うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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「ヴルルの島 」

「ヴルルの島 」

おぼんろ

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

ロボットに笑いロボットに泣く
大変完成度の高い作品。ビジュアルと音楽の美しさ、陰影のあるキャラ、
ドラマチックなストーリー展開と、全てがそろった素晴らしいエンターテイメント。
ポンコツロボット「アゲタガリ」のキャラはとしもりさんの新たな当たり役だと思う。
無表情と少ない台詞でボロ泣きさせる、“ズルい”キャラだ。
別サイドからもう一度観たいと思わせる空間の使い方も秀逸。

ネタバレBOX

中央には小高いスペース、そこから四方に伸びる通路、
通路の先にもまた高さのあるアクティングスペースが設けられている。
いつもより少し広めのスペースで客席もゆったりしている。
役者が駆け抜ける風を感じながらの観劇が心地よい。

美しい世界にゴミは相応しくないと、人々はゴミ捨て場を探し
見つけた場所がヴルルの島だった。
原住民を殺戮して島を征服、そこにあらゆるゴミを船で運んで棄てるようになった。
その船に、追われる盗人ホシガリ(末原拓馬)が逃げ込む。
船はそのままヴルルの島へ到着、ホシガリはそこで奇妙な仲間たちと出会うことになる。
しかし彼らもまた哀しい歴史を背負い、復讐の炎は消えていなかった。
彼らの本心は、そしてホシガリの意外な出自が明らかになる…。

現実の世界を映すような“美しい世界とゴミの島”という設定がまず説得力ありまくり。
見たくない物は見えなくすればいい、欲しい物は奪ってやる、という現代人のエゴと
力で制圧され、幸せを奪われる弱者の心が見事なコントラストを見せる。
ホシガリの、奪っても奪っても「これは俺の欲しい物じゃない」という虚しさがあり、
生き残った原住民ジャジャの、復讐に燃えながらも
島の外の世界を見たいという素朴な欲求があって
みな矛盾と葛藤の中で生きていることをうかがわせる。

島の怪物“壊れかけの軍用ロボット”のキャラが素晴らしい。
藤井としもりさん演じるこのロボットは、「コレアゲル」とゴミのようなものをあげたがる。
スターウォーズに出てくるロボットみたいだが、寡黙で大事なことしか言わない。
素のとしもりさんを想像させて、どこか愛らしく、不器用な鼻歌は絶品。
彼の最期が、ターミネーターのシュワちゃんばりに自己犠牲を厭わず、
淡々と島に残る選択をするところにボロ泣きさせられた。
機械であるはずのアゲタガリが、完全にヒトと化している。
あれでラスト、もう一度あの鼻歌が流れたりしたら
泣いちゃって立ち上がれなかったと思う。
無表情なロボットのブレないキャラが、実はこの物語の中心だった気がする。

さひがしジュンペイさん演じる、元はヴルルの島を攻略した軍人で、
今はゴミを運ぶ船の船長が渋くて疲労感あり、でとても良かった。
初めて大切なものを失う恐怖に駆られるところ、ダークな顔でありながら
実はピュアな心を隠しているというキャラがぴったりでとても良かった。
メンバー5人が並んだ写真のビジュアルが素敵で、
この人の今後の役どころに期待が高まる。

わかばやしめぐみさんは、精霊(?)に憑りつかれる女と、憑りつく側の精霊の二役、
メリハリある台詞で演じ分けが見事。
全身真っ白な衣装も美しく、この点は予算が増えて楽しくなったなあ。
「トナカイ」と「仲居」には爆笑したが、こういうところにもめぐみさんのすごさが現れる。

高橋倫平さん演じる原住民のジャジャ、今回もまた普通の話し方が出来ない役で(笑)
大変だったとは思うけれど、衣装も可愛くて大好き。
相変わらず身体能力の高さをちらりと見せて、謎めいた存在の効果絶大。
復讐を貫くことが出来ない代わりに、仲間を得て新しい世界へ踏み出す、
でもその前にストレートに号泣するジャジャには感情移入せずにいられない。

末原拓馬さん演じる盗人「ホシガリ」は、稼業のわりに育ちの良さが出ていて
素の拓馬さんを彷彿とさせるキャラが面白い。
今回の作品には、身勝手な現代人の価値観に対する痛烈な批判と同時に
奪う側と奪われる側、双方の矛盾と葛藤が描かれている。
ファンタジーに人間の本質を潜ませる、この素晴らしいスタイルを、
これからもあっと驚く設定で見せて欲しいし、魅せてくれるものと期待している。

4人が島を脱出して無事帰れるといいなあ。
そして「アゲタガリ」がいつかどこかに流れ着いて、ガチャリと動き出さないかなあ、
とずっと思っている。




酔いどれシューベルト

酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

ムーブ町屋・ムーブホール(東京都)

2016/11/15 (火) ~ 2016/11/18 (金)公演終了

満足度★★★★

悪魔の名曲
曲作りに悩むシューベルトが悪魔と取引して、寿命と引き換えに
美しい曲を作ってもらう、という設定が良い。
芝居と歌のバランスもよく、エンタメとして大変楽しめた。
前半のぎこちなさ、特にコメディタッチの部分がやや無理くりな感じでもったいない。
悪魔が登場してからは、その台詞とキャラの魅力でグッと舞台が締まって面白くなった。

ネタバレBOX

舞台上段は小ぢんまりしたオーケストラとピアノ。
下段は町の酒場が設えてある。
思うように曲が作れないシューベルトは、1曲でも出版社が買ってくれたら
幼馴染にプロポーズしようと夢見ているが、思うようにいかず飲んだくれている。
そこへ悪魔がやって来て「寿命と引き換えに美しい曲を作ってやる」と囁く。
1曲に寿命1か月を差し出す、という条件で、彼は600曲の歌曲を始め
多くの曲を世に送り出し、成功を収める。
ところが幼馴染は、金のために好きでもない男のところへ嫁ぎ、
シューベルトは彼女を恨んで生きることを決意する。
やがてシューベルトの寿命があと1か月となったとき
彼の望みが叶えられて、幼馴染と再会する…。

シューベルトの幼馴染役の方、のどを痛めたか風邪か、苦しそうな声だったのが残念。
でも静謐なエンディングはとても良かったと思う。

前半が固く、台詞の応酬にぎこちなさが見られたのが、
せっかくのコメディが客席を巻き込めなかった理由だろうか。
役者陣は皆熱演なのに惜しい感じだった。
それがガラッと変わったのが、悪魔の登場シーン。
悪魔の台詞回しにキャラが乗って大変面白く、一気に惹き込まれた。
悪魔が曲を作る辺りから、挿入される歌とエピソードがリンクして舞台が濃密になった。
私は歌に関して素人だから専門的な事は判らないが、魔王の歌には豊かな表現力と
“悪の道の艶”があって、ドラマチックな展開に相応しい華を感じた。

“悪魔と取引した”と告白するシューベルトに、幼馴染が告げる台詞に説得力があった。
「悪魔が作ったのではない、悪魔も天使もあなたの心の中にいる」
その言葉に、音楽家としてのシューベルトはどれほど救われたことだろう。
“作曲家として認められたいがために、作曲家としての魂を売った”ことに
死ぬほど苦しんだに違いない彼が、最期にそれを聞いて安堵の眠りにつくシーン、
思わず涙がこぼれるラストだった。

