのある台詞のやり取りなど、演出の面白さを堪能した。
    役者さんの声の良さ、力強さが心地よかった。

    終わってみれば不条理劇というよりも、
    あの女はマッチ売りの少女の亡霊だったのか…?
    そう思わせるところがあって天幕旅団らしいと思った。
    こういう企画、またやってください。






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    2016/03/12 20:10

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