『痕跡≪あとあと≫』◆◇終演。ご来場ありがとうございました!!!◇◆ 公演情報 KAKUTA「『痕跡≪あとあと≫』◆◇終演。ご来場ありがとうございました!!!◇◆」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    善意の罪
    初演を観ていないのでこれが私にとって初めての「痕跡」。
    皆ひたむきで、傷つきながら誰かを守ろうと必死になっている。
    その姿が本当に真摯でそれだけに哀しい。
    事件の証言者が丁寧に解説する構成、スピーディーな展開、
    美しく的確な照明、そしてくっきりしたキャラで2時間20分はあっと言う間。
    KAKUTA20周年記念に相応しい秀作で、隙の無い出演陣も素晴らしい。
    ラストシーンの余韻が、観る者に長く痕を残す作品だと思う。

    ネタバレBOX

    冒頭、衝撃的な事の起こりを語るバーのマスター(若狭勝也)、その語り口が魅力的だ。
    緊張感にあふれ緩急自在、私も一緒にその場に居合わせているような錯覚に捉われる。
    この後10年間忘れられない人物の顔を、彼はこの台風の夜、2人目撃する。
    ひとりは自殺しようとしていたところへ声をかけて、店でビールを飲ませた男(松村武)。
    もう1人はその夜起こった、9歳の少年ひき逃げ事件の犯人と思われる男(佐賀野雅和)。
    そして10年後、余命半年と宣告された少年の母親(斉藤とも子)が、
    どうしても諦めきれずにこの町へ戻ってきた。
    彼女の義妹(高山奈央子)、ドキュメンタリー作品の為カメラを回し続けるジャーナリストの男(成清正紀)、バーのマスターも巻き込んで、
    10年前の真相に少しずつ迫って行く…。

    誰もがあとあと後悔しながら生きている。
    かわるがわる証言する登場人物たちはそろって「あとあと後悔した…」という
    意味のことを口にする。
    そして“人が存在していた跡を証明する”戸籍をめぐる物語でもある。
    戸籍上は結婚していない夫婦や、戸籍を得るために偽装結婚する外国人、
    戸籍を持たない人間の定まらない孤独…。

    事件はそれぞれ当事者が自分の罪を認めるところから急速にほぐれていくが
    肝心の母と息子が出会うのかどうかまで見せずに終わる。
    だがその余韻に明るい兆しを私は感じた。
    ああ、このあと母子は出会うのだと思った。
    そうすることで、失敗に終わった多くの善意が報われるのだと。

    初演の青山円形劇場を思わせる丸い舞台に川と橋のある町、クリーニング工場、
    韓国料理屋、と変化する舞台装置が見事。
    シンプルで整然とした場面転換も洗練されている。

    斉藤とも子さんの儚げな母親が良かった。
    圧巻は真実に近づきながら、「違う」と言い張られて引き下がるところ。
    絶望と自己嫌悪でいたたまれない様がビシビシ伝わって来た。

    その義理の妹を演じた高山奈央子さん、情に厚いが人の話を聴かないタイプで
    思い込みの激しい強い女性が素晴らしく、捜索隊メンバーにぐっと厚みが出た。

    韓国料理屋のホステス山田花子役の多田香織さん、直面する現実の厳しさと、
    世間から隔絶されて育った青年と恋に落ちる初々しさとのアンバランスさが
    とても良く出ていて切なくなった。

    吉川竹夫を演じた松村武さん、不器用な生き方と内に秘めた優しさ、最後の決断をする
    強さ、そして少年が追いかけてきたとき「嬉しかった」と激白するシーンが忘れられない。

    助けてくれた人を親と信じて育った少年は「何だかその人のそばを離れちゃいけない
    ような気がして」という根拠のない不安と隣り合わせに生きて来て20歳になった。
    このどこか浮世離れした青年を好演した川隅美慎さん、ラストに明るい兆しを感じた
    もう一つの理由は、この青年像が明るく清々しいからかもしれない。

    しばらくは、美しいいくつものシーンを反芻する日々が続きそうな作品だった。



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    2015/12/06 21:29

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