私は初演を観ていないが、ストーリーが音楽家の本質を突いていて
とても深く、面白かった。
主人公のキャラ設定がもう少し繊細だったら、
時折大声を出すだけでなく、台詞で表現されていたら、
いしだ壱成さんの個性がさらに際立ったように思う。




月が大きく見えた日

月が大きく見えた日

The Stone Age ブライアント

サンモールスタジオ(東京都)

2016/11/08 (火) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

”逃げたい”本音
“逃げたい”人間の本音を鋭く突いて、観ている側にも緊張感が伝わってくる。
リアルな台詞の応酬に、同時進行で一緒に追いつめられて行く感じ。
これまでとちょっと違った役どころの常連役者陣も新鮮でとても良かった。
澤原剛生さんの“これって素なの?”と思うほどの挙動不審ぶりが自然で素晴らしい。
痛々しいほど純粋な青年の存在が、作品の中で問題提起を体現している。
同時に、シリアスな中に巧みに笑いを差し込んでくる間の良さも秀逸。

ネタバレBOX

舞台は古い団地の一室、正面にベランダと手すりが見える。
その向こうに空が広がっている。
中学教師の稲葉は、かつての自分と同じ天文少年の教え子から慕われていた。
ところがその教え子が飛び降り自殺してしまう、それも稲葉の部屋から…。
自分と同じ教師だった母が亡くなり、稲葉は母親の住んでいた団地に
逃げるように引っ越してくる。
亡くなった母の教え子や、自殺した少年の母親、付き合っている同僚の教師など
様々な人々が訪れるうち、次第に真実が明らかになってくる…。

長年貼ってあった紙の跡が残る壁など、団地の一室がリアルに再現された舞台。
特に舞台正面に広がるベランダと手すり、その向こうに広がる空が強い印象を残す。
照明によって空の色が変わり、時間の経過が見える。

希望する天文学部のある学校へ進学するために、この中学に入った少年は
いじめの事実を母親に知らせてくれるなと教師に口止めをする。
相談された教師も、目的を持った彼ならいじめに屈することなく頑張れると期待した。
効果的な助言もできない自分、その自分と天文学の話をすることがすべての少年、
稲葉がそれらに向き合うことが重くて怖くて逃げていた結果、最悪の結末を迎えたのだ。

稲葉役の末廣和也さん、「俺のしたことはそんなに悪い事ですか?」という
この期に及んでまだそんなこと言ってる教師像が超リアル。

亡き母の教え子でやはり飛び降り自殺を図ったという鰯駿介
(イワシとう名字がすごい!)を演じた澤原剛生さん、
その言葉にならない不安と緊張を見事に表現している。
彼の生き方そのもののような、挙動不審と情緒不安定ぶりから
怪しさを超えたピュアな心がビシビシ伝わってきて切なさでいっぱいになる。

唯一信頼し相談していた教師が約束の日に留守をしたために、
息子は絶望して自殺したのだと、教師を責める母親の狂気が本当に怖かった。
演じる仁瓶あすかさんの“あたしも人のせいにしたい”という台詞に実感があって
稲葉が「殺される」と感じるのがよくわかるような、
緊張感と憎悪の表現が素晴らしい。

稲葉の恋人である同僚教師役の徳永梓さん、稲葉よりも責任感が強く、
自責の念から教師を辞める潔癖さがよく表れていた。
可憐な容姿もとても素敵。

彼らの間に入る学校の教頭先生(でしたっけ?)を演じたアフリカン寺越さん、
いつもの熱血漢とは違って、上手く責任を回避して自分の立場を全うする、
世渡り上手な先生が上手い。
メリハリのある台詞のうち、力の抜けた台詞に要領の良さが出ていて良かった。

解決策の見出せない問題に、敢えて向き合おうとする作者に拍手。
天文学という浮世離れした趣味といい、ミステリアスなスーパームーンといい
実に効果的なアイテムだった。









パール食堂のマリア

パール食堂のマリア

青☆組

吉祥寺シアター(東京都)

2016/11/01 (火) ~ 2016/11/07 (月)公演終了

満足度★★★★★

孤独だがひとりぽっちではない
会場に足を踏み入れた途端目に入る美しい町。
階段による高さと奥行きのおかげで、群像劇に相応しいスペースが
いくつも用意されている。
皆死んだ者たちを想いながら生きている。
その苦悩と切なさが、他者への優しさにつながっていく。
緊張感と癒しの相乗作用で、どうしようもなく涙があふれた。


ネタバレBOX

昭和47年の横浜を舞台に、戦後28年経ってもその傷跡を引きずりながら
ささやかに生きる人々を描く群像劇。
野良猫の“ナナシ”(大西玲子)が時折狂言回し的役割を演じる。

パール食堂を切り盛りする父と長女、教師の次女、店で働く若いコック。
その向かいにはゲイの店主が営むバーがある。
教師の次女のクラスには、彼女を慕う少年、その母は美容院の経営が苦しくて
パール食堂のツケがたまっている。
食堂に出入りするストリップ小屋の経営者は、浮気を繰り返しては
看板踊り子をブチ切れさせている。
そして夕暮れに現れる、街娼でありながら「女王陛下」とも呼ばれる不思議な女。
丘の上にはたくさんの白い十字架があって、アメリカ兵とのあいのこが眠っている…。

誰もがうまくいかない人生を、それでも精一杯生きて、同時に誰かを守ろうとしている。
オカマバーの店主クレモンティーヌ(塚越健一)が、
死んだ野良猫の名前をいくつも挙げるが
ひょっとしてあれは丘に眠るあいのこの名前ではなかったか。
たぶん名前も与えられずに葬られただろうからそんなはずはないのに、
彼の名前を呼ぶ声には、喪った者への痛切な思いがこもっていた。
クレモンティーヌの示唆に富んだ言葉は少年を成長させ、観る者を癒す。

渋谷はるかさんが、街娼のほかいくつかの母親役を演じている。
どの母親も、子どもを守ろうとして守り切れなかった悲哀に満ちている。
街を彷徨う街娼は、全ての母親の悔いを引きずりながら、しずしずと歩く。

若いコックが、年上の長女と一緒にこの店を継ぎたいと決意を告げるところ、
クレモンティーヌが、故郷の母親と一緒に作ったみかんを送ってくるところ、
そして病癒えた看板踊り子が、新入りの少女と一緒に
これからは中華そば屋でもやろうかと言うところ、
それぞれのここに至るまでを知れば、よかったなあと思うと同時に
涙があふれてどうしようもない。
みんな孤独を抱えているが、誰もがひとりぽっちでなくて良かったと
心からほっとした。
その中で、街娼だけが気掛かりでならないけれど…。

どの町にも、どの家にも、きっとマリアはいる。
涙を拭いて笑顔を見せて、誰かのためにご飯を作り、お茶を淹れて、
送り出し迎え入れる。
「枯れた芙蓉の花もいつかまた花を咲かせる」ように、くり返しくり返し…。

劇団化して最初の作品だそうだが、その後の青☆組の基礎となるものが
全て注ぎ込まれたような作品だと思った。
登場人物の健気さや強さ、儚さとしたたかさ等人間の普遍的な営みが丁寧に描かれ
同時にひっそりと消えて行ったものへの哀惜の念がにじむ。
この湿度のある空気は、青☆組ならではの心地よさであり、私が好きな理由だ。
劇団化5周年に再演してくださったことに感謝したい。





治天ノ君【次回公演は来年5月!】

治天ノ君【次回公演は来年5月!】

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2016/10/27 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

