ルルドの森(平成28年版) 公演情報 バンタムクラスステージ「ルルドの森(平成28年版)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    こういうのが観たい
    2012年に観た舞台よりもだいぶ肉付けがされて解りやすくなった気がする。
    整然とした場面転換や、ブラインドの光と影で場所を示す的確な照明など
    無駄のない演出が美しい。
    人間の弱さと欲望が生み出す狂気の沙汰を第一級のエンタメにした舞台。
    バンタムクラスステージには、他劇団にないこの路線をキープして欲しいと
    切に願う。

    ネタバレBOX

    遺体の一部がきれいに持ち去られるという連続猟奇殺人事件が起こる。
    警部補の三島と黒船のコンビは、捜査に当たるうち
    かつての人気テレビドラマ「ルルドの森」のファンクラブに行き当たる。
    その主人公を演じた元女優、菱見玲子と付き人の勉、
    殺された女性のルームメイトなど謎の多い人々を追いつつ
    暗い森の中へと足を踏み入れた三島と黒船は、
    やがて自分たちが事件の核心に捉われていることに気付かないまま、
    翻弄されていく…。

    猟奇殺人の動機が1冊の本の記述から始まり、
    それが歴史的に裏打ちされた事実であることが
    犯人の行動に説得力を与え、単なる想像力を超えた恐怖を突き付ける。
    “変態の狂った好み”ではなく、誰もが抱く喪失への怖れや
    他者への憧憬が根底にあるという設定が実にドラマチックで、
    観客も一気に深い森の中へ引きずり込まれてしまう。
    犯罪者の思考回路に焦点を当てるキャラ設定が、この作品の特徴であり魅力。

    この強力な設定に役者陣が良く応えている。
    事件を捜査する側にもヒーローはいない。
    弱さにつけ込まれて自らも取り込まれていくのを見ているとハラハラする。
    また巧みに他者を操った結果、目的を果たしたにもかかわらず
    ラスト、うつろな犯人の視線を見ると“どうしても塞ぐことのできない穴”を
    見る思いがした。

    犯罪者に対する強い憎悪を持て余し職場で“厄介者”扱いされる三島役の福地教光さん、
    「あー、そうなっちゃうかぁ…」という展開でどんどんヒーローから遠ざかるし、
    (そこがまたいいのですが)
    三島を軌道修正するはずの黒船(西川康太郎)もちょっと隙を見せたら
    あんななっちゃうし。
    彼らの人間らしい弱さがまた、それを利用する犯人の強靭な思想をさらに際立たせる。
    ゲイのママ(沖田幸平)のキャラが良かったなあ。
    闇で銃を入手するような飲み屋のママという設定がクライムサスペンスらしくて好きだ。

    カーテンで仕切る場面でちょっと違和感を覚えた。
    白い透けるカーテンならまだしも、あの色柄はどうだろう。

    照明と場転は素晴らしく、銃声も完璧。
    ストーリーは解っているのに、黒船が撃たれる場面は全身でびくっとした。
    あの緊張感、複雑怪奇な犯人像、強制終了の銃声、
    これらバンタム鉄板のアイテムが最高。
    こんな舞台、私はほかに知らない。



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    2016/03/01 00:59

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