孤独な職業
2013年の初演で衝撃を受けたあの作品にまた会えることが嬉しい。
明治・大正・昭和の“時代を丸ごと担う天皇という職業”の過酷さと孤独が
厳選された台詞と、側近たちの的確なキャラ造形によって浮き彫りになる。
お辞儀の雄弁さをこれほど感じさせる作品を私はほかに知らない。
原敬、四竈、有栖川宮のお辞儀には深い慟哭があり、どうしても涙が止まらない。

ネタバレBOX

舞台空間は大きくなったが、初演とセットはほぼ同じ。
舞台上手奥から下手・手前に斜めに向いた玉座と、
玉座から真っ直ぐ伸びる赤いじゅうたん。
ここで天皇家親子の確執、時代を読んで蠢く側近たち、
そして大正天皇の人柄を愛し、彼のために尽くそうとする人々が交差する。

物語の中心に立ち、すべてを見渡して語るのは皇后節子(松本紀保)。
明治天皇の「天皇は神である、人情を捨てよ」というスタンスと
その強力なプレッシャーの中で新しい天皇像を模索する大正天皇、
“明治の再来”を推進するため、父大正天皇を追い落としにかかる昭和天皇、
という3代の天皇がくっきりと描かれる。
彼らを取り巻く側近たちの思いもリアルで、原敬(青木シシャモ)や四竈(岡本篤)の
大正天皇に対する敬愛と無念さに、泣けてならない。

明治天皇役の谷仲恵補さん、感情を排した硬質な台詞が続いたあと
後半で微妙な親心を滲ませるところが際立っていた。
西尾友樹さんの大正天皇は、国民と共にありたいという真摯な姿勢と生来の明るさが
病を得て尚伝わってくる繊細な演技が素晴らしい。
冒頭台詞を言いながら動き回り過ぎる印象もあったが次第に落ち着いた。
初演の時よりも障害を負ってからの身体表現や
言語障害の表現は少若干抑えられたか。
昭和天皇役の浅井伸治さん、側近の提言にたじろぎながらも
父大正天皇を追い落として天皇の座に就く辺りから
あの”ヒロヒト”に見えて来るから凄い。

松本紀保さん、立ち姿と所作の美しさは言うまでもないが
庶民とは別の次元の美しい台詞を違和感なく発する気品はこの方ならでは。
語りと皇后役の切り替えも無理なく自然で、作品の要として素晴らしい。
今回皇后の語尾の置き方(テンポと音程)がちょっと気になったけれど
あの時代の皇室独特の言い回しなのかもしれない。

キャスティングのはまり方が素晴らしいのでこれ以外の配役が考えられない。
フィクションであると判っていながら、新しい歴史認識を提示するようなリアルな感触。
ひとりの歴史上の人物を、これほど生き生きと立ち上がらせる
演劇の力と可能性を改めて再確認させてくれる作品だと思う。
それにしても、日本にひとりしかいない、誰とも共有できない責務である
天皇とは、何と孤独な職業なのだろう。
再演に心より感謝します。

ここはカナダじゃない

ここはカナダじゃない

オイスターズ

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2016/10/22 (土) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★

気の毒可笑しい
ナンセンスコメディの面白さは、いかに登場人物がリアルに見えるかだと思う。
どんなにシュールな設定でも、彼の心情に共感した瞬間事態は現実となる。
田中くんの庶民的で素朴な感情が、ほろ苦く“気の毒可笑しい”。
舞台が広くて拡散した印象が残念、下北辺りの極小空間の方が似合う感じ。

ネタバレBOX

広い舞台は照明器具以外ほぼセット無し状態。
カナダの空港に降り立った田中くんと板谷くんの
高揚した気分と初めてのカナダへの期待…。
ところが迎えに来たガイドもタクシー運転手も日本人、
街の景色も広告も日本にそっくり、と“カナダ感”はゼロ。
「羽田から14時間ずっと窓の外を見ていた」田中くんは
ここが日本で、しかも出発した名古屋だとはどうしても認めることが出来ない。
ここはカナダだと自分に言い聞かせては、周囲のクールな分析に打ちひしがれる。
その繰り返しの中で出会うキャラが結構濃い目で面白い。

ここがカナダではないことが早い段階でネタバレ、観客は知りつつ観ている。
もしこれが、少しでも(カナダかな、名古屋かな?)という
観客にも“揺れる”時間があったらもっと面白かったかも、と思った。
名古屋のカナダっぽさ、カナダの名古屋っぽさ(そんなのあるかどうか知らないが)、
最近まで大橋巨泉さんもいたことだし、カナダと名古屋の意外な共通点を
無理くり並べて見せてくれたら面白いかなと、素人は思ったわけです。
狂犬百景(2016)

狂犬百景(2016)

MU

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2016/10/01 (土) ~ 2016/10/10 (月)公演終了

満足度★★★★

”狂人百景”
謎の狂犬病が蔓延して、犬にかまれた人間がゾンビ化するという事態が発生する。
ここで描かれるのは人を食う犬ではない。
“食われるかもしれない”という状況下で、次第に感情の振れ幅が大きくなり
狂気に至る人間の思考回路だ。
1~4話のうち、3話の緊張感が素晴らしかった。

ネタバレBOX

ウッディなブラインドが縦横に張り巡らされた背景、
その手前に椅子やラックを置き、薄明りの中で場転が整然と行われる。
客入れのBGMも静かで私は好きだ。
犬の吠え声などの効果音も“びっくりさせてやろう”ではなくて距離感が自然。

第一話・・・「お前のそういうのが嫌で別れたんだよ!」という元夫の言葉が最高!
持論を展開する元妻の押しつけがましさが上手い。
「大義名分を掲げて信じる道を説きまくる」めんどーくさい女っているいる。
犬にかまれて異常な状態になっていくにしてはのんびりした雰囲気。

第二話・・・“噛まれてゾンビになるかもしれない恐怖”より
“どうせ死ぬならその前にやっておきたいことがある”という人間の欲望が怖い。

第三話・・・4つの中で最も登場人物のキャラが濃く、シリアスに出ていて出色。
社会の不安を逆手にとり、同時進行でリアルな描写の漫画を描く漫画家が
作品のために「正当防衛」と称して犬狩りをし、
撮った画像から絵を起こす、という狂気。
彼を取り巻くボクサー崩れとファン上がりのアシスタント女性、編集者の4人が
血まみれで狂喜する様に戦慄が走る。
漫画家とボクサー崩れとの会話、ワケアリそうなライターとカメラマンの隠し撮り等
緊張感が途切れず、ぐいぐい惹き込まれた。
漫画家役の山崎カズユキさん、過去舞台を2度ほど拝見したが
今回は名前を見るまで分からなかった。
ノーマルな発言の裏に強烈な優越感や差別意識を持ち、
それに一点の疑問も抱かない、まさに“普通のようで狂人”が上手い。
カメラマン役の古屋敷悠さん、やはりこの人が出てくると台詞に緊張感が走る。
何かやりそう感満載。

第四話・・・3話までの“その後”が描かれる。
「動物愛護センター」と言いつつ実は“殺処分センター”として機能している現実に
打ちのめされながら働く人々。
そこにこれまでの登場人物がちらほら出入りしている。
3つのエピソードのまとめ方が面白かった。
犬をもらいに来るNPO法人さんのキャラが秀逸。
ポップンなら「犬の役」かもしれないが、今回は人間。
第二話とは打って変わってどーしよーもない、軽い男が素晴らしい。

ハセガワアユムさんは、グロい場面を想像させるのが巧みなので
さらりと言わせているが、一番震撼させたのはあの男だった、
というオチもまさに「狂人百景」だった。


『ストラック・アウト・ライフ』ご来場ありがとうございました!

『ストラック・アウト・ライフ』ご来場ありがとうございました!

ド・M(マリーシア)野郎の宴

Geki地下Liberty(東京都)

2016/08/25 (木) ~ 2016/08/28 (日)公演終了

満足度★★★★

人生3回裏
かつての高校球児たちが20年ぶりに集まる。
ただ懐かしいだけではない、屈託を抱えたまま時計を巻き戻す6人。
所々に“人生の価値観”が散りばめられていて、軽い話に終わらないのが良い。
オーソドックスな流れの中で思わずこちらもうるうるしてしまうシーンがある反面、
若干もどかしい場面や、台詞の噛みが見られたのは残念。
メンバーのチームワークの良さがそのまま表れていて
いくつになっても「男子の部活」っていいなあ、と思わせる。


ネタバレBOX

舞台は野球部の部室、正面にロッカー、手前にはベンチが4脚。
ヘタな字で書かれた手紙を受け取った、かつての高校球児6人が久々に集合する。
地元の少年野球チームの監督をしている明司(大浦力)、
そこでコーチをしている太陽丸(土屋洋樹)、
“ブ”のつく国で幸せに暮らしていた泰次(紀平悠樹)、
高校時代は補欠だったが、マイナーリーグで契約した京一(森優太)、
そしてかつてはピッチャーとキャッチャーとしてコンビを組んだのに
あることがきっかけで疎遠になっている勘介(森山匡)と俊夫(狩野健太郎)。
思い出をたぐり、懐かしさに浸りつつ6人は考え続ける。
一体この手紙を書いたのは誰なのか、何故今皆を集めたのか…。

適度な謎解きをはさみながら、最後は素直な心情にほろっとさせる、
そのストーリーはとても魅力的で登場人物ひとり一人に共感できるものがある。
泰次の鷹揚なキャラはとても素敵だし、幸せの定義を考えさせてくれる。
勘介と俊夫が素直に語るところでは、想定の範囲内にもかかわらず涙が出た。
思いがけない京一の告白とその後の展開は、この劇団らしい温かさと
“やっちゃえニッサン”的な前向き思考に満ちている。
男子の不器用な思考回路とダメっぷりが随所にあって、そこがまた好きなところ。

残念だったのは若干流れが滞る場面があったこと。
例えば“白い粉”は早々に客にネタバラシされていたにもかかわらず
かなりの時間を費やして(ひっぱたいたのは大変よかったけれど)
泰次の口から改めて言わせている。
すでに判っている観客からすると、力んだ台詞に期待値も笑いも半減してしまう。
種明かしは遅い方が良かったのではないか、もったいないと感じた。
もしくはもっとスリムに、ひっぱたいて短時間で種明かしとか。

また野球を知っている人にはすんなり入るかもしれないが、
疎い人には、勘介・俊夫の肝心な“屈託の理由”が解りづらい。
声を張らないリアルな会話はとても好きだが、効果的に届けるには
もう少し工夫が必要ではないかと思った。
もっと届けばもっと笑いが起こるはず、と思う台詞がいくつかあって
マジもったいない。

相変わらず可愛い受付のお嬢さんといい、案内の青年といい
制作さんが感じよくて、劇場も好きだし、本当に楽しい。
私の好きなフラワーカンパニーズの「元少年の歌」を思い出した(^^♪


ブラック祭2016

ブラック祭2016

メガバックスコレクション

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2016/08/11 (木) ~ 2016/08/21 (日)公演終了

満足度★★★★

全員邪鬼
作品冒頭に緊張感が感じられず、あれ?と思ったが
その後の“人間の本性”が露呈していく様はさすが。
パターンといい、キャラの設定といい、そのバリエーションの豊かさが
面白かった。
終盤BGMに台詞がかき消されて肝心なところが聞こえなかったのが残念。

ネタバレBOX

舞台上手に簡素なベッド、下手にソファとテーブル、椅子が2~3脚。
正面には重厚な扉。

明転するとすでに4人がそこにいる。
何者かに拉致されて来た日本人4人、誰もその理由を知らず敵の正体も不明。
上から目線の嫌味なビジネスマン藤崎(井上正樹)、
藤崎に嫌悪感むき出しで突っかかっていく坂本(福永樹)、
状況を把握しようと情報収集に懸命な研修医松田(さかもとあかね)、
皆の間に入って必死に穏やかに収めようとする荒井(石澤友規)、
そしてもう1人、全てを知り尽くしているかのように落ち着き払った女
まりか(青地萌)が入ってくる。

「みんなでここを出よう」と呼びかけるのもつかの間
ドアの隙間から落とされる手紙に翻弄され
彼らは生き延びるために、誰かを殺さなければならなくなる…。

パニック物のキモは「極限における人間の本性」だ。
その本性が露呈していくプロセスをさらに面白くするのがキャラの設定だが、
ひねくれ者が意外に純情だったり、正義派がもろくも崩れたりと
そのあたりの変化を劇的に見せるのは相変わらず巧い。

残念だったのは終盤肝心なところで台詞が聞き取れなかったこと。
初日のせいか、若干台詞を噛んでいたこと。
父親の手紙が読まれるところが解りにくかったこと…これは私だけかな?
傷口を縫合するシーンのリアルな感じはさすがメガバと思った。
うちの犬はサイコロを振るのをやめた

うちの犬はサイコロを振るのをやめた

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターサンモール(東京都)

2016/07/23 (土) ~ 2016/07/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

やっぱりすごい芝居
やっぱりすごい芝居だと思う。
再演で話の筋は判っているのに、同じように衝撃を受ける。
このアイデア、構成、ナンセンスと批判精神、そして被り物の存在感。
増田赤カブトさんの成長と、顔が小さくすっきりしたことに改めて感動する。
相変わらず誰だかわからないぬいぐるみが似合いすぎる加藤慎吾さん、
この芝居のシリアスな重みを一身に背負う横尾下下さんの凄み、
シンプルな舞台でスピーディーな場転と効果的な映像の使い方、
効果音のタイミングの良さ、キャバレーのダンスのレベルアップなど
「ん・・・?」と思うところをチャラにしてしまうパワーとドラマ性がある。
役者さんは大変だろうに、客入れの時間までエンタメに徹するところが好き。

ネタバレBOX

まだ大陸に満州国があった頃のこと、何でもありの中国にはしゃべる犬がいた…。
その犬ゴルバチョフは、旧日本軍の手術によって「未来を見通す能力」を植え付けられる。
この能力のせいで彼の人生は大きく変わり、ついには大きな決断をすることになる。
未来を見てしまった彼が最後に変えたかったのは、一人の少女の運命だった・・・。

「ちょっと、しょう油取って」という犬の第一声がいいんだな。
ニワトリやトカゲ、マッサージチェアがフツーにしゃべって人間と仕事したりする、
この“既成概念を強制的に取っ払う設定”がいい。
世界観が広がってその後の展開は超自由、人間って奴のダメっぷりが際立つ。

いつもながら笑っているうちに怖ろしい事実が明かされ、
ゴルバチョフの苦悩が浮き彫りになる。
幸福な生活がすべて頭の中の世界だったということ、その世界を変えるべく
身を挺してシヅ子を守ることを決める決断。
加藤慎吾さんの台詞は、軽さと重さのバランスが絶妙。
それまで一度も吠えなかった彼が、ラストシーンで一度だけ長く吠える。
その切なさ全開の演出が秀逸。

CR岡本物語さんの芸達者ぶりも素晴らしい。
グレーのカツラが素敵すぎ!(いつもこれでいいんじゃね?ってくらいです)
野口オリジナルさんが惜しげもなく晒す(ほぼ)裸体の美しさ、
ためらいのなさが潔く清々しいので台詞に説得力が増す。

客入れの時のパフォーマンスも(人馬一体のアレも好きですが)力が入っており、
ショートストーリーとしての完成度高し。
いい気になったミッキーマウスがUSJに引き抜かれるという話だが
ブラックな結末など吹原さんらしくて強烈な印象を残す。

吹原さんの作品は荒唐無稽でふざけているが、それはすべて
人間の黒い部分を描くため、その対極に置かれるものだ。
被り物は、手段であって目的ではない。
それがここまで鮮やかな劇団を私はほかに知らない。
だから脱いでもすごいんです。
次はR18に行くぞ。




ただしヤクザを除く

ただしヤクザを除く

笑の内閣

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/07/13 (水) ~ 2016/07/18 (月)公演終了

満足度★★★★

ヤクザの人権
ドタバタに笑っていると、結構マジな法律の話になって
「ほう!」「へえ、そーなのか」と感心してしまった。
「人権」に関する解釈など目からうろこの説得力。
底の浅い自己満足の人助けなど何の解決にもならないことを教えてくれる。
社会や政治家の矛盾、そして大衆の感覚にも疑問を呈する
その視点が素晴らしい。

ネタバレBOX

ピザマッチョの広島地区エリアマネージャーの住吉は
呉中央署の巡査部長稲川に呼び出され、
「今後ヤクザにピザを売らないように」と指導を受ける。
だが呉店に行ってみると、既に常連のヤクザから注文が入っており
今日は自分で取りにくるという。
正面からヤクザに話してみることにしたマネージャーだったが、
ヤクザにはヤクザの哀しい事情があった…。

B級のつくりとキャラで展開するのだが、
「ヤクザの人権を守ることが、全ての人の人権を守ることにつながる」
という視点が素晴らしく効いていて、そこがキモ。

誰からも好かれる人の人権は自然に守られるが、
「嫌われ者の人権は法律で守らなければ誰も守ってくれない」というのは
本当にそうだと思う。
容疑者への人権侵害、容疑者の身内への人権侵害、
不倫したタレントへの人権侵害…等々
社会は“好き嫌い”で人権を尊重したりないがしろにしたりする。
民主主義の未熟な社会においては、やはり法律で守る必要があるのだ、
という理論は説得力大。

ラスト、「ヤクザなんか辞めて普通の仕事をすればいいのよ」という皆の説得に
ヤクザが返す究極の一言で芝居は終わる。
「じゃ、元ヤクザを雇ってくれますか!?」
誰も答えられない、誰も解決できない、この問いがすべてという気がした。

アフタートークで高間氏が
「ヤクザという言葉を“演劇”に置き換えても通用するように書いた」
と発言していたのが可笑しかった。



ニッポン・サポート・センター

ニッポン・サポート・センター

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2016/06/23 (木) ~ 2016/07/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

立ち上げる人、近所の人
力まず自然なやり取りに“あるある感”満載の登場人物、
あー、こういうことが日々あちこちで起こっているんだろうなと思わせる。
普通の会話がどうしてこんなに可笑しいのか不思議だ。
「NPOを立ち上げる人々」と「ボランティアする人々」がくっきりしていて
その温度差がリアルに可視化されているところが可笑しいんだな。
俗っぽい会話から日本の社会問題が透けて見えるような構造が素晴らしい。
山内健司さん、あのキャラはアテ書きなんでしょうか(笑)

ネタバレBOX

舞台は駆け込み寺型NPOの事務所。
日々様々な問題を抱えた人々が相談に来る。
受け容れる側は所長のほか、サブリーダーやカウンセラーなど。
事務所には近隣に住む人がサポーターとして待機しており、噂話に花が咲く毎日。
サブリーダーは、夫が盗撮の疑いで捕まり、職場に迷惑がかかるのを怖れている。
インターンの学生が2人来ていたり、DVが疑われる夫が訪ねてきたり、
サポーターの1人が義理の息子の再就職を市役所にツテのあるNPOに頼んだりと
小さな事務所は今日も多くの人が出入りしている・・・。

定点カメラで事務所の一日を撮り続けているかのような淡々とした視点。
時間内に結論を出そうとか、問題を一つでも解決させようとかいう
余計な力を排した結果、ごくごく自然で超リアルな手触り。

リアルなのは登場人物も同様で、NPO立ち上げから関わってきた人々と
サポーターと言う名でボランティアに来る近隣の人々との落差が大きいのも
現実的で“あるある感”満載。
超個人情報を扱う場所なのだが、噂話が飛び交い、噂の情報交換は活発。
客入れの時から、舞台で本を片手に碁を打つ悠々自適おじさんや
人はいいが“知りたがり・のぞきたがり”なおばちゃん精神全開のキャラ、
家業の床屋(?)が暇になるとここへ来て時間を潰す自称「髪結いの亭主」など
そのユルいたたずまいが、所長ら相談員の持つ緊張感とは対照的だ。
そのサポーターに「ありがとうございます」とひたすらお礼を言い続ける職員達。
現場でよく見る風景であり、つくづく“ボランティア”のあり方を考えさせる。

海外赴任から戻ってから会社を辞めた息子の再就職を頼むエピソード、
開発援助という名の下、自分の仕事に疑問を感じて行き詰まった義理の息子が
いかにも生真面目なきちんとスーツを着て話を聞きにくるシーンなど
本人の真剣さと親の期待、周囲の楽観などが
「実は市のゆるキャラの着ぐるみにはいる」仕事だという現実の前で
可笑しいやら気の毒やら現実はそううまくいかないよって感じで笑ってしまう。

舞台奥に3つ並ぶ“カラオケボックスの業者が作った(劇中の台詞から)”という
防音の相談室が秀逸。
渦中の人が中に入り、スタッフがブラインドを閉めた途端、
観客は自然と舞台手前に集中する。
時々相談室のドアが開くと中の会話が漏れ聞こえて、
そこでは話が継続して進行していると判る。
人物の出ハケ、話題の切り替え、話の同時進行という役割を担って
素晴らしく機能している。

真面目なだけに、自分の思いを真剣に伝えようとすると、
人はこんなに滑稽なものだということを、平田作品は示してくれる。
いつもながら役者さんの間の取り方がまた素晴らしくて、
これも笑いの大きな要因だと思う。






CALL AT の見える桟橋

CALL AT の見える桟橋

メガバックスコレクション

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2016/07/01 (金) ~ 2016/07/09 (土)公演終了

満足度★★★★★

見事な台詞の応酬 (Aを観劇)
シンプルだが良く出来たセットと、ユニークな異形の者たちが面白い。
キリマンジャロ伊藤さんと小早川知恵子さんによる
脚本の面白さを100%生かした見事な台詞の応酬が素晴らしい。
笑っているうちに、作者の死生観や哲学に裏打ちされた深い意図が浮き彫りになる。
これが、メガバックスコレクションの最大の魅力であり、強みだと思う。

ネタバレBOX

客席に足を踏み入れると、既に不思議な生き物たちが会話している。
意味は解らないが感情は伝わってくるような不思議な言葉に、
ファンタジックな雰囲気満載。
人間ではない彼らのうち、二人はセットの一部みたいに動けない状態。
檻の中にもひとり、正面には時々動く男が鎖につながれている。
何が始まるんだろう、とわくわくしながら開演を待つ。

暗転の後、この桟橋で4人の人間が次々と意識を取り戻す。
追っ手を振り切りながら車に乗っていた泥棒(キリマンジャロ伊藤)。
恋人を追いかけて時計台から転落したエンターテイナーの女(小早川知恵子)。
鉄棒から落ちて首から下が動かなくなり長く入院していた少女(久下綾香)。
戦場で、故郷へ帰る直前に撃たれた無線兵の男(松尾祥磨)。
ほどなく皆、自分が死んだことに気付いてここがどういう場所なのかを探り始める。
背が高く白塗りの顔をした男が、船で彼らをあの世へ連れて行くらしい。
そして異形の者たちはそれぞれ未練・嘘・夢・罪を主食としていることが分かる。
限られた時間内に戻れば生き返ることが出来ると知って、危険な賭けに出るか、
船の修理が終わったらおとなしくあの世へと旅立つか、4人の苦悩が始まる…。

似たような設定の物語は過去の作品にもあったのに
どうしてこんなに毎回感動するんだろう。
生への執着や、生きる意味を見出せないこと、大切な人を失った絶望、
そしてあと少しで助けられたのに、という後悔の念。
それらを抱えたまま突然命を絶たれた人間の心情が、
威勢のいい台詞の応酬の中に丁寧に織り込まれている。
この期に及んでまだ真実を隠そうとする心理も自然で共感を呼ぶ。

人間って弱い、だけど優しくて素敵だ。
いや、弱いからこそ優しいのかもしれない。
個々のエピソードが良く出来ていて、一人ひとりに感情移入できる。
作者の死生観や哲学が無かったら、エピソードがブレると思うが
生死を俯瞰するような視点が貫かれており、
結果的に一人ひとりの生きていた時間が鮮明に立ち上がる。

泥棒とエンターテイナーの台詞に含蓄とユーモア、
ラブコメのテイストがあって大変楽しかった。
死んだ方が自由に動けていい、と言う少女の本心と
最後の決断に至るプロセスには
説得力と愛情があふれていて涙があふれた。

鎖でつながれて人間の未練を食べる男(奈良勇治)、表情はほとんど見えないが
最初から最後までモンスターらしい言動が貫かれていて素晴らしかった。
死後の世界への案内人(卓巳)が無表情にも関わらず、実は真実を見る目と
温かな心を持っていることが伝わる微妙な台詞が巧い。
上司(?)からの電話に「はい、夫婦なので」と言う台詞には笑った。
紅白の小林幸子みたいに装置と化しているモンスター(鈴木ゆん・本澤雄太)が
異次元の世界観を表していて大変効果的。ころころ笑う声はBGMのよう。
嘘を食べるピンクの女(ザッちゃん)の、嘘の暴き方が痛快。
話を思いがけない方向へと転がすきっかけになるところが面白かった。
船の修理をする男(井上正樹)、人間なのにモンスター達に近しい感じが
良く出ていて面白かった。

改めて「HOTEL CALL AT」をもう一度観たいと思わせる作品だった。
メガバックスが次はどんな世界を提示してくれるのか、もう心待ちにしている。

逆光、影見えず

逆光、影見えず

MCR

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2016/06/24 (金) ~ 2016/07/03 (日)公演終了

満足度★★★★

オサム
主宰で作・演出の櫻井智也さんは20代の頃太宰作品にのめり込んだという。
その正面切って向き合う姿勢が存分に台詞に表れている。
もうすぐ死ぬからって、美しい過去ばかり出て来るわけじゃない、
っていうところがいい。
櫻井さん演じる医師のいい加減さが最高!

ネタバレBOX

ひとりの男が余命宣告されて、否応なしに自分の人生を振り返る。
時代を逆行して過去の出来事が再現されるのだが、
高校時代の彼が鼻持ちならないナルシストだったり、
友人の妻と付き合っていたことがあったりと、
ヤな奴の延長線上に現在があることが分かる。

死を前にした人間に対する周囲の戸惑いと、
「だけど生きてるうちにこれだけは言っておきたい」的な完結願望で
妻も友人たちも彼を囲んでぐるぐる周る。

妥協しないで正面から向き合うと、他者との会話はこうなっていくのだと見せてくれる。
私たちが日ごろ、人間関係の亀裂を怖れて回避していることをずんずんやらかしてくれる。
理屈を手放すことなく、幾重にも重ねてめんどくさい会話になっていくところが面白い。
これこそが“櫻井コミュニケーション”だと思う。

過去のオサムを演じた小野ゆたかさんの振り切れた芝居が面白かった。
堀靖明さんの眉根を寄せた顔と繰り出す台詞が好き。
櫻井智也さんは、お堅い職業ほどその人の本音をえぐり出すので、医師は最高!

欠陥人間に寄せる愛情と悲哀がないまぜになっているところ、
太宰とMCRの相性の良さを発見して嬉しくなった。


ルドベルの両翼

ルドベルの両翼

おぼんろ

BASEMENT MONSTAR王子(東京都)

2016/06/28 (火) ~ 2016/07/06 (水)公演終了

満足度★★★★

5人の仲間
キャラに既視感はあるが、設定が新鮮で面白かった。
下僕のキャラが魅力的で、藤井としもりさんの伸びやかな声が快く響く。
場転と出ハケに、的確で美しい照明の効果が絶大。
これは理不尽の海でもがく若者たちの成長譚だ。
冒頭、BGMの音量が大きくて語り部の声が少し聞き取りにくかった。
導入部分の大事な説明であり、ここを聞き逃すとその後が解りにくくなるので
どこに座っていてもクリアに聞こえるといいなと思った。

ネタバレBOX

地下に降りると、そこは時代も国籍も不明なおぼんろワールド。
丁寧に席を案内してくれる語り部たちの顔が、いつもとちょっと違う。
涙のメイクが無くて端正な表情だし、髪の色がみんな違う。
それぞれの髪色が良く似合って美しい。

物語は神話の世界から始まる。
神の怒りに触れて地下深く追いやられた不遇の民と、
地上に残って支配することになった民。
交わることの無いないはずの彼らが遭遇し、互いの歴史と境遇を知る。
双子であったために忌み嫌われ王家を追われた若者と忠実な下僕、
一方地下で過酷な労働を強いられながら、ここを抜け出そうと試みる男二人、
密かに革命を起こそうとたくらむ一匹狼の女夜盗。
この5人が出会って運命に逆らおうと究極の選択をした時、奇跡が起こる…。

5人のキャラがある程度定番化するのは悪くないと思う。
役者の個性とバリエーションという意味で、ピュア系・お調子者系・ひねくれ系等々
物語の展開上必要な役割だと思うから。
今回は登場人物5人の背景がバランス良く語られているが、
逆にバランス良すぎて突出したキャラが存在しないところが物足りない印象。
例えば怪物ゴベリンドンとか、破壊兵器ジョウキゲンのような、
他を圧倒する、強烈で常識を逸脱したキャラがいない。
メンバーの個性ありきになっているところが魅力的でもあり
“薄味”の原因でもあると感じた。

物語の設定はファンタジックで素敵だ。
抗うことのできない神の時代の運命と儀式、
リンリンとタクムが、初めて“ともだち”に出会った喜びが伝わってくるところ、
嘘をついたジュンジュンが仕方なく皆を鍾乳洞へと案内するところ、
“奪ってきた自分”が“与えて来たタクム”と出会って変わったのだと語るトシモル、
革命を起こそうと密かに暗躍するムグの強靭な精神と歌声、
そしてタクムの自己犠牲に次々と仲間が共鳴した結果起こる奇跡…。
忘れられないいくつものシーンがあって、やっぱりおぼんろは素晴らしい。

私は次もまた5人に会いに行くだろう。
5人でどんな世界を創るのか、どうしてもそれを確かめずにはいられないから。







脱出前夜

脱出前夜

The Stone Age ブライアント

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2016/06/22 (水) ~ 2016/06/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

バス停と線路
登場人物全員に共感するものがあり、観ている私も否応なしに揺さぶられる。
誰もみんな後悔しているし、希望を持ってはその分挫折している。
弱いダメダメな人間同士が幸せになろうともがく姿が愛おしい。
無駄の無い台詞と、役者陣の緊張感あふれる応酬が素晴らしい。
バス停と線路といういわば“人生の点と線”が、巧みな設定となっていて効果的。
アフリカン寺越、橋本亜紀、末廣和也の安定感が光る。
他の役者さんたちもキャラがくっきりしていて魅力的。

ネタバレBOX

バス停のそばには建設途中の線路がある。
その先には観光の目玉となるはずの滝がある。
だがバス会社の社長の“鉄道を走らせる”という長年の夢は、
大雨による滝の崩落により、とん挫している。
その線路を見下ろすアパートの2階に住む時生(アフリカン寺越)と薫(土屋咲登子)、
ある日二人は言い争いになり、薫が窓から飛び降りて半身不随になってしまう…。

トラックの運転手をしながら小説を書いていた時生は、
後悔の念に苛まれながら介護の日々。
介護士を目指していた薫は介護される立場になり、ますます感情的になる。
バス会社の社員鳴神(橋本亜紀)は
介護に疲れて母親を施設に入れたことで自分を責めている。
薫の元カレで彼女を捨ててアパートを出て行った小山田(末廣和也)は
怪しいセールスを転々としながら自分を見失っている。
そんな中、市の職員蟹江(河内拓也)だけは、滝の復活を信じて
もう一度鉄道を走らせようとしている。

みんな現実に溺れそうになりながら苦しい呼吸をしている感じ。
現実を変えたくても、身体は言うことを聞かないし、向き合う相手も思うようにならない。
その閉塞感が痛いほど伝わってくる。
それを打破するのは、淡々と信じることを積み上げる蟹江のような行動なのだ。
最後に時生は捨て身の行動に出る。
それがすべてを変え、薫を変えたのであろうことは、
ラストに一瞬見せる包帯をした薫の表情で何となく察せられる。
鉄道も新しい会社の元で建設が続行されることになる。

鳴神が言うように
「辛いという字に一本棒を引くと幸せという字になる」(相変わらずこういうのが巧い)、
その棒一本が私たちにはとても難しい。
難しいからこそ、幸せを感じて大切にするんだなあ。

あのアパートが2階だということが分かりづらくてもったいない気がしたが
バス停と線路、とりあえず出来上がっている駅のホームという設定が良かった。
人が集まっては帰っていく場所として自然に機能している。

一瞬たりとも気持ちが晴れやかになれない時生と薫の途切れない緊張感が素晴らしい。
小山田のキャラが、よくある“戻って来ためんどくさい元カレ”でなくて良かった。
鳴神のぶっきらぼうな台詞の中に真実を言いとめる重さがあって
説教臭くない含蓄がある。
蟹江の、マイペースに信じることを淡々と行動に移すキャラがとても清々しく
ストーリーの中盤から一筋の明るい兆しになっていた。
時生に“行動することが何かを変える”ことを無言のうちに示しているのがとても良い。

私は「いつも今がピーク」だといいなと思う。
洪水のように幸不幸を味わって、知らなかった時より知っている今の方が
ずっと豊かに違いない。
だから次回公演もますます楽しみにしています。







なだぎ武・山田菜々主演「ドヴォルザークの新世界」

なだぎ武・山田菜々主演「ドヴォルザークの新世界」

劇団東京イボンヌ

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2016/06/07 (火) ~ 2016/06/10 (金)公演終了

満足度★★★★

なだぎ武すごいわ
なだぎ武さんの演技力に圧倒された。
アメリカの太陽を見て一緒に泣けてくるとは思わなかった。
鍛えられた声と台詞の間の良さ、軽快な身のこなしなど素晴らしい。
前半の笑いと後半のシリアスな展開は「クラシックコメディ」という枠を超えている。
ただやはり”芝居を観たい”観客からすると
オーケストラを舞台に上げることで、せっかくのダイナミックな物語が
スペース的に限られてしまうのがちょっと気になる。
演出上スムーズな場転などが今後の課題かなという気がした。

ネタバレBOX

報酬に惹かれてチェコからアメリカへやって来たドヴォルザーク一家。
にぎやかな都会暮らしに、つい故郷の豊かな自然を思い出すドヴォルザークだったが
アメリカに相応しい交響曲を作るため日夜悩み続けていた。
そんな時、ふとしたことからインディアン居留地で彼らの歴史や価値観に触れた彼は
その素朴な力強さに感動して交響曲の想を得る。
しかし原住民を一掃して新大陸を我が物にしようとする政府軍がついに居留地を攻撃、
ドヴォルザークは彼らの凄惨な最期を見届けることになる…。

偉大な作曲家の人間臭い面をコミカルに演じる一方、シリアスなインディアンの歴史には
真摯に向き合い敬意を表する、そんなドヴォルザークのキャラに親近感がわく。
なだぎ武さんの緩急自在な演技に惹き込まれた。
声の滑らかさ、動きの柔軟さ、そして姿勢の良さが素晴らしい。
大きな太陽に感激して泣きだす場面では、思いがけなく私も涙がこぼれた。

歌の分量は以前より少し控えめな印象を受けたが、唐突感がなくとても自然に感じた。
インディアン達の踊りが類型的なそれではなく、工夫があった。
銃で攻撃されながら生まれ変わりを信じて身一つで立ち向かう壮絶な場面、
迫力と同時にインディアンの精神が際立って忘れられないシーンだ。

クラシックと物語の融合である以上、そのバランスは永遠のテーマだと思うが、
舞台の使い方は工夫の余地があるかもしれない。
頻繁な場面転換に伴うセット移動が気になったり、スケール感がイマイチだったり
ちょっともったいない印象を受けた。
ストーリーの核が壮大なインディアンの原風景であるだけに尚更そう感じるのだろう。
次第に公演の規模が大きくなっていく東京イボンヌが、
今後どちらの観客にどうアピールする舞台づくりをするのか
そのバランスとセンスに注目していきたい。





義経千本桜—渡海屋・大物浦—

義経千本桜—渡海屋・大物浦—

木ノ下歌舞伎

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2016/06/02 (木) ~ 2016/06/12 (日)公演終了

満足度★★★★

イマジン
見やすい舞台のつくり、生者と死者の象徴的な衣装替え、ロックなテイストが効果的。
復讐という名の殺戮を繰り返す、今も昔も変わらぬ負の連鎖を断ち切る
双方の葛藤を鮮やかに浮き彫りにする。
選曲がいかにも多田さんらしく、直球ストレートで
「これでいいのか、日本は」と投げこんで来る。
しかしあの音量はちと大きすぎやしないか?


ネタバレBOX

客席に向かって斜めに傾斜した舞台だから隅々まで見渡せる。
知盛が碇を身に巻き付けて海へ身を投じるシーンなど、あの奥行きが
あればこその迫力。

兄頼朝に疎まれた義経一行は九州へと都落ちの途中である。
一方、死んだはずの平知盛は典侍局と共に安徳帝をお守りしつつ
船宿渡海屋を営み、復讐の機会を狙っていた。
そしてついに義経一行が、その渡海屋に宿を取る…。

見せ場は歌舞伎の台詞で、ストーリーの大きな流れは現代語でというメリハリで
スピーディーな展開。
壮絶な源平の戦いの場面では、討ち死にすると
羽織っていた着物をはらりと落とし白装束になる。
生者と死者のコントラストが鮮明になり、無常観が漂う。

“生きていて欲しい歴史上の人物”は常に「生存説」を伴うものだ。
彼らの無念な思いを想像して様々な物語が生まれたのだと思う。
この物語は単に「無念さを晴らす」だけでなく、復讐の連鎖を打ち止めにするという
未来への選択で終わるところがすごい。
今世界中で繰り返されている“大義名分を掲げた復讐”を
知盛のように受け容れ、終わらせることが出来る人間がどれほどいるだろうか。

多田さんの演出は、ラスト清志郎の「イマジン」が象徴するように
「もう止めようよ」と呆気にとられるほどストレートに訴えてくる。

どこか雅な義経や、コミカルな弁慶のキャラに囲まれて
知盛の壮絶な最期が強い印象を残す。
確か碇を巻き付けて三度海に沈んだと思うが、その三度とも
緊張感あふれる場面だった。
木ノ下歌舞伎でベテランの域にある武谷公雄さんの台詞回しに
安定感とゆとりが感じられた。

ただBGMの大音量で台詞が聞き取りにくいのはいかがなものか。
歌舞伎の音楽的な台詞をBGMと闘うように怒鳴るのはもったいない気がする。
現代人はロックで大声でスピーディーでなくても、
歌舞伎の良さを感じることは出来ると思う。



最悪な大人

最悪な大人

劇団献身

OFF OFFシアター(東京都)

2016/06/03 (金) ~ 2016/06/12 (日)公演終了

満足度★★★★

ストーリーとギャグ
“りゅうちぇるを普通にしたような”26歳の奥村徹也さん率いる劇団の勢いを感じた。
若いが力のある役者陣の“全力でやってる感”が清々しい。
ナンセンスコメディと謳っているが、ナンセンスなだけではなく、
コントのようにガツガツと笑いをとりに行くだけのノーテンキな作品でもない。
ストーリー性とギャグが共存する作風は大好物だ。
アフタートークでビチチ5の福原充則氏が言った言葉が、
現在のこの劇団を的確に言い表していると思った。

ネタバレBOX

冒頭、大家に見つかって泣く泣く猫を捨てに来た夫婦が登場。
猫を捨てに来たのに人間の赤ん坊を拾って連れ帰るところから始まる。
父親はフードファイターだったが、あるトラウマから食べられなくなってしまい、
その後夫婦の間に亀裂が生じて母親は出て行ってしまう。
拾われた息子はかつてヒーローだった父親の面影を探し続けるが
現実は上手くいかず引きこもりになって10年、
今は父親の勤める運送会社の営業所で仕分けのバイトをしている。
その営業所に、ある日客のひとりが怒鳴り込んでくる…。

アフタートークで奥村さんが
「ギャグだけの作品でなく、何か1本ストーリーを持たせたい」
という意味のことを仰っていたが、そこがただのナンセンスでないと感じる所以。
親子の物語があって、そこからギャグの枝葉が伸びている印象だが
特に、引きこもりでコミュニケーションが不得手な挙動不審息子が
ほとんど笑えないほど痛々しくリアルだったからだ。
(これは演じた東直輝さんが上手かったから)

ストーリー性とギャグ、この両極端な二つを併せ持つスタイルが好きなので、
個人的には評価したい。
ポップンマッシュルームチキン野郎みたいに、衝撃的なほどシリアスな部分と
役者がすっぽんぽんになるようなおふざけが同居する劇団はすごいと思う。

あとはバランスの問題で、ビチチ5の福原氏が“個人的好み”として言ったように
「途中挿入される妄想シーンで話を止めない、そこで勢いも止まってしまうから」
という意見に賛成する。
もっと削ればストーリーが浮き彫りになる反面、笑いのパターンは絞られる。
やりたいことをどこまで絞れるかが今後の課題かなと思った。
今回の親子の物語は、時間の経過と変化が良く出来ていると思う。

役者陣の力加減が上手く、キャラの立った登場人物も面白かった。
「ストライプ」のはるはるさん、新卒総合職の二見香帆さん、
チンピラの高木健さんらに存在感があって素晴らしかった。

次の作品も楽しみにしています。
進化する献身をまた見せてください。




悪名 The Badboys Return!

悪名 The Badboys Return!

ココロ・コーポレーション

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2016/05/09 (月) ~ 2016/05/29 (日)公演終了

満足度★★★★

貫禄の朝吉親分
沢田研二の親分、ってどんなんかしらと思ったがこれがドハマりで素晴らしかった。
流れるような河内弁の侠客、八尾の朝吉のキャラが魅力的で、会場の盛上りも納得。
音楽劇としても声量ある歌声が力強く、ラストの「河内音頭」の熱唱が泣かせる。
座長としての貫禄あふれる舞台だった。

ネタバレBOX

冒頭、復員して来た朝吉と、死んだものと思って再婚していたお絹の再会から始まる。
人の女房になったお絹の前から潔く姿を消した朝吉は、その後侠客として名を上げる。
ところがその後、お絹が女郎屋に売られ、ある男と足抜けして逃げていることを知る。
縁あって二人を探し出すことになった朝吉は、その訳を知り二人を助けようと奔走する…。

戦後はこういうこともたくさん起っただろう悲劇、それをぐだぐだ引っ張らずに
冒頭からテンポよく見せて、朝吉の潔いキャラに惹き込む。
その後の彼の行動が自然と納得のいく展開になっていく。
情に厚く弱い者を放っておけない、逆に強い者に対して一歩も引かない親分肌が
今の時代に照らしても“理想のヒーロー”として描かれる。
朝吉が非常に魅力的なので、お絹が心の支えとし、子分が運命を共にする
といった心情に自然と共感できる。

お絹役いしのようこさんのたおやかな女房ぶりがとても良かった。
役名と俳優さんの名前が判らないのが残念だが、達者な役者陣で隙の無い安定感。
演奏がパーカッションとギターの2人だけとは思えない迫力でこれも良かった。
各地を回り最後が東京公演とあって、歌・ダンスも乱れ無く、完成度の高い舞台だった。

ラストの河内音頭の力強さは圧巻。
元女房を汽車で見送る切なさと、お絹はきっと戻ってくるという希望溢れるラストだった。
人生の後半にぐんと幅を広げ、こんなに豊かな世界を創る沢田研二という表現者に
改めて凄さを感じる。
“ジュリーが侠客”ってこれだけでも極上のエンタメだが、この貫禄ある親分ぶり、
Vシネでシリーズもいけるんじゃないか(笑)